SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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2節

 彼女は、廊下の向こうから駆け付ける立香を見た時点で、既に半泣きの酷い表情をしていた。

 まるで何ヶ月も無人島で暮らし、ようやく沖合に船を見つけたような。そんな感激の表情で涙をぶわっと流しながら、彼女だけの独特な呼び方で立香を呼んだ。

 

 

「まーちゃーーん! よかったぁ、やっと会え――」

「吹っ飛べくせ者!」

 

 

 次の瞬間、プリドゥエンの放った水球が弾丸の如き勢いで飛来し、刑部姫の真横の壁にぶち当たった。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!? 何で!? どうして姫ったらサーチ&デストロイを受けてるのぉ!?」

「ちょ、サモさん、あれ刑部姫だよ! 味方だから!」

「悪い、ついむしゃくしゃして」

「あれ? そこは普通『敵と間違えた』とかじゃないの!? むしゃくしゃしてフレンドキルとか洒落ならないんですけど、オンラインゲームなら即刻BANなんですけどぉ!?」

 

 

 突然の攻撃を受けた刑部姫は、モードレッドの攻撃にすっかり腰を抜かせてしまった。立香が手を差し伸べると、刑部姫は腰を抜かしたまま、彼の足に縋り付く。

 

 

「だ、大丈夫、おっきー?」

「うぇぇぇん、まぁちゃぁぁぁぁん。酷くない? 急にみんないなくなって、一人ぼっちで心細かったのにぃ! ようやくの再開がこんなバイオレンスなんてあんまりだぁー!」

「あんまりはこっちの台詞だ! せっかくの、む、む、ムードを台無しにするお前が悪いんだ! 空気読んでそのまま、もう三週間くらい引き籠もってろよバカ!」

「うわぁぁぁん! まーちゃん、陽キャがいじめるよぉ!」

「あ、コラ、どさくさに紛れて抱きつくな!」

「喧嘩はやめて! サモさんは謝って。おっきーもほら、落ち着いて!」

 

 

 ぐるぐる自分の周りを回る少女二人をようよう宥める立香。

 くんずほぐれつの様子を見て、遅れてやって来た人物が、はぁと重たい溜息を溢した。

 

 

「全く。出会った瞬間にキンキンと騒いで。全く頭が痛くてたまらん」

「――アンデルセン!」

 

 

 大人びた声音で苦々しく文句を垂れた少年(風)サーヴァント――アンデルセンは、まるで理解できないと言わんばかりの渋面で、立香の傍で泣きじゃくる刑部姫を睨み付ける。

 

 

「幸運にも訪れた良好な執筆環境だというのに、自分から飛びだしていくとは。作家とは思えない壊滅的な堪え性のなさだな」

「姫は趣味でやってるだけですから。アンデルセンみたいな生粋の物書きマシーンと一緒にされると困るの!」

「元より同列に語るつもりなど毛頭もないがな。住人を放り出して飛びだす家主の管理不行き届きを責めているだけだ」

「勝手に居候してるだけでしょー!? これ以上姫をいじめるなら、ポテチあげないかんね!」

「ま、まあまあおっきー。そろそろ立とうよ。ね?」

 

 

 喚き立てる刑部姫をどうどうと宥めて、立香は刑部姫を立たせてあげる。

 未だ機嫌を直しきらないままのモードレッドが、ふくれ面で二人を眺めた。

 

 

「てっきりオレとマスターだけかと思っていたのによ。お前らはどうしてここに?」

「そもそも、珍しい組み合わせだよね。何してたの? というか、おっきーはここ最近姿が見えなかったけど」

 

 

 率直な立香の問いに、刑部姫が「うぐっ」と言葉を詰まらせた。

 頬を羞恥に染めて、方々に視線を泳がせ「あの」とか「そのぅ」とか言葉を濁す刑部姫。呆れたアンデルセンが、代わりに説明を引き継いだ。

 

 

「いつものだよ。同人誌とかいう、個人が好き勝手に書き綴るアレだ」

「ああ……別に恥ずかしがらなくてもいいじゃんおっきー。サバフェスで一緒に本出した事もあるんだし」

「あ、アレとコレは話が別よ。自分だけの、妄想をごっちゃごちゃに煮詰めた同人誌を知り合いに見られるとか死んじゃう。おぞましい自覚がある分、中学生の日記読まれるよりキツいというか……ああもうとにかく、恥ずかしがるのも乙女の嗜みなの!」

「で、その恥ずかしい本を書く作業が修羅場に突入したのさ」

「なるほど。新作のゲームが面白くて、最初から余裕のないスケジュールを更に縮めて、いよいよ追い詰められて姫路城に閉じこもってたんだね」

「『修羅場』の一言でそこまで察する!?」

 

 

 つらつらと言い当てられたショックが、刑部姫のようやく収まりかけた涙を再びびゃっと噴き出させた。同人姫という印象がすっかり定着してしまった刑部姫の内心など露知らず、また興味も微塵も無いアンデルセンが話を続ける。

 

 

「宝具である姫路城は、本気を出せば時間の流れもある程度動かせるらしくてな。これ幸いと、俺も利用させて貰っていたんだ」

「普段は立ち入り禁止にしてるんだけどさ。ほら、頑張っている人がいると、自分のダメさを思い知らされるじゃん? 同人作業ではそんな自己嫌悪ブーストも力になるというか……うぅ、言ってて自分が嫌になる」

「そんなこんなで、姫路城を間借りして執筆して――休憩に飯でも食おうかと外に出れば、カルデアが無人になっていたと言う訳だ」

 

 

 姫路城という、カルデア外の結界内にいたせいで巻き込まれたのかもしれない。ともかく、明らかな異常事態を察した二人は、姫路城に避難し、状況が分かるのを待っていたのだという。以前にはカルデア中のサーヴァントを無差別に襲った大奥のような一件がある以上、一旦撤退した彼等の判断は懸命と言えた。

 何だかんだずっと緊張していたのだろう。刑部姫が、ほっと胸を撫で下ろして、緩く微笑む。

 

 

「千代紙を飛ばして様子見をして、ようやくまーちゃんを見つけたから、飛びだしてきちゃった。会えてほっとしたよ」

「こっちも二人に会えて嬉しいよ。人が多い方が、やっぱり心強いから……ね、サモさん?」

「っ――へん。まあな? サーヴァントが沢山いた方が、いざというときにマスターも安心だしな? いいんじゃねえの、別に」

 

 

 一言二言釘を刺したい気持ちはあったが、立香のそんな晴れやかな顔を見せられては、文句など言えるはずもない。唇を尖らせながらも、不精不精といった調子でモードレッドが頷く。

 唯一刑部姫だけが、恋心と恋に関する妄想だけは山ほどしてきた審美眼によって、モードレッドの頬に灯った朱色を見逃さなかった。妄想が即座に欠けたピースを保管し、映像を脳裏に再現させ、彼女は自分の罪を敏感に悟る。

 

 

(あ、なるほどね。姫ちゃんやらかしたなぁ? いやしょうがないよ、異常事態だもん。そんなロマンス分かんないって! 不可抗力! だからそんな睨まないでぇ!)

 

 

 モードレッドの恨めしげな視線を感じた刑部姫は、逃げるように立香へ視線を向ける。

 

 

「っええと。それ、でぇ……けっきょく今って、どういう状況な訳?」

「ああ、それは――」

 

 

 銀河を漂うという奇想天外な状況を説明しようと、立香が口を開いた、まさにその時。

 けたたましいサイレンがカルデア中に鳴り響いた。

 鼓膜が痛む程の大音量と共に、危機感を呷る真っ赤なランプが点滅する。

 

 

「うひぇあ!? な、何!? 何事!?」

「ッみんな、管制室に行こう! 周囲を警戒しながら、なるべく急いで!」

「やっぱり、このまま何も起きない訳ねえよな――オレの傍を離れるなよ、マスター!」

 

 

 プリドゥエンを構えたモードレッドを先頭にして、サイレンの鳴り響く廊下を駆け抜ける。

 辿り着いた無人の管制室では、複数の観測機が異常事態を告げていた。誰もいない空間に鳴り響くサイレンは、より強い緊迫感となって立香達の心を締め付ける。

 外を映す監視映像を見て、刑部姫はぎょっと目を丸くした。

 

 

「嘘でしょ、姫たちホントに宇宙にいるなんて……!?」

「とにかく、何のアラートかを確認しないと! サモさんはあっちのコンソールをお願い」

「分かった、どれを見りゃいいんだ?」

「なんか分からないけど、ヤバそうに光ってたりする奴!」

 

 

 立香とモードレッドが先導して、幾つもある観測機を一つ一つ虱潰しに調べていく。

 当たりを見つけたのは立香だった。明滅する画面に映る表示を、恐る恐る読み上げる。

 

 

「カルデアに……高エネルギー反応が接近中?」

 

 

 そう呟いたのと、ほとんど同時。

 ぱちり、と刑部姫が目を瞬かせる。

 

 

「……ん?」

 

 

 呆然と眺めていた、外を映す画面。

 真っ黒な帳の中で星々が煌めく宇宙の景色。

 その中の一際赤い光を放つ一等星に、刑部姫の目は釘付けになる。

 

 

「なんか、あの星……おっきくなってない?」

 

 

 なんとはなしに呟いた、その言葉。

 その意味を理解した刑部姫の頬に、たらりと冷や汗が伝う。見間違いかともう一度目を凝らした画面の先では、まるでインクが紙に広がるように、赤い光がみるみる大きくなっていく。

 もう一度、けたたましいアラームががなり立てる。

 猛烈な悪寒が、立香の背筋を走った。

 

 

「ッ――おっきー、宝具だ!」

「え、え? 姫路城を出すの? どこに!?」

()()()()に! 姫路城の城壁でカルデアを覆うんだ、今すぐ!」

 

 

 アラートはますますけたたましく鳴り響く。

 赤い光は、既に画面を真っ赤に埋めていた。着弾間際なのではない。未だ遠く離れていても視界を覆ってしまうほどに、光が"大きすぎる"のだ。

 艦内がビリビリと震えだす。その振動だけで、迫り来る光の持つエネルギーが、神性クラスに匹敵する途轍もないものであることを悟らせる。

 血のような残忍な赤がカルデアに襲いかかるまで――せいぜい、あと数秒。

 

 

「おっきー!」

「ッやるだけやってみる! 姫の最期が宇宙の塵とかごめんだし! ――お願い、『白露城の百鬼、八天堂様』!」

 

 

 刑部姫が魔力を練り上げ、宝具を展開する。

 彼女が発動した宝具『白露城の百鬼、八天堂様』は、魔術的な陣地を急速に広げてカルデアを覆うと、不朽の城壁として名高い白磁のように美しい外壁でカルデアを覆い始める。

 高い陣地作成のクラスを持つ刑部姫の宝具は、大魔術としても目を見張るほどの素晴らしい速度で展開されていく。

 

 

 ――が、しかし。

 ビリビリと肌を震わせ、室内にいながら肌を焦がす熱さえも感じさせるエネルギーは。

 ……余りにも、余りにも大きすぎて。

 

 

「ッ冗談じゃねえぞ。こんなの、父上の宝具より遙かに――!?」

「お願い、間に合って――!」

 

 

 ギリと歯を食い縛りながら、刑部姫が全神経を宝具の構築に集中させる。

 果たして刑部姫の宝具『白露城の百鬼、八天堂様』は、これまでで最も巨大な城塞を、目を見張るほどの速度で完成させた。

 実戦で一度として使用される事なく、『決して破られないだろう』という伝聞によって幾重にも補強された、純白かつ堅牢な、あらゆる意味において無傷の城。

 全力を賭せば例え金星の女神の宝具にさえ耐えてみせるだろう日本最高峰の防御は――襲いかかった紅蓮の閃光に触れた瞬間、紙細工のようにあっけなく破裂した。

 

 

 白い石蝋を塗り固めた城壁が砕け散る轟音すら、光に飲まれて搔き消える。瓦礫は存在する事すら許されず、立ちどころに蒸気になって、紅蓮の光の中に消滅する。

 城壁の内側で守られていた立香達にもバットで殴られたような衝撃が襲い、管制室の中を方々に吹き飛ばされた。

 

 

「ッマスター!」

 

 

 間一髪飛び込んだモードレッドが、彼を抱き留め、背中にプリドゥエンを展開。二人一緒に弾丸のような速度で飛び、数々の機器を巻き込みながら壁に激突する。

 呻く間も、礼を言う暇もなかった。姫路城の防壁を犠牲に光線を受け止めたカルデアは、光の外へ吹き飛ばされたのだった。

 打たれた野球ボールのように、無重力の中を激しく錐揉み回転しながら。

 

 

「わ、わぁ! わぁぁぁーー!」

 

 

 カルデアの全てが回る。まるで自分たちを入れられたコップを矢鱈目鱈に振り回されているようだ。上下左右の区別すら付かず、凄まじい揚力に引き摺られて壁を転がる。

 

 

「危ねえ!」

 

 

 どこかの機器から外れたネジが、弾丸のような速度で立香に迫る。モードレッドは抱き締めた立香ごと身体を回して回避。ネジは壁に当たって火花を散らし、また空中を縦横無尽に跳ね回る。

 洗濯機のように回転する室内において、数々の機器や、そこから千切れ飛んだネジや金属の破片は殺人級の凶器だった。モードレッドは立香を抱き締めたまま、極限の集中力でプリドゥエンを現出しては弾いてを繰り返し、舞い散るそれを必死にいなす。

 

 

「ッこのままじゃ、みんな微塵切りにされちまう――オイ引き籠もり、折り紙でマスターを包め! このままじゃ守り切れねえ!」

「こっちは全力で宝具を打ったばかりなの! もう魔力がすっからかん! まーちゃんを守れるなら、とっくにやってますー!」

「そうだ! こっちは自分の身を気遣うのもやっとなのだぞ、頭を使え馬鹿め!」

「アンデルセンは何で姫の服に引っ付いてるのさ!? ああもうどうやったら止まるのコレぇ、きゃーーー!?」

 

 

 絹を裂くような甲高い悲鳴を上げて、刑部姫達も為す術無く宙を舞う。

 セーラー服を抱き締める立香が、苦しげに呻く。見れば彼の顔はみるみる蒼白になり、呼吸すら苦しいとばかりに喘いでいる。

 

 

「っ……さ、サモさん……!」

「マスター!? しっかりしろ! 守ってやるから、気をしっかり持てよ!」

 

 

 無重力、無空の宇宙に於いては、運動エネルギーは摩耗する事なく持続する。

 投げられたボールは、何かにぶつからない限り永遠に前に進み続ける。それが決して抗えない宇宙の法則だ。錐揉み回転して宇宙を飛ぶカルデアを止める術は、その内側にいては存在しない。

 強烈な回転は、只人にとってはそれ自体が強烈な責苦になる。飛来したネジが身体を切り裂くのを待たずとも、このまま特大の揚力を浴び続ければ、いつか立香の血管は破裂する。

 さながら死のミキサーだった。このままでは、そう遠くない内に、人類最後のマスターの命は、鉄屑と一緒に掻き混ぜられた、宇宙の塵になってしまう。

 

 

「ッもう、やば……かも……」

「くそッ! こんなとこで終わるなよマスター……マスター!」

 

 

 とうとう立香の意識が、回転に負けて消えていこうとする。

 必死に呼びかけるモードレッド。その見開かれた翡翠の目に向け、鋭い破片が迫る。

 真夏の騎士の命が、無軌道な刃によって貫かれる――その時。

 

 

 

 

「――『蒼輝銀河(ツインミニアド・)即ちコスモス(ディザスター)』!!」

 

 

 

 

 

 再びの衝撃が、ノウム・カルデアを襲った。

 がくん、と腹を揺さぶる振動が起きたと思った瞬間、モードレッドの身体は床になった壁に墜落した。

 

 

「がっ!」

 

 

 背中で着地する事で、立香を守る。後を追うように刑部姫が「ぎゃんっ」と悲鳴を上げながら墜落する。宙を舞っていた機材も降り注ぎ、どかどかと壁面に穴を穿っていく。

 

 

「げ――ッ」

 

 

 最後に一際大きな金属片がモードレッドの顔面に迫る。間一髪顔を背けると、破片は彼女の金髪を掠め、先ほどまで顔のあった箇所に、ドガン! と凄まじい音を立てて突き刺さった。

 

 

「っ――!? っ……!」

 

 

 九死に一生を得たモードレッドが、驚愕に目を見開いて凍り付く。嘘のようにしぃんと静まり返ったカルデアに、ばく、ばくという心臓の鼓動が酷くうるさく響く。

 

 

「……げほ、げほっ」

「ッマスター無事か!? 怪我は!?」

「だ、大丈夫。サモさんが守ってくれたから」

 

 

 セーラー服に顔を埋め、顔を青くしながらも笑う立香を見て、ようやくモードレッドは、ほっと安堵の息を吐いた。胸の上のマスターを、力の限りぎゅっと抱き締める。

 

 

「よかったぁ。もうダメかと思ったぞ」

「サモさんがいなきゃ、本当にダメになる所だったよ……守ってくれてありがとう」

「礼なんていいって。お前の騎士なんだから、こんぐらい当然だ」

 

 

 命が助かった安堵に、至近距離で見つめ合う。

 モードレッドに抱かれて揉み合った結果、くしくも立香がモードレッドを押し倒し、覆い被さっているような格好になっていた。それにどちらからとなく気づき、ぽっと頬を赤くする。

 

 

「ぶ、無事ならさ、その、どいた方がいんじゃねえか?」

「ご、ごめん……その、腰が、抜けちゃって」

「ホントかぁ? ……ホントなら、まあ? もう少しこのままでいさせてやっても、やぶさかじゃねえけどさ」

 

 

 揺れる翡翠の目に、立香の顔までハッキリと見える。

どき、どきと高鳴る鼓動は、命が助かった安心とは別に、もっと熱く強い、抑えがたい感情も混じっている気がして――

 

 

「……わー、すごーい、吊り橋効果のお手本だー。こんどの本のネタにしよー」

「うひゃあああ!?」

「ぐえっ」

 

 

 刑部姫の全力の棒読みが聞こえた瞬間、モードレッドは全力で飛び上がって立香を跳ね飛ばした。

 真っ赤になった顔を向けると、「自分はそのへんの雑草です」と言わんばかりに感情を殺しきった、刑部姫のジト目があった。

 

 

「いやぁ、別に姫は、一番がサモちゃんでもいいんだけどさ。人前、しかもこんな状況でおっぱじめちゃうのは、ちょぉぉぉぉぉぉっと頭が夏過ぎやしないかなぁって思うナー」

「バッ、ちちちちっげええよ! 別にアイツの事なんてそんな、なななんとも思ってねえし!?」

「はぁー純情純情。まったく、あんなド直球の情熱、姫はどこでなくしちゃったのか」

 

 

 ぺちぺちと気のない拍手を送りながら、刑部姫は内心の面白くなさを隠さずに、唇を尖らせてモードレッドを避難する。

 刑部姫の背中のフードがもぞもぞと動くと、すぽんと顔を出したアンデルセンが、誰よりも酷い仏頂面で言った。

 

 

「なんだ、回転が止まった理由に疑問を呈する、マトモな頭を持っているのは俺だけか? 全く笑えるな、いや笑えない。誰か知らんが本当の床に降ろしてくれないか!?」

「そーだそーだ。一体全体何がなんだか、誰か姫にも説明して――わひゃあっ」

 

 

 そのアンデルセンの素っ頓狂な叫びが、届いた訳ではあるまいが。

 ズズ――とカルデアに地鳴りがしたと思うと、地面がゆっくりと傾き、重力が元通りの床まで戻ってきた。

 華麗に降り立つ事ができたのは、日頃からサーフィンでバランス感覚を鍛えているモードレッドのみ。他は身体を動かす事すらままならず、地面にべしゃりと倒れ込んでしまう。

 プリドゥエンを構えて、モードレッドが油断なく辺りに視線を巡らせる。

 

 

「誰かが、カルデアを動かしてるってのか? 外から?」

「は、はぁい……姫の三半規管、そろそろ限界です……うぷ」

「引き籠もり姫、後生だから俺の上からどいてくれ。貴様の自重で俺の霊基が砕けそうだ」

「そ、そこまでじゃないやいっ!」

「オメーらさっきから気が抜けすぎなんだよ! オレ達しかいないんだから、もう少ししゃきっとだなぁ!」

 

 

 よたよたと揉み合う二人に檄を飛ばす。

 その喧噪を吹き飛ばすように、カルデア管制室のスピーカーが、ザザとノイズを走らせた。

 

 

「……どこかに、通信が繋がったみたいだ」

 

 

 床にへたりこんだまま、立香が言う。

 誰もが固唾を飲んで、スピーカーの向こうの存在に注目する。

 やがてノイズは次第に収まり、声が次第に明瞭になっていく。

 やがて通信が完全に繋がった、その向こうから聞こえてきたのは――。

 

 

 

 

『――ハロー、ハロー! こちらは銀河警察です! 生存者がいたら返事をしてください、オーバー!』

「「「「……」」」」

『生存者さーーん! いませんかーー! 非番に鞭打つ銀河婦警のノルマ達成にご協力頂ける、あわよくば田舎のおばあちゃんみたいに沢山のお菓子でもてなしてくれるような、セイバー以外の生存者さーーん!』

 

 

 刑部姫とアンデルセンの二人は、突然響いた声にただただ困惑し。

 どこかで聞いた声だと、モードレッドが眉根を潜め。

 

 

「だ……」

 

 

 ただ一人、藤丸立香だけが、瞳をぱぁっと輝かせて、今最も求めていた彼女の名前を呼んだ。

 

 

「XXーーーーーーーーーーっ!」

『その声……え、まさかマスターくんですか!? わぁ、奇遇ですね。まさかこんな宇宙でお会いできるなんて!』

 

 

 宇宙への漂流からおよそ三時間。

 ようやく立香は、宇宙の盟友、このおかしな銀河を司るようにめちゃくちゃな、正義の宇宙騎士と巡り会ったのだった。

 

 

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