SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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2節

 

 

 こうして紅の絶望は、蒼輝銀河から完全に消滅した。

 銀河をソルの輝きで満たし世界を支配しようとした極光騎士団は、信奉する《オルトリアノヴァ》と指揮官ダース・ソルを同時に失い、その仄暗い野望を完全に打ち砕かれた。戦意を喪失した戦艦は、XXが呼んだ銀河警察の船に囲まれながら、宇宙の向こうへと消えていく。

 宇宙に漂う無数の大艦隊は、こうして落ち着きを取り戻して眺めると、かなりの壮観さだった。彼等と敵対していたのかと、立香は改めて自分たちの無謀極まる挑戦に目を丸くする。

 

 

「彼等は、これからどうなるの?」

「銀河連邦で厳粛な裁判にかけられます。惑星単位の組織ですし、司令塔は燃え滓になってサヨナラバイバイしましたからね。数世紀は戦いなんて考えられないくらいの、キッツイ経済措置が打倒な所でしょう。――あぁ、私も参照人として壇上に立たされるんでしょうねぇ……嫌だなあアレ、稟議書とか手続き山盛りで。デスクワークは苦手なんですよ」

「……宇宙の父上、何で仕事の話してるんだ?」

「そりゃもう勤め人ですから!? これでも銀河を守るために働いていたんですよ私!」

 

 

 素っ頓狂な声を上げるXX。

 その様子を眺めて、涼しげな顔をしていたXXオルタが、ぽむと自分の手を打った。

 

 

「……なるほど。勤め人、額面ン十万の給金。つまり食べ放題ということですね」

「はぁ!? 何この人、助けられて早々にタカリの算段を付けてるんですが!?」

「無職だから当然です。私には失業手当として、当面はXさんに養われる義務があります」

「何が失業ですか恒星になって宇宙を消し飛ばそうとしてたくせに! えっちゃんはただのニートですプー太郎です、文系えっちゃんを差し置いて定職に就けた私におとなしくひれ伏したらいいんですよ! やーいやーい!」

 

 

 クールなえっちゃんに向かって、そう挑発してみせるXX。

 その騒々しくも下らない痴話喧嘩は、さっきまでお互いに泣き合っていたなんて到底思えないくらいに眩しく、楽しそうで。

 

 

「……良かったな、マスター」

「うん。XXがいつものXXになれて、本当に良かった」

 

 

 立香とモードレッドは、互いに顔を見合わせ、笑い合う。

 彼等の後ろから、重厚なエンジン音が近づいてくる。

振り向けばそこにあるのは、宇宙戦艦に姫路城を組み込んだような奇妙なシルエット。

建築の美学など根底から無視した構造に、モードレッドがうへぇ、とうめき声を漏らす。

 

 

「改めて見れば、すっげえトンチキな形してるなアレ。城を戦艦にするとか、バカじゃねえの」

「チェイテ城の上に突き刺さった逆さピラミッドの上に建つ城だよ。今更じゃない?」

『悔しいが、そこの粗忽騎士とマスターの言うとおりだ。トンチキな見た目なのもしょうがない。題材が悪いんだ、題材が』

『みんなして姫をいじめるなぁー! アレが姫路城のデフォルトとか思われるの、すっごい名誉毀損なんだからね!?』

 

 

 どこかにあるスピーカーから、アンデルセンの声と刑部姫のツッコミが大音量で響く。

 宇宙戦艦の周囲には、折り鶴型の小型機が、勝利に喜ぶように宙を飛び回っていた。

 その内の一羽の羽の上に乗って、立香達をここまで導いてくれた英雄が、高らかな笑い声を張りあげる。

 

 

「ハハハッ、遅刻が惜しい程の大団円じゃないか!」

「ルーデル!」

「やはり為したか少年! いや当然だ、お前がここで倒れる器であるはずが無いからな!」

 

 

 ルーデルは右足のロケットを吹かし、立香達の傍に軽やかに着地。

 ルーデルはともすればXX以上に深く損傷し、あちこちを黒く焦げ付かせていた。胴体をぐるぐる巻きにした包帯からは、真っ赤な血が滲んでいる。

 立香達を送り出した後、彼はダース・ソルに単身立ち向かい、撃退せしめたのだ。命を天秤に駆けた、相当な激戦が繰り広げた事は想像に難くなかった。

 立香はルーデルの身体に滲む激動の跡を認め――ありったけの感謝と達成感を籠めた笑顔を浮かべて見せる。

 

 

「ありがとう、ルーデル。お前のお陰で、みんなを救えた」

「礼を言うのはこちらの方さ。蒼輝銀河に誕生して幾年、こんなに心躍るフライトは初めてだったとも。俺の中に流れる戦士の血が、お前に会えた事を心から喜んでいる」

 

 

 ニッと歯を見せて笑い、ルーデルは拳を突き出した。

「勝利万歳だ! お前の勇気と、お前が為した偉業に!」

「うん!」

 

 

 立香も拳を突き出し、ゴツンと打ち鳴らす。

 現代最高峰の英雄の拳は大きく、力強く。じぃんと骨が痺れるような余韻もまた、勝利の喜びになって立香の胸を満たす。二人の男のやりとりには、友情という名の熱い感情が交わされていた。

 XXオルタは、その感情を取り戻した琥珀の瞳で、晴れやかに微笑む立香を見つめていた。

自分でも知らないうちに大人びた唇が、ふっと綻ぶ。

 

 

「……ありがとね、黒騎士くん」

「? どうしましたえっちゃん。もしやマスターくんと面識が?」

「いいえ。きっと他人の空似か、別の時空の話でしょう」

 

 

 緩く首を振って否定し、それから「けれど」と言葉を続ける。

 

 

「一緒に和菓子を食べたら、とっても楽しそうだなと。そう感じただけです」

「……ええ。本当に楽しいですよ。マスターくん達は」

 

 

 自分の事のように誇らしげに、XXは頷いた。

 数年ぶりに再開した二人の友の間には、もうどんなしがらみもない。

 宇宙を巻き込んで喧嘩して、互いに疲れ切るまで出し切って。その結果、すっきり全てを受け入れ、許せた。

 もう一度一緒になれた二人は、澄み切った宝石のような瞳で、責任や罪の呪縛から解き放ってくれた、別の惑星の優しい少年に静かに感謝を捧げる。

 と、これまで静寂を保っていた立香の通信機が、宇宙に着信音を鳴り響かせた。銀河の闇に浮いた青白い投影画面の向こうに、星を散りばめたような瞳が覗く。

 

 

『あっ、いたいた~! おーい、マスタ~~!』

「その声……ジェーン!?」

『イエ~イ☆ その通り! 地球にバカンス中のカラミティ・ジェーンちゃんだよ~。カルデアから消えちゃったマスターを探すために、私の眼を大活躍させちゃいました~』

 

 

 まるで遠距離の友人と電話するぐらいの気軽さで、ヒラヒラと手を振るジェーン。

 そんな彼女をほとんど押し退けるようにして、随分久しぶりな後輩の眼鏡姿が割り込んだ。

 

 

「マシュ!」

『先輩!? ああ良かった、やっと見つけました!』

 マシュは立香の顔を見ると、ようやく呼吸できたとばかりに深々と安堵の吐息を吐き出した。

『波乗りからカルデアに帰還させる際に、唐突にレイシフト不調を起こして――シバに何の反応も無くなったから、カルデア中がてんやわんやだったんですよ!』

「ごめんねマシュ。心配かけちゃって」

『もう。宇宙に行くなら行くで、次はちゃんと一報を入れてからにしてください! 身内に行き先を教えておくのは、旅行する際のマナーですよ!』

「宇宙に行くのはいいんだな……」

 

 

 マシュのどこか的外れな怒り方に、モードレッドが冷静に困惑する。立香があんまりに夢や強制転移を繰り返すせいで、パートナーである彼女の常識も大分乱れてきているらしい。もう、多少世界を救った程度は旅行の内に入れられてしまうらしかった。画面に映る顔には心配した様子は皆無で、むしろ恨めし気にぷぅっと頬を膨らませている。

 

 

『モードレッドさんと波乗りして、そのまま宇宙旅行なんてずるいです! 今度は私も連れて行って――きゃぁぁっ』

『はぁい、マシュの脇をくすぐって強制退場させたダ・ヴィンチちゃんだよ。藤丸君、どうやら今回も大変な目にあったようだね』

 

 

 画面の下の方からぴょこんと顔を出したのは、幼い天真爛漫な顔をした技術顧問ダ・ヴィンチちゃんだ。立香の健康無事な様子を確認し、うんうんと満足げに頷いてみせる。

 

 

『今回もトラブルを解決できたみたいで何よりだ。それに隣にいるのはモードレッドかい? 霊基も見た目もずいぶん様変わりしたみたいだ』

「うん。最果ての惑星でゲットした伝説の鉱石と融合した、ヒロインRXだよ。色々あって銀河を救ったんだ」

『いやぁ~~、今回も『色々』の中身が濃いなぁ~~! レポートを読むのが楽しみだよ~~』

 

 

 吹っ切れた笑いを浮かべたダ・ヴィンチちゃんは、ぽむと手を叩き一同を見回す。

 

 

『みんなの霊基は補足したよ。いつでもこちらから引き上げが可能だ。お別れは済ませたかい?』

「あ、待ってくれダ・ヴィンチ。まだヤボ用が残ってる!」

 

 

 レイシフトを制したモードレッドが、後ろで見守っていたXXとオルタの元へと駆け寄った。

 彼女が意志を向けると、空中で浮遊していたグライダーが寄ってくる。

 翠の光を煌めかせるボディに手を添え、モードレッドは言った。

 

 

「借りてた鎧を返すよ。《アルトリアナイト》も、何かの役に立つだろうし――ありがとな、宇宙の父上」

「……いいえ。その鎧はあげます」

 

 

 迷いのない口調で、XXが言い切った。

はたと目を丸くするモードレッドに向け、彼女は淀みなく続ける。

 

 

「《アルトリアナイト》は、きみ以外の誰の手にも余る代物です。それに、きみは宇宙に叛逆し、私の大切なものを簒奪してくれた……戦利品もなしでは、叛逆として締まりがありませんから」

「……」

「なので、差し上げます」

 

 

 XXは、くすりと微笑む。 

 大切なものは、彼女が取り返してくれた。

 命に替えても為したいと願っていた事を、彼女が代わりに為し遂げてくれたのだ。

 その上……

 

 

「……いいのか? マジでっ?」

「ええ、もちろん」

 

 

 キラキラと目を輝かせる、子供みたいに純粋な喜びを前にして。新しい玩具を取り上げられるはずがない。

 

 

「その鎧に宝具は、まだまだあなたと一緒に遊びたそうです。どうか心ゆくまで楽しんで、誰よりも誰よりも楽しんで……私みたいに落ち込んだ人を、世界に蔓延するあらゆる危機を、吹き飛ばしちゃってください」

 

 

 そう言ってXXは、いきなりモードレッドを抱き締めた。

 ぎゅうっと強く。胸一杯に満ちた感謝の気持ちを、触れ合わせた身体の温かさから伝えようというように。

 

 

「本当にありがとう、モードレッド……遠い宇宙の最果てから、これからの貴方の旅路と、それから恋も、応援しています」

「ぅぅぁあああ、父上の声で言われると、すっげえムズムズするんだけど!?」

 

 

 敬愛する王が絶対に言わない事を口走られ、ぞわぞわとした悪寒が背筋を走る。

 モードレッドはほとんど跳びずさるようにして温かく柔らかい抱擁から逃れると、呼び寄せたグライダーに軽やかに乗り、立香の手を取った。

 立香を背中から抱きつかせながら、カルデアに向けて宇宙を飛ぶ。

 その最中、振り返ったモードレッドは、びっと二人に向けて指をさし、笑顔で言った。

 

 

「せいぜい、二人仲良く元気にしてろよ! 今度会ったら、また一緒に遊ぼうぜ!」

「じゃあね、XX! えっちゃん、ルーデル!」

「ええ! 二人ともお元気で! またいつかお会いしましょう!」

 

 

 目尻に涙を浮かべながら、XXが大きく手を振る。

 その隣に立つえっちゃんもまた、少し気恥ずかしそうにしながら、大きく手を挙げてさよならを告げる。

 互いの空いた手は、二人の間でしっかりと固く繋がれ、結ばれている。

 この銀河のどんな星よりも眩しく美しい、決して解ける事はない友情の証を最後に目にして。

 迸る喜びで胸を一杯にしながら、立香達は蒼輝銀河を股に駆ける大冒険に別れを告げて、次元を越えるレイシフトの蒼い輝きの中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

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