SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
終
――激動から、三日後。
ノウム・カルデアの食堂は、今日も変わらず沢山のサーヴァント達が集まり、お祭りのような喧噪に満ちていた。皆が思い思いの美味な料理に舌鼓を打ちながら、その日のトレーニングについて打ち合わせしたり、力自慢で競ったり、かつての武勇について語り合ったりと、束の間の休息時間を思い思いに楽しんでいる。
そんな喧噪の中、最も慌ただしい厨房に近い場所で、カウンター席をバンバンと叩く少女が一人。
「なーあー! おっせえぞ赤マントー!」
日焼けした小さな身体をセーラー服に包んだモードレッドが、苛立ち混じりの声を張りあげた。背の高い椅子に座り、艶やかな小麦色の素足がぷらぷらと宙に揺れている。
彼女が恨めしげに睨み付けるカウンターの向こうでは、厨房に立って三角巾をつけたエミヤが、真剣そのものの目つきでフライパンを回している。
「腹減ったぞー。焼きそば一つにいつまで待たせるんだよ、早えとこパパッと作ってくれよー」
「君の後ろのバカ騒ぎが見えないのか? 生憎俺の腕は二本しかなくてね、パパッと動かせる余裕はないのだ――ほら、カレーおまちどうさまだ!」
「あっ、オイテメエ! そのカレー、オレより後の注文だっただろうが!」
「焚いてある米にできあがっているルーをかけるだけだ、文句を言うな! 今すぐと言うなら、投影させたペヤングでも食べてもらうが、どうだ?」
「ぬ、ぐ……いや、ダメだ。今日のオレは、お前の焼きそばを食べるって心に決めてる!」
「だったら、今は少し耐えてくれ――なに、意地悪をしている訳じゃない。もう数分したら、すぐに君にも、丹精込めた焼きそばを振る舞ってやる」
「サンキュ! あ、でも丹精はいらねえぜ! 雑で手抜きで、けれど味だけはしっかり旨い焼きそばがいいからな」
「難癖みたいな注文だな……だが了解した」
神がかり的な手さばきで立ちどころに二品を作り終えたエミヤは、ふぅと一息。冷蔵庫から鮮やかな卵色の焼きそば麺を取り出す。
「具はいつものキャベツと豚肉だけか。これを有り難がられるのも不思議な気分だよ」
「なんだぁ? コレの良さが分からねえとか、お前もいよいよオジサンなんじゃねえか?」
「割と冗談にならないからやめてくれ……良さは分かるつもりだよ。君はいつでも夏気分だものな」
エミヤは、どこか遠い昔を懐かしむように薄笑み――瞬間、カッと料理人の血を覚醒させる。
ジュウウウッと激しい音が奏でられ、次いでソースの焦げるたまらなく香ばしい香り。
主婦がそれを目撃すれば惚れる事必至の卓越したフライパン捌きを見せたエミヤは、あっという間に歓声させた具の少ない焼きそばを、タンッとモードレッドの前に差し出した。
「ホラ、完成だ。どうぞ召し上がれ」
「やっふー! サンキュー赤マント! いただきまーす!」
「そういうのはちゃんと言えるんだよな、君は」
愚痴なんだか褒め言葉なんだか良く分からない呟きを聞き流しながら、モードレッドはしっかり両手を合わせてから、ソース焼きそばに齧り付く。
手の掛かっていない雑な作りなのに、モードレッドはそれが最高と言わんばかりに、うっとりと目を細めて舌鼓を打つ。料理人としては複雑だが、自分が作ったものを美味しそうに食べられて嫌な訳がない。
エミヤは料理を作り続けた腕を休めつつ、夢中で啜るモードレッドの子供っぽい顔を眺める。
「……ずいぶん、嬉しそうじゃないか?」
「んも、もあほま、おもあふぉは……」
「すまない、タイミングが悪かった。食べてから喋るんだ。あまりがっつかず、よく噛んで」
エミヤの言いつけ通り、もくもくとしっかり噛んで、ごくんと呑み込んだモードレッドは、ソースを拭いながら、へへっと笑う。
「そりゃお前。この後ビッグウェーブに挑戦するからに決まってる! 今からワクワクがうずいてしょうがないんだ!」
「ほう、ビッグウェーブか。今度はどこの大波だ?」
心の底から楽しげな様子は、こちらの心にまでワクワクを伝播させる。
焼きそばを持ち上げた手をぴたりと止めて、モードレッドは八重歯を煌めかせ、不敵な笑み。
「へへ、どこだと思う?」
「さて……ハワイか、オーストラリアか、それともいよいよタヒチに挑戦か?」
エミヤの挙げた名前は、いずれもサーファーの聖地と呼ばれる波の高い場所だ。
そしてその回答は、モードレッドを十分に満足させるものだったらしい。うんうんと頷き、唇をさらに嬉しそうに、にんまりと吊り上げて見せる。
「にひひ……ああ残念、カスってもない大ハズレだ。オカンのしなびた想像力じゃ、そんな凡庸な答えが限界だよな」
「誰がオカンだ! 投影魔術の使い手に、凡庸は結構な悪口だぞ!?」
上擦った怒り声もどこ吹く風。モードレッドは焼きそばの最後の一口をずるるっと勢いよく啜ると、綺麗になった皿をエミヤの前にタンッと突き返した。
「そんじゃま、水回りの掃除がんばれよ! オレはもっとすっげえ遊びをしてくるからさ。答えは、後でマテリアルの映像でも見て確認してくれよ!」
「マテリアル……? 待て、本当にどこに向かうつもりだ? ひょっとして君のそれは、止めた方がいい暴走ではないか!?」
「マスターも一緒だからへーきへーき! それじゃ、行ってきまーす!」
おいしい焼きそばでエネルギーを満タンにさせたモードレッドは、スキップしそうな程ご機嫌な足取りで食堂を後にする。
残されたエミヤが、ひしひしと感じるトラブルの予感にはぁと溜息を溢した――
ちょうど、それと同じ頃。
「いいですか、先輩。何かおかしな所を感じたら、我慢せずに仰ってくださいね」
レイシフトを行うカルデア管制室で、マシュ・キリエライトが、ぴんと人差し指を立てて立香に忠言した。
「マシュは心配性だなぁ。新しい礼装のチェックなんて、いつもしている事じゃないか」
「そうそう、この天才ダ・ヴィンチちゃん謹製の魔術礼装だよ。見込み以下の性能になる事はあれ、不備や故障は万に一つもないと保証しよう」
朗らかに笑う立香に、ダ・ヴィンチちゃんがふんすと胸を張って続く。
二人の言葉を受けても、マシュの不安は晴れない。綺麗な細眉をハの字にして「ですが」と続ける。
「新たな限界環境での活動のための礼装なんて……先輩に危ない事があったらと思うと不安で」
「その危ない事を未然に防ぐ為のテストなのさ。次の異聞帯攻略の為にも、対応できる手段は多ければ多いほどいいからね」
「それは分かっていますが……ダ・ヴィンチちゃんは時々、必要のないガジェットを作って遊ぶ事がありますから。先輩が悪い事に巻き込まれていないかと、それもまた心配で」
独り言のようなマシュの呟きに、立香とダ・ヴィンチちゃんは笑みを浮かべたまま、ぎくりと表情を強張らせる。
図星を突かれた二人の動揺は、幸いにも素直な後輩には気付かれない。
「か……考えすぎだよマシュ! 俺達はいつだって、人類史のためになることしかしないよ!」
「そ、そうそう。どんな一歩だって、人類にとっては意義のある前進なのさ。ガガーリンもそう言っている」
「そうですか……? そうでしょうか……」
矢継ぎ早な二人の説得に、狐に摘ままれたような顔をしながら頷くマシュ。視線を逸らした隙にほっと胸を撫で下ろした二人の事も、やはり気付かない。
「ささ、善は急げだ。早速取りかかるとしよう。藤丸君、着替えて着替えて」
ダ・ヴィンチちゃんが促すままに、立香は用意されたソレに腕を通していく。
「……あれ?」
何となく釈然としないマシュが、そういえばと疑問を浮かべた時には、もう遅く。
「そういえば、今回想定している極限環境って、どこの事ですか?」
そう言って振り返った時には、立香はもう着替えを完了させていた。
まるでダイビングスーツのように、全身を隙間無く被った丈夫な衣服。
背中にかるうのは、酸素供給用の大きなパック。
顔をすっぽりと被うヘルメット越しに、立香は年頃の少年らしいしたり顔で、答えた。
「もちろん、宇宙だけど?」
「え――きゃっ!?」
その瞬間、管制室に、ゴウッ! と突風が吹き荒んだ。入口から吹き付けられる熱を含んだ暴風に、マシュがたまらず顔を被う。
目を開けたマシュが目にしたのは、眩い翠の焔。
空中に浮遊した大きなグライダーの上に乗って、モードレッド――否、ヒロインRXが、にひっと八重歯を煌めかせて笑っていた。
「準備できたか、マスター!」
「バッチリ! これでどんな大気でも、どんな重力環境でも活動できるよ。ね、ダ・ヴィンチちゃん!」
「ああ。たっくさんデータが欲しいから、なるべく色んな星を回ってきてくれたまえよ~」
「な、な……」
マシュが絶句している間にも、立香はヒロインRXの手を握り、彼女の背中にしがみついて、グライダーに乗る。
ようよう状況を理解したマシュが声を張りあげたのは、レイシフトが起動し、青白い光が産まれ始めた頃で。
「――も、もぉー! 先輩ったらてきとう言って、またモードレッドさんと遊びに行くんじゃないですかぁ!」
「ごめんねマシュ! ちゃんと晩ご飯には帰ってくるから、心配しないで!」
「今日こそ私と一緒に食べますからね! 約束ですからねー!」
マシュの声が尾を引くように遠ざかり、二人はレイシフトの蒼い渦の中に引き込まれる。
飛ばされたのは、地球から遙か一〇〇キロ上空。大気圏を越えた真空の宇宙。
空気の青みを失った空は、塗り潰されたように真っ黒で。
そんな黒の上に、宝石を散りばめたような幾つもの星がキラキラと瞬いている。
身を包むものが一切ない、真に透き通った無空。
星から切り離された、開放的な無重力。
そして――ふわふわと浮いたお腹に、ふつふつと沸き上がる。
熱い、熱い、好奇心。
「さあマスター。手始めにどこの星から冒険しようか!」
「サモさんの心が動く方へ、どこへでも!」
「へへっ――了解!」
ゴウッとエンジンが唸りを上げる。
希望とワクワクを乗せた翠の光が、辺りの星々に負けない強い力で、宇宙空間を震わせる。
「さあ、思い切り遊ぼうぜ! 胸躍る冒険の始まりだ! 限界も常識も飛び越えて――無限の彼方まで出発だぁ――!」
高らかな歓声を上げて、グライダーが冒険の焔を噴かす。
宇宙に灯った翠の光は、どこまでも伸びるまっすぐな線を描き、地球を置いていく遙か彼方、見果てぬ銀河の無限の彼方へと、夢と希望を乗せて飛びだしていった。
「うふふ、約束の三十分が経過しましたよおっきー。さあ、線画を見せてくださいまし」
「うん……あのねきよひー? 制限時間を設けられても、姫の頭は一つだし、腕は二本だし、ついでに気力はゼロに等しくて――」
「は? 嘘吐いたんですか?」
「いや……あの……」
「おっきーを信じて校了の報告を待ち続けて。真っ白な原稿を見ても怒らずに。トーン作業を手伝うと譲歩までして。だから線画だけはすぐに終わらせてくれとお願いして……そんな私に、清姫に、嘘を吐いたんですか?」
「待って、ねえ待って! そうは言っても三十分で線画とか、ヒトの限界超えてるよ! 無理だってばぁ!」
「無理なのはおっきーの気力じゃなくてサバフェスの本の方でしょう! どうするんですか、もう明日の朝が〆切りですよ!? 極道入稿の!」
「しょうがないよ。姫達ってば宇宙を救ってたんだよ!? 不可抗力だって!」
「はいまた嘘、安珍リーチです! 先週は『さーばんとこれくしょん』でずっとオンラインでしたよね? 来週の自分が頑張るさと遊び呆けていたんですよね? あなたが今見ている地獄は宇宙のせいではありません、一〇〇パーセントあなたの腐った怠慢のせいです! 原稿ほっぽって寝てみなさい、次に目が覚めた時にはこのオタ部屋は本能寺になっていますからね!」
「うぇぇん、いやだ、後生だからグッズだけは燃やさないでぇぇぇぇ」
「……じゃあ、そういうことで。俺は帰るぞ」
「待って! お願いします助けてくださいアンデルセンさん! 秘蔵のポテチあげるから、姫を見捨てないで!」
「無理だ、俺の頭は睡眠を欲しているし、今俺の胃袋に何か入れたら確実に逆流する。もう限界だ。寝る」
「一緒に銀河を救った同士じゃんかぁ! ねえお願い、このままじゃ宇宙大戦を生き延びた姫が、同人誌の〆切りに殺されちゃう!」
「時には全てを諦め、死ぬ覚悟を決めることも寛容だぞ――じゃ、達者でなコスモプリンセス提督――がくっ」
「アンデルセンー! いやだ、起きてよ、姫を一人にしないで……!」
「うふふ。大丈夫、一人じゃありませんよ、おっきー。無事に入稿が終わるまで、この清姫がずっとずっと、ずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっと傍に居てあげますからね……」
「ううう……うわぁーーん! もう宇宙はこりごりだぁーーーーーーーーー!!」
SABER WARS
Groove of the Galaxy!!
完
くぅ~~疲れました!(様式美)
ここまで読んで頂きありがとうございました。
ということで、コミックマーケット98、エアコミケにて頒布したサモさん同人小説『SW GotG』はいかがでしたでしょうか。
前作『もう二度と剣を持てないモードレッド』で、モードレッドについてのあらん限りを吐き出した気でいましたが、彼女の別側面サモさんを語らずしてモ好きに非ず! という事で書き上げた一作です。せっかくなので自分が大好きなスペースオペラを舞台に主人公になってもらって、好きなキャラや展開をてんこ盛りにしてやりたい放題させて頂きました。楽しんで貰えたら幸いです。
読んで頂けた皆様、ぜひ評価、コメントをよろしくお願いします。たいへん励みになります。
また、本作後編のストーリーに、R18のえちえち要素を加えた《下巻》も絶賛発売中です!
オトナなボディに成長したヒロインRXと、二人きりの惑星でしっぽりぐぽぐぽする実用性ゲキ高の仕上がりになっていますので、ぜひチェックしてください!
文庫版はメロンブックス様、とらのあな様で、
電子版はDLsite様、FANZA様にて取り扱い頂いています!
それでは、改めてここまで読んで頂きありがとうございました。
また次回作にてお会いしましょう。