SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

4 / 31
3節

「いやぁ、お久しぶりですねマスターくん。どうやら私がいない間も、世界の危機をちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げしていたみたいですね! 元気そうで何よりです」

 

 

 全身を宇宙航行用のサイバースーツに覆った銀河警察――謎のヒロインXXは、嬉しそうな微笑みを浮かべて、立香に気さくな敬礼をしてみせた。

 音声通話だけではピンと来ていなかった刑部姫とアンデルセンだったが、彼女のその、一度見たら到底忘れられない鎧姿を見て、ぽんと手を叩いた。

 

 

「ルルハワで暴れ回ってたフォーリナー! うわぁ思い出した。姫も巻き込まれて、めちゃくちゃ(原稿が)大変だったんだ!」

「ああ、そんな事もありましたねえ。懐かしいなぁ、二シーズンほど前でしょうか。務めて長い銀河警察時代のエピソードでも指折りの楽しさでした。もちろん皆さんの事も覚えていますとも! ええと――」

 

 

 昔を思い出しながら一同を見渡すXX。

 その海のように青い瞳が、モードレッドを認めて、ピタリと彼女に縫い付けられた。

 XXの顔に、本能的に苦手意識を感じているのだろう。モードレッドが身を強張らせ、警戒を示すように唸る。

 

 

「な、なんだよ。オレ、その顔であんまし見られたくないんだけど」

「あなた――さてはセイバーでは?」

「……はぁ?」

 

 

 モードレッドが眉を持ち上げて素っ頓狂な声を上げる。マスターだけが敏感に危機を察し間に入ろうとするも、遅い。

 ガション! と音を立ててXXの機構が発動すると、手にした巨大な両槍、ツインミニアドに眩い光が煌めいた。

 

 

「私を騙そうとしても無駄ですよ! その目、その髪、安直にぽこじゃか増えそうな自分がスタンダートだと言わんばかりの、いかにもセイバーな要素がそろい踏みです!」

「お、おおおおいマスター? コイツさっきから何言ってんだ!?」

「むむむっ、更によくよく見れば、何だか無性に廃嫡したくなる顔をしてます! 親の認知を得ないままに日焼けで新たな可能性の発掘など言語道断! ドラ息子の風上にも置けません!」

 

 

 早口でまくし立てたXXは、どこからともなく出現させた鎧を蒸着。ヘルメットの目に当たるディスプレイが、ギュインと音を立てて攻撃的な赤に光る。

 

 

(セイバー)(絶対)(殺す)モード起動準備! 弁護士を呼ぶ権利はありませんが、黙秘権ならありますよ。漏れなく宇宙の塵にしますので、永久に静まれる事でしょう!」

「マスター! やべえぞこの父上、これまででぶっちぎりでヤバい父上だ!」

「待った待ったぁぁ! 落ち着いてXX! ええと、サモさんはセイバーじゃないから!」

「むっ」

 

 

 慌てて二人の間に入った立香の声で、XXがはたと正気を取り戻した。彼女は振り上げた拳を降ろす場所を見失ったように、モードレッドと立香を交互に見る。

 

 

「セイバー、ではない? ならばこの人は一体何なのでしょう?」

「え、ええと……そう、サーファーだよ! 地球出身の、謎のサーファー!」

「サーファー……むぅ、確かに霊基反応は、セイバーではなくライダーですね。あの不良息子も生意気ながらセイバーですし……」

 

 

 XXはツインミニアドを構えながら、立香の背中に隠れるモードレッドを眺める。

 一触即発の緊張感が続き、そうしてXXは音を立てて鎧を展開し、屈託のない笑みを浮かべて見せた。

 

 

「いやぁ失礼しました。知り合いに似ていたものですから、つい早とちりしてしまいました。改めてよろしくお願いします、サーファーさん」

「ほら、サモさん」

「……よろしく」

 

 

 促されたモードレッドは、立香の背中に隠れたまま、おずおずと手を差し出した。ぶっきらぼうな返事と一緒にほんの数秒握手を交わすと、またささっと立香の背中に隠れてしまう。

立香の背中にしがみつき、警戒の目つきで睨むモードレッドは、まるで訪問者に対し牙を剥いて威嚇する番犬のようだ。

 

 

 考えてみれば、アルトリア系のサーヴァントとは、居心地が悪いという理由で普段から接触を避けているモードレッドだ。アルトリア本人でさえ相容れないのだから、よく似た別人の謎のヒロインなど、取り付く島など無いと突っぱねたくなるのも自然だろう。

 モードレッドと父上たるアルトリアは、色々と複雑な因縁のある、難しい関係なのだ。いくらサーファーとして再臨し、しがらみがなくなったとしても、自分を構成する根幹までは中々変わらない。

 居心地が悪いのも当たり前だろう。それもしょうがないことだ。

 顔が似ているだけの別人とはいえ……かつて裏切られ、殺した相手だ。警戒する方が、当然と言える。

 

 

「サモさん……」

「チッ……またメロンが増えやがった」

「……」

 

 

 だから多分、この独り言は立香の聞き間違いだろう。そういう事にしておいた方が幸せだ。

 早くも暗雲立ち込める空気に冷や汗を垂らしながら、立香は武器を収めたXXに向き直る。

 

 

「でも、助かったよXX。もう少しで死ぬところだった」

「いえいえ、マスターくんのためなら何のそのです……ふふ、懐かしいですね。四シーズンほど前、イシュタルさんと冒険した時も、そういえば私がきみを助けた事から始まったんでした」

 

 

 にこやかに笑うXX。カルデアでは数多のトラブルを呼び寄せるこのスマイルも、宇宙に於いてならば何よりも心強く立香を安心させてくれる。

 ノリと勢いでカルデアを混乱の渦に落とすように、この宇宙だって、ノリと勢いで乗り切ってしまうように感じさせてくれるのだ。

 

 

「突然、カルデアごと蒼輝銀河に飛ばされて。状況が全く掴めなくて困ってたんだ」

「どーせ、どっかの馬鹿が聖杯を使って乱痴気騒ぎをしてやがるんだ。早く見つけ出してとっちめてやらねえと!」

「あ、それなら私の仕業です」

 

 

 ファミレスでポテトを頼むぐらいの気軽さで、ぴっとXXが挙手をした。

 たっぷり五秒。全員が硬直し、それから一斉に、素っ頓狂な声を張り上げた。

 

 

『はぁぁぁぁぁぁ!?』

「やー。ちょっと今、かるく絶体絶命のピンチで、宇宙ネズミの尻尾にも縋りたい状況でして。そんな折に、ふと宇宙スラムをパトロールしていた時に古びたネコ型ジャンクドロイドに売りつけられた、願いが叶う『もしもカップ』というのを思い出しまして。半信半疑ながらこう、あぶらかたぶらあるとりあ~と」

 

 

 そう言ってXXが懐から取り出したそれ。

 顔より一回り小さいくらいの、黄金に煌めくそれは――

 

 

「見れば分かる、聖杯ですやん」

「くそ、父上の顔のくせにアホ枠とか、いよいよ苦手だぜコイツ!」

 

 

 予想外にあっけなく、しょうもない調子に見つかった犯人に、立香がげんなりと肩を落とす。当の犯人たるXXは、反省する調子もなく、照れくさそうに笑っている。

 

 

「マスターのいるカルデアに力を借りれればと願ったら、どうも本当にマスターとカルデアだけを呼んでしまったようでして……申し訳ない」

「いや、いいよ。何かもう慣れてるし……後でちゃんと回収させてくれれば、それで」

 

 

 クリスマスのベルにされたり、梱包されて配達されたり、ましてうどんを煮込むのに使われてたりする聖杯だ。立香は最近、もう驚くのにも疲れてきた。

 溜息を吐く立香と別に、しょうがないで納得できないのが刑部姫だ。彼女は勢いよく手を挙げ、XXを糾弾する。

 

 

「ちょっと!? なら何で姫達まで巻き込まれてるのさ! とばっちりにしても意味不明なんだけど!?」

考えるな、感じ(Don't think.)るのです(Feel.)

「出た! バカ! ガバ! 無責任の説明放棄! 駄目な上司の典型例! ア〇キン=ス〇イウォーカーの失敗から何も学んでない!」

「作業中に貴様が『時間が止まればいいのに』とかやかましく呟いていたのがいけないんじゃないのか、引き籠もり姫」

「姫が伸ばして欲しかったのは印刷所の締め切りで、相対時空を伸ばせとか言ってなーい! ここじゃ原稿も描けやしないじゃないかぁー!」

 

 

 いきなり宇宙に飛ばされた混乱もさることながら、よっぽど修羅場だったのだろう。頭をがしがしとかき乱す刑部姫は、軽く涙目だ。

 

 

「まあまあおっきー。元気出してよ。俺はおっきーがいてくれて心強いからさ」

「ぷー。姫よりまーちゃんのが落ち着いてるし。ちょっと神経太くなりすぎな気がする……でも、えへへっ。そう言って姫を励ましてくれるから、まーちゃん好き~」

「ありがとう。俺が強くなれたのも、おっきーとチェイテピラミッド姫路城のお陰だよ」

「腕に抱きついておっぱい押しつけてる女の子を、よくもまあ息を吸うようにディスれるね!?」

 

 

 腕にぎゅむと抱きついた格好で、刑部姫が半泣きで叫んだ。カルデアが存続する限り、彼女があの黒歴史から解放される未来は決して起こり得ないだろう。

 わんわん泣く姫をあやしながら、何となく不満げなモードレッドに困ったような笑みを浮かべつつ。立香は話を前に進めるべくXXに向き直る。

 

 

「原因が早めに分かったのは良しとして……XXの危機って何?」

 

 

 そうだ。それを聞き逃してはいけない。XXは聖杯に『助けて欲しい』と願ったのだから。

 訪ねられたXXは、いつも明るくニコニコとしている表情を、ふっと曇らせた。

 

 

「……」

「……XX?」

 

 

 唇は引き結ばれ、サファイアのような蒼い瞳は、陰りを浮かべて、立香から逸らされる。

 その様子に滲む、己の宿命に悩む勇士のような憂いは、とうてい彼女には似合わないもので。

 想像だにしなかった表情を向けられ、立香が困惑した――その時。

 またしてもけたたましいサイレンが鳴り響き、カルデアの廊下に真っ赤な明かりが点滅した。

 

 

「ああもう、いい加減引き籠もらせてほしいのに、今度は一体何よぉ!?」

「……遅かったか」

「XX、一体どういうこと?」

「話は後で! 今はともかく、銀河警察の粛正の時間ですので!」

 

 

 ギリと歯を食い縛ったのは、ほんの一瞬。XXはすぐにいつもの調子を取り戻すと、トンと自分のふくよかな胸に拳を乗せた。

 

 

「任せてください。呼んだ責任もあります。私が必ず、マスターくんを守ってみせますとも」

「……うん。頼んだよ、XX」

 

 

 一等星の煌めきのような眩しい笑みで、XXはうんと大きく頷いた。

 

 

「念のため、このバッチを胸に付けてください。宇宙空間に放りだされても、少なくとも呼吸なら保証してくれます」

 

 

 言われるまま、立香は渡されたバッチを胸に付け、ボタンを押す。一瞬シャボン玉のような薄膜が広がったと思うと、立香の表面を覆い、すぐに透明になって見えなくなる。

 立香以外の三人にも同じ物を付けさせたXXは、両槍ツインミニアドを現出させる。

 

 

「迎撃の準備をしてください! きっと奴等は、すぐそこまで来ています」

「奴等って、何? 知ってるの、XX?」

「もちろん、因縁の敵ですから。奴等の名は『極光騎士団(フォトンナイツ)』。今シーズンの蒼輝銀河に出ずっぱりな、最強最悪の軍隊です」

 

 

 突然、轟音がカルデアを揺るがした。大きな地鳴りと共に、自分が閉じこもったドラム缶を殴られるような、凄まじい音と衝撃が駆け抜ける。

 

 

「斥候兵を仕向けてきましたね! 皆さん構えて、壁を突き破って侵入してきますよ!」

「っ――おっきーとアンデルセンは後衛に! サモさん、頼める!?」

「任せとけ! 宇宙だろうと、荒事ならこっちの領分だ!」

 

 

 モードレッドがプリドゥエンを展開し、XXの隣に並び立つ。

 もう一度、先ほどを遙かに超える衝撃が轟き、目の前の壁が爆発したように砕け散った。

 壁を突き破って現れたのは、まるでバスのような大きさの、直方体をした宇宙船の一部だ。壁を突き破ったそれは通路を完全に塞いでしまうと、やがてシュウと音を立てて壁が持ち上がる。

 開かれた直方体の中から、全身を黒い鎧で纏った戦士が、雪崩のように押し寄せてきた。

 都合一二体。横並びに並んだ騎士達は、目元を覆う一文字の隙間を、ヴン、と血のような紅蓮に輝かせた。

 

 

「――敵影、補足」

「宿敵《X》を確認」

「排除せよ」

「排除せよ」

「我等がソルの、輝きの為に――」

 

 

 口々にそう言うと、騎士達は何の合図もなく、一斉に懐の剣を抜き、襲いかかってきた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。