SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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4節

「先手必勝!」

「吹っ飛べぇ!」

 

 

 最初に放たれたのは、示し合わせたように息の揃った一撃だった。同時に飛びだしたXXとモードレッドが、互いの得物を力一杯に振り抜き、それぞれ一人を吹き飛ばした。騎士達は鎧の破片を撒き散らしながら、錐揉み回転して自分たちが出てきたコンテナ船に叩き込まれ、ぐったりと動かなくなる。

 サーヴァントの全力の一撃を見ても、騎士達は動揺どころか、呼吸一つ乱すこともしなかった。飛び込んできた獲物二匹に、これ幸いとばかりに剣を振り上げる。

 

 

「屈め、宇宙の父上!」

 

 

 反応したのはモードレッドだ。彼女はXXを自分の脇に匿うと、頭上にプリドゥエンを展開。大上段から振り下ろされた幾つもの剣を、サーフボードの大きな面で全て受け止める。

 

 

「ナイスです、サーファーさん!」

 

 

 屈んだまま、XXは己の獲物、ツインミニアドに魔力を籠めると、煌々と輝くエネルギー刃をプリドゥエンの下から突き出し、両脇にいた騎士達の足を薙ぎ払った。四人の兵士が、一斉にバタバタと倒れ伏す。

 

 

「そぉら、ホールインワンだ!」

 

 

 その倒れた四人に向け、モードレッドの掬い上げるように振るわれた一撃がクリティカルヒット。四人をまとめて船の中に叩き返す。

 剣をいなしながら、XXは勝ち気に唇の端を吊り上げて微笑んだ。

 

 

「中々やりますね、セイバーっぽいサーファーさん。よかったら銀河警察のオファーを受けませんか? 推薦入社は飛び級で一級格からのスタートですよ!」

「冗談! この霊基のオレは、波のある星とマスターの居る星以外に、全く興味が湧かねえんだ!」

 

 

 沸き立つ戦士の魂が、二人の血潮を熱く滾らせ、口角を吊り上げさせる。

 あっという間に半分に減った騎士達は、どれだけ冷血な臆さない心を持っていようとも、二人の英雄に適うはずがなかった。彼等の剣はあっさりと弾かれ、折られ、次々と宇宙船の中に吹き飛ばされていく。

 

 

「へへん、宇宙警察を舐めちゃいけませんよ。免許取得試験のバーチャル実技に比べれば、こんなの任務の内に入りません! あ、もちろん労災は頂きますが!」

「そうだ。壁穴の修繕費を置いてから、尻尾巻いて宇宙に帰りやがれ!」

 

 

 最後に残った一騎に、二人同時に蹴りを放って吹き飛ばす。二人の英雄は、一二体の宇宙騎士に対し、一つの傷も追うことなく、ものの数分で沈黙させてみせた。

 モードレッドはプリドゥエンを床に着き、ふぅと息を一つ。

 

 

「意外と呆気なかったな。宇宙最強ってのも、案外嘘っぱちなんじゃないか」

「いいえ、嘘ではありませんよ」

「あ?」

「まだほんの序盤(イントロ)ですとも。軍隊だと、言ったばかりじゃないですか」

 

 

 XXが浮かべた笑みに、冷や汗が伝う。

 次の瞬間、またも轟音がして、すぐ隣の壁を突き破って直方体のコンテナ船が現れた。

 しかも、今度は一つじゃない。まるで木材に釘を打つように次々と、ズガン! ズガン! と壁を突き破ってくる。

 一斉に開いた扉から現れたのは、先ほどと同じ、黒の鎧に紅い光を灯した騎士。しかしその数は圧倒的で、カルデアの廊下を完全に埋め尽くしている。紅い光が連なって目が眩みそうな程だ。

 

 

「我等がソルの、輝きのために」 

『輝きのために』

 

 

 同時に剣を抜くシャランという音が、空間を唸らせる。完璧な統制はプレッシャーとなって立香達を圧倒し、さしものモードレッドさえも、じりと後ずさらせる。

 

 

「気味悪いぜ。こいつら、どんだけいやがるんだ!?」

「敵は惑星単位で増強している組織です。最新情報では、兵士はおよそ四七億人ほど存在しています」

「よっ――」

 

 

 告げられた途方もない数に、顎が外れそうな程開け広げてモードレッドが絶句する。

 跳びずさったXXが、刑部姫と一緒に折り紙の盾に隠れていた立香に言う。

 

 

「ここで戦うのは分が悪い。一旦撤退しましょう! この艦にハイパーブースターは?」

「あってたまるか! これカルデア! 艦じゃなくて館なんですけどー!?」

 

 

 立香の思いを代弁して、刑部姫が悲鳴に近い声で叫ぶ。またしても轟音と共にコンテナ船が飛び込み、兵士を次々と排出する。

 

 

「おや、そうするとこれはマズい――マスターくん、私は少し後ろに下がります。ちょっとの間だけ、頑張って耐えてくれますか?」

「もちろん、頑張るけど……XXはどうするの?」

「少しツテを頼ります! 心配しないで、マスターくんを守るために、最善を尽くしますから!」

 

 

 にっこりと微笑んで、それからXXは、プリドゥエンを構えて騎士の軍勢と対峙する、小麦の肌のサーファーを見る。

 

 

「頼みましたよ、サーファーさん! マスターくんをお願いします!」

「……へんっ」

 

 

 モードレッドは、それに得意気に鼻を鳴らす。

 渦巻く魔力が、瑞々しい水色に輝き、モードレッドの周囲を渦巻く。

 勝ち気にぺろりと唇を舐めて、モードレッドは笑った。

 冷血な宇宙騎士の大軍が、怒濤のように襲いかかる。

 

 

「お前に言われなくたって、ずっと前から心に決めてるよ――オレはマスターの剣だ! オレの目が明るいうちは、指一本たりとも触れさせやしねえ!」

 

 

 翡翠の瞳に決意の炎を爛々と灯して吼えたモードレッドは、プリドゥエンを横薙ぎに払い、前列の騎士達を纏めて吹き飛ばす。

 しかし、全く臆さぬ騎士は、倒れた騎士を踏みながら突貫し、モードレッドに向けて剣を振るう。

 

 

「ぐ、ぎ……!」

 

 

 剣は全てプリドゥエンの面で受け止めるも、ズン――! とのし掛かる圧力に、モードレッドが唸る。

 大軍の質量を利用し、押し潰そうという腹づもりか。あまりの多勢に、立香が歯噛みする。

 

 

「アンデルセン、サモさんに補助を――あ、あれ? アンデルセン!?」

「ちょっと、あのお子ちゃま、いつの間にか消えてるしっ!?」

 

 

 ようやく振り返った刑部姫が、隣にいたはずの少年(風)サーヴァントの不在に気付くも、もう遅い。

 

 

「危ねえ、マスター!」

 

 

 モードレッドの戦線をかいくぐってきた騎士の数体が、立香達の方へ剣を向け、物凄い勢いで走り出していた。鎧の隙間から覗く紅い光は、まっすぐ立香を捉えている。

 

 

「わっ――」

「繰繰れ、千代紙!」

 

 

 立香に向け剣が振りかぶられたその時。刑部姫が、一枚の折り紙をピッと投げる。

 魔力の編まれた折り紙は空中で瞬く間に小さな鶴になると、目にも留まらぬ速度で飛来し、騎士の兜を突き砕いた。続く騎士達も、刑部姫の放つ折り紙に穿たれ、倒れ伏す。

 千代紙の蝙蝠を周囲に侍らしながら、刑部姫が、立香を庇うように騎士達の前に立ちはだかった。

 

 

「本当は隠れていたいけど、姫しかいないからしょうがない。全力でがんばってあげるから感謝してよね、まーちゃん!」

「助かった! やるじゃねえか、さすが腐ってもサーヴァント!」

「腐ってまーせーんー! 姫は本気だせばすっごいし、創作だって純情派なんだから!」

 

 

 実力を見せつけるかの如く、刑部姫が放った折り紙の蛇は、その長い尾で騎士を二人纏めて絡め取り、ひと思いにひねり潰してしまう。

 カルデアに雪崩れ込んだ兵士は、いずれも斥候。プリドゥエンの一振り、折り紙一枚で突き崩れる、雑兵と言ってもいい存在だ。

 ――だが、しかし。

 

 

「我等がソルの」

「輝きのために」

「輝きのために」

「輝きの――」

「ッだめだ、いくら何でも多すぎる!」

 

 

 その圧倒的な、抗いがたい戦力差によって、モードレッド達は防戦を強いられていた。

 倒しても倒しても、倒れた兵士を踏み付けて次々に押し寄せる。遙か後方ではまだ壁を穿つ音が響いており、兵士はまだまだ、際限なく供給されているように思われた。

 襲いかかる騎士をなぎ倒しながら、じりじりと後退する。そんな抗戦が五分も続けば、モードレッドの顔に明らかな疲労が滲み始めた。ぜいぜいと荒い息を吐いて、プリドゥエンを地面に突き刺す。

 

 

「ああ、クソ。やっぱプリドゥエン(コレ)、クラレントより重い分キやがる! 段々、腕が持ち上がらなくなってきた……!」

「こ、こっちも、千代紙が底着いてきたかもっ」

 

 

 刑部姫の顔も青ざめている。モードレッドの脇を潜って迫る騎士の数も増え、焦燥で目がぐるぐると回り始めていた。

 同時に迫った三体の騎士の剣を、折り紙の壁で防ぐ。しかし魔力の練度が弱かったか、それとも宝具発動の疲労か。剣は紙の壁を突き破り、バリバリと音を立てながら刑部姫に向かって落ちてくる。

 

 

「きゃあああ!?」

「おっきー!」

 

 

 立香が右手に意識を向かわせ、魔力の経路(パス)を増幅。一時的に増えた魔力を使って、刑部姫は折り紙の壁を折りたたみ、騎士三人をくしゃりと潰してしまう。

 真っ青な顔でぜぇぜぇと息を荒げ、とうとう刑部姫は苛立ち任せに叫んだ。

 

 

「もー! こんな大ピンチに、XXちゃんとお子ちゃまはどこに消えたのよー!」

「――誰がお子ちゃまだ! 端物書きなら『先生』を付けて呼んで然るべきだろう、馬鹿め!」

 

 

 後ろからかけられた、含蓄のある深い声。

 振り返れば、青髪の少年サーヴァントが、縁の大きな眼鏡を持ち上げ得意気に微笑んでいた。

 

 

「アンデルセン! どこに行ってたの?」

「ちょっとな。戦闘が苦手な三流サーヴァントらしく、頭を使いに出かけていたんだ」

「自虐してる場合じゃないでしょ、こっちは猫の手も借りたい所なのに!」

「猫の手で騎士の剣が払いのけられるか馬鹿め! 戦闘の頭数にならない分、()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 アンデルセンの言葉に、二人揃って目を丸くする。「その驚く顔が見たかった」と言わんばかりに、アンデルセンが得意気に歯を見せて嗤った。

 

 

「少し考えれば分かるだろう。あの年中夏女が武器にしてるのは何だ? 頭を使え! あの武器が本来の使われ方をするために、あとは何が必要だ、マスター!」

「――ッ」

 

 

 立香の思考に、勝利を導く火花が弾けた。力強く頷き、刑部姫の肩を叩く。

 

 

「おっきー、折り紙を出して。ホースを食堂に!」

「オッケー、姫も完璧に理解した! 流石作家先生、やるじゃんっ」

 

 

 刑部姫は一際大きな紙を取り出し、魔力を編む。

 巨大な大蛇を模した折り紙は、その大きな頭にアンデルセンを乗せて、風のようにカルデアの廊下を駆ける。

 目的地は、カルデアの厨房の、水洗い用のシンク。特注の大きな蛇口の周囲には、先ほどアンデルセンが書き上げたばかりのテキストが蝶のように幻想的に舞っている。

 折り紙の蛇が、ばくんっと蛇口に噛み付いた。アンデルセンが、ニィと笑みを吊り上げる。

 

 

「日用品には余りに贅沢なエンチャントだ――俺の陳述を誇りに思い、存分にぶちまけろ!」

 

 

 ひと思いに蛇口を捻る。

 次の瞬間、折り紙のホースの中に、間欠泉のように大量の水が吹き出した。

 折り紙の胴をボコボコと膨れさせながら、途轍もない勢いで水が流れていく。

 ズゴゴゴ……と、津波が迫りくるような空気の震動。刑部姫と立香が、二人がかりでホースを抑える。

 

 

「サモさん!」

「ああいいぜ、いつでも掛かって来な!」

 

 

 多数の剣を跳ね返し、にひっとモードレッドが笑う。

 次の瞬間、ホースから吹き出した大量の水が、鉄砲水のようにモードレッドの背中に飛びかかった。

 直撃すれば肌が裂けるほどの強烈な水流。

 それに対し、モードレッドは振り返ろうともしない。

 

 

「いくぜ、相棒! 群れるしか能のねえこいつらを、まっさらに蹂躙してやる!」

 

 

 ただ、抱えていたプリドゥエンを、だんっと足で蹴り付ける。

 サーフボードの面が怒濤の水流に触れた瞬間、水流は指向性を持った渦を巻き、モードレッドの元に集まっていく。

 それはさながら、水が彼女に平伏するかのよう。

 あらゆる波を御する夏色少女は、胸の奥底からこみ上げる極上の高揚感に唇を持ち上げ、満面の笑みでサーフボードを蹴り付けた。

 

 

「『逆巻く波濤(プリドゥエン)を制する王様気分(チューブライディング)!』」

 

 

 彼女が征服した怒濤の水流は、カルデアの廊下を舐めるように進軍し、ひしめき合っていた兵士全てを飲み込む大渦となって、視界に映る全てを蹂躙した。

 プリドゥエンの一撃にさえ耐えきれない一介の騎士が、津波の如き奔流に耐えられる筈もない。波は騎士の数をまるで物ともせずに押し流し、押し潰す。

 奔流はカルデアの壁を貫いていた宇宙船をも押し流し、バキバキと壁を砕き割りながら、その全てを宇宙空間へと吹き飛ばした。

 壁に大穴が開き、大量の水に流された宇宙船群が、瓦礫と一緒に飛んでいく。

 

 

 ――その、背後。

 壁の向こうの光景を目撃した瞬間、兵士の大群を抗した事で湧いていた感情が、戦慄によって立ちどころに凍り付いた。

 

 

『……』

 

 

 誰も、何も言えない。

 余りの驚愕に、モードレッドがプリドゥエンを取り落とす。

 宇宙の外に釘付けになった彼女の翡翠の瞳が、煌々と輝く紅の輝く。

 

 

「……なんだ、これ」

 

 

 ようよう、それだけの言葉を絞り出した立香。

 その肌が、途方もないエネルギーにビリビリと震える。

 

 

 穴の外に見えた景色は、星の数という表現が比喩でない程の、途方も無い大艦隊だった。

 先ほどのコンテナ船から、大きいのは衛星に匹敵するほどまで。大小様々な艦隊が、まるで視界一面の宇宙をびっしり埋め尽くす程に展開されている。

 

 

 そして、その艦隊の、遙か奥――艦隊の威光を体現するかの如く――

 紅蓮の恒星が、凄まじいエネルギーを煌々と放ちながら、ゆっくりとこちらに接近していた。

 

 

 その色は忘れるべくもない、先にカルデアを直撃した、超火力のエネルギーと同一の物だ。

 攻撃を目撃していた刑部姫が、上擦った声を上げる。

 

 

「嘘。この星、もっとずっと遠くにあった筈なんだけど……」

「――遅かったみたいですね」

 

 

 いつの間にか立香の隣に戻っていたXXが、歯噛みするように呟いた。サファイアのような青い目が一心に恒星を睨み付け、橙色に揺れている。

 

 

「やっと助けを呼べたのはいいものの、どうやら向こうの動きの方が遙かに早かったようです。ここまで接近されては、果たしてどうなるか……」

「XX、あれは何? 接近って、まさか()()()()()()()()って言うの?」

 

 

 立香の質問に、XXは沈痛に唇を噛み締める。

 思い出の中の彼女を思えば信じられない程に、重く苦しそうな顔だった。

 

 

「ごめんなさい、マスターくん。じつはきみ達がぶつかった光線は、私を狙って放たれた一撃だったのです」

「XXを?」

「ええ。正確に言えば、あの恒星が()()()()()()()()()()()()()()()()一撃です。私が潜伏していた無人惑星は、もう跡形も残ってはいないでしょう」

 

 

 告げられた言葉の余りの突拍子もなさに、誰もが言葉を探せない。直近で煌々と燃える恒星の途方も無いエネルギーが、電子レンジに入れられたように全身を振るわせている。

 

 

「あれが奴等の究極兵器にして私が打倒すべき宇宙の驚異。自律移動式魔術恒星――またの名を《オルトリアノヴァ》」

「……おると、りあ……?」

 

 

 どこか聞き覚えのある名に、立香は目を瞬かせ、そうして気付く。

 視界を覆うほどに接近した、巨大な恒星。揺らめく血のような紅蓮の光。視界を焼き尽くす程に眩く、無限を想起させる凄まじいエネルギー。

 

 

 

 その中心に、誰かがいた。

 黒点のように小さな、恒星の中心に映る人影。

 本来であれば存在する事など許されない場所で。

 長い白金の髪を揺蕩わせた少女が、静かに浮いていた。

 

 

「かつての私の大きな過ち。自分がケリを付けなければいけない私の罪。大切な、大切だった……私の親友」

 

 

 XXの声が震える。恐れに、あるいは悔恨に。

 恒星の只中に浮遊する少女を見つめ――XXは、彼女にとても良く似た顔を戦慄に強張らせて、まるで告解するかのように、その名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あれは、えっちゃんです」

 

 

 

 

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