SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
1節
詳しくを知っている訳ではない。
多くを話してくれた訳でもない。
それでも名前を聞いた瞬間、立香の脳裏には、記憶の断片が次々と舞っては消えていく。
共に学び共に戦った、Xの学友であり戦友。
本来は交わる事の無かった、光と闇の、闇を抱えるサーヴァント。
彼女の、一番の親友だったらしい、瓜二つの顔をした少女。
あの紅蓮の恒星の只中に浮かぶ少女が、えっちゃんだと言うのだろうか。
「でも……えっちゃんは確か」
「ええ。八シーズン前。えっちゃんは私をかばって、星の崩落に巻き込まれて消えました……あれは、えっちゃんの亡骸なのです」
「なき、がら……?」
口にする事さえ痛みを伴うとでも言うように、XXは顔を苦悩に歪める。
普段あんなに明るく、何を考えているかよく分からないとまで言えるXXが、こんな表情を見せるなんて――立香のその困惑は、恒星を背に進行する大艦隊が許しはしない。
「ッボーッとしてる暇ねえぞマスター! デカイ艦が近づいてくる!」
モードレッドがプリドゥエンを持ち直し、その場の全員を鼓舞するかのように声を張る。
言葉の通り、恒星の中央に座していた一際巨大な艦が前に出てきて、カルデアに覆い被さるように接近する。その艦の衛星の如き巨大さは近くで見れば目眩がするほどで、あまりのスケールの違いに、その場にいる誰もが本能的に身を竦ませる。
巨艦の脇から一人乗りの小型艇が現れると、それはカルデアに開いた穴の目の前で止まった。立香達が息を飲んで見つめる前で、操縦者は操縦席を開き、宇宙空間を跳躍する。
すとん、とカルデアに降り立ち、纏っていた臙脂のマントがゆらりとはためく。
現れたのは、鎧を全身に纏った騎士だった。意匠を凝らした黒色の金属に、紅蓮に発光する装飾が凝らされている。
「――」
ズン、と、空気が一気に重くなる。
先の雑兵とは明らかに違う。
問答無用に心臓を鷲掴みにされるような凄まじいプレッシャーは、疑いようもなくその騎士が、宙を覆い尽くす騎士団のリーダーであることを確信させた。
「――『マスター反応を感知した』という報告を聞き、まさかとは思ったが」
冷たい凜とした声と共に、兜の隙間の、紅蓮の光が立香に向く。
視線を向けられた瞬間、凄まじいプレッシャーが駆け抜けた。居並ぶサーヴァント全員が、己の獲物を構えながらも、戦慄に思わず一歩後ずさる。
「本当に、マスターか。蒼輝銀河には決して存在しないはずの」
「っ……」
「それに、この面妖な建造物……別次元の人間だな。かつて一度だけ蒼輝銀河に現れたという――そう、カルデアのマスター。それが、貴様か」
立香は一度、ぐっと息を呑み込んだ。
危機なら幾度となく乗り越えてきた。今更、気圧されたりなんてしない。
一つ深呼吸。凜とした光を取り戻した目で、騎士を睨み返す。
「だったら、どうした」
「マスター。サーヴァントしか存在しない蒼輝銀河に於いて、霊基を増大させ秘めたる力さえ引き出す存在……しばらく前であれば、我も何としても鹵獲しようとしただろう」
そこで騎士は「しかし」と言葉を区切り、変わらぬ泰然とした声音で言う。
「今の我々にとっては、マスターはもはや不要だ。求める理由も――歯牙にかける理由もありはしない」
騎士の冷たい宣告。
返事の代わりに響いたのは、モードレッドの「へんっ」と勝ち気に鼻を鳴らす声。
「何が不要だ、一人でノコノコ乗り込んで来た癖に、調子に乗ってんじゃねえぞ! なぁ引き籠り姫!」
「そうだそうだー! これ以上私達の家に、土足で踏み込まれてたまるもんですか!」
モードレッドの挑発に、刑部姫も応じる。
彼女が脇に抱えた折り紙のホースが、もう一度大量の水を吐き出した。プリドゥエンで激流に跨がり、モードレッドは得意気に笑う。
「ヨソサマの家に上がり込む、礼儀とマナーを学んで出直してきな! 『逆巻く波濤を制する王様気分!』」
卓越した波捌きによって、全てを押し流す奔流が、騎士に向け迫る。
「……フン」
轟音を立ててうねる荒波に対し、騎士は一つつまらなそうに鼻を鳴らし、片腕を突き出した。
次の瞬間、その腕がカァ――! と橙色に輝き、強烈な熱を放ち始めた。
強烈な熱が陽炎を産みだし、揺らめく空気に騎士の姿がぶれる。
モードレッドの放った大量の水は、光を纏った腕に触れた瞬間に蒸発し、凄まじい水蒸気爆発を発生させた。爆風と水しぶきが、モードレッド達に向け吹き荒ぶ。
「わぶっ――」
「たかが水。この程度、我等がソルに一縷の雲さえかけることは叶わんぞ」
その水蒸気の暴風を切り裂き、騎士が突貫。無防備なモードレッドの顔面目がけ、煌々と燃える手を突き出す。
「危ない、サーファーさん!」
割って入ったのはXXだ。ツインミニアドの切っ先が騎士の赤熱した手とぶつかり、眩い閃光を迸らせる。
エネルギー同時が激突し、フズズッとプラズマの瞬く音。直下で弾ける力に、XXが呻く。
「ぐ……!」
「フン」
XXの全力の拮抗にも、騎士はただ一つ冷笑。
腕の一振りでツインミニアドを跳ね上げると、腰に提げていた長剣を抜き放った。その剣も即座に、眩い光と熱を纏い、紅蓮に輝く。
「ッ危、ね――」
「吹き飛べ」
騎士の一閃は、XXを庇うように翳したプリドゥエンに着弾。瞬間、爆発するような火花が散り、衝撃が二人を弾き飛ばした。
「サモさん! XX!」
「我が名はダース・ソル。この宇宙に絶対な輝きをもたらす者。恒星の輝きを司る、唯一絶対の騎士である」
二人を軽々と吹き飛ばし、ダース・ソルは紅蓮の剣をヴンと払い、煌々と燃え盛る恒星を背に悠然と佇む。
「オルトリアノヴァのエネルギーは、蒼輝銀河最強だ――抵抗は無駄である。我等がソルは、この宇宙の全てを溶かし尽くす」
「ぐ……っなんて力と熱だ、プリドゥエンが焦げ付いてやがる!」
プリドゥエンに寄りかかりながら、ようよう立ち上がるモードレッド。盾にしたプリドゥエンには、一文字の焦げ後がくっきりと刻みつけられていた。
戦慄するモードレッドに興味を無くし、ダース・ソルの兜の光が、マスターに向き直った。
「別世界のマスターよ。貴様はこの蒼輝銀河における異物であり、大事の前の些事だ。一方で我は、無関係の貴様までを塵にしようとは思わない。我々が欲しいのは、ただ貴様の後ろにいるXXの命のみだ」
「っ……」
「此方に引き渡し、元の世界に帰れ。そうすれば我が極光騎士団はお前達に手を出さない。何なら、元の宇宙に帰る手助けも惜しまないが、どうだ?」
蒼輝銀河においては伝説の存在となったマスターを試すように、ダース・ソルが問いかける。
騎士の後方、無限に広がる筈の宇宙は、眩い紅蓮の恒星が覆い尽くし、立香の目を眩ませる。
XXの親友――XXオルタは、悠然と恒星の中心に浮遊している。瞳を閉じた表情は、眠りとは違う、この世の全ての理から外れたような、異次元の孤高を感じさせた。
途方も無いエネルギーは、絶え間なく立香の肌をビリビリと震わせ、本能に畏怖を宿させる。
「……」
XXが、揺れる瞳で立香を見つめる。ダース・ソルは、静かに立香の返答を待っている。
張り裂けるような緊張の沈黙の果て――立香が浮かべたのは、微笑。
「XX」
「マスターくん?」
「契約を結ぼう。もう一度、この銀河で一緒に戦うんだ」
振り返った立香は、目を丸くするXXに、令呪の浮いた右手を差し出した。
「正直、状況はチンプンカンプンだし、何をすればいいのかとか検討もつかないけど」
「……」
「XXが……あの、いっつも元気で愉快な君が、『助けて』って、俺等を呼んだんだ」
「……」
「だったら、応えなきゃ」
これまでと何も変わらず、立香は笑う。
どんな破滅だって、世界の危機だって。
もうダメだって思っても。どん底のような絶望であっても。
諦めず、信じ続けて、助ける。
立香は、カルデアは、そうやって駆け抜け続けてきたから。
XXは、一度ぐっと喉を鳴らして、こみ上げてくる涙を呑み込んだ。
「……ごめんなさい、マスターくん」
「当たり前の事だよ。XXが謝ることじゃない」
「いいえ。私は、謝らなくちゃいけないんです。本当にごめんなさい」
重苦しい声音に、立香が振り返る。
その頃にはもう、XXは薄く微笑み、戦う覚悟ただ一つを浮かべていた。
「お力をお借りします、マスターくん。もう一度、一緒にこの蒼輝銀河を救ってください」
「……うん」
立香が頷き、魔力経路が接続。
XXの身体に魔力が満ち、XXが立ち上がる。
「……灰燼を望むか」
ダース・ソルは、特に残念がる様子もなく、ヴンと剣を一振り。再び刀身に紅蓮の光を宿す。
「結構、ならば戦争だ。蹂躙だとも。貴様等弱小サーヴァントを、塵芥らしく消し炭にしてくれる」
「ハッ! かわいそうに、目が見えねえらしいなぁ宇宙騎士サマよ! 目の前にいるのは、幾つもの世界を救ってきた最強のサーヴァントだぞ! プリドゥエンでボッコボコにして、その窮屈そうなヘルメットを二度と外れなくさせてやる!」