SABER WARS Groove of the Galaxy!! 作:オリスケ
「ハッ! かわいそうに、目が見えねえらしいなぁ宇宙騎士サマよ! 目の前にいるのは、幾つもの世界を救ってきた最強のサーヴァントだぞ! プリドゥエンでボッコボコにして、その窮屈そうなヘルメットを二度と外れなくさせてやる!」
そう発破をかけ、先陣を切ったのはモードレッド。彼女は佇むダース・ソル目がけ、プリドゥエンを思い切り投げつけた。彼女の身長よりも大きなサーフボードはダース・ソルの紅蓮に光る小手によって弾かれる。
宙を舞うプリドゥエン。そこに、跳び上がったモードレッドが、軽やかに降り立った。
空中での鮮やかなトリックを目で追うダース・ソル。その両腕に、刑部姫の放った折り紙の蛇が食らいつき、自由を奪い取った。
両腕を縛られ磔になったダース・ソル。その真正面には、はためく原稿用紙から光を浴びて、背中のブースターを轟と唸らせるXXの姿。
「そら、即興の散文だがしたためてやったぞ! 全力で行け、宇宙警察!」
「ぜ――ええええええええええええぃ!!」
全力の咆哮。ドウ! と空気を置き去りにするほどの勢いで大地を駆ける。同時に、空中を軽やかに舞ったモードレッドが、落下の勢いを上乗せしたプリドゥエンを大上段に振りかぶる。
「宇宙の果てまで――」
「――吹き飛べぇぇぇぇぇ!!」
二人のサーヴァントの全力の一撃が、ダース・ソルに打ち付けられる。
轟! と凄まじい衝撃が駆け抜け、立香が思わず目を塞ぐ。
一瞬の、静寂。
恐る恐る瞳を開いた立香は――眼前の光景に、絶句する。
「――この程度か?」
ダース・ソルは、ただ悠然と、そこに立っていた。
呻き声一つもなく。一歩も後退することなく。ましてや、防御の構えすら取らずに。
モードレッドとヒロインXXの全力をその身に受けて尚、彼は全く、何の反応も見せようとしなかった。
「な、んだと……!?」
宙に釘付けにされたような格好で、モードレッドが唸る。
ダース・ソルの兜は紅蓮の光を纏い、叩き付けたプリドゥエンを、ジュウと音を立てて焦がしていた。胴も同様に赤熱し、ツインミニアドの衝撃を、ひび割れ一つ起こさずに受け止めている。
赤熱するヘルメットの奥の、ぞっとする程冷ややかな声が、今一度問う。
「この程度か?」
「ぐ……!」
「伝説のマスターの力とは。サーヴァントに比類無き力を引き出させるという契約の力とは、この程度なのか? であればその命、本当に惜しむ必要すらもないようだな」
次の瞬間、ダース・ソルは身を翻し、無防備に宙に浮いたプリドゥエンに拳を叩き付け、モードレッドごと吹き飛ばした。プリドゥエンと壁の間に挟まれ、モードレッドが短い悲鳴を漏らす。
XXは歯噛みし、いま一度、かけ声と共にツインミニアドを突き出した。その切先は、軽く翳された紅蓮の剣の腹で、呆気なく受け止められる。
「ぐ、ぃ、ぃ……!」
XXが腰を屈め、歯を割れる程に食い縛り、ツインミニアドの全力で押し込む。マスターの補助を受け、アンデルセンの強化まで受けた切先は、しかしダース・ソルを後ずさらせる事すらも、腕に力を籠めさせる事さえもさせない。
「我は蒼輝銀河唯一の存在。光をエネルギーとする最強のサーヴァントだ」
ダース・ソルが、一歩踏み出す。
踏み出した分だけ、XXが後退する。
「恒星の光を受ける限り、我の霊基は決して傷つかない。背後に輝くオルトリアノヴァによって、我が力は無限に等しく増幅する」
また、一歩踏み出す。
XXが、膝を折る。
剣に宿る光は際限なく増し、最早宇宙に煌々と輝く恒星に比肩する程に強くなっている。XXの髪がジリジリと焦げ付き、凄まじい熱を顔に浴びせられる痛みに苦悶の呻きを漏らす。
「『
鍔迫り合いはジリジリとXXの方に寄り――とうとう真っ赤に赤熱したダース・ソルの剣が、XXの肩に触れた。
鎧が瞬く間に赤熱し、溶け裂ける。
肉の焼けるジュウという音と共に、XXの悲痛な悲鳴が轟いた。
「が、ああああぁぁぁぁぁーーーー!」
「XX!」
「マスターの増援で浮かれたか。愚かな。何人増えようが、所詮ただのいち生命。纏めて我がソルの輝きに溶かしきってくれる」
紅蓮の剣が、湯気を立たせながら、XXの肩を食い破り、肌を焦がしていく。肉を焼かれる激痛に、ツインミニアドを握る手がガクガクと震える。
「吹、き、飛べェーーーー!!」
XXの命を救ったのは、モードレッドの決死の突貫だった。プリドゥエンを盾にして、全速力で飛びかかる。
トラックと衝突するような衝撃を横から浴びて、ダース・ソルが僅かによろめいた。その隙にモードレッドはXXを抱えて、立香の横まで跳躍する。
XXの傷は酷い有様だった。肩の鎧は溶け、溶解した金属が肩に貼り付き、彼女の肌を焦がしている。肉の焼ける香ばしい匂いが漂い、立香の喉を詰まらせた。
「大丈夫、XX!? すぐに治療を――」
「ッ何が、我等がソルですか……!」
駆け寄る立香を、XXが押し退けた。
痛みに涙が滲み興奮で獣のように窄んだ瞳が、ダース・ソルと、彼の背後に煌々と輝く、紅蓮の恒星に向けられる。
「あれはえっちゃんです! 彼女をあんな所に閉じ込めて、利用して! 何を我が物のように扱っているんですか!」
「何を怒る事がある。貴様のものでもあるまいに」
「ッ――えっちゃんは、私の友達だ!!」
ビリビリと腹の奥底を揺さぶる程の絶叫は、立香でさえも驚愕にたじろがせる。
見たことのない顔。
歯を剥き出しに唸る、飢えた獣のような表情は、目の前にいる彼女が本当にXXなのかと、疑ってしまうほどで。
怒りで窄まった彼女の瞳は、ただ一心に、恒星の中心に浮くXXオルタに向けられている。
「こんな姿、こんな扱いを、えっちゃんが望んでいる筈がありません! 私の親友は、宇宙の崩壊なんて決して望んではいなかった!」
「ならばその言葉を返そう。貴様の友人は、生命活動を停止させて孤独に宇宙を彷徨う事も、決して望んでいなかった筈だぞ」
「っ……!」
ぎゅっと唇を噛むXX。冷笑と共に、ダース・ソルが言葉を突き刺す。
「どの口が友人などとほざける。星の崩落に巻き込まれ、物言わぬ死体となって宇宙を放浪するXXオルタを、貴様は見放したではないか」
「だ、まれ……!」
「自ら捨て、誰かの手に渡った宝石を、手遅れになってから小うるさく文句を吠え立てる――愚かとは思わないかXX? 我は、貴様を唯一の驚異と定める事さえ恥ずかしいぞ」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!」
絶叫と共に、XXは焼き焦げた肩を剥き出しにしたまま、ダース・ソルに躍りかかった。
「XX! ――みんなごめん、XXの援護を!」
「え、援護って言ったって、こんなのどうすりゃいいってのさ!?」
悲鳴に近い声で刑部姫が叫ぶ。事実彼女の言うとおり、ダース・ソルの力は、余りにも圧倒的だった。
アンデルセンが精一杯筆を走らせるも、エンチャントは全く効果を見せず、無限の力を称するダース・ソルの鎧に弾かれる。彼の放つ熱はもう辺りを陽炎で満たす程に強くなり、刑部姫の千代紙は、近づいた端から燃えて全く役に立たない。
手が出せない。誰もがたじろぐ高熱の中に、ひとりXXが、怒りを纏って飛び込んでいく。
「ッ――令呪よ!」
立香は三画の令呪のうち一画を、XXの強化に注ぐ。
怒りを糧にし、令呪によるブーストまで受けたXXの連撃は、速度と圧力に於いてダース・ソルを上回るが――一方でその攻撃は、完全に冷静さを欠いていた。
怒り、焦り、憎しみ、悲しみ。ごちゃまぜになった感情で真っ赤に塗り潰された思考が、矢鱈目鱈にツインミニアドを振り回させる。
「――愚かな。所詮、ただの娘子か」
「危ねえ、宇宙の父上!」
ダース・ソルが放った一閃は、驚異的なセンスで間に入ったプリドゥエンが、間一髪で堰き止める。しかしモードレッドにできる事はそれが精一杯で、全身に吹き付けられる強烈な熱気に、呻き声を上げて跳びずさる。
「熱い! ダメだ、もう近づく事もできねえ!」
「XX、離れて! このままじゃ君も焼けてしまう!」
立香の叫びは、狂躁するXXには届かない。とうに切れた喉で絶叫を張り上げ、ツインミニアドを振り抜く。
数度目のダース・ソルとの鍔迫り合い。
勝敗は分かり切っている。力の差は、奇跡を祈る余地すらもない程に、ダース・ソルの方が圧倒的だった。
煌々と輝く剣がツインミニアドに触れ、離れた立香の喉が焼ける程の途方も無い熱を撒き散らす。マトモに見ることさえ適わない圧倒的なエネルギーが、XXの命を狩るべく膨張を続ける。
「ッぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
「恥じる事はない。貴様はただ未熟で、凡庸な、少女に過ぎなかっただけのこと」
吹き出す熱が、XXの金髪を焦がし肌を焼く。彼女の視界が、死の紅蓮に染まる。
マスターの声は聞こえない。聞こえたとしても、もう一歩たりとも動けない。
途方もないエネルギーが荒れ狂い、全身を包まれる。恐ろしい高熱の剣がツインミニアドを押し込み、首を断とうと迫る。
「っが、あ、ぁ……」
「その愚かさも、幾つもの星を跨ぎ小賢しく逃げ続けた事も、我は許そう――故に、もう足掻くな。ここで、我がオルトリアノヴァの、無限の光芒の塵と化せ」
「XXッ!!」
霊基が焼けて、溶けて、蒸発していく。
視界を、埋め尽くす紅蓮の熱が、XXの魂までを犯し、真っ白に蒸発させていく。
モードレッドも、立香も、刑部姫もアンデルセンも、誰も手を出せない。
恒星の熱が、何もかもを平等に焼き尽くし、真っ白に溶かし尽くしていく――その時。
「……っ?」
立香の耳は、何もかもが焼き尽くされたかのような熱の光芒に割って入る存在を、確かに感じた。
――音。
最初に立香が捉えたのは、耳鳴りのような細い音だった。
その音はみるみる内に大きくなる。蜂の羽音から、鷹の鳴き声――やがて、鬨の如き咆哮に。
何百のラッパを一斉に鳴らすような凄まじい音が、居並ぶ全員の腹の奥底を力強く揺さぶりながら、迫る。
上から降ってきた音が一瞬でカルデアを通過し、次の瞬間、カルデアに横付けされていたダース・ソルの小型艇が大爆発を起こして吹き飛んだ。
凄まじい衝撃がカルデアに雪崩れ込み、爆心地の近くにいたXXとダース・ソルを吹き飛ばす。マスター達の傍に落ちたXXは意識を失い、火傷に塗れた全身をぐったりと横たえさせる。
「っおい、しっかりしろ、宇宙の父上!」
「サーヴァント反応だと? ――我が騎士団の宇宙船軍をかいくぐり、ここまで飛んで来たというのか」
高熱を収めたダース・ソルが、油断なく宇宙に視線を向ける。けたたましい轟音は宇宙を駆け巡り、再びカルデアへ迫る。
現れたのは、十人規模の大きさの宇宙船だった。全体的に扁平で丸みのあるデザインに、異様に大きいジェットエンジンと、底部に列車砲のような巨大な火砲が取り付けられている。
宇宙船はゴウゴウとエンジンをふかしながらカルデアに背中を向けると、後部の格納庫を開いた。紅蓮の太陽と異なる、眩い純白のライトが隙間から漏れ出す。
開かれていく格納庫に、誰かがいた。眩い光の中、腕組みをして佇んでいる。宇宙の無空にも関わらず、頭の両脇の犬耳帽子がヒラヒラと揺れている。
「何者だ」
「フフン――問う必要があるかい、宇宙騎士!」
宇宙の果てまでも届きそうな、場違いな明るい声を張り上げて、男がぐっと姿勢を低くする。
「行け! 火砲脚!」
ドウッという爆音が轟いたかと思うと、男は自らの右足からジェットを噴出し、宇宙空間に飛びだした。
恒星の紅蓮の光に浮かび上がったのは――真っ白な歯を煌めかせた、どこまでも愉しそうな青年の快笑。希望に満ちた、鷹のような鋭い目。
「ハァァァァァァ!!」
背後のオルトリアノヴァより遙かに晴れやかな笑みを浮かべた青年は、宇宙を飛翔しながら身を翻し、ロケットブースターを内蔵した金属の右足で、ダース・ソルに強烈な一撃を見舞った。ガウン! と轟音が上がり、ダース・ソルがたまらず蹈鞴を踏んで後ずさる。
青年はロケットブースターを短く噴射して軽やかに着地。ダース・ソルから立香達を遮るように、立ちはだかる。
「恒星を司る騎士だと聞いて来てみれば――暗い、暗すぎるぞ! 太陽がこんなに近くにあるというのに、なんだその陰湿さは!?」
「……」
「ちゃんと飯は喰ったか? 出撃の前の体操はしたか? 戦果を挙げたらちゃんと鬨を挙げてるか!? 宇宙だというのに、まったく浪漫が足りないぞ、けしからん!」
対峙するダース・ソルに恐れるでもなく。ばかりか彼がたじろぐ程の、物凄くハキハキとした調子で言葉を並べ立てる。
無駄のなく引き締まった肉体を包む、濃緑の空軍服は、重厚だが使い古されてボロボロだ。特徴的な、ブルドックの耳のようなイヤーマフ付きの空軍帽。宇宙空間には余りに不釣り合いな格好で、ただ一つ右足に付けられた義足が、真新しい銀色に輝いている。
突然現れた好青年に、立香達もまた、あんぐりと口を開けて絶句していた。ようよう気を取り直したモードレッドが、プリドゥエンを構えて睨み付ける。
「な、何モンだテメエは! サーヴァントか!?」
「ははっ、そう睨むなお嬢さん! ――俺はただの飛行機乗りさ! それ以外にどう見える!」
大笑し、男は立香達に向き直る。
少年のように澄んだブルーグレーの瞳。僅かに髭の浮いたキザな二枚目顔。
「そして、今は所用あって正義の飛行機乗りだ! XXの求めに応じ、数多の敵船をかいくぐって馳せ参じたぞ、地球人諸君!」
張った胸にドンと拳を叩き付ける。その濃緑の空軍服の胸元には、煌めく勲章の数々。
そのバッジの輝きのどれにも負けない眩しい笑みを煌めかせ、男は未だ呆然と目を丸くする立香達に向け、ニッと白い歯を見せて笑いかけた。
「俺は銀河の無空を風切り、無限の彼方を志す鉄鷲――真名をハンス・ウルリッヒ・ルーデル! 今は無敵のスペース☆ライダー! 銀河の危機を救うため、ここに爆裂的に参上だ!」