SABER WARS Groove of the Galaxy!!   作:オリスケ

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3節

 その高らかな口上に対する反応は、真っ二つに分離した。

 

 

「「ハンス……?」」

 

 

 モードレッドとアンデルセンは、謎の生物を見たかのように小首を傾げ。

 

 

「「キャーーーーーーーーー!」」

 

 

 そんな二人を吹き飛ばすかのように、立香と刑部姫の二人が、甲高い黄色い歓声を張り上げた。

 モードレッド達がぎょっとするのも目に入らず、二人は子供のように目を輝かせて、歯を見せ笑う好青年の前に詰め掛かる。

 

 

「ルーデル!? 現代最強の戦闘機乗り! 撃墜数も撃墜された数も世界一のあの!?」

「二十世紀の生きる伝説じゃん! 公式記録を書くだけでギャグみたいなページができるあのハンス・ルーデル! マジで!?」

 

 

 少しでもネットサーフィンを楽しんだ事があるならば、必ず触れる事があるはずだ。

 出撃回数約二五三〇回。撃墜車輌およそ一八〇〇輌。敵対したソ連にかけられた賞金の額、じつに七億円相当。

 戦場に出るために書類を偽装したとも、装填された弾丸の数より撃墜数の方が多かったとも、撃墜されて大怪我を追った次の週に病院を飛びだして空に繰り出していったとも、エトセトラエトセトラエトセトラ……。

 まさに現代が産んだ伝説。飛行機の発明以降、間違いなく最も名を馳せた、空の英雄の一人。それが、目の前にいるこの男。

 ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。ドイツ空軍大佐にして、第二次世界大戦最大級の英雄。

 

 

「ハッハッハ! そう褒めてくれるな少年(キント)お嬢さん(フロイライン)! 気恥ずかしさで右足から火が出てしまうとも!」

 

 

 好奇の視線をくすぐったそうに受け止め、ハンスは胸に煌めく数々の勲章を拳で示し、言う。

 

 

「かつての勲章は我が誇りだが、全て遠く離れた地球の話。今の俺は宇宙を股に掛ける蒼輝銀河最速の飛行機乗り、スペース☆ライダーだ!」

 

 

 もう一度、胸を張ってそう名乗り、ルーデルは立香の手をがしと力強く握る。

 

 

「わ、わ。ルーデルが俺の手を……!」

「XXの救援要請を受け、お前達を救援に来た! 立てるな少年、XXもお前も、ここで終えるようなつまらない航路じゃあるまい!」

 

 

 カラー写真さえ存在する、ほぼ同じ時代に産まれた英霊に手を取られる感触は、伝説の王に寄り添われるそれとまた別種の感動で、立香の胸を打ち震わせた。

 その好青年な笑顔を照りつける、カッ――と眩い閃光。

 視線を寄越せば、ダース・ソルが剣に紅蓮の熱を灯し、その切っ先をヴンと振った所だった。再び吹き出した熱に、モードレッドが苦しげに唸る。

 

 

「ッ野郎、本当に底なしかよ!」

「救援とは笑わせる。たかがライダー一人、壁のシミが一つ増える以外に意味など為さぬ。為させるものか」

「たかがライダーじゃない、スペース☆ライダーだ!」

「言ってる場合か!? おいマスター、こいつ大丈夫なのかよ!?」

「心配ないよ、伝説通りなら、スパルタクスよりは話が通じるから!」

「ちくしょう、馬鹿がマスターに伝染りやがった!」

 

 

 青ざめた顔でモードレッドが叫ぶ。プリドゥエンはあちこち焦げ付き、もう一度剣を受け止めれば両断される恐れさえあった。

 

 

「宇宙の父上が、あんなに呆気なく倒されてんだぞ。冗談みたいに強い相手に、どう立ち向かうっていうんだよ!」

「ハハハッ、そう興奮するなお嬢さん。汗で服が透けているぞ! 俺はどうとも思わんが、そこの少年の教育に悪い」

「えっ――あ、はぁぁぁぁぁ!? 何見てんだよこのスケベ野郎!? マスターも見んな、状況考えろヘンタイ! ばか、ばか! ばーーーーーか!」

「ちょ、サモさん! サモさんの言うとおりそんな状況じゃ――」

 

 

 ドウッ! と熱波がダース・ソルから噴き出し、モードレッドの水気と一緒に、浮ついた空気も纏めて吹き飛ばす。

 

 

「そんなに死にたければ結構。こちらとて、生かしていく理由は何もない」

 

 

 いよいよ殺す決意を固めたらしいダース・ソルが、紅蓮の剣を手に一歩一歩歩み寄る。

 

 

「貴様等の世界から遠く離れた蒼輝銀河で、無意味に巫山戯た空気のまま、無意味に散るがいい、カルデアよ」

 

 

 かつて出会ってきた異聞帯の支配者に匹敵する凄まじいプレッシャー。XXを圧倒したその力を前に、立香が息を飲む。

 その肩をがしっと力強く抱き寄せて、ルーデルがニィと白い歯を見せて笑った。

 

 

「無意味? いいや。意味ならあったよ、宇宙騎士。精一杯のおふざけのお陰で、お前が油断してくれた」

「――何」

 

 

 ダース・ソルは周囲を警戒し、そこでようやく、自らの失態を知る。

 カルデアに空いた穴から見える、カルデアに横付けされていた、ルーデルの宇宙船。それがいつの間にか方向を変え、真正面からダース・ソルを睨み付けていた。

 宇宙船の真下に取り付けられた長大な火砲の矛先は――真っ直ぐ、ダース・ソルに向けられている。

 

 

「やれ、ガーデルマン!」

 

 

 ルーデルが叫んだ瞬間、火砲が爆ぜ、大口径の砲弾がダース・ソルに直撃した。

 何度目か分からない衝撃がカルデアを震わせ、捲れ上がった壁面や天井がガラガラと崩れ落ちる。

 もうもうと立ち上る土埃――その中に、ポウと灯る紅蓮の光。

 火砲を受けて尚無傷のダース・ソルが、兜の下でチッと舌打ち。

 

 

「小癪な……!」

「そうだ。小癪なのは生き残る強さだよ!」

 

 

 不意に轟いた張り上げるような快活な声は、ダース・ソルのすぐ隣。

 振り向いたその瞬間、ルーデルの右膝が、ダース・ソルの脇腹に深々と突き刺さった。

 内蔵したロケットブースターを全力噴射した一撃は、ダース・ソルをカルデアに開いた横穴から弾き飛ばした。無重力に捕らわれた鎧騎士は、吹き飛ばされた勢いのまま、みるみる小さくなっていく。

 

 

「さあ、今のうちだ地球人諸君! 宇宙を駆ける俺の愛機、ミレニアムスツーカに乗れ!」

「サモさん、XXをお願い。おっきーは折り紙で皆を!」

「ああ、任せろ!」

「待て、あと二分くれ。アイデアを書き留める前に環境を変えたくな――むぐっ」

「言ってる場合じゃないでしょ、ほら行くよ!」

 

 

 モードレッドが気絶したXXを抱え、刑部姫が伸ばした折り紙の縄が、皆の腰に巻き付いて数珠つなぎにしていく。

 その折り紙の縄を握りしめ、ルーデルが右足のロケットを噴射。数秒の宇宙航行の後、ミレニアム・スツーカの格納庫に乗り移った。折り紙に繋がれていたルーデル以外の全員が、まとめて固い甲板に倒れ込む。

 

 

「ぐぇっ」

「寝ている暇は無いぞ諸君! すぐに脱出だ!」

 

 

 激を飛ばしたルーデルは、カンカンと大仰な靴音を鳴らして前方の操縦席へと向かう。

 ようよう顔を持ち上げた立香は、広がる景色に思わず感嘆の吐息を漏らした。配管があちこち伸びた、メタリカルな格納庫。壁一面には用途も計り知れない機器がはめ込まれ、色とりどりの光や数値を灯している。

 

 

「すごい。マアンナ号よりもっと大きい宇宙船だ……」

「待ってくれ、ええとルーデルだっけか!? 宇宙の父上の傷が酷い、まずは治療しねえと!」

「悪いが後だ、座席に座らせてベルトをキツく締めてくれ! 皆もだ、事態は一刻を争う!」

「なんでだよ? あの宇宙騎士は、お前が吹き飛ばしてくれたじゃないか」

 

 

 XXを抱えたモードレッドの質問に、ルーデルはニッと笑みを浮かべた。朗らかながら、こちらの意見は一切寄せ付けない、そういう戦士特有の笑みを。

 

 

「大人の言うことは聞く物だぞお嬢さん。あれでどうにかなるサーヴァントなら、銀河の危機なんて呼ばれはしないのさ」

 

 

 

 

 

 

 ルーデルが固い声で告げる、同じ頃。

 宇宙を吹き飛んでいたダース・ソルが、両手を発熱させて吹き出したジェットで、自身を宇宙に制止させた。

 強烈な力で飛ばされた事もあり、かなりの距離が空いていた。カルデアは小指の先よりも小さく見える。ブースターの光が動く軌道で、ルーデルが操るミレニアムスツーカが、離脱の為に船を動かしているのが分かった。

 

 

「……」

 

 

 ダース・ソルの鎧の内には、何の動揺も怒りもない。

 

 

「――起動せよ、オルトリアノヴァ」

 

 

 ただ彼は、ただそこにある星の如き泰然とした精神で、背後に煌々と輝く、最大最強の星の名を呼ぶ。

 

 

「殲滅せよ。蹂躙せよ。この蒼輝銀河を、我等がソルの栄光で満たすがいい」

 

 

 恒星が、僅かに揺らぐ。

 途方も無い光の中心に浮かんでいた少女。その目がうっすらと開く。

 琥珀のような美しい色をした瞳は、濁って何も映す事はない。

 XXオルタは冷然と、悠然と、ただただ淡々と《起動》する。

システムのように。ただそこに存在する神のように。

 

 

 

 

 

 

「――オルトリアクター、融壊」

 

 

 どくん、と。恒星が胎動する。

 光が揺らめき、満ち満ちたエネルギーが波を産み、うねり――次第に、中心へと向かう渦となる。

 恒星の熱が蠢く圧倒的な奔流は、既に逃亡を始めたミレニアムスツーカの船内でも、総毛立つほどに感じる事ができた。

 座席に座った状態で、背後で膨れあがっていくエネルギーを感じ、モードレッドの頬に冷や汗が伝う。

 

 

「おおおおおい、なんかやべえぞ、アイツ何をしようとしてやがる!?」

「た、たぶん、最初に俺達が喰らったレーザーをもう一回撃とうとしてるんじゃないかな……!」

「察しがいいな少年! どうやら宇宙騎士が《オルトリアノヴァ》を目覚めさせたらしい。ダース・ソルめ、想像通りの容赦ない早さだな! ハハハッ」

「笑ってる場合かぁーー!? 姫達の命、もうアンタの飛行機にかかってるのよ!?」

 

 

 シートベルトをしっかり締めた刑部姫の目は潤み、今にも泣き出しそうだ。恐怖に竦むのは立香も例外ではなく、引きつった顔でルーデルの背中に問う。

 

 

「逃げ切れる、ルーデルさん?」

「ルーデルで構わんよ、少年! 大船に乗ったつもりで任せたまえ。この程度の危機、ロシア戦線で嫌と言うほど味わい、乗り越えてきたとも!」

 

 

 勝ち気に頬を吊り上げ、狼のようにルーデルが笑う。彼の昂揚に呼応するように、エンジンがゴウと唸りを強め、立香達の腹の底を震わせる。

 

 

「ただ、必死で飛ぶから、君達への遠慮は一切しないぞ! 騎士団の敵船群を何とかかいくぐりながら、一八〇〇ノットまで加速、慣らし無しでの長距離跳躍を敢行だ!」

「ねえ、大丈夫? 不穏な言葉が散りばめられてるんだけど、姫達それで死んだりしない?」

「なあに、何度か内蔵がひっくり返るが死にはしないさ! エチケット袋はないから、こみ上げてきた物は頑張って呑み込むんだぞ!」

「やだ、やだぁ! 私もう降りる! 降ろして! ていうかもうカルデアに返してぇーーー!!」

 

 

 刑部姫の甲高い悲鳴が轟いたのと同時。前方に展開していた極星騎士団の宇宙船が、群れを為して襲いかかってきた。

 ミレニアム・スツーカが、速度を一切落とさないままに錐揉み回転。機体が擦れる程の紙一重で、宇宙船の群れをかいくぐっていく。

 ルーデルのそれは、歴史に名を残す伝説通りの、天才的な飛行だった。その軌道は風に舞う紙のように変幻自在で、敵の弾も敵機そのものも鮮やかに避けていく。

 その鮮やかさとは裏腹に、いや鮮やかだからこそ。宇宙船の内部は地獄絵図だった。

 

 

「いやぁーーー! 死ぬ、死んじゃうぅぅぅぅぅーー!」

 

 

 刑部姫の落とした涙が、あちこちの壁や天井に舞う。その隣に座るアンデルセンは、ある意味幸運な事に最初の一回転で卒倒し、白目を向いて沈黙している。

 ルーデルの飛行の腕は天才的だったが、それは同時に、人間が許容できる飛行を著しく逸脱する、殺人級にアクロバティックなものだった。

 上下左右の感覚はすぐになくなった。内蔵がぐっと浮き上がっては抑え付けられるジェットコースターのような感覚が、その何倍もの強さで、絶える事無くずっと襲いかかる。

 サーヴァントでさえ耐えられない程の強引な飛行。ルーデルは天才的な技巧の全てを発揮している。実際に今の状況はそうしなければ脱せない程の危機なのだ。

 

 

「ガーデルマン、ハイパーブースターの稼働は!?」

『報告――ブースター稼働率四〇%。長距離跳躍可能まで、あと二分』

「チッ、遅いか……いや、いける。やってみせるとも!」

 

 

 ミレニアムスツーカが銀河の無空を舞う。

 視界を埋め尽くす程の敵機の群れの中を、針穴に糸を通すような精密さで抜ける。進路を敵機に阻まれれば、火砲を炸裂させて、開いた風穴を火焔と共に抜ける。

 背後の恒星のエネルギーは、今や明確な指向性を持ってルーデル達を狙っていた。

 XXオルタの琥珀の瞳が見つめている。エネルギーが破壊の意志を宿し、一行に明確な"死"を意識させる。

 立香にできるのは、今はもう、祈るだけだ。

 

 

『稼働率六四%――長距離跳躍可能まで、あと一分』

「……!」

「っマスター……!」

 

 

 隣に座るモードレッドに名前を呼ばれる。

 互いに凄まじい航行に耐えるのに精一杯で、視線を向ける余裕もない。

 だから二人は、互いに差し出した手を握り、ぎゅっと指を絡ませた。

 眼前の目まぐるしく変化する光景を全て見届け、その先に希望が続くことを、信じるために。

 

 

『稼働率七六%――跳躍可能まで、あと八秒、七、六――』

 

 

 機械音声がカウントを始める。

 恒星のエネルギーの奔流が、ふっ――と止んだ。

 宇宙の全てが、一瞬息を飲む。

 エネルギーの中央で、XXオルタがすっと手を伸ばす。

 破壊をもたらす対象を指し示し。

 告げる。

 

 

 

 

「――『冥紅零滅(オブスキュラス・)光仞(カリバー)』」

 

 

 

 

 その一撃に、音は存在を許されなかった。

 銀河に揺蕩うどれよりも早く、どれよりも強い光芒が、宇宙を真っ二つに切り裂かんと言うように、無重力の暗黒を貫いた。

 軌道上にいた敵宇宙船は、立ちどころに蒸発して、宇宙の塵となって消え失せた。乗組員には、熱を感じる事も、己の死の感触すらも味わう事すらもできなかった。

 辛うじて蒸発を逃れた宇宙船群も、途方も無い熱によって発生した空間湾曲に巻き込まれ、互いに衝突し大爆発を引き起こす。

 遙か遠い数百光年先を公転していた無人惑星が、光線の直撃を受けて爆散した。紅く輝く宇宙空間に、吹き飛んだ惑星の破片が砂糖粒のように小さなシルエットを浮かび上がらせる。

 光線が収束した後、無数の星に煌めく宇宙の光景には、穴を開けたような暗黒がぽっかりと覗いていた。

 ズズ――ンという空間の唸りが収束し、やがて完全な静寂が宇宙を満たす。

 軌道の何もかもを破壊した光線を見届けた後。宇宙空間を浮遊していたダース・ソルは、ヘルメットに手を触れて通信を軌道させる。

 

 

「全騎士に告げる。我の回収の後、被害を報告……しかる後に、捜索隊を編成」

 

 

 紅い光を漏らす兜の奥の視線は、何もかもが消滅した宇宙の穴の先、どこか遠い別の宇宙に向けられている。

 

 

「これよりXXおよびカルデアの排除を、全銀河騎士の最優先事項に命ずる。奴は蒼輝銀河で唯一、我等がソルの黒点になり得る存在だ。必ず見つけ出し、殺すのだ」

 

 

 冷徹な声で、そう告げる。

 煌々と輝き続ける紅蓮の恒星。その中心に佇む少女は、自分が滅却した宇宙の空洞をしばらく見つめていたが、結局その死人のような表情に何の感情も映さないまま、琥珀の瞳をそっと閉じて、眠るようにエネルギーの中に揺蕩い続けるのだった。

 

 

 

 

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