幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
新しい年度はやはり多忙になるモノですね。
新社会人や新しい学校へ進学した人達は頑張ってください。
どうも、聖戦も終わって普通の子供に戻った筈の幼女です。
私、気が付くと何処かも分からない島にいます。
『虫干し代わりにハロと3ちゃんでドライブに行こう!』とミウと一緒に格納庫を出た筈なのに、どうしてこうなった?
『今のは次元振動だね。突発的過ぎて対応できなかった。ごめんね、ミーちゃん』
そう謝るひーちゃんに私は気にしない様に首を横に振る。
突然の事故なら仕方がないもんね。
「……ひーちゃん。ミウ、どこ?」
それよりも今は姿が見えない妹と3ちゃんの方が心配だ。
『MarkⅢの反応は感知しているんだけど、なんか安定しないんだよね。もしかしたら次元振でコッチに転送されている途中なのかもしれない』
どうやらミウに関しては少し待たないといけないらしい。
「……たすけにいけるようになったら、おしえて」
『OK……! ミーちゃん、こっちに接近する機体があるよ!! 数は4!』
ひーちゃんの警告に私は相手の意図を探るべく意識を集中する。
コックピット周りのサイコフレームが放つ色は緑。
まだ私達が敵意を持っていないという証明だ。
そうして感じ取ったのは与えられた命令に従うだけの無機質な意志。
今まで出会った多くの無人機達が持っているものだ。
「……こっちにくるこたち、ひとのってない」
『うん、私も感知した。生命反応無しなうえにAIの演算データが少し漏れてる。無人機に間違いないね』
私達が確認し合っていると件の機体が姿を現した。
メタルシルバーに黄色いバイザーのような眼、そして体の方は足はあるけど手は無くて、背中にニョキっとトサカみたいなものが生えてる。
『データベースに照会したけど該当するものはないね。完全に未知の機体だ』
「……あのこたち、ミユをねらってる」
捕獲? ううん、違う。
異物として私達を排除したいんだ。
『だったらパパ―ッと片付けちゃおう! もちろん油断は無しでね!!』
「……ん。ダインスレイヴ、はっしゃ」
ミーちゃんの言葉にうなずいた私は背中のカッチンを通してハロへ指事を出す。
それによって一瞬でマルチロック機能を立ち上げたハロは、展開した装甲の隙間にある砲門からレアアロイ・超合金Z複合材で造られた鉄杭を超音速で吐き出した。
四方に放たれたそれは同時に未確認機を貫くと、間を置かずに出撃させていたハロビットがダメ押しとばかりにメガ粒子砲でハチの巣にする。
これを四機同時に行ったのだ。
幼女的には高等技術っぽいと自画自賛しているのだけど、どうかな?
もちろん、未知の機体と言ってもここまでされれば壊れるのは当然。
彼等は自分が生み出した爆炎の中へと消えていった。
さて、急な襲撃で中断してしまったけど私達は絶賛迷子中である。
これから先はどうしたものか……。
『ミーちゃん、またこっちに近づいてくる奴等がいるよ。この反応……かなり大きな船だ。全長2021mある』
「……おお」
大きさが二キロもある戦艦って、ヱクセリオンかな?
それにこの感じ、甲児お兄さんによく似ている。
けど、神様というかマジンガーがいないのはなんでだろう?
そうして考えていると、私達の前に蒼を基調にした大きな船が現れた。
あれと戦う事になったら陰蜂を呼ばないといけないかも。
『えっと……あれってペットロボのハロ? でも黒いし目つきも悪い』
『それ以前にあんな巨大なモノなんてないだろう』
『おそらく、あの機体もDBDで転移してきたのでしょう。クエスターズの機体反応が消えたのも、あれが撃墜したものと思われます』
『どうしますか、艦長?』
『もちろん保護します。国際共通チャンネルであの機体に通信を!』
ニュータイプ的な直感からすると、むこうに敵意が無いようだ。
けれど、あの艦の乗組員が善人かどうかまでは分からない。
ここはリシュウおじいちゃんが言っていた『ざんしん』な感じで気を付けるべきだね!
そう気を引き締めていると、通信モニターに相手の姿が映し出された。
『そちらのパイロット、聞こえますか? こちらはドライクロイツのミツバ・グレイヴァレー特務中佐です』
それは高校生くらいの金髪の美人なお姉さんでした。
そんな年で中佐とは、あの人もテッサお姉さんのようなエリートなんだろうか?
「……ミユ。はじめまして」
もちろん、名乗られたのに無視するほど幼女は礼儀知らずじゃない。
モニターに向かってペコリと頭を下げると、ミツバお姉さんは唖然とした顔になった。
『こ…子供?』
『あれをあんな小さな子が動かしているのか』
『あの子、勇太君より小さいですよ? そんなことできるんですか?』
そんなミツバお姉さんの横では、眼鏡を掛けたお兄さんと赤い髪が特徴のオペレーターなお姉さんがポカンと口を開けている。
『えっと、ミユちゃん』
「……なに?」
『お父さんかお母さんは一緒に乗ってない?』
困った顔のミツバお姉さんの言葉に私は首を横に振る。
「……ハロにのってるの、ミユとひーちゃん」
『ミーちゃんのパートナーの陽蜂だよ。ところで貴方達って敵なの? 味方なの?』
ハロ・ビーを持ち上げてひーちゃんと一緒に映ると、ミツバお姉さんは少し納得したような顔になった。
『どうやらあのペットロボが管制AIとして、あの機体を動かしているようですね』
『ええ。ミユちゃん、私達は貴方の敵じゃないわ』
「……ん」
敵意がないからそれは分かる。
『あのね。たぶん、ミユちゃんは今まで住んでいた世界とは違う場所に来たんだと思うの。私達は地球連邦軍っていうこの世界の兵隊さんでね、元の世界に帰れるまでミユちゃんをお世話させてほしいんだ』
……つまり、私を保護するって事でいいのだろうか?
『それって私達にどんなメリットがあるの? アンタ達が私達をいい様に利用しない保証だってないよね?』
私を心配してか、ひーちゃんは結構強い口調でミツバお姉さんの案に反論する。
「……ひーちゃん、いい」
『ミーちゃん?』
「……あのおふね、Z-BLUEといっしょ」
うん、私の直感が言っているのだ。
元の世界に帰る為にはあそこにいるのが一番いいと。
『ミーちゃんがそう感じたのなら大丈夫か』
『あの…どうかしら?』
「……おせわになります」
少し戸惑い気味のミツバお姉さんに、私はペコリと頭を下げた。
あ、ミウを探すのも言っとかないと。
◆
それから私は巨大戦艦ドライストレーガーを中心にした地球救済部隊『ドライクロイツ』でお世話になることになった。
「……こうじおにいさん、おとな。べんけいおじちゃんも、はやとおじちゃんもわかい」
「まぁ、ミユくらいの子供にはおじちゃんと呼ばれても仕方ないか。なあ、隼人」
「ふん……」
「いや、確かに俺は大人なんだけど、改めて言われるとこそばゆいな」
この世界の甲児お兄さんは30前の大人で、弁慶おじさんや隼人さんも向こうの世界よりかなり若かった。
隼人さんなんて顔に傷がなかったから違和感がすごい。
竜馬さん?
竜馬さんは何というか、相変わらずって感じ。
あと、マジンガーはいたけど神様はこっちに来ないんだって。
グレートやイチナナ式とかがいるから、あんまりいたくないみたい。
◆
「俺を呼んでいたのは君か」
「……ん? たぶん」
シャイアンって基地に行った時、この世界のアムロ大尉と会った。
なんでもここはシャアがアクシズ墜としをしようとしたらしくて、それを止めたアムロ大尉は今まで行方不明だったんだって。
それにゲッターチームや甲児お兄さんと昔からずっと戦ってきたって聞いた時はびっくりした。
むこうだと竜馬さん達はともかく、アムロ大尉ってパイロットたちの先輩格って感じだったもん。
ちなみにアムロ大尉は初代ガンダムに乗って基地から出てきたんだけど、バズーカを投げつけるとか当たったら残弾をビームライフルで起爆させるとか。
鬼畜テンパ流は相変わらずの冴え──
「鬼畜テンパってなんだい?」
「……しらない」
やめろ! その暗黒微笑を向けるのはやめろぉっ!!
◆
見知った人もいっぱいいたけど、初めて会う人もいっぱいいた。
「このハロっていうロボもなかなかの造形美ですね! 動力は? あのビットはどうやって動いてるんですか? 君のような子供が動かせるという事は、操縦方法は思考制御だったり???」
「……あぅあぅあぅ」
「エル! ちょっと落ち着け!!」
「エル君! ミユちゃん困ってるよ!!」
ファンタジー的な世界からこんにちわした人もいっぱいいて、その中でもエルネスティお兄さんはハロに興味津々。
初めて会った時はこんな感じで凄い喰いつきようだった。
異世界の人達は他にも魔法騎士って3人のお姉さんもいたんだけど、私は印象に残っていたのはアスカおねーさま(近い年だからアスカちゃんって呼んだら怒られた)っていうお姫様だ。
お側役のサンユンってお兄さんをモデルにしたデッカい絵みたいなものを呼び出せるんだけど、初めて見た時にはびっくりしたなぁ。
「よし! 妾と一緒に巨大サンユンを操るのじゃ、ミユ!!」
「……ん」
とある理由で戦場に出られなかった私は、アスカおねーさまと一緒に巨大サンユンを動かす事になった。
「放て! 怪っ光っ線!!」
アスカおねーさまの号令で巨大サンユンは口からビームを吐いて、襲いかかってくる機械獣の一団を吹き飛ばす。
ふむふむ、なるほど。
こんな感じかぁ。
ちなみにこの巨大サンユン、アスカおねーさまの術で出してるんだけど魔法だったら私も負けていない。
これでも魔法幼女だったのだ。
「……サンユン、デッドエンドフィンガー」
「なにぃ!? あんな技が出せるとは!! 妾も負けてはおれん! サンユン! 烈火太陽脚じゃ!!」
「……サンユン、ン・カイのやみ」
「やるではないか、ミユよ! サンユン! 翻車爆裂拳を放てぃ!!」
「……サンユン、ハイパーボリア・ゼロドライブ」
「え…エメロード、あれはよいのか? アスカ姫の呼び出した式神がエラい事になってるんだが……」
「いいんじゃないでしょうか、面白いですし」
私達の指示に従って艦の外で巨大サンユンは大暴れしている。
巨大サンユンのモデルであるサンユンお兄さんは、『あわわ……あんなのマネできません』とショックを受けているみたい。
他にも私達と一緒にドライストレーガーの艦橋で見ていたザガートさんは焦ってるし、エメロード姫はニコニコと笑っている。
この二人を助ける時はけっこうはっちゃけたのだ。
陰蜂出してザガートさんの魔神を一瞬でダルマにしたり、256匹の緋蜂とハシュマル君大行進で『柱』の真実を異世界全体に広めたり。
あのままだったら、私とひーちゃんはセフィーロを滅ぼす魔王になるところだったよ。
まぁ、ニュータイプパワーで知った『柱』やマジックナイトの真実にムカ付いたからやったんだけどね。
エメロード姫だって人間なんだから好きな人ができるのは当然だし、ザガートさんが恋人を護るためにエメロード姫を攫うのも納得がいく。
だいたい世界を一人の人間に背負わせて、生涯安寧を祈れっていうのが無茶なんだよ。
そんなの長年やってたら頭おかしくなるわ。
というか、マジックナイトの使命とか強要したら光お姉さんたちトラウマになるから!!
相当お節介だし無茶だったけど、役目から解放された二人がこうして笑ってるのを見たらやった甲斐があったと思う。
危うくドライクロイツと戦う事になりかけたけどね!!
回想という名の現実逃避はこの辺にしよう。
私達の操っていた巨大サンユンなんだけどさ、明らかにヤバい雰囲気なんだよね。
ほら今もスクラップになった機械獣の中心で暗黒オーラを纏って『ウッキョォォォォォォォッ!!』って勝利の雄たけびを上げてるしさ。
あれってZ-BLUEの映像記録で見た暴走した時のエヴァ初号機みたい。
やっぱり大導師直伝の魔法が悪かったのかなぁ……。
◆
ツツジ台って街に来たときには怪獣さんに会う事ができた。
その怪獣さんは小学生くらいの歳で、自動販売機の底に落ちた小銭を拾って生活しているんだって。
女の子なのに結構匂うなぁって思ってたけど、怪獣ならそれが普通なのかもだよ。
怪獣と出会って怖くなかったかって?
聖戦の時に怪獣は見た事があるからね。
だから彼女がおっきくなってもあんまり驚かなかったんだ。
「あれ、びっくりしないね」
そんな私の反応に、むしろ怪獣さんの方がちょっと驚いてたっけ。
「……ミユ、かいじゅうさん、あったことある」
「へぇ、どんなの?」
「……おっきくて、つよい。ちきゅうのみかた」
「そっか、地球のミカタか。うぇっへっへっへ」
私の答えを聞いて怪獣さんは嬉しそうに笑いながら、路地裏の方へと去って行った。
どうして喜んだのかは分からないけど、笑顔がかわいかったのでよしとしよう。
そのあと、ドライストレーガーに乗ってるのを見た時は驚いた。
なんでもグリッドマンに一族の借りを返すから、お手伝いをするんだってさ。
船の中でも、たまに自販機でジュースをご馳走してくれる優しい怪獣さんだったよ。
◆
ドライクロイツに保護されて結構経つのだけど、ずっと気になっている事が一つある。
それはシャアが部隊から孤立しているんだよね。
サングラスを掛けて髪の毛も降ろしているから見た目はかなり違うけど、あれはシャアで間違いない。
聞けばこの世界のシャアは本当に地球へアクシズを落とそうとして、アムロ大尉にそれを止められたそうな。
本人から漂う思念も後悔とか自己嫌悪とか生き恥とか、なんというかネガティブなモノばかり。
私からしてみるとハマーンさんやナナイさんに囲われながらも何気に幸せなシャアを知ってるから、人生を半ば捨て鉢になっている彼を見るのは少し辛い。
他の次元の同一人物と比べるのは多元世界のマナー違反だとは重々承知している。
それでも放っておけないのだ。
「……シャア」
「君は……」
という訳で、私は今日も今日とて格納庫で黄昏ているシャアへ声を掛けてみた。
本人も子供に受けるガラじゃないと思っているのか、少し驚いているみたい。
「───私はクワトロ・バジーナだよ。シャア・アズナブルはこの世界に必要ない」
皮肉げに笑いながら私に言葉を返すシャア。
口元に浮かぶ笑みも未だに生き恥を晒している自分を嘲笑うものだろう。
「……シャア、かがんで」
けど、そんな偽悪的な態度は幼女に通用しないのだ。
「ふむ、なにかな?」
ほら、子供の言う事なのにちゃんと聞いてくれるもん。
そうして私に目線が合うくらいに屈んだシャア。
私は床が少し高くなっている段差を上がると、彼の頭をギュッと抱きかかえた。
「なにをっ」
「……おつかれさま。がんばったね」
そう言いながら癖のある金髪を小さな手で透きながら撫でる。
シャアのやったことは許される事じゃないのは私も重々承知だ。
未遂な上に別目的だけど、アクシズ墜としだって間近で見ていたんだから。
けどさ、シャアだって地球や人間が憎くてやったことじゃないんだ。
こうして頭を抱えているとわかる。
彼は人類の可能性を広げようと必死だった。
変わろうとしない地球の人達に失望しそうだったけど、ララァさんやアムロ大尉、カミーユさんってニュータイプとしての理想像を知ってるから嫌いになれなかった。
だから、大量殺戮と地球汚染っていう悪名を背負ってでも人類を新たなステージへ上げようとした。
悪い事をしたからといって、シャアが持つ人類を想う気持ちまで否定するのは違うと思う。
褒める事は無くても、その思いに労ってあげても罰は当たらないじゃないだろうか。
「……シャア、いいこ、いいこ」
そんな気持ちを込めてギュッとしていると、シャアはサングラスを取って私の背におずおずと手を回してきた。
「……っ」
押し殺した声と共にお腹の辺りが少し濡れているけど、その辺はあえて気にしないのがイイ女だってミヅキお姉さんが言ってた。
しかしここで予期しない事が起こってしまった。
どんな心境かは分からないけど、シャアがこっちに体重を掛けてきたのだ。
悲しい事に私はちんまい幼女である。
もたれ掛かる大人の人を支えるのは無理ゲーだ。
「うにゅっ!?」
そんな訳で私は背中から床に倒れてしまったのだが、感極まっているシャアはその事に気付かない。
そして、今の私の声は格納庫の中にけっこう響いてしまった。
なので、作業をしていた整備の人達なんかの視線をこちらが奪ってしまっている。
だからこそ、なのだろう。
私が予期していなかった悲しい結末が待っていたのは。
『ホールドアップ! ブレイブポリス、デッカードだ!』
ごめんよ、シャア。
◆
こうしてドライクロイツに馴染んだ私は今日も今日とて幼女なりに異世界の地球を平和にすべく奮闘しているのだ。
とはいえ、何時までものんびりとはしていられない。
ミウを助けないとだし、にぃにも心配しているからだ。
さて、黒幕は誰なのか知らないけど、さっさと倒してお家へ帰るとしよう!