幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 筆が乗ってしまった。

 剣キチ方面も順当に進んだけど、まさかこっちが先に完成するとは予想外でした。

 スパロボもスマホの方に力を入れているみたいだけど、もう一回コンシューマーで出てほしいモノです。

 個人的にはテレビアニメ版のマジンガーとゲッターが出ると嬉しい。


幼女、家族と名前を得る

 皆さん、こんにちわ。

 

 クマさんと一緒にザフトという軍に降参した名無しの幼女です。

 

 くまパワーは凄いみたいだけど、中身は一般人の幼女だから仕方ないね。

 

 ルナマリアというお姉さんに連れて行かれたのは、なんと宇宙に浮かぶ砂時計のような建物でした。

 

「すごい……」

 

『でしょう? あれが私達の故郷、プラントよ』

 

 ぷらんと? 工場?

 

 もしかしてルナマリアさんはアンドロイドか何かなんだろうか?

 

 そんな事を考えながら砂時計の底の部分にあるゲートの扉を潜ると、中には格納庫みたいな場所が広がっていた。

 

『気密チェック……ヨシっと。お待たせ、降りてもいいわよ』

 

 降りてもいいと言われましても私はクマさんの降り方がわからない。 

 

 なにか手掛かりは無いかと周りを見渡せば、目に入ったのは右側にある『おりる』と書かれたボタン。

 

 押してみるとシートが後ろにスライドして現れたのはなんとすべり台。

 

 さすがはクマさん、幼女への気配りは完ぺきである。

 

 唯一身元が証明できる物である例の書類を手に滑ってみると、クマさんのお腹から伸びたレーンを辿って無事に地面に降りる事が出来た。

 

 こうして改めて見るとクマさんは相当に大きい。

 

 だいたいビル一つ分くらいはあるんじゃなかろうか。

 

 まったくよくこんなのを動かしていたモノだ。

 

「ちゃんと息は出来るからヘルメットは外していいわよ」

 

 声の方へ目を向けると赤紫色の髪の美人さんな女の子が笑顔を浮かべていた。

 

 この人がルナマリアさんかぁ、顔面偏差値が高いッスね。

 

 それはさて置きヘルメットを脱いでいいのはありがたい。

 

 さっきの戦闘でだいぶ嫌な汗を掻いたので一度顔を拭いたかったのだ。

 

 そんなワケで四苦八苦しながらどうにかクマさんフードとヘルメットを脱いだのだが、ヘルメットの重みでクマさんパジャマもストンと足元までずり落ちてしまった。

 

「ひゃああああああっ!?」

 

 脱ぎ方を間違えたかな? と首を傾げていると何故か悲鳴を上げるルナマリアさん。

 

「な……なんで中に何も着てないの!?」 

 

 周囲から隠すように私を抱きしめるルナマリアさんの言葉に、パジャマの中はスッポンポンだったことを思い出す。

 

 うん、さっきまでの濃すぎる経験の所為で忘れてたわ。

 

「ふく、これしかない……」

 

 幼女ボディの省略言語でもこれなら理解してくれるだろう。

 

 というか精神が肉体に引っ張られる現象ってフィクションでよくあるけど、あれって本当なんだねぇ。

 

 周囲を行き交う人達に裸を見られたのに全然恥ずかしくないや。

 

 ブツブツ言いながらルナマリアさんがクマさんパジャマを着せ直してくれていると、あの人相の悪いガンダムが帰って来た。

 

「シンも帰って来たから、ついてきてくれる?」

 

 ルナマリアさんの言葉にうなずくと手を繋いでガンダムの方へ向かう。

 

 フェイスとかいう特別っぽい役職に就いているらしいのでどんなマッチョマンかと思いきや、出てきたのは16歳くらいのこれまたイケメンのお兄さんだった。

 

 このザフトってところは就業年齢が低いように見えるんだけど、怪しい傭兵団みたいな組織じゃないよね?

 

「ルナ、もしかしてこの子が?」

 

「うん、あのクマのパイロットよ」

 

 シンという青年はこっちを見るとえらく驚いていた。

 

 まあロボットのパイロットがこんな子供だったら、誰だって驚くだろうさ。

 

 ぶっちゃけ私自身もいまだに信じられないし。  

 

「俺はシン、シン・アスカだ。君はなんて名前かな?」

 

 しゃがんで私に目線を合わせてくれるシンさん。

 

 そういう気遣いを普通にやれる辺り、見た目の若さ以上に出来た人物なのだろう。

 

「……なまえ、ない」

 

 自己紹介してもらって恐縮なのだが、私も幼女も名乗るべき名前が無いのだ。

 

「名前が無いって、じゃあ君はいったい……」

 

「ん……」

 

 戸惑うシンさんに私は手にしていた身上書を渡すことにした。

 

 幼女の口数では事情を説明するのはハードルが高すぎるので、これを見てもらった方が話が早いだろう。

 

 正直クローン云々は隠しておきたかったけど、クマさんを調べられたらこれが見つかるのも時間の問題だ。

 

 それに私の直感がこの人なら大丈夫と言っているのだ。

 

 あの時だってサクモドキのビームから守ってくれたし、今回もいい目を引いてくれるさ。

 

 私の書類をペラペラとめくっていたシンさんだったが、何故かページが進むにつれて全身から赤いオーラが立ち上っているのが見えた。

 

 …………あれ、もしかして勘が外れたかな?

 

 妙に緊迫した空気の中、最後のページを読み終えると───

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 格納庫じゅうに響き渡るような怒号と共にシンさんは私の身上書を床に叩きつけた。

 

 突然の事に私は勿論、ルナマリアさんも動けない。

 

 なにこれ!

 

 プレッシャーというか威圧みたいなのが身体じゅうに巻き付いて、もの凄く怖いんですけど!? 

 

「お前っ! マユの……俺の妹のクローンなのか!?」

 

 ガッシリと私の両肩を掴んで詰め寄ってくるシンさん。

 

 もの凄い握力で引っ張られて私宙ぶらりんなんですけど!

 

 あと目が据わってる上に瞳のハイライトが消えてて滅茶苦茶ブキミ!

 

 なにより掴まれてる部分の肉がとにかく痛いッ!!

 

 最初は止めようとしてくれていたルナマリアさんも私がクローンと分かったからか、何故か一歩退いている。

 

 というかこの人、オリジナルの兄貴なの!?

 

 『まさか…ねぇ』の方を的中させるとか、仕事の仕方間違ってるよ私の直感!!

 

 痛みと焦りと恐怖で頭がパニックになっていると、目の辺りが熱くなって鼻がツーンとしてくる。

 

 なんとも久方ぶりのこの感覚……ヤバい、もう耐えられない。

 

「うぇあぁあああああぁああああああああああぁぁぁぁ……」

 

 涙腺の決壊と同時に身も蓋もない泣き声が私の喉から迸った。

 

 10歳以上も年上の男に詰められたら6歳の女の子だったら泣くに決まっている。

 

 でもって止めようと思っても止まりません。

 

 声を出し過ぎてむせます、鼻水もよだれも出てます。

 

 顔が大惨事です。

 

 さすがにこんな状態の女の子に手は上げられなかったのだろう、シンさんは私を降ろすとそそくさと去って行ってしまった。

 

 ただ、踵を返す瞬間にあの人の目から涙が出ていたのが見えた。

 

 幼女ボディは未だにギャン泣き中だけど、逆に私の方は冷静さを取り戻せていた。

 

「ごめんね、貴女は何も悪くないのに。でもね、シンも妹さんを亡くしてるから……」

 

 床に落ちた身上書を拾い上げたルナマリアさんが、私の頭を撫でながらあやしてくれる。

 

 なるほど、だったらああいう態度になるのも納得だ。

 

 亡くなった妹の複製品なんて出てきたら、そりゃあ誰だって怒るに決まってる。  

 

 こうなるのは予測できたから、私はオリジナルやその縁者には会いたくなかったのになぁ。

 

 とはいえ、会ってしまったからには仕方がない。

 

 直感頼りでいきなり身上書を渡した私にも非は十分にある。

 

 ここはケジメを付けるべきだろう。

 

「グスッ…グスッ……しん…どこ?」

 

 なんとか泣き止んだ私はルナマリアさんに声を掛ける。

 

「シンは多分部屋にいると思うけど、会いたいの?」

 

「……ごめんなさい、する」 

 

 その答えを聞いたルナマリアさんは少し考えたあとで私を抱き上げてくれた。

 

「わかったわ、私も一緒に行ったげる」

 

 そう言うと彼女は私を片手にしっかりとした足取りで基地内を進み始めた。

 

 ふと疑問に思ったのだが、ここでの私の立場は一体どんなものなのだろうか?

 

 捕虜とか妙な容疑が掛かっている場合、勝手に連れ歩くのは拙いと思うんだけど……

 

 内心で冷や汗をかいていると、ルナマリアさんは鉄の扉が閉ざされた一室の前で足を止めた。

 

「シン、いるの? 用があるから入るわよ」

 

 中から答えが返ってくる前に壁に付けられたテンキーを弄って扉を開けてしまうルナマリアさん。

 

 さすがは彼女さん、つよい。

 

 扉は開いて廊下の照明が差し込むと、真っ暗だった部屋の様子がうっすらと浮かび上がってくる。

 

 件のシンさんはベッドに腰掛けてピンクの携帯を弄っていた。

 

「ここからは貴女の出番よ、がんばって」

 

 ルナマリアさんに降ろされた私は負のオーラがガンガン出ているシンさんに思わず固唾を呑んでしまう。 

 

 ケジメを付けると言ったものの、どういう風に謝罪したらいいのだろう?

 

 一番無難なラインは『生み出されたのは私に責任はありませんが、こちらの浅慮で貴方を不快にした事をお詫び申し上げます』といった感じか。

 

 ……問題はこの長文が幼女変換でどうなるかという事だ。

 

 ぶっちゃけ嫌な予感しかしないが、賽が投げられた以上は後退という文字は無い。

 

 ええい、ままよ!

 

 意を決した私は部屋の中に一歩踏み込むと、こちらを射貫く濁った赤い目を見ながら想いきり頭を下げた。

 

「…………うまれてきてごめんなさい」

 

 ────やってもうた。

 

 この大一番でまさかの誤変換である。

 

 意味的には大きく間違っては無いんだけど、言葉のインパクトがシャレになってない。

 

 六歳の女の子にこんなこと言われたら罪悪感で自殺する自信あるわ、私。 

 

 あまりのやらかしっぷりに怖くて頭が上げられないでいると、何かに包まれる感触があった。

 

 何事かと顔を上げてみれば、号泣したシンさんが私を力強く抱きしめているじゃないか。

 

「ゴメン…ゴメンよ……君は何も悪くないのに、全部俺の八つ当たりなのに、あんな事を言わせてしまって……」

 

 おいおいと泣くシンさんには唖然としてしまったが、よしよしと頭を撫でておいた。

 

 男が泣くほど後悔したというのなら私から言う言葉は無い。

 

 誰が悪いでもないんだし、お互い水に流そうじゃないか。

 

 

 

 

 暗い部屋の中でシン・アスカは妹の形見である携帯を見ながら自らの罪悪感を噛み潰していた。

 

 あの報告書に目を通した時、シンの中にあったのはただただ怒りだけだった。

 

 旧オーブの首長の中には連合の上層部と繋がっている者がいて、奴等は自分の若さと延命の為に禁じられたクローンの研究を推し進めていたのだ。

 

 それも秘密裏に自国民を実験の素材にしてだ。

 

 知らぬ間に妹の尊厳を踏みにじられていた事、そして親友と同じ悲しい運命を持つ人間が生み出された事実にシンは怒髪天を衝いた。

 

 そして制御できない怒りはそれを伝えた幼い娘に向いてしまった。

 

 あの時見た顔をクシャクシャにして泣く様子が記憶の中にある妹と重なって、さらに自己嫌悪が募ってしまう。

 

「マユ、俺はどうしたらいい?」

 

 答えの返ってこない問いを携帯に投げかけていると、ルナマリアの一方的な宣言と共に自室の扉が開いた。

 

 何事かと目を向ければ、そこには先ほど傷つけてしまった女の子の姿が。

 

 こちらに言いたい事があるのなら、文句でも恨み言でも受け止めようと覚悟を決めるシン。

 

 しかし少女の口から出たのは思いもよらない一言だった。

 

「…………うまれてきてごめんなさい」

 

 深々と頭を下げた彼女の言葉を理解した時、シンは涙を堪えられなかった。

  

 ああ……自分はなんて残酷な事を彼女にしてしまったのだろう。

 

 あの時にぶつけてしまった八つ当たりは、生まれた事が罪だと思わせる程に彼女を傷つけてしまったのか。

 

 頭を上げようとしない少女の姿に耐えられなくなったシンは、その小さな体を抱きしめた。

 

「ゴメン…ゴメンよ……君は何も悪くないのに、全部俺の八つ当たりなのに、あんな事を言わせてしまって……」

 

 こんなに泣くのはいつ以来だろうか……

 

 大の男が情けないと思っていても止まらない涙、その中で自分の頭を懸命に撫でる小さな手の感触にシンは誓った。

 

 名前すら持たないこの子を守ろうと。

 

 マユの身代わりなどではなく、この子自身を守っていこうと。

 

 それがきっと自分に出来るこの子への贖罪だから。

 

 

 

 

 あの涙の謝罪のあとに行われた話し合いの結果、私とクマさんは『次元漂流者』という扱いに落ち着いた。

 

 なんでもこの世界は多くの並行世界や異世界が寄り集まって出来ているそうで、たまに私のような異なる次元から流れ着く人や物があるそうだ。

 

 私はともかくクマさんの方は本気で出所不明なので、そういう区分でいいと思う。

 

 またクマさんを軍に取られるという懸念もあったのだが、それは杞憂と終わった。

    

 聞けばあのクマさん、ブラックボックスの塊なんだそうな。

 

 加えて、あの見た目にコクピットは六歳児仕様、さらには生態認証されてるらしく私以外には起動すらさせられないときた。

 

 解体して調べようにも装甲も異様に頑丈でプラントの工具では歯が立たなかったらしく、仕方が無いので私に返却する事になったのだとか。

 

 文句を言える立場じゃないのは理解しているけど、解体するなら断りの一つでも言うべきではないだろうか……

 

 それとあの出来事からシンさんがよく構ってくれるようになった。

 

 私の保護者役に立候補したらしく軍の人に質問された時も一緒にいてくれたし、クマさんが解体されかかったと聞いた時も私より怒ってくれた。

 

 『お兄ちゃんって呼んでいいぞ』って言ってきたので『そんな事したらマユさんに失礼』と釘を刺すと、『分かってるよ、マユはマユだし君は君だ。でも血縁上は君が俺の妹なのは事実だろ』と返って来た。

 

 言われてみればその通りなので、お言葉に甘えて『シン兄』と呼ぶことにした。

 

 そんなこんなであっという間に3日が経ち、こちらの処遇が決まったという事で私はプラント議長から通達を受ける事になった。

 

「始めまして、私はプラントで議長を務めるラクス・クラインです」

 

 なんとプラントという国の最高権力者は18歳の女の子でした。

 

 マジかー……

 

「……なまえ、ない」

 

 プラントに来て何度目かのナナシ宣言をする私。

 

 そろそろ名前がない事も不便になって来たなぁ……

 

「貴女の事に関してですが領宙侵犯は事故であり、また機動兵器を所有しているものの年齢を考慮すればプラントへの害意は無いと判断します」

 

 この世界の知識ゼロだったんだから害意なんて持ちようがないんだけどね。

 

 まあ、理解してくれてなによりです。

 

「ですので今日の12時を以て無罪放免、プラントからの退去を命じます」

 

 無罪になったのは実にめでたい。

 

 しかし、これからどうしたものか。

 

 私ってば行く当てがないんだよねぇ……

 

「クライン議長。俺がこの子の保護者になるんでプラントの市民権を何とかできませんか?」

 

 そんな事を考えているとシン兄がエラい事を言いだした。

 

 この国は一部の例外を除いて、コーディネーターという遺伝子改良人類しか住めないようになっているらしい。

 

 その例外だって第一世代コーディネーターの親世代であるお爺さん達だけだ。

 

 オリジナルはコーディネーターだったらしいけど、私の方はクローンである弊害か遺伝子的にそういった要素が抜け落ちているらしい。

 

 そういうワケで、私を特別扱いするのは無理があるのだ。

 

「私も彼女を放り出すのは気が咎めます。ですが二度の戦争によってプラント内にナチュラルへ敵意を持つ者が一定数いるのは事実。次元世界が政情不安定な中では貴方も軍務で家を空ける事が多いでしょうし、その間になにかあったら……」

 

 議長の返答に苦虫を噛み潰すシン兄。

 

 彼の言葉は嬉しいけど無理を通して負担になるのは勘弁だ。

 

 シン兄を安心させられる事は何かないだろうか?

 

 クマさんは私の操縦がへっぽこなので逆に心配させそうだし……そうだ、アレがあった!

 

「しんにい、だいじょうぶ。わたし、にゅーたいぷだから」

 

 どんな能力かはわからないけど、私はニュータイプという能力者なのだ。

 

 しかもその力は最高クラス、クマさんのお墨付きなので間違いないと思われる。

 

 だから心配するなと胸を張ったのだが、こちらの意に反してシン兄はさっきよりもしかめっ面になっていた。

 

 あれ、なんで?

 

「議長、この子をこのまま放りだすなんてできませんよ! フォウ・ムラサメやステラの事を忘れていないでしょう!!」

 

「もちろんです。現在ネオ・ジオンを率いているハマーン・カーンもニュータイプ能力に覚醒したモノや強化人間を引き入れているといいます」 

 

 状況が悪化しただと、何故だ!?

 

 なんということだろう、こうなってはこちらに打てる手立ては無い。

 

 あきらめと共に天井を仰いでいるとラクス議長から思わぬ提案があった。

 

「では、シン。あなたは彼女と共に行きなさい」

 

 私と一緒に行くって、シン兄はこの国の軍人さんですよ? 

 

「どういう事ですか?」

 

「実はネオ・ジオンの首脳部から評議会の強硬派へと秘密裏にコンタクトがあったのです。万が一地球連邦と敵対した場合は自分達と同盟を組んでほしいと」

 

 ラクス議長の言葉に私は思わず口を開けてしまった。

 

 もしかしてこの世界って戦争があるのだろうか?

 

「ネオ・ジオンは戦争を起こそうとしてるんですか!?」

 

「あちらは万が一の場合と言っていたそうですが、何らかの行動を起こしている可能性は高いでしょう。現に諜報部からは彼等がインダストリアル7へ部隊を動かしたという情報も入ってきました。それに彼女がニュータイプである事は兎も角、クマちゃんの存在は彼等に知られてしまっています」

 

「だからこの子を守りながらネオ・ジオンの動向を探れと?」 

 

「ええ。断っておきますが彼女の保護先を探すのが優先です。ネオ・ジオンの情報を探るのは手が空いた時で構いません」

 

「それでいいの?」

 

 さすがにそれは拙いんじゃないかと聞いてみると、ラクス議長はニッコリと笑みを浮かべた。

 

「大丈夫です。プラントの諜報部は優秀ですから、シンが取りこぼした情報は拾い上げてくれるでしょう」 

 

 それってシン兄がネオ・ジオンを探る意味がないのでは……

 

「わかりました! 俺はこの子と一緒に行きます!!」

 

「お願いしますね」

 

 私の疑問を吹き飛ばすように元気よく返事をすると、シン兄は私を抱えて議長室を後にした。

 

 というか、相手は議長さんなんだから礼儀をちゃんとしないと拙いんじゃないのかなぁ……

 

 私を抱っこしてズンズンと格納庫へ進んでいたシン兄だが、廊下の人通りが少なくなるとその足を止めた。

 

 そして私を降ろすと頭を撫でながらこう言ったのだ。

 

「よろしくな、ミユ」

 

「……ミユ?」

 

「ほら、いつまでも名無しじゃ困るだろ。ミユって名前、嫌だったか?」

 

「ううん。わたし、みゆ」

 

 心配無用だ、シン兄よ。

 

 こんな所で命名されるとは思ってなかったから驚いただけで、名前的にはまったく不満は無い。

 

 ともかくこうして私とシン兄はプラントを後にした。

 

 『恋人のルナマリアさんを置いて行って大丈夫か?』とか『軍なのにいくらなんでも私情に走り過ぎじゃね?』なんてツッコミがあったけど、それは言っても詮無い事だ。

 

 個人的には一人で放り出されるよりは万倍マシなので感謝感激雨あられだし。

 

 行先についてはシン兄はインダストリアル7というところらしいのだが、生憎と私の行先は決まっていない。

 

 戦争に巻き込まれるのはカンベンなので、いい受け入れ先があればいいなぁ。

 

 

 

 

 シンと少女が退室した後、ラクスは自分の前に置かれた報告書に鋭い視線を向ける。

 

 まさか次元転移してきた正体不明の機動兵器に乗っていたのが、シンの妹を基にしたクローンだとは。

 

 妹とクローン、その二つはシンにとって鬼門と言うべきものだ。

 

 妹であるマユ・アスカを戦争で失い、親友のレイ・ザ・バレルも不完全な技術で生み出されたクローンである影響で短命を定められており、現在はそれを治療する為に療養中だ。

 

 彼女を放り出して何かあれば、シンは今度こそ自分達を許さないだろう。

 

 かといって彼の要求通りに市民権を与えても、この世界の常識を何も知らない少女が社会に馴染めるとは思えない。

 

 プラントのコーディネーターは総じて同胞意識が強い分排他的だ。

 

 異物、それも因縁深いナチュラルであると知れば子供とて容赦はしないだろう。

 

 だからこそシンへの気遣いと少女への謝罪の気持ちから強引でも二人を同行させたのだ。

 

「幼子一人の居場所も作れないなんて、プラント議長が聞いて呆れますわ」 

 

 自分の力の無さに溜息を吐いていると議長室のドアが開いた。

 

「お疲れ様、ラクス」

 

「キラ」

 

 白いザフトの制服を着た恋人の姿にラクスの強張っていた表情が解れていく。

 

「それでどうでした、彼女は?」

 

「見た目は普通の女の子だったけど、カミーユやアムロさんみたいな存在感を感じたよ」

 

 アムロ・レイとカミーユ・ビダン。

 

 共に『ZEUTH』『ZEXIS』を代表するニュータイプ達だ。

 

「では本当にあの子はニュータイプなのですね」

 

「断言はできないけど可能性は高いと思う」

 

 まったく厄介事てんこ盛りなお子様である。

 

 普通の娘ならばモビルスーツを手放せば平穏に生きて行けるだろうに……

 

「この世界に彼女が来た事、それが凶事の予兆でなければいいのですが」

 

「そうだね」

 

 そうして二人は手を差し伸べてやれなかった子供の無事を祈るのだった。    

 


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