幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

16 / 78
 スパロボという題材は恐ろしい。

 少しの情報で読者の皆さんが深読みするのだから。

 現在でも地球は十分ピンチです。

 これ以上の危機を呼び込む事はありませんよ、ええ。

 …………ホントだよ?


幼女とクマさん、強敵に立ち向かう

 戦場へと足を踏み込んだ私は至る所で黒煙を上げる繁華街に息を呑んだ。

 

「……ッ!」

 

 次いで押し寄せてきた住民達の怒りや恐怖の感情は跳ね除けたけど、やはりこういう日常が崩壊した光景は心に痛い。

 

 ここは記憶にある日本の街並みによく似ているから猶更だ。

 

「……だめにんげん、どこ?」

 

 早く敵を排除して住人の安全を確保したいけど、それより先に犯人を捜しださないといけない。

 

 こういうパニックの中で『いがみ合え』と呪いを振り撒かれたら、どれだけ悲惨な事になるか分かったモノじゃない。

 

 奴の残り香を辿ろうとした瞬間、『ねらわれてるよ!』という警告に集中は断ち切られた。

 

 クマさんを後退させれば、一瞬前にいた場所を砲弾とビームが通り抜けていく。

 

 地上を見れば8mくらいの小型機と宇宙の演習で連邦側が使っていたジェガンというロボットが私に銃口を向けている。

 

 戦場にいるんだから狙われるのは当然なんだけどさ。

 

「……じゃま」

 

 正直、コイツ等に構っている暇はない。

 

 高まる苛立ちに幼女ボディも文句を漏らしていると通信が入って来た。

 

『そこのクマ、やっぱりミユか!』

 

『どうして貴女がこんなところに出てきてるの!?』

 

 出てみると通信用ディスプレイに現れたのは驚きと怒りが半々のヒビキさんと涼音先生の顏。

 

 ここは事情を説明して敵をお任せしようと思ったんだけど……ヒビキさんの心が恐怖に圧し潰されそうになってるのが分かったのでその案はボツになった。

 

 何があったのかは知らないけど、ヒビキさんから伝わる怯えは私が初めてクマさんに乗った時より酷い。

 

 アムロ大尉やシン兄が見たら首に輪を掛けてでも撤退させるレベルだと思う。

 

「……のろいのはんにん、つかまえる」

 

 ジェニオンの二人に目的だけ告げると、私はクマさんを地上へと加速させる。

 

 こちらの動きにジェガンが銃口を向けるけれど、そこからビームが吐き出されるより早くすれ違いざまに『くませいばー』で両腕と首を斬り飛ばした。

 

 さっきも今も敵意を感じなかったので、クマさんの言う通り奴等は無人機なのは間違いないようだ。

 

 クマさんの情報通りAIがある頭部を破壊したら止まるようなので、続けて飛んでくるライフルの弾を回避しながら小型機の頭もせいばーで蒸発させる。

 

 犯人を追えないのは口惜しいけど、向けられた銃口を無視して集中できるほど私も図太くない。

 

 街の被害を増やさない為にも、ロンド・ベル本隊が来るまで無人機の排除に集中しよう。

 

 そう肚を決めると私はビルの影から出てきた2機の首を出会い頭に刎ねる。

 

 今のってマリーメイアとの戦いの時に見たけど、名前はサーペントとギラ・ドーガっていうんだって。

 

 クマさんは物知りだなぁ。

 

 本格的に敵対行動に出た事で、こちらに向かって放たれる弾の数もドンドン増えていく。

 

 街の被害を考えて空中に逃げると、精彩を欠いた動きで回避に四苦八苦するジェニオンが見えた。

 

 素人目に見てもあれは拙い。

 

 私なんかが言うのはおこがましいけど何とかサポートできないか……

 

 機体の状態を示すディスプレイに映るモノがあった。

 

 目を向ければ『おすすめ』という文字と共に、子グマさんの乗った椅子が表示されている。

 

 ───たしか、あの子グマさんって私の意思で動くミニロボットだったはず。

 

「……クマさん、こうたい」

 

 私がそう声を掛けると足元から子グマさんチェアーが飛んでくる。

 

 そしてリボンが外れ、それに代わって背中にくっ付くチェアー。

 

 飛ぶには出力が足りないのだろう、クマさんが地面に降りると同時に何かが私の意識へ触れるのを感じた。 

 

 ……これって子グマさんだ。

 

 『椅子から降りて』と念じればピョコンと降りてくる茶色の子グマさん。

 

 小さいから威力は落ちるけど、この子にもクマさんと同じ装備が備わっているらしい。

 

「……ヒビキさんをおてつだい」

 

 私がそう命じたら子グマさんコクリと頷くと現れた小型機を『くまぱんち』で殴り飛ばし、背中のリボンで飛んでいった。

 

 ところでこの辺りにはさっき壊したジェガンがあったはずなんだけど、どこに行ったのだろうか?

 

 素朴な疑問を感じながらも私は向かってくる敵を倒していく。

 

 思考制御になってから随分と感覚の広がり方が変わってきた。

 

 なんというか、今までボンヤリとしていた空気の流れや振動などがよりリアルに感じられるようになったのだ。

 

 そのお陰で敵意が無くても相手の動きを掴めるから、クマさんをうまく動かせるようになった事も相まって無人機なんて簡単に倒せちゃう。

 

 少し前までなら『敵を爆発させないように』なんて気配りは出来なかったもんね。

 

 そうして5体目のサーペントの首を切り落としていると、ヒビキさんからまた通信が入って来た。

 

『ミユ。もしかしなくてもこの小さいクマはお前の仕業か?』

 

「……ん、えんご」

 

『……そうか』

 

 むむ、助けたはずなのにヒビキさんのテンションがまた下がってしまった。

 

 まさか『幼女如きに助けられるなんて』って感じでショックを受けているのか?

 

 いかん、いかんですよ! このままでは『空気も読めないガキ』というレッテルを張られてしまうじゃないか!

 

 善意の逆効果に戦慄していると街の東の方が騒がしくなった。

 

 見るとそこにはマクロス・クォーター、『チームD』の母艦である龍型の戦艦ドラゴンズ・ハイヴ、そしてネェル・アーガマの姿が。

 

『ミユ機に告ぐ。戦闘を中断して帰還しなさい、君の戦闘行為は認められない』

 

 通信が来たので繋げてみれば、現れたのは顔に傷がある髭モジャの厳ついオジサン。

 

 一瞬ビビッてしまったが、マクロス・クォーター艦長をしているジェフリーさんだ。

 

 言ってる事はその通りなんだが、言いつけを聞かずに飛び出した手前私にも意地というモノがある。

 

 おめおめ帰るわけにはいかない。

 

「……はんにん、みつけてない」

 

『じゃあ今まで何をしていたんだ!?』

 

 そう答えるとオットー艦長が通信に割り込んできた。

 

 ヤバい、かなり怒ってる。

 

 これはやっぱり説教コースか。

 

「……てきがおじゃま」

 

『なんだそれは!? 先行した意味がないじゃないか!!』

 

 ごもっともです。  

 

 とはいえ、ここで援軍が来てくれたのはありがたい。

 

 みんなが敵の相手をしてくれれば、私は犯人探しに集中できる。

 

「……みんな、てきのあいてして。ミユ、はんにんさがす」

 

『わかった。けど、勝手に飛び出すのはこれっきりにしてくれよ』

 

「……ん。ごめんなさい」

 

 ごめんね、シン兄。

 

 あの時は犯人を逃がしてなるものかと必死だったのです。

 

『こちらアムロだ、各機はミユを援護してくれ。うまく行けばコロニーと地球の対立を食い止める一手になるかもしれない』

 

『ねえ、C.C.! なんであんな小さい子が戦場に出てんのよ!?』

 

『あれは色々と面倒なモノを背負ったクソガキでな、ヤツと同じくそう簡単にはくたばらん。それよりもお前はそっちのボウヤの面倒を見てやれ』

 

 アムロ大尉の指示を受けてロンド・ベル隊のみんなは私を囲むように移動していく。

 

 理解が早くて本当に助かります。

 

 それとC.C.おばあちゃんめ、クソガキ呼ばわりとはヒドいにもほどがある。

 

 あの赤い髪のお姉さんが変な誤解をしたらどうするつもりなんだ! 

 

『まったく、あの魔女はロクな事を言わないんだから。そこの君、私は紅月カレン。よろしくね』

 

「……ミユ。よろしく」

 

『何をするかは分からないけどフォローは任せといて。───あと、帰ったらお説教だからね』

 

 なぜだ!? 

 

 クッ……新参者のお姉さんまで参加するとは、私の真の戦いは戦闘後にあるのかもしれない。

 

 とまあ冗談はこの位にして、みんなが無人機と戦闘を始めた隙にわたしは意識を集中する。

 

 多分まだ呪いを使っていないのだろう、辺りに漂う念は凄く薄い。

 

 けれど、宇宙で感じた負の想念は底が見えない程に暗く深いモノだった。

 

 犯人が心にアレを抱えているならば痕跡はそう簡単に消えないはずだ。

 

 まるで地面に出来た影を捕えようとするかのように掴みどころのないモノへ手を伸ばすような感覚の中、私が放つ意識は少しずつ戦場へ広がっていく。

 

 クマさんは自分にはフルサイコフレームって能力があって、私の想いを表すって言ってた。

 

 だったら、私が奴を見つけられない筈がない!

 

『これは……!』

 

『クマを通してミユの認識が広がっていくのが分かる……』

 

『なんだ……NT-Dが発動した!?』

 

『ミユちゃんが探しているのはこの邪念の持ち主か! ───ならば!!』

 

 アムロ大尉、カミーユさん、力を貸してください!

 

 バナージお兄さんの白いのってガンダムだったんだ…… 

 

 あとタケルさん、手伝ってくれてありがとう!

 

 私が編み上げた意識の網が町全体を覆った瞬間、空間がグラリと揺らめくのを感じた。

 

『次元境界線が湾曲していきます!』

 

『次元震……あるいは時空振動が起きるか!?』

 

『どうなっている? もう時空振動は起きないんじゃなかったのか!?』

 

『来るぞ!』 

 

 クォーターのオペレーターさん、ジェフリー艦長、オットー艦長、ドラゴンズハイヴの偉い人の声が聞こえたあと、次元を歪めて何かが現れる。

 

 それはつるりとした坊主頭の紫を基調にした見た事の無いロボット達。

 

 呪いの犯人と同じ負の気配を持った彼等の登場と同じくして───

 

『おーおー、アンナロッタちゃんのお出ましか』

 

 ようやく私の網は本命を捉えた。

 

「……みつけた!」

 

 直感の導くままにクマさんを走らせると、街の東端にある小さなビルの屋上にその男は立っていた。

 

 ぼさぼさの長い黒髪と日に焼けた赤ら顔の無精ひげ。

 

 だらしなく着崩した軍服に相応しいヘラヘラとした笑みとは裏腹に腹の奥には煮え滾る怒りと嫉妬を隠している。

 

 間違いない、これが呪いの犯人だ。

 

「おいおい……まさか俺の事を見つけちまったのか?」

 

「……オットーかんちょ、このひと」

 

 私はクマさんのモニターの中で驚く犯人の人相をネェル・アーガマへと転送する。

 

『本当に見つけたのか!? ブライト司令にデータを転送しろ! それとミユ、その男を捕える事が出来るか?』

 

「……やってみる」

 

 艦長の言葉にうなずくと私はクマさんの手を犯人に向ける。

 

「……おじさん、ミユたちとついてきて」

 

 この距離なら、もしあの人が何かしようとしても『くませいばー』を発動させれば一瞬で蒸発させられるはずだ。

 

 人を殺すかもしれないと思うと怖くてたまらないけど、ここで犯人を逃がしたらどんな事を起こされるか分からない。

 

 それを防ぐ為なら脅すくらい我慢しないと……

 

「───気にくわんね。見つかったのは俺がマヌケだとしても、こんな年端のいかん女の子を寄こすなんてよ。やっぱりこの星の奴等はクズばかりだな」

 

 やれやれと首を振りながらため息を吐く犯人に私はいい知れない恐怖感を覚えた。

 

 なんだろう、この余裕は?

 

 こんな近くでロボットに脅されたら普通は怖いと感じるはずなのに……

 

「お嬢ちゃん、一つ提案だ。オジサンを見なかった事にして引き上げちゃくれないか?」

 

 へらりと笑いながらそういう犯人に私の中に芽生えた嫌な予感はさらに膨らんでいく。

 

 直感だってさっきから逃げろと警鐘が鳴りっぱなしだ。

 

 でも…でも……!

 

「……だ、だめ。おじさん、わるいことする」

 

 震えそうになる足に力を込めてそう言うと───犯人の顔から笑顔が消えた。

 

「だったら仕方がない。お前さんには少し痛い目を見てもらおうか」

 

 息が止まりそうなプレッシャーの中、犯人の後ろの空間がグニャリと歪むとそこから紫色の魔神が現れた。

 

「少し遊んでやる。起きろ、ジェミニア」

 

 

 

 

 第二新東京市防衛の為に戦場に飛び込んだロンド・ベル隊。

 

 様々な地球内勢力の機体を利用した無人機、そして次元震と共に出現した謎の機動兵器を相手に彼等は優勢に戦いを進めていた。

 

「う…うわあああああああああぁぁっ!?」

 

 異変の始まりを告げたのはジェニオンのパイロットであるヒビキ・カミシロの魂を引き裂くような悲鳴だった。 

 

 マジンガーZを駆る兜甲児が何事かと意識を取られた次の瞬間───

 

「あうぅっ!?」

 

 膨大なエネルギー反応が立ち上ると同時に、ミユの乗るクマが大きく破損しながら吹き飛んできたのだ。

 

「やれやれ。ふざけたナリにしては随分と凶悪だねぇ、そのクマちゃんは」

 

 クマが巻き上げた粉塵を切り裂いて現れたのは、紫を基調とした巨大な機動兵器だった。

 

 その姿と緑に光る双眸は触れずして見るモノを平伏させるような威圧を感じさせる。

 

「まだ……」

 

「もうやめとけ。機体性能とお前さんの直感はなかなかのもんだが、それだけで勝てる程このジェミニアは甘くはない」

 

 背負った椅子は半壊し、身体や頬に大きな切り傷が刻まれながら立とうとするクマ。

 

 それを見たロンド・ベル隊の機体達は、ミユを護る為に我先にとジェミニアと呼ばれたロボットへと挑みかかっていく。

 

「何者かは知らねぇが、ガキ相手にいきがってんじゃねぇ!」

 

「そのガキ一人に危険な役目を押し付けた奴の言える事かよ! 文句は自分の行動を省みてからにしろ!」

 

 巨大な手斧で斬りかかったブラックゲッターを手にした剣で機体ごと払い飛ばし───

 

「お前達は何者なんだ!?」

 

「さてね。聞かれても答える義理はないさ!」

 

 唐竹に振り下ろされたゴッドマーズの大剣を捌くと同時に、その胴に緑のエネルギーが宿った蹴りを叩き込む。

 

「よくもミユを! お前だけは───」

 

「おやおや、お前さん針が抜けちまってるじゃないか。けどな、大事だって思うならガキを戦場に出すんじゃねぇよ!」

 

 残像を引き連れてアロンダイトを手に斬りかかるデスティニーを空いた手から放ったエネルギー波で迎撃。

 

「みんなっ!? このヤロぉぉぉぉっ!!」

 

「元気がいいのは結構。だが、機体も実力もジェミニアを相手にするには全く足りん!」

 

 ブレストファイヤーを叩きこもうとした甲児もまた、マジンガーの胸元にある放熱板を切り裂かれて吹き飛んだ。

 

「甲児! シン! くっ……!?」

 

「よそ見をする暇など与えん! ……ガドライトめ、ジェミニアを持ち出すとはどういうつもりだ?」

 

 ジェミニアの圧倒的な力を見て、アムロ達は歯噛みする。

 

 傷を負った仲間を助けたいのはやまやまだが、彼等も謎の機動兵器を相手にするのに手いっぱいなのだ。

 

 蹴散らされたスーパーロボットに追撃を掛けようとするジェミニア。

 

 その矛先が高層ビルにもたれかかったマジンガーへと向いた時、彼等の前に立ち塞がる影があった。

 

「まだやる気か、お嬢ちゃん。おいたの仕置きは十分だと思ったんだがな」

 

「……こうじおにいちゃんとかみさま、まもる」

 

 ジェミニアの威容に負けない為に両手を広げて精一杯の威嚇を行うクマ。

 

「俺の事はいい! 逃げろ、ミユちゃん! 逃げるんだッ!!」

 

 反応を示さないパイルダーの中、甲児はマジンガーを必死に動かそうとしながらミユへと呼びかける。

 

 しかしマジンガーからもミユからも反応が返ってくる事は無い。

 

 ジェミニアと対峙するクマの後ろ姿からは不思議な紅い光が漏れ、先ほどよりもパワーが上がっているのが感じ取れる。

 

 しかし、それを加味してもあの紫の暴君に敵うとは到底思えなかった。

 

「神様ねぇ、コイツはまた虫唾が走る名前を聞いたもんだ。だが、ガキとクマに庇われるその無様さは悪くない」

 

 ジェミニアのパイロットから吐き掛けられた罵声に、甲児は潰さんばかりにパイルダーの操縦桿を握って歯を食いしばる。

 

 たしかに再世戦争が終結してからはマジンガーの光子力は少しずつ失われていた。

 

 だからといってここで無様な最期を遂げるのか?

 

 マジンガーは、お爺ちゃんから託されたマジンガーは地上最強のスーパーロボットのハズなのに……

 

 悔しさのあまり拳をコンソールに叩きつけた甲児は、そこに見慣れないモノを見つけた。

 

「アイアン…カッター……」

 

 こんな武装は今まで見た事は無かった。

 

 もしかして弓教授が追加した代物なのか?

 

 そうだとしても自分に伝えないというのは……

 

「仕方ない。そんじゃあもう少しケツを叩いてやるとするか!」

 

 思考の海に沈みかけた甲児はジェミニアから響く声に現実へと引き戻された。

 

 今はそんな下らない事を考えている場合じゃない、使えるモノは何でも使わないと!

 

「いっけぇぇぇっ! アイアン・カッターぁぁぁぁぁっ!!」

 

 叩きつけるようにボタンを押し込むと、マジンガーの腕から大型の刃が生えてロケットパンチのように発射される。

 

 その一撃は大上段からクマに振り下ろされたジェミニアの剣へと咬み付き───

 

「なんだとぉっ!?」

 

 そのまま大きく後方へと弾き飛ばした。

 

 ジェミニアが勢いでたたらを踏む中、先ほどの一撃を切っ掛けに息を吹き返したパイルダーに甲児は歓声を上げた。

 

「光子力エネルギーが回復した! これならいける!!」

 

 再びマジンガーが空へと舞い上がる中、体勢を立て直そうとするジェミニア。

 

 しかし─── 

 

「……させない」

 

 赤い軌跡を引き連れながら猛スピードで襲い掛かるクマの光剣がそれを許さない。

 

 振り抜かれた身の丈ほどの刀身は死に体だったジェミニアの左腕を半ばから切り落とし、その衝撃によってさらに後方へと吹き飛ばす。

 

 そのアシストに甲児の口元は大きく吊り上がる。

 

 ジェミニアが立っているのは今から放つ渾身の一撃にとって最適の位置だからだ。

 

「輝くゼウスの名のもとに! 全てを原子に打ち砕けぇぇっ!!」

 

 甲児の意志に応えるように加速しながら変形を始めるゴッドスクランダー。

 

 それは瞬く間にマジンガーの身体を黄金の拳へと生まれ変わらせる!!

 

「ビィッグバァァァァァァァン! パァァァァァァァァァァンチ!!!」

 

 体勢を崩したジェミニアは避ける事が出来ずにマジンガーの渾身の一撃によって街の外へと吹き飛ばされた。

 

「ぐ……やってくれるじゃねぇか」

 

 だが、それでもジェミニアを撃墜するには至らない。

 

 マジンガー最大の攻撃でも仕留めきれなかった事に歯噛みする甲児。

 

 しかし、ジェミニアが彼等に襲い掛かってくる事は無かった。

 

「ガドライト! ……しまったッ!?」

 

「落ちろ!」

 

 ジェミニアの窮地を見て動きを鈍らせた謎の機動兵器が、アムロの駆るリ・ガズィの放ったメガビームキャノンによって戦闘不能に追いやられたからだ。

 

 頭部と右腕から胸部の半ばを失って落下する機体を受け止めたジェミニアは空間転移で街から撤退し、それを緊張の面持ちで見ていたロンド・ベルの面々は彼等の姿が消えた瞬間に深々と安堵の息を吐いた。

 

 それは甲児も同じであり、緊張が解けた彼はぐったりとパイルダーのシートに身体を預けた。

 

 その後ジェフリー艦長の帰還指示によって一機また一機と母艦へ帰っていく中、甲児は地面にぺたりとお尻を付けて座り込むクマを見つけた。

 

「大丈夫か、ミユちゃん」

 

「だ…い……じょ……ぶ……すぴー、すぴー」

 

 声を掛けてみれば、返ってきたのはほとんど夢の中にいるのが丸分かりな返事と気持ちよさそうな寝息のみ。

 

「おつかれさん」

 

 苦笑いと共に労いの声を掛けると、甲児はマジンガーにクマを抱えさせると空へ舞い上がった。

 

 夕日に照らされた空を飛ぶマジンガー。

 

 ────その顔は笑っているように見えた。

 

 

 

 

 主がすやすやと寝息を立てているベアッガイのコクピットの中、機体状態を示すディスプレイには平仮名ではなく流暢な文章が流れている。

 

『ベアッガイⅢ・G、損傷率43% UGセルによる自己再生を開始』

 

『エイハブ・リアクター稼働率を30%から10%へ引き下げ完了』

 

『未知のマテリアル「超合金Z」のサンプルを取得完了。増産および機体への適応可能かを検討開始』

 

『脊髄反射コネクタより反応在り。対象の覚醒段階がファーストステージに到達した事を確認』

 

『今回の戦闘からストライカーシステムを量子変換からUGセルを使用したモーフィングへと仕様変更を提案』

 

『敵機動兵器『ジェミニア』の左腕部を吸収完了。量子コンピューター・ルキフグスに命ずる。サンプルを精査し、使用されている技術の全てを解析せよ』

         




 クソコテ『(読者の皆さんからの熱い声援のお陰で)来ちゃった!』

 

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。