幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 前回の事件

幼女「……がったいって、きもちいい」 

シスコン「ウチの妹になんてこと、教えやがる!」

翅犬「冤罪だよ!?」

「…………」(クソコテ様は力を溜めている) 


幼女、二人の歌姫と会う

 どうも、図らずともロンド・ベル隊のパイロットの間で一大ブームを巻き起こしてしまったミユです。

 

 私達が聖天使学園のあるアクエリア市に来て一週間が経った。

 

 何故私達がここに留まっているのかというと、転移してきたばかりのアクエリア市にはアクエリオンというロボ以外に防衛戦力が無い。

 

 だがしかし、マーティアル教団とかいう過激派宗教組織やテロリスト、さらには宇宙魔王とかいう侵略者にあしゅら男爵率いる機械獣軍団と地球を狙う脅威は多種多様だ。

 

 その為、地球連邦政府への編入手続きや防衛軍備等々が終わるまで、ロンド・ベル隊が臨時で警備をすることになったのだ。

 

 その間も私はクマさんで対ジェミニアのシミュレーターをしたり、隊の女子衆に捕まって愛玩動物扱いされたりと代わり映えの無い生活を送っていた。

 

 そうする中でめでたくシミュレーター百連敗を記録した私は独学の限界というモノを悟るに至った。

 

 ぶっちゃけ、ロボット操縦歴2週間そこそこの幼女に一人で上達しろというのが無理なのだ。

 

 そこでザフトのエースであるシン兄にシミュレーション映像を見せてアドバイスを貰おうとしたら、案の定『ミユは俺が護るから、戦わなくていいんだ!』というありがたいお言葉が。

 

 こんな私を大事にしてくれるのはとっても嬉しいのだが生憎と幼女にだって意地がある。

 

 実際に戦うかどうかはともかくとして、こうまで連敗記録を重ねては仮想現実の中でくらい一度ギャフンと言わせてやりたいのだ。

 

 ありったけの熱意を込めて説得すると『シミュレーターならいいか』と頷いてくれた。

 

 でもって私の敗北の記録を見たシン兄の感想は『接近戦ではどう考えても勝ち目がない』という辛辣なモノでした。

 

 機体性能が負けているのに加えてパイロットの技量や経験に圧倒的な差がある。

 

 例えるならド素人が操るインパルスで、シン兄のデスティニーに勝負を挑むようなモノらしい。

 

 インパルスってたしかルナマリアさんが乗ってたガンダムだよね。

 

 あれってデスティニーより性能低いんだ……。

 

 私も60連敗目くらいで接近戦に限界を感じたからシミュレーターなのをいい事に『くまびーむ』を撃とうとしたんだよね。

 

 でもあのビーム、チャージに5秒かかるのよ。

 

 だから使おうとしたら『チャージなどさせるものか!』と言わんばかりにジェミニアが潰しに来たので使うのをやめたのだ。

 

 全ての記録を見終わった結果、武装を見直さないと話にならないという結論に達した私達。

 

 ではどうするか、という話に入ろうとしたところ『面白れぇ事やってんじゃねぇか』と声を掛けられた。

 

 振り返ると狂暴な笑みを浮かべた竜馬さんが立っており、私はおもわず『いかく』のポーズを取ってしまった。 

 

 何故か私を抱っこした竜馬さんにシン兄が事情を説明したところ、『あの野郎を相手にしたシミュレーターか。俺にもよこしな』と目をギラギラさせて言ってきた。

 

 あの時は本当に怖かった。

 

 こっちが『うー! うー!』といかくしまくってるのに降ろそうとしないし、あの人は私に恨みでもあるのだろうか?

 

 理由を問われた竜馬さんが返した『あの野郎には借りがある。次に会った時に熨斗を付けて返すのさ』という答えに『俺だって、ミユに手を出したアイツを許すもんか!』とシン兄も発奮。

 

 クマさんタブレットの電源が入っているのをいい事に、シミュレーターのデータを自分の端末にコピーして愛機へと行ってしまった。 

 

 シン兄に見捨てられて一人寂しく反省会をしていたところ、それを見たアムロ大尉がアドバイスをくれた。

 

 とりあえず直感で動くばかりじゃなくて、相手の動きをよく見るようにしたらいいんだって。

 

 大尉もさりげなくシミュレーターのデータをコピって行ったけど、アドバイスに免じて許してあげよう。

 

 その後、パイロットの間でこのシミュレーターの事が話題になり、データはあっという間に複製されまくった。

 

 そして難易度の高さが彼等の負けん気に火をつけたのか、艦長たちも巻き込んで大流行りとなったワケだ。

 

 この三日の戦績だけど、現在まで1対1でジェミニアに勝った人は出てきてない。

 

 ロンド・ベル隊は地球圏最強って聞いたのに、それが誰一人勝てないとかジェミニアはどれだけ強いんだろうか。

 

 ちなみに私を途中で放り出したシン兄は、寝る時に額でお腹をぐりぐりする刑に処した。

 

 寝床で引っ付かれるのは地味にうざいはずなので、シン兄だって反省した事だろう。

 

 さて想定外の事が起こると現実からトンズラしちゃうのが私の悪い癖だが、そろそろ覚悟を決めようじゃないか。

 

 今はマクロス・クォーターの格納庫にあるクマさんの前にいるのだが、クマさんからボディガードとして私と同サイズの青いプチッガイ(子クマさんの事だ)を渡された。

 

 説明ではこの子もフルサイコフレーム製らしく、AIの他に私の思考も感知して危なくなったら守ってくれるらしい。

 

 私も誰かに狙われているのは確かなので護衛が必要なのだが、まさかこんな形で用意されるとは思わなかった。

 

 まあ、一見すればぬいぐるみなので私が持っていても違和感は無いだろうから、そういう意味では最適かもしれない。

 

 テコテコと歩き出した子クマさんを前に格納庫から出たのだけど、かみさまの視線を感じたのは気のせいだろうか?

 

 朝から妙な連れ合いが出来てしまったけど、今日はアクエリア市が正式にこの世界の仲間入りをした記念日だ。

 

 私もシン兄と一緒に街を回る事になっている。

 

「ミユ、準備は出来たか?」

 

「……ん」

 

 格納庫の入り口で待っていたシン兄に返事を返すと、彼の視線はやはり子クマさんに釘付けだった。

 

「その小っちゃいクマはなんなんだ?」

 

「……クマガード。ミユをまもってくれる」

 

「ボディガードってワケか。けど使えるのか?」

 

「……ん」

 

 説明書通りならちっちゃなボディに反してかなりのパワーを秘めているらしいので、少なくとも足手纏いにはならないだろう。

 

 そんなワケで久々のシン兄とのお出かけである。

 

 マクロス・クォーターから降りた私達を迎えたのは屋根や街灯のデザインが少し独特な西洋風の街並みだった。

 

「……おー」 

 

「こりゃあ凄いな」

 

 シン兄の言う通りたしかに凄い。

 

 素人目で意見を言うのはアレだけど、この街で観光業なんかしたら相当人が集まるんじゃなかろうか。

 

 初っ端で度肝を抜かれたけど、それから私達は買い食いや土産物など普通に観光を楽しんだ。

 

 クレアという市長さんの演説まではまだ時間があるからと、シン兄との久々の時間を目いっぱい楽しんでいたのだが、どうも周りから見られているような気がする。

 

 まあ感じるのはもの凄く生温かい意思なので、悪意は無いとは思うのだが……もしかして私達は変わっているのだろうか?

 

「……シンにぃ。ミユたち、へん?」 

 

「そんな事はないぞ」

 

「そうかしら。かなり個性的だと思うわよ、貴方達」

 

 後ろから掛けられた声に振り返ると、そこにはストロベリーブロンドの髪をもつ美人さんと緑の髪の可愛い女の子がいた。

 

「シェリルにランカ! もう着いてたのか」

 

「こんにちわ、シン君」

 

 この芸能人も裸足で逃げ出しそうな二人、どうやらシン兄の知り合いらしい。

 

 ルナマリアさんといい、実は我が兄はプレイボーイなのだろうか?

 

 シン兄の女性関係の疑惑はさて置いて、まずはせねばならない事がある。

 

「……ミユ」

 

 自己紹介と共にぺこりと頭を下げると、二人の顔に笑みが浮かんだ。

 

「ミユちゃんね。私はランカ・リーっていうの、よろしくね」

 

「私はシェリル・ノームよ。聞いた事ないかしら?」

 

 シェリルさんは勝気な笑みと共に聞いてくるけれど、申し訳ない事に幼女はご存じありません。

 

 もしかして有名人なのだろうか?

 

「ミユは少し前にこの世界に飛ばされてきたばかりなんだ。年も年だしさ、世の中には疎いんだよ」

 

「そうなんだ……」 

 

「それじゃあ仕方がないわね。シン達に拾われたって事は何か厄介事を抱えてるんだろうし」

 

 シェリルさん、正解。

 

 というか、一般の人もそう考えるくらいにロンド・ベル隊って貧乏くじを引く回数が多いのだろうか?

 

「私とランカは歌手をしているの」

 

「今日の式典でも歌う事になってるから、よかったら遊びに来てね」

 

「……おおー」

 

 二人のカミングアウトには幼女ボディからも感嘆の言葉が漏れた。

 

 モデルも裸足で逃げ出すルックスだと思っていたら、なんと本物の芸能人だったでござる。

 

 うん? 歌手で苗字がリーって───

 

「……オズマたいちょのいもうと?」

 

「お兄ちゃんから聞かされてたんだ。そうだよ」

 

 私の頭を撫でながらニコニコと笑うランカさん。

 

 そうかそうか。

 

 オズマ隊長と会った時に妹さんの歌を聞いてみたいと思っていたけど、機会が巡ってくるのは早かったな。

 

「ところでシェリル。俺達が変ってどういう事だ?」

 

 出会った時の発言について問いを投げるシン兄。

 

 するとシェリルさんはクスクスと笑いながら私達を指さした。

 

「その格好よ。シンはザフトの赤服でミユちゃんはクマのきぐるみパジャマなんだもの。アンバランスにも程があるわよ」

 

「それにミユちゃんの横をクマ型のドローンがテコテコ歩いてるしね。それじゃあ街の人達も見ちゃうよ」

 

 …………なんと。

 

 どうやら私のクマさんスーツは外出には向いていないらしい。

 

 というかプラントからインダストリアル7までの道のりも観光しまくったけど、そんな風に見られていたのか。

 

「……クマさん、だめ?」

 

「ダメってワケじゃないよ。かわいいし」

 

「でも、女の子ならもう少しオシャレをしてもいいかもね」

 

 おしゃれかぁ……今までトンデモない事が目白押しで、そんな事考えられなかったよ。

 

「時間があればショッピングしながらその辺の事も教えてあげたかったんだけどね」

 

「リハーサルとか準備があるんだろ、仕方ないさ。それよりアルトには会わなくていいのか?」

 

「アルト君にはリハーサルの前に顔を出すつもりだよ」

 

 ふむふむ、この二人はシン兄ではなくアルトさんと深い関係のようだ。  

 

 それにしても芸能人二人を手玉に取るとは、女の人みたいな顔をしてるのに凄いな。

 

「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 

「シン君、ミユちゃん。ライブ観に来てね」

 

 シェリルさんとランカさんはそう言い残して去って行った。

 

「この時間だとそろそろ場所取りしとかないとライブは見れないな。ミユ、もう観光はいいか?」

 

「……ん」

 

 私はシン兄と子クマさんに連れられて、ライブ会場になっている聖天使学園へと向かった。

 

 

『私の歌をきけぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 

『みんな抱き締めて! 銀河の果てまで!』

 

 どうも、ライブに大興奮中のミユです。

 

 いや、本当に凄いや。

 

 頭の中にある歌がほとんど思い出せない所為か、二人の曲を聴いていると滅茶苦茶感動する。

 

 お蔭でクマガードの子クマさんが隣でダンスを踊ってます。

 

 踊りだした時はヤバいと思ったのだが、周りのお客さんもキレッキレで動くクマさんを面白いと思ったのだろう。

 

 今は彼の動きに歓声を上げてくれている。

 

『みんな、ありがとう! そしてアクエリア市の皆さん、この世界にようこそ!』

 

『これからこの世界で生きていく皆さん! これから一緒に頑張りましょう!』

 

 曲が終わってシェリルさんとランカさんのMCに入った時、私の直感が警鐘を鳴らし始めた。 

 

 それを感じ取ったのだろう、子クマさんもダンスをやめて私の傍に戻って来た。

 

「……シンにぃ」

 

「どうした、ミユ」

 

「……てき」

 

 私がそう呟いた次の瞬間、街の空に魔法陣のような幾何学模様が現れて、そこから一週間前に街を襲ったクモ型の機械達が現れた。

 

「あれはこの前の──! ミユ、クォーターまで戻るぞ!」

 

「……だめ」

 

 クモ型無人機の一機がステージに近づいているのを察知した私は、子クマさんに思念を送る。

 

 前の時、あの無人機は女の人を攫っていた。

 

 ならヤツが狙っているのはシェリルさんとランカさんの可能性が高い。

 

 こちらの意思をくみ取ると、私を抱えた子クマさんは外見からは想像もできない力でステージへと跳躍する。

 

 この状況で私がステージに行っても何の役にも立たない。

 

 でも、説明書通りこの子にクマさんと同じ武装があるのなら……!

 

 私を抱えたまま一足飛びでステージへ乱入した子クマさん。

 

 それに一拍子遅れて現れた無人機を見ながら、私は声を張り上げる。

 

「……子クマさん、『くまびーむ』!」

 

 次の瞬間、開いた子クマさんの口からMSのビームライフルによく似たビームが放たれ、ステージへ前足を掛けていた無人機を撃ち抜いた。

 

「ミユちゃん、あなた……」

 

「クマちゃんもすごい……」

 

 シェリルさん達が驚くのも無理はないけど、生憎とそれに構っている暇はない。

 

 子クマさんが無人機を撃破したことで、他の奴等もこちらへ向けて移動を始めている。

 

 例のアクエリオンも出撃してるけど、さすがに一機では手が追い付かないようだ。

 

 しかも島に近い距離に前に現れた赤い野獣メカまで現れてる。

 

 さすがの子クマさんも大量の無人機に加えて赤と金色の指揮官機を相手にはできない。

 

 直感任せで考え無しに動いてしまった事は毎度のごとく後悔している。

 

 けれどそんな事は言っても始まらない。

 

 子クマさんから降りた私は、深く息を吐いて精神を統一させると、思念の糸を伸ばし始める。

 

 この手の事は宇宙やガドライトを探す時に何度かやってるので慣れてきた。

 

 そうして伸ばした意思の先が目指すのは、クォーターの格納庫に置かれたクマさんだ。

 

 クマさんのフルサイコフレームは何度も私の意思に応えてくれた。

 

 ジェミニアと戦った時だって、あのボロボロの状態でパワーが上がったんだ。

 

 だったら呼んだら来るくらいはできるはず!

 

「……きて、クマさん!」

 

 私の呼びかけに動いたクマさんは、手動でクォーターのハッチを開けると私が乗っている時には出せない猛スピードでこちらへ飛んできた。

 

 そしてステージのある島へ足を掛けた無人機を『くまぱんち』で殴り飛ばすと、奴等に立ちはだかる様にステージの前へと降り立った。

 

「……こクマさん、シェリルさんとランカさんをおねがい」

 

 私の意思を汲んで二人を担ぎ上げる子クマさん。

 

 その間にこちらを振り返ったクマさんは私達へ胸から出す搭乗用のトラクタービームを放つ。

 

「ちょっ! ミユちゃん!?」

 

「きゃあ!?」

 

 驚いている二人には悪いけど、時間的にも幼女ボディ的にも説明するのは無理だ。

 

 コクピットに乗り込んでクマスーツの尾っぽへコネクタが接続されると、それに少し遅れてシェリルさんとランカさんもクマの顏型クッションが敷かれたサブシートに座った。

 

「なにこれ、もしかしてコックピットなの?」

 

「遊園地にある小さい子の乗り物みたい……」

 

「……ふたりはねらわれてる。クォーターにいく」

 

「え!? あなたが操縦するの!」   

 

 シェリルさんの声から感じる不安感がハンパないけど、幼女がこんなの動かすんだから仕方ないね。 

 

「……だいじょうぶ。ミユ、クマさんちゅうきゅうしゃ」

 

 そういうと更に悪くなる二人の顔色。

 

 分かってたけど、ちょっぴりショック!

 

 くそぅ……こうなったら安全安心最速でクォーターまでお届けしてやるんだからな! 


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