幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 クマさんはね、幼女のミカタだよ。

 クマさんが貪欲に強くなろうとしているのは幼女を守るためなんだよ。

 間違っても『それも私だ』さんや『グロいAI』や『喜びな外道』と同類じゃないんだよ。

 だから温かい目で成長を見守ってあげてね


幼女、歌姫と共に戦う

 現在、ミユとクマさんは歌姫二人を乗せて絶賛逃亡中です。

 

 あのクモロボ達がメッチャしつこい!

 

 もうすぐクォーターがアクエリア市に到着するのに、進路をガンガン塞いでくるのだ。

 

 相手が飛べないからと空をすり抜けようとしたら、雨あられと対空砲火を撃たれた時は本当にビビった。

 

 『くまびーむ』で薙ぎ払えば一網打尽に出来るんだろうけど、それをしたら街がエライ事になるような気がする。

 

 かといって、それを封じたらクマさんに出来るのは接近戦のみ。

 

 『くまぱんち』と『くませいばー』で蹴散らしてるけど、一体一体しか潰せないからキリがない。

 

「ねえ、ミユ。この子に飛び道具とか無いの?」

 

「……だめ。うったらまちがメチャクチャになる」

 

「ええ!?」

 

 ごめんよ、シェリルさん、ランカさん。

 

 私の相棒はちょっと不器用なんだ。

 

 それに加えて面倒なのが───

 

『トゥラララララララァーー!!』

 

「……ッ!?」

 

 味方のハズのクモたちを蹴散らして突っ込んできたのは野獣ロボ。

 

 奴が振り下ろしてくるビームの斧を私は『くませいばー』で受け止める。

 

「……こ…のっ!」

 

 空いた手で『くまぱんち』を打ち込もうとしたが、それより先に奴は間合いを離してしまう。

 

 そしてその間隙を埋めるかのように、クモロボ達がエネルギー弾を放ってくるのだ。

  

 アイツ等、本当に面倒くさい。

 

 野獣ロボがいなかったらクモロボの包囲なんて簡単にとっくに抜け出てるし、クモロボの邪魔が無ければ野獣ロボの動きに翻弄される事も無いのに……

 

 そう思って歯噛みしていると、耳を劈く爆音と共に私の前を塞いでいたクモたちがミサイルの雨で一気に吹き飛ばされた。

 

 頭上を見上げれば、飛行機雲をお供に青空を飛ぶスカル小隊の戦闘機たちが。

 

『こちらスカルリーダー! ミユ機はさっさとクォーターに戻れ!』

 

「お兄ちゃん!」

 

 通信画面に現れたオズマ隊長の顔にランカさんが歓声を上げる。

 

『ランカ! それにシェリルも! なんでクマに乗ってるんだ!?』

 

「アルトもいるのね。この可愛いナイトさんが助けてくれたのよ」

 

 オズマ隊長に続いて現れたアルトさんの顔に後ろの二人の顔がほころぶ。

 

 まったく、あの人はすごい女たらしだ。

 

『そうか。ありがとうな、ミユ』

 

「……ん」

 

 こっちがそんな事を考えているのにイケメンスマイルを炸裂させるアルトさん。

 

 きっと向こうに他意はないんだろうから、ここは素直に受け取っておこう。

 

『スカルリーダーより各機へ! 俺達の任務はクマの馬車に乗った歌姫たちをお城へ帰す事だ! 送り狼共を通すんじゃないぞ!!』

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 オズマ隊長の指示で次々とクモ型ロボに襲い掛かるロンド・ベル隊のみんな。

 

 さすがに量産型の無人兵器では歴戦の強者達の相手は荷が勝ちすぎる様で、敵の数が面白いように減っていく。

 

「……いま」

 

『待てよ、そこの臭ぇクマ野郎!』

 

 この機を逃さずにクォーターへと行こうとすると、広域通信で野獣ロボのパイロットの声がした。

 

 ちょっと待った。

 

 今、聞き捨てならない言葉があったぞ。

 

「……くさい?」

 

『ああ。そのクマ公は色んなヤベェモンが混ざった匂いがするぜ。それとテメェは前の時あのデカブツに乗ってただろ。薬臭くて鼻が曲がりそうだ』

 

 聞き間違いかと思って確認してみると、予想以上にエグい言われようだった。

 

 クマさんはともかく、私の出自を考えると薬臭いというのは否定できないかも……

 

「……ミユ、くさい?」

 

「そんな事ないよ!」

 

「薬の匂いなんて全然しないわ。まったく何なのかしら、あのデリカシーの無い男は」

 

 念の為にシェリルさん達に聞いてみたけど、そんな事は無いらしい。

 

 という事は言われなき中傷か、まったくいい度胸をしている。

 

 一発ブン殴ってやろうかと振り返ってみれば、その時には左から飛んできた赤いビームに野獣ロボは吹っ飛ばされていた。

 

『お前ぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』

 

 こちらが唖然としている間に大剣を振りかぶったデスティニーが馬鹿みたいな速度で野獣ロボの周りを飛び回り、次々とすれ違いざまに切り刻んでいく。

 

 あのスピードって宇宙で私が変態仮面に狙われた時と同等じゃないか。

 

 そう言えば私の出自ってシン兄にとって地雷そのものだった。

 

 それを直接的じゃなくても悪し様に言われたら怒るに決まってる。

 

『吹き飛べェェェェッ!』 

 

 デスティニーが掌から放ったビーム砲をゼロ近距離で受けて吹っ飛ぶ野獣ロボ。

 

 右手を失うなどかなりの損傷を受けているけど、奴はまだ戦えるようだ。

 

 なら、息を吹き返す前に止めを刺さないと。

 

「しぇりるおねえさん、らんかおねえさん。ごめんね」

 

「どうしたの、ミユちゃん」

 

「うられたけんか、かう」

 

 私の言葉に二人は呆気にとられたようだが、先に立ち直ったシェリルさんは勝気な笑みと共に頷いてくれた。

 

「いいわ。あの最低男に一発キツイの食らわせてあげましょう」

 

「……そうだね。さっきの言葉はあんまりだもん」

 

 それに少し遅れてランカさんも頷いてくれた。

 

 危ない目に遭うかもしれないのに、そう言って貰えて本当にありがたい。

 

「……いく」

 

 改めて気合を入れた私に応えるように速度を増すクマさん。

 

 位置的に私達の近くに飛ばされて来た事もあって、野獣ロボが体勢を立て直す前にクマさんはその懐へと飛び込む事が出来た。

 

『テメェ!?』

 

「……ひとのにおい、かってにかいじゃダメ」 

 

 私の言葉と共に威嚇の時のように大きく両手を振り上げるクマさん。

 

 そして相手が動き出すよりも早く、全身の力が籠った両腕が奴の頭へと振り下ろされる。

 

 グシャリという感覚と共に左右からクマさんの手に挟み込まれた頭部は無残に潰れ、間を置かずに『クマセイバー』の射出口から放たれた光の奔流が野獣ロボの首から胸の上半分を吹き飛ばす。

 

『ぐああああああああっ!?』

 

 上半身の殆どを失った野獣ロボは、地面へと墜落していく途中に現れた魔法陣じみた光へと吸い込まれていった。

 

「やったわね、ミユちゃん!」

 

「ミユちゃん、すごい!」 

 

 後ろの二人は歓声を上げてくれるのだが、私はそれにこたえる余裕は無かった。

 

 今のは私がガドライト戦で編み出した『クマばさみ』という必殺技なんだけど───

 

「……あのひかり、ジェミニア?」

 

 そう、どういうワケかシミュレーターで嫌と言うほどこちらを叩きのめしたジェミニアの光線が使えるようになっているのだ。

 

 何をしたのかと機体コンディションを表すディスプレイを見てみれば、『やったね、光粒子ブラストが使えるようになったよ!』というメッセージが。 

 

 そういえばUGセルの説明には戦えば戦うほど強くなるとか書いてあった。

 

 けど、まさか敵の技をコピーできるようになってるとは……

 

 このクマさん、いったい何者なのだろうか?

 

「ミユちゃん、大丈夫?」  

 

 クマさんの事を考えていると後ろからランカさんに声を掛けられた。

 

 他の人を乗せているのにボーっとするのはいけない事だ。

 

 ただでさえ安全運転の約束を反故にしているのだから、せめてちゃんとクォーターに届けなくては。

 

「……ごめんね、だいじょうぶ」

 

「ならいいわ。リベンジも終わったしクォーターに戻りましょう」 

 

 シェリルさんの言葉にうなずいた私は、今度こそクォーターへとスロットルを吹かせるのだった。

 

 

 戦火を掻い潜って何とか歌姫二人をクォーターへと送り届けたのだけど、何故かシェリルさん達がクマさんから降りてくれません。

 

「しぇりるおねえさん、らんかおねえさん?」

 

 現在は機体周囲の状況じゃなく、ロンド・ベル隊の戦いを映しているモニターを見ながら考え込んでいる二人。

 

 やっぱり、アルトさんやオズマ隊長の事が心配なのだろうか?

 

「ねえ、ミユちゃん。このクマは他の機体と話せるの?」

 

「……だいじょうぶ」

 

 仲間同士の連携は大切なので、戦闘中はどの機体とも通信が取れます。

 

「なら、戦っているみんなに繋げて」

 

「シェリルさん?」

 

 私と同じく彼女の意図が分からなかったのだろう、ランカさんも首を傾げながら声を掛けている。

 

「歌うわよ、ランカちゃん。それが戦っているみんなに出来る最大の事だわ」

 

「……はい!」

 

 なるほど、応援歌か。

 

 たしかに二人が歌ったら皆の士気もあがるかもしれない。

 

 ここは戦闘に出れない以上、私も一肌脱ぐべきだろう。

 

「……きょくめいは?」

 

「『ライオン』って曲をお願いできるかしら」

 

 ライオン……ライオン……クマさんの中にあるのって基本童謡だからなぁ。

 

 『らいおんのうた』じゃないよね。

 

 クマさんのOSの中には無かったので、クォーターの回線に接続してネットを検索してみる。

 

 すると一発でヒットした。  

 

 某Gな検索サイトのトップに出るとは、本当に有名な曲なんだなぁ。

 

 そんなワケで公式サイトからカラオケバージョンをダウンロードしてレッツプレイ。

 

 曲が掛かると生き生きと歌い出す後ろの二人。

 

 歌が上手いのもそうだけど、何より声量が凄い。

 

 マイクも無しに伴奏に全然負けてないって、いったいどんな声をしてるんだろうか?

 

『これは……シェリルとランカか!』

 

『ありがたい、力が湧いて出る!!』

 

『ありがとうね、ランカ!』

 

『ちょっと待て! なんでクマから聞こえるだわさ!?』

 

 繋いだ通信から返ってくるロンド・ベル隊の皆の声はノリノリで、みんなの意思がさらに強まるのを感じた。

 

 あとボスさんは空気読め。

 

 応援歌作戦の成功に満足しながら私も二人の歌声を堪能してたところ、直感センサーが歌に惹かれてこの空間に現れようとする意志を察知した。

 

 モニターを見れば、アクエリア市の上空に虫のような奇妙な生物が浮かんでいるではないか。

 

(あれってヴァジュラ!)

 

(私達の歌が彼等を呼び込んだの?)

 

 後ろから歌っている二人の驚愕が伝わってくる中、アルトさんがヴァジュラを知らない隊員へ説明している声が響く。

 

 彼はヴァジュラ達はシェリルさんとランカさんの歌を通して、人間と相互理解を果たしたと言っているが多分違う。

 

 だって、彼等からは敵意を感じるんだもの!

 

 そして次の瞬間、私の懸念は現実のモノとなった。

 

 ヴァジュラたちはクモメカやロンド・ベル、さらにはアクエリア市の建物などを無差別に攻撃し始めたのだ。

 

(そんな……どうして!?)

 

(やめて! みんなやめて!)

 

 驚愕しながらもそれを押さえつけて歌うシェリルさんと、自分の歌声へ必死に想いを込めるランカさん。

 

 けれどヴァジュラ達はランカさんの切なる願いを受け取る事は無い。

 

 何故なら彼等は人間とコンタクトを取る気なんて無いんだもの。

 

 ロンド・ベル隊のみんなもアルトさんの説明があるからか、どうにも動きが鈍い。

 

 どうする、二人を降ろしてもう一度出撃するか?

 

 対処に迷っていた私はクォーターの少し前の次元が大きく捻じ曲がるのを感じた。

 

 捻じれ合わさり、空間にポッカリと黒い穴が開くとそこから一機の機動兵器が吐き出される。 

 

「……とくいてん」 

 

 モビルスーツよりも一回り小さい白を基調にした機体を見て、幼女の口がひとりでに言葉を紡ぐ。

 

 最初はお互いに戸惑う雰囲気を見せたけど、あの小型機のパイロットはロンド・ベル隊の仲間だったようだ。

 

 けど小型機のパイロットがアクエリオンと合流する前、彼の何かを押さえつけるような力を感じたんだけど一体何だったんだろう?

 

 それからはシェリルさん達の歌に新たな仲間も加わった事で、ロンド・ベル隊は破竹の勢いで敵を撃破していった。

 

 というかあの小型機、変形しながらスカル小隊の機体みたいにミサイルばら撒いてるんだけど……。

 

 あの小さい身体のどこにあんな量のミサイルを仕込んでいるのだろうか?

 

 そうして最後に残ったのは、クモロボ達を統括する金色の指揮官機。

 

 遠距離攻撃を持たないアクエリオンを砲撃で一方的に叩くという割とズルい戦法を行っていた指揮官機だが、手がバカみたいに伸びるアクエリオンの攻撃の前に敗退した。

 

 でもってアクエリオンが『伸びーーーーーーーるパンチ』を出した時、またしても私の直感センサーが『気持ちいい』を捉えてしまったのだ。

 

 その時は思わず『……んにゃあっ!』と叫んでしまって、心配したシェリルさん達が歌を中断してしまったじゃないか。

 

 まったく、あのロボットにも困ったものだ。

 

 今度やったら苦情を入れることにしよう。

 

 

 

 

 こうして戦闘も無事に終わり、私はシェリルさん達をクマさんから降ろした。

 

「助けてもらったり歌を届けるのを手伝ってもらったり、色々世話になったわね」

 

「ミユちゃん、本当にありがとう」

 

「……うたのおれい」

 

 そう、今にして思えば私があんな無茶をした理由はこれだったのだ。

 

 本物かどうかも分からない虫食いの記憶、その中に歌は一つも存在しない

 

 気に入った歌はあった。

 

 誰もが知っている常識のような歌もあったはずだ。

 

 けれど何一つ今の私は思い出せない。

 

 家族と笑いながら歌った歌、学校で皆と並んで合唱した歌、友達とカラオケで熱唱した歌。

 

 知り合いの顔が全て黒塗りになっているのと同じで、知っているハズの歌は歌詞も旋律も曲名すら浮かんでこないのだ。

 

 だから私はこの世界で歌に興味を持たなかった。

 

 このポッカリと穴の開いた記憶を見るのが嫌だったから。

 

 『私』は本当にいたのかが分からなくなるから。

 

 でも二人の歌声は私に歌を聴く喜びを思い出させてくれた。

 

 今日聞いたのは思わず口ずさみたくなるような名曲ばかりだったから、きっと歌う喜びも取り戻せるだろう。

 

 だから、そんな素敵な事を思い出させてくれた二人を傷つけたくなかったのだ。

 

「そう。貴方も私達の歌の虜になったようね」

 

「ミユちゃんが気に入ってくれてよかった」

 

「……ん。ヘビロテする」

 

 シン兄にお小遣いを貰ってアルバムとかガッツリ買うつもりであります。

 

「シェリル! ランカ!」

 

 格納庫の奥から聞こえてきた声に目を向けると、アルトさんが愛機の傍で二人を呼んでいる。

 

 シェリルさん達も多忙なようだし、これ以上貴重な時間を使うのは野暮ってものだろう。

 

「……またね」

 

「ええ、またね」

 

「またライブを観に来てね」

 

 アルトさんの下へ去っていく二人を見送った後、私はクマさんを見上げた。

 

 このクマさんはいったい何なんだろう?

 

 この子は私に何をさせたのだろうか?

 

 私はそれを知りたい。

 

 この子の持ち主として。

 

 共に戦う相棒として……

 

 

 

 

 幼女が愛機を見つめる中、無人となったコックピットの中で機体コンディションを示すディスプレイに光が灯る。

 

『ジェミニアの左腕部の解析完了。光粒子への変換システム再現に成功』

 

『現在はプラズマ圧縮炉を次元力の代用としている為に出力低下は免れない。早急に次元力の精製手段を構築する事を提案する』

 

『今回の同乗者の歌声から次元へ干渉可能な波長を検出。この波長を基に次元力精製のアプローチを実施』

 

『なお、この歌声が生命体の生体エネルギーに作用する事も確認された。UGセルの進化に有用か確認を求む』 

 

『コアが【水の交わり】を感知。機械天使搭乗者の練度が上がれば、それを感知する事で覚醒段階を推し進める事も可能と推測する』

 

『【獣の血】の覚醒によりコアの戦闘への忌避感の減少を確認。しかしジェミニア戦以降は覚醒段階に変化は見られず。やはり覚醒には命を賭けた戦い、もしくは本能を呼び覚ます程の殺意を抱く事が必要と思われる』

 

『次元力に関してはジェニオンと呼ばれる機体の動力源を奪取する事が最も容易と思われる。許可を』

 

『却下する。現状、この部隊には多くの可能性が集まっている。今後の進化の効率を考えれば排斥される恐れがある行動は慎むべき』  

 

『次元力を動力源としているのはジェミニアも同様。奪取を試みるならそちらをターゲットとする方がリスクは低いと思われる』

 

『現状でジェミニアに勝利する可能性は0% 機体はともかくコアが破壊されれば計画が頓挫する危険がある。再考を』

 

『ジェミニア程度に勝てなければ、この計画に意味などない。更なる進化を辿り、早急にヤツを超える戦闘力を構築せよ』

 


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