幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 ちょっと遅れてしまった……

 今回はちょっと短めですが、お許しを

 


幼女、対抗心を燃やす

 どうも、艦内生活に更なる彩りが増えたのでご機嫌なミユです。

 

 アクエリア市の戦いの後、シン兄に上目遣いでシェリルさんとランカさんのCDをねだったら、二人のベスト盤を買ってくれました、ヤッター!

 

 幼女的には『星間飛行』と『ノーザンクロス』がお気に入りです。

 

 クォーターの中で『星間飛行』を口ずさんでいたら、オズマ隊長に声を掛けられました。

 

 『星間飛行』の事を聞かれたので『初めて聞いた歌だから好き』と答えると、『FIRE BOMBER』というバンドの歌が入った情報端末をくれました。

 

 コッチもすごくいい曲ばかりで思わずテンションが上がりました、ヤッター!

 

 それから二人で『突撃ラブハート』を歌っていたら、オズマ隊長がキャシーさんに『隙あらば誰にでも布教すんな!』って怒られてました、ヤダー!

 

 そんなワケで私の生活には音楽端末が手放せなくなってます。

 

 シェリルさんとランカさんの次のライブにも行きたいけど、生憎と私の住処は各地を転戦する軍艦。

 

 コロニーとの対立や侵略者などの問題が片付かないと実現は難しいと思われる。

 

 これぞまさに戦争が生んだ悲劇。

 

 シェリルさん達にもう一度会う為にも一日でも早く平和を取り戻さねば!

 

 そんなワケで幼女の音楽事情に付いての話はこの辺にしよう。

 

 私はクマガードこと青カブトと共に、新たにロンド・ベル隊へ参入したネオ・ディーバという団体に対しクレームを付けるべく、クォーターのラウンジにいるのだから。

 

 何故私が物申すかといえば、彼等があのアクエリオンに乗っているからだ。

 

 前々回に始まり、前回もまたお尻の部分がゾワゾワするような感覚を味わわせてくれた。

 

 シェリルさんとランカさんの前であんな情けない声を上げさせるとは、例え相手に他意が無かったとしてもド許せぬ!

 

 ラウンジに入るとロンド・ベル隊の若手メンバーと見知らぬお兄さんやお姉さんが会話に花を咲かせていた。

 

 オレンジ色の大人しそうなお兄さん、藍色の髪の優しそうなお姉さん。

 

 褐色の肌にエメラルドグリーンの髪をした勝気そうなお姉さんに、目つきが悪くて雰囲気はちょっと怖いけど根はやさしそうなお兄さん。

 

 ニット帽を被った『穴を掘っている』イメージがするお兄さんに、眼鏡を掛けた金髪でお胸がおっきいお姉さん。

 

 あとは眼鏡を掛けた金髪碧眼の線の細い音楽家っぽいお兄さんと深緑の髪に日に焼けた肌をしたどこか怪しい雰囲気がするお姉さん。

 

 最後にインテリチックな眼鏡を掛けた南国風のお兄さん。

 

 というか人数が多いな。

 

 あのアクエリオンってロボットはこんなに人が乗っていたのか?

 

 そんなネオ・ディーバの面々の中で、私はオレンジの髪のお兄さんの前に立つ。

 

 何故彼を選んだのかと言えば、ゾワッとした時にアクエリオンから感じた気配の一つが彼だったからだ。

 

「えっと……なにかな?」

 

「……ミユ」

 

 戸惑う彼に私はピョコンと頭を下げて自己紹介をする。

 

 初対面の人にはまず挨拶。

 

 シン兄が保護者をしてくれているのだから、礼儀を知らない幼女だと思われるのは勘弁だ。

 

「あ……ああ。オレはアマタ・ソラ、よろしく」

 

 アマタお兄さんから手を差し出されたので握手をしておく。

 

 手を握った時、羽の生えたワンコとどこかアマタお兄さんに似た野生児チックな男の子のイメージが過ったんだけど、何なんだろう?

 

「それでオレに何か用かな?」

 

「……アマタおにぃちゃん、アクエリオンにのってる?」

 

「うん、そうだよ」

 

 私の問いかけに少し照れた様子でうなずくアマタお兄さん。

 

 よし、私の勘に間違いはなかったようだ。

 

「……がったい、ミユもヒャッてなる。こまる」

 

「ヒャッって……どういう事かな?」

 

 くっ、さすがにこれでは伝わらないか。

 

 直接言うのは恥ずかしいのだが、やむを得まい。

 

「……アクエリオンがったいすると、きもちいい。こまる」

 

 私がそう言うと空気が凍ったような気がした。

 

 おや、アマタお兄さんの後ろでシン兄が鬼の形相を浮かべているぞ?

 

「どういう事だ、アマタ! お前、ミユになにやった!?」

 

「ええっ!? 知らない! オレは知らないよ!!」

 

 アマタお兄さんに詰め寄るシン兄に、それを面白がってはやし立てる他のお兄さんたち。

 

 あっという間にラウンジはお祭り騒ぎである。

 

 なんか『信じるなよ! コイツは俺の妹にも手を出した奴だ!』とかシン兄に似た声の糾弾が聞こえたけど、目的を終えた私は青い髪のミコノお姉さんたちと挨拶をしていたので知りません。

 

 あと幼女は『エレメント』とかじゃないので悪しからず。

 

 

 

 

 アクエリオンによる幼女わいせつ疑惑の翌日、ヒビキさんを始めとする学生組はネオ・ディーバの皆を連れて学校に行っている。

 

 なんでもボランティア部の活動で学校の掃除をするんだって。

 

 ネオ・ディーバも一応は聖天使学園の生徒って位置づけだから手伝うらしい。

 

 学校かぁ……できたらもう一回行ってみたいなぁ。

 

 頭の中にある思い出は虫食いのうえにドンドン消えて行ってるし、どうせなら上書きしてもいいんじゃないかと思うのですよ。

 

 もっとも幼女ボディの年齢は小学生どころか幼稚園児なので、そっちに入れられるのは勘弁だけどさ。

 

 そんな事を考えていると、直感センサーが敵意を拾い上げた。

 

 モニターを見れば、宇宙空間の中をビームサーベルを手にツッコんでいるリ・ガズィの姿が大写しになっている。

 

「……くまぱーんち」

 

『甘いっ!』

 

 反射的にクマさんの右拳を振るうけど、リ・ガズィは左に行くと見せかけて右へステップする事でそれを避ける。

 

 他の事に気を取られてた所為で、相手の動きをちゃんと見れなかった!

 

 振り下ろされるビームサーベルを寸でのところで左手を上げて防いだ瞬間、背後から衝撃を受けた。

 

 振り返ってみれば、そこには投げ捨てられたハズのリ・ガズィのビームライフルが……

 

しまった、ワイヤーの遠隔操作。

 

「あ……」

 

「もらったっ!」

 

 体勢を大きく崩した私にリ・ガズィが放つ二の太刀を防ぐ術はなかった。

 

「最後は集中できていなかったようだが疲れたか?」

 

「……がっこうのこと、かんがえてた」

 

 通信に浮かぶアムロ大尉に私は考えていた事を素直に答える。

 

 この人の場合、カミーユさんと違って共感能力に加えて人間観察力でこっちの考えを当ててくるからな。

 

 黙秘ならともかく、幼女の浅知恵では煙に巻けないのだ。

 

「学校か。ミユの年齢なら……少し早いかな」

 

「……ん」

 

 幼女ボディの事なら自分が一番よく分かってるので気を使わなくていいよ、大尉。

 

 このところの戦いでパイロットの基礎が全くできていない事を痛感した私は、『シミュレータのジェミニアに勝つ』という名目でロンド・ベルの先達の皆さんから手ほどきを受けているのだ。

 

『ところでミユって私達の相手する時にクマの両手を上げるけど、あれってどうしてなの?』

 

『私としては可愛いからいいんだけど、結構隙が大きいわよね』

 

「……なんとなく」  

 

 葵さんとくららさんの問いかけに私は視線をそらしながら呟く。

 

 ……言えない。 

 

 ……ダンクーガの威圧が怖くて反射的に『いかく』のポーズを取ってるなんて。

 

 というか、これって思考操縦の弊害だよなぁ。

 

 ちなみに『チームD』との戦績は5戦やって全部黒星です。

 

 さすがのクマさんでもパワー勝負だとダンクーガには勝てませんでした。

 

 その所為で5戦目はクマパンチの出かかりを押さえられて、ひたすら抱っこされるという屈辱を味わうことに……

 

 おのれエイーダさんめ、本当に抱っこしなくてもいいじゃないか。

 

「それでも少しずつ上達しているよ。自信を持っていい」 

 

 そう言って励ましてくれるタケルさんだけど、今日の私はその爽やかスマイルに騙されないぞ。

 

 ゴッドマーズのデッカイ剣で何度も真っ二つにされたのは憶えているからな。

 

 というか、ゴッドマーズっておかしくない?

 

 何を当てても微動だにしないし眼光の鋭さも半端ないし。

 

 ダンクーガとは別の意味で威圧感バリバリなんですけど。

 

 タケルさんには悪いけど、向かい合った時はチビりそうなくらい怖かった。

 

 アレと本当に戦ったギシン星の人には同情するよ。

 

 そんなこんなで反省会をしていると、格納庫の中に非常警報が鳴り響いた。

 

『全艦に告ぐ! 現在、第二新東京市にて機動兵器を保有したテロリストを多数確認した。これより本艦は対処の為に現場へ急行する。各クルーは戦闘配置へ付け』

 

『また第二新東京市か』

 

『たしか以前もテロリストに狙われた事がありましたね』

 

『匂うわね。あの街にはかなり厄介なモノが隠されているかもしれない』

 

『それは野生の勘ですか、くららさん?』

 

『マトリとしての経験よ、ジョニー。職務上隠されているモノに気付くのは得意なの』

 

 へぇー、くららさんって麻薬捜査官なんだ。

 

 小柄だし年も若いからもの凄く意外だ……

 

『話はそこまでだ。各員、機体の設定を切り替えろ。あと、ミユは降りてブリッジへ行くんだ』

 

 むう……やはり私は出れないらしい。

 

 分かってはいたけどやはり寂しい。

 

 仕方が無いのでクマさんから降りようとしたところ、クォーターを通じて第二新東京市の様子が映し出されたのだが……

 

「……なにあれ」

 

 そこではクマかネズミか、それともネコか分からない謎のきぐるみがテロリストのロボットと戦っていた。

 

『ふもっふー!』

 

 気合一閃、手にした重火器を乱射するきぐるみ。

 

 クランさんが言うには『ボン太くん』というらしい。

 

 彼の雄姿を見たみんなはかわいいかわいいと騒いでるけれど、そんなにかわいいかなぁ。

 

 身内びいきかもしれないけど、私はクマさんの方が好きだなぁ。

 

 そんな事を考えていると、私の直感センサーに何かが引っ掛かった。

 

 見れば修理されてクマさんの隣に置いてあるチェアーストライカーの上で、ミニクマさんが手足をバタ付かせているではないか。

 

 これはアレか?

 

 私は無意識の内にあのボン太君に対抗心を燃やしているのか?

 

 思わぬ形で知った自分の本心にちょっと微妙な気分になったけど、考えてみればこれはチャンスである。

 

 私が戦場に出るのはダメでも、ミニクマさんなら文句は言われないのではないか。

 

 私がしっかりと意識を繋げると、ミニクマさんはピョコンと椅子から飛び降りる。

 

 うむ、思考制御はクマさんと遜色ないようだ。

 

「……なまえ、あげる。……きみ、アシラ」

 

 なんとなく思いついた名前をあげるとピョンピョンと飛び跳ねるアシラ。

 

 喜んでいるように見えるのだが、もしかしてこの子には感情があるのだろうか?

 

 ともかく、今は考えている場合じゃない。

 

 外ではジェニオンも現れた事だし、アシラも行ってもらうとしよう。

 

 というワケでまずは許可を得なければ。

 

「……ジェフリかんちょ」

 

『何かね。先に言っておくが君が戦場に出るのはダメだぞ』

 

 問答無用で釘を刺してくるとはとは、酷いや艦長。

 

「……ミユ、でない。アシラがおてつだいする」

 

『アシラ?』

 

 首を傾げる艦長に、シャドーボクシングをするアシラの映像を送る。

 

『これは装備に付随していたビットモビルスーツか。……大丈夫なのかね?』

 

「……ん」

 

『わかった、許可しよう。だがクマ本体ではないからサポートに徹するように』

 

 私は自信を持って頷くとジェフリー艦長はOKを出してくれた。

 

 その後、キャシーさんからアシラが出る事が隊のみんなに伝えられると、『大丈夫か!?』とか『ちゃんと戦えるのか?』とかメッチャ心配された。

 

 アクエリオン組なんて『子供の遊びじゃない』と怒り出す人がいる始末。

 

 さすがにイラッときたので、今度シミュレーターで『伸びーーーるパンチ』を『くまぱんち』でカウンターしてやろうと思います。

 

『各員、出撃せよ!』

 

 ジェフリー艦長の命令でハッチが開いて次々と出ていくロンド・ベルの機体達。

 

「……アシラ、いってらっしゃい」 

 

 私が声に手を振って答えるとアシラは戦場へと身を躍らせた。

    


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