幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
大人しく家にいる事にします。
どうも、ミニクマ改めアシラの飼い主なミユです。
現在、私の操る青いプチッガイことアシラの前には、件の珍獣『ボン太くん』がいます。
意志を感じるという事は生き物なんだろうが、これはコミュニケーション可能なのだろうか?
………………おや?
「もっふる、ふももふもっふ?(これはクマの支援機……ミユが操縦しているのか?)」
この感覚……そうか、そういう事か。
ならば人間の言葉を使っていないのも何か意味があるのかもしれない。
『郷に入っては郷に従え』という言葉があることだし、ここは私も彼の流儀に合わせるべきだろう。
「くまー、くまくまくままくまー(そーすけさん、なかのひと)」
私はアシラに付いている外部スピーカーから即興の『くま語』を流しながら、こちらの考えをアシラのサイコフレームで増幅してボン太君へ送る。
「ふもも……ふもっふ!?(コイツ……脳内に直接!?)」
これもニュータイプ能力のちょっとした応用だ。
意味不明の言語なのに何故か理解できるという事実、フハハハハハ……怖かろう!
「もっふるもっふる、ふももふも(これがニュータイプの共感能力というヤツか……)」
「くまくまくまーくまっくま(なれるとべんり)」
「ふもふももふもっふる(肯定だ。しかしお前は戦場に出ないように厳命されていたのではなかったか?)」
「くま、くまくままくまー(ミユ、でてない。このこでおてつだいなら、ジェフリかんちょ、OKでた)」
「もっふるもっふる、ふももふもふもっふ(了解だ。ならば俺の支援に付け。奴等を駆逐する)」
「くま(……ん)」
『二匹とも、何言ってるかさっぱりわからん!!』
アルトさんがオチを付けてくれたことだし、そろそろ戦闘開始と行きましょう。
「ふももももー!」
「くまー」
『なんだ!? ネズミの次はクマが現れたぞ!』
『あのクマ、デザインはアレでもAS並みにデカいから普通に怖い!!』
『ビビるな! 相手がどんな動物だろうと関係ない、ファイア・バグを相手にしたことを後か───あべしっ!?』
『うわあぁー!! アクシオがクマのパンチ一発で飛んだぁ!?』
『あのクマ、グリズリーかよ!?』
ボン太くんと共に突撃した私は、仲間に通信をしてたっぽい黒色の量産メカを『くまぱんち』で吹っ飛ばす。
隙だらけだったから思わず手が出たんだけど、悪い事をしたかな?
「もっふるもっふる、ふもっふ(気にするな、戦場で隙を見せた奴がマヌケなだけだ)」
「くま(……ん)」
横にいたASとかいう小型機をライフルでハチの巣にするボン太くんの言葉に、私は改めて気を取り直す。
直感の警鐘に従ってアシラを動かせば、先ほどまでいた場所を横殴りの銃弾のシャワーが通り抜けていく。
『撃て撃てぇ! あのクマ公、接近戦しか出来ねぇみたいだぞ!!』
都市部をローラーで走り抜けながら銃を乱射してくるのは、キリコさん達が乗ってるロボットの仲間だ。
たしかAD……だったっけ?
名前は兎も角、遮蔽物の多い都市部でチョコマカと動き回られるのは地味にウザい。
というか、先頭にいるずんぐりした藍色の機体はなんなんだ?
キリコさんへの恨みと何故かバニー姿のカレンお姉さんのイメージが伝わってくるんだけど。
正直、こういうのを送られると幼女的には困ってしまいます。
普通に考えれば応戦するべきなんだろうけど、もし知り合いだったら取り返しの付かない事になりかねないもん。
こうなったら仕方がない。
キリコさんとカレンお姉さんに思念を送って知り合いか確認してもらおう。
ビルを遮蔽物に弾を避けていた私は、キリコさんとカレンお姉さんが交戦中じゃない事を確認してから、さっきのイメージと一緒に『知り合いじゃない? 攻撃して大丈夫?』と思念を送ってみた。
少しした後、キリコさんの方からはロボットの中でうなずくイメージが返ってきた。
多分、倒してOKってことだろう。
そしてカレンお姉さんの方は───
『カン・ユぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!! 小さい子になんてモン見せてんだぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
『な……カレンか!? 一体何の───のわあああああああっ!?』
乗ってる紅蓮が赤い流星になったと思ったら、藍色のずんぐりしたAD……え、キリコさん、あれATっていうの?
コホンっ! そのATを滅茶苦茶な機動で飛び回りながら切り刻んでいる。
『弾けろ、変態オヤジぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!』
『うぎゃあああああっ!? どうしてこうなるんだぁぁっ!!』
あ、顔を掴んだ紅蓮のゴツい腕からエネルギーを送られて爆発した。
『ミユ、今見たものは忘れなよ』
赤く光る翼を広げながらアシラを見下ろすカレンお姉さん。
カッコいーなー。
「……くま」
それに関しては別にいいよ。
仲間でもあんな姿で戦ってたとか知られたら恥ずかしいだろうし。
さて、アシラに弾丸をばら撒いていたAT達もカレンお姉さんの怒りの余波で蹴散らされた事だし、ボン太くんに合流することにしよう。
アシラをビルの影から飛び出させると、ボン太くんは敵主力と思われる一団と銃撃戦を行っていた。
『クソがッ! 俺達は悪名高いファイアバグだ!! 姫がいないからってぬいぐるみ共に負けてたまるかよ!!』
そう吼えながらライフル弾を放つアクシオっていう黒いロボ。
マオ姐さんとかクルツさんの戦いを見てるから分かるけど、3体のアクシオの連携は相当に上手い。
三発撃つごとに後ろの仲間と交代して弾が途切れないようにしてるし、撃ってる時や交代する時も相手の動きから目を離してない。
さっきのAT乗りみたいに弾をばら撒くだけとは大違いだ。
「もっふるもっふる、ふもっふ(テロリストながら奴等の練度は高い。手はあるか?)」
銃弾を切り抜けてビルを遮蔽物にしているボン太くんの傍に行くと、彼はそう切り出してきた。
「くま、くまくまくままー(かたまってたら、いちどでたおせるビームある)」
「ふもも、もっふるもっふる、ふもっふ(了解した。俺が奴等に隙を作る、お前はそれで奴等を一網打尽にしろ)」
「くま(ん!)」
打ち合わせが終わるとボン太くんはビルの影から飛び出した。
そう言えば、『戦うな』って言われないのって初めてかもしれない。
ゴロゴロと地面を転がりながら敵の弾丸を躱したボン太くんは、腹ばいの体勢になるとライフルの銃口の下から爆弾を放つ。
放物線を描いて飛んだ爆弾は、アクシオたちの足元に落ちるとキラキラと光る煙をまき散らす。
「もっふる! ふもっふーーー!!(ミユ、やれ!)」
その言葉を合図にビルから飛び出すアシラ。
「くまーーーーーー!」
アシラに『くまびーむ』と念じると、あの子の口がカパッと開いてトンデモない太さのビームが放たれた。
これはヤバいと反射的にアシラの身体を反らせたから街に直撃はしていないけど、高いビルの屋上なんかはカスッたかもしれない。
アクシオ達は胸から上が消滅して、パイロットの顔が見えてる。
三人ともヘルメットをしてるのに、頭のてっぺんだけ赤くなった地肌がみえてるんだけど……
もしかして今のは相当ヤバかったのではないだろうか?
『うわあああああっ! あれはクマじゃない悪魔だぁぁぁぁ!!』
『オレ、死んだ婆ちゃんに聞いたことある! あれは赤カブトっていうバケモノなんだ! 婆ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!』
『お……お助けぇぇぇぇぇぇっ!?』
さすがにあのアクシオでは戦えないのだろう、機体を捨てて這う這うの体で逃げていくテロリスト達。
というか、最初の奴は誰が上手い事言えと……
それと私のガードと色違いで伝説のクマがいるとか、マジなのだろうか?
そんなどうでもいい事は兎も角、周辺の様子を確認するとテロリストたちは全て撃退されていた。
街の被害は背の高いビルと高校らしき学校の校舎くらい。
あれだけロボット達が暴れまわってこのくらいなら、軽い方じゃないだろうか?
などと幼女は考えていたのですが、どうも事情が異なるようです。
「しかし、あれだけの騒ぎがあったのに、大貫さんは寝ているみたいですね」
「陣代高校にも少し被害が出ちゃったか」
「拙い……拙いぞ、これは」
ワッ太君や正太郎君が話していると、竜馬さんが震える声でこう言ったからだ。
「どうしたんです、竜馬さん」
「急げ、お前等! 大貫さんが目を覚ます前に全て片付けるぞ!」
竜馬さんの一喝を受けて、学生たちは急いで母艦へとロボットを返しに行く。
あの怖いもの知らずな竜馬さんがこんなに焦るなんて、きっと凄く拙い事が起こるのだろう。
ここは私もお手伝いすべきだと思う。
そんなワケでクマさんから降りた私はアシラをクォーターに戻すと、青カブトを連れて学生連中に合流した。
「どうしたんだ、ミユ」
「……おそうじ、おてつだいする」
アルトさんに尋ねられたので、青カブトを抱っこしながら答える。
これも私が戦力外でもこの子は力仕事で役に立つぞ! というアピールだ。
「本当にいいの?」
「……ん」
「そっか、ありがとう。いい子だね」
ミコノお姉さんの言葉に頷くとMIXお姉さんが頭を撫でてくれた。
ちなみにMIXお姉さんはネオ・ディーバのメンバーにいた眼鏡を掛けたお胸のおっきいお姉さんである。
こうして件の陣代高校へ向かった私は、ワッ太さんや正太郎さんと小さなゴミを拾う仕事をした。
青カブトはお兄さん連中と一緒に力仕事だ。
「ねえ、この子もみんなの仲間なの?」
拾ったゴミをゴミ袋に捨てていると、長い蒼色の髪のお姉さんと会った。
「……ミユ」
「私は千鳥カナメ。よろしくね、ミユちゃん」
自己紹介するとカナメさんは笑顔で私の頭を撫でてくれる。
「ミユは特殊な事情があってロンド・ベル隊で保護されているんだ」
「じゃあご両親は?」
「……ご両親については僕らも分かりません。ですがシンさんがお兄さんをしています」
ワッ太君と正太郎君の説明を聞いて、カナメさんは『大変だね』と同情してくれた。
私的にはもう慣れたというか、ロンド・ベル隊の生活が波乱万丈過ぎてそんな事を考えてる暇もなかったなぁ。
そんな事を考えながらポケーッとしていると、直感センサーに妙な反応があった。
感じたのは悲鳴というか助けを求める強い想いだ。
どうも送り主が人間じゃないっぽいんだけど、さすがにコレは見て見ぬふりは出来ない。
「……あお」
私の声と思念を受けると青カブトはすぐに駆け付けてくれた。
「ちょっ……ちょっとミユちゃん!」
「……たすけてってきこえた」
「なんだって!?」
「ちょっと待って、僕達も行くよ!」
私を抱っこして走る青カブトの後ろをついて来る正太郎君にワッ太君、そしてカナメさん。
私を抱き上げた青カブトを先頭に校庭を駆け抜けると、想いの出所である校舎裏へ辿り着いた。
そこでは大人でも両手で抱えるくらいに大きい鯉を宗介さんが地面に押さえつけて、もう一人の男子高校生が石を振り上げている。
「……だめ!」
この鯉が助けを求めていたんだと感じた私は、幼女ボディで出せる最大限の声を張り上げた。
「ミユ、どうしてここに」
「千鳥さんと……誰だ?」
二人が呆気に取られている隙に、私は拘束が緩んだ鯉を宗介さんの手から救出すると後ろにあった溜池へと逃がしてやる。
「なにをするんだ。あれは大貫さんに出す夕食のおかずにするつもりだったのに……」
「そうだ。鯉は滋養満点なんだぞ」
「……だめ」
二人が抗議の声を上げるのを、私は青カブトと手を広げて溜池を庇いながら切って捨てる。
常識的に考えて学校の中で飼ってる生き物を勝手に取ったらダメだから。
あまつさえ料理して用務員さんに食べさせるなんて論外である。
その人が可愛がってたらどうするんだ、まったく。
「学校の中で食材を調達してんじゃないわよ!!」
私の心の声はハリセンの一撃と共にカナメさんによって二人に叩きこまれた。
◆
それから私達は近所の商店街に魚を買いに行った後、調理はボランティア部の他のメンバーに任せて用務員のおじさんの所へ行った。
理由は勿論、鯉をケガさせてしまった事を報告する為だ。
宗介さんや共犯だった椿さんも悪意があったわけじゃないし、こういう事は本人が知る前に正直に申し出る方が穏便にすむ事が多いのだ。
「「「「「ごめんなさい」」」」」
事の次第を正直に話して全員で頭を下げると、用務員の大貫さんは笑顔で許してくれた。
鯉(カトリーヌというらしい)を殺そうとしたと伝えた時に大貫さんが一瞬浮かべた『この世のモノとは思えない形相』はちびるくらい怖かったけど。
それからは大貫さんに私達が用意した夕食を食べてもらい、陣代高校の生徒さんからお礼を言ってボランティア部の活動は終了となった。
帰り道でカトリーヌ殺害未遂の事をみんなに伝えると、竜馬さんは真っ青な顔で宗介さんの頭を叩いてこう言った。
「お前、ミユに感謝しろよ。あの鯉を手に掛けてたら、お前と椿って奴は大貫さんにバラバラにされてたぞ」
他のボランティア部の皆は『まさか』と笑い飛ばしていたけど、あの形相を知る私達はまったく笑えなかった。
今日からカトリーヌが快復するように祈る事にしよう。