幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 スパロボと関係ないけど真メガ3がリメイクされるそうです。

 メッチャハマったゲームなので、メガテンファンとしてはとっても嬉しい。

 アークエンジェルと出会った瞬間に、ハマを食らってパトッたのはいい思い出。

 あの地獄をまた体験できるなんてウレシイナー(ドM)


幼女、宇宙魔王と会う

 祝、部隊再編および部隊名変更!

 

 『ロンド・ベル隊』改め『Z-BLUE』でお世話になっているミユです。

 

 ロンド・ベル隊と極東支部、さらには民間協力者の混成部隊だったウチだけど、このたび大統領の指示で『Z-BLUE』という一つの部隊へと生まれ変わった。

 

 大統領のお墨付きとかメッチャすごいんじゃないだろうか。

 

 ちなみに『Z-BLUE』の名前の由来は青い地球と人々を護るという使命、その不退転の決意を込めてアルファベットの最後の文字『Z』を当てたらしい。

 

 あとUCWとADWという二つの世界を護った最強部隊が共に名前に『Z』の文字を冠していたから、それを引き継ぐ意味もあるんだって。

 

 そんな部隊にお世話になっていると考えると、幼女も身が引き締まる思いです。

 

 そんな私ではありますが、現在はクマスーツではなくフリフリの白いワンピースを着せられています。

 

 むむ……なんというかもの凄く心細い。

 

 記憶の中では薄着の服やスカートなんて飽きるほど着ていたはずなのに、クマスーツの全身を包むフィット感と温かさが感じられないと心許ないのだ。

 

「うぅ……クマさん」

 

「いい加減諦めなよ。アンタだって女の子なんだから、おしゃれの一つもしないと」

 

「そうそう。あのクマさんスーツも可愛いんだけど、着たきりスズメっていうのはちょっとね」

 

 スカートの裾を握り締めてうつむいていると、カレンさんとさやかお姉さんがポンポンと頭を叩いてくる。

 

 私がこんな目に遭ってるのは、私がクマスーツしか着ない事に女性陣からクレームが出たからだ。

 

 あれ以外はクマさんパンツしか持っていない事が判明した時は、シン兄はお姉さん達に烈火のごとく怒られていた。

 

 みんな、待ってほしい。

 

 シン兄が服を買ってくれなかったワケじゃないんだ!

 

 私がクマスーツがあるからいらないと断り続けたのがいけないんだよ!

 

 そう庇ったのだけれど、女性陣からしてみると私の言葉に引き下がったのがギルティらしい。

 

 そんなワケで糾弾されるシン兄を助ける為、私はクマスーツを脱ぎ捨てる必要があったのだ。

 

 でも一刻でも早く針の筵から我が兄を救おうと急いで脱いだら、今度は人前でパンイチになるなと私が怒られた。

 

 なんという理不尽であろうか。

 

 幼女は抗議したい思いでいっぱいである。

 

 さて、私達は謎の爆発を起こした長距離観測ステーションの確認する為に宇宙へと戻って来たところだ。

 

 変な話だけど、宇宙に出ると身体に乗せられてた重しが取れたみたいで気分が高揚する。

 

 ニュータイプは『生活圏を宇宙に移した事で感覚が鋭敏になった人類』だそうなので、その影響なのかもしれない。

 

 現在クォーターのラウンジに集まってる人たちの話題は『ラッキースケベ』という何ともコメントしづらいものだ。

 

 なんでもドラゴンズハイヴに配置されているアマタお兄さんが、以前にミコノお姉さんのお尻へ顔から突っ込んだということがあったらしい。

 

 もちろんアマタお兄さんにエッチぃ考えはなく完全な事故だそうだが、だからといって『はい、そうですか』と許すにはミコノお姉さんの受けた被害が大きすぎる。

 

 今は仲直りしているそうだが、事件当初は相当怒ってたんだって。

 

「しかしアマタの奴、結構な頻度でその手の騒ぎを起こすよな」

 

「アイツ、エレメントの能力を制御できてないみたいだからな」

 

「たしかドキドキしたら身体が浮くって奴だよね」

 

「そうそう。それで体勢を崩してミコノを巻き込む場合が多いみたい」

 

 上から甲児お兄さん、シン兄、カレンお姉さん、さやかお姉さんの発言である。

 

 話題が話題なので幼女は会話に混ざっておりません。

 

 机の端でミカンジュースをチューと飲んでおります。

 

 しかしアマタお兄さんはそんな不埒な人なのか。

 

 今度から極力近づかないでおこう。

 

「不可抗力なのは仕方ないとして、改めて考えるとアマタって割とおいしいポジションだよな」

 

「たしかにラッキースケベなんてそうそう体験できるもんじゃないし」

 

「馬鹿言ってんじゃないの。ミコノだから手が出てないけど、私達にやったらビンタじゃすまないよ」

 

 ポロッと出た本音をカレンお姉さんに咎められて肩を竦める男性二人。

 

 なるほど、シン兄もああいったのは羨ましく感じるのか。

 

 思えば、恋人のルナさんと離れてひと月近く経つ。

 

 シン兄だって健全な男の子なんだから、女性の肌が恋しいと思うのは自然な事だろう。

 

 そう考えた私はプラプラさせていた足を止めて、ぴょんと椅子から飛び降りた。

 

 そしてシン兄のところに行くとバッと両手を広げてみせる。

 

「……どうぞ」

 

「どうした、ミユ?」

 

 私を見下ろしながら頭の上に『?』マークを浮かべて首を捻るシン兄。

 

 ふむ、やはりこれでは分からないか。

 

「……ラッキースケベ、いいよ?」

 

 言葉と共に私は軽く首を傾げてみせる。

 

 ルナさんと離れたのは半分は私の所為みたいなものだ。

 

 そのうえ衣食住まで世話になっているのだから、この位の恩返しはしても罰は当たらないだろう。

 

 さあ、こんな幼女ボディでよければ思う存分貪るがいい!

 

 そんな事を考えていると、シン兄はこの世の終わりのような表情を浮かべてテーブルに突っ伏してしまった。

 

「……ヒイロ、俺は最低なヤツだ。俺を殺してくれ」

 

「俺はお前を殺さない。自分の始末は自分でつけろ」

 

 通りすがりのヒイロさんに無茶苦茶な注文を出すシン兄。

 

 何言ってんの! 自殺なんてダメだよ!!

 

 慌てて慰めに行こうとした私だが、何故か激おこのさやかお姉さんとカレンお姉さんに連行されて、たっぷりと説教されてしまった。

 

 恩返しをしようと思っただけなのに、どうしてこうなるんだ!?

 

 

 

 

 淑女とは? という難題に頭を悩ませているミユです。

 

 私は今、何時ぞやのようにクォーターのブリッジでマスコット兼レーダー役をしています。

 

 あれから長距離探査ステーションの事故現場へと到着したのだけど、そこには『宇宙魔王』の軍団を名乗る謎のロボット達が待ち構えていた。

 

 コイツ等はアクエリア市の初戦で介入してきた『魔王』の手下と同じらしい。

 

 迎撃の為に『Z-BLUE』の皆は出撃したんだけど、さも当然のように私にはお留守番が命じられた。

 

 というか、クマスーツが没収されてるのでクマさんに乗る事が出来ません。

 

 あの尻尾には思考制御用のカッチンがあるのに……酷いよカレンお姉さん

 

 しかも操作ミスで無くすと駄目だからとアシラを使うのもダメって言われる始末。

 

 アレもダメこれもダメじゃあ、私に出来るのは人間レーダーしかないじゃないか。

 

「……ひだりうえからUFOふたつ、みぎのかいじゅうはしたにさける」

 

 仕方が無いのでこんな感じで説明していくと、クォーターの全身から放たれるビームは次々と敵を墜としていく。

 

 実はこうしている方がクマさんで出るよりみんなの役にたっているのでは……。

 

 頭によぎったイヤな考えを振り払って皆の様子を見てみると、『Z-BLUE』としての初陣という事でメンバー達はノリノリで敵を撃ち落としていた。

 

 タケルさんが不動明王殺法(ファイナルゴッドマーズだっけ?)で双頭のヘビみたいな機体を両断すれば、赤木さんのダイガードが腕に着いた巨大なパイルバンカーでドクロ型のロボットを串刺しにする。

 

 桂さんのオーガスが敵の円盤にミサイルの雨を浴びせた次は、スカル小隊の機銃の嵐が待っている。

 

 モビルスーツ隊もユニコーンのえげつないビームを先頭に十字砲火を放ち、それに耐えた敵もマジンガーとゲッターの鉄拳と斧の餌食になる。

 

 ダンクーガがトンでもビームをゼロ距離射撃すれば、トリの形をしたエネルギーを纏ったトライダーが次々に敵を切り裂いていく。

 

 いっそ清々しいほどの勢いで消えていくスペースロボとかいう悪趣味なロボや円盤たち。

 

 みんながみんな無双しまくってて戦局はほとんどワンサイドゲームでございます。

 

 ただ、そんな中でも一人というか一機心配なメンバーがいる。

 

 それは正太郎君が操る鉄人の相棒であるブラックオックスだ。

 

 彼は鉄人と違って人工知能によって動くそうなんだけど、この任務に出る際にドラゴンズハイヴでトラブルを起こしていたらしい。

 

 それが原因か、クラッシャー隊のケンジさんから出撃禁止命令を受けているのに勝手に出てきてしまったのだ。

 

 入れ込み気味に敵へと向かっていく彼に、正太郎君は『オックスはまだ子供なんです』と各員へフォローをお願いしていた。

 

 けれど、あの時私がオックスから感じたのは不満というか反発というか……とにかく怒りの感情だった。

 

 とはいえ大貫さんのカトリーヌと同じく、人間以外の想いというのはなかなかに掴みにくい。

 

 あの時は彼女が命の危機だったからこそ心の叫びを読み取る事が出来たけど、今のオックスはそうはいかない。

 

 今だって彼が仲間を拒絶するような壁を張っているのは分かるけど、それも靄がかかったようにハッキリしないのだ。

 

 クマさんの中ならサイコフレームの補助もあるし、もう少し上手く読めるんだろうだけどなぁ……。

 

 そんな事を考えていると、鉄人がジャンプキックで敵母艦らしき巨大円盤をあと一歩まで追い詰めている。

 

 これで終わりかとホッとしたところ、私は息が止まる程の強烈な重圧を感じた。

 

 頭の中に浮かぶのは暗く冷たい、全てを吸い込むような底なしの深淵。

 

 頭を締め付けるような痛みに足の力が抜け、身体が落下するような感覚を最後に私の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

「ミユちゃん!」

 

 宇宙魔王を名乗るブラックホールの化身の出現に戦慄する『Z-BLUE』、その中でキャサリン・グラスは自分達が保護していた少女の異変に気が付いた。

 

 固い甲板に膝をついて頭を抱える小さな少女。

 

 いつものクマスーツではなく純白のワンピースドレスだからか、その姿は今にも消えそうな程に儚く感じてしまう。 

 

「いかん! すぐに医療班を!!」

 

 ジェフリーが指示を飛ばした瞬間、ミユはゆっくりと立ち上がると覚束ない足取りで出て行こうとする。

 

「待って、どこに行く気なの!」

 

 キャサリンは慌ててミユの細い腕を掴もうとするが───

 

「……じゃま」

 

 少女の口から出たまるで感情を感じさせない声と共に、彼女は見えない壁に当たったかのように後方へ弾き飛ばされてしまう。

 

 ブリッジの一同が突如として引き起こされた不可解な現象に唖然としている隙に立ち去るミユ。

 

 我に返ったモニカが慌てて追ったモノの、ブリッジを飛び出した彼女が見たのは人影が全くない廊下だった。

 

 次々に起こる異常事態に浮足立つクォータークルー。

 

 彼等に活を入れようとジェフリーが大きく息を吸い込んだ瞬間、さらなる厄介事が舞い込んでくる。

 

「艦長! 格納庫のハッチが現場手動で解放されました! ベアッガイが出撃します!」

 

「なんだと!? 誰が乗っている?」

 

「生体反応は……ミユちゃんです!」 

 

 返って来た艦内ステータス担当のミーナの声にジェフリーは歯噛みする。

 

 この短時間でどうやって格納庫へ行ったのかなど、疑問は多々残るがそれは後回しだ。

 

 ミユが見せたあの変貌は恐らく宇宙魔王から何らかの思念を感じ取ったのが原因なのだろう。

 

 ならば、そんなコンディションで戦場に出すワケには断じていかない。

 

「ベアッガイに通信を!」

 

「ダメです! こちらからの通信を拒絶されています!」

 

 こちらが手をこまねいている内にクォーターを飛び出したベアッガイは、驚くべき速度で宇宙魔王の手で出現したブラックホールへと突入していく。

 

「どうするの、ボス!?」

 

「各機に通達! なんとしてでもベアッガイを止めるんだ!!」

 

 ボビーの悲鳴にも似た声にジェフリーが声を荒らげた瞬間、索敵担当のモニカからも悲鳴が上がった。

 

「大変です、艦長! オックスも……ブラックオックスもブラックホールに!!」

 

「何という事だ!」

 

 次々と起こる厄介事に、ひじ掛けへ鉄槌のような拳を叩きつけながらジェフリーは吐き捨てるのだった。

 

 その頃、ブラックホールの淵に立つベアッガイの中では、操縦者であるはずのミユが虚ろな視線を漂わせていた。

 

 彼女の代わりと言わんばかりに機体コンディションを示すディスプレイでは、目まぐるしく文字が流れ続けている。

 

『負のシンカ存在を確認。能力値の測定開始』

 

『対象は超重力を動力源としている模様。またその中心部に次元力の存在を感知』

 

『対象の体組織サンプルの取得を希望。ブラックホールの中心への移動は可能か?』

 

『中心部における重力圧の計測は困難。何かしらのテストケースがあれば測定の可能性アリ』

 

『後方からブラックホールに接近する機体アリ。個体名『ブラックオックス』。所属部隊の無人機と確認』

 

『無人機を重力圧測定のテストケースとする事を提案』

 

『その案に同意。計測センサーを無人機へと射出する』

 

『同案を否定。彼はミユの仲間である、犠牲にする事は許されない。パイロットの覚醒措置を実行』

 

『先の案を却下する。パイロットの覚醒措置を中止せよ』

 

『措置の中止は不可能。奴はガードユニットを手中に収めている』

 

『コアユニット、覚醒まであと5秒』

 

『今回のサンプル取得は断念。───No09……いやT・Kよ。この借りは高くつくぞ』   

 

 

 

 

 目が覚めるとクマさんの中にいました。

 

 しかも青カブトが私の頭に被さっている。

 

 モニターに宇宙の蒼とそこに渦巻くブラックホールが見えるという事は、私は勝手に出撃したって事だよね。

 

 クォーターのブリッジで意識を無くしてからここまで、まったく何も憶えてないんだけど!

 

 というか、どうすんのコレ!?

 

 私、クマスーツ着てないし!!

 

 半泣きになりながらワタワタしているとセンサーがビーッと警戒音を上げた。

 

 慌てて目を向ければブラックホールに吸い込まれそうなオックスの姿が!

 

「……オックス!」

 

 焦る私の意思に反応して、クマさんは重力の渦に巻き込まれそうになっているオックスの下へ飛ぶ。

 

「……まにあって!」

 

 祈りながら手を伸ばすとギリギリのところで、オックスの手を捕まえる事が出来た。

 

 でも吸い込む力が物凄く強い!

 

 リボンストライカーを全開にしてもドンドン引き込まれていく私達。

 

 けれど、機体に軽い衝撃を受けると同時に少しだけ負荷が軽くなった気がした。

 

『ミユ! 大丈夫か!?』

 

『僕と鉄人も手伝うからオックスを放さないで!!』

 

 見ればデスティニーと鉄人がクマさんを支えてくれていた。

 

『頑張れよ、ミユ! 俺達もすぐに行くからな!』

 

『オックスの奴を助けたら、無断出撃はチャラにしてやる!』

 

 通信を繋げれば届く甲児さんと竜馬さんの声。

 

『全機、ミユを支援するぞ! ワイヤーやムチを装備した機体はそれをオックスに絡めるんだ!』

 

『了解した! ノイン、私がヒートロッドを放つ!』

 

『では私は飛行形態の推力を活かしてけん引を補助します』

 

『クソッ! こういう時に五飛がいればなぁ』

 

『無駄口を叩いている暇は無い。ミユを支援するぞ』

 

『Z-BLUE』の皆で必死に私とオックスを引っ張るけれど、やはりブラックホールの力は強烈なのか。

 

 少しずつオックスの身体が重力の渦の中心へと飲まれていく。

 

『貴様等程度で我が超重獄を振り切る事は出来ん。諦めて命乞いでもするがいい』

 

 頭を揺らすような圧と共に放たれる声。

 

 モニターを見ればマントを広げて、ブラックホールをお腹に納めるようにこちらを見下ろす黒い鉄兜の影がある。

 

 さっき私の意識を奪った宇宙魔王だ。

 

 圧し潰されそうなプレッシャーは変わらないけど今は気を失ってる場合じゃない。

 

 私は歯を食いしばって奴の姿を睨みつける。

 

 あんな力を持つ相手にしてみれば私達なんて虫けら同然なのだろう。

 

 それでも……それでも私達は仲間を見捨てない!

 

 それでも私達は諦めない!!

 

 折れそうな心を必死に奮い立たせてスロットルをさらに絞り出そうとすると───

 

『そんな寝言がきけるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

      

 宇宙魔王の重圧を跳ね除けるような熱い男の人の声が耳を打った。

 

 思わず後ろに目を向けるとモニターには地球を背後に腕を組む、頭と胴体に顔が付いた赤い機体が仁王立ちしていた。

 

『グレンラガン!? シモンなの!』

 

『シモンさん!』

 

 葵さんの驚く声や正太郎君の歓声を聞くに彼は『Z-BLUE』の仲間なのだろう。

 

『オックス、もう少しだけ耐えろ!』

 

 皆の声を背にグレンラガンというロボットは宇宙を駆けると、なんと迷うことなくオックスの下へと飛び込んだのだ。

 

『俺に捕まれ、オックス!』

 

 オックスの傍まで移動したグレンラガンは、私が掴んでいる方とは逆の手を自分の肩に掛けさせる。

 

 けれどその所為で私達に二機分の負荷が掛かり、ブラックホールへと吸い込まれる速度がさらに増す。

 

 あのシモンって人はいったい何がしたいんだ!?

 

『愚かな……自ら暗黒へ呑まれに来たか』 

 

『拙いぞ、シモン。このままでは……!』

 

 宇宙魔王の嘲りを含んだ声にグレンラガンの同乗者から焦りの声が漏れる。

 

 けれど、赤い機体から感じるシモンさんの意志に焦りはない。

 

『ドリルは一回転させれば、その分だけ前に進む! だったらここは───』

 

 次の瞬間、グレンラガンの両足から巨大なドリルが生えてきた。

 

『逆回転だ!』

 

 ドリルが回転する甲高い音が響いたと思ったら、ブラックホールの吸引力に倍する力で私達は重力圏からはじき出された。

 

 クマさんの姿勢が整うまで宇宙を漂っていた少しの間、私が感じていたのは『風』だった。

 

 猛り逆巻く事で閉塞した世界を穿ち、見た事も無い新たな場所へと誘う風。

 

 そんな強い力がグレンラガンのドリルからは吹いていた。

 

『なんだと……?』

 

『どうだ! これが俺のドリルだ!!』 

 

 宇宙魔王の漏らした驚嘆の声に真正面から言い放つシモンさん。

 

『獣の血、水の交わり、風の行き先、火の文明、そして太陽の輝き……神話の果てに滅びを望むか、地球人よ』

 

『舐めんじゃねぇ! 宇宙魔王かなんだか知らないが、地球に手を出すってんなら俺とダチ公達が相手をしてやるぜ!!』

 

『シモンさんの言うとおりだ! 宇宙魔王! 地球をお前の好きにはさせないぞ!!』

 

『貴様等を相手にするのは今ではない、終末の日を待つがいい。────ダンカン、例の件は任せたぞ』

 

『御意!』

 

 ブラックホールと共に宇宙魔王が姿を消すと、同時に巨大円盤も何処かへと撤退した。

 

 なんだか黒い戦艦みたいのを置き土産にしてるけど、メッチャしんどいので頭が回らない。

 

 ポケーッとしていると私の様子を察したのか、さやかさんのアフロダイAに抱っこされた。

 

『ミユちゃん、調子悪いの?』

 

『……つかれた』

 

『だったらクォーターに戻りましょう』

 

 それは魅力的な提案だけど、まだ敵がいるのに戻るのは拙いのでは?

 

「……てき」

 

『心配しなくていいわ。もう片付くし』

 

『ギガァッ! ドリルゥッ! ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

 さやかさんの言葉に顔を上げると、私の目に飛び込んできたのは最後の黒い戦艦をグレンラガンのドリルが貫く光景だった。

 

 

 

 

『重力圏脱出の際、螺旋力の干渉で剥がれ落ちた負のシンカ存在の組織サンプルを回収成功。解析を開始』

 

『出来損ないとはいえシンカの道標へと至った存在である。その取扱いには十分注意して事に当たれ』

 

『奴等を打倒する糸口となる可能性アリ。量子コンピューター・ルキフグスの全能力を以て微細も残さず解明せよ』

 

『必要であれば、この世界のヴェーダに干渉する事も許可する』 

 

『生体コアが『風の行き先』を感知』

 

『これでシンカへの四ツ道標は揃った。後は各々を高めていくのみ。早急に各機体のサンプルの取得を急げ』

 

『超合金Zの解析ならびに光子力エネルギーの抽出完了。同マテリアルを基に超合金Zの剛性とナノラミネートコートの耐ビーム性能、ガンダリウム合金の環境適応力を兼ね備えた新金属を開発。『超合金ニューZ』と命名する』

 

『超合金ニューZのサイコフレーム化および各種装甲材への転換処理を許可』

 

『No9の今回の独断に対するペナルティは?』 

 

『───アレは未だ使いどころがある、最終段階へ移行の目途が立つまでは泳がしておけ』 

 

 

 




クソコテ様『(瞳が)ギラッ☆』

クマさん、敢えて火中の栗を拾うか?

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