幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
主と馴れ馴れしくするとは万死に値する!
すこぶる嫉妬深いこの生物は、相手が女の子だろうと子供だろうと関係なかった。
『次に主へ触った時は、犬の匂いがするオスのように咬み付いてやろう』
そう思っていた。
しかしそれは見てしまった。
幼い人間のメスの上に乗った恐怖の存在を。
オモチャにしか見えない赤い機体のキャノピーの奥がピカッと輝いた瞬間、シュシュは今までにない絶望に震えた。
『────零に還るか?』
光で書かれた文字の向こうに立つ魔神としか言いようのない巨大な影。
『だ、駄目だ、勝てぬ! あのメスの背後にいるのがこいつでは絶対に勝てぬ!!』
『ぬああああああっ!!』
それ以来、シュシュはミユを見ると一目散に逃げるようになったという。
全ての要素が絡み合う因果律の坩堝の中、『ソレ』は漆黒の玉座に腰掛けていた。
もし人がこの地に踏み入ったならば、漆黒の巨体に不破の権能を漲らせる『ソレ』の事をこう呼ぶだろう。
『魔神』と。
それは黒鉄の城と呼ばれるスーパーロボットに端を発する数多の因果を手繰りながら黄金の眼を細める。
鋼の指で糸を弾けば、そこに紐づいた世界がユラユラと揺れる。
ある世界ではゲストと呼ばれた異星人達が魔神によって完膚なきまでに蹂躙されていた。
黒鉄の城を『時代遅れ』と罵った愚か者がいた『鐘』の名を持つ部隊は、紅蓮に燃える母星の中で消し炭と果てた。
ある世界では宇宙の王者と偉大なる勇者を踏み砕く魔神がいた。
世界の鍵たる乙女と獅子はその根幹たる至宝を抉り出されて屍を晒し、呪われし放浪者は二度と復活できぬように存在の因果すらも塵も残さず焼滅した。
そして天へと吼える魔神の手には世界を玩具にしようとした道化の首が哀れにぶら下がっている。
ある世界では調律の歌を奏でる天使と紫紺の堕天使の首をネジ折った魔神が『天』を司る機神と対峙している。
ある世界では真の力を解放し、3つの写し身を創り出した重力の支配者との戦いに凄絶な笑みを浮かべる魔神がいた。
かつて自分が膝を屈した可能性の光、その因果も随分と集まった。
こうして並行世界への介入を続ければ、地上最強の名は永劫に己の物となろう。
上機嫌に口角を吊り上げる魔神は、とある世界に繋がる因果に指を掛ける。
糸の先でゆらゆらと揺れる世界のビジョンでは、黒鉄の城に向かって手を合わせる幼子の姿があった。
彼女から向けられる想いを魔神は好ましく思っている。
今まで自分と相対してきたモノ達は、全て自分の事を最凶最悪の魔神と忌み嫌っていた。
向けられるのは憎悪・恐怖・狂気など負の感情ばかり。
そうでないなら自分の事を利用しようという唾棄すべき欲望だ。
だが小さき娘が自分に送る想いは違う。
自分と言う存在を受け容れ、尊敬し、純粋な好意を寄せてくる。
それはかつて魔神が相棒と共に人類の守護者であった時、自分を見上げていた子供達から感じていた物だった。
思えば定められた敗北の汚泥に沈む事へ反逆したのは、相棒の『最強たれ』という願いの他に、子供達の期待を裏切りたくないという思いもあったのだろう。
その為に力を蓄え因果を覆して神へと至ってみれば、相棒を始めとして多くの人間から忌み嫌われるのだから、世界とは皮肉が効いている。
そんな中で向けられた有象無象の悪感情など比較にならない程に染みわたる彼女の想い。
それは魔神の力を以てしても因果を繋ぐのが難しかった彼の世界の糸を掴む一助となった。
すでに忌まわしい紛い物共の駆逐は終わり、他の魔神共が干渉する可能性は排除しておいた。
この世界に関わる事が出来る魔神は自分ただ一柱のみだ。
自分が贈った守護者を頭に乗せて去っていく娘の後ろ姿を見ながら魔神は考える。
あの世界の誰も気づいてはいないだろうが、彼の娘は次元ではなく事象の特異点と言うべき存在だ。
類稀な感応力が様々な想いを結び、束ねられた意志が因果に干渉する事で定められた運命を覆す。
だからこそ魔神は彼女に己が庇護を与えたのだ。
『巫女よ……運命という名の神を殺す少女よ。数多の可能性を磨き上げ我が供物とせよ。我はそれを喰らい更なる力としよう』
楽しげに呟くと魔神は因果の糸から指を放して玉座から立ち上がった。
本格的にあの世界へ手を伸ばす前にやらねばならない事がある。
紛い物共を始末した時に取り込んだ乙女と獅子の至宝も、そろそろ光子力に還元されて身の内に馴染んだころだ。
この世界の黒鉄の城に干渉する異物を排除するのはいい腕試しとなるだろう。
魔神が因果律操作で転移すれば、足元には次元の深淵に囚われた光の神の姿が見える。
虚無の闇の中でゆらゆらと揺らめく儚き光、それを見た魔神は嘲りの笑みを浮かべる。
あんな卑小なモノが光子力であるものか、と。
『どういう事だ? この次元の檻でも感じられた地球の弟妹達の輝きが感じられぬ!?』
焦りの声を上げる神に向けて、魔神はゆっくりと五指を広げた右手を向ける。
そしてその指に力を込めて閉じ始めると、それに応じて光の神を捕えた次元牢も徐々に縮小していく。
『次元の檻が! これは御使いの仕業か!?』
見当はずれな推論を吐きながら必死に檻を支えようとする光の神の姿に魔神は目を細める。
『マジンガーZは唯一無二のスーパーロボット、その基になるモノなどあってはならない。────零に還れ』
『ぬおおおおおおおおおっ!?』
魔神が一息に手を握り締めると、収縮された次元牢はその内に捕らえた獲物を磨り潰さんと牙を剥いた。
支えていた両手足が圧壊して成す術が無くなった光の神は、血反吐と共に叫びをあげる。
『貴様は……貴様はなんなのだ!?』
その胴体までもが圧し潰され始めた機械神に魔神は凄絶な笑みと共に言葉を紡ぐ。
『な ん だ と 思 う ?』
◆
これから始まる一大決戦に緊張しているミユです。
砲撃型使徒との決戦を目前に控え、『Z-BLUE』の皆は所定の配置に就いている。
シンジお兄さんとレイお姉さんも、アクエリオンを直衛にして大型ビーム砲で狙撃体勢に入った。
今回は私も無理を言ってクマさんで戦場に出ている。
最初は艦長さん達も反対していたけど、今回が総力戦だというのならクマさんの能力を出し惜しみするのはナンセンスと、なかなか動かない舌をフルに使って説得したのだ。
こちらの熱意がつたわったのか、それとも暴走して飛び出されたら厄介だとおもったのか。
私は使徒戦に参加する事を許可してもらえた。
もっとも極力ほかの機体と離れない事と、危険だと感じたらすぐに帰還する事を約束させられてしまったけど。
緊張からか喉が渇いたので、コンソールの脇にあったペットボトルホルダーに刺してあるクマさん水筒からお茶を注いで一気に煽る。
麦茶のほろ苦さと喉を滑り落ちる冷たさで冷静さを取り戻した私は、再び傍らで控えているマジンガーに目を向ける。
「…………はね、かわった」
そういう事である。
昨日見た時はマジンガーの背に有った羽は節のあるコウモリのようなデザインだったのだが、今のマジンガーは真っ直ぐ一直線に伸びた刃のような紅の翼が生えている。
チビが言うにはあれも『かみさま』の仕業らしいんだけど、背中の指も無くなってるって事は金色の拳になる技は使えなくなっちゃったんだね。
え、あんなのよりも凄い技があるって?
だったらお披露目を楽しみにしておこう
『ゴッドスクランダーがジェットスクランダーに変わっている。マジンガー、お前がゼウスに頼るなって言ってたのは本当なんだな』
あ、甲児お兄さんも気付いたみたいだ。
さやかお姉さんたちが性能が下がってるんじゃないかって心配してるけど、仮にそうだとしてもそれが『最強の兜甲児』になる為の試練だとおもうので頑張ってほしい。
『作戦開始1分前』
ミヒロお姉さんの通信に私は緩みかけていた意識を引き締める。
今回の作戦は二段構えだ。
まず『Z-BLUE』の皆であの使徒を牽制する。
そしてみんなに使徒の目が引き付けられている隙に、シンジさんが高威力の狙撃ライフルで奴を射抜くという形だ。
私はヒビキさんやアマタさんの予備、二人に何かトラブルが起きた時にエヴァ二機を護るのが役目になっている。
『時間です』
通信から聞こえるネルフ職員の声に私は深く椅子へ座り直した。
奴の攻撃は超高出力のビームだ。
あれを防ごうと思ったら、クマさんの装甲であるナノ・ラミネーなんとかでは力不足の可能性もある。
最悪の場合、『くまびーむ』の封印を解かないといけないかもしれない。
『シンジ君。エヴァに乗ってくれた事、それだけでも感謝するわ。───ありがとう』
『僕もZ-BLUEの一員ですから。みんなの期待に応える為にも、僕は逃げずに全力を尽くします』
『わかったわ。がんばって』
『はい!』
ミサトお姉さんの励ましにシンジお兄さんは力強く返事を返すのが聞こえた。
シンジお兄さん、凄い気迫だ。
これは足を引っ張らないようにしなければ。
『ヤシマ作戦発動! 陽電子砲狙撃準備、第一接続開始!!』
『了解! 各方面の一次および二次変電所の系統切り替え!』
ミサトお姉さんの指示でネルフの職員が手続きを行う中、私はこちらに向けられた敵意を感じ取った。
「……ヒビキさん、アマタおにいさん。しとがきづいた」
『なんだと!? アムロ大尉!』
『了解だ! 護衛を除くZ-BLUE各機は使徒の前へ出ろ! 奴の注意をこちらへ引き付けるぞ!!』
『各員気を付けろ! 奴のビーム砲は通常の機体では一発でアウトだ、絶対に食らうなよ!!』
『『『『『了解!!』』』』』』
ヒビキさんの声を受けて素早く指示を出すアムロ大尉と使徒の攻撃へ注意を促すオズマ隊長。
初めに使徒へと突っ込んでいったのは赤木さん達のダイガードだ。
『どうするんだ、赤木?』
『奴が本格的に動き出す前に全力で先制パンチだ!』
『ノットパニッシャーを使うのね、分かったわ!』
ビームのチャージが始まるより早く懐に飛び込んだダイガードは、使徒本体へと飛びあがりながら変形した右腕を大きく振りかぶる。
『フライホイール、出力最大!』
『おりゃああああああああっ!!』
ダイガードが放った特大の杭は使徒の前に張られたバリアによって防がれる。
けれどもその威力までは防げずに、使徒はフラフラと揺れながら後方へと下がっていく。
『シンジ! 俺達が奴の足止めをしてやる!!』
『だから、お前はチャージが済んだら遠慮なくブチかませ!!』
距離を取るダイガードに代わって使徒へと突っ込むのは翼が代わったマジンガーZだ。
『マジンガーの新装備だ! サザンクロスナーイフ!!』
甲児お兄さんの叫びと共に、マジンガーの翼から十字型のエネルギーが次々に射出される。
そしてそれらは縦横無尽に空を飛び回りながら全方位から使徒へと襲い掛かる。
十字のエネルギー刃は次々と斬りかかってるけれど、やはり使徒のバリアを突破する事は出来ない。
『陽電子砲のチャージ完了までの時間は?』
『あと4分です!!』
『上等だ、その四分で四角野郎をぶっ潰してやるぜ! ゲッタービィィィィィィィムッ!!』
サザンクロスナイフで防戦一方の使徒に対して、至近距離で腹部からビームを浴びせるブラックゲッター。
竜馬さんの気合の入った声とブラックゲッターの人相の悪さが相まって、味方だけどチョッピリ怖い。
『もしダメな時はお前に任せるぞ、シンジ! ゴオォォォッド! ファイヤァァァァッ!!』
腰の『G』のマークからビームを放つゴッドマーズ。
不動の姿勢で放たれたエネルギーはガリガリと使徒のバリアを削っていく。
『みんな、その調子だ! 俺達が奴を足止めすれば、その分シンジの仕事がやりやすくなる!!』
『なに言ってんです。私達はシンジの仕事を奪うつもりですよ!』
曲芸さながらの飛行でミサイルの弾幕を使徒へ放つオズマ隊長に、ダンクーガの巨大な剣で使徒を切り付けながら軽口を返す葵さん。
『それだと俺とクルツが書いた狙撃虎の巻が無駄になるじゃないか』
『まあまあ、きっとシンジ君は他の場面で役立ててくれますよ』
『そういう事だ、シンジ。悪いがお前の出番はナシだ!!』
オズマ隊長が離脱するのとほぼ同時に、スカル小隊のミシェルさん、ルカさん、アルトさんがミサイルと機銃の豪雨を使徒へと降らせる。
『アンタはミユやレイと一緒にそこで観戦してなぁ!!』
そして爆炎の中に飛び込んだ紅蓮がアルトさん達の攻撃の着弾箇所にゴツい右手でエネルギーを送ると、使徒のバリアに初めてヒビが入る。
『今だ!』
『行け! シモン!!』
『うおおおおおおおおっ!!』
雄たけびと共に胸にあるグラサンを投げるグレンラガン。
ブーメランのように回転しながら二枚に分かれたそれは使徒のバリアを何度も切り付けながら奴を空中で固定する。
『必殺ッ!』
シモンさんの気合に応えるように頭上に右手を掲げるグレンラガン。
その全身に生えていたドリルが引っ込むと右手に身の丈を超える巨大なドリルが出現する。
『ギガァ……! ドリルゥ…! ブレエェェェェィクッ!!』
突撃するグレンラガンが突き出した凶悪なドリルは、使徒のバリアを突き破ってその水晶のような身体を大きくえぐり取った。
『よし、奴のバリアを貫いた!』
『やったぜ、シモン兄ちゃん!!』
「……まだ!」
歓声を上げる圭さんやワッ太君に、使徒の敵意がまだ消えていない事を感じた私は警告を放つ。
そして次の瞬間、使徒は砕けた身体を幾何学な形に変形させて赤い球から速射でビームを放ったのだ。
『くっ!?』
『いてぇっ!?』
『きゃあっ!?』
アムロ大尉とカミーユさんは回避できたけど、ボスさんのボスボロットはお尻に、さやかお姉さんのビューナスAは右腕に命中する。
『さやかさん! ボス!?』
『私は大丈夫よ、甲児君!』
『こっちもケツが焦げただけだ!!』
心配する甲児お兄さんに元気な声を返す二人。
両機とも大したダメージが無い事に私は胸を撫で下ろした。
さっきのダメージが効いてるのか、それとも高威力にはチャージが必要なのか。
どちらにせよ、今の使徒の攻撃ではスーパーロボットは倒せないようだ。
『全員気を付けろ! どうやら奴はコアを破壊しない限り再生するようだ』
ゼクスさんの声に使徒を見れば、なんと奴はグレンラガンに抉られた傷をもう回復させていた。
あの強力なバリアに阻まれた状況でコアを正確に撃ち抜くのは、さしものZ-BLUEでも難しいようだ。
しかし───
『だが、時間は稼げた!』
アムロ大尉の言葉と同時に、シンジお兄さんの構えた銃の背後からけたたましい駆動音が鳴り響く。
『陽電子砲、第四接続、問題なし!』
『最終安全装置、解除!』
『陽電子加速中、臨界点へ!』
『撃鉄起こせ!』
ネルフからの指示でガチャリと銃身に着いたレバーを引く初号機。
それを合図に背後の機械から陽電子砲へ莫大なエネルギーが送られてくる。
『射撃用諸元、最終入力を開始!!』
カウントダウンが進む中、固唾を呑んでみていた私の直感センサーが警鐘を鳴らす。
「……だめ!」
とっさにクマさんを初号機の前に持って行くと、次の瞬間かなり強い衝撃が私を襲った。
『あ……』
そしてそれによって後退したクマさんが陽電子砲に触れた事で、銃口が使徒からズレてしまった。
『発射!』
『くそぉ!?』
ミサトお姉さんの指示に悪態をつきながら引き金を引くシンジお兄さん。
だが、無理やりに方向を直したモノの放たれたビームは使徒の体の一部を吹き飛ばすだけでコアから外れてしまった。
『陽電子砲、外れました!』
『直前のエヴァへの攻撃が原因なの!?』
『ミユ、大丈夫か!』
『……だいじょうぶ』
焦るミサトお姉さんやネルフの人の声に混じって、シン兄の心配する声が聞こえてくる。
機体コンディションを確認すると装甲が少し焦げただけで、それももう治っていた。
『くそ! 俺がいながらエヴァに攻撃を許すとは……』
『どこから攻撃してきたんだ?』
ヒビキさんやアマタお兄さんが敵を探す中、私は敵意の出所を突き止めていた。
「……ひだりがわ、クモロボたちがくる」
私の言葉に少し遅れて、アクエリア市を襲ったクモロボと金色の指揮官機が姿を現す。
『アブダクター!』
『アイツに邪魔された所為でシンジの攻撃が外れたのね!』
クモロボの出現に怒りをあらわにするカイエンさんとゼシカお姉さん。
「そこの変なクマに邪魔されたけど、機械天使が悔しがってるところを見るにいいタイミングだったようだね」
その声を聴きながら指揮官機はふてぶてしく言い放った。
というか、クマさんは変じゃないぞ!
『……ッ! ミサトさん! 再チャージは!?』
『五分、五分待って!』
『シンジが諦めてないのなら作戦も終わってない! アブダクターを叩いて時間を稼ぐぞ!!』
『待って、甲児君。まだ何か来る!』
甲児お兄さんの激をさやかお姉さんが止めていると、私の直感センサーは覚えのある気配を察知した。
「……とりすたん、いぞるで」
『その名で呼ぶのはやめよ、器の小娘。使命を果たす日が来るまで私はあしゅら男爵だ!』
私の声に応えるように現れる機械獣軍団と、それを指揮する雌雄同体の怪人。
大きく不利になった戦局に私は歯噛みするのだった。
クソコテ『魔神らしく、力づくでいただいていく!!』
シスコン『やめろぉっ!!』