幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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幼女とマリーメイア軍の事情

 ブリュッセル郊外にある人気の無い山の中、そこでは二機のガンダムが激しくしのぎを削っていた。

 

「五飛ッ!」

 

「ヒイロォォォォッ!!」

 

 ウイングガンダム・ゼロとアルトロンガンダム。

 

 互いの手の内にある翡翠色の光剣と三叉戟が振るわれるたびに、ADW屈指の硬度を誇るガンダニウム合金が砕けて宙を舞う。

 

 ウイングゼロの右袈裟の一撃が胸部装甲の表面を抉れば、下段から跳ね上げたアルトロンの三叉戟の矛先が相手の左肩の装甲を引き剥がす。

 

 間髪を容れずにウイングゼロが古代中華の甲冑を模した胴に右足を叩き込めば、後方に吹き飛ばされながらもアルトロンは右手に備わった竜頭を相手へと伸ばす。

 

 ウイングゼロも鎖骨部分に備わったマシンキャノンで迎撃しようとするが、並の装甲なら容赦なく食い荒らすガンダニウム合金製の弾頭も同じ素材で作られた竜の鱗を貫く事はできない。

 

 ドラゴンハングの一撃を腹部に受けて後方へ下がるウイングゼロだが、ADWでも5指に入る戦士であるヒイロが黙ってやられる筈がない。

 

 錐揉み回転しながらも向けたツインバスターライフルの銃口に光が灯ると、暴力的なビームの奔流が本体へ戻ろうとしていた竜の首を消し飛ばす。

 

「ヒイロめ、流石にやる……!」

 

 主力武装の片方を失った五飛はアルトロンのコクピットの中で舌打ちを漏らす。

 

 もとよりアルトロンにとってウイングゼロは相性のいい相手とは言えない。

 

 むこうは高機動広域殲滅型の遠距離戦主体機、そしてこっちは白兵戦特化の機体だ。

 

 接近戦でアドバンテージを取れても、相手が機動性を生かして距離を取れば途端に手詰まりになってしまう。

 

 もちろん並のパイロットなら距離を取る暇など与える事は無いが相手はヒイロ・ユイだ。

 

 むこうの意に反してひたすら張り付き続けるのは、五飛とはいえ至難の業と言わざるを得ない。

 

 モニター越しにウイングゼロを睨みつけながらどうしたものかと思案していると、通信機が知った声を吐き出した。

 

「やめてくださいヒイロ、五飛! 君達が戦う必要はないんだ!!」

 

「カトルか」

 

 先ほど紅月カレンやトロワ・バートンと共に、デキムが送り込んだサーペント6機を蹴散らしたガンダムパイロットの一人。

 

 心優しいあの少年の事だ、本気で潰し合っているヒイロと自分を見ていられなくなったのだろう。

 

「さがれカトル。五飛は覚悟を決めている、言葉による説得は無駄だ」

 

「でも……」

 

 ヒイロの言葉になおも食い下がるカトル。

 

 それに代わる様に今度はトロワが話に参加する。

 

「五飛。何故お前は世界を混乱させるような事をする? 何故俺達の勝ち取った平和を信じない?」

 

 平坦だが普段からは想像もつかない程に熱の籠ったトロワの言葉に、五飛は思わず怒りを噛み潰す。

 

「平和だと? そんなものが信じられるものかっ!!」

 

 主人の怒号と共にスロットルを全開にしたアルトロンは、猛然と上空のウイングゼロへ斬りかかる。

 

「わからんのか! 貴様等が言う平和など新世時空震動によって消え去った事が!!」

 

 咄嗟にビームサーベルで防いだウイングゼロの胴体に、アルトロンは間髪を容れずに地面へ向けて右足を叩きつける。

 

「UCWと世界が融合した事でトレーズの引き起こした人類最後の戦争も、ゼロレクイエムも全てが水泡に帰してしまった! 当然だ、奴等はトレーズの意図した戦争の悲惨さを目の当たりにしていない! ゼロとてUCWの人間共の憎悪をその身に集めるなどできなかったのだからな!!」

     

 スラスターを吹かしてギリギリのところで地表への激突を免れたウイングゼロに、五飛は追撃のドラゴンハングを放つ。

 

「その結果が世界中で頻発するテロやネオジオンの宣戦布告だ! 奴等にとっては破界戦争も再世戦争も対岸の火事に過ぎなかったのだ!!」

 

 ヒイロは再浮上する勢いを利用して上空で迫る竜頭を引き離そうとするが、それを許すほど五飛は甘くはない。

 

 ドラゴンハングの追撃をそのままに回避先へと回り込んだアルトロンは、三叉戟の一撃でウイングゼロの胴体に傷を刻む。

 

「なのに世論や民衆共はあの戦争で散って行った者達を悪し様に言うのだ! 戦争を拡大させて世界を混乱させた愚か者と!!」

 

「なによそれ!?」

 

「それは本当なんですか?」

 

「SNSや世論調査などを調べてみるがいい。UCWの奴等は敗北者だからとザビ家やブルーコスモスと同一視し、ADWの者達までもが唾棄すべき汚点と扱っているっ!」

 

 カレンやカトルの驚きの声に怒りと共に吐き捨てる五飛。

 

 トロワはすでに確認を行っていたのか、『たしかにそう言った説を声高に叫んでいる勢力が相当数存在するな』と呟いている。

 

「戦争が終われば兵士達は不要なのか? 何かを護る為に戦い死んだ者達は戦争加担者と悪し様に言われても仕方がないのか!? それが平和だと言うのなら俺達は絶対に認めん! 例え世界から悪と言われようとコロニーを護って散った妻の名誉の為にも戦い続けてやる!!」

 

 五飛にはかつて娶った竜妹蘭という少女がいた。

 

 一族の掟による政略結婚であり、性格の不一致から何度も衝突したものの悪い関係では無かった。

 

 当時の斜に構えて冷めた性格だった自分に正義を説いていたのは彼女だった。

 

 そんな妻はオペレーションメテオの前に行われたOZの攻撃からコロニーとシェンロンガンダムを護る為、トールギス始龍を駆って出撃し帰らぬ人になった。

 

 それ以来、五飛は妻の意思を継いで正義に生きると決め、シェンロンガンダムを生前彼女が自身をそう呼んでいたように『ナタク』と呼ぶようになったのだ。

 

 五飛の怒りと決意で傍観者たちが口をつぐむ中、ヒイロは傷付いたウイングゼロでアルトロンの前に立つ。

 

「戦意は衰えていないようだな、ヒイロ」

 

「平和が失われたと言うのなら、もう一度取り戻すだけだ。俺はその為に戦う!」

 

「それでこそだ!」

 

 叫びと共に頭上でビームトライデントを回転させながら突撃するアルトロン。

 

 同時にウイングゼロも加速を始めている。

 

 互いに傷付いてはいるものの、その度合いはアルトロンの方が若干軽い。

 

 さらに彼が持つビームトライデントは、ウイングゼロの装備であるビームサーベルに比べてリーチで勝る。

 

「もらったぁっ!!」

 

 気合と共に胴を薙がんと振られた一撃で斬り飛ばされたのは───右側のウイングバインダーだった。

 

「なにっ!?」

 

「はああっ!!」

 

 驚愕に目を見開く五飛を他所にアルトロンの足元で翡翠色の斬線が閃く。

 

 横薙ぎに振り抜かれたウイングゼロのビームサーベルは腿の部分からアルトロンの両足を断ち切った。

 

 一瞬の交差を経て片翼を失ったものの空に残ったウイングゼロと、地面に激突して仰向けに倒れるアルトロン。

 

 勝敗は誰が見ても明らかだった。

 

「…………」

 

 五飛を一瞥する事もなく、ブリュッセルの方角へ飛び去って行くウイングゼロ。

 

「まさか、あのタイミングでスラスターを切って自由落下で躱すとは……完敗だな」 

 

 アルトロンのコクピットの中で自嘲する五飛は自分へ近づくカトル達に気が付いた。

 

「五飛……」

 

「行くがいい。俺はこの世界の為に戦おうとは思わん」

 

 説得は無駄だと悟ったのだろう、五飛を置いて二機のガンダムと紅蓮はその場を後にする。

 

「まだまだ俺も修行が足りん。──そうだな、妹蘭」 

  

 一人になった事を確認すると、五飛はそう呟いて目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 Z-BLUEがブリュッセルに侵入してから30分。

 

 ネェル・アーガマとドラゴンズ・ハイヴを後詰めにした私達は、第一次防衛線を突破して平和祈念館の目前へと来ることが出来た。

 

 出発前にレディ・アンさんから入った情報では、連邦政府はこの反乱を収めるために戦術兵器を使ってブリュッセルごとマリーメイア軍を焼き払う気でいるらしい。

 

 私達はその前にドーリアン外務次官とナナリー代表を救い出さないといけないのだが、ここまで来て敵の抵抗の激しさから思うように進軍できないでいた。

 

 その理由は二つ。

 

 一つはマリーメイアが主力として使っているMS『サーペント』にある。

 

 このロボット、手に装備したデッカいガトリングガンや肩のミサイルポッドなどから分かる様に火力重視の機体だ。

 

 それが馬鹿みたいにいる所為で、平和博物館までのルートは常に弾丸が飛び交う危険地帯と化してしまっている。

 

 もう一つは戦場がブリュッセル市街である為に、街への被害の懸念からスーパーロボットが大技を放てないのである。

 

『反応が遅い……そこだっ!』

 

『そんな腕で前に出るからっ!』 

 

 そんな中でも切り込み役として真っ先に部隊の進路を切り開いているのがアムロ大尉とカミーユさんだ。

 

 今も飛行形態で敵陣に突っ込むと地上からのガトリング砲の斉射をアムロ大尉は右、カミーユさんは左のバレルロールで華麗に躱すと機首からのビーム砲を放って一気に4機も返り討ちに。

 

 そしてそのまま空を掛けると敵陣の頭上でMSへと変形し、戸惑うマリーメイア軍の機体をビームサーベルで一刀のもとに斬り捨ててしまう。

 

 UGセルでの強化が成功した事でカミーユさんの機体はZⅡに、アムロ大尉はリガズィ・カスタムへと姿を変えた。

 

 当初は戦々恐々としていた私だが、乗った二人の反応は上々だった事に内心ホッとしたのを憶えている。

 

 その後でMSのパイロット達に、この作戦が終わったら自分達の機体も改造してくれと言われたのには参ったけど。

 

 特にカツさんは『ついに僕もガンダムに乗れるんだ!』と目をキラキラさせてたし。

 

 いやまあ、クマさんで機体ににくきゅうを押し付けるだけだから私的には構わないのだけど本当に大丈夫なのかなぁ。

 

「弾幕を密に張れ! 損傷した機体や補給の為に戻ってくる者に奴等を近づけさせるな!!」

 

 マクロス・クォーターのブリッジでポケーッとそんな事を考えていた私は、ジェフリー艦長の叱咤によって現実に引き戻された。

 

 ブリッジで何をやってるんだというツッコミはもっともだが、私だって別にサボってるわけじゃない。

 

 今回の作戦は敵からの思念と言うか執念がものすごくて、下手に感応していると引き込まれそうになるのだ。

 

 お台場ではテロリストや傭兵が多くて世の中への不平不満が多かったけど、マリーメイア軍はADWの真っ当な軍人が多いからか、彼等の想いは一線を画している。

 

 そこに込められているのは不条理への反抗。

 

 自分達は平和の為に戦った兵士であるという自負と信念。

 

 そして散って逝った者達への哀悼と、その誇りを穢された事への怒りだ。

 

『ZEXIS! 今度は後れは取らんぞ!!』

 

『隊長はブリタニアを! 国を守る為に命を懸けたんだ!! それのどこがいけない!?』

 

『ソレスタルビーングにガンダム共、黒の騎士団! 全部テロリストじゃねぇか!? どうして奴等は称賛されて俺達が戦争加担者と否定されなきゃいけないんだ!!』

 

『我々はトレーズ閣下と共に人類最後となる事を願ってあの激戦を駆け抜けたのだ! その信念は断じて間違ってなどいない!!』  

 

『死んだアイツの誇りに掛けて、この戦いは絶対に負けられん!!』

 

『俺達は負け犬じゃない! 俺達は兵士だ! 地球の為に戦った戦士なんだ!!』

 

 彼等の叫びと共に、新世時空震動からの彼等が受けた痛みも伝わってくる。

 

 二つの世界の統合による影響で突然軍から退役を強制された。 

 

 失意を感じながらも生きる為に新しい職に就けば、そこでは何故か危険人物と言わんばかりに邪険にされてしまう。

 

 それでもと歯を食いしばって耐え続けて、正規軍の頃に比べれば雀の涙な給料を手に酒でウサを晴らしていると、深夜のテレビに信じられないモノが映っていた。

 

 モニターの向こうでは自称有識者のコメンテーターがしたり顔でこう語るのだ。

 

『ADWの軍は解体して正解です。しょせん彼等はテロリストに対して有効な対処が出来なかった無能ですからね。しかも時代遅れの帝国主義に被れた騎士モドキや、トレーズ・クシュリナーダにルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに従って戦争を拡大した者もいる。そのうえで敗北したのでは使い物になりませんよ』 

 

 あまりの言われように愕然としながら他のメディアを調べて、初めて自分達は世間では戦争を求めて戦い敗北した負け犬だと認識されている事を知った。

 

 新聞・ゴシップ誌・ネット・SNS。

 

 調べれば調べるほどに怒りとやるせなさが募っていく。

 

 自分達は国を、宇宙を、地球を守る為に戦ったのだ。

 

 なのに、どうしてこんな扱いを受けなければならない?

 

 しかも生き残った自分達だけではなく、忠義を誓った主や死んでいった戦友たちまで悪し様に言われるなど以ての外だ。

 

 そもUCWの連中とて宇宙にジオンやプラントという火種を残したままではないか!

 

 そんな連中の何処に自分達を笑う資格がある!?

 

 そうして新世界に絶望した時に元同僚やバートン財団など様々な形でデキムの手が伸び、彼等はマリーメイア軍で轡を並べる事になった。

 

 彼等から感じる熱気すら伴った思念に思わず頭を押さえて後ずさると、誰かに後ろから優しく支えられた。

 

「大丈夫?」

 

「……キャシーお姉さん」

 

 焦点が合った視界に移るのは心配そうにこちらを見下ろすキャシーさんの顔だった。

 

「マリーメイア軍兵士達の思念を感じ取ってしまったか」

 

「……ん。みんな怒ってる。地球の為に戦ったのに理不尽だって。世間が死んだ仲間やトレーズさん、ルルーシュさんを悪く言うのが許せないって」

 

 私がこういうとジェフリー艦長は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 

「大統領を除けば今の連邦政府はUCWの人間が中心だ。次元融合当時、再世戦争で疲弊したADW政府から軍権を確保する為にかなりの裏工作が為された事は噂に聞いている。ADW側の退役軍人への資金のバラ撒きやドーリアン外務次官にナナリー代表の認定などがそうだ」 

  

 そういえば軍縮を主導したのはその二人だった。

 

 聞けばドーリアン外務次官もナナリー代表も十代の女の子だという。

 

 なにやら特別な出自らしいけど、普通に考えればそんな若い女の子が政府の要職に就くのはおかしい。

 

 彼女達の事を後押ししたのはUCW側の軍が主導権を握る一環だったのかもしれない。

 

「ミユ、彼等に共感するのはやめておきなさい。我々にできるのはマリーメイア軍を打ち倒し、この内乱を鎮圧する事だけだ」 

 

「……ん」

 

 それは分かっている。

 

 Z-BLUEの皆は優しいから、彼等の心情を他の人達を知ったら戦意が鈍ってしまうだろう。

 

 この激戦の中でそんな事になったら致命的な隙を生みかねない。

 

 私は怒りの中で響く彼等のもう一つの真意を胸に閉まって、再び人間レーダーの役目を続行する。

 

『こうなったら……俺が敵陣に飛び込んで突破口を開く! 超合金Zなら奴等の攻撃に耐えられるはずだ!!』

 

『それなら甲児さんは空中からお願いします! 地上は僕がATフィールドでこじ開けますから!!』

 

 私達がブリッジで話し合っている間に機動部隊のみんなは強行突破する作戦に出た。

 

 飛行できるロボット達はマジンガーZを先頭にして、そして陸上移動の機体はエヴァ初号機が展開した赤い障壁を盾に突っ込んでいく。

 

『うおおおおおおおおおおっ!!』

 

『このくらい……使徒の攻撃に比べればぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 雨あられと降り注ぐ弾丸を受けながらも速度を落とさずに突撃するマジンガーとエヴァ初号機。

 

 普通の弾幕では止められないと判断したサーペント達は、次々と持ち場を離れて突撃する二体へと火力を集中させる。

 

 先ほどよりも倍……ううん、4倍近い密度になった弾幕はマジンガーの超合金Zを傷つけはじめ、初号機の障壁を大きく揺るがしてその突進速度を削る。

 

『まだだッ! 踏ん張れ、マジンガー! お前は地上最強のスーパーロボットだろう!!』 

 

『僕は逃げない! 逃げるもんかぁぁぁぁッ!!』

 

 二人が放った気炎と共に再び加速する愛機達。

 

 というか、マジンガーは壊れた場所が一人でに直ってるみたいなんだけど!

 

 驚いてるとチビパイルダーから説明が入った。

 

 え……魔神パワーって特殊能力の第一段階に再生って機能があるの?

 

 あの防御力で再生するとか、ある意味反則じゃないだろうか。 

 

 そんな事を考えている内に、二機はサーペントの集団の中へと飛び込んだ。

 

『アイアンカッター!』

 

『コクピットを狙わない様に……そこだっ!』  

 

 マジンガーは腕の両側に生えた斧のような刃を振ってサーペントを切り裂き、初号機は肩のラックから抜いたナイフを敵機の顔に突き立てる。

 

 どうやらサーペントは遠距離戦特化の機体だったようで、至近距離で暴れまわる二機に手を出す事が出来ないでいる。

 

 そこに後続の仲間達が追い打ちをかけたのだから堪らない。

 

 ゴッドマーズが巨剣を振るい、鉄人が相手を放り投げ、ダイガードが両手に付けたドリルで相手を突き穿つ。

 

 その後方ではアーバレストがエネルギーが籠った散弾を叩き込み、デュオさんのガンダムが相手の両足をカマの一振りで叩き切っている。

 

 そうしている間にもマリーメイア側の援軍が集まってくるのだが、乱戦となった状態では射撃特化の彼等は同士討ちを怖れて手が出せない。

 

 そんな彼等の背後に地中から現れる機体があった。

 

 そう、シモンのアニキが操るグレンラガンだ。

 

『いい位置だ。しくじるなよ、シモン!』

 

『誰にモノを言っている! フルドリライズ、ブチ抜けぇぇぇぇぇっ!!』

 

 そして深紅の機体から放たれた無数のドリルは、援軍として現れたサーペント達を一網打尽に貫いた。

 

 これで平和祈念館への道が開く。

 

 そう思った瞬間、私はこちらに向けられた鋭敏な敵意を感じた。

 

「……かんちょ! うしろにバリヤーはって!!」

 

「なに!?」

 

「背面にピンポイントバリアを展開……キャアッ!?」

 

 火器管制のラムさんがコンソールを操作するのとほぼ同時にクオーターのブリッジが大きく揺れた。

 

「くっ!? 被害状況を!」

 

「ピンポイントバリアがギリギリ間に合いました! 背部装甲板の一部が小破しただけで、航行および戦闘に支障はありません!」

 

「後方から接近する部隊あり! この反応は……ネオジオン軍です!!」

 

 モニターに現れたのは例の緑と赤紫のザクモドキ、そして緑の身体に黄色頭で一つ目の上に目の絵が描かれた見た事がない機体だった。

 

「くっ! やはりネオジオンはマリーメイア軍と手を結んでいたのか!?」

 

 ミーナさん、モニカさんの報告を聞いて歯噛みするジェフリー艦長。

 

 そんな彼にキャシーお姉さんが問いを投げる。

 

「艦長、機動部隊を呼び戻しますか?」   

 

「それはいかん! ようやくマリーメイアの防衛線を突破したのに、ここで彼等を呼び戻しては敵に防衛線の再構築を許すことになる! 機動部隊には平和祈念館の占拠を優先させよ! 奴等は本艦で迎撃する!!」 

 

「OK、ボス! ここが踏ん張りどころってワケね!!」

 

 艦長席から立ち上がって指示を飛ばすジェフリー艦長に、舵輪を持ったボビーさんがニヤリと凄みのある笑みを浮かべる。

 

「ジェフリーかんちょ……」

 

「ミユ、すまないが力を貸してくれ。このクォーターでMSを相手取るには君の感知能力が必要だ」 

 

 うぐぅ……クマさんで出ようかと言う前に潰されてしまった。

 

 けど、MSって速いよね。

 

 それを相手にクォーターで何とかなるの?

 

「焦る事はない。MSならば対艦重ビーム砲で十分撃墜できる! 総員、アクエリア市の戦闘を思い出せ!!」

 

 そう叱咤激励を飛ばされて私も全力で人間レーダーをする覚悟を決めたところ、4機の緑のザクモドキがガトリング砲とミサイルによって吹き飛ばされた。

 

 マリーメイア軍はネオジオンと敵対しているのかと驚いていると、紫を基調にした見た事のないガンダムが身体くらいの大きさの剣を二本振るって更に2体のザクモドキの首を刎ねる。

 

「艦長! ガンダムヘビーアームズとサンドロックです!!」

 

 ミーナさんの弾んだ声と共に新たに現れた投影モニターの中では、モスグリーンを基調にしたサーペントをさらにゴツく武装したようなガンダムがバカスカと弾丸とミサイルを撃ちまくっている。 

 

『こちら紅月! これよりクォーターを援護します!!』

 

 さらには遥か彼方からトンデモないスピードで飛んできたカレンお姉さんの紅蓮が赤紫のザクモドキの顔面をワシ掴みにする。

 

『ぐあっ!? 汚い手でこの私に触るなど!!』 

 

『戦争を起こそうとする奴がガタガタ言うな! 弾けろ、ネオジオン!!』

 

 そうしてカレンお姉さんが得意の赤い波動を相手に送り込もうとした瞬間、私は紅蓮を狙う複数の敵意を感じた。

 

(カレンお姉さん、離れて!)

 

『え!? チッ!!』

 

 私の思念でカレンお姉さんが赤紫のザクモドキから離れると、それに一瞬遅れて紅蓮がいた場所を多方向からビームが通り過ぎた。

 

 モニターがビームが出た先を映し出すと、そこには円柱状の小さな移動砲台のようなモノが浮かんでいた。

 

『情けないな、アンジェロ・ザウパー! 大口を叩いておいて女にやられかけるとは』

 

『黙れ、少し油断していただけだ! あんな偶然は二度も起こらん!!』

 

 繋ぎっぱなしの紅蓮の通信機から敵の会話が駄々洩れになってる。

 

 というか仲が悪いのかな、あの敵は。  

 

『助かったわ、ミユ。危ない時は今みたいにフォローよろしくね!』 

 

 通信のカレンお姉さんは随分と余裕みたいだけど、あの移動砲台はなにかと厄介そうだ。

 

 皆の手助けをする為にも動きをちゃんと把握しておかないと!

 

 そう覚悟を決めながら、私は気合を入れ直す為にほっぺたを両手でペチンと叩くのだった。

 

 


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