幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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どうも、『四月馬鹿』に間に合わなかったアホな作者です。

半ば息抜きで書いた作品ですが、時間つぶしになれば幸いです。

なお、本編とはあまり関係のない模様。


幼女とあいとゆうきのおとぎばなし -01

 どうも、別次元という新たなフロンティアへ駆り出された幼女です。

 

 聖戦と呼ばれた長い長い大戦も終わり、ようやく平和が訪れた多元世界。

 

 多くの人が戦いの犠牲になった中、幸いにも私の家族は誰一人欠ける事は無かった。

 

 戦いの中で私の両肩には幼女が背負うには重すぎるモノが幾つか積まれてしまった。

 

 だけど、それはある意味運命というものなのだろう。

 

 Z-BLUEが解散して半年ほど、ザフトに戻ったシン兄は副官のルナマリアさんと一緒に交流技官としてオーブへと派遣された。

 

 もちろん被保護者である私とミウも一緒である。

 

 幼女となった私はミウやひーちゃんと共に、たまに遊びに来るミカゲさんやナイアの相手をしながら南国生活を満喫しているとシン兄とルナさんが結婚する事になった。

 

 とても目出度いことなので家族総出で大いに祝い、式では私はルナさんのフラワーガールをやらせてもらった。

 

 式場が用意したフラワーガールの衣装は花冠に白いドレスだったんだけど、それを見たらシン兄が涙ぐみ始めたんだよね。

 

「ミユもお嫁さんに行くときは…そんな恰好するんだろうなぁ……」

 

 完全に父親モードに入っていたけど、今日のシン兄はお嫁さんを貰う側だからね。

 

 その台詞を言うのは20年くらい早いと幼女は考えます。

 

 こうして始まった結婚式。

 

 花を撒く私を先頭に、お父さんと腕を組みながらバージンロードを歩くルナさん

 

 その姿は本当に綺麗で私も感動したものだ。

 

 そうして一歩、また一歩と神父さんの前で待つシン兄の元へ向かっていたんだけど、その途中で私は何やら強い思念を感じたんだ。

 

 思念のする方向に目を向けてみればメイリンお姉さんの姿が。

 

 でもって彼女は隣に座るアスランさんを光の無い目で見ていて『何時になったら責任取ってくれるんですか、このズラぁ!』と黒いオーラを放っていたのですよ。

 

 うん、どういう事なのかは幼女なので分かりません!

 

 祝いの席に似つかわしくない修羅場は見なかった事にして、元Z-BLUEの皆も久々に集まったお陰で披露宴は大盛り上がり。

 

 ルナお義姉さんがお色直しする度にミサトお姉さんやスメラギさんが、ハマーンさんが乗っていた花嫁風のMSを見た時みたいに苦い顔で胸を押さえていたけど、その辺は触れないのが乙女のエチケットだ。

 

 あと南国の海の幸は本当に美味しかったです。

 

 そうして問題は式が終了したその日の深夜に起こった。

 

『お願い! 誰かタケルちゃんを助けて!!』

 

 体力という名の電池が切れてベッドで爆睡していた私の脳裏に、突如として悲痛なテレパシーが響いたのだ。

 

「どうしましたの、姉さま」

 

 一緒に寝ていたミウが心配そうにする中体を起こした私は、今の念話を送って来たのが人ではない事に気づいていた。

 

「……テレパシー。たすけてって」

 

 そう答えるとミウは盛大に顔をしかめる。

 

 うん、戦争も終わってやっと普通に暮らせると思ったのに厄介事なんて嫌だよね。

 

 気持ちは分かるけど、そんな顔をしないでほしい。

 

「姉さまだけが感じ取れたという事は、発信源は高次元生命体なんですの?」

 

「……ん。でもかみさまやナイアほどじゃない」

 

 あと、初未お姉さんや鳴神さんレベルでもないね。

 

「まったく、どうして姉さまに送ってくるんでしょうか。面倒事なら阿坐名さんでいいじゃないですか」

 

「……はつみおねえさん、いそがしい」

 

 例の件が片付いたらすぐに別の世界に行っちゃったからね。

 

 あの人も色々大変だ。

 

『でも、ミーちゃんは行くんでしょ?』

 

「……ん。ごめんね、ミウ」

 

 ひーちゃんの言葉に私は迷うことなく頷く。

 

 ミウの言い分もよくわかるけど、こちらはこの手の声を無視できない。

 

 声の主が言うタケルちゃんとやらは分からなくても、助けを求められれば宇宙の平穏の為に手を差し伸べるくらいはしないといけないのだ。

 

「そう言うと思いましたわ。姉さまの立場も分かりますし、行くならさっさと済ませてしまいましょう」

 

「……ありがと。でも、きょうはねんね」 

 

 そう言ってミウの頭を抱いて再び私達は布団へ横になる。

 

「ね…姉さまの身体、ミルクと石鹸が混ざったいい匂い……ぼへぇぇぇぇ」

 

 うーん、何回も一緒に寝てるんだからいい加減慣れてほしいかも。

 

 そんな訳で私は謎の声を辿って並行世界宇宙へと行く事に決めた。

 

 同行してくれるのは大親友のひーちゃん、ミウ、いつの間にか船に乗り込んでいたミカゲさん、神様の依り代であるミニマジンガーである。

 

 さすがに甲児お兄さんに同行は頼めないし、この世界のマジンガーZも持っていけないのだ。

 

 説明をした当初はシン兄も一緒に行くと聞かなかった。

 

 けれど、我が兄上は新しい一家の大黒柱となったばかり。

 

 こちらの都合で新婚生活遅延なんて申し訳なさすぎるし、ラブラブ旅行が鉄火場なんてのも以ての外だ。

 

 私達の必死の説得と背後から浴びせられるルナお義姉さんの眼力に、シン兄は泣く泣く残る事を了承したのだ。

 

 出発するときは宇宙港にはシン兄やルナさんはもちろん、元Z-BLUEの皆まで見送りに来てくれた。

 

「ミユもミウも気を付けるんだぞ。何かあったら助けに行くから、絶対に次元間GPSは手放したらダメだ!あと毎日無事だって連絡も忘れないこと!」

 

「……ん」

 

「兄さま、心配し過ぎですわ」

 

 シン兄の過保護は健在で、半泣きになりながらこんな事を約束させられてしまった。

 

 後ろで呆れていたルナさんの様子を見るに新婚ライフが心配である。

 

 こうして数々の心配と声援を受けて、私達はヱクセリオンを参考にしてひーちゃんが作ってくれた大型戦艦『はるかぜ』に乗って別世界への航路へ出たのです。

 

 ちなみにこの『はるかぜ』、多数の乗員が必要なヱクセリオンと違ってハロ達による自動操縦で動いちゃうのだ。

 

 本当は艦長やスタッフを手配できるんだけど、ミウやひーちゃんに負担が掛かるからやめておいた。

 

 どうせ旅をするなら楽しくいきたいしね。

 

 そんな訳で別の世界に到着した私達。

 

 ゲートアウトした世界は地球圏の近くなのにデブリや建造物が驚くほど少なかった。

 

『うーん……この世界は宇宙開発が活発じゃないのかな? 広域探査したけど、地球のすぐ近くに小さな宇宙港みたいなのがポツポツあるくらいで、コロニーなんて一つもないよ』

 

 偵察用ハロを飛ばしたひーちゃんの言葉に私達は思考を巡らせる。

 

 となると問題の原因は地球か月にあるのかな?

 

「如何に動くにせよ、この船で何時までも過ごす訳にもいくまい。どうするのだ、我が君?」

 

「……コロニー、つくる」

 

 今のところは情報が少なすぎるという事で、まず私達は拠点を作ることにした。

 

『だったらこれにしようか。一応G管理世界の中でもトップクラスで性能いいし』

 

 ひーちゃんの提案に従ってハロやクマさんでデブリや隕石を集め、それにUGセルを植え付けて待つ事しばし。

 

 ゴミや石ころだったそれらは、宇宙に浮かぶ日本列島へ劇的進化を遂げた。

 

『出来た出来た、ネオジャパン式コロニー! さすがは私、設計図通りだね!!』

 

「……ひーちゃん、ごくろうさま」

 

 事前に知らされていたとはいえ、実際に見た時は本当に驚いた。

 

 土地はもちろん、街並みや海まで再現されているんだもん。

 

 その後、動植物は私が用意したところで『はるかぜ』を停泊ドックに入れた私達。

 

 足を踏み入れたコロニーは、なんというか普通に日本でした。

 

 天気をAIで制御しているうえに四季までちゃんとあるとか、凄くない? 

 

『さて、拠点は用意できたけどどんな名前にしようか?』

 

「私とミユの愛の園」

 

「却下ですわ。つーか、十五年待ったうえで本人の許可取れって言ってんだろうが。ぶっ殺すぞ」 

 ミカゲさんの意見を秒で粉砕するミウ。

 

 皆もこの子の素は知ってるんだから、別にお嬢様言葉にしなくていいのに。

 

「……にっぽんぽんはダメ」

 

 というか地球にもこの世界の日本はあるだろうし、あまり名前が被るのもよろしくないか。

 

「だったら、豊葦原瑞穂国はどうでしょう?」

 

「……とよあしはらみずほのくに?」

 

「神意によって稲が豊かに実り、栄える国という意味ですわ。日本国の美称ですが、姉さまの力を受けたこの地にはぴったりかと」

 

 こちらを持ち上げすぎのような気がするけど、ミウがそう言うのならこの名前にしよう。

 

 なんか私的にも語呂が気に入ったし。

 

 そんな訳で早速私達は活動を開始した。

 

 といっても私のやるべきことが食う・寝る・ひーちゃんやミウを褒めるくらいで、実際に働くのはひーちゃんを始めとするAI稼働のドローンなわけですが。

 

 うん、本当に頭が下がります。

 

 そんなこんなで3日が経過した頃、私達は東京に位置する民家で集まる事になった。

 

「まず、この世界の地球だけど西暦1997年らしいよ」

 

「……せいれき」

 

 たしか刹那さん達の世界で使ってた年号だよね。

 

「随分と大昔ですわね。多くの多元世界と比べても数百年は前ですか」

 

「そうだね。だから地球連邦みたいな統一国家は出来ていなくて世界中にいっぱい国はあるし、使われている技術もすごく古い」

 

 言葉と共にハロ・ビーの目から光が出て、画像が壁に投影される。

 

 そこに並ぶのは多元世界では辞典や映像でしか見た事のないくらい古い戦車や戦闘機達だ。

 

「ずいぶんな骨董品だ。私の感覚からして一万と二千年前でもこんなモノは使っていなかったぞ」

 

『まさかの化石燃料駆動だからねぇ。まあ、それよりも大変なのはコッチなんだけどさ』

 

 そして画面が切り替わると、そこに現れたのは醜悪の一言な異形の軍団だった。

 

「ぴっ!?」

 

「ゲ!? BETA!!」

 

 あまりの気持ち悪さに思わず悲鳴が出るのと同時に、隣にいたミウが盛大に顔をしかめる。

 

「コイツ等の事を知っているのか?」

 

「異星人が送り込んできた資源採掘用の生体重機だよ。星から星を渡り歩いてそこにいる生物ごと資源を根こそぎ奪う軍隊アリみたいな奴等。うわぁ……よりにもよってこの世界かよ」 

 

「……ミウ、いいこいいこ」 

 

 物知りな自慢の妹がへこんでいたので、頭をなでてあげました。

 

『でもって、今の地球人類はこのBETAとやらに追い込まれてるんだよね』

 

 画像がスライドして次に現れたのは、見た事の無いロボットが空を飛んで実弾式のマシンガンを撃っているところだった。

 

「……これは?」

 

『戦術歩行戦闘機、通称戦術機って呼ばれてる機動兵器だよ。この地球の人類にとっての主力武装だね。ただ数の差や性能の低さからBETAには敵わないみたいだけど』

 

 ふむふむ。

 

 つまり例の声のタケルちゃんを助けてって言うのは、このBETAから助けてって意味なのかな? 

 

「……にほんがおそわれるとダメ?」

 

「タケルというのは日本名か。なるほど、君が受けた念話の主が想う者がその国にいるという事だな」

 

 ミカゲさんの言葉に頷く私。

 

 それを受けたひーちゃんは投影された画像を変える。

 

「だとしたら少し拙いかも。さっきBETAの一団が九州に上陸したんだ。スーパーロボットの無いこの世界の日本に奴等を止める力はないよ」

 

 そこには民家やビルを踏み潰して突撃するグロいナマモノ達と逃げ惑う民衆が映っていた。

 

 私は一般市民の日常が消えるのがとっても嫌いである。

 

 なので、この惨状を見過ごす訳にはいかない。

 

「……ひーちゃん、おたすけする」

 

『OK! はるかぜなら30分もあれば九州に行けるよ!』

 

「私の乗る機体はあるのかい? アクエリオンは持ってきてないんだが」

 

『ゴッドガンダム作っといたから、それに乗れば?』

 

「なに! つまりミユと共に伝説の奥義が撃てると?」

 

『誰が乗せるか! ミーちゃんは私とハロに乗るの!! 最悪、陰蜂も出すんだから!!』

 

「宇宙怪獣相手にするわけじゃありませんのよ。あんなの使ったらオーバーキルですわ。まあ私はビーストの第二封印は解くつもりですけど」 

 

「お前も十分にやりすぎだろう」

 

『あとモビルドールでサーペントも300機造っといたから。パパっと倒しちゃおう!』

 

 それからはるかぜに乗り込んだ私達は一路地球へと向かった。

 

 久々の戦いだ、気合を入れて行こう。

 

 

 

 

 人類の歴史に大きな功績を刻んだ天に浮かぶ人類第二の大地『コロニー連合体』

 

 それが世に現れたのはBETAによる日本帝国侵攻の序盤と言われている。

 

 アジアの各国を蹂躙して朝鮮半島を制圧した憎むべき化け物達は、次の目標として九州の大地を定めたのだ。

 

 もちろん帝国も出来うる限りの対抗策を講じていた。

 

 国連や中韓連合軍が必死に保っていた朝鮮半島の防衛網へ日本帝国軍を派兵して脅威が迫る日を遅らせ、ロールアウトした国産の第三世代戦術機『不知火』も配備した。

 

 しかし鉄原ハイヴから湧き出る膨大なBETAの群れには対抗する事が出来なかった。

 

 配備された守備隊は数の暴力で蹂躙され、九州の地は瞬く間に地獄と化した。

 

 刀折れ矢尽きて倒れる防人達の亡骸を踏み越えた侵略者共は、豊かな自然を食い荒らし街を蹂躙しながら罪も無き民衆にまで毒牙を向ける。

 

 膨大な数の非戦闘員から犠牲者が出る事となり、何とか生き残ったものの家財を失い難民となった人々は絶望に囚われていた。

 

 このまま自分達は奴等の腹に納まるのか、と。

 

 しかし、その暗黒の未来を覆す者があった。

 

『司令! 大気圏外からこちらへ飛来してくるモノあり! 全長は2㎞以上、所属は不明です!!』

 

『このタイミングでハイヴの落着ユニットまで来たというのか!!』

 

 夜通しの指揮で目の下に暗いクマを付けた九州方面防衛隊の司令官、島津義信准将は凶報に思わず机を叩く。

 

 鹿児島出身で郷土を守ると士官した彼にとって、この一週間はまさに拷問に掛けられるような日々だった。

 

 次々と部下を失い、懐かしい故郷は蹂躙されて灰燼と帰す。

 

 辛うじて助かった人達から向けられるのは無能を見るような恨みの視線。

 

 42歳という異例のスピードで出世をした秀才の彼にとって、その現実は自らが矮小な存在かをこれでもかと思い知らせてきた。

 

 それでもと疲労困憊の体に鞭打って戦線を維持しようとしていたのに、ここに来てこの知らせである。

 

 島津はショックのあまり気を失わなかった自分を褒めてやりたかった。

 

 しかし彼等の懸念はすぐに払しょくされることになる。

 

 天から舞い降りたのは忌まわしき化け物の卵ではなく全長2kmもの明らかな人工物、巨大な空を飛ぶ戦艦だったからだ。

 

 それは無数のミサイルを吐き出して、本土へ渡る準備をしていた難民キャンプへ襲い掛からんとしていたBETAの一群を薙ぎ払った。

 

 突撃級や要撃級で構成された敵前衛が爆炎に消える光景を見た司令部の人間は、みな唖然と口を開ける。

 

『ハロ、ハロ。コチラハ宇宙コロニー『豊葦原瑞穂国』所属ノ戦艦はるかぜ。コレヨリ貴軍ノ避難民保護ヲ支援スル』

 

 そして司令部に流れた戦艦からの無線は彼等は更なる混乱を招くことになる。

 

 何故なら彼等は宇宙コロニーなど聞いたことも無かったからだ。

 

 新たな宇宙人か、それともどこかの国の謀略か?

 

 だが彼等が口にしたのは紛れもなく日本語。

 

 しかもコロニーとやらの名前は豊葦原瑞穂国と来た。

 

 これは古事記や日本書紀に記された日本列島の呼び名だ。

 

 彼等が他の国や宇宙の存在だったとすれば、こんなマニアックな名前を使うだろうか?

 

 紛糾する司令部の中、島津は賭けに出る事にした。

 

「こちらは帝国軍司令部、島津義信准将だ! 君たちが何者でも構わない、どうか無辜の民を守ってくれ!!」

 

 通信士の無線を引っ手繰ると、万感の思いを込めてそう叫んだのだ。

  

 BETAの影響もあり、地球人類は往々にして天から来るモノに悪印象を抱く事が多い。

 

 それでも彼は全ての不安や嫌悪を呑み込んだ。

 

 現状においてもはや九州は詰みに近い。

 

 このふざけた盤上をひっくり返せるのなら! 故郷と同郷の人々を守れるのなら! 彼は悪魔の手でも取る覚悟を決めたのだ。

 

『了解シタ。コレヨリ敵生体ノ迎撃ヲ開始スル。女王様、出撃ドウゾ』

 

 自分の首が飛ぶのも覚悟のうえで叫ぶ帝国軍の現場司令官。

 

 その悲痛な声に天翔ける船は見事にこたえて見せた。

 

『……ん。ひーちゃん、いく』

 

『OK! サイコ・ハロ発進するよ!!』

 

 最初にはるかぜから飛び出したのは戦術機を遥かに超える黒い球体だった。

 

『……てき、いっぱい。きもちわるい』

 

『よーし、汚物は消毒だ! 秘技・洗濯機!!』

 

 その機体は光線級が放つレーザー照射を不可視の防御壁ではじくと、次の瞬間には一帯に破壊の嵐を生み出した。

 

 回転しながら放たれるのは音速を超えた鉄杭に弾頭、ミサイルに光弾の雨あられ。

 

 その圧倒的な暴力の前では強固な外殻を持つ突撃級も60mの巨体に見合うタフさを誇る要塞級

も関係ない。

 

 それに巻き込まれたBETA達は問答無用で肉塊に化けるか、超高熱で跡形もなく蒸発する。

 

 なにより恐ろしいのは、そんな広域絨毯攻撃を放っていても擱座した戦術機に取り残された衛士や逃げ遅れた歩兵などを一切巻き込まない事だ。

 

 見ていた者達全てが魔法か何かではないかと疑うのも無理もない事だ。

 

 周辺のBETAを蹂躙すると、黒い球体は体内から多数の分身を吐き出した。

 

 島津を始めとして司令部の人間の度肝を抜いたのは、吐き出した小型の分身達も同等の機構を備えていた事だ。

 

 威力こそ親機には敵わないが、その戦力は現行最先端の第三世代戦術機すら大きく引き離す化け物機体。

 

 数十にも及ぶそれらは空中から次々とBETAの群れへ殺戮をまき散らす。

 

『張り切ってますわね、姉さま。ビースト、出撃しますわよ』

 

 破壊の権化のような機体の次に飛び出したモノは、島津達の目を疑わせるに十分なものだった。

 

 何故なら女児が好むクマのぬいぐるみのような戦術機だったからだ。

 

 一見すればふざけているとしか思えないクマ型の機体だが、それが大きな間違いであることを島津はすぐに思い知らされることになる。 

 

『では、私達の平穏な生活の為にくたばってくださいな。真・月光蝶展開』

 

 その言葉と共にクマが背負うリボンを象った背嚢からプリズムの光が溢れる。

 

 それは鱗粉のように周囲にまき散らされると、竜巻のように渦を巻いてBETAを含めて周辺にあるモノ全てを呑み込んだ。

 

 最初は幻想的な光景に息をついていた司令部の人間も、次の瞬間にはこれがそんな可愛いものではない事を知ることになった。

 

 何故なら巻き込まれた廃墟や戦術機の残骸、さらにはBETAまでもがまるで砂のように崩れて行ったのだから。

 

 そうして破滅の嵐が止んだ先に現れたのは魔獣という名が相応しい機械の獣だった。

 

『第二封印解放完了。では蹂躙といきますか……豚のような悲鳴を上げろ、クソ虫共!』

 

 可愛らしい少女の声の筈なのに聴くだけで背筋を凍らせる宣言の後、獣から数十条の光線が迸る。

 

 口や背から生えた緑の触腕から放たれたそれらは、後詰めとして現れたBETAの第二陣へ突き刺さると種別の分け隔てなく全てを融解蒸発させる。

 

 その様はかつて光線級のレーザーに撃ち落とされた戦術機を思わせるものであり、そうして友や家族を失った司令部の溜飲を大きく下げさせた。

 

『翅無し共を助ける義理はないのだが我が君の願いだ、仕方あるまい』  

 

 何ともやる気が無さそうな声と共に戦艦から飛び出した第三の影は、前の二つと違って人型をしていた。

 

 戦術機よりもより人に近いフォルムのそれは、BETAを前にゆっくりと手を合わせる。

 

 いったい何のつもりだと訝しんでいた島津達は、次の瞬間目を引ん剝く事になった。

 

 何故なら次の瞬間には人型に突進していた突撃級が次々とひき肉になりながら宙を舞ったのだから。

 

 スロー映像で確かめてみると、吹き飛ぶ瞬間に突撃級の甲殻に拳の型が刻まれていた。

 

 つまりあの機体はBETAを撲殺したという事だ。

 

 だが拳を振るっていない上に明らかに射程外のBETAが殴り飛ばすのは、どういったカラクリなのだろうか?

 

 司令部の疑問など置き去りにして、次々とBETAを宙へ吹き飛ばしていく人型機。

 

 そこに獣から通信が入る。

 

『ちょっと待て! アクエリオンに乗ってないのに、どうして神来無限掌使えんの!?』

 

『ミユと会えない時間が私を強くした。我が君を思うその気持ちが空間を! 距離を超えてこの手を伸ばす境地へと導いたのだ!!』

 

『んなアホな!?』

 

 その言を聞くに、人型を操る衛士は想い人への愛故に常識を超えた強さを身に着けたのだろう。

 

 あり得ないと思う反面、島津は同じ男として彼の偉業に感銘を覚えた。

 

 憎むべき人類の仇敵を物ともしない3つの機神。

 

 しかし如何に強力な力があろうと、たった三体では九州に広がった膨大な数のBETA全ては相手どれない。

 

 それは避難が出来ていない民間人や激戦の中で命を繋いだ帝国軍人の死を意味することだ。

 

 島津がそれを伝えようとした時、またしても巨大戦艦のハッチが開いた。

 

 そこから飛び出してきたのは、分厚い装甲と身の丈ほどの連装ガトリングガンや大砲を手にした戦術機達。

 

 今まで出てきた中で最も戦術機に近い姿の鋼の巨人たちは、フライトユニットに乗って次々と九州各地へと散っていく。

 

 島津や司令部の面々にとって、自力で飛べない戦術機など初めてのことだ。

 

 その威容に呆気に取られていた島津達はすぐに重要な事に思い至った。

 

 この地球の空は人類ではなくBETAの物だという忌まわしい事実を。

 

 警告を発しようとした島津達だが、それよりも早く地上から幾条もの破壊の光が放たれる。

 

 それらが重武装戦術機を捉えた瞬間、司令部の誰もが融解炎上しながら無様に墜落する鋼の巨人を思い浮かべた。

 

 しかし現実は彼等の思うようにはいかなかった。 

 

「馬鹿な…光線級のレーザーに耐えた?」

 

 戦術機はおろかその土台となる輸送機すらもレーザーを物ともせずに空を駆けて行ったのだ。

 

 唖然とする島津達の視線を受けながら悠々と九州の各地へ散っていく戦術機達。

 

 次の瞬間、現実を受け入れた司令部の人間は口々に喝さいの声を上げた。

 

 何故なら彼等の胸には確信があったからだ。

 

 異邦人達が我々の味方になってくれるのなら、彼等の技術が我々に齎されたなら人類はBETAに負けないと!!

 

 

 

 

 どうも。

 

 地球を侵略するキモい生き物が強くなくて安心した幼女です。

 

 九州地方救出から二カ月が経ちました。

 

 とりあえず上陸した敵はやっつけたんだけど、次から次へと海を渡ってワラワラ寄ってくるんだよね。

 

 ひーちゃんが言うには、鉄原って場所にある奴等の巣を壊さないと止まらなかったんだって。

 

 だけど、私達の目的は一般人を助ける事で巣を壊すのはやり過ぎかなって思っちゃったのだ。

 

 なのでレアアロイ製かつPS装甲の分厚い壁をボンボンボーンと置いて、朝鮮半島を囲っておいた。

 

 いやはや、ミウが真・月光蝶でリソースを貯めていてくれて助かった。

 

 でもって避難民の方なんだけど、移動手段が船しかなかったうえに海が荒れているから本州に行けないと言ってきた。

 

 九州はもうキモい敵の所為でグチャグチャだし、ほとんどの人が家財を失った状態なので暮らしていくのは不可能だ。

 

 さらには日本軍や在日米軍の生き残りな兵隊さんもいるし、物資もほとんどないと来た。

 

 最初ははるかぜに乗せて海を越えようと思っていたんだけど、東郷って住民の代表なおじいさんがこう言ってきたんだ。

 

『このまま本州に行っても我々には避難生活が待っているだけ。家族や家財を失った身ではそんな過酷な環境では生きていけん。どうにかならないだろうか?』

 

 それを受けた私はコロニーへ避難民を連れて行く事を提案した。

 

 あそこって広すぎて、私達だけで使うには色んな物が余りまくっていたからね。

 

 これに関しては最悪『私達ははるかぜで暮らせばいいや』という事で皆の納得を得た。

 

 なので私達は避難民の皆に豊葦原瑞穂国へ住んでもらう事にした。

 

 最初は宇宙での生活を不安がっていた皆も、日本とほぼ変わらないコロニーの様子にあっさりと順応した。

 

 ちなみに彼等が選んだ土地は九州地方。

 

 住所の割り振りはコンピューターでやって、仕事の方も今まで就いていた物をお願いしたから移住はスムーズにいったと思う。

 

 あと政治や治安に関しては全力でぶん投げました。

 

 理由? 我々の年齢を見てもらいたい。

 

 成人しているのはミカゲさんだけだし、この人は私以外の人間なんて興味0だぞ。

 

 この人に統治を任せても秒で投げ出すに決まっている。

 

 『餅は餅屋』という諺があるように、こういった場合は経験者へ任せるに限るのだ。

 

 その後は色々あった。

 

 先ず驚いたのは、この宇宙は元居た多元世界とは時間の流れが違っていて、こっちの一日がむこうの1分だったこと。

 

 私達の身体がむこうの時間軸に固定されているので、こっちの世界だと成長が見込めない事にはショックを受けた。

 

 あと避難民を一時預かりした事について説明するために、日本のショーグンや皇帝と会う事になった時は大変だった。

 

 礼服を持っていないって言ったら、お見舞いや買い物とかで仲良くなった街の人達に『恩人を粗末な恰好で殿下や陛下の前に出せない!!』って呉服屋へ連れていかれてミウと一緒に強制着せ替え大会に巻き込まれたし。

 

 あんな豪華な振袖着たのは初めてなら皇帝さんの凄いお城に入ったのも初めてだった。

 

 ちなみに皇帝さんは威厳のあるおじさんだったんだけど、ショーグンさんは中学生くらいの女の子でした。

 

 多元世界でもそうだったけど、どうして国の要職に子供が就いてるんだろうね?

 

 ショーグンさんって武士だし薙刀が得意だって言ってたから、Gシステムのデータから『ガーベラストレート』ってMS用の日本刀と『閃光丸』って薙刀をお土産に持って行ったら凄く喜ばれた。

 

 幸いな事にショーグンさんも皇帝さんもいい人だったんだけど、話の流れで何故か日本に戸籍が出来てしまった。

 

 私達って一応日系人のはずなんだけどなぁ。

 

 ちなみに戸籍の名前は『明日香心結』『明日香美羽』『富和野美影』。

 

 なお、ミカゲさんが私と自分を夫婦で登録しろと言ってショーグンさん達にドン引きされたり、ひーちゃんに殴られたのは見なかったことにする。

 

 日本から帰った私達はこの世界にはBETAの侵攻の影響で難民が多くいる事を知った。

 

 なので未来世紀式のコロニーを各国に当て嵌めて何基か造って、そこを助けた難民達に開放したりした。

 

 ヨーロッパで軍に取り残された難民キャンプを助けた時は、難民に混じって王女様がいたりして凄く感謝された。

 

 彼女が言うのは臨時政府はイギリスに出来てるんだけど、自分は政治が出来ないから少しでも民と寄り添いたかったんだってさ。

 

 そうしてインドや中東の国々など色々と宇宙へ移住させた訳なんだけど、これって割と失敗だったかもしれない。

 

 だって、アメリカを始めとして地球でまだ健在な国から『自分達にもコロニー造れ』って言ってきたんだもん。

 

 このコロニーって難民の人達が安心して暮らせる避難場所として造ったんだけどなぁ。

 

 アメリカさんなんて、言う事を聞かないとコロニーを攻撃するって言ってきたからね。

 

 実際に核弾頭を積んだ船が攻めてきた時は本気でびっくりした。

 

 人類がピンチなんだから、そういうリソースはBETAに向けようよ。

 

 艦載機がない上に光学兵器も使えない船に私達が負けるはずがないので、戦艦は無力化したうえで拿捕しておいた。

 

 あの時はミウやミカゲさんがアメリカを滅ぼそうとして、宥めるのは本当に大変だった。

 

 私達に恩を感じているせいか、コロニーに住む人たちは一斉に非難の声を上げて地球とコロニーの仲が険悪になるしさ。

 

 私達は宇宙世紀やCEみたいな地球と宇宙の対立なんて作りたくないんだってば!

 

 というか、後から来たナイアがこの世界の様子を見て大爆笑してたんだぞ!

 

 あの子に『こんな醜悪な人類を見たのは久しぶり』だなんて言われるのは相当だと思うので、特にアメリカ政府の上層部は反省した方がいいと思います。

 

 そんな我が娘が大好物な混沌とした状況を見かねた私は、乾坤一擲の策を打つ事にした。

 

 それは神様と一緒にカシュガルとかいう所にあるオリジナルハイヴとやらを壊す事だ。

 

 ひーちゃんの調査によると、ここにはBETA達の司令塔がいるらしい。

 

 ソイツを倒せばこの世界の人類も勝てる……んじゃないかな、多分。

 

 対集団戦は陰蜂の方が得意なんだろうけど、あの子を使うと地球環境がエライ事になるから。

 

 ほらスーパージェネシスとかウルトラビッグキャノンとか、あとプラズマダイバーミサイル・フレイヤ風味とかも。

 

 BETAの親玉を倒しても地球が壊れましたじゃあ元も子もない。

 

 その点、神様なら手加減すれば地球は壊れないしね。

 

 ミケーネ戦でその辺は実証済みだし。

 

 そんな訳で御神体も神様への変化を遂げたし、私もパイルダーへ収まった。

 

『巫女よ、手早く終わらせるぞ。この世界の人間は醜悪過ぎて好かん』

 

「……ん」

 

 あとは宇宙から流星になって突撃あるのみ!!

 

 それじゃあ、魔神ゴー!!

     




オリジナルハイヴ攻略RTA 新記録4秒

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