幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 最近、幼女の生き残る可能性を模索している作者です。

 確率? ソイツを聞くのは野暮ってもんさ。

 保護者候補がアウトレイジな彼女ですが、なんとかハッピーにしたいものである。


幼女と異世界の映画

 北米マイノット基地からの帰路の中、ネオ・ジオンの旗艦レウルーラにある執務室でハマーン・カーンは深い溜息を吐いた。

 

 今回の遠征でネオ・ジオン軍は将も兵も分け隔てなく疲れ果ててしまっている。

 

 その理由は少し前まで相対していたZ-BLUE、そして総帥の影武者たるフル・フロンタルにあった。

 

 彼等が矛を交えた相手は連邦軍が誇る最精鋭だ。

 

 当然楽な戦いにはならないのは予想していた。

 

 だが、あんな形で士気を挫かれるとは誰が予想できただろうか?

 

 しかもあの時干渉してきた娘はZ-BLUEにとって相当重要だったようで、混乱冷めやらぬ自分達に奴等は敵意剥き出しで襲い掛かって来たのだ。

 

 アムロ・レイをはじめとしたエースが所属するМS隊。

 

 奴等の駆るガンダムタイプは一般兵はもちろん、エースを称するベテランパイロットが相手をしても死神に等しい存在だろう。

 

 しかしそれでも所詮は自分達と同じMSだ。

 

 攻撃だってある程度のセオリーがあるし、こちらの弾が当たれば損傷もする。

 

 彼等の精神をヤスリどころか鬼おろしで削りまくったのは彼等の存在ではない。

 

 それは特機と呼ばれる鋼の機神達、いわゆるスーパーロボットと呼ばれる機体だった。

 

 MSを大幅に超えるサイズの体躯で実体剣や槍など原始的な武器を縦横無尽に振り回し、火器を放てばモビルアーマーすら上回る程の威力を叩き出す。

 

 更にMSなら撃墜確定のミサイルやビーム砲をまともに受けても、爆炎の中からケロリとした顔で現れる理不尽な耐久力まで付いている。

 

 ハマーンもファンネルのビームを、まるで小雨のように微動だにせず無傷で受け切ったゴッドマーズなるロボットを相手にした時は思わず気が遠くなったものだ。

 

 そんな化け物共がそこら中で暴れまわるのだから、ネオ・ジオンの兵達にすれば堪らない。

 

 自分達に与えられた最新鋭MSがブリキのオモチャに感じられても仕方ないだろう。

 

 そして、その中でも群を抜いて恐ろしかったのはマジンガーZという黒い魔神だった。

 

 奴は突然天へ咆哮を上げたかと思うと、腕から自身の身の丈を超える弓状の超巨大な刃を生やしてみせた。

 

 そして次の瞬間には凶刃をフル・フロンタルへ向けて前腕部ごと発射したのだ。

 

 マイノット基地を文字通り両断しながら音速以上の速さでカッ飛ぶ超巨大な刃物。

 

 その光景を目の当たりにした時、ネオ・ジオンの将兵によぎったのは『変態が死んだ!』という思いだった。

 

 だが醜悪という言葉すら生温い代物を垂れ流したとはいえ、アレでも一応は総帥の影武者で軍の幹部の一人。

 

 さすがに見捨てるわけにはいかなかった。

 

 ハマーンの指揮の元、核弾頭搬送用コンテナを護衛していたズサ隊は苦渋の思いで機体に積んだミサイルの全弾を用いて、なんとかイカレたギロチンの刃を止めようとした。

 

 しかし相手は理不尽の権化たる特機。

 

 ハマーンの記憶が正しければ『超合金Z』というガンダリュウム合金を遥かに上回る耐久性を誇るトンチキ金属で作られた、スーパーロボットの中でも耐久性は群を抜くバケモノだ。

 

 案の定ミサイル程度では傷一つ付かなかった刃拳は神業的なタイミングで奴とガンダムとの間を割り込むと、シナンジュの左肩と膝の下を切り飛ばした。

 

 いかに高出力スラスターで空中戦をやってのけるとはいえ、地上で片足を失えばMSに出来るのは砲台の代わりが精々でしかない。

 

 この時点でフロンタルはほぼ戦闘不能だった。

 

 しかしネオ・ジオンの人間にとって不幸な事に彼の魔神はその程度では満足しなかった。

 

 奴は身体を大きく反らせると、今度は口の部分から強酸を含んだ嵐を噴き出したのだ。

 

 放たれた颶風は瓦礫と共に半壊した基地施設や機動兵器の残骸を巻き上げ、瞬く間に天に暗雲を呼び起こした。

 

 機動兵器の攻撃一つで天候が変わるという異常事態に茫然とする敵味方一同。

 

 一時的に戦場を飛び交う砲火が止んだが、彼の魔神はそんな事などお構いなしに更なる嵐を巻き起こす。

 

 吹き荒ぶ滅びの風を浴びてどんどん崩れていくマイノット基地。

 

 味方であるZ-BLUEは何とか安全圏へと脱出したようだが自分達はそうは行かなかった。

 

 基地の隔壁を砂山のように崩壊させるあの風の前ではМSの装甲など障子紙も同然だろう。

 

 絶望に包まれたネオ・ジオンの兵士達だが、彼等がそのまま消え去る事を良しとしない者がいた。

 

『総員聞けぇぇぇぇぇい!! ここで死んだらお前等はロリコン・ホモな変態の手下のままだぞ、それでもいいのかぁぁぁぁっ!?』

 

 通信機から聞こえてきた絶叫はレウルーラの艦長を勤めるヒル・ドーソンのモノだった。

 

 普段は物静かで堅実な男が放った叱咤にハマーンが驚きでポカンと口を開けていると───

 

『サー・ノー・サー!!』

 

 今度は様々な声が入り混じった返答が返って来た。

 

『ならばぁぁぁッ! 貴様等は生き抜く事に全力を尽くせぇ!! 死んだ奴は総帥とあの変態にケツを掘られると思えよ!!!』

 

 再度スピーカーを揺らす激励に兵士達は次々と生への渇望を口に出し始めた。

 

『コイツは絶対に死ぬわけにはいかねぇ!』

 

『ああ! 俺は清い身体でカカァに会うんだ!!』 

 

『性犯罪者の一味でなんて死ねるかよ! 俺は世の中を変える為にネオ・ジオンに入ったんだからな!!』

 

『私女だけど総帥も変態も無理! 守備範囲は十三歳の可愛い男の子までなの!!』

 

『いい趣味ね。私も総帥は無理だわ、だってヒョロいんだもの。もっと筋肉モリモリのマッチョじゃなくちゃ!』

 

『すまないが俺はタチ専門なんだ。後ろの純潔は誰にもやれないな!!』

 

 兵士達の心に希望の炎が宿ると同時に、フロンタルと一緒くたにされたシャアの目から光が消える。

 

 これで元凶である男は親衛隊に付き添われて、とっくに母艦へ逃げかえっているのだから堪らない。

 

 その後ネオ・ジオンの兵士達は類稀なる執念と連携を見せ、戦力としては壊滅的だがなんと半数以上の将兵があの凶風地獄を切り抜けたのだ。

 

 動けなくなった機体が順次自爆する事で死の風に活路を開いていく様は、ハマーンをしても目頭が熱くなったものだ。

 

 こうして身も心もボロボロになりながらも生き延びたネオジオン軍は、宇宙に確保している拠点の一つである鉱物資源衛星『パラオ』への道程を進んでいるのだ。

 

「奪取出来た核弾頭は予定の半分に満たないか……。これはルナツー襲撃を急がねばならんな」

 

 実質的に失敗と言うべき成果に頭を悩ませるハマーンは深々とため息を吐いた。

 

 とりあえず事の元凶であるフロンタルは戦闘終了後すぐにブラジリアン・ハイキックで沈めてから謹慎を言い渡している。

 

 今の奴は親衛隊以外から『赤い生ゴミ』と呼ばれているようなので反対意見が出る事は無いだろう。

 

 ならば現状一番の問題は───

 

 グルグルと思考を巡らしながら向けた視線の先には、部屋の隅で三角座りをしている自軍の総帥の姿があった。

 

「いい加減立ち直れ、シャア。カミーユも誤解だと気づいてくれるさ」

 

「……ハマーン、これでは私は道化だよ」

 

 覇気がマイナスに振り切れた声で呟くシャアに『あのザマでは比べるのは、道化にすら失礼だがな』と思ったが、心優しいハマーンは敢えて口にはしなかった。

 

 先の一戦でフロンタルの巻き添えを食う形でカリスマや評価を地表へと叩き落したシャアだが、彼にとって何より堪えたのは『真のニュータイプ』と目を掛けていたカミーユ・ビダンの一言だった。

 

『大尉! 貴方も俺のケツを狙ってたんですかっ!?』

 

 こんな憤死モノの疑惑を掛けられたシャアは性能差があるにも関わらず、アムロのリガズィにサザビーを半壊させられたうえ、戦域外に留めていたレウルーラに帰り着くなり執務室に引きこもってしまったのだ。

 

 まあ、ハマーンとしては自室でイジけられるよりはマシだが。

 

 この後、現実逃避のつもりか前髪を降ろしてグラサンを掛けたシャアが『人違いだな。私の名前はエドワウ・マスだ』などと言い出して、ネオ・ジオンから逃亡しようとしたところをハマーンから無言の腹パンを食らったり。

 

 うずくまるシャアが狙いすましたかのように携帯へ送られてきた『今更マス姓を名乗るなんて…やはり兄さんは鬼子です。氏ねばいいのに』という妹からのメールを見てトドメを刺されたりしたが、それは些細な問題だろう。

 

 

 

 

 …………この年で黒歴史と恥ずか死ぬという思いのダブルパンチを味わったミユです。

 

 悪夢のネオ・ジオン戦から一週間が経ちましたが、実は私はつい先ほどまで意識がありませんでした。

 

 と言っても寝たきりで眠ったままだったワケじゃないのでご安心を。

 

 ドラゴンズハイヴのルゥさんが言うには、例の全裸・ショックによって幼児退行が起きてしまい、本能に意識が持って行かれていたらしい。

 

 『幼女なのに幼児退行とはこれ如何に?』と思うだろうが、要するに昨日までの私は身も心も正真正銘の幼女だったという事だろう。

 

 そこまではいい……いや、全然よくはないがなってしまった物は仕方がない。

 

 でもって昼くらいに正太郎君の友達を思う心の叫びで正気を取り戻したのだが、問題はここからだった。

 

 なんと幼児退行していた時の記憶が一気に頭の中に流れてきたのだ。

 

 シン兄をなんの臆面もなく『にぃに』呼びをしてベッタリ張り付き、他のZ-BLUEの人達に対しても『ぎゅー!』と言いながら抱き着く始末。

 

 竜馬さんはともかくとして、チームDやC.C.おばば様にまで抱き着いていたんだから絶対に正気じゃない。

 

 というか誰彼構わず抱っこをねだったり、シン兄が夜勤でいない時にはチビが遠隔で下ろしたパイルダーの中で眠ったり奇行にも程がある。 

 

 知らぬとはいえ自分がそんな事をやっていた事を叩き込まれた私は、当然ながら自分の行いを死ぬほど恥じた。

 

 どれくらいダメージがあったかというと、部屋に帰って来たシン兄が『ミユ、元に戻ったのか!?』という声にベッドの上に寝転がって真っ赤な顔を押さえながら『……はじゅかしい』と噛んだくらいだ。

 

 あの時の羞恥心は『いっそ一思いに殺せ』と言いたいくらいの勢いだったけど、そんな事を口にしたらシン兄が悲しむから言わなかった。

 

 こうして何とか平静を取り戻す事が出来たのだけど……シン兄を何時もの呼び方したら少しだけ寂しそうな顔したんだよね。

 

 もしかして『にぃに』呼びを気に入ってたのかな?

 

 恥ずかしいからいつも呼ぶのは勘弁だけど、甘える時は使ってあげてもいいかもしれない。

 

 私が自失している間の事をシン兄から聞いてみれば、ネオジオンとの戦いの後Z-BLUEは地球圏にあった隕石の調査に出かけたんだって。

 

 でもって、その中心に冷凍睡眠カプセルの中で眠る正太郎君と同じくらいの男の子を見つけたらしい。

 

 その子はグーラと名乗ったんだけど、最初は冷凍睡眠の後遺症から自身の記憶が曖昧だったみたい。

 

 それでサポートに回ったワッ太君と正太郎君と仲良くなったんだけど、実は彼は宇宙魔王の息子であるグーラ・キングである事が判明する。

 

 魔将軍ダンカンによって宇宙魔王の軍へ帰った彼は、スペースロボに乗ってZ-BLUEに敵対した。

 

 今回はタケルさんと正太郎君のコンビネーションによって退ける事が出来たんだけど、彼は正太郎君の制止を聞くことなく撤退してしまったそうだ。

 

 私が目を覚ました時に感じたのは、この時の正太郎君の叫びなのだろう。

 

 もしこの時に正気だったなら、クマさんの例の機能で正太郎君とグーラの互いの気持ちを伝える事が出来たのに……

 

 肝心な時に役に立たなくて本当に申し訳ない。

 

 とりあえず、この一週間存分に迷惑をかけたようなので今から謝罪行脚に行くとしよう。

 

 スズネ先生やさやかお姉さんには風呂から何から世話になりっぱなしだったし。

 

 だけどレイおねえさん、君はダメだ。

 

 人が幼児退行しているからって、本当に『こちょこちょパっ!』をするとは思わなかったよ、私は。

 

 お肌の触れ合いによるスキンシップは大歓迎だけど、愛玩動物扱いは幼女として固くお断りするのであります。

 

 

 

 

 グーラ・キングとの邂逅のあと、アクエリア市に戻って来た私達Z-BLUE。

 

 ネオ・ディーヴァからアクエリオンのパーツやら何やらを補給する合間、私達は聖天使学園のイベント広場で『アクエリアの舞う空』という映画を鑑賞する事になった。

 

 このイベントはアルトさんがグーラの事で落ち込んでいる正太郎君を励ます為に映画でも見せようと思い立ったのが始まりらしい。

 

 で、その話を偶々聞いていたチームDのエイーダさんとジョニーさんによって、どうせなら大々的な上映会にしようと話が膨らんでいき、気が付けばプロのイベント会社も巻き込んだ事でシェリルさんやランカさんのライヴも含めた大イベントになってしまった。

 

 おかげで聖天使学園の校庭は超満員、これって肝心の正太郎君が見れなくなってるんじゃなかろうか。

 

 ちなみにエイーダさんは現役アイドル、ジョニーさんはその敏腕マネージャーなんだとか。

 

 さすがチームD、副業が意味不明すぎる。

 

 でもって、快復した私もゼシカお姉さんに誘われてこの場に来ている訳だ。

 

 ゼシカお姉さん曰く『あんな汚いモノを見たんだから、いい話で口直ししないとね!』だそうな。

 

 その時サザンカさんが『汚いなんてトンデモない! 尊いよ! おいしいエサだよ!!』と叫んでいたのだが、あの光景をどんな風に見たらそんな意見が出るのだろうか?

 

 やっぱりエレメントは変わり者が多いなぁ。

 

「どうだ、ミユ。楽しかったか?」 

 

「……ん」 

 

 隣に座ったシン兄の問いかけに私はコクリと頷いた。

 

 というか、人に感想を訊ねるならよだれの跡くらい拭ってからにしようね。

 

 開始15分で爆睡したの、私はちゃんと気付いているんだから。

 

 ツッコミは入れたものの、私の感想としては何というか微妙だった。

 

 映画の内容は1万2000年前に人類を滅亡の淵に追い込んだ堕天翅族が再び侵攻を開始する中、かつて同胞を裏切り人類を護った最強の堕天翅アポロニアスの転生体であるアポロンと、彼が前世で愛し堕天翅族を裏切る理由となった少女セリアンの転生であるシルフィの戦場ラブロマンスである。

 

 映画の前提となってるアポロニアスの神話はこの世界では誰でも知ってるくらいに有名なモノらしいのだが、その知識がない私からしてみると3章編成の長編映画の第三章だけを見せられたようで置いてけぼり感が凄い。

 

 2時間って尺だと、背景情報や登場人物の説明が雑過ぎて映画を見ててもほぼ分からないし。

 

 ぶっちゃけ、これだったらアポロンとシルフィの話じゃなくて、前段階のアポロニアスとセリアンの話にした方がよかったのではなかろうか?

 

 辛うじて理解できたのはアポロンとシルフィが恋仲だ、くらいなものだ。

 

 これで感動するのはちょっとハードルが高いかな……

 

 とはいえ、一応は私の快気祝いという意味が籠っているのだ。

 

 少しは作品を理解する努力をすべきだろう。

 

 そんな訳でアポロニアスの神話を調べるべく、私はシン兄から買ってもらった携帯端末をポチポチし始めた。

 

「……何調べてるんだ?」

 

「……アポロニアスのおはなし」

 

「そういや、ミユは知らなかったんだっけか」

 

「……シンにぃ、しってる?」

 

「ああ。映画に出てたアポロンとシルフィのモデルになった奴等は俺達の仲間だからな」

 

 これにはさすがに驚いた。

 

「……アポロンもシルフィもほんとにいるの?」

 

「ああ。本当の名前はアポロとシルヴィアって言うんだけどな。アイツ等も今あるのとは別のアクエリオンに乗ってたんだ」

 

 『なんでか知らないけど、他の皆は憶えてないんだよなぁ』と首をかしげるシン兄。

 

 これはどういう事なんだろうか?

 

 パンフやネットの情報だと、この映画の話は1万2000年前に起きた実話というか伝説を基にしているらしい。

 

 という事はシン兄は1万2000年前に生きていた人間と知り合いだという事になる。

 

 恐らくは多元世界という事が関係しているんだろうけど……幼女のおつむではこれ以上は分かりませぬ。

 

 というか、この事実って映画の100倍はミステリーじゃない?

 

 そんな事を思いながらもポチポチと2万4千年前の神話を紐解いていったのだが、アポロとシルヴィアはともかくアポロニアスとセリアンには共感できなかった。

 

 これには色々と理由があるけど、第一に堕天翅族にアポロニアスの婚約者がいた事が大きい。

 

 いくら好きになってしまったとはいえ、すでにいる婚約者を捨てて別の女性に走るのは如何なものか?

 

 2万4千年前の闘いで堕天翅族を退けたって事は、その婚約者と和解する事なく倒しちゃったってことでしょ。

 

 英雄としてはOKなのかもしれないけど、一人の男性としては責任を取らないのはアウトだと思うの。

 

 それに彼にも家族がいたとしたら、アポロニアスが一族を裏切って敵に回ったのを悲しんだろうし、その立場も悪いモノになったに違いない。

 

 果たして今まで自分の周りにいた人間全てを蔑ろにしてまで貫かなくてはならない程、愛とは大切なモノなのだろうか?

 

 正直言って私にはとても理解できないしマネできない。

 

 それは私もこの身体も恋愛を知らないからかもしれないけどさ。

 

 そんな事をツラツラと考えていると、聖天使学園の外堀の向こうに揺らぎが生じたのを感じた。

 

 この感覚には覚えがある。

 

 アブダクターが現れる前兆だ!

 

「……シンにぃ、アブダクターがくる」

 

「なんだって!?」

 

 シン兄がそう言って立ち上がった瞬間、空に極彩の魔法陣が浮かび上がる。

 

 そしてそれが吐き出す光が消えると、現れたのは例のクモロボと野獣型の指揮官ロボだった。

 

「クソッ! こんな時に……」

 

 そう吐き捨てながらシン兄が立ち上がると、会場全体に焼けつくような感情が籠った声が木霊する。

 

『感じる…感じるぜ、アイツの匂い! どこだ……どこにいる!?』

 

 これはあの野獣ロボの指揮官の声だ。

 

『俺の…俺の……シルフィィィィッ!!』

 

「シルフィだって? アイツも『アクエリアの舞う空に』を見てたのか?」

 

「……ちがう」

 

 そう、あれは虚構のキャラに向けるような生易しい感情じゃない。

 

 言葉に込められていたのは背中とお腹がくっつくような、どうしようもない飢餓感だった。

 

 私には判別がつかないけど、あれが恋愛で異性を求める感情だとしたら。

 

 そして2万4000年前の人物だったアポロニアスとセリアンの転生が、1万2000年前にアポロとシルヴィアとして生まれ落ちていた事実と照らし合わせれば……

 

「……アレがアポロニアスのうまれかわりで、ここにセリアンのうまれかわりがいるかもしれない」

 

「なんだって!?」 

 

 正直言って絶対に合ってるとは言えないけど、そこまで的外れな予測じゃないと思う。

 

 ……間違ってたら笑って許してね。

 

 それはともかくとして、今はここにいる観客を逃がして奴等を迎え撃たないといけない。

 

 その為にはみんなが出撃する時間を稼がないと。

 

「……クマさん、きて」

 

 私がそう呼びかけると以前と同じくクマさんが飛んできた。

 

「ミユ! なにを!?」

 

「……シンにぃ、おててつないで」

 

 そう言ってシン兄の手を掴むと、クマさんのトラクタービームが私達を引き上げる。

 

「どうするつもりなんだ?」

 

「……クォーターにもどる。あるくよりずっとはやい」 

 

 本当なら私が囮になってZ-BLUEの出撃準備と観客の避難の時間を稼ぐべきなんだろうけど、もう無茶はしませんと誓った身としては単騎でそれをするのは無理がある。

 

「……ミユだけだと、じかんかせぎはむり。でも、シンにぃといっしょならだいじょうぶ」

 

「分かった。それじゃあ頼めるか?」

 

「……ん」

 

 この事態を察知したZ-BULEの艦隊はすぐ近くにまで来ている。

 

 全速力でクマさんを飛ばすと1分で合流する事が出来た。

 

「デスティニーの準備は!?」

 

「大丈夫だ、いつでも出せる!!」

 

 クマさんから降りたシン兄は整備の人の話を聞くとすぐにデスティニーへと乗り込んだ。

 

『シン・アスカからブリッジへ! これからミユと一緒に時間稼ぎの為の迎撃に出る! その間に迎撃態勢を整えて市民を避難させてくれ!!』

 

『わかった。現在、市民の避難はネェル・アーガマと21世紀保障のスタッフが担当している。ラー・カイラム、ドラゴンズハイヴ、そして本艦は牽制射撃と支援砲撃に徹する。君達は会場へ近づく敵機の足止めに専念してくれ』

 

『了解! デスティニー、出るぞ!!』  

 

 カタパルトから勢いよく飛び出したデスティニー。

 

 続いて私もクマさんをカタパルトに乗せる。

 

 ストライカーはリボンからランドセルに切り替え。

 

 獣ロボが相手なら、あの秘密兵器が役に立つはずだ。

 

『ベアッガイ、発進どうぞ! ……あなたは病み上がりなんだから、くれぐれも無茶はしないようにね』 

 

「……ん。クマさん、いってきます」

 

 キャシーお姉さんの気遣いにそう答えた私は、クマさんと共に再び戦場へと舞い戻るのだった。

 

 

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