幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
どうも、クマさんと一緒にクモ退治をしているミユです。
現在、Z-BLUEのみんなはクォーターに向かっているようだ。
あと21世紀保障の皆さんも頑張ってるけど、会場の避難には時間がかかるみたい。
そんなワケで私とシン兄だけでアブダクターを牽制している状況だ。
正直手が全然足りてないので、ブライト艦長たちの援護射撃がとってもありがたいです。
「……みんなのところ、いっちゃダメ」
クマさんレーダーで状況の推移を逐次確認しながら、私はクモロボ達の道を散弾仕様のミサイルで塞ぎ、隙を見ては縦笛ビームで狙撃している。
テンションが上がってる所為か、以前とは動きが別人のように鋭い獣ロボは今の私じゃ抑えきれない。
悔しいけどこっちがクモロボを担当して、シン兄が奴と一対一で戦える状況を保持するのがベターだろう。
『チィッ!? うぜぇぞ、テメェ! 俺はシルフィーを……あのクソ女を俺のモンにして……ブッ殺すんだからよぉ!!』
『勝手な事を……! お前みたいな獣を会場には行かせるかよ!!』
空中で四肢を生かして飛び跳ね、獣そのものの動きでシン兄に襲い掛かる敵機。
その攻撃を紙一重で躱すと、すれ違いざまにデスティニーは両手に持った短いビームの刃で相手の左肩と胴体を切り裂く。
『クソがぁぁッ!?』
『まだまだぁ!!』
空中でトンボを切っての方向変換すると同時に手にした銃からビーム……じゃないや、光弾の雨を野獣ロボへ向かって放つ。
あれ、デスティニーの装備がライフルからビームマシンガンに変わってる。
『火力は落ちたけど、今のデスティニーならスピードでお前に負ける事は無い!!』
ビームマシンガンを背中にしまうと、シン兄は再び両手からビームの刃を伸ばして光の翼と共に指揮官機へ襲い掛かる。
残像を引き連れて突貫するデスティニーは今までの闘いよりも軌道も複雑でずっと速い。
『舐めるなぁッ!』
相手は咄嗟に掲げた槍の柄でシン兄の攻撃を防いだけど、それは最初の一撃だけだった。
柄に食い込んだ薄紅色の刃を弾いて穂先を振り回した時には、デスティニーはすでに獣ロボの背後に回っている。
そうして縦横無尽に獣ロボの周りを飛び回りながら、デスティニーはヒットアンドアウェイで次々と敵の身体を切り刻んでいく。
奴も直感で致命傷は避けているようだが、スピードと機体の大きさから来る小回りの差でデスティニーに追いつけていない。
『はああああっ!!』
『ぐああああああっ!?』
そうして十数度目の攻防で、胴に横薙ぎの一刀を食らって怯んだ敵を気合と共にシン兄は地面へと蹴り落とす。
背中のバックパックから粒子の残りを放ちながら間合いを取るデスティニー、その時初めて私はシン兄の愛機の姿が以前と変わっている事に気が付いた。
「……シンにぃ。けんとたいほう、ない」
そう、今のデスティニーの背中には背負っていたハズの大きな剣と大砲が無くなっているのだ。
代わりに取り付けられているのは、ゼクスさんのトールギスのモノを小さくしたようなブースターだった。
『ああ、アムロ大尉やカミーユの機体が強化されたのを見て俺も考えたんだよ。どうしたらデスティニーが強くなるのかを』
シン兄が言うにはデスティニーはマルチロール、つまり一機でどんな状況にも対応できる機体を目指して作られたらしい。
だけどその為にあれやこれやと詰め込まれた機能は操作の難易度を上げる原因となり、同時に一点突破の機体には及ばない器用貧乏という欠点を機体に植え付けてしまった。
相談したアストナージさんの私見では、バカみたいに高性能な機動性が大砲と大剣の重量によって殺されているように感じる。
そして武装が邪魔をして翼の可動域が制限されている為に、運動性もかなり落ちているのではないかとの事だ。
それを聞いたシン兄は私がアッパッパーになっている間に一念発起し、デスティニーの改造を決意。
火力の要である剣と大砲を廃し、その代わりにトールギスを参考に小型化したスーパーブースターポッドを追加したらしい。
これによって更なる機動力と上下左右に動くブースターポッドによって空中での運動性の強化に成功したそうだ。
さらに武装も中・近距離戦闘を得手とするシン兄に合わせて、ライフルから牽制性能が高いビームマシンガンに変更。
近接武装も出力調整によってダガーとサーベルに切り替えられる『高出力腕部ビーム刃・フルンディング』へと改造したらしい。
あと、今まで切り札に使っていた掌のビーム砲は外しちゃったんだって。
なんでもあそこまで近づくのならビームサーベルで斬った方が早いんだとか。
でも完全に無くした訳じゃなくて、エネルギーバイパスはビームサーベルとシールドの出力強化に役立ってるんだってさ。
『ミネルバの時からずっといじらずに使って来たけど、考え方を変える時が来たんだよ。Z-BLUEにいるのなら俺とデスティニーだけで全てを行う必要はない。遠距離ならミシェルみたいに遠距離に特化した仲間もいるし、火力だったらスーパーロボットに任せればいい』
『なら自分の役目は切り込み隊長として、誰よりも早く相手の喉元に食らいつく事だ』そう話すシン兄はとってもカッコよかった。
これならば獣ロボは任せて大丈夫そうだ。
というか、ぶっちゃけデスティニーが速すぎて手助けできるレベルじゃない。
ヘタに縦笛ビームを撃ったらシン兄に当てかねないし。
こうなったら、こっちはクモロボの足止めに専念しよう。
幸いUGセルの効果でランドセルの中で弾が作られるからミサイルが切れることはないそうだ。
というか、いつの間にかコッチでも空を飛べるようになってるし。
アムロ大尉達の機体をパワーアップさせた事といい、あれって本当に便利だよね。
そんな事を考えながらバカスカ散弾を撃っていると、後方から放たれたビームによって撃ち漏らしのクモロボが次々に爆散した。
『待たせたな、二人共!』
『後は俺達に任せろ!』
背後を見れば、Z-BLUEの皆が次々に出撃しているのが見えた。
『ミユちゃん、大丈夫? 病み上がりなんだから無理しちゃダメだよ』
今日のアクエリオンにはミコノお姉さんが乗っているらしく、通信モニターに心配そうな顔が浮かび上がる。
その時、私の直感センサーが彼女から妙な感情を感じ取った。
獣ロボにたいする恐れは分かるんだけど……これは罪悪感?
今まで何度か交戦してたのは知ってるけど、どうして敵にこんなモノを抱くのだろうか?
見た感じ、ミコノお姉さん自身もこの感情を持て余しているようなので、問いかけても有益な答えは返ってこないだろう。
今はそんな事を考えてる場合じゃないと頭を振って思考を切り替えると、地面に叩きつけられたはずの獣ロボが浮かび上がって来た。
『まさか自分から戦場に出てくるとはな、好都合ってのはこういうのを言うんだろ。なあ、シルフィ!』
コクピットの中で舌なめずりしている姿が透けて見えるような、強烈な殺意と執着心を見せる獣ロボのパイロット。
それがアクエリオンに向けられているという事は、アマタさん・カイエンさん・ミコノお姉さんという乗ってるメンツから見て、奴の言うシルフィがミコノお姉さんである事は間違いないだろう。
うん、私の精神衛生上、他の二人がそうだなんて驚愕の真実は遠慮願いたい。
こちとら、まだ全裸・ショックの影響は抜けきっていないのだ。
『まずは弱っている指揮官機を叩く! 全機、奴に火力を集中しろ!!』
『わかりました! いくよ、カイエン! ミコノさん!!』
ジェフリー艦長の指示に従って、みんなは次々に獣ロボへ攻撃を叩き込んでいく。
けれど銃火に晒された奴の機体は損傷を受けた途端、まるで映像を巻き戻すみたいにその傷が修復されていく。
見れば、さっきシン兄に刻まれた傷も綺麗さっぱり消えてしまっているじゃないか。
『効かねぇんだよ、そんなものはよ!』
『おい、どうなってんだ! ヤロウ、勝手に傷が直ってやがるぞ!?』
竜馬さんの声に応えるように、ネオディーバの指令室からデータが送られてきた。
えーと……次元境界線? 湾曲? ダメだ、分からん!
「データわかんない。おしえて」
『要するに、別の世界からあの機体に修復の為のエネルギーが送られてきてるという事です』
送信元に問い合わせてみると、シスター風のお姉さんが苦笑いで教えてくれた。
なるほど、そういうことか!
あと例の太陽オジサンもいたけど、あの人ってネオディーバの関係者だったのね。
『理屈は分からねぇがコイツはいい! 好き放題やれるってことかよ!!』
自分の機体に超回復が付いたという事でテンションを上げる獣ロボのパイロット。
そんな中、私はおしりのカッチンからクマさんに指示を出した。
「……クマさん、とくせいミサイルB」
私の意を汲んでランドセルから黄色い弾頭のミサイルを放つクマさん。
ミサイルは獣ロボに着弾すると、その周囲に黄色い爆煙を巻き上げる。
『へっ! そんなモン効かねえって───』
奴の勝ち誇った声は途中で途絶え、次の瞬間───
『あ……アポクリン汗腺ッッ!?』
謎の絶叫と共に獣ロボが地面へと落下した。
ピクピクと痙攣しつつ、地面をのたうち回りながら必死に自身の鼻をモぐ獣ロボ。
さすがは特製弾頭、こうかはばつぐんだ!
『ミユちゃん、いったい何をしたの?』
『……けものロボはいぬみたい。だから、くさいにおいをつかった』
私の答えに正太郎君は何故か顔をひきつらせた。
ちなみに弾頭に込められた臭いは『御大将の勇壮なスメル』という。
『くさいにおいって……どんな奴なんだ?』
「……んと、『ドリアンをおもわせるなんごくチックでスパイシーなわきしゅう』だって」
そう答えるとアマタさんはそりゃあもう嫌そうな顔をした。
うん、私もどんな匂いなのかは絶対に知りたくない。
『やれやれ。こちらが手を貸してやっているのに無様なものだね、カグラ』
これで会場の人達が逃げる時間を稼げたと安心したのもつかの間、私の脳裏に聞き覚えの無い声が木霊した。
恐らくはアブダクターの関係者なんだろうけど、声に込められているのは獣ロボのパイロットに対する侮蔑と憎悪。
……ううん、違う。
この声の主は世界を呪っているんだ。
傍から聞くだけで背筋が冷たくなるような悪感情いっぱいの意思。
けれどその中で、微かに別の声が聞こえた。
それは彼か彼女かもわからない、とても小さな子供の物だった。
耳を澄ましてもほとんど聞き取れないような細いその声音は、それでも確かに助けを求めていた。
だから私は即座に決断したんだ。
とっても怖いけどあの子を助けに行こうと。
目を閉じて意識を集中させると、それに応じてクマさんのサイコフレームが淡い光を放つ。
最初は攻撃的な意志を示すような赤、それも私の集中が深まると淡い緑へと変わっていく。
そうして光が宇宙を示す蒼へと変わった瞬間、私は意識が何かと繋がったのを感じた。
◆
ふわり浮き上がるような感覚で目を開くと、私は辺り一面が闇に覆われた空間にいた。
指を動かす事も億劫になる汚泥のような空気が漂う嫌な場所。
周囲を覆う闇は絶望、失望、憎悪、悲嘆、自己嫌悪、嫉妬……人が示す負の思いが凝縮されたモノだ。
『いやっ!?』
それらは剥き出しになった心に纏わり付き、無遠慮に飲み込もうとする。
私は身を守ろうとサイコフィールドを張ったけど、それも間を置かずに嫌な軋みを上げ始める
これは拙い、どうにかしないと悪感情に飲み込まれて闇の一部になってしまう。
ありったけの精神力で障壁を維持しながら打開策を考えていると、耳元に先ほどの子供の声が聞こえた。
『……だれ?』
私が問いかけるとその声は確かにこう言った。
『おかあさんをたすけて』と。
その瞬間、障壁が甲高い音を立てて壊れて闇が私に殺到した。
あっという間に汚泥に飲み込まれる私の心。
閉じる事が出来ない視界が真っ黒に染まり、全身を悪寒や不快感が苛んでいく。
それでも私が自我を失わずに済んだのは、声の主がギリギリのところで守ってくれたからだ。
だから私はその子の思いに合わせて、もう一度障壁を張った。
気を抜けば途切れそうになる意識を必死に保ち続けて、どれくらい時間が経っただろうか?
ただただ亀のように身体を丸めていた私は、黒で染まっていた視界に光が差し込むのを感じた。
次に見えたのは見た事も無い幻想的な光景の中、太陽を思わせる背に羽を背負う男性と幸せそうに寄り添う中性的な美しい天使の姿だった。
直感的に分かった。
あれは2万4000年前の神話に生きたアポロニアスと彼の許嫁だ。
それから見える場面は目まぐるしく変わっていく。
アポロニアスが人間の女戦士セリアンに恋をして堕天翅族を裏切った事実を知る許嫁……いや頭翅。
彼は事実を知ってもアポロニアスを愛しており、許嫁の心変わりを理解する事が出来なかった。
けれどアポロニアスは彼ではなくセリアンを選び、太陽とまで謳われた翼を失ってでも彼女を庇った。
それによって頭翅は深い絶望と人間への憎悪、アポロニアスにも愛憎入り混じった執念に似た感情を抱くようになってしまう。
そしてアクエリオンを「太陽の翼」として覚醒させたアポロニアス達にアトランディアが封印されたことで、彼は同胞共々1万2000年の眠りについてしまう。
それからは二重に世界が映り、同時に記憶が進行するようになった。
片方は『アクエリアの舞う空』のシナリオ通りアポロン……ううん、アポロがアポロニアスの転生体である世界。
そこでは他の同胞よりも一足早く目覚めた頭翅は、堕天翅族を人間とは隔絶した存在に進化させようと積極的に人狩りを行っていた。
そのために“翅の契り”という儀式をアポロニアスの力を受け継いだアクエリオンと結び、彼の子供を宿している。
どうしてこれで子供が出来るのかサッパリだが、彼のお腹に新しい命が宿ったのは私にも感じ取れたので妊娠したのは事実なんだろう。
けれど、この子がこの世に生まれてくる事は無かった。
アポロニアスの転生体であるアポロがセリアンの生まれ変わりであるシルヴィアを一途に想い続け、彼女と本当の意味での“翅の契り”を結んでしまった為に流産してしまったのだ。
しかもこの影響によって頭翅は受胎能力を失い子供を産めなくなってしまった。
絶望と憎悪に燃えた彼はシルヴィアを倒すために戦いを挑むが、アポロの乗るアクエリオンによって倒されてしまう。
……うん、これは酷すぎる。
正直、頭翅が哀れすぎて途中から涙が止まりませんでした。
そしてもう一方の世界はシン兄が言っていた世界だった。
シン兄のデスティニーやアムロ大尉のνガンダムが出てたし。
あ、なんか全身金ぴかの機体があったけど、嫌な気配がしたので見なかった事にします。
ただ、ゲッターとマジンガーが私の知る物と違うような気がした。
竜馬さんはメッチャ若いし甲児さんも何処か雰囲気が似ている別人みたい。
何より、あの世界のマジンガーは神様の気配が凄く薄かったのだ。
それはともかくとして、こっちの世界の頭翅の記憶に話を戻そう。
こちらは他の堕天翅族の方が先に目覚めていて、彼が目覚めたのは一番最後だった。
ただ、おそらくは隣の記憶は並行世界というヤツなんだろう。
その影響を受けた彼はこちらでも受胎能力を失い、容姿も中性から男性よりになっていた。
その後、Z-BLUEの前身である『ZEUTH』と何度も戦火を交えた彼は、最後は多元世界に根を張った生殖能力を失いつつある一族の存続の鍵となる『生命の樹』――世界を道連れに枯死しそうになっている――を救うため、人間と堕天翅族の融和という願いを掲げたアポロと和解。
彼とエレメントの一人であるシリウスという人と共にアクエリオンに乗りこみ、生命の樹と世界を存続させる為の人柱となった。
ただ、この時凄い問題があったんだ。
頭翅はアポロをアポロニアスの転生だと思ったからこそ和解したのに、この世界の彼はそうじゃなかった。
実はこの世界のアポロはポロンっていうセリアンが飼っていた羽の生えた犬、その生まれ変わりだったんだ。
しかも当のアポロニアスは別の場所にいて、この一連の事件を見ていたらしいんだよね。
人柱になる寸前にその事実を知った頭翅はそりゃあもう激怒した。
そうして彼はその憎悪を自分から切り離したみたいなんだ。
二つの映像が終わると、再び闇に閉ざされた空間の中に私の掌に乗る程のほのかな光が舞い降りる。
今ならわかる。
これはあの世界で産まれる事ができなかった頭翅の子供だ。
『おかあさんをたすけて』
点滅しながら絞り出すような声で懇願する光に、私はどうすればいいかを問いかける。
すると彼は私にその方法を教えてくれた。
それは私にとって、とても難しいものだった。
というか、幼女がそんな事を言っても説得力が無いような気がする……。
けれど、ここで引き受けなきゃ女が廃る。
「……まかせて」
そう声を掛けて彼をサイコフィールドで包むと、闇の中に強い力を宿した何者かが現れた。
髪も肌も瞳も色素の薄い、背中に羽を背負った中性的な美しい人。
記憶で見た容姿とはかなり違ってるけど、彼はこの世界の主である頭翅だ。
「……とーま」
「お前か。私の心に無遠慮に触れた翅無しは」
不機嫌そうにこちらを睨む頭翅に寒気がするけれど、私はお腹に力を入れてその目を真正面から受け止めた。
いくら怖くても、ここで引き下がったら話し合いなんてできない。
「……とーま」
「その名で私を呼ぶな。私の名前はミカゲ、トワノ・ミカゲだ。名前を間違えるのは失礼な事だと教わらなかったかな?」
「……じゃあミカゲ、おはなししたい」
私がそう切り出すとミカゲは興味深そうに相好を崩す。
「話? 少しばかり妙な生まれのようだが、翅無しの娘ごときが私とどんな話をするのかな?」
こちらを嘲り、見下している事を隠そうともしないミカゲ。
けれど、こんなのは彼の境遇を思えば当たり前の悪感情だ。
気になんてしていられない。
「……せかいに…アポロニアスにふくしゅうしないほうがいい」
そう言うとミカゲは忌々しげに顔を歪めた。
「……お前は私の記憶を見たのだったな。それで他の翅無し共のように、あの女とアポロニアスの愛が尊いとでも言いたいのか?」
「……ちがう。そんなのどうでもいい。アポロニアスなんかにかまうのはじかんのむだ。やめたほうがいい」
「……なんだと?」
おや、私の言葉にミカゲはもの凄く驚いているぞ。
人間がアポロニアスを悪く言うのって、そんなに珍しい事なのかな?
というか、あんなの見せられたらアポロニアスとセリアンの事を良くは言えないって。
被害者側の視点で見た所為で、大分偏った見方になってる自覚はあるけどさ。
それでも一人の人間を散々踏みつけるような愛が尊いとか私は絶対に思えない。
ぶっちゃけ、アポロニアスって前世も生まれ変わっても婚約者を裏切った責任とか全然取ってないじゃん。
別の人を好きになるのは仕方がないし、一緒になりたいって気持ちも理解できる。
それでも婚約者がいる身なんだから、その辺の筋はちゃんと通すのが責任ってモノでしょう。
そういうケジメを全部放棄したアポロニアスは男として最低の部類だと思う。
「お前は……翅無しのクセにアポロニアスを否定するのか? 奴の献身があったからこそ、お前達は存続しているんだぞ」
「……ミユはべつのじげんからきた。アポロニアスのおせわ、なってない」
「───なるほどな。では時間の無駄とはどういう事だ?」
「……カレンおねえさんのよんでたほんに、かいてあった。すきのはんたいはむかんしん。あいてをうらむのは、そのひとをおもってるしょうこ」
「否定はしないよ。だが、愛は枯れ果てても恨みの炎は尽きない事もある。それにどこがいけない?」
「……おとこのひとは、おんなのひとにうらまれたらいやがる。けど、こころのどこかでゆうえつかんをおぼえるんだって」
「……なに?」
「『こいつはまだ、おれからはなれられないんだ』って。じぶんがもててるのをうれしがるって、かいてあった」
「ずいぶんと醜い感情だ。それがアポロニアスにもあると言いたいのか?」
「……ん」
「奴をお前達翅無しの男と一緒にするな!? 奴は清い心の持ち主だった! そんな醜悪な物など───」
「ほんとうにきれいなこころのひとは、こんやくしゃをすてたり、じぶんのこどもをころしたりしない」
キッパリとミカゲの怒声を切って捨てると、彼は苦虫を噛み潰したような表情で顔を背ける。
まあ、彼がやった事は人から見たら偉業なのは認めるよ。
でも、プライベートがここまでドロドロだったら尊敬はできないなぁ。
「アポロニアスをうらんでいたら、あっちはずっとそんなきもち。そんなのミユはいや。それよりも、あんなのほっといてしあわせになってほしい」
「私にアポロニアスを忘れろと言うのか!? あの男が私の前にいても何もするなと!!」
おや、なぜそうなるのかな?
「……めのまえにいたら、おもいっきりなぐってもいい」
「はぁ!? お前は恨むなと言ったではないか!!」
どうやら幼女の語録のお陰で私の意思はうまく伝わっていないようだ。
というか、あれだけの事をされたんだから目の前にいたらブン殴るくらいOKに決まってるじゃん。
私が言いたいのは、執着して延々と恨み続けたり、復讐の為に色々暗躍するのは時間の無駄だって事だ。
恨み辛みで復讐を果たしてもアポロニアスの心は戻ってこないし、この子が産まれてくる事だってないんだから。
そんな事に何千年何万年を費やすくらいなら、スッパリと忘れて別の人を好きになった方が生産的に決まっている。
それで幸せになった後でたまたま前の男に出会ったら、右拳一発叩き込んで未練なんて欠片も残さずに颯爽と去っていく。
私はそういうのがカッコいい女の人だって思うんだ。
「小娘、何故私の思念に触れた? 憎悪に塗れた私の想いはお前にとって毒となる。関わる理由はないはずだ」
「……たすけてほしいっていわれた」
「助けてほしいだと? お前にそれを頼んだのは何者だ」
「……うまれてこれなかった、あなたとアポロニアスのあかちゃん」
こちらの答えに目を見開くミカゲ。
その反応を見た私はサイコフィールドで保護していたあの子の思念を解き放つ。
するとあの子の思念は私の元に現れた時のようにふわふわと淡い光を放ちながらミカゲの手に舞い降りた。
「───頭翅と共にいればよいものを、私の事などを気遣って……」
我が子の思念に触れて涙を一粒流すミカゲ、その姿は一瞬だけど彼の元になった頭翅とダブって見えた。
それで少しだけ周囲の闇が薄くなっだけど、何故か同時に私の姿も少しずつ上へと浮き上がり始めた。
「……あれ?」
「時間切れだ。元よりお前と私とは存在の階位が違う。例えその身がシンカの道標の役目を担っていたとしても、長い時間心を繋ぎ続ける事はできない」
……そうか。
ミカゲと話が出来たのは収穫だったけど、あの子の願いを叶えられたか分からないのは心残りだ。
「我が子の声を拾い上げた事は礼を言おう。そして、お前の提案は悪い物ではなかったぞ」
その言葉を最後に私の視界は眩い光に包まれた。
◆
一向に成果を上げられないカグラの援助として機体を再生させる為のエネルギーバイパスをミスラ・グニスに繋ぎ、ヴァジュラを呼び出したミカゲ。
アルテア界から地球へと転移した彼は、自分の心中で行われた小さな侵入者との会話を思い出す。
「幸せになれ、か」
そんな言葉は頭翅だった頃も含めて送られた事は無かった。
思えば、1万2000年前に自分は頭翅から分離した時から……いやアポロニアスに裏切られた時から自分の苦しみを共感してくれる者を求めていたのではないか?
同胞たる堕天翅族はアポロニアスを一族の裏切り者としか捉えず、ミカゲの苦しみや戸惑いなど意にも介さなかった。
一時期は恋仲だった音翅もアポロニアスをただ自分の想いを邪魔する者としか見ていなかった。
固く心中を閉ざし、誰にも明かさなかった己の自業自得だとは理解している。
それでも……それでも誰かに言ってほしかったのだ。
私は悪くないと。
悪は自分の愛を裏切ったアポロニアスと、想い人の心をかすめ取ったセリアンなのだと。
けれど、気が付けばそんな事は世界が許さなくなっていた。
自分達が封印されている間に翅無し共は地上に溢れ、あの二人の愛は聖なる神話として語り継がれていたからだ。
あの世界では誰一人、奴等の愛を疑う者はいなかった。
自分は名前すら記されない悪であり愛の敗北者でしかなかった。
悲しかった。
みじめだった。
真実を何も知らぬ者達がアポロニアスとセリアンの名を讃える度に、自分の想いが破れたのだという事実を突きつけられた。
それでも自分はこの想いを捨て去る事が出来なかった。
今にして思えば本当に愚かな事だ。
自分を想わぬ者、自分を求めぬ者に思慕の情を向けていったい何になるのか……
そこまで考えると彼は苦笑い一つ残して、当初の予定通りにネオディーバの総司令部へ転移する。
「運命の赤い糸…その残酷なる運命を紡ぎしもの、姿を見せよ!」
総司令である不動ZENの一喝を受けて姿を現したミカゲ。
「ほう…さすがだね。すでに気付いていたとは」
自分の仕掛けた謀りに気付いたかつての想い人、本来なら彼の前に現れる時は冷笑とも嘲りともとれる笑みを浮かべるはずだった。
しかし今のミカゲの顔には何も張り付いていない。
メインモニターの前に浮かび上がって不動を見下ろすその目は酷く無機質だ。
「貴様は……!?」
「黙れ、翅無し。貴様などに用はない」
かつて自分のつがいを奪い取った怨敵を前に猛るドナール・ダンテスの声を切って捨てたミカゲは、瞬く間に不動の前へと移動する。
「随分と久しいね。1万2000年……いや2万4000年ぶりかな?」
「…………」
問いかけるミカゲに沈黙を返す不動。
その姿を映す堕天翅の目は更に冷たさを増す。
「ふん、やはりだんまりか。所詮、貴様にとってはその程度なのだな。過去に犯した罪も、我々も、そして私の想いも」
「過去への妄執など己を縛る呪縛にすぎん。貴様こそ未だ旧き形を捨てられぬようだな」
次の瞬間、司令部を揺るがす程の轟音が鳴り響いた。
「不動……!?」
クレア・ドロセラが慌てて目を向ければ、そこには大きく陥没した壁を背に頬を腫らして床に座り込む不動と、拳を振り抜いた状態でその姿を睨むミカゲの姿があった。
「あの娘の言うとおりだな。ただ殴り飛ばすだけで、こうも心が晴れるとは」
小さく笑みを浮かべるとミカゲは口の端から垂れた血を拭う不動に背を向ける。
「喜べ、アポロニアス。その一発で2度に渡る私への裏切りはチャラにしてやる」
「…………いいのか?」
「いつまでもこの心を縛り付けられると思うな。私にはもう貴様などに割く時間は1秒足りとも無いのだ」
そう言い残して姿を消したミカゲに、不動は立ち上がりながら笑みを浮かべる。
「よくぞ、奴の呪縛を解き放った。あとは任せるぞ、少女よ」
ネオディーバの司令部から地上へと戻ってきたミカゲは、ヴァジュラとアブダクターを迎え撃つZ-BLUEの姿を見ながら胸に手を当てる。
「お前もそう思うか。そうだな。恨みであれ愛であれ、想いが届かぬ背を追い続けるのは疲れるものだ。それならば……」
そう呟くと彼は聖天使学園の広場に設置された特設ステージへと舞い降りる。
「誰ッ!?」
突然の乱入者に歌声を響かせていたシェリルはランカを背に庇いながら、ミカゲを睨みつける。
「不躾な真似をしてすまない。私はミカゲ、君達に一つ頼みたい事があるのだ」
「頼みたい事……ですか?」
シェリルの後ろで戸惑いの声を上げるランカに、ミカゲは笑みを浮かべながら頷く。
「私は長年失恋を引き摺っていたのだが、ある女性に出会ってようやくその思いを断ち切る事が出来た」
「そうなんですか」
ミカゲの言葉にランカは真摯に耳を傾ける。
今の彼女にとって、失恋はけっして他人事では無いからだ。
「ああ。こんな状況だが……いや、こんな状況だからこそ彼女に想いを伝えたい。だから、君達には歌で私の背を押してほしいのだ」
「へぇ、良い話じゃない」
「そうですね、私達でよければ」
「ありがとう。では頼むよ」
相好を崩す二人の歌姫にそう言い残すと舞台から飛び立つミカゲ。
「それじゃあ、とびきりのヤツを歌うわよ!」
「はいっ!」
二人の歌姫の美声を背に受けながらミカゲが向かったのはバルディオスとゴッドシグマ、二つの鋼の巨神が守るクマの元だった。
『堕天翅だと!』
『奴は敵なのか!?』
光の幕に包まれたミカゲの姿を前に、手にした剣を向けて警戒を露にするスーパーロボット達。
「久しいな、鋼の機神達よ。そこを通してくれないか。私は彼女に伝えたい事があるのだ」
それを前にしてもミカゲは臆する事なく言葉を紡ぐ。
『……この子を害するつもりは無いんだな?』
「我が翼に賭けて誓おう」
マリンの問いかけに頷くと、剣を降ろしたバルディオスは道を空ける。
「聞こえるか、少女よ」
『……ん』
そして光の残滓を残しながらベアッガイの顏の前へと進んだミカゲは、穏やかな笑みを浮かべながらミユへと語り掛ける。
「君のお陰で私は不毛な想いを断ち切り、過去にケリをつける事が出来た。あの子の事も含めて改めて礼を言おう」
『……いい。ミユがすきでやったこと』
「ミユか、良い名だ。君によく似合っている」
『……ありがと』
戦場の中に似つかわしくない穏やかな会話。
それに闘志也もマリンも思わず気を抜いた。
いや、気を抜いてしまったというべきだろう。
「ミユ、君に伝える事がある」
「……ん?」
『君と……合体したい』
爆音響く戦場に何故か高らかと響く愛の告白。
瞬間、シェリルとランカは初めて舞台でマイクを落とした。
ヤベェ逆ハーメンバー全員参戦!(BGMは例の音楽でお願いします)
『抱かれた(抱っこ)のか、俺以外の奴と』(ブレストファイヤー)
『言葉を交わしたのか、俺以外の奴と』(ルストハリケーン)
『視線を合わせたのか、俺以外の奴と』(光子力ビーム)
他に靡いた瞬間、死あるのみ。
存在自体がはた迷惑の権化。
俺様型ヤンデレ終焉の魔神、参戦!
◆
『私は器だ。故に全ての想いを受け入れるのだよ!』
老若男女、人類すべてが俺のヨメ!
現在、社会的地位が最底辺の男。
全方位変態レッドマン、参戦!
◆
『生体コアよ、我等を更なる進化へ導くのだ! 我等の世界を…システム存続の為に!!』
見た目はプリティ、中身はドス黒い。
コイツに掛れば幼女すら道具に過ぎない。
腹黒系あクマ、参戦!
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『さあ、新たなる愛しの君よ。私の想いを受け止めて、あの子の母になってくれ!』
幼女(6歳)に神魂合体をキメて、我が子の再誕を狙うヤベー奴。
クレイジー・サイコホモ改めクレイジー・サイコロリコン、参戦!
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『悪い事は言わんから、私の跡を継ぎなさい。ホントマジで……』
頭がおかしいメンバーの中で、唯一の常識人
幼女をスカウトしたい神官系オネエ枠(雌雄同体)、参戦!