幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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〈前回のあらすじ〉

・某銀河の妖精『私達の代表曲がロリコンに穢された、訴訟』

・某超時空シンデレラ『なんて言ったらいいのかな……。バラエティのロケで渡されたボタンをオモチャだと思って押したら核兵器の発射スイッチだった……。そのくらいの酷いサギだと思います』

・某ロリコン疑惑天翅『私は二人の歌声を汚す事を強いられているんだ!!(アルト声で)』


幼女、暴走す

 こんにちわ、突然降り注いだ難題に『説破』と言えないでいるミユです。

 

 対話の甲斐あって態度が軟化したミカゲさん。

 

 アポロニアスとの過去を清算できたのはめでたいだけど、合体したいというのはどういう事だろうか?

 

『ちょっと待て! お前、子供になんて事言ってんだ!?』

 

 慌てた様子で抗議の声を上げるマリンさんにミカゲさんは軽蔑するような視線を返す。

 

「下衆な勘繰りで薄汚い欲望に結びつけようとは、これだから翅無しは……」

 

『なんじゃ。チョメ───』

 

『キラケン!!』

 

 キラケンさんが何か言おうとしたけれど、慌てた様子のジュリィさんに止められてしまった。

 

 チョメ……って何の事だろう?

 

「……クマさん、がったいできない」

 

 ええ、ウチのクマさんにあるのは背中のパーツ交換だけでございます。

 

 というかZ-BLUEで合体するのって、アクエリオンくらいじゃないかな?

 

 あ、ゲッターも本当はできるって言ってたっけ。

 

 竜馬さんのブラックゲッターはできなくしちゃってるらしいけど。

 

「それならば心配はいらない。気に食わんが今はあの機械天使を使えばいい」

 

「……あれはアマタおにいさんたちのもの」

 

 そう、アクエリオンはネオディーバの物でエレメントという立派なパイロット達もいるのだ。 

 

 『ちょっと乗せて』とサブシートでマスコットするならともかく、勝手に使うのはさすがに拙いと思うの。

 

「大丈夫だ、アクエリオンはもう一機ある。最低男の手垢や寝取り女の汚汁、あとはイヌ臭が染み付いている中古品だが、奴等にはそれを使ってもらおう」

 

『ちょっと待て』

 

 もの凄い言い様にどう返そうか困っていると、ネオディーバの方から通信が来た。

 

 繋げたら例の太陽オジサンが険しい顔でマイクを握っている。

 

『幾らなんでも言い過ぎだろう! アレは私の最高傑作、あの女は私のヨメ、そしてイヌ臭付けたの嫁の元ペット!』

 

 えっ、ちょっと待って!

 

 あの人ってもしかしなくてもアポロニアスなの!?

 

「馬鹿め、そんなモノは貴様も含めて等しく価値など無いわ! まあ新型の方も多少はイヌ臭とあの女の匂いが付いているが、その辺はファ●リーズを撒いて良しとしいてやる」

 

 ああうん……あの人がアポロニアスだったとしたら、ミカゲさんのあの態度も仕方ないかなって思っちゃった。

 

 けど、イヌの匂いって事はアポロの生まれ変わりもアレに乗ってるって事?

 

 私が思考の海に溺れそうになっていると、猛スピードでこちらへ接近する機体があった。

 

 そう、シン兄のデスティニーだ。

 

『お前っ! ミユに何をするつもりだ!?』

 

「突然割って入るとは無粋な……お前は何者だ、翅無し」

 

『俺はミユの兄貴だ! それより妹にいかがわしいマネをするきじゃないだろうな!?』

 

 割って入る様にクマさんの前に陣取ったシン兄は、ミカゲさんに手にしたビームサーベルを向ける。 

 

「ひどい言いがかりだ。私には彼女に対する害意など何一つないというのに」

 

 心外だと言わんばかりに肩を竦めるミカゲさんに、不信感を隠さないシン兄はさらに言い募る。

 

『そんな事信じられるか!? だいたいミユはまだ5歳だぞ! お前みたいな大人が言い寄るなんて常識的に考えてアウトだろうが!!』

 

 ちょっと待って、シン兄!

 

 私6歳! 6歳のはずだよ!!

 

 身体がちっちゃいからって、それはないんじゃないかな!?

 

『そう』

 

 心の中で抗議の声を上げていると、今度は零号機から通信が入って来た。

 

 というか、見たら初号機からスナイパービームライフルを借りてミカゲさんをロックオンしてるじゃないか。

 

『ミユは私の愛玩動物。せっかくへそ天を憶えさせたのに、連れ去るのは認められない』

 

 レイさんが会話に参加するのは珍しいなぁとか思ってたらこれだよ!

 

 私は子ネコじゃないってば!!  

 

『そういうこった、ロリコン野郎』

 

『恋愛云々は個人の自由っていうけど、ミユちゃんはいくら何でも小さすぎる。そう言うセリフはあと10年待ってもらおうか』

 

 今度はブラックゲッターとマジンガーもこっちに来た。

 

 アブダクターはどうしたんだろうと見てみれば、アムロ大尉の機体に追いかけられてる獣ロボとクモロボが数体ほどしか残っていない。

 

「翅無し共の常識など……と言いたいところだが、その辺は承知している。しかし彼女はそこのリリスも含めて、随分と厄介なモノに魅入られているようだからね、意思表明だけはしておきたいのさ。なにより、このまま行けば彼女は成長する事も───」

 

『ミィィィカァァァァァゲェェェェェェェッ!!』  

 

 ミカゲさんの言葉を遮る様に突如として響いた怒号。

 

 聞こえてきた方に目を向けると、アムロ大尉の追撃を振り切った獣ロボが空中を四足で駆けてくるのが見えた。

 

 いくら堕天翅とはいえ、あの突進を食らえばミカゲさんも無事では済まない。

 

 そう思った私は、彼の前にラムダドライバで増幅したサイコフィールドを展開する。

 

『ミユ! なんでソイツを庇うんだ!?』

 

「……ミカゲ、てきじゃない」

 

 シン兄から抗議の声が来たけど仕方ないじゃないか!

 

 だってミカゲさんは敵対行動を取ってないんだよ。

 

 アブダクターと関係があるかもしれないけどさ、だからと言って和解できそうなのにこっちが敵意を向けたらダメじゃないかな。

 

 ただでさえZ-BLUEと地球には敵が多いんだし、これ以上増えないようにするべきだと幼女は思います!

 

『ヴァジュラ共を還した上にエネルギーまで止めやがって!! テメエ、裏切るつもりかぁッ!?』

 

「そうだよ、カグラ。もはやお前もアルテア界も私には何の価値も無い」

 

 私達が不毛なやり取りをしている間に、獣ロボのパイロットが発する怒号に当然のように答えるミカゲさん。

 

 眼前で巨大兵器がサイコフィールドへ爪を立てるのに表情一つ変えないのは流石と言うべきか。

 

「私の事など、どうでもいいじゃないか。お前にとって大切なのはあの女ただ一人のはずだろう?」

 

『ああ、俺にとって必要なのはシルフィだけだ! だがな、むざむざ裏切り者を見逃す程甘くもねぇんだよ!!』

 

 こちらの障壁が破れない事に苛立ったのだろう、ひときわ大きく前足を振り上げる獣ロボ。

 

 けれど、その一撃が振り下ろされる事はなかった。

 

『兄弟よぉ! 今、女の名前を呼ばなかったかい?』

 

 通信じゃなくテレパシーのように頭の中に響く声と共に、突如獣ロボの背後に現れた機体が鉤爪を剥き出しの右手を押さえたからだ。

 

『なっ!?』

 

『おい、あれは……』

 

「やはり現れたか」

 

 予見したかのようなミカゲさんを除いて、私を含めたZ-BLUEのみんなは驚愕に目を見開く。

 

 だって謎の機体の姿は───

 

「……クマさん?」

 

 黒い装甲を持つアシラそっくりのクマさんだったのだ。

 

 ウチの子と違うところは真っ赤な眼光を放つ鋭い目だろう。

 

『なんだテメェは!?』

 

『戦場でなァ! 恋人や女房の名前を呼ぶ時というのはなぁ!! 瀕死の兵隊が甘ったれていうセリフなんだよぉっ!!!』

 

 振り払おうとした獣ロボの腕をさらに捻り上げると、黒いクマさんは空いた右手を相手の脇腹に叩き込む。

 

『光粒子フィンガーとはこういうものだぁっ!!』

 

 野太い声による気合と共にクロクマの手から放たれる極彩色の光、それはまさしくジェミニアが使った光粒子ブラストだった。

 

『ぐああああああああっ!?』

 

『異世界の小僧! お主の機体データを取りつつ、神の国への引導を渡してやる!!』

 

 クロクマの宣言通り、光粒子を纏ったその右手はドンドン獣ロボの身体を引き裂いていく。

 

 そうしてクロクマが腕を振り抜くと、強烈な破砕音と共に胴体の半分をえぐり取られた獣ロボは力なく地面へと落ちていく。

 

『フハハハハハハハッ!! このターン・エックマ凄いよ! さすがは数多の技術を結集したビーストの落とし子だ!!』

 

 半壊して動けなくなった獣ロボを踏みつけながら高笑いをするクロクマ。

 

『アブダクターの隊長機を一撃で!?』

 

『あの機体、アシラと同じく無人機なのか?』

 

 口々に驚きの声を上げるシン兄と甲児お兄さん。

 

 クロクマの声はテレパシーの類らしく、あの二人には聞こえていないようだ。

 

『堕天翅よ、その小娘をくれてやる訳には行かん。そ奴は我等の計画に必要なのでな』

 

 獣ロボの頭を蹴り砕いて大地を蹴ったクロクマは、そのまま高度を上げてミカゲさんの前に立つ。

 

「無粋な輩だ。幼子を駒としてしか見れないとはね」 

 

『ふん。世界を憎み、そこに生きるモノ全てを駒にしようとしていた者が言うことか』

 

「言ってくれるね。それで私をどうするつもりかな? 邪魔者は消すとでも」 

 

『2万4000年もの間育まれた憎悪と戦技には興味はあるが、今日の所は釘を刺すだけに留めてやろう。用があるのは小娘の方だ』

 

 グルリと深紅の眼光がこちらを向いた事で思わず背筋に寒い物が走る。

 

 けれど、私が怯んだのが分かったのだろう。

 

 ミカゲさんとシン兄がクロクマの前に立ち塞がってくれた。

 

「コイツ! 狙いはミユか!?」

 

「……彼女をどうするつもりかな?」

 

『奴の性能テストとちょっとした活入れだ。今のままでは来る厄災どころか結界すらも破れそうにないのでな』

 

 クロクマの言葉にミカゲさんは少し考える素振りを見せると奴に道を譲る様に私の前から退いた。 

 

「ミユ、君の在り方は奴等に目を付けられる可能性が高い。君を危険に晒すのは忍びないが、最低限自分の身を護れるようにならねばならん」

 

『おい、どういうつもりだ!?』 

 

「藪をつつきたくないので詳しい事は言えない。だが、彼女も貴様等もこの先を生き残るためには力が必要なのだ」

 

 デスティニーと向き合うミカゲさんの顔は真剣そのものだ。

 

 私の直感センサーが言っている、彼もクロクマもきっと嘘は吐いていない。

 

 きっとこの先トンデモない事件が起きて、それを乗り越えるには私達は強くならないといけないんだ。

 

『話が早くて結構。では、他の邪魔者たちにはこ奴等と遊んでいてもらおう』

 

 言葉と共にクロクマが手上げると、そこらじゅうに散らばっていたヴァジュラやクモロボの残骸が蠢き始める。

 

 そしてそれは瞬く間に姿を変えて、ランドセルストライカーを背負ったクマさんよりもメカチックなロボへと変貌した。

 

『アブダクターの残骸が!?』

 

『なんだ、コイツ等は!? クマの量産型か!』 

 

 向こうでアブダクターの残党を相手にしていた正太郎君やタケルさんの驚く声の中、私は覚悟を決めてクロクマの前に出る。

 

『ミユ!?』

 

「くろいクマさん、ミユのことしってる。ミユはミユのこと、しりたい」

 

 深紅の視線から感じるこのプレッシャー、むこうはきっと私なんかよりずっと強い。

 

 でも、ここで引き下がったらきっとダメなんだ!

 

『稚拙だが悪くない闘志だ、『獣の血』はしっかりと作用しているようだな』

 

「……けもののち?」

 

『貴様が知る必要はない。お前はただ闘争本能を解放し、小生にその力を見せればよいのだ!』

 

 雄たけびと共に量産型クマさんを引き連れてこちらに突撃するクロクマ。

 

『クソッ! コイツ等、なんてパワーだ!?』

 

『ミユッ!?』

 

 シン兄や竜馬さん達が量産型に飛び掛かられる中、私はクロクマに向けてランドセルの散弾ミサイルを放つ。

 

 クロクマはクマさんの半分の大きさだし、背面装備もリボンストライカーだ。

 

 どう考えても機動性だと向こうに分があるから、散弾で足止めして間合いを詰める切っ掛けにしないと……

 

『散弾で足止めからの近距離戦か、まさに教科書通りの攻めだな』

 

 ミサイルが弾けて無数の散弾が牙をむく中、減速どころかさらに加速するクロクマ。

 

 余裕なのか、それとも何か策があるのか。

 

 なんにせよ、警戒しないと。  

 

『だが! そんなマニュアル通りの攻めはアホのする事だッ!!』

 

 そう一喝した瞬間、なんとクロクマはバラバラに分離したのだ!

 

「えっ!?」

 

 驚いて思わず減速した瞬間、全方向から強烈な悪意が私を襲う。

 

『隙だらけだぞ、未熟者が!!』

 

「あうぅ!?」

 

 目や結合部から放たれる強力なビームを全身に浴びて激しく振動する中、私は必死にコクピットにしがみ付く。

 

 拙い、今のでランドセルストライカーが破損した!?

 

 早く、リボンに換装しないと……!

 

『実戦で装備の変更を待ってくれる敵がいると思うかぁぁっ!!』

 

「……きゃあっ!?」

 

 バックパックの破壊に気を取られている内に、再合体したクロクマがくまぱんちで私を吹き飛ばす。

 

『どうした! 共感能力で小生の動きを予測しろ! モーフィングで武装を創り出せ!! サイコウェーブで相手の意識を縛り付けてみろ!!!』

 

 野太い無茶ぶりと共に放たれたゴツいバズーカの弾頭は、死に体で落下していたクマさんの背中と後頭部に突き刺さる。

 

 赤い爆炎と共に散らばったのは……砕けたクマさんの装甲だった。

 

 今までジェミニア以外の攻撃で破損したことないのに!? 

 

「……くぅ!?」

 

 なんとか地面に激突する寸前でUGセルで壊れたランドセルをリボンに変える事が出来たけど、それを読んでいたクロクマによって今度は空中へと蹴り上げられてしまう。

 

『光粒子フィンガーであるっっ!!』

 

「……ッ! このぉ!!」

 

 強大なエネルギーを纏ったクロクマの右手を『くませいばー』を半ば展開した右腕を振るって迎撃する。

 

 強烈な衝撃と共に同質のエネルギーがスパークし合う中、弾き飛ばされたのはクロクマだった。

 

『如何にターン・エックマといえど、やはり単純な出力では『ビースト』には勝てんか』

 

 クルリと空中で一回転して体勢を立て直すクマ。

 

 けれど、そこに付いているハズの下半身が無い事に私は思わず目を見開く。

 

『だが、甘いわ!!』

 

「うあぁっ!?」

 

 頭上と背面、そして右下方から攻撃を受けたクマさんは爆炎を上げながら大きく後方へと吹き飛ばされていく。

 

 さっきから直感センサーの利きが凄く悪い。

 

 今の分離攻撃だってアムロ大尉のファンネルに比べたら動きが悪いはずなのに……

 

『どうだ、サイコジャマーによって感覚を抑え込まれた気分は? サイコフレームにはこういった使い方もある!!』

 

 サイコフレームにそんな機能があったなんて……

 

 拙い、拙い、拙い!

 

 私の操縦は直感センサーの先読みが起点になっている。

 

 それを抑え込まれたら私はただの6歳児だ!

 

 クロクマから距離を取りながら必死に打開策を考えていると、突然機体に強い衝撃が来た。

 

 慌てて周囲を見渡せば、街の残骸が変化した3体の量産型が私のクマさんを押さえ込んでいる。

 

『ふん、あれだけ時間をかけてこの程度とはな。これでは欠陥品ではないか』

 

 目の前に引きずり出された私を見て、クロクマは吐き捨てるようにそう言った。

 

 このままじゃやられる!?

 

 なんとか脱出しようとクマさんを操作していると、歌と共に脳裏に響く声があった。

 

『がんばって、ミユちゃん!』

 

『逃げなさい、ミユ! アルト、早くあの子を助けて!!』

 

「シェリルおねえさん、ランカおねえさん……」

 

 二人は無人になった広場でZ-BLUEを鼓舞しようと必死に歌ってる。

 

 本当は真っ先に避難するべきなのに……

 

『ほう、小生のサイコジャマーの中で声を届けるとは、なかなかの精神力だ。だが───』

 

「!? だめっ!」

 

 クロクマの悪意が私からシェリルお姉さんたちへ向いたのを感じて、私は『くまびーむ』を起動させる。

 

 クマさんの口が開いてエネルギーの充填が始まるけど……ダメだ、間に合わない!

 

『戦場に似合うのは爆炎と悲鳴、そして雄叫びだ! 貴様等の歌など不要なのだよ!!』

 

 右手を振るクロクマとそれを合図に聖天使学園の周りにいた量産型が放ったミサイルによって、一瞬にして爆炎に包まれるステージ。

 

「あ…あぁ……」 

 

 その光景を見た私の視界は……

 

『生体コアの殺意が一定値を突破。『獣の血』の並行励起を確認。『水の交わり』によるUGセルを使用した周辺物質の吸収・進化を開始。エイハブリアクター・リミッター解除』

 

『───コレヨリ敵ノ殲滅ヲ最優先トスル』

 

 怒りで真っ赤に染まった。

 

 

 

 

『ああああああああああああっ!!』

 

 怒りに満ちた少女の叫びは、戦場で無数のクマ軍団を相手取っていたニュータイプ達の脳裏を揺さぶった。

 

『今のは……』

 

『ミユちゃん……なのか?』

 

『ダメだ、ミユ! 憎しみに囚われてはいけない!!』

 

 アムロはミユに起こった変化に歯噛みし、バナージは物静かな少女とは到底結びつかない背筋が凍る叫びに戸惑い、そしてカミーユはサイコガンダムに囚われていたフォウ・ムラサメを思い返して叫びをあげる。

 

 そして邪魔にならぬようクマ軍団に引き離されていたシンもまた、身内の勘で妹に異変があった事を感じ取っていた。

 

『くそっコイツ等……! どけ! どけよ!!』

 

 戦場を飛び回る量産型クマの群れ、その一体一体はベアッガイのようなハイスペックではない。

 

 総合的に見ればリゼル……いや、リガズィと同等レベルだろう。

 

 しかし彼等の真の脅威は数と強靭な再生・増加能力にあった。

 

 破壊されても互いの残骸や周囲の瓦礫・スクラップなどを取り込んで修復どころか数を増やすのである。

 

 1体倒しても間を置かずに2体になって復活されては、さしものZ-BLUEも不利になるのは当然だ。

 

 こうして数の暴力で伸ばそうとする助けの手を抑え込まれている間に、『獣』は身に宿す殺意のままにその牙を剥き出しにする。

 

 最初の変化はベアッガイを押さえていた量産型だった。

 

 三体が触れていた接触面の境界が少しづつ曖昧になっていき、装甲表面に細胞のような文様が奔ると彼等の身体が徐々にベアッガイに取り込まれ始めたのだ。

 

『ほう、量産型を取り込んで修復に充てるつもりか。だが、その程度はアルティメット細胞の基礎にすぎん!!』

 

 足元、脇腹、背に量産型ベアッガイの頭を生やして肥大化したベアッガイに、ターン・エックマは光粒子フィンガーを振り上げる。

 

 だが、その自慢の装備は次の瞬間には胴体ごと根元から引き裂かれる事になる。

 

『なにぃっ!?』

 

 自身の損傷に目を剥くターン・エックマ。

 

 彼の右腕をえぐり飛ばしたのは、ベアッガイの背から生えた強大で凶悪な鉤爪だった。

 

『あああああああああああっ!!』

 

 雄叫びと共に二対の鉤爪、その掌の砲口から放たれる高出力ビーム。

 

 それはターン・エックマの周辺にいた量産型を次々と消滅させていく。

 

『闘争本能の高まりと共にシンカが促進されているようだな! だが、まだ足りん!!』 

 

 残っていた量産型を取り込んで右半身の再生を終えたターン・エックマは、身体を分離させて得意とするオールレンジ攻撃『ブラッディシージ』を仕掛ける。

 

『【百獣母胎(ポトニア・テローン)】でシモベを生み出し数の不利を覆せ! 殺意に身を任せて更なる武装を構築せよ!!』 

 

 歌唄いの二人程度を殺しただけでここまでの進化を遂げたのなら、さらに仲間をあの世に送れば自分達の望む『神殺し』へ近づくはずだ。

 

『さあ! お前の真価を見せてみろ、マザー・ハー───』

 

 だが、ターン・エックマの思考はそこで途切れることになる。

 

 彼の身体がベアッガイを包囲した瞬間、その巨体から飛び出した無数の緑色の触手によって周辺の量産型ごと全てのパーツを貫かれたからだ。

 

『我がターン・エックマを取り込むつもりか! ……まあ、よかろう。食われたとて小生は元の場所に還るだけの事。貴様が『獣』として覚醒したのなら十分な戦果よ』

 

 脈打つ触手からターンエックマを始め、多くの量産型を食らってさらに質量を増すベアッガイ。

 

 丸みを帯びた胴体は肉食獣のように縦長に伸び、下半身から生えた足は4本に増えたうえに獅子を思わせる屈強なモノへと変わって大地を踏みしめる。

 

 両手もまた五本の鋭利な鉤爪を備えた剛腕へと進化を遂げ、背には副腕に加えて巨大な鋼の翼が備えている。

 

 そしてベアッガイの象徴だったぬいぐるみのような顔は、スーパーロボットすら噛み殺す事が出来るであろう牙を持つ凶悪な肉食獣の物へと変わっていた。

 

 瓦礫に土に建物や道路、我が身に触れる物を手当たり次第に取り込みながら身の毛もよだつ咆哮を上げるベアッガイ。

 

 当初の十倍以上の大きさに成長したその姿を、人が見ればこう呼んだだろう。

 

『魔獣』と。

 

 

 

 

 身から生えた触手を戦場中に張り巡らせて、次々と量産型を食らっては成長を続けるベアッガイ。

 

 そのあまりの変化にZ-BLUEの面々が度肝を抜かれる中、クォーターの底部では人知れず火花を散らす3つの影があった。

 

『今回は私達の勝ちのようだな』

 

 黄色を基調にしたでっぷりとお腹がでた太めのプチッガイの言葉に、アシラを操る青カブトは歯噛みをする。

 

『同志よ、考え直してくれ。このまま君達の計画を進めれば、奴等を倒しても我等の宇宙が崩壊から逃れる保証はない』

 

『だから敵対者を理解して手を組めと? 天才も完成されたニュータイプも味方しか救えんのが世の摂理だ。女性に世界を託す考えには賛成だが、あの娘が奇跡を起こすとは思えんな』

 

『まったくだ。この世界は私達がいた物と似たような歴史をたどったのだろう。ならば人類など信ずるに値しない。他者より先へと手を伸ばさんが為に互いを食い合い、最後には世界まで滅ぼす愚か者などはな』

 

 黄色のプチッガイの言葉に、脇に控えていた太陽を思わせる円状に突起が生えたバックパックを背負った灰色のプチッガイが賛同する。 

 

『まだ覚醒状態は不完全だが、あの姿ならば世界中の武装勢力が奴に牙を剥くだろう』

 

『現状の地球戦力では『獣』へ覚醒を始めたアレを倒すことはできん。例えジェミニスの軍勢であろうと最大戦力であるジェミニアの解析が完了した今ではエサとなるだけだ』

 

『その中で戦闘経験を積めば奴は最終段階へと辿り着く。時の牢獄が進行する中ならアンチスパイラルも容易に手出しができんし、万が一御使いが現れても対抗策は用意してある。もはや計画は誰にも止められんよ』

 

 そう言い残すと二体のプチッガイは霞のように姿を消した。

 

 周辺を満たしていた敵意が消えたのを確認すると、アシラは背中に生えた2対のスーパーバーニアと右手のドーバーガンを消し去り、咆哮を上げる『獣』を見つめた。

 

『……まだ彼女を救う手立てがないわけではない。頼んだぞ、影なる友よ』

 

 

 

 

「シェリル! ランカ! 返事をしてくれぇ!!」

 

 聖天使学園の大広場、未だステージを中心に炎がくすぶる中に愛機を着地させた早乙女アルトは愛する少女達を求めて声を上げていた。

 

 喉が裂けんばかりに呼びかけを続けるアルトだが、虚しく響くのは己の声ばかり。

 

 諦めと絶望に彼の端正な顔が曇り始めた頃、彼に対して一喝が飛んだ。

 

「甘いぞ、早乙女アルト! 愛する者の安否が気になると言えど、任された戦場を放り出して何とする!!」

 

「なにっ!?」

 

 不安定な心を逆なでされた事で声の方を睨みつけるアルト。

 

 だが、怒りに歪んでいた顔は一気に驚愕に染まる事となる。

 

 何故なら聖天使学園を覆う湖の水が柱となって逆立ち、そのてっぺんではシェリルとランカを連れた覆面姿の不審者が腕を組んで自分を見下ろしていたからだ。

 

「見ての通り、貴様の想い人は無事だ。そこまで心配なら次は自分の手で守ってみせるのだな!」

 

 二人を抱き抱えて音も無く地面に降り立った覆面男。

 

 シェリルとランカを抱擁しながらも負けん気が強いアルトは苦言を呈した彼を睨みつける。

 

「くっ……アンタ、何者だ!?」

 

「そんなことはどうでもいい!! それよりも今はあの娘を救う事が先決だ!」

 

 覆面男の視線の先では量産型を食いつくしてアクエリア市の建物にまで手を出し始めた『獣』の姿が映っている。

 

「シュバルツさん、あれがミユちゃんの乗っていたクマさんだっていうのは本当なんですか?」

 

「うむ」

 

「嘘でしょ……。面影なんて一つもないじゃない」

 

 Z-BLUEに囲まれながら天へと咆哮を上げる獣の異様に、シェリルは顔色を青くする。

 

「あの機体には暴走を抑える複数のリミッターが備わっていた。しかし君達が死んだと思った彼女は怒りのままにそれを解除してしまったのだ」

 

「クマを元に戻す事はできないのか!?」

 

「たった一つだけ方法はある。───いでよ、プチッガイ・シュピーゲル!!」

 

 覆面の男、シュバルツが高らかに指を鳴らすと湖面を突き破って鉄兜を被って忍者装束に身を包んだ黒のプチッガイが現れる。

 

「今の獣に攻撃は無意味。エネルギーも実体も等しく奴のエサにしかならん! 故に!!」

 

 一足でプチッガイへと飛び移ると、一瞬で乗り込んだシュバルツは猛烈な勢いで獣に向けて駆けだした。

 

『想いの籠った拳で共感能力に語り掛け、怒りに囚われた彼女を説得するほかない!』

 

 そして獣を射程圏内へ捉えると大きく跳躍するシュピーゲル。

 

 対する『獣』もまた、現れた敵に対して咆哮を上げる。

 

『これぞアッガイ・ファイトッ!! レディ……ゴォォォッ!!』  

  

  

 

        




 ただの可愛い幼女だと思った? 残念! 危険物でした!!

【量産型クマさん】

 見た目と武装は初代ベアッガイ。

 性能は総合するとだいたいリ・ガズィレベル。

 一体倒すと2体に増えて復活する素敵仕様。(やったね、また経験値と資金稼ぎのステージだよ!)

【ターン・エックマ】

 赤く鋭い目つきと黒の毛皮がチャームポイントな悪のクマさん。

 性能はだいたいモデルになったMSと同程度。

 装甲がナノラミネート・超合金Z複合材になってたり、動力にエイハブリアクターが追加されてたりするけど、スパロボ時空では大体誤差。

 実は分解した文明を自身のリソースとして吸収する事が可能というターンタイプ・ナノマシンとUG細胞の奇跡のコラボ『真・月光蝶』も使用できるのだが、今回は使う前に獣のエサになりました。
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