幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
幼女は人類悪ではありません。
間違っても某人類最強の人たらしに召喚されて
幼女「……ミユ。クラスは…けものさん? じゃあ、わん! ……ごはんとあたまをなでてくれたら、がんばる」
などとあいさつもしません。
巫女服を着て背後に魔神やら魔獣やら堕天翅なんかを引き連れた6歳児なんて需要はありませんことよ?
照明が落ちた暗い暗いコクピット。
後ろにあるシートに備わったサイコフレームが放つ赤色だけが光源となった闇の中で、私は割れそうに痛む頭を必死に抑えていた。
───頭痛の理由は分かっている。
私の中で荒れ狂う感情を必死に押さえ込んでいるからだ。
それは頭の中でリフレインするシェリルさん達が炎の中に消える光景、それが掻き立てる怒りと憎悪。
目につく全てを壊したくなるような衝動。
敵の身体を引き裂き、牙を突き立てて血を啜りたいなんて思う獣のような欲。
こんなのはおかしい……おかしいのだ。
私は元々感情が長続きするタチじゃない。
今まではどれだけ怒っても相手がいなくなったらすぐに治まっていた。
シェリルさんとランカさんが生きているのが感じ取れた今なら、怒る理由が消えたのだから猶更だ
それに手当たり次第に物を壊したり、野生動物みたいに相手に咬み付きたいなんて思うわけがない。
けれど頭を占める悪感情は何度も何度も押し寄せて、私を離してくれない。
「……だめ…だめ」
クマさんは大きくなってもサイコフレームとお尻のカッチンから私の感情を読み取る。
私が感情のままに動いたら間違いなくアクエリア市は滅茶苦茶になってしまう。
歯を食いしばって衝動が激発しないよう必死に抑え込んでいると、小さなホバー音と共にチビパイルダーが私の傍らに舞い降りてきた。
そうだ、今は青カブトはいないけど、私にはこの子がいたんだ。
「……チビ」
手を伸ばしてチビを抱きしめたら荒れ狂っていた衝動が少しずつ治まっていくのが分かった。
まるでチビが私を守ってくれてるみたいだ……
そう言えば『かみさま』がくれたお守りだったっけ、この子。
このまま行けばクマさんを暴走させずに済むかもしれない。
思わぬところから射した希望の光に安堵の息を吐いた瞬間、突如衝撃でコクピットがグラリと揺れた。
それに呼応するように光を取り戻した周囲モニターに映るのは、大きくなったクマさんを取り囲んでアンカーを撃ち込んでくる小さなロボット達。
たしかアレはテロリストが使っていたASとかいうモノだったはずだ。
攻撃された事が切っ掛けとなって、再び頭の中に怒りの感情が沸き立ってくる。
ようやくわかった。
……物騒な感情の出所はクマさんのサイコミュだったんだ!
驚愕で一瞬真っ白になる頭の中、けれどそれがいけなかった。
「……こしゃく」
私の意思とは無関係に口が言葉を紡ぐと、次々と知らないシステムが立ち上がっていく。
ヤバい、ヤバい、ヤバい!
起動しようとしている『真・月光蝶』は人も物も全てを分解してクマさんのエサにするモノだ!!
「……よわきもの、わらわのかてとなれ」
頭を占める沸騰するような怒りの中、私は必死に頭の中で願いを込める。
せめて……せめて人死にだけは出さない様に!
そう祈りながらも目に映ったモニターには、煌びやかに色めく鱗粉の中で徐々に分解されていくデスティニーの姿があった。
◆
メキメキと聞く者の不快感を掻き立てるような軋みを上げて変貌を続けるクマ。
その異様にZ-BLUEの面々は驚愕に目を見開いていた。
『あれが…あれがミユのクマだっていうの?』
『───間違いない。あの機体の中から彼女の気配を感じる』
絞り出すようなカレンの声に応じたのはアムロだ。
コクピットの中で彼はかつてカミーユやシンに牙を剥こうとした戦場の悲劇の予感に歯を食いしばる。
変貌したクマから感じる精神波動は、搭乗者を意のままに操る事を目的とするサイコガンダムによく似ていたからだ。
あまりの事態に誰もが手をこまねいている中、いち早く決断を下した男がいた。
『アマタ、操縦をゲパルトに寄こせ!!』
『カイエン!?』
『いいから早くしろ!』
『わ…わかった』
アクエリオンが3機のベクターマシンへ分離すると、ベクターイクスを上半身として再び合体する。
そこに現れたのは、防御と砲撃に特化したアクエリオンEVOLの第2の形態『アクエリオン・ゲパルト』だ。
地面に降り立ったゲパルトは足を地面に咬ませると両肩のミサイルポッドを展開。
それと共に手にした巨砲の銃口を『獣』へと向ける。
『カイエンっ!?』
『おい、やめろ!!』
『身体が不完全な今ならば……ッ!』
同乗者であるミコノとアマタの言葉を無視して砲口にエネルギーをチャージさせるカイエン。
しかし、その一撃はゲパルトの足元を穿つ光弾の雨によって遮られた。
『お前っ! どういうつもりだ!!』
ビームマシンガンの威嚇と共にゲパルトの懐へデスティニーを飛び込ませたシンは、コクピットの前にサーベルを突き付ける。
いかに特機といえど、この間合いで光刃を突き立てられれば撃墜は免れない。
『邪魔をするな! 奴を倒すには今しかないんだ!!』
それでもカイエンは退こうとはしない。
獣を庇うように立ち塞がるデスティニーを親の仇のように睨みつけて吼える。
『俺のエレメント能力は『絶望予知』、一種の未来予知だ!! その中で俺は見たんだ! 奴が俺達を全滅させる姿をッッ!!』
カイエンの叫びに息を呑むZ-BLUEの面々。
エレメント達の異能を知る彼等は、その言葉を妄想と断ずる事はできなかったのだ。
『ふざけるな! そんな事信じられるかッ!!』
しかし、シンはそれでも否を突き付ける。
カイエンはミコノの為、シンはミユの為。
互いに一歩も譲らない姿勢を見せる二人に、ラーカイラムのブリッジでブライトが声を上げようとした時、事態が動いた。
「艦長! 変質したクマの周辺に多数の熱源反応! これは……ASです!」
「なんだと!?」
トーレスの報告と同時に、何も無い空間から次々と姿を現すAS達。
ミストラルIIにサベージやブッシュネルなどテロリスト御用達の機体が並ぶ中、やはり目を引くのは白い装甲に頭部にトサカを備えた一つ目の機体。
Plan1056 コダールだ。
『よう、カシム。面白い事になってるじゃねぇか』
「貴様、ガウルン!』
『ECSだと!? 奴等、どこでそんなモンを手に入れやがった!』
『ラムダドライバに続いてコイツもか。テッサのイヤな予感は大当たりってことね』
宿敵が現れた事に敵意を隠せない宗介とミスリルが独自開発した高性能電磁迷彩システムを使用するテロリストに苦虫を噛み潰すクルツ。
そして一国でも手に出来ない技術を使いこなすテロリストの姿に、マオは自身の上官の予測が当たっていたことに視線を鋭くする。
『カシム。お前さんと遊んでやりたいところだが、生憎とそういう訳にはいかねえんだ。───やれ』
ガウルンの指示によって手にした銃型のアンカー発射装置を放つAS達。
だが軽い射出音と共に放たれた楔達は目標に食いついた途端、脈動する獣の表皮に取り込まれてしまう。
『ありゃ。思った以上に悪食じゃないか、この化け物』
『た…大将、どうしやしょう?』
『適当にぶっ放して穴を空けろ。そうすりゃあアンカーも刺さんだろ』
面倒そうに指示を出すガウルンの声に一斉に持ち替えたライフルから銃弾を浴びせるAS達。
だが、降り注ぐ鋼の雨もアンカーと同じく獣の滋養となるだけだった。
『大将、ダメだ! 効いてるように見えねぇ!!』
『そうみたいだな。さて、どうしたものかねぇ……』
ガウルンがそう呟いて思考を巡らそうとする中、テロリストへと襲い掛かる影があった。
先ほど前でアクエリオンとにらみ合っていたシンだ。
『お前等ぁぁぁぁぁッ!!』
敵意剥き出しで愛機を最大稼働させたシンは、目につくテロリストたちを両手の光刃で次々と切り裂いていく。
『おうおう、血気盛んなこった。戦場ってのはこうでなくちゃあ面白くない』
禍々しい笑みと共にラムダドライバを立ち上げるガウルン。
しかし彼がこの戦いで闘争を味わう事は無かった。
シンがガウルンの駆るコダールに目標を定めた瞬間、沈黙を守っていた『獣』が一際大きな咆哮を上げたのだ。
『チッ! なんだ!?』
『……ッ!? ミユ!』
突然の事に巨獣へと目を奪われる両者。
戦場に在る数多の視線を浴びながら、『獣』はその巨躯をほぐすかのように大きく伸びあがる。
同時に背中に備わった翼が大きく開き、そこから放たれる極彩の鱗粉は瞬く間にオーロラ色の蝶の羽へと姿を変える。
『なんだ……こりゃあ?』
『これは…まさか、月光蝶!?』
訝しげに呟くガウルンと戦慄するシン。
脅威に気付く者も気付かぬ者も知らぬとばかりに無数の煌めきは大気を取り込んで逆巻き、天をも穿つ竜巻となって周囲の機体を呑み込んでいく。
獣が生み出したのは滅びの嵐だった。
建造物・機動兵器や車両の残骸にゴミなど。
その周囲にあるモノは全てが等しく塵に還る。
それは彼女に牙を向こうとした者や護らんと奮戦した者も例外ではない。
『な……なんだ、こりゃあ!?』
『どうなってんだ、機体のコンディションが……ッ!』
『俺のミストラルの腕が…足が……崩れていく!!』
『お……お助けぇぇぇぇぇっ!?』
『うわあああああっ!? ミユッ!!』
破滅の渦に呑み込まれた機体達は武器はもちろん装甲にフレーム、内部機構や動力源とそれが生み出すエネルギーまで全て等しく分解された。
そして残ったのは鎧にして剣を剥がされ、丸裸にされたパイロットのみ。
それも風に舞い上がり上空へと消えていく。
『シンッ!』
『獣』を覆う障壁となった鱗粉の嵐に消えた友を助けようと飛び出すカミーユ。
『待てカミーユ! あれは月光蝶だ!!』
だがしかし、バルディオスのサブパイロットであるオリバーの警告がその足を止める。
『月光蝶? アレが何か知っているのか、オリバー』
何か糸口になればと問いを投げるアムロだが、それを聞いたオリバー、いやバルディオスとゴッドシグマの乗員たちは不可解な表情を浮かべた。
『何を言ってやがる。お前等だって知ってるだろうに』
『そうじゃ。ロランのターンAや月の御大将のターンXにも積んであったじゃないか』
呆れと共に言葉を吐く雷太とキラケン。
それを聞いたZ-BLUEの面々は、頭の靄が晴れるかのように平和の為に戦った心優しき月の少年の事を思い出した。
『……そうだ。月光蝶は彼のマシンに搭載されていた』
『どうして僕はロランさんの事を忘れていたんだろう? 軌道エレベーター崩壊の時にはあんなに助けてもらったのに』
自分達を襲っていた奇妙な出来事に額へ手を当てるアムロと正太郎。
同時に月光蝶を思い出した元ZEUTHとZEXISの面々は現状の厄介さに表情を硬くする。
『ミシェル、月光蝶とはどのようなモノだ?』
宗介から届いた通信にスカル小隊のミシェルは彼等がその脅威を知らない事に気が付いた。
『あの羽や鱗粉に見えるのはナノマシンの集合体だ。……あらゆる人工物を砂状に分解する機能を持つな』
『あらゆる人工物を、だと?』
『ああ。聞いた話だと、あれによって人間の文明が一度消滅した世界もあるらしい』
文明の消滅、あまりにも大きな話に思わず固唾を呑む宗介。
『あれが奴さんの壁になっている以上、現状では手の出しようがない。ご丁寧にあのナノマシンはビームを拡散・吸収する効果もあるからな』
『シンを救出する手段はないという事か……』
『そうだ、悔しいが現状では打つ手がない。だからカイエン、間違ってもクマを攻撃しようなんて思うなよ。ターンAがいない状況で月光蝶なんて向けられたら、アクエリア市ごと全滅しかねん』
『……了解』
オズマに釘を刺されたカイエンは苦虫を噛み潰したような表情で同意する。
そうして彼等がどうにか状況を打開しようと悩む中、弾丸のような速度で滅びの渦に飛び込む存在があった。
「アッガイ・ファイトォォッ! レディィ……ゴォォォォッ!!」
猛々しい声と共に月光蝶が形成する障壁に突撃したのは、シュバルツの駆るプチッガイ・シュピーゲルだ。
『また新しいクマかよっ!?』
『アイツ、あのままじゃ分解されるわよ!』
クマが姿を消した先を見据えて戸惑う赤木とカレン。
しかし、Z-BLUEの予測に反して影なる守り人は荒れ狂うナノマシンの中でも健在だった。
『よもや対バアルの切り札である真・月光蝶まで使用するとは……だが、これ以上はやらせん!!』
モビルファイター風のコクピットで状況の悪さに歯噛みするシュバルツ。
だが、彼は即座に胸中の苦い感情を呑み込むと『獣』の顏へと飛び掛かる。
『はああああああああっ!!』
裂ぱくの気合と共に繰り出されるのは目にも止まらぬ両拳によるラッシュ。
空を裂き、残像すら残す速度の拳打は、圧倒的な体格差を物ともせずに『獣』の顎を跳ね上げる。
そしてシュピーゲルの両手は食われる事無く形を保っていた。
先ほどのASが放った楔など比較にならない攻撃に、機体の再形成と拡張を中断して曲者を睨みつける魔獣。
彼女の敵意は背に生えた副腕による爪撃という形で返ってくる。
音など軽く置き去りにした一撃によって無残にもその身を五等分に引き裂かれるシュピーゲル。
不埒な賊が辿った当然の末路に満足げに唸り声を上げる『獣』だったが、次の瞬間にはその目を見開いた。
なんと後は無残に地面へ叩きつけられるはずのシュピーゲルの残骸が幻のように消え去ったのだ。
『フハハハハハハハハハハッ!』
それに入れ替わる様に辺りに響き渡る怪笑、それは獣の背から発せられていた。
『これぞゲルマン忍法シュピーゲル・シャドウ! この絡繰り、獣風情には理解できまい!』
獣が微かに見せた動揺を嘲笑うように、その背の上で両腕を組んで仁王立ちするプチッガイ・シュピーゲル。
『彼女の目を覚まさせるにはZ-BLUEの協力は不可欠。まずは邪魔な障壁を止めさせてもらう!!』
言葉と共に両手から折り畳みの刃を抜き放つシュピーゲル。
しかし、進化の途上とはいえ容易く事を運ばせるほど獣は優しくはない。
『むうっ!?』
羽の付け根へと刃を走らせようとしたシュピーゲルだが、斬りつける寸前で背から身を投げるようにしてその場を離れる。
そして次の瞬間、シュピーゲルがいた場所を背から伸びる緑色の触手が剣山のように貫いた。
『あれはやはりデビルガンダムが使用していた触手! 進化の影響でUG細胞が変質したか、それともあの忌まわしい力すらも己が物にしたか……!?』
かつて自分の世界を襲った災厄の予兆に覆面の下で歯を軋ませるシュバルツ。
『もはや一刻の猶予もならん! 少々手荒となるが私の心をくみ取ってくれよ、ミユ!!』
跳躍と同時に胸の前に刃を展開した腕を突き出して回転を始めるシュピーゲル。
それは彼が誇る必殺の奥義の構えだ。
『 シュトゥルムッ! ウント───ッッ!』
回転がピークに達し、月光蝶を維持する羽へと突進するシュピーゲル。
だが標的を目前にしてシュバルツは目を見開く事になる。
何故なら自分を阻まんと差し出された副腕、その掌では嵌め込まれたガンダムの顏が大きく口を開いていたからだ。
『わがてにやみよ、やどれ』
まるで機械のように感情を感じさせないミユの声と共に、獰猛な牙を剥き出しにしたガンダムの口に莫大なエネルギーが蓄積される。
『しまっ!?』
「デッドエンドフィンガー」
そして放たれる暗色の奔流は獣に襲い掛かろうとしていた小さな疾風を容易く吹き飛ばした。
◆
シュピーゲルが月光蝶の内側に飛び込んでしばし。
Z-BLUEの面々は特機を中心として、月光蝶の障壁攻略を試みていた。
しかし月光蝶がビームではない純粋なエネルギー攻撃を無効化できない事は判明したものの、『獣』が保有する膨大なエネルギーに阻まれて作業は進展が見込めないでいた。
特機は膨大なエネルギーを保有するが、それを最大に活かす方法が剣や格闘など近接攻撃である者が多い。
触れる人工物を問答無用で分解する月光蝶とは、ビーム兵器を主体とするMSなどとは別方向で相性が悪いのだ。
現時点の部隊におけるビームに寄らない放出系の最大攻撃はクォーターのマクロスキャノンだが、あれはさすがに周辺への被害が大きすぎる。
前回使用した時は聖天使学園を囲う湖だったので影響はあまり考慮する必要は無かったが、現在『獣』が陣取っているのは市街地のど真ん中だ。
『くうぅぅっ!! ジョニー、威力が足りないわ! 出力は上がらないの!?』
『アブソリュート・ジェネレーターは全開で回してます! これが限界の出力です!───限界のハズ……なんです』
最大威力で断空砲を極彩の障壁へ放ちながら、飛鷹葵は苛立っていた。
何故か問われれば上手く返す事はできない。
ただ、今の自分には何かが足りないという思いが頭の中から離れなかった。
全力でやっているつもりでもどこか冷めている。
心の奥底から沸き立つ己が身をも焦がすような熱、破界戦役の時にはそれがあった。
例えそれが勘違いだとしても、今のように心の一部を冷やしたままダンクーガに乗る事はなかった。
同時に葵やチームDの面々は、それが自分達の愛機の力を制限しているのだと本能的に感じていた。
現実主義のジョニーですら先ほど言い淀んでいたのだから、それは間違いないだろう。
エイーダを始めとして葵達はミユの事を可愛がっていた。
付き合いはそれほど長くないが、自分達を見る度に抱っこをせがんで来る子供が可愛くないワケがない。
そんな子を自分達の至らなさで助けられないという事実は葵達の心を痛く逆なでしていた。
(いったい何が足りないってのよ! いい加減にしろっての!!)
標的は己だとしても灼熱の怒りは確かに彼女達の心で勢いを増していく。
獣が自分を縛る首輪を引き千切るまであと少し……
『くっそぉぉぉっ! なんて厚い壁なんだ!?』
歯を食いしばりながらパイルダーのレバーを力いっぱい押し込むのは兜甲児だ。
ベアッガイが『獣』へと姿を変えて少ししてから、彼の脳裏にはあるビジョンが過るようになっていた。
それはコクピットの中でミニパイルダーを抱えながら、苦しみに耐えるように身体を丸めるミユの姿だ
何故、自分にそんな物が見えるのかは分からない。
おそらくはあの小型パイルダーとマジンガーとの間に何らかの繋がりがあるのだろう。
しかし甲児にとっては理由などどうでもよかった。
小さな女の子が苦しんでいる。
彼が死力を尽くすには十分すぎる理由なのだ。
『頑張れ、マジンガー! ミユちゃんを助け出すんだ!!』
折れぬ信念を掲げながら、甲児はブレストファイヤーの出力を更に引き上げる。
彼等の他にも竜馬やアムロ、シモンにシンジなど、直接間接に関わらずZ-BLUEのメンバーは障壁を解除しようと必死になっていた。
しかし相手は一つの文明を滅ぼしたといういわくつきの超兵器。
メンバー・機体共に未だ万全とは言い難い彼等では、総力を尽くしてなお道を開く事が出来ない。
そんな中、遅々として進まぬ状況に最も苛立ちを溜め込んでいる者がいた。
それは見えぬ首輪に縛られて全力が出せない葵か?
それとも全力を出しても力届かぬ甲児か?
否、黒鉄の城の中に潜む魔神である。
自分の端末である小型パイルダーを送り込んでいた彼は巫女の現状を、この場にいる誰よりも正確に把握していた。
今の彼女はコクピットに備わったシステムによって、固定化された怒りと憎悪に必死に抗っている状態だ。
シンカの第一段階である獣性を目覚めさせるためとはいえ、この方法は幼く無垢な精神に大きな負担となるのは想像に難くない。
このような強硬策に出たところを見るに、巨獣の裏で糸を引いている輩は巫女の精神性には興味を持っていないらしい。
彼奴等が求めるのは共感能力を兵器転用したパイロットという名の制御装置なのだろう。
だが、それは魔神にとって看過できない事だった。
【我が定めし者を奪わんとするとは何たる不遜!】
怒りに燃える魔神は未だ性能限界程度しか出せない甲児からマジンガーの制御を奪い取る。
『魔神パワー!? このタイミングでッ!』
一方、パイルダーの中で甲児は、機体コンディションを示すディスプレイに浮かんだ文字を見て背筋を凍らせる。
この文字はネオジオンとの戦いでマイノット基地を壊滅させたマジンガーが暴走する予兆だったからだ。
『クソッ! みんな、離れ───』
甲児が警告を発するよりも早く口部を牙のように開いて天へと吼えるマジンガー。
次の瞬間、先ほどとは比較にならないほど出力が増したブレストファイヤーが月光蝶の鱗粉を焦がす。
その威力は今までびくともしなかった障壁に揺らぎを生じさせるが、同時にそれは厄災の呼び水となった。
威力の余波で飛び散った数多のナノマシン群が炎の雨となってアクエリア市広域に降り注いだのだ。
「威力が高すぎます! やめてください、甲児さん!!」
瞬く間に紅蓮に染まるアクエリアの街並みに堪らず正太郎が止めに入るが、マジンガーが軽く腕を振るだけで鉄人は後方へ弾き飛ばされてしまう。
邪魔者が居なくなったことを確認した魔神は、自身が作り出した障壁の揺らぎに向けて大きく息を吸い込む。
『拙い! あのとんでもねぇルストハリケーンが来るぞ!!』
『月光蝶にそんなモノを浴びせたらナノマシンが!!』
ようやくマジンガーが過日の暴走状態である事を悟ったZ-BLUEは、障壁の攻略を脇に置いてマジンガーを止めようと動き出す。
しかし彼等よりも早く魔神の一手を阻むものがあった。
月光蝶の壁の内側から放たれた闇色の光線がマジンガーの腹に突き刺さったのだ。
ラムダドライバの力場をバレルとして収束率を高めた『くまびーむ』
さしもの魔神もこれには耐えられずに後方へと吹き飛ばされる。
自身の創り出した繭の中でシンカの作業に勤しんでいた『獣』だったが、シュバルツをも超える強敵の気配を感じ取った彼女は作業を中断して迎撃に出たのだ。
天へと鳴り響く咆哮と共に彼女の副腕、その指先から無数の黄金色の杭が発射された。
これ等の名はデッドエンドファングといい、狙った獲物を地獄の果てまで追い詰める牙たちだ。
彼らは月光蝶の障壁を容易く潜り抜けると、体勢を立て直したばかりの魔神を食い破らんと殺到する。
しかし今のマジンガーはただのスーパーロボットではない。
融解した腹部装甲を一瞬で再生すると、スクランダーの羽から無数の十字手裏剣を放ってDEファングを迎撃する。
十字の刃と金色の牙。
互いを食い合った彼等は、その全てが相打ちとなって爆炎の中に消えた。
DEファングが全て撃墜された事にうなりを上げる獣。
しかし次の瞬間、障壁を突き抜けてきたナニカに右の頬を強かに打ち据えられ地面へと叩きつけられる。
何事かと顔を上げれば、そこにあったのは装甲の大半を分解されて中身の機構が丸見えになったマジンガーの前腕部だった。
『獣』が体を起こすと同時にナノマシンの渦へと消えていく魔神の腕。
主の元に帰り着いた時には骨組みだけであったそれは、本体にドッキングすると巻き戻しのように鋼を纏う。
獣と魔神。
極彩の壁が隔てる中、まるで互いの位置が分かるかのようににらみ合う両者。
共に仲間の機体である為にZ-BLUEの面々が手を出しかねている中、その第二ラウンドの火ぶたが切られようとしていた。
【次回嘘予告】
幼女を巡る恋(?)のさや当て第一戦勃発!
巫女を取り戻さんと怒り狂う魔神(魔神P第2段階)
肚の中のパイロットを獲られてなるものかと牙を剥く獣(シンカ第一段階)
本人の気持ちなど因果地平の彼方に置き去りにし、我欲剥き出しでぶつかり合う二大傍迷惑。
そして漁夫の利を奪わんと虎視眈々とチャンスを狙うクレイジー・サイコロリコン。
彼等の思惑がぶつかり合う時、あらゆる災厄を封じ込んだと言われるパンドラの箱が開く。
次回『アクエリア市壊滅! さらば、Z-BLUE』にご期待ください!