幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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作者からの一言

やっちゃった


幼女とにぃにの故郷

 小さな島が浮かぶ青い海と抜けるような晴天の中、SFSに乗った迷彩色のジェスタ三機と赤い粒子の軌跡を残してメタルシルバーの機体達が駆け抜けていく。

 

『いやはや絶景だねぇ! 目的がこんなクソッタレな任務じゃなけりゃあ素直に喜べるんだがなぁ』

 

 肩に日の丸がペイントされた部隊のジェスタキャノンの中で、黒髪を刈り上げた日系の男は全天周囲モニターに映る絶景に歓声を上げる。

 

『コスギ副長、任務に対する不満とかまた減給されますよ』

 

『ほぉう。俺に意見とは偉くなったもんじゃないか、キクチ』

 

『僕達だけなら文句なんて言いませんよ。けど今回は新人がいるじゃないですか』

 

『そうそう。副長の愚痴がサイガスの馬鹿の耳に入って、コイツにとばっちりが行ったら可哀そうでしょ』

 

 コスギに凄まれてビビる眼鏡を掛けた気弱そうな男に乗っかるのは、アジア系の顔ながら金髪碧眼の軽薄そうな男だ。

 

『ここに送られてきた時点で爪弾き者は確定だよ。それよりもシマダ、お前こそ上官侮辱罪じゃないか』

 

『俺達日系人の間じゃあ地球バカ共の扱いなんてこんなもんでしょ。アザカミ、ここじゃあ上にチクろうなんて奴はいない。お前も好きな事言えよ』

 

『は…はぁ……』

 

 意ともたやすく軍のタブーを犯すシマダの言葉に、アザカミと言われた10代後半の黒髪の少年はジンクスの中で戸惑った声を上げる。

 

『奴の軽口を真面目にとるなよ、アザカミ。お前は生きて帰る事だけ考えていればいい』

 

『ゴウリの言うとおりだ。シマダ、あまり後輩をからかってやるな』

 

『へいへい。了解ですよ、シオヤ隊長』 

 

 ゴリラも顔負けの屈強な肉体をコクピットに押し込めているであろう部下と自分の注意を受けても軽口が収まらないシマダに、シオヤと呼ばれた歴戦の中年軍人は口髭をさすりながら左に嵌めた赤いレンズの義眼を細める。

 

『しかし我々だけでオーブを抑えろとは、今回は随分と無茶を言ってきましたな』

 

『ただの嫌がらせだよ、俺達とオーブへのな』

 

 ゴウリの呟きに吐き捨てたのは副長であるコスギだ。

 

『あの……嫌がらせってどういうことですか?』

 

『いいか、新入り。サイガスのヤロウや地球至上の連中にとってオーブや二つの日本、暗黒大陸は目の上のタンコブだ。なにせ連中は揃って宇宙からの脅威に備えるってんでコロニーとの戦争には大反対だからな』

 

『オーブや暗黒大陸は中立国だから分かりますけど、日本は極東支部所属じゃないですか。どうしてそうなるんですか?』

 

『あそこはスーパーロボットの巣窟だろうが。あの化け物とそれを狙う謎の勢力が毎度毎度ドンパチしてるから、軍も手に負えないってんで半分自治区になってんだよ』

 

『スーパーロボットがいるから武力で脅しをかけるのは論外だし、サクラダイトやジャパニュウムなんかの技術や特許が山のようにある為に経済的な締め付けだって無理。一部じゃあ日本と戦争したら連邦が負けるなんて話まで出てるんだぜ』

 

『だから奴等は比較的攻めやすいオーブに侵攻をかけるつもりなのさ。ちょうど謎の勢力が近づいてるって話で救援依頼も来てるしな』

 

『じゃあ俺達が派遣されてるのは……』

 

『日本に対する当てつけだよ。軍で日本出身や日系人の扱いが悪いのもそう。オーブ国民の何割かが日本人移住者の子孫ってのは有名な話だからな、そこを俺達が攻めるのを見てウサ晴らしがしたいのさ』

 

 これで地球を守るってんだから勇ましすぎて涙が出るね、コスギの説明を引き継いで皮肉を吐くシマダにアザカミは眩暈を憶えた。

 

 彼とて過去の次元大戦で見たスーパーロボットの雄姿に憧れて軍人へと進んだ身だ。

 

 それがまさか、彼等の所為で自分達が軍内で不利な立場に立たされているとは……

 

『しかし、この命令が来たのアイツが隊を抜けた後でよかったな』

 

『そうっすね。アイツだったらМS盗んで上官のところに殴り込むくらいはするでしょうからね』

 

『あの…先輩たちはスーパーロボットのパイロットや日本の事を恨んでるんですか?』

 

 先輩たちが雑談をしている中、勇気を振り絞って問いを投げたアザカミは……

 

『いんや、全然』

 

 何とも気の抜けたコスギの返答に思わず唖然となった。

 

『ZEUTH……今はZ-BLUEだったか、彼等に思う所は無いよ。だって別に間違った事はしてないからね』

 

『たしかに独立部隊という事で様々な特例や権限を持ってはいる。しかし彼等は命令違反や拒否をするのは稀だ。むこうの世界でもテロリストと行動を共にしていたが、それでも地球や民間人を守るって芯はブレてなかった』

 

『昔も今も腹の底まで腐ってる上の連中に比べれば全然マシだわな』

 

 キクチ、ゴウリに続いてあっけらかんと上層部批判を混ぜるシマダの答えを聞いて、アザカミは小さく安堵の息を吐いた。

 

 せっかく馴染んできたところなのに、部隊で孤立するのはカンベンだったからだ。

 

『改めて言うが今回の任務は無茶が過ぎる。オーブ軍に加えてUG接近を掴めばZ-BLUEも駆けつけるだろう。機体から連邦の識別コードが削除されているあたり、上の奴等が我々を捨て駒に使おうとしてるのは明白だ』 

 

 シオヤは部下達にそこまで告げると、黒い髭に覆われた口角をニヤリと釣り上げる。

 

『だが、こんな扱いをされて唯々諾々と従うほど俺達は阿呆じゃない。俺に軍籍を引き換えに全員が生き残ってサイガスのクソッタレに吼え面をかかせられる素敵なプランがあるんだが、乗る奴はいるか?』

 

 隊長が挙げた素敵なプランに部下達が告げた答えは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 どうも、オーバーデスティニー初試乗と初めてのオーブにワクテカなミユです。

 

 実はここまでの道行きにはUGの部隊が待ち伏せしていたんだけど、そこはアルトさん達スカル小隊とカミーユさんが受け持ってくれた。

 

 まあ、私も行くって聞いた時はみんな揃って渋い顔してたんだけどね。

 

 クマさん大暴れの件は反省してるから、そんなどっかの高原にいる狐みたいな顔はやめてほしいなぁ……

 

 ともかく、みんなの心温まる支援のお陰でオーバーデスティニーはエネルギーの消費も殆どなくここまでこれた。

 

 道中の乗り物になってくれたカミーユさんのZⅡには感謝である。

 

「……うみ、キラキラ、きれい」

 

「オーブは島国だからな、海の他に火山もあるんだぞ」

 

 海に火山の島国か……。

 

 なにか既視感があると思ったら、空から見える街並みとか日本と似てるんだ。

 

「……にほんみたい」

 

「オーブ国民の先祖は日本人からの移住者も多いんだ。ほら、俺達の名前も日本名だろ」

 

 言われてみればシン兄の名前は『真』や『慎』、姓だって『明日香』か『飛鳥』って漢字になるなぁ。

 

「……ミユのなまえは?」

 

「そうだなぁ。あ、前にカレンがいくつか漢字を当ててくれてたな」

 

 そう言ってシン兄がコンソールを弄ると、私が座るサブシートのスクリーンにいくつか漢字が浮かび上がって来た。

 

 ふむふむ……『美優』に『実夕』ときて『未祐』かぁ。

 

 名前一つとっても漢字で書くとこんなにあるんだね。

 

 興味津々で漢字を見ていた私は、ある一つの名に目を止めた。

 

 それは『心結』。

 

 『心』を『結』ぶと書いてミユと読むらしい。

 

 それを見た時、シュバルツさんや青カブトの言葉もあってこの名がストンと私の心にハマった。

 

「……にぃに。ミユのおなまえ、これがいい」

 

「心結か。いいんじゃないか、ミユにぴったりだ」

 

 私がディスプレイの名前を指で触れるとむこうの画面にも変化があったのか、シン兄は嬉しそうに笑った。

 

 さて、こんなほのぼのとした会話を交えながらオノゴロの軍港へ辿り着いた私達だが、そこで目の当たりにしたのは予想とは大きく違う状況だった。

 

 空を飛んでは次々に堕とされていく白地に赤と黒の色合いをした戦闘機とガンダム顏のロボット達。

 

 彼等を蹂躙しているのは、暗色をしたジェガンに似た機体とパトリックさんが乗っていた銀色のロボット達だ。

 

『へっ! 後ろが丸見えだ!』

 

『ぐあっ!? しまった!!』

 

 銀色のロボットの一機がガンダム顏の量産機を背後からビームで射抜けば……

 

『やってやる……やってやるぞぉっ!』

 

『コイツ、やられ役みたいな声のクセに動きが!?』

 

 もう一機の銀色は相手の斬撃を躱すと同時に胴体へビームサーベルを突き立てる。

 

『くらえっ!』

 

『間合いが遠いわ!』

 

 そして編隊を組んだ戦闘機から発射されたミサイルをジェガンモドキがサーベルで斬り払うと 

 

『貴様等の攻撃パターンなどお見通しよっ!』

 

『うわああああっ!?』

 

 その僚機がすかさず肩に付いたキャノンからビームを浴びせている。

 

 一見するならジェガンモドキ達がガンダム顏の軍団相手に戦っているように見える。

 

 おかしいのはガンダム顏のМS達は一機も壊れていない事だ。

 

 攻撃を浴びた側は煙を出してフラフラと飛ぶと、地面へ着地して動かなくなるのである。

 

「あの煙……模擬で使う撃墜判定の煙幕じゃないか」

 

「……もぎせん?」 

 

「簡単に言えば練習試合の事だよ。しかし、あのジンクスとジェスタが連邦の物だとしても、どうしてこんな時にムラサメと模擬戦なんてしてるんだ?」

 

 ふむ、ジェガンモドキがジェスタで銀色の機体がジンクス、ガンダム顏の飛行機に変形するロボットの名前がムラサメか。

 

 ちゃんと覚えておこう。

 

 訝しむシン兄の後ろで私がお勉強をしていると、どこからか通信が入って来た。

 

 シン兄が受信ボタンを押すと、ディスプレイに現れたのはザンバラにした金髪に金色の目をした白い軍服姿のお姉さんだ。

 

『こちらはオーブ国防軍代表カガリ・ユラ・アスハだ! そこの機体、所属はどこか!?』

 

 このライオン娘って感じのお姉さんはなんとオーブの代表らしい。

 

 ラクスさんといいナナリーお姉さんといい、国の代表はどうしてこう年若い人が多いのか?

 

『アスハ代表!』

 

『シンか! お前も加勢に来てくれたんだな』

 

「ええ、もうすぐZ-BLUEの本隊も来ますよ。それより何でこんな時に模擬戦なんてやってるんです?」 

 

『今暴れまわっている連邦の部隊からの提案でな、サイガス准将の鼻を明かす為に必要らしい』

 

 アスハ代表の話だとこうである。

 

 まず模擬戦中の793部隊は連邦からの援軍……ではなかった。

 

 むこうの隊長さん曰く、彼等はこの事態に乗じてオーブを亡き者にする為にサイガスという人が送り込んだ鉄砲玉なんだって。

  

 ただそんな扱いに嫌気がさした彼等は連邦軍を抜ける事を決意。

 

 そこでサイガスの企みの証拠を手土産にオーブへ亡命を持ちかけた。

 

 とはいえ、データだけでは未遂だからと相手にシラを切られるかもしれない。

 

 なので彼等の実力を見せる意味も含めて模擬戦を行う事となった。

 

 でもって模擬戦の画像は諜報部の専門家の手で、連邦軍のオーブ侵攻の証拠に加工される予定なんだってさ。

 

『撃墜されたМSの証拠に関してはレストア前のムラサメのスクラップが残ってるから、それを使うつもりだぞ』

 

 あっけらかんと事実の捏造を告げる代表に開いた口が塞がらない様子のシン兄。

 

 もしかして昔はこんな事をする人じゃなかったのかな?

 

「……アスハ代表、強くなりましたね」

 

『綺麗事だけじゃ国家運営は立ち行かないんだ。私だって清濁を併せ飲むようになるさ』

 

 何処か哀愁の漂う二人を見ていた私だったが、次の瞬間直感センサーが上空から接近する何かを掴んだ。

 

 この感じ……代表がいる建物近くにいる連邦の人達を狙ってる?

 

「……デスティニー、カッチン」

 

 そうディスプレイに声をかけると、サブシートから出てきたコネクターがくまスーツのお尻にカチリと繋がる。

 

 同時にデスティニーを形作るフォトンフレームの中に仕込まれたサイコミュチップが私の意識を増幅、鋭敏になった感覚が周辺に網のように広がった。

 

「ミユ、これはいったい……」

 

 シン兄が戸惑うのは当然だ。

 

 なにせ私の直感センサーが拾った気配をリークされてるんだから。

 

 ごめんよ、今は悠長に説明をしている暇はないんだ。

 

 ……上から狙ってる気配はオーブに敵意を持ってない。

 

 むしろ護ろうという意思で動いてる。

 

 連邦の人達に狙いを定めているのは、彼等がオーブを攻めているんだと勘違いしているからだろう。

 

 ワザとそういう風に見せてるんだから当然だよね。

 

 とはいえ、ここで連邦の人達を攻撃されるのはとっても困る。

 

 今度こそジェミニアが来る可能性があるのだから、味方を減らして敵を増やすなんて勘弁だ。

 

 なのでここは何としても防がないといけない!

 

「……クマさん、いって」

 

 カッチンから私の意志が伝わると、オーバーデスティニーのふくらはぎの装甲がスライドして中のラックからビットが射出される。

 

 これこそが私が青カブトを参考に作ったクマさんビット。

 

 にくきゅうパンチでペチペチ嫌がらせしたり、三匹でお手手をつなげばバリアも張れる優れモノ……

 

「あれは暴走したクマが使っていたファング! あんなの積んでいたのか!?」

 

 ───おや?

 

 シン兄の声につられて見てみれば、赤い跡を残して飛んでいくのは忌まわしき金ぴかファング。

 

 クマさんめ! 私が活躍する大事なところなのに製造ミスをどういう事か!?

 

 おおいに納得いかないが今は緊急事態、クレームはのちほどだ!

 

 3機のジェスタを狙って天空から降ってくる緑や赤いビームの嵐。

 

 それは乱射してる風に見せかけて、凄い精度でジェスタたちの頭や手を狙っていた。

 

『なに!』

 

『砲撃だと!?』

 

 完全に不意を突いた形だったから連邦の軍人さんも逃げようがなかったみたいだけど、そうは問屋が卸さない。

 

 高速で宙を掛けたビットはジェスタ達の上に到着すると、先端部分からエネルギーを放出して紅色のバリアを形成する。

 

 そして砲撃の全てをしっかりと防ぎ切ったのだ。

 

 というか、ヤバいヤバい。

 

 あれって距離で減衰してなかったらバリアを破られてたかもだよ。

 

 何とか無傷で治めた事にホッと息をついていると、今度は見た事のないガンダムが隊長機らしきジェスタに向けてビームサーベルを抜きながら急降下してくる。

 

『あれは……!』

 

「フリーダム!」 

 

 代表とシン兄の驚きの声を尻目に大上段からサーベルを振り下ろすフリーダムとやら。

 

『踏み込みが足りん!!』

 

 しかし渋い声と共にその一撃は振り上げられたジェスタのサーベルがそれを切り払った。

 

「キラさんの一撃を防いだ! あのパイロット、かなりの腕だぞ」

 

 シン兄の知り合いみたいだけど、フリーダムとやらはまだ諦めてない。 

 

 こうなったら……

 

 私の意志を感知してビット達は乱入者へと飛び掛かっていく。

 

『くっ……』

 

 狙いを甘くした為に紙一重でビット達を躱すフリーダム。

 

 しかし、私の狙いはここからである!

 

「……えい」

 

 私が気合を入れると、再びビットは三角錐の形にバリアーを形成される。

 

 それもフリーダムを中に閉じ込めるようにだ。

 

『しまった!?』

 

 フリーダムが思わず動きを止めたところで、すかさず代表の通信が飛んだ

 

『落ち着け、キラ! 彼等は敵じゃない!!』

 

『どういう事なんだ、カガリ!?』

 

 どうやら代表とフリーダムのパイロットは親しい仲らしく、私達が聞いたのと同じ説明がなされていく。

 

「……にぃに、あのひとしりあい?」

 

「キラさんっていう俺の上司だ」

 

 シン兄の上司だと?

 

 だったら邪魔をしたのはヤバいんじゃなかろうか。

 

 ……もし文句を言って来たら、私が矢面に立って『子供がした』という事で許してもらおう。

 

「それよりさっきの機能はなんなんだ?」

 

 頭の中で保護者が職を失わないように色々と画策していると、シン兄から質問が飛んできた。 

 

「……ミユがのったとき、にぃにのおてつだいできるシステム」

 

 詳しく言えばこのシステムは『サイコリリースシステム(命名クマさん)』という。

 

 クマさんの言う事にゃ、これは私が感じた殺気や気配をサイコミュチップで増幅した思念を通じてシン兄にリークするというものらしい。

 

 もちろん思念云々の扱いにシン兄は不慣れなので、死者の念とか悪影響を及ぼしそうな物は私がフィルターになってシャットアウトする。

 

 その為に理論上だと私のニュータイプレベルを10としたら5くらいしか伝わらないらしいんだけどね。

 

 そんなワケで自慢の操縦技術と私のニュータイプ能力が合わさって最強に見えるって感じを体現できるよ、シン兄!

 

「たしかに便利なシステムだ。けど、そういうのは自分の口で話そうな」

 

「……くちゅべひゃ」

 

 面倒なのでここまでの概要を思念で伝えたら、こっちを向いたシン兄にほっぺをムニムニされました。

 

 この幼女ボディに長文はできませぬ!

 

 この後、キラさんの誤解も解けて連邦の793部隊の人達とも挨拶を交わしたのだが、のんびりしていられない事態がやってきた。

 

 そう、UGの襲来である。

 

 オーブの軍港施設へ加えた爆撃の煙を切り裂くように現れた紫を基調にしたロボット達。

 

 その中にジェミニアは見当たらないけど、最後列の指揮官らしき位置には見た事が無い機体が陣取っている。

 

「出て来たか、UG!」 

 

『地球人同士で潰し合いになればいいと静観するつもりだったが、そう上手くはいかんようだな』 

 

 シン兄の怒声に返って来たのは、ジェミニアと戦っていた時にアムロ大尉の相手をしていた女性の声だった。

 

 むむ……あの人の気配、ちょっと変だぞ?

 

『生憎だったな、テロリスト共』

 

『俺達はひねくれ者でね、他人の笛でホイホイ踊ってやるほど素直じゃないのさ!』

 

 むこうの指揮官の呟きを鼻で笑う、たしか……コスギさんとシマダさん。

 

『……まあいい。各機、攻撃を開始せよ。この国を放置しておけば、我々の計画の妨げとなる』

 

 指揮官の指示によって動き出す坊主頭のロボットと蜂型の無人機たち。

 

 対するこちらも模擬戦で堕とされて待機していたアカツキ達が空へと舞い戻り、791部隊のみんなも手にした武器を構えて迎撃の体勢を見せる。

 

『総員、戦闘準備だ! オーブの国防軍と協力して首長官邸を護るぞ!』

 

『了解です、シオヤ隊長!』

 

『こちら、793部隊のゴウリだ。我々は官邸の防備に回るのでガンダム二機にはオフェンスを頼みたい。いけるか?』   

 

 眼鏡を掛けたインテリ風のゴリラみたいなゴウリのオジサンの問いかけに、シン兄は力強く頷いて見せる

 

「了解、そっちは頼みます!」

 

 亡命者という事で最初は警戒してたけど、顔合わせの時にむこうに疚しい意図が無い事は確認している。

 

 スパイやミスリルの裏切り者を見つけた私の直感センサーは伊達ではないのだ。

 

 むこうが防衛の布陣を敷くのを確認したシン兄は光の翼を広げて敵へと突貫する。

 

『シン、まずは敵の指揮官を叩こう。戦闘が長引けばオーブの被害が大きくなってしまう』 

 

 こちらと並行して飛んできたキラさんの言葉に頷くシン兄。

 

 それを見た私は進路に立ちはだかろうとした蜂型無人機をビットで串刺しにした。

 

「ミユ……」

 

「……にぃにのふるさとはミユのふるさと。いっしょにまもる」

 

「ああ!!」

 

 私の言葉にシン兄が頷くと同時に、デスティニーのサーベルはすれ違いざまに無人機を両断する。

 

 隣ではフリーダムが背面から青いビットを展開して次々とUGの無人機を射抜いている。

 

 フリーダムが砲撃で道を作り、デスティニーが突貫しながら光の翼で敵陣を切り裂く。

 

 そうして邪魔者を排除しながら指揮官機を目指す私達。

 

 しかし道を阻むUGの層もまた厚い。

 

 首長官邸に戦力を振り分けても際限なく湧いて来る無人機。

 

『アンネロッタ副長のところへは行かせん!』

 

『辺境の民ふぜいが、我等を甘く見るな!』

 

 そして部隊の中ほどに陣取る有人の人型兵器達も一筋縄ではいかないパイロット揃いだ。

 

「このっ!」

 

 敵ロボットが手から放つ光粒子を光の翼で機体ごと両断した後、すかさず別の人型へビームを撃つデスティニー。 

 

 しかし二機目の胴体を目指していた光弾は、割って入った別の機体によって防がれてしまう。

 

「……いって!」 

 

 相手の安堵する息遣いを感じ取った私がその隙をついてビットをけしかけるが、手足の関節へ食らいつく前に周りから飛来した無人機が盾になって防いでしまった。

 

 ならばと間合いを詰めてサーベルを振るえば、

 

『させん!』

 

『ジェミニスの兵士を甘く見るなっ!』

 

 なんとこちらの一太刀を二機がかりで防いでくるのだ。

 

 さすがのデスティニーのパワーでも2対一では分が悪い。

 

『堕ちろ!』

 

『チィィッ!?』

 

 斬りかかった腕を大きく弾かれると、体勢が崩れたところに3機目がサーベルで斬りかかってくる。

 

「……させない」

 

 だがしかし、こちらもシン兄一人ではない。

 

 バリア展開用として周辺に待機させていたビット達は、向かって来る敵機の顔面と両手足に食らいつくと容易く関節と装甲を食い破ってバラバラに解体する。

 

 命は奪いたくないから胴体は狙わないけど、手加減が出来るのもここまでだ。

 

 後は自力で生き抜いてもらいたい。

 

 機体の操縦はシン兄、ビットと索敵は私。

 

 そう言う形で役割を振り分けているのだが、さすがに数の不利は否めない。

 

 腕の立つ人型も手ごわいけど、周辺を埋め尽くす勢いで寄って来る無人機が厄介だ。

 

 デスティニーは高機動を売りにしている機体だから、動き回る為の空間を稼げないと途端に戦いにくくなる。

 

 なのでこの圧殺戦法は私達にかなり効くのだ。

 

「くそっ! 一度退いて光の翼で薙ぎ払うか!」

 

「……くる!」 

 

 そしてこちらが少しでも攻勢を緩めれば、むこうは軍勢で弾幕を張って押し返してくるのだ

 

「ちぃっ!?」

 

「……ふせいで!」

 

 雨あられのように飛んでくる光粒子の群れの合間を縫って回避するシン兄。

 

 どうしても躱せない部分はビットのバリアで何とか防いでいる。

 

 けれど、その所為でまたしても詰めていた距離がまた離されてしまった。

 

『こうも無人機を出されたら、マルチロックでも捌き切れない!』  

 

『Z-BLUEが来てくれれば戦力差は何とかなるけど、首長官邸の方が……』 

 

 仕切り直しの為か、傍に戻って来たフリーダムにそう返すシン兄。

 

 たしかにサブモニターに映る官邸の守備隊の調子は芳しくない。

 

 793部隊のみんなは無事みたいだけど、オーブ国防軍の消耗はかなり激しいようだ。

 

『コスギ! シマダと一緒にオーブ軍のフォローに就け!』 

 

『おいおい、俺達が離れて大丈夫なのかよ!?』

 

『こっちにはゴウリがいる! キクチやアザカミも使えるようになってきたから心配はいらん!!』

 

『わかったよ! ヒヨッコを庇ってくたばってくれるなよ!!』

 

『ああもう! こういう時にアイツがいてくれればなぁ!』 

 

 通信から入ってくるオジサン達の声にも余裕はない。

 

 こうなったら私達も退いて、首長官邸の防備を固めるべきか。

 

 ビットで相手を牽制しながらそんな事を考えていた時だ。

 

 首長官邸に近づく不思議な気配を感じ取った。

 

 これって……

 

「……せつな?」

 

 私の呟きと共に首長官邸を攻めていた部隊の一角が上空から降り注ぐビームによって崩される。

 

 それに続いて緑の粒子と共に突貫するのは右手に巨大な刃を生やした青を基調にしたガンダムだ。

 

『刹那・F・セイエイ、目標を駆逐する!』

 

『ぐわああああっ!?』

 

 流れるような動きで2体の無人機と一体の人型を切り裂いたガンダムは、その残骸が爆炎に包まれる前に緑のガンダムを伴って降りて来た戦艦の前に戻った。

 

『ソレスタルビーイング!』

 

 その姿に歓声を上げるシン兄。

 

 どうやら彼等もZ-BLUEの仲間らしい。

 

『遅れてしまってごめんなさい、キラくん』

 

『上の奴等を片付けるのに手間取って、少しばかりパーティに遅れちまった』

 

『いえ、助かりました。貴方達が敵を受け持ってくれなかったら、僕はこんなに早くオーブにはたどり着けませんでしたから』

 

 通信モニターに現れたのはおっぱいバイーンなおば……お姉さんとクルツさんに声が似てる茶髪のお兄さん。

 

 お姉さんの方がスメラギさんといって船の艦長さん。

 

 お兄さんの方は緑のガンダムのパイロットでロックオン……偽名? コードネーム? よくわからないや。

 

『キラさんはソレスタルビーングと一緒に動いてたんですか?』 

 

『ううん。でも彼等はUGを追っていたみたいでね、オーブが狙われてる事をプラントに伝えてくれたんだ』 

 

『そうだったんですか』

 

 キラさんの言葉に感嘆の声を漏らすシン兄。

 

『チッ、またお前達か!』

 

『今日こそお前達の企みを暴く』

 

『俺達に狙われて逃げられるなんて思わねえこったな!』

 

 刹那という人とロックオンのお兄さんが啖呵を切る中、私達の背後から待ちわびていた気配がやって来た。

 

『……にぃに、みんなきたよ』

 

『そうか!』

 

 シン兄の歓声と共に姿を現すラーカイラムとクォーター。

 

『総員、出撃せよ!』 

 

 そしてブライト艦長の指示によってマジンガーが、ゲッターが、ゴッドシグマやガンダムを始めとするモビルスーツたちが次々に現れる。

 

『あれってソレスタルビーイングじゃないか!』

 

『アイツ等今まで何してたんだ?』

 

『おお、キラじゃないか! 元気だったかのう!!』

 

『お久しぶりです、キラケンさん』

 

『ワシ等が来たからにはもう安心じゃ! 奴等にキラキラコンビの力を見せてやろうではないか!!』

 

『はい!』

 

 アルトさんと甲児さんに続いて、キラさんと親しげに話すキラケンさん。

 

 というか、二人はそんなコンビを組んでたのか。

 

 ちょっぴり意外である。

 

 こんな感じでグングンと士気が上がっていく中、私は皆に混じって飛ぶ見覚えのない機体を見つけた。

 

 それはラーカイラムの甲板に四本の足で堂々と立つ、モビルスーツと同程度の大きさをした機械のライオンだ。

 

『シオヤ隊長、みんな、無事か!?』 

 

『その声、ヒヤマか!?』

 

 ライオンからの通信に驚きの声を上げる793部隊の隊長さん。

 

『キクチさん、あの人は誰ですか?』

 

『君の前に部隊に入っていた人だよ。コスギ副長と並んでウチのエースだったんだ』

 

 そうなんだ。

 

 けど、どうしてそんな人が皆と一緒にいたんだろう?

 

『お前、ソルブレイブスに引き抜かれたんじゃなかったのかよ!?』

 

『ああ! けど、みんながサイガス准将の無茶な作戦を押し付けられたと聞いて助けに来たんだ!』

 

『おい、独断で出撃とかダメだろ!?』

 

『心配いりません、副長! そこはレディ・アン司令の許可とオーブの防衛の命令を受けてますから!!』

 

 コスギ副長のツッコミに平然と返すヒヤマさん。

 

 その答えを聞いた時、ライオンロボの背後に爽やかな笑みと共にサムズアップする熱血漢の姿が見えた気がした。

 

『ではブライト大佐、俺は古巣の仲間と合流させてもらいます!』

 

『了解した』

 

『それじゃあ行くぜ! 来い、ウミトライオン! ソラトライオン!!』 

 

 ヒヤマさんの叫びと共に空と海を裂いて現れる二つの機体、それはライオンと同じ大きさの鷹と蟹の形をしたロボットだった。

 

 そしてラーカイラムの上に立っていたライオンロボもまた甲板を蹴って空を舞う。

 

『見ててくれ、ソーツー博士! レッツ・トライ・オぉぉぉぉンッッ!!』

 

 裂帛の気合と共に力場に包まれる三体のマシン。

 

 ライオンロボを中心に鷹ロボが下半身へ、そして蟹ロボが上半身へと変形していく。

 

 そして現れたのはガンダムによく似た顔を持つ巨大な機動兵器だった。

 

『これが連邦軍が作り出した初のスーパーロボット! トライオン3だっ!!』

 

 あまりの事にあんぐりと口を開けるシン兄。

 

『……信じられねぇ。アイツ、本当にスーパーロボットのパイロットになりやがった』

 

 そして通信の方からはシマダさんの茫然とした声が漏れる。

 

 私としては新しいスーパーロボットに興味津々だけど。

 

『いくぞ、UG! トライオンと俺達の力を見せてやる!!』

 

 UGの司令官を指さして大見得を切るトライオン。

 

 うん、ヒヤマさんの声と合わさってとっても頼もしそうだぞ!

 

 これならオーブを護れるかもしれない!

 

 

 

 

 ここは大統領官邸の中にある直属部隊ソルブレイブスの指令室。

 

 そこでは連邦のスーパーロボット研究の第一人者にしてトライオン3の開発者であるソーツー・サンライズ博士とレディ・アン司令。

 

 そして舞踏会用の仮面を付けた紳士がオーブ戦の様子をモニターで確認していた。

 

「トライオン3、合体変形には問題はないようだね」

 

「ええ。貴方から提供されたプラズマ反応炉も3基ともに出力は安定しています。これならば戦闘においても不具合の心配は無いでしょう」

 

 ソーツー博士は送られてくる機体データを確認すると、司令の傍らに立つ紳士へ笑顔を向ける。

 

 トライオンの開発において最大のハードルは、スーパーロボット特有の絶大な火力を担うエネルギー源だった。

 

 その為に頓挫した次世代Z計画の中で、高出力を売りにした試作機を取り寄せて機体の雛形としたのだ。

 

 しかしMSの核融合炉では3基積み込んだところで、スーパーロボットの超エネルギーには遠く及ばなかった。

 

 こうして連邦の特機建造計画は暗礁に乗り上げていたのだが、それを打開したのが紳士によって提供されたプラズマ反応炉だった。

 

 核融合炉に似た設計でありながら、小型かつ既存のMS動力を遥かに凌ぐエネルギーを生み出す新技術。

 

 これのお陰でトライオンは日の目を見る事が出来たのだ。

 

「ミスター、そろそろお時間です」

 

「ありがとう、レディ。博士、共にトライオンの雄姿を見たいところではありますが……」

 

「いえ。あなたほどの方なら必要とする人間も数多でしょう。トライオンは私が責任を持って見届けますので、どうか気になさらず」

 

「すまない」

 

「そこまでお送りしましょう」

 

 小さく目礼をして司令部から背を向ける紳士とその後ろに付き従うレディ・アン。

 

 その姿は長年寄り添っていた主従のように違和感がない。

 

「トレ……ミスター。やはり貴方がここの指揮を取るべきでは……」 

 

「それはいけない。私はすでに舞台を降りた身だ、黒子に徹しなければ再び世界に混乱を呼んでしまう」

 

「失礼しました」

 

「いや、こちらこそ大役を君に押し付けてしまって心苦しく思う。だが、この星を狙う脅威はいまだに多い。それらを打ち払い、人類は真の意味で未来を掴むまで私に力を貸してほしい」

 

 眼前の紳士、いや己が主の言葉にレディ・アンは最上級の敬意をこめて頭を下げる。

 

「もちろんです。私の生きる意味は貴方に仕える事なのですから」

 

 

 

 

 クォーターの格納庫の一角。

 

 偽装された隔壁によって隠された誰も立ち入る事のない空間では、廃材や今までの戦闘で発生した敵機の残骸などが秘密裏に回収され、植え付けられたUGセルによって融合と増殖を繰り返していた。

 

 それは完成まで半分に満たない身でありながら、大きさはすでに40mに届くほどに成長を遂げている。

 

 フレームが生え、配線が伸び、それらを装甲が少しずつ覆っていく。

 

 そんな中、貪欲に成長を続けるそれにどこから紛れ込んだのか一匹の虫が止まった。

 

 アルティメット細胞の本能を全開にしている為、生物非生物問わず食らうソレによって虫は瞬く間に吸収されてしまう。

 

 しかし製造過程を監視していた電子の瞳にはその虫が何故か強く焼き付いていた。

 

 傷付いてはいたものの本物と見間違うほど精巧に作られた機械の虫。

 

 それは陽のように、火のように、緋い蜂であった。

 

    




今回のまとめ

仮面のエレガント様

暗躍は紳士の嗜み

同胞がハメを外し始めたのでちょっぴりはっちゃけた


幸せレディ

ご主人様に再び仕えてやる気アップ。

エレガント様の事情は全て聞いている。

これからはプリベンター長官が片手間になる模様


創通の刺客

スーパーロボットに魅せられたマッドさん。

実は早乙女(真)の助手をしていた時代があった。

自作のスーパーロボットの合体シーンにワクテカ


全員のギャラの値段がヤクザな一般兵祭り部隊

野生のエース。

中の人の出演料はシン・キラ・刹那よりブッチギリで高いハズ 

シオヤ少佐(スパロボF出身・歴戦のエリート兵)

CV塩屋浩三

コスギ大尉(スパロボF完結編出身・歴戦のエリート兵)

CV小杉十郎太

ゴウリ大尉(スパロボF完結編出身・歴戦の突撃兵)

CV郷里大輔

シマダ中尉(スパロボZ出身・性格は強気)

CV島田敏

キクチ少尉(スパロボF出身・安定の一般兵)

CV菊池正美

アザカミ伍長(スパロボT出身・一般兵期待の新人)

CV阿座上洋平


野生の勇者

CV檜山兵

生まれる世界を間違った人。

F完出身の地獄のエリート兵に鍛えられたのに、何故かステがスーパー系に全振りした。
 
なのでМSとは致命的に相性が悪い。

ガード・格闘特化の戦闘スタイルをハムの人に見染められてソルブレイブス入り。

そこでトライオンと運命的な出会いを果たす。

実は格闘戦ならハムの人やご飛とタメを張るくらいに強い。

実は世界で唯一の勇者技能保持者


胎動中の怪物

ヤンデレ要員が打ち止めだと何時から錯覚していた?
   

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