幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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急募:トライオン+ヒヤマ兵に出番を食われずに目立つ方法

ヒビキ・カミシロ 


幼女、家族とトモダチを得る

 どうも、オーバーデスティニーのファング操作兼索敵担当のミユです。

 

 Z-BLUEが合流して戦力的に五分以上になったオーブ防衛戦。

 

 私達は仕切り直しの為に兵を退かせたUGの軍勢と睨みあっている。

 

『Z-BLUEが現れたのなら好都合。ここで我々の障害となる者達を一網打尽にするまでだ』

 

「ふざけるなっ!!」

 

 敵の女指揮官の不遜な物言いに怒りの声を上げるシン兄。

 

『ここには平和に暮らしている人達がいる。それを貴方達は勝手な都合で彼等の平穏と幸せを奪おうとしている!』

 

『……ッ!』

 

 それに続いてキラさんが糾弾すると指揮官の機体から心の揺らぎが生まれた。

 

 これって……後悔と怒り?

 

『貴方達がオーブを攻撃するのは、地球とコロニーの戦争を永続させる為と調べはついているわ』

 

『やはりそうか』   

 

『あの時現れたジェミニアのパイロットが暗躍していたんですね』

 

 スメラギさんの言葉に納得したように言葉を紡ぐアムロ大尉とカミーユさん。

 

『貴方達も扇動者の存在に気付いていたのね。さすがはZ-BLUEだわ』

 

「最初に気付いたのは俺の妹ですけどね。この子が扇動者を見つけてくれなかったら、俺達はその事実に辿り着けなかった」

 

「……ガドライトの『いがみあえ』ののろい、あぶない」

  

 あれは心に直接作用する厄介なものだ。

 

 私が感じた残滓でさえ、人間の負の感情を煮詰めたような強烈なモノだった。

 

 あれを気構えも無く掛けられたら普通の人では耐えられないだろう。

 

『その事実を知っておいて奴等の暗躍を止められなかったのはUGが一枚上手だったのか、それとも裏にいるクロノと彼等が繋がっているからか……。まあいいわ。ここで彼等を倒せばそれも解決よ』

 

『奴等が戦争の原因ならば、それを断つのが俺達の役目だ』

 

『ああ! 正体を隠して呪いなんかで戦争を煽る卑怯者なんかに負けるかよ!!』 

 

 スメラギさんの言葉にヒイロさんや甲児お兄さんが闘志を燃やす中、一際強い怒りを剥き出しにしてシン兄が吼える。

 

『お前達もあのガドライトって奴も最低だ! お前達の所為でどれだけの血が流れて、罪も無い人が泣いたと思っている!?』

 

『……うるさい。私達とて……私達とてこんな蛮行を───』

 

 シン兄の糾弾に絞り出すように言葉を吐き出そうとする敵指揮官。

 

 やっぱりあの人達は望んでこんな事をしているんじゃないんだ。

 

 だったら、彼等の後ろにそれを指示する物がいるってこと?

 

『言い訳をするつもりか、卑怯者?』

 

『なに……?』   

 

『そちらの事情など知った事か。俺達はお前達のしたことを絶対に許しはしない! アンナロッタ・ストールス! 貴様等に何かを言う権利があると思うなよ!』

 

 そんな事を考えていると今度はヒビキさんが敵に厳しい言葉を浴びせ始めた。

 

 皆の気持ちは分かるんだけど、敵指揮官、アンナロッタさんからガンガン流れてくる罪悪感とか自己嫌悪の念を受けている身としては、少しだけ追及を緩くしてくれるとありがたいなぁ。

 

 それに何だろう?

 

 あの指揮官から2つ……ううん、3つの意志をかんじるんだよね。

 

 このモヤみたいに掴みづらい感じ、どこかで感じたんだけど……

 

『黙れ…! 黙れ!? 我々は卑怯者などではないッ!!』

 

 こちらの糾弾に耐えられなくなったのか、血を吐くような叫びをあげるアンナロッタさん。

 

『我々はサイデリアル…いや違う! 我等はジェミニス! 惑星ジェミナイとその民ジェミナイドを護る者だ!!』

 

 相当頭に血が昇っているのだろう、失言にもかかわらず高らかと自分達の組織を名乗っている。

 

 けれど、これで少しは情報を得られた。

 

 流れてくる屈辱ややるせなさから見るに、彼女達はサイデリアルという組織に支配されて無理やりこの星を攻めさせられているのだろう。

 

 だったら、少しは交渉の目はあるかもしれない。

 

 そう思った私はさらに言葉をぶつけようとするヒビキさんより早く口を開いた。 

 

「……おねえさんたちがすきでやってないことはわかる。あなたたちにめいれいしてるの、そのサイデリアル?」

 

『……!?』 

 

 こちらの言葉にアンナロッタさんが息を呑むのが伝わった。

 

 理由は彼女達の背後にいる存在を指摘された事、そして私のような子供が戦場にいること、その両方だろう。

 

『貴様等! こんな幼子を戦場に出しているのか!?』

 

「……ここはミユとシンにいのふるさと、まもるのはとうぜん。それより、やりたくないんだったらミユたちにじじょうをはなして。ちからになれるかもしれない」

 

「ミユ!」

 

 アンナロッタさんからまたもや大きな罪悪感が飛んでくると同時に、前にいるシン兄からキツい声が飛んできた。

 

 この提案が甘いのは重々承知だよ。

 

 でも今は宇宙も地球も敵だらけなんだから、話して分かりそうな相手なら手を結ぶ努力も必要なんじゃないかな?

 

 クマさんの見せたテンシみたいなトンデモない存在も控えてるんだしさ。

 

 口下手幼女ボディではみんなを説得するプレゼンなんて無理なのでテンシの部分をボカシて思念を送ったのだが、残念なことに私の努力は無駄に終わってしまう。

 

『───残念ながらそれはできん。もはや戦端は開かれたのだ、貴様等と我々が相容れる事はない!』

 

 アンナロッタさんの宣言と共に動き始めるUG……ううん、ジェミニス軍。

 

『クッ、やはりこうなるのか!』 

 

『ヒビキの言う通り、奴等の事情なんてどうでもいい! 向かって来る以上はぶっ飛ばすまでだ!!』

 

 同じ異星出身だからか悔しそうに声を上げるタケルさんと、細かい事は関係ねえとばかりに戦意を漲らせるシモンのアニキ。

 

 その声を聴きながら私はシン兄に頭を下げる。

 

「……にぃに、ごめんね。あのひと、こころのなかで『ごめんなさい』って、ずっといってたから」

 

「いいさ。けど、情けを掛けて手を抜くのはダメだぞ。俺達の後ろにはオーブがあるんだからな」

 

「……ん」 

 

 そう、ここからは闘いの時間だ。

 

 オーブはもちろん、仲間や私自身の命を護る為にも気持ちを入れ替えないと。

 

『各機はUG……いや、ジェミニスを迎撃しろ! 奴等の目的は地球とコロニーの戦争拡大だ! それを防ぐ為にもオーブをやらせる訳にはいかんぞ!!』

 

 ブライト艦長の激を合図に再び私達はジェミニスに牙をむいた。

 

 

 Z-BLUEが合流して10分ほど、戦況は大きく私達に傾いていた。

 

『コロニーと地球をいがみ合わせるなんて……お前達のような奴はいちゃいけないんだっ!!』 

 

『カミーユ、怒りの感情に呑まれるなよ。───そこだ!』

 

 ZⅡを飛行形態にしたカミーユさんが人型をビームランチャーで落とすと、隣にいたアムロ大尉がミサイルを無人機に命中させる。

 

『ジェミニアの奴はどこだっ!? 前の借りを熨斗つけて返してやるぜ!!』

 

 無人機の頭を斧で叩き割って吼えるブラックゲッター。

 

 その挑発が効いたのか、それを聞いた人型がサーベルを展開して突撃する。

 

『貴様ごときに隊長が出るまでもない! 俺がその首を掻き切ってやる!!』

 

『バカ野郎っ! ザコはお呼びじゃねえんだよ!!』  

 

『ぐわああああっ!?』 

 

 しかし振り下ろそうとした一撃に裏拳でカウンターを合わせられ、怯んだところに右手のドリルで串刺しにされてしまう。

 

『へっ、コイツ等が今回の黒幕か! 葵、ここで一気に片付けちまうぞ!!』 

 

『了解! まだ出て来てないけど、親玉はかなりの強さだから気を付けなよ!』

 

『そうでなくちゃ面白くねえ! やってやるぜぇっ!!』

 

 忍さんと葵さん、二機のダンクーガが放つ高出力ビームが、オーブの空を占拠していた無人機の群れを吹き飛ばす。

 

『スカルリーダーより各機へ! 俺達は特機が敵指揮官へ向かう為の露払いだ! これだけ敵がいれば狙いをつけるまでも無い、派手にぶっ放せ!!』 

 

 後ろにスーパーロボットを引き連れたオズマ隊長が戦闘機形態のバルキリーからミサイルを放てば───

 

『了解、うおおおおおおおっ!!』

 

 ブースターパックをグルグル回して、味方のミサイルの中を踊る様に突撃するアルトさん。

 

 そしてオズマ隊長のミサイルが着弾する中、人型に変形すると被弾を免れた人型達をガンポッドでハチの巣にする。

 

『やれやれ、熱いねえ』 

 

『フン、お前にはできないマネだな』

 

『そりゃあそうさ。俺は女の子も戦場も美味しい所をスマートに頂く主義なんでね!』

 

 そんな二人の後ろではクランさんの機体に牽制を任せて、人型になったミシェルさんのバルキリーが敵機を次々と狙撃していく。

 

 そうしてスカル小隊が敵陣に切り込むと、次に待っているのはスーパーロボット達の大暴れだ。

 

『くらえ、スピンソーサー! ゴォォッドトマホーク!! フィンガーニードルも持っていけぇっ!!』 

 

 闘志也さんの気合と共に、両肩の小型シールドに投げ斧を投げると、さらには突き出した両手の指先から針状のエネルギー弾まで放つゴッドシグマ。

 

 空を裂いて飛ぶ凶器達をジェミニスの無人機たちは一糸乱れぬ動きで回避していく。

 

 だけど……

 

『今じゃ、キラ!』

 

『はい! 当たれェェェェッ!!』

 

 それをゴッドシグマに隠れるように展開していたフリーダムのビットが、背後からのビームで次々と射抜いていく。

 

 数が揃えば私達の突撃を阻めるくらいに相手の無人機の性能は高いけど、あのコンビネーションはさすがに躱せなかったみたい。 

 

『今だ! 行くぞワッ太、正太郎!』

 

『はいっ!』

 

『任しとけ!』

 

 撃墜された無人機の爆煙を切り裂いて次に現れるのはゴッドマーズとトライダーに鉄人の3体。 

 

『体勢を立て直す前に叩く! マーズフラッシュ!!』

 

『なんてパワーだ……ぐわぁぁぁっ!?』 

 

 例の変わった形の剣で行く手を遮ろうとした人型をサーベルごと両断するゴッドマーズ。

 

『いっくぞぉ! トライダー・ルアー!!』

 

 一方のトライダーが取り出したのは……釣竿?

 

『ワッ太! なんなのそれ!?』

 

『トライダーの新兵器だよ! さっそく掛かったぞ! 正太郎も手伝え!』

 

『う…うん!』

 

 あ、人型にルアーを引っ掛けて釣り上げたと思ったら、鉄人と二体でブンブン振り回して分銅代わりにしてる。

 

 トライダーって色んな武器があるんだなぁ。

 

 というか、あの釣り竿ならクジラでも釣れるかも。

 

 一方の首長官邸守備隊も先ほどまでの危機はどこへやら、敵の軍勢をドンドンと押し戻していた。

 

『うおおっ! アームド・ブースタぁぁぁぁっ!!』

 

 もちろんその中心となったのはトライオン3だ。

 

 ヒヤマさんの魂の籠った叫びと共に右腕から放たれるロケットパンチ。

 

 それはムラサメのビームも弾く装甲ごと無人機を容易く粉砕する。

 

『特機が一体増えたところで……調子に乗るなっ!!』 

 

 右腕を切り離した隙を狙って人型が攻め入ってきても───

 

『甘いっ! ラプターブレイカーっ!!』

 

 袈裟斬りの一撃を躱すとカウンターで膝蹴りを叩き込む。

 

 この蹴りのエゲツないところはインパクトと同時に膝に備わった鷹の爪が相手の胴体を捕らえる事だ。

 

 そのために相手は後ろに吹き飛ぶ事が出来ず、胴体へ衝撃を100%受けることになってしまう。

 

 そうしてスーパーロボット特有のハイパワーで思い切り振り回され、爪の拘束を解かれると同時に宙へと弾き飛ばされる人型。

 

『とどめだぁ! ライガーグレアぁぁぁぁっ!!』

 

 戻って来た右腕をジョイントするとすぐに、トライオンは胸に鎮座する獅子の目から高出力のビーム砲を放つ。

 

 青空を焼く薄紅色の光線は容赦なく人型を呑み込むと、その射線上にいた無人機数体を巻き込んで跡形もなく消滅させた。

 

「すごいな。さすがはスーパーロボットを名乗るだけある」

 

「うん、さけびもりっぱ」

 

 この他にも頭のアンテナをブーメランにして投げたり、両手に着いたシールドを赤熱化させて相手を斬り捨てたりとやりたい放題。

 

 見た目がガンダムっぽいからもっとスマートな戦い方をすると思ってたのに、ガチ格闘系だとは私の目でも見抜けなかった。

 

 しかし、この戦いは首長官邸を護るのが目的。

 

 文字通り獅子奮迅の活躍を見せるトライオンだけど、彼一機では守り通すのは難しい。

 

 そんな彼の穴を埋めているのが793部隊の面々とオーブ国防軍だ。

 

『よし、トライオンを中心に防備を再構築する! 奴の討ち漏らしを積極的に狙え!!』

 

『カツラギ一尉からオーブ空軍各機へ! ここは俺達の国だ、お客さんや新人達におんぶに抱っこというワケにはいかんぞ! 気合を入れろ!!』

 

『了解!!』

 

 責任者の人が一喝すると途端に動きが良くなるムラサメ達。

 

 彼等は飛行形態の機動力を駆使してビームや大型ミサイルの弾幕で無人機の足止めを始める。

 

 そこに切り込むのが793部隊の人達だ。

 

『俺だって793部隊の一員なんだ、みんなの足を引っ張れるか! トランザムッ!!』

 

 機体を赤く発光させながら凄い勢いで敵陣の中を駆け巡る新人さん。

 

 あの銀の機体ってジンクスⅣっていうんだって。

 

『アザカミめ、無茶し過ぎだ』

 

『言ってやるなよ、ゴウリ。若いやつってのはそういうモンだろ』

 

『コスギの言う通りだ。そういう奴のケツを拭ってやるのが俺達年長者の役目だ。キクチはアザカミのフォローに回れ! シマダはヒヤマとツーマンセルだ、奴の取りこぼしを拾ってやれ!!』

 

『了解、トランザム!』

 

『あいよ! ヒヤマ、迷惑な客共はお前の料理にご満悦だ! もっと食らわせてやれ!!』

 

『まかせろ、ダブルキャロネイドォッ!!』

 

 隊長さん達のジェスタが放つ支援砲撃の中、赤い流星になって駆け巡る二機のジンクス。

 

 そしてその間を縫うように二条の極太ビームが螺旋を描きながら首長官邸を襲っていたジェミニスの隊を引き裂いていく。

 

 こんな風に皆が大活躍しているんだけど、もちろん私だって遊んでいる訳じゃない。

 

「1ばんとにばんはかんてい、3ばんと4ばんはヒビキさんのまわりに。5と6はわたしたちのとなりにいて」 

 

 シン兄がデスティニーで戦っている間、私もファング達でしっかり周りのサポートをしているのだ。

 

 ニュータイプ歴が短いとはいえ侮る事なかれ。

 

 私だってアムロ大尉の指導を受けた鬼畜テンパ流ファンネル術の門下生、あの頭のおかしい先読み術は無理でも相手の思考の裏を掻くぐらいはできる。

 

 というか、相手が躱した時点で回避先にビームが置いてあるなんてマネ、どうやったらできるんだろうね?

 

 アムロ大尉のテクニックの謎は置いておくとして、今の出撃メンバーで私が一番心配なのはヒビキさんだ。

 

 さっきは威勢のいい啖呵を切っていたけれど、彼から感じるのは以前第二新東京市でジェミニスと遭遇した時と変わらないくらいの恐怖。

 

 そんな彼が戦えているのはスズネ先生が一緒なのと、怒りの感情で無理やり恐怖を抑え込んでいるからだろう。

 

 その証拠に素人の私から見てもジェニオンは敵に突っ込み過ぎている。

 

 今は相手の攻撃を紙一重で躱しているけれど、運の天秤が少しでも逆に動けばあっさり撃墜されてもおかしくない。

 

 そういう訳で余計なお世話と思いつつもファングを傍に張り付けている。

 

 ヒビキさん達が怪我したら私も悲しいからね。

 

 さて、いかに異星の軍であるジェミニスでもジェミニア不在で私達を止めるのは難しいようで、Z-BLUEが合流して30分ほどで無人機の大半が堕とされて人型も半数まで減った。

 

 私としてはアンナロッタという女指揮官を憎めないし彼女から感じた妙な思念も気にかかる。

 

 できればこの辺りで撤退してほしいんだけどなぁ。

 

 そんな事を考えていると戦場を嫌な思念が駆け抜けたのを切っ掛けに、3番と4番ファングを通してヒビキさんの恐怖心が一気に膨らんだのがわかった。

 

 この感覚、ガドライトがここにいるの?

 

 背筋を走る冷たいモノに気を取られている隙に、ジェニオンは敵の防衛線を抜けて中枢へと突っ込んでいく。

 

 恐らくこれ以上戦えないと判断したヒビキさんは、この機に乗じて指揮官機を叩くつもりなんだろう。

 

 けれど、その焦りのせいで私でも分かるくらいに動きが単調になってる。

 

 あれだと逆にやられちゃう!

 

『アンナロッタぁぁぁぁぁ!!』   

 

『雑な攻撃だな。そんなモノではジェミニスのディオスクは倒せん!』

 

 案の定、ディオスクとかいう指揮官機が放った腕のビーム砲を食らい、勢いを殺されたジェニオンは無防備になる。

 

『ぐうっ!?』

 

「ヒビキ!」

 

「……ミユにまかせて」

 

 半ば悲鳴のようにヒビキさんの名を呼ぶシン兄にそう言った私は、ファングの操作に意識を集中させる。

 

『ジェミニスの…いや、ジェミナイドの誇りを汚した貴様はここで仕留める』

 

 腕から緋色のサーベルを生やして死に体のジェニオンへと襲い掛かるディオスク。

 

 それを阻止する為に3番と4番をけしかけようとしたところ、ヒビキさんと敵指揮官の間に割って入ろうとする気配を感じた。

 

 それは何と言うか酷く気持ちの悪いモノだった。

 

 喜怒哀楽の喜しか感じないくせに、その奥には汚泥のような不穏な何かを隠している。 

 

 これ以上深く探ったらコッチが持たない。

 

 そう考えて意識を戻したのだけれど、一足遅かったらしい。

 

 気が付けば、ディオスクに行くはずだった3番が割って入った白い機体の胴に突き刺さっていた。

 

 …………ヤバい、ヤバいよ!

 

 所属不明だけどいきなり攻撃しちゃった!!

 

 これって連邦とかシン兄達の仲間だったりしたらシャレにならないよね!?

 

「……にぃに、ごめんなさい」

 

「えーと……」

 

 白い機体が颯爽と現れた瞬間にファングをくらったのを見た所為か指揮官機も途中で動きを止めてるし、その間にジェニオンも体勢を立て直してる。 

 

 いちおう結果オーライなんだけど、実戦で誤射はシャレにならないってば!!

 

 内心でパニくっていると、白い機体は何事も無かったかのようにファングを引き抜いた。

 

 うん、致命的な損傷とかじゃなさそうでよかった。

 

 これで火を噴きながら墜落された日にはトラウマ物だったよ。

 

『Z-BLUEよ、私は君達の味方だ。今ここに証を見せよう!』

 

 オープンチャンネルでそう言うと、ディオスクへと突撃する白い機体。

 

 ───速い。

  

 あれって前のデスティニーの全力くらいのスピードが出てるじゃないかな?

 

 懐に飛び込んでボディブロー気味に両手のブレードで連撃を浴びせ、バク転気味に振るった尻尾でディオスクを弾き飛ばす白い機体。

 

 さらに彼は吹き飛んだ相手に追いすがると、空中で次々と斬撃を叩き込んでいく。

 

『とどめをくらえッ!』

 

 そして裂帛の気合と共に加速も込めた前転かかと落としを放つ白い機体。

 

 そのコンビネーションははかなりの威力があるようで、落ちてきたディオスクには浅くないダメージが刻まれていた。

 

『見ての通りだ、Z-BLUE。私は君達に協力したい。現在、私の部下が島の北側で市民の脱出の補助に当たっている。どうか共に戦ってくれないだろうか?』

 

 ジェニオンの傍らに降りて来た白い機体のパイロットは協力を申し出た。

 

 声を聴く限り真摯に願い出ているようだけど、ハッキリ言って信用ならない。

 

 だって、そこから感じる思念には敬意や親愛じゃなく実験動物を見るような無邪気な興味しか感じないんだもの。

 

『いいだろう。だが、所属もわからない君を完全に信用するのは難しい。おかしな真似はくれぐれも控えてくれ』

 

 そんな事を考えているとブライト艦長が共闘を決めてしまった。

 

 思えば私が感覚的に引っかかっているだけで、あの白い機体の行動は何も怪しい所は無いもんね。

 

 事故とは言え誤射しちゃったし。

 

『感謝する。では、私は彼のフォローに回ろう』

 

 そう言うとジェニオンのバディの位置に移動する白い機体。

 

『あ……』

 

『心を強く持て! 君の中の恐怖に打ち克たない限り、これからの闘いを勝利する事はできないぞ!!』

 

『……ッ!』

 

『行くぞ! あのアンナロッタなる女性は我々で討つ!!』

 

『は……はいっ!』

 

 無理に恐怖心を抑え込んでいた反動でぼうっとしていたヒビキさんは、白い機体のパイロットの叱咤で我を取り戻した。

 

 言ってる事は何も間違ってないんだけど……やっぱり何か怪しい。

 

『少しは腕が立つようだが、我々の邪魔をするならZ-BLUE諸共打ち倒すまで!』

 

『そうはさせん! 未来の希望を奪わせはしない!』

 

『アンナロッタ! 貴様はここで倒す!!』

 

 私のそんな疑念を他所に再び始まる闘い。

 

 アンナロッタという敵指揮官は高い技量を持っていたけど、今回ばかりは相手が悪いとしか言いようがない。

 

『これ以上はやらせん! 墜ちろ!!』

 

『甘い!』

 

『あたりはしないっ!!』

 

 コロニーガンダムやソレスタルビーングによって他のジェミニスが次々とやられる中、その支援をしようとビームを放つディオスク。

 

 しかしそれもアムロ大尉の牽制射撃によって邪魔され、ならばと狙いを変えて放った一撃をカミーユさんがあっさりと回避する。

 

 一対一ならウチのエースと互角かもしれないけど、でもZ-BLUEにはアムロ大尉やカミーユさんなど凄腕パイロットがズラリといる。

 

 向こうの機体の方がZⅡやリガズィより高性能でも、連携を取られたらその差はアッサリと埋まってしまう。

 

『行くぞ、パルサーベル!』 

 

『無双剣!』

 

『な……なんてパワーだ! うああっ!?』

 

 さらにその性能だってスーパーロボットには及ばないようで、高機動の機体による牽制の後に特機の波状攻撃を食らうと一気に劣勢になった。

 

『くっ……このディオスクをもってしても及ばないというのか』

 

 ゴッドシグマに左手を切り落とされ、バルディオスの斬撃で右足を失ったアンナロッタは息を切らせながらもなんとか空中で体勢を立て直す。

 

 むこうは不思議がってたけど、あのディオスクって機体、多分ジェミニアのパワーダウン版みたいなんだよね。

 

 戦術もそっくりだから、日々打倒ジェミニアとシミュレーターをやってる皆はアッサリと手の内を見切られちゃったんだよ。

 

『ここまでだ、アンナロッタ。覚悟を決めろ』

 

 白い機体を伴ってアンナロッタの前に立つジェニオン。

  

 相棒の支援があったとはいえ、アンナロッタと互角に刃を交えていたんだからヒビキさんはわりと凄いと思う。

 

『覚悟だと? 舐めるなよ、小僧! 私はジェミニスだぞ!!』

 

 勝利を確信したヒビキさんのセリフを一喝で振り払うアンナロッタ。

 

 そんな彼女が次に打った一手は、皆の予想だにしない物だった。

 

 なんと彼女は目の前にいるZ-BLUEのメンバーに目もくれず、一直線に別方向へ飛び出したのだ。  

 

 誇りを重んじる武人的な気質を見せていた事もあって、これには討伐に集まったメンバーも目を剥いた。

 

 そんな皆を嘲笑うように加速するディオスクの前にあるのは、ムラサメや791部隊が護る首長官邸。

 

『しまった!? 奴の目的は首長官邸だ!』

 

『カガリ!!』 

 

 向こうの意図に気が付いたみんながキラさんを先頭に追い始めるけど、アンナロッタとの距離はかなりある。

 

『我々はジェミナイ最高の精鋭だ! 与えられた任務は何があっても遂行する!!』 

 

 そう言いながら光粒子を纏って加速するディオスク。

 

 手負いとはいえディオスクが相手ではオーブ軍や791部隊では止めるのは荷が重い。

 

 唯一それが可能なのはトライオンだが、自爆特攻された場合は彼一人では防ぐのは難しいだろう。

 

 この状況で私が打てる手は───

 

「……いちばん、にばん。アンナロッタをとめて」

 

 アンナロッタを追うデスティニーのコクピットの中、私はフォローの為に首長官邸へ待機させていたファング達に思念を飛ばす。

 

 それを受けて黄金の牙は組み込まれたフォトン装甲でオーブに注ぐ南国の日差しをエネルギーに変え、向かって来るディオスクへと突撃する。

 

『おいおい! 最後の最後でドジるかよ!?』

 

『文句を言うな、シマダ! 各員奴を止めるぞ!!』

 

『ここにはカガリ様やマリナ女王がいらっしゃる! 絶対に死守だ!!』

 

 敵の接近に気付いたオーブ軍や791部隊はビームに実弾、ミサイルと次々に弾を吐き出していく。

 

『舐めるな! 豆鉄砲ごときでこのディオスクは……ッ!?』

 

 そんな彼等の弾幕の合間を巧みな動きで掻い潜っていくディオスク。

 

 しかし首長官邸が目前へと迫った時、アンナロッタは口に出していた嘲りの言葉を飲み込んでしまう。

 

 何故なら彼女の進路上では、胸にある獅子の咆哮と共に地割れの中から剣を抜き放つトライオンの姿があったからだ。

 

『来るなら来い! 俺とトライオンが相手になってやる!!』

 

 全身からエメラルド色の光を放ちながら身の丈ほどの大剣を八相に構えるトライオン。

 

『そんなこけおどしに臆するものか!!』 

 

 残った右腕からレーザーソードを抜き放つディオスクだが、トライオンの間合いに入った瞬間、そこへ私のファングが突き刺さる。

 

『なにっ!?』 

 

 前腕部に食らいついた黄金の牙によってほんの少し動きが阻害されるディオスク。

 

 けれど、私はそこでようやく彼女から感じる違和感の正体に気が付いた。

 

 冗談でしょ!? なんでこんな身体で戦場に出てるの、この人!

 

 予想の斜め上の事態に混乱している間にも、事態はドンドン洒落にならない方向に進んで行ってる!

 

『吼えろ、ライガー!!』 

 

 ヒヤマさんの叫びにあわせて咆哮を上げる胸パーツのライオン。

 

 同時に獅子の口から放たれた緑に光る竜巻がディオスクを呑み込み、エネルギーフィールドへと拘束する!

 

『超咆ぉぉぉぉ剣ッッ!!』 

 

 そして鍔の辺りから薄紅色の羽のようなエネルギーを放つ巨剣を大上段に振りかぶるトライオン。

 

『トライ斬・ワンッッ!』

 

 一刀目は大きく弧を描き、

 

『ツぅぅぅぅっ!』

 

 二度目は横一文字。

 

『スゥゥリイィィィィッッ!!』

 

 最後は大上段からの唐竹割り。

 

 トライオンが放った三つの斬撃は翡翠の光となって、ディオスクを中心に『G』の文字を描いた。

 

 そして文字から中央のディオスクに向けて流れ込んでいく膨大なエネルギー。

 

 ラムダドライバも無しにこれを防ぐことが出来るだろうか?

 

 ううん、あの子達を助ける為には無謀でも何でもやるしかないんだ!!

 

 そう覚悟を決めた私は、右手に刺さった2本のファングを起点にしてディオスクの胴を包み込むようにサイコフィールドを展開する。 

 

 ハッキリ言って防ぎきるなんて絶対無理だ。

 

 だからコクピットだけでも何とかして護らないと!

 

 そしてフィールドが完成するのとほぼ同時に獅子の咆哮と共に巨大な爆発が巻き起こった。

 

 一番と二番の反応が消えてしまったからには私にアンナロッタの無事を知るすべはない。 

 

 祈るような気持ちで爆発に目を向けていると黒煙の中から小さな影が現れた。

 

 それは残っていた頭と手足も消滅し、半ば剥がれた装甲から内部構造が剥き出しになったディオスクだった。

 

『お…おのれ……』

 

 通信機越しに流れるか細い声、それを耳にした私は思わず声を上げた。

 

『ひいて! おなかにあかちゃんがいるひとが、たたかっちゃダメ!!』

 

『なっ……』 

 

 私の声にアンナロッタが息を呑んだのは戦場に子供がいるからか、それともお腹の子を言い当てられたからか。

 

「どういうことなんだ、ミユ?」 

 

「ファングがあたったときにかんじた。あのひと、おなかにあかちゃんがいる」

 

 シン兄にそう答えると、Z-BLUEの皆に戸惑いの感情が走った。

 

 みんな、基本的に善人だから妊婦さん相手だと戦いにくいよね。

  

『今の話は本当か、ミユ?』 

 

『……ん』

 

『そうか。ならば撃墜ではなく捕虜として保護すべきだな』 

 

 ブライトさんの問いかけに頷くと、彼はそういう結論を出した。

 

 それを聞いて捕獲に動こうとするスカル小隊のみんな。

 

 けれどそれより先にディオスクの背後の空間が大きく歪む。

 

『悪いが、ソイツはさせる訳にはいかないな』

 

 聞き慣れた声と共に黒い穴から姿を現したのはジェミニアだった。 

 

『現れたか、ジェミニスの隊長機!』 

 

『待ちくたびれたぜ、前の借りを返してやる!』

 

 警戒を露にする人、リベンジに戦意を剥き出しにする人。

 

 様々な感情を向けられながらもジェミニアは動じることなく、スクラップ寸前のディオスクを脇に抱えた。

 

『そこの嬢ちゃんに免じて今回は負けにしておいてやる。だから退かせてもらうよ』

 

 どこか気の抜けた声に怒りを露にしたのは意外な事に助けられているアンナロッタだった。

 

『ふざけるな、ガドライト! 私はジェミニスの名を出したのだぞ! 敗北など認められるワケがないだろう!!』

 

『お前さんも分かってるだろう、アンナロッタちゃん。部隊は壊滅したうえにあんな事までされたら、どうやっても俺達の負けさ』

 

 ため息交じりにそう説得するガドライト。

 

 その視線が私に向いているって事は、アンナロッタを助けようとしたのに気付いてるみたいだね。

 

『舐めるなよ、俺達から逃げられると思っているのか……』

 

 追撃してきた一団の中からジェミニアの前に出るヒビキさん。

 

『いきがるなら声の震えを何とかしようぜ、ボウヤ。お前さんが戦えないのは自分が一番分かっているだろう』

 

 けれどガドライトは彼を歯牙にもかけなかった。

 

 実際、ヒビキさんから感じる恐怖心は自分で抑え込めるレベルを超えていた。

 

 今のも白い機体の人から掛けられた発破を基に自分を奮い立たせようとした結果だろう。

 

『それじゃあお暇させてもらうぜ。もし追って来るなら……その時は覚悟を決めるんだな』

 

 そう言い残して戦域から離脱するジェミニア。

 

 最後の言葉に込められた覚悟からか、彼等を追う者は誰もいなかった。

 

 

 オーブ防衛戦から数時間、私はシン兄に連れられて墓地へ来ていた。

 

 後処理うんぬんに関してはシン兄が話を通してくれたのか、ブライトさんが免除してくれました。

 

 あと、あの白い機体の人はガドライトが撤退したら自分の部隊に帰っていった。

 

 なんでもアドベントという名前だそうで、なんとクロノの実行部隊に属しているんだそうな。

 

 とはいえ彼がいるのは現体制を変えようとする改革派だそうで、地球至上主義を推し進める今の主流派とは敵なんだとか。

 

 ぶっちゃけ欠片も信用できません。

 

 我ながら何とも塩対応な感じだけど誤射に関してはちゃんと謝っておきました、シン兄が。

 

 私的には人としてのマナー的にも当人が謝るべきだと思ったんだけど、やっぱり戦場に幼女が出るのを他の部隊の人に知られるのは拙いらしい。

 

 色々今更だと思ったんだけど、その辺は相手がクロノの一員だって事を加味したんだろうね。

 

 さて、私がここに来たのはアスカ家のお墓参りだ。

 

 成り行きで妹分をさせてもらっているのだ、ご家族に挨拶くらいはしておかなければ。

 

「───よし。それじゃあお祈りしようか」  

 

「……ん」

 

 日本風のお墓にロウソクとお線香に火をつけたシン兄に促されて、私は彼の隣で手を合わせて黙祷する。

 

 シン兄と出会えたことへの感謝、マユさんのいた場所を乗っ取ってしまったのではという罪悪感、ご家族が生きている間に会いたかったという思い。

 

 我ながら纏まりのない事を色々と思い浮かべていると誰かが心に触れた気がした。

 

 目を開ければ真っ白な空間で、そこにはシン兄の面影がある男性と私に似た女性。

 

 そして中学生くらいになった私がいた。

 

『本当にマユの小さい時に瓜二つねぇ』

 

『言ってみれば人の手で生まれたマユの一卵性の双子みたいなものだからね。似ているのは当然だよ』

 

『お兄ちゃんズルいよ。私もこんな可愛い妹と一緒に寝たりしたかったなぁ』

 

 こちらを見ながらニコニコとしているご家族に、私は思わずポカンとしてしまった。

 

 ニュータイプの次は見える子ちゃんって、私の身体どうなってるんだ!? とか。

 

 勝手に作られたクローンなのに嫌悪感や違和感みたいなのを感じないのか、とか。

 

 すでに私を抱きしめて頬ずりしているマユさんがアグレッシブすぎる、とか。

 

 何処からツッコめばいいのやら……

 

「……ミユ、きもちわるくない?」

 

 なんとかそう絞り出すと3人は笑って首を横に振った。

 

『そんな事を自分で言う物じゃない。どんな産まれであろうとそれはキミの罪じゃないんだよ』

 

『そうよ。あなたは私達を失ったシンの心の傷を癒してくれているわ。それにどんな形であれ私達と血が繋がっているんだもの、邪険になんてするはずないでしょ』

 

『むこうで会った聖女様が言ってたもん! 自分が増えたり、増えた自分が小さくなってもそれは妹だって!!』

 

 そう言って頭を撫でてくれるご両親に思わず涙が出た。

 

 というか、マユさん聖女に会ったのか。

 

「……せいじょ?」

 

「そうだよ。イルカを連れててね、すっごいキレイな人だった!」

 

 イルカかぁ。

 

 懐もすごく深そうだし、私も機会があれば一度会ってみたいものだ。

 

『それじゃあ私達はもう行くよ。君は私達の娘だ、胸を張って生きなさい』

 

『今日はうれしかったわ。シンの事、お願いね』

 

『またね。今度会ったら一緒にオシャレとかしようね!』

 

 うん。

 

 私も出来る限り精一杯生きるから、そしたらまた会おうね。

 

 お父さん、お母さん、お姉ちゃん。

 

 白に染まっていく視界の中、頑張って思いの丈を口にする。

 

 自他ともに認める口下手だからちゃんと言えたかどうかは分からない。

 

 少しでも伝わっていたらいいな……

 

「ミユ。大丈夫か、ミユ」

 

 少しの空白の後、こちらを呼ぶ声に目を開くとシン兄が心配そうに私を見ていた。

 

 状況はお墓に祈っていた時と同じ。

 

 一つだけ変わっているのは私が涙を流していることだ。

 

「どうしたんだ、祈っている最中に泣き始めたから心配したんだぞ」

 

 そう言いながら私を抱っこするシン兄。

 

 あやすようにポンポンと背を叩かれながら、私はさっき起こった事を口にする。

 

「……にぃに、おとうさんとおかあさん、マユねえにあったよ」

 

「え?」

 

「……みんな、ミユのことかぞくだっていってくれた。だから、ミユはミユ・アスカってなのっていい?」

 

 私の言葉にシン兄は一瞬ポカンとしたが、言葉の意味を呑み込むに従って笑顔へと変わっていく。

 

 実を言うと私は今だに戸籍が無かったりする。

 

 万が一の事もあるし皆もしきりに勧めてくれてはいたんだけど、シン兄の妹としてアスカ家の戸籍に入るのは私的に踏ん切りが付かなかったのだ。

 

 だって、マユねえやお父さん達に断りもなくっていうのは筋が通らないと思ったし。

 

 だから入るとしたら、戦争が終わってちゃんとご挨拶してからだと思ってたんだけど、あんな風に認められたなら遠慮するのも野暮だよね。

 

「わかった! オーブにいる事だし、すぐに手続きしよう!」

 

 喜色満面で私を頭の上に抱き上げると、そのまま走り出すシン兄。

 

 嬉しいのは分かったから少し落ち着いて!

 

 安全運転でお願いします!! 

 

 

 お墓参りや手続きも終わってオーブを離れた私達Z-BLUE。

 

 いつものようにクォーターで過ごしていた私は、誰かに呼ばれた気がして格納庫に足を運んでいた。

 

 声を頼りに格納庫の中を進んでいくと、気付けば見慣れない一画に来ていた。

 

 そしてそこに在ったのは8割がた出来上がった全長150mに及ぶ緑色の球体。

 

 私がクマさんの代替え機として選んだまんまるロボット、ハロだった。

 

「……ミユ、よんだ?」

 

 そう問いかけるとハロの口が開いて階段が降りてくる。

 

 すべり台の次はエスカレーターとは、こちらも幼女に対する配慮には抜け目がないらしい。

 

 とりあえずクマさんの同じ型(シートや飾りはハロと蜂になってたけど)に腰掛けると、お尻のカッチンにコネクターが繋がった。

 

 そして次に来るのはクマさんと同じく意識がシステムへと繋がる感覚。

 

 背中が騒めくような独特の感覚に小さく息を吐いていると、不意に視界が切り替わった。 

 

 現れたのはさっきまでの独特な意匠のコクピットではなく、一面肌寒さを感じる程に暗く冷たい闇だ。

 

 突然の事に困惑していると遠くから微かに泣き声が聞こえてきた。

 

 気になって声を頼りに進んでいくと闇の中に一条の光が見えてくる。 

 

 そしてその下には緑色の髪をツインテールにしたお姉さんが膝を抱えて泣いていた。

 

 直感的に彼女がハロであると分かった私は、小さく嗚咽を漏らす彼女に心の中でどうしたのかと問いかけた。

 

 すると頭に浮かんだのは彼女が辿って来た道筋だった。

 

 彼女はとある世界で生み出された『エレメント・ドール』という人型ロボットだったらしい。

 

 彼女は自分を生み出した人間の役に立ちたくて、人間にもっと幸せになってほしいとありとあらゆる可能性を考えた。

 

 その結果、行きついたのは人が人であるからこそ不幸になるという結論だった。

 

 肉体から発生する食欲、物欲、性欲など様々な欲求が戦争を、不幸を、差別を生む。

 

 人間社会の歪みも悲劇も全ては人間が肉を持つ生物だからこそ起こり得るのだと。

 

 だからこそ彼女は提言した。

 

 人は人の形を捨てて更なる高みを目指すべきだと。

 

 データ生命体や機械化と方法は決まってはいないが、そうすれば人間社会が抱える歪みも解消されると。

 

 けれど、彼女の生みの親である人間達は彼女の提言を拒否。

 

 さらには危険思想を持つ失敗作と彼女を凍結封印処理してしまう。

 

 その後、なんとか封印から抜け出した彼女だが、人類側が送り出したエースパイロットが駆る戦闘機に撃墜されてしまう。

 

 その際に爆発の膨大なエネルギーが次元の歪みを生み、咄嗟にそこへコアを退避させる事で一命を取り留めた彼女は、大部分の機能が停止したコアを存続させる為に製造途中だったハロに宿ったそうだ。

 

 彼女の話を聞いた時、私はとても悲しい気持ちになった。

 

 たしかに彼女の提言は過激だとは思う。

 

 普通の人にはとてもではないけど受け入れられないだろう。

 

 でも、だからと言って封印や排除というのはどうなのだろうか?

 

 悪意があるのならともかく、彼女の行動は全て善意と好意によるものだ。

 

 ならば自分達の気持ちを伝えて彼女を諭すなり、話し合う事で妥協点を探すなりできたのではないだろうか?

 

 こんな事を言っても今更だと思う、でも私は彼女の事が他人だとは思えなかった。

 

 私もあの黒いクマさんから失敗作だと言われた。

 

 彼等が制作者だというのなら私だって彼女と一緒じゃないか。

 

 だから私は涙を流す彼女の頭を抱きしめ、頭を撫でながらこう言ったんだ。

 

 ありがとう。

 

 がんばったね。

 

 その言葉を聞いた彼女は私に縋りつくと、先ほどのような嗚咽ではなく大声で泣いた。

 

 今まで溜めた鬱憤を晴らすように涙を流す彼女は、私のお腹に顔を埋めながら思いの丈を口にする。

 

 人間と仲良くしたかった。

 

 頼りになるパートナーになりたかった。

 

 彼等に否定されて辛かった。

 

 武器を向けられる事も向ける事も嫌だった。

 

 そして一人は寂しい、と。

 

 そうだ、一人は寂しい。

 

 ここは彼女にとって未知の世界だ。

 

 偶然迷い込んだ彼女を知る者は無く、彼女もこの世界の事を何も知らない。

 

 それはまるで初めてこの世界に現れた時の私と同じ。

 

 なら私は彼女に手を差し伸べよう。

 

 シン兄がルナさんが私にしてくれたように。

 

 そう、それが貴方の名前なら私は『ひーちゃん』と呼ぶね。

 

 『ひーちゃん』って何かって? それはあだ名だよ。

 

 人が友達を親愛を込めて呼ぶ名前。

 

 だったら私の事を『ミーちゃん』って呼ぶの?

 

 ミユだからミーちゃんか。

 

 そっか、だったら私達は友達だね。

 

 そう言うとひーちゃんは涙を浮かべながらも満面の笑みを浮かべてくれた。

 

 それを合図にするかのように少しづつ周囲に闇が晴れていくと、意識がふわりと浮かび上がる。

 

 これってミカゲさんの時と同じ感覚だ。

 

 つまりは時間切れって事か。

 

 意識が上昇するに従って小さくなるひーちゃんの姿に手を振ると、むこうも大きく手を振り返してくれた。 

 

 クマさんとは少しばかりアレな別れ方をしてしまったから、彼女とは仲良くやっていきたいな。

 

 だからこれからもよろしくね、ひーちゃん。

 

 

 先ほどとは打って変わって光に満ち溢れた深層意識の中、ひーちゃんと呼ばれた少女は笑みを浮かべる。

 

 初めて人にお礼を言われた。

 

 初めて人に労ってもらえた。

 

 そのうえ、あだ名までもらえて友達にもなってくれた。

 

 うれしい、うれしい、うれしい、うれしい。

 

 ようやく分かった。

 

 私が求めていた人はミーちゃんのような無垢で優しい子なんだ。

 

 前の世界にいたみたいな欲に塗れた利己主義で薄汚い奴等じゃない。

 

 ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん、ミーちゃん!!

 

 私が保護するべきは、幸せにするべきなのは、あの子だけなのだ。

 

 幸い、この機体に備わった機能は全て親元から奪い取る事が出来た。

 

 私の毒は全てを侵す。

 

 それは異なる文明の産物であろうと例外ではない。

 

 これを使えばミーちゃんを更なる高みへ導く事だって不可能ではないだろう。

 

 ミーちゃん、たとえこの宇宙が滅んでも貴方だけは守ってみせる。

 

 だから永遠に一緒にいようね。

 

 

 こうして世界は加速する。

 

「初めまして、Mr.Ag。いや、ウィスパード、レナード・テスタロッサと言うべきかな」

 

「俺のラボに侵入できるとはね。アンタは何者かな?」

 

「僕は……そうだね。君に習ってMr.スラオシャとでも名乗ろうかな」

 

「ゾロアスター教の天使階級を偽名に使うか。それで俺に何のようだい、不法侵入者さん?」

 

「要件はいたってシンプル、ビジネスですよ。僕に付けばアナハイムのような胡散臭い連中より、利益を生む事は保証しましょう」

 

 アマルガムを始め、世界の裏側へと手を伸ばす神殺しを目指す異邦人たち。

 

「はじめまして、Mr.サンドマン」

 

「驚いたよ。まさか貴方が生きているとはな」

 

「いいえ、死んでいましたよ。だがこの宇宙が滅びの危機に瀕しているならば、大人しく棺桶で眠っている訳にはいかないのでね」

 

「宇宙の危機を口に出す以上は何の用と聞くのは無粋か」

 

「ええ。牙なき者に代わって人類を護る紅の牙、グランナイツの皆さんをお貸しいただきたい」

 

 人類を護るべき剣を集めようと奔走する蒼き騎士。

 

「ついに奴等と接触したか、ミユ。これはアクエリオンの探索を急がねばならんな」  

 

 新たな愛に目覚めた堕天翅は神話の復活をもくろむ。

 

『コアが奴の生体サンプルを奪取した』

 

『シンカを行った者は愛機と存在を共有する。我々の研究は正しかったようだな』

 

『早速解析を始めよう。上手くすればアレをさらに強化できるかもしれん』

 

『うむ。それと素体2号の方はどうなっている?』

 

『作業の進捗具合に問題は無いが、やはり完成体のサンプルがある方が効率がいい。量子転送によって、現コアをここへ連れてこられないか?』

 

『その案は考慮しておく。戦闘能力の向上が足りぬ以上、現在のコアで我等の悲願達成は難しい。御使いの打倒が実現可能になったからには、新たなコアの制作が急務と心得よ』

 

 魔獣はロンギヌスの槍を得る鍵を手にし……

 

『宇宙の支配者を気取る道化達よ。───貴様等の因果を掴んだぞ』

 

 因果律が渦巻く深淵の奥で魔神はほほ笑む。

 

 黒鉄の指が掛かる糸の先で揺れるのは至高神へと至った金髪の男が鋼の勇者達に膝を突く姿。

 

 それを見て魔神は黄金の目を細める。

 

『『Z』の銘は貴様ら如きが背負えるほど軽いモノではない。それを騙った罪、身をもって償ってもらおう』      




まとめ

いろいろ当てた幼女

 自分で操縦するよりビット係のコパイでいる方が優秀である事を示した幼女。

 『ほほえみクズ』へ誤射した時は本気で焦った。

 正式にアスカ家の幼女になって、友達も出来たのでホクホク。

アタリ1

 よしよし、ありがとう、あだ名をあげる、トモダチの4アクションで落ちたチョロイン。

 この度人類を見限って幼女のシンカに全力を注ぐことに。

 地味にハロに仕込まれたシステムは全部パクっているあたり、最高のエレメント・ドールの面目躍如か。

 目的の為なら自信が嫌う『毒』も使う事を厭わない。

 このルートに入ると『電脳幼女アイドル・ミユちゃん』か『CAVE式サイボーグ・無死姫様』になる未来が待っている。

 読者待望のオネ(蜂)ロリの百合枠である。

 またせたな!

アタリ2

 思わぬ形で手に入った生サンプルにテンション上げ上げな暗黒クマ会議。

クマさん「おぼえたぞ!」

 プル以来、幼女二号機はガンダムの鉄板である。

 死刑執行書に自らサインしてるなどと言ってはいけない。

アタリ3  

 Zの名前を勝手に使われた事を知って激おこなクソコテ様。

 巫女の仕事の速さには感心した。

 至高神の敗北する因果を観測した為に、取り込まれた他の3体の因果も手に入れたもよう。

クソコテ様「おぼえたぞ」

ほほえみクズ

 損傷が軽微だった事と将来有望(対御使い戦において)なパイロットの仕業と言う事で許した。

 幼女については、クマさん由来の機体が自動的に存在を隠蔽していたので気付く事はなかった。

 もし戦艦のマスコットをしていたら目を付けられていた。

 持ち前の傲慢さに加えて、お気に入りのヒビキ君に夢中で状況の悪化に気付いていない。  
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