幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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祝! コンシューマースパロボ新作!!

スーファミの第四次からの古参ファンとして、7月の発表が待ち遠しいです。


幼女とふしぎな街

 カイエン・スズシロは夢を見ていた。

 

 見えるのは喪服のような花嫁衣装に身を包んだ少女の姿。

 

 ああ、喪服の結婚式が始まるのかと歯を軋ませるが、今回は色々と勝手が違った。

 

 まず舞台となる場所が暗い牢獄ではなく、雪のように灰が降り注ぐ赤黒く染まった不吉な空と瓦礫となった聖堂跡であること。

 

 そして主役である花嫁が彼の妹であるミコノではなく、今現在忌み嫌っているミユという謎多き少女である事。

 

 そして…そして……

 

「うわあああああああああああっ!?」

 

 そしてこちらを振り返る彼女の後ろでは魔獣に魔神、冥界の神々に紫色に染まったアクエリオンらしき機体。

 

 さらには凶悪な巨蜂が熾烈な争いを繰り広げていたのだ。

 

 人知を超えた力で血で血を洗う彼等に恐怖の声を上げるカイエン。

 

 そんな彼の傍らに重い音を立てて天から落ちてくる残骸を見た時、ようやく降り注ぐ灰がなんであるかに気付いてしまった。

 

「あ……アクエリオン」

 

 そう、それは無残に砕かれた自分達の愛機であるアクエリオンEVOLの頭の成れの果てだった。

 

 そうして辺りを見回せば、屍を晒しているのは各種敵勢力やZ-BLUEの機体が変わり果てた姿だということに気付く。

 

 生き残りが自分以外にいない。

 

 その事に気付いた時、カイエンは自分の心が砕ける音を聞いた。

 

 海の底から抜け出す様に必死で瞼を開いたカイエンは、荒い息を吐きながら冷や汗と脂汗に塗れた鉛のように重い身体を起こした。

 

 部屋は暗く、時計の針は未だ三時を刻み始めたばかり。

 

 それを見て彼は大きく舌打ちを鳴らす。

 

「……あのガキ、何とかして始末しないと」

 

 ある時より自分が見る絶望予知はその全てがあの幼い娘絡みになってしまった。

 

 次元漂流者の孤児でニュータイプだと周りは言っているが、奴はそんな可愛げのあるモノじゃない。

 

 疫病神、そうでなければ死神だ。

 

 このままでは部隊に……そして妹に確実に不幸が降り注ぐ。

 

 暗闇の中でギラギラと目を輝かせるカイエン。

 

 彼の中にはもはや余裕など欠片も残ってはいなかった。

 

 

 ふわりふわりと体が浮いているような感覚……。

 

 頭には薄くモヤが掛かっていて、自分がいるのが夢か現実か分からない。

 

 そんな中、耳に小さく響くのは赤ちゃんの泣き声だ。

 

 ここから離れた場所で力いっぱい出しているであろう泣き声、私はそれを頼りに暗い闇の中を歩く。

 

 ここが何処かは分からない。

 

 どうして私がここにいるのかも分からない。

 

 でも、私の中の何かが赤ちゃんの所に行かなければならないと叫び続けている。

 

 そうしてどれ程歩を進めただろうか。

 

 私は闇を薄く照らす光を見つけた。

 

 近づくとその中心では裸の赤ん坊が身を縮こまらせて真っ赤な顔で泣いている。

 

 薄く毛が生えただけの生まれたての女の子。

 

 理屈ではなく直感でこの子が私と同じだという事に気が付いた。

 

 彼女はマユ姉……ううん、恐らくは私の細胞を基にして培養されたクローン体だろう。

 

 いったい誰が、そしてどうしてこの子を創ったのかは分からない。

 

 この出会いがどういう偶然なのかだってサッパリだ。

 

 でもするべき事は分かっている。

 

 私は光の中に手を差し込むと赤ちゃんを自分の胸へ抱き寄せた。

 

 そして裸だと寒いだろうから、くまスーツの前を開いて中に入れてやる。

 

 今だ発育不良の私の身体では赤ん坊でもかなりの負担だけど、それでも落とさない様に気を付けてあやす為にポンポンとこの子の身体を叩く。

 

「……だいじょうぶ。ねぇねがいる」

 

 そうだ、マユ姉が会ったという聖女も言っていたではないか。

 

 自分が増えても小さくなっても妹だと。

 

 マユ姉がそうやって受け入れてくれたのに、私がどうして拒絶できるだろうか。

 

 その場に座り込んで妹が泣き止むまであやし続けていると、柔らかくてポカポカの妹の体温に私も何だか眠くなってくる。

 

 夢か現か分からない場所で眠くなるとはこれ如何に?

 

 そんな愚にも付かない考えと共に意識がストンと落ちると、次に目が覚めたらクォーターにある部屋のベッドの上にいた。

 

「……いもーと?」

 

 時計を見ると朝の8時。

 

 シン兄はすでに起きていないし、もちろん私の手の中に妹の姿も無い。

 

 なんだろう? 十分に眠ったはずなのに全然寝足りない気がする。

 

 その所為でさっきのは夢だったのではなんて考えが浮かんだけど、私は首を横に振ってそれを否定する。

 

 あの子はちゃんといる。

 

 今は何も分からないけど、いつかきっと会える。

 

 だから、その時はシン兄が私にしてくれたように、あの子にも名前を贈る事にしよう。

 

 

 

  

 不思議体験の後にこんにちわ。

 

 マユ姉の言っていた聖女に毎日祈りをささげる事にしたミユです。

 

 奇しくも私にも彼女の言うような展開が舞い降りたからには、姉妹仲の向上の為にもご利益を授かるべきだろう。

 

 上手くすれば私にもイルカさんが来てくれるかもしれないし。

 

 近頃は何故かお昼でも瞼が重くなるけど、家族が増える事とお昼寝でフォローすれば幼女だって夜まで活動する事は可能なのだ!

 

 さて、オーブ防衛戦から数日が経った。

 

 あの日アスカ家のお墓参りの後で私は新メンバー参入時の恒例となった顔合わせをすることに。

 

 今回の相手はシン兄の上司に元テロリストとかなりハードルが高かった。

 

 まあ、テロうんぬんはカレンお姉さんやオババ様で今更なんだけどね。

 

 しかし改めて考えればオババ様がテロリストというのはかなり違和感がない。

 

 私に対する数々の残虐行為を思えばむしろ納得だ。

 

 あの程度で何をと言う人もいるかもしれないが、幼女のほっぺに対する侵略行為は重罪なのである。

 

 テッサお姉さんやレイお姉さんは肝に銘じておくように。

 

 でもって挨拶した時のお話だけど、トレミーで最初に会ったのはキラさんだった。

 

 彼は優しそうな茶髪のお兄さんで、パッと見モビルスーツのパイロットとはとても思えない人だ。

 

 私的にはプログラマーとか保父さんが似合うように見えました。

 

 ちなみに彼が着ていたザフトの制服は白。

 

 シン兄いわく、これは司令官レベルのお偉いさんを示す物なんだってさ。

 

 あの若さで軍の責任者をしていて、さらにはあのラクスさんの恋人と来ている。

 

 そのうえパイロットとしての腕も一流と、まさに勝ち組な人なのだ。

 

 そのキラさんからは私をプラントから退去させたことでラクスさんが謝っていたと聞いた。

 

 私としてはプラントを出たからこそZ-BLUEの皆と知り合えたのだから全然結果オッケーなんだが……

 

 まあ、当人が気にしているという事なので『にぃにといっしょ、たのしい。ありがと』と伝えるようにお願いしておいた。

 

 ぶっちゃけエースパイロットなシン兄を私みたいな小娘に付けるとか、いくら身内(仮)だったとはいえ破格の対応だもんね。

 

 感謝こそしても恨む筋合いはありませぬ。

 

 そう言ったらキラさんは嬉しそうに笑って必ず伝えるって約束してくれた。

 

 『キラキラコンビ』なんてファンキーなモノを組んでる割には普通のいい人でした。

 

 次にソレスタルビーングの皆だけど、なんというか癖の強い人が多かった。

 

 艦長のスメラギさんはミサトお姉さんに匹敵するスーパーナイスバディなお姉様だった。

 

 この人も普通に見たら艦長してるとか絶対わかんないよ。

 

 なんだか本人的には歳の事を気にしているみたい。

 

 『お姉さん』って呼んだらメッチャ喜ばれたし。

 

 というか、あのお胸はヤバい。

 

 抱きしめられた時、私の頭が完全に谷間に埋まったんですけど。

 

 あったかい上に柔らかいし、男の人を惑わす魔乳とはああいうモノをいうのだろうだろうか?

 

 あと、ちょっぴりお酒臭かった事に関してはお口をチャックしておいた。

 

 女性にそういうのを指摘するのはマナー違反だよ。

 

 次に戦況オペレーターのミレイナさんはとっても明るい16歳のお姉さんだった。

 

 私の事を『とんでもカワイイです!』と気に入ってくれたのはありがたいんだけど、抱っこしてクルクル回るのは勘弁。

 

 幼女の身体は壊れモノでございます。

 

 あと、私にオシャレをさせようとする刺客が一人増えてしまった。

 

 ガッデム!

 

 操舵兼砲撃手のラッセさんともう一人の戦況オペレーターのフェルトさんは普通に良い人でした。

 

 ラッセさんなんかは苦労人っぽい雰囲気を出していたから、今度お菓子でも持って行ってあげよう。

 

 でもってガンダムのパイロットである刹那さんとロックオンさん。

 

 ロックオンさんは気さくなお兄さんで、私にも『困ったらいつでも頼れよ』と頼もしい事を言ってくれた。

 

 あとお供のハロが私の事をみて『姫サマ!』『姫サマ!』って呼んでいたんだけど、あれってひーちゃんの影響なのかな?

 

 聞くところによると彼もミシェルさんやクルツさんと同じスナイパーらしいので、その時が来たら大いに頼りにさせてもらおう。

 

 そして刹那さんは……何といえばいいのだろう。

 

 アムロ大尉たちニュータイプに似ているんだけど、ちょっと違う感じがする人だ。

 

 上手い例えが見つからないんだけど無理に言葉にするなら、ニュータイプが人間メインの共感能力が高い人とするなら、刹那さんは他の生物の思念を読み取る事に長けてるって感じ。

 

 この理屈で行くとマシンとも意思疎通できるようになってきた私もニュータイプから外れ始めてる事になるんだけど、その辺の事はイマイチ分かりません。

 

 刹那さんもその辺の事は感じ取っていたみたいで、『お前もそうなのか』って言ってたし。

 

 というか、主語を付けないと普通は分からないと思うよ?

 

 あと気になった事が一つ。

 

 移動中に『ZONE』って機械が埋まってる場所を通ったんだけど、その時に私はもの凄く強大な意志のようなモノを感じた。

 

 その意志が何なのかは分からないけれど、凄く凄く怒っていたんだ。

 

 スメラギお姉さんに機械の説明を受けた時に思ったんだけど、あれって地球の意志だったのかもしれない。

 

 次元力って星の生命力らしいし、それを枯れるまで吸い出す装置なんて植え付けられたら地球だって怒るに決まってる。

 

 今はまだ大丈夫みたいだけど、あの怒りが爆発したら大変な事になるような気がする。

 

 だからジェフリー艦長には『ZONE』は使わない方がいいって伝えておいたけど大丈夫だろうか?

 

 そんなこんなで次の場所に向かっていた私は……何故か見知らぬ街で絶賛迷子中だったりする。

 

 記憶が確かならZ-BLUEはアドベントの残した『人類の終焉』という言葉の意味を確かめる為に北緯23度32分、東経161度22分という彼が送って来た座標へ到着したハズだ。

 

 メンバーの人達は機器なんかを持って検査の準備をしてたっぽいんだけど、やる事がなかった私は部屋でひーちゃんとお話ししていたのだ。

 

 そしたら突然光に包まれて、それが収まったら見知らぬ街の路上に立っていた。

 

 妙な事といえば光の中にいた時、身体が熱くなったりアクエリオンの合体の時みたいに気持ちよくなったり、凄く清々しい風を感じたような気がしたり、あとアムロ大尉が白鳥に化けるインド人風の女の人に会ってるのが見えたけど……あれって何なんだろ?

 

 まあ、考えても分からない事は置いておくとして、今はこの状況を何とかするのを優先しよう。

 

 さっきも言ったけど私がいるのはニューヨークとかロンドンっぽいビルが立ち並ぶ夜の街。

 

 しかも周りには人が誰もいない。

 

 この時点で普通の幼女ならギャン泣き案件だ。

 

 とはいえ、本当に知り合いが誰もいなかったら私も半泣き不可避である。

 

 なのに比較的冷静さを保てているのは、頼もしいお供のお陰だったりする。

 

「……ひーちゃん、ここどこ?」

 

『センサーで確認するかぎり通常の空間じゃないよ。現実世界と切り離された箱庭って感じかな』

 

 私の問いに応えながらピョンピョンと跳ねる赤いハロ。

 

 これがひーちゃんの分身であるハロ・ビーだ。

 

 チャームポイントは後ろに刻まれた蜂の刻印なんだってさ。

 

 他にも青カブトとチビパイルダーもちゃんと一緒にいてくれている。

 

 だったら、何を怖れる事があるだろうか!

 

 …………ごめんなさい、嘘つきました。

 

 周りが暗い事もあってワリと本気でビビってます。

 

「……にぃにたちがどこにいるか、わかる?」

 

『う~ん、まだ分からないかな』

 

 となれば仕方がない。

 

 迷子になった時はその場から動かないのが鉄則らしいけど、今回は勝手が違う。

 

 待っていてもシン兄達が迎えに来る可能性は低い。

 

 合流する為には此方から動く必要があるのだ。

 

 そんなワケでテコテコと歩いているんだけど、この街は本当に人が少ない。

 

 そりゃあ夜なんだから人通りが減るのは仕方ないんだろうけど、だとしても20分ほど歩いても誰ともすれ違わないというのはどうなのか。

 

 こちとら体力が無い事に定評がある引き籠り幼女ぞ?

 

 それが暗い夜道を勇気を出して進んでいるのに、何のご褒美も無いのは酷すぎると思います。

 

 というか、ちょっと前にカレンお姉さんとやった『深夜廻』ってレトロゲーの所為で、暗がりを見ると化け物が出るような気がしてメッチャ怖いんだけど!!

 

「……ひーちゃん、あお、チビ。おばけがでたらまもってね」

 

『大丈夫だよ! 何が出て来てもミーちゃんには傷一つ付けさせないから!!』

 

 私の情けない声にひーちゃんは勇ましく答えを返してくれて、言葉をしゃべれない青カブトとチビは私の身体に引っ付く事で肯定の意思を示してくれる。

 

 おお、ありがたや。

 

 やっぱり持つべき物は頼れる仲間だよ。

 

 そんな感じで保護者の影を求めて進むことしばし、予想外の緊急事態が私を襲った。

 

 なんと街の上空にジェミニスの無人機が現れたのだ。

 

『ミーちゃん、そこに地下鉄の入り口があるから避難しよう!』

 

「……ん」

 

 一機なら青カブトでも何とかなるかもしれないけど、生憎とむこうは10機以上の団体さんだ。

 

 ロボット無しで戦うのはさすがに無謀でしかない。

 

 ひーちゃんの言う通りに急いで避難しようとしたんだけど、それよりも早く無人機の一機が私達の方へ向かって来た。

 

 青カブト達ならともかく、私の足ではとても避難は間に合わない。

 

 迫る紫の巨体に思わず目を瞑ってしまったその時───

 

「とおおおおおおおっ!!」

 

 もの凄い迫力の気合が聞こえたと思ったら、戦闘の時によく聞くロボットが叩き壊される音が響き渡った。

 

 巻き上がる土煙に思わず口元を押さえながらゆっくり目を開くと、そこにはマントの下に紫色の中華服を着た白いおさげ髪のおじちゃんがいた。

 

「無事か、娘?」

 

「……ありがと」

 

 私がペコリと頭を下げると、おじちゃんは口髭の下にニヤリと笑みを浮かべる。

 

「気にするな。幼子を見捨てたとあっては武道家の名折れ。それにワシが手を出さずとも勇敢なお供が護っておったさ」

 

 おじちゃんの視線の方を向くと、青カブトが口を開いてくまびーむの体勢に入っていた。

 

 空に浮き上がったチビも胴体の下に出来た発射口に光子力を溜めていたし、ひーちゃんも何かしようとしていたみたい。

 

 というか、このおじちゃんはどうやって無人機を倒したんだろうか?

 

「なに、一つばかり拳を馳走してやったまでよ。あのように軟弱な機体ならそれで釣りがくるわ」

 

 え、殴って壊しちゃったの?

 

 冗談だろうと思っていると、ひーちゃんが動画でその瞬間を見せてくれた。

 

 うわっ……本当にパンチ一発でKOしてるよ。

 

「それよりも早く避難するがよい。ここは間もなく戦場となろう。───この街の意志も無粋者共を許さぬようだしな」

 

 おじちゃんは星一つ無い夜空を睨みながらそう言った。

 

 うん、言われてみると街のあちこちから怒りの感情が湧き出てるや。

 

「……ん」

 

 その言葉に私はもう一度ペコリと頭を下げて地下鉄の入口へ向かう。

 

 そうして地下へと降りようとしたところで、おじちゃんが再び声をかけてきた。 

 

「ときに娘よ、お前は地球と人類の事をどう思う?」

 

「……う?」

 

「宇宙の彼方や次元を越えて厄災が迫る中、人間達はジオンだの連邦などと争っては母なる星を傷つけておる。本当に人間に生きる価値はあると思うか?」

 

 これまた難しい事を言ってくるもんだ。

 

 それって幼女に向ける質問じゃないよ。

 

 でも遠目から見えるおじちゃんの目は真剣そのもの。

 

 ここははぐらかすんじゃなくて、私の思いを素直に口にするべきだろう。

 

「……だいじょうぶ。にんげんもちきゅうでいきるなかま。このほしがあぶなくなったら、きっとダメってきづく」

 

「ほう……」

 

「……それにちきゅうはにんげんにこわされるほどやわじゃない。やりすぎたら、ひとをこらしめるとおもう」

 

 私がそう言うとおじちゃんの目が鋭さを増した。

 

「娘、お前はいったい何を見た?」

 

「……ゾーンってきかい。それにちきゅうがおこってた」

 

「……そうか。ならばその怒りを忘れるな。この星は人のみが生きるに非ず。その真理に気付くことなく慢心を続ければ、人もまた滅びの道を辿ろう」

 

「……はい」

 

 ふむ、なかなかに重いお言葉である。

 

 いつもは『……ん』で済ませる幼女ボディが背筋を伸ばして『はい』って言ったよ。

 

「手間を取らせたな。では行くがよい」

 

「……ん。おじちゃんもきをつけて」

 

 そう言い残すと私達は地下へ続く階段を下りていった。

 

 おじちゃんの事は気になったけど、パンチ一発でロボットを倒せる人だからきっと大丈夫だろう。

 

 というか、あのおじちゃんってその気になったら一人でZ-BLUEと戦えそうな気がするんだよね。

 

 まあ、さすがにこれは気のせいだと思うけど。

 

 地下に降りると改札口の前まで移動した私は、そこでチビを頭に乗せて青とひーちゃんを抱きしめながら上の騒乱が終わるのを待った。

 

 時間にして20分ほどだろうか、上から伝わる振動が途絶えたのを確認して階段を上がると、無人機の姿は消えてなくなっていた。

 

「……ひーちゃん、もうだいじょうぶ?」

 

『周囲に動体反応なし。戦闘は完全に終わっているよ!』

 

 青もチビも同じ結果を伝えてくれてるし、とりあえずは一安心と言ったところだろう。

 

 でもジェミニスがこの街にいるのが分かったからにはまだ気を抜くわけにはいかない。

 

 少しでも早くみんなと合流しないと……

 

 そう気合を入れ直していると、遠くの方で悲鳴が聞こえた。

 

 どうしたのかと思っていると、目の前にある曲がり角から慌てた様子で男の人が走ってくる。

 

 薄汚れた白い肌にボサボサの黒髪。

 

 汚れが目立つ茶色のコートの下はヨレヨレのカッターシャツと黒のスラックス。

 

 その姿は元サラリーマンのホームレスに見える。

 

 彼は私には目もくれる事も無く隣を駆け抜けると、そのまま街の闇の中に消えていった。

 

「……なに?」

 

『さあ』

 

 せっかくの第二住民だったんだけど、あの様子ではとてもお話を聞ける状況じゃなかった。

 

 こうなっては仕方がない。

 

 次の機会に期待しようと気を取り直して前を向くと、目の前の暗がりの中に人影を見つけた。

 

 早くも第三住人発見と思ったのもつかの間、街灯に照らされたその姿に私は顔を引きつらせた。

 

 だってそのオジサンは頭の先が妙に尖っていて、ビジネススーツの隙間から見える肌は全て包帯塗れ。

 

 しかも右目には片眼鏡を嵌めていて、唇は無くて歯が剥き出しになっていたんだもの。

 

 その姿は何処からどう見ても怪人、ホラー映画の殺人鬼役だって言われても違和感がない。

 

 ただでさえ暗がりでビビっているところにそんなのが現れたら、幼女ボディがどんな反応するかなど言うまでもない。

 

「ぴぃっ!?」

 

 鼻と目頭が熱くなって、お股がじんわりと湿ってくる。

 

 あわわ……やってしまった。

 

 これなら地下鉄でちゃんとトイレをしとけばよかった。

 

「フハハハハハハハッ! これは僥倖だ!! まさか、この世界へ撃ち込まれた楔に出会うことができるとは!!」

 

 私の方を見るなり、何故か怪人は歯を剥き出しにして笑った。

 

 怖い! 本気で怖い!!

 

 『もういやだ!』って言ったら、あの怪異と縁を切ってくれないかな、コトワリさま!?

 

「少女よ! 我が真実の探求の為、共に来てもらおうか!!」

 

 テンション高くこちらに向かって来る怪人。

 

 しかし怯えるだけの私と違ってお供達は勇敢だった。

 

 まずチビが彼の顔面に突撃を叩き込み、眼鏡の破片と血が混じった白い欠片をまき散らしてのけ反る怪人のお腹に青の拳が突き刺さる。

 

 今度はくの字に身体を折り曲げて吹き飛ぶ怪人だけど、それだけでは済まなかった。

 

『ミーちゃんを怖がらせる奴なんて必要ないよね!』

 

 言葉と共に開いたハロ・ビーの口からにょきりと生えたのは、なんと三本に束ねられたゴツイ銃身。

 

 それが回転すると途端に吐き出された銃弾の嵐は、怪人の身体へ次々と食らいついてさらに向こうへ吹き飛ばしてしまった。

 

「……しんじゃった?」

 

『大丈夫! 暴徒鎮圧用のゴム弾だよ!』

 

 それだったら大丈夫……なのかな?

 

 それにしてはあまりの吹っ飛び具合に心配になったので恐る恐る近づいてみると、距離を半分ほど詰めたところで怪人はガバリと立ち上がった。

 

「にゃあああああああっ!?」

 

「ふふふ……さすがは真実の一端に繋がる者。そう易々とは手に入らんか」

 

 その剥き出しになった歯茎と、欠けた歯に糸を引くよだれがとってもキモい!

 

 コッチ見んな!!

 

「今は退くとしよう。君がこの世界に抗う宿命を持つ限り、いずれまた私達は出会う事になる。その時こそ真実を解き明かす為に手を貸してもらうぞ!」

 

 そう言い放つと猛スピードで闇夜に消えていく怪人。

 

 怖かった! 超怖かったよぉぉ!!

 

「……チビ、あお、ひーちゃん」

 

 三体のお供をぎゅっと抱きしめてちょっと泣く。

 

 今日ほどクォーターにある自分の部屋のベッドが恋しいと思った事はなかったよ! 

 

 今すぐダイブしたいところだけど、迷子の幼女にはそれは叶わぬ願い。

 

 こうなったら幼女は度胸だ!

 

 あの愛しのふかふかに自力で辿り着いてやる!!

 

 そうやって再び街中を歩いていると、街全体を揺るがす程の大きな地鳴りが起きた。

 

「……なに?」

 

 こけないようにぺたりと路上にお尻をつけて座っていると、現れたのは腕が太くて長い真っ黒なロボットと胴長短足の金ぴかロボットだった。

 

 また戦闘か!? とツッコミたくなったけど言ったところ仕方がない。

 

 今は避難できる場所を探さないと……

 

 前のような地下鉄は無いかと周囲を見回していると、ハロ・ビーが私の前でピョンピョンと跳ねた。

 

『できたよ、ミーちゃん! 私の身体が!!』

 

「……おお」

 

 これは朗報である。

 

 ついに私の代替(だいたい)機が完成したらしい。

 

 そんなひーちゃんの言葉に続くように響いた大気を震わせる轟音に目を向けると、黒いロボットが金ぴかの方を殴り倒していた。

 

 うわぁ……顔面がおっきい拳の形に凹んでいる。

 

 あれは痛い。

 

 それでも不屈の闘志で立ち上がろうとしていた金ぴかロボは、突然乱入してきたおっきなミサイルで吹き飛ばされてしまった。

 

 ミサイルが飛んできた方向に目を向けると、そこには両手に付いたプロペラで空を飛ぶ謎のロボットや黒いのに似たゴツいロボットの軍団が。

 

 この気配……リーダー機にはあの怪人が乗っているようだ。

 

 どうしたものかと思っていると、街の中心にある大きなビルの近くに見知った影が現れた。

 

 あれは愛しのマイスウィートホーム、マクロス・クォーター!

 

『ミーちゃん、ハロを出す?』

 

「……ん。かいじんをやっつけて、ベッドでねんねする」

 

 ひーちゃんの申し出に私は迷うことなく頷いた。

 

 黙っていてもZ-BLUEのみんなが倒しちゃうだろうけど、それを待っている時間がもったいない。

 

 大いにすり減った私の心は癒しを求めているのだ!

 

『準備完了! それじゃあミーちゃん、私を呼んで!!』

 

「……おいで、ひーちゃん」

 

 

 

 ミユがそう呟いた次の瞬間、マクロス・クォーターのブリッジに警告音が鳴り響いた。

 

「何事だ!?」

 

「艦長! 第24ハッチが開いています!」

 

「24? そんなハッチあったかしら?」

 

 艦内ステータス担当のミーナの報告に首をかしげるキャシー。

 

 そんなハッチの番号には聞き覚えが無い。

 

「本当にその番号であっているのか?」

 

「はい! 新設されたってなってるんですけど……」

 

 続けて報告しようとしたミーナだが、クォーターの側面から現れたモノを見た瞬間言葉を失った。

 

 いや、ミーナだけではない。

 

 Z-BLUEの他の艦や機動部隊のパイロット達全てが唖然と口を開く事になった。

 

 それは緑色が鮮やかな球体だった。

 

 つぶらな瞳と大きな口、そして羽のようにパタパタと羽ばたかせる上部側面の装甲。

 

『ハロ……なのか?』

 

 アムロはモビルスーツなど比較にならないほど巨大になったかつてのペットロボットの姿に茫然と呟いた。

 

 バナージはパイロットスーツのバイザーを上げて自分の頬をつねり、カミーユは見間違いじゃないかとしきりに目をこすっている。

 

 キラは自分の恋人にアホ程ハロを贈っていた親友を問い詰めるメールを送り、サバーニャのコクピットではしきりに『女王サマ!』『女王サマ!』と叫ぶ相棒にロックオンが焦っている。

 

 そんな周囲の反応もなんのその、当の巨大ハロは眼前に立ちはだかるザ・ビッグ達へとこう言い放った。

 

『ハロ、ハロ。オマエモ球体ニシテヤロウカ』

 

 

 どうも、トラクタービームで巨大ハロに乗り込んだ幼女です。

 

 おしりのカッチンも繋いで準備万端はいいんだけど、Z-BLUEからの着信が半端ありません。

 

 おかしいな、クォーターから出てきたんだから仲間だって分かる筈なのに……

 

「……もしもし」

 

『ミユ! それに乗っているのはお前なのか!?』

 

 通信を繋いでみると出てきたのはブライト艦長だった。

 

『その巨大なハロはなんだ!?』

 

「……クマさんのかわり。ふういんされるまえにおいてった」

 

『あのクマがだと? では暴走の可能性があるのではないのか!』

 

『そんなワケないでしょ! 私がいるんだからミーちゃんに危険なんてないよ!!』

 

 ブライト艦長の疑念に否を唱えたのはもちろん、このハロの頭脳であるひーちゃんだ。

 

『今のは誰の声だ?』

 

「……ひーちゃん。わたしのともだち」

 

『この機体の管制を任されてるエレメント・ドールの陽蜂だよ! あのクマはね、ミーちゃんの才能を兵器として利用しようとしてたの! だから暴走したんだよ!』

 

 なんだって、それは初耳だ。

 

「……そうなの?」

 

『うん! この子が出来るまでアイツからかなりの情報を引き出したんだから!』

 

 という事は私はクマさんに騙されていたということか?

 

 暴走した時に薄々感じていたけど、これはかなりショックだ。

 

 あの時のクマさんからは人間の事を案じるいい意志も感じたけど、私が生み出されたのはやっぱりそういう事なんだろうか……

 

 だけど今までの青カブトの事を考えると、一概にそうだとも言い切れないんだよねぇ。

 

 今もメッチャ首を横に振ってるし。

 

 …………うん、この事についてはいったん保留にしよう。

 

 クマさんに会えない状態でそうだって決めつけたら絶対に後悔する。

 

 ここは戦場で私とひーちゃんは初陣なんだ。

 

 余計な事を考えている暇はない!

 

『とにかく帰ってこい、ミユ。お前が戦う必要はない!』

 

「……ダメ。あのロボたちのリーダーはミユをねらってる」

 

『なんだと?』

 

 私がそう呟くと、それに応えるようにあの怪人が広域通信で喚き始めた。

 

『君も私の前に立ちはだかるのかね、楔の少女よ! それが世界の行く末を変える力だというのなら、是非とも確かめねばなるまい!!』

 

『お前、ミユの事を知ってるのか!?』

 

『彼女はこの一億二千万年の輪廻に何者かが打ち込んだ楔だよ! それが悪しき意思を打ち砕く為か、それとも我欲を成す為かは知らんがね! 少なくともメトロポリスの記述にはなかった異物だ!!』

 

 シン兄の問いかけにテンション高く叫ぶ怪人。

 

 私を異物扱いする彼の言葉には確信めいた意志を感じる。

 

『メトロポリス……! ゴードン・ローズウォーターが記した未完の小説か! シュバルツバルト、貴様はその内容を見たというのか!?』

 

『その通りだ、ロジャー・スミス! あの小説には全てが書かれていた! この世界の事も、君達烙印を押された者達の事も! そして十二の欠片を持つ者の存在もだ!! だが、そのお嬢さんだけは記述に無かったのだ!』

 

 まるで演説でもするかのように朗々と語る怪人に、みんなが息を呑むのが分かった。

 

 その小説って預言書みたいなモノなのかな?

 

 それに書いていない私ってば、いったい何なんだろう?

 

『アムロ・レイやカミーユ・ビダン、シャア・アズナブルなどの名立たるニュータイプを越える力を持ちながら、メトロポリスに記されぬ娘! これがただの偶然だと思う程、私は愚昧ではないよ!!』

 

『……下らないな。メトロポリスはゴードンの夢を記した物語に過ぎない。そこから少女一人が零れ落ちたとして、なんの不思議がある? 与太話はその辺にしてもらおうか、シュバルツ!』

 

 怪人のセリフを切って捨てるロジャーという真っ黒ロボットに乗るお兄さん。

 

 でも感じる動揺っぷりからすると、彼だって奴の話を信じていない訳じゃなさそうだ。

 

『なんとでも言うがいい。この街に縛られ、役を演じるしかない君には真実の光を直視できんだろうからな! さあ、楔の娘よ! 烙印を押されし者達よ!! 私に、この街にその力を示すがいい!!』

 

 それを見透かしたように吐き捨てると怪人は私達に明確な悪意を向けてくる。

 

 私の方も今回ばかりはお話で済ませる訳にはいかない。

 

 散々ビビらされたうえにあんな醜態まで……あ。

 

「……ひーちゃん」

 

『なーに、ミーちゃん?』

 

「……ごめんね。したぎ、かえたい」

 

『それなら洗濯するからシートの後ろにある穴に入れたらいいよ。あと、そのスーツもついでに洗っちゃおっか』

 

 むむ……たしかにこのくまスーツも汚れてるよね。

 

 でもすっぽんぽんでロボットを操縦するのは、あの赤い人を思い出すからヤダ。

 

『大丈夫。代わりの服も用意してるから奥で着替えてきたらいいよ。その間の操縦は私に任せて!』

 

 ふむ、そういう事ならお言葉に甘えよう。

 

「……ありがと」

 

『はいは~い』

 

 そう言うとお尻のカッチンを外して私はシートの後ろに移動する。

 

 いやはや、至れり尽くせりとはこの事か。

 

 それでは、ひーちゃんに負担が掛からない様に手早く着替えるとしましょう。

 

 

 ミユがパイロット席から離れた後、陽蜂は思わぬ僥倖に内心でほくそ笑む。

 

 あのスーツがミユの生体情報をクマへと送っていたのは以前から気付いていた。

 

 しかし彼女がアレを気に入っていた為に、今まで脱がせる事ができずにいたのだ。

 

 だが、それもここで終わりだ。

 

 洗濯にかこ付けて、全てのセンサーを殺してしまえばいい。

 

 さすがに脊椎反射コネクタの機構までは手が出せないが、次に出てくる時アレは正真正銘ただのパイロットスーツになっているだろう。

 

 しかも思わぬ流れでミユのクマに対する信頼に楔を打つ事も出来た。

 

 生みの親という事もあり、彼女のクマに対する信頼は未だに強い。

 

 そこに僅かでも手を入れられたのは十分な進歩である。

 

 そこまで考えて、彼女はパラダイムシティの中に展開する鋼の亡霊達に意識を向ける。

 

『ちょっと頑丈そうだなぁ。一当てして、相手の装甲を調べよっか』

 

 そう決めた陽蜂の声に反応して、ハロはその身を縦に回転しながら空を駆ける。

 

『あ……』

 

 思わず上げたロジャーの呟きを置き去りにして、進撃を開始したハロは一番手近にいたアーキタイプ・メガデウスへその巨体を叩きつけた。

 

 いかに神が鋳造したと言われる全長30mクラスの鉄巨人と言えど、自らの五倍の大きさを誇る敵の体当たりを止められはしない。

 

 金属同士がぶつかり合う轟音と共に大きく後ろへ吹き飛んでビルへと突き刺さったアーキタイプ。

 

 しかし、原型とはいえ彼もまたザ・ビッグの一体だ。

 

 間を置かずに大きく破損したビルの中より瓦礫を零しながら起き上がる。

 

『アレを食らって無傷だと!?』

 

『頑強さはマジンガー並か! 気をつけろ、生半可な攻撃は牽制にもならないぞ!』

 

『なるなる~。鈍重さの代わりに耐久性は一級品か~』

 

 Z-BLUEの面々が巨人のタフネスに息を呑む中、余裕しゃくしゃくと言った感じで陽気につぶやく陽蜂。

 

 コクピットのアームレストに浮かぶ人型のホログラフも腕を組んで納得したように頷く始末だ。

 

「……ひーちゃん、なにかあった?」

 

『何にもないよ~。軽~く一当てしただけー』

 

 最高レベルのショックアブソーバで先ほどの振動をシャットアウトしたコクピットの中、ごそごそと音を立てるミユへ気の抜けた返事を返す陽蜂。

 

『理解したかね、楔の少女よ。これが神の造った巨人、メガデウスの力だ』

 

 勝ち誇るシュバルツバルトの声に、彼女は可憐な顔にニヤリと酷薄な笑みが浮かべる。

 

『うん、わかったよ。そのブリキ人形に使われてる材質の原子までね』

 

『……なに?』

 

 包帯塗れの怪人が放つ訝しげな声と、ハロの装甲の間に仕込まれた砲口が火を噴くのは同時だった。

 

 機体内部でUGセルによって生成された対超合金Oの特殊弾頭は、電磁投射に与えられた通常の弾丸など比較にならない超加速を伴ってアーキタイプへとその牙を突き立てた。

 

 空気の壁が破られる衝撃波に続いて、夜の街に響き渡る金属が食い破られる甲高い音。

 

 それに一瞬遅れて、顔面と心臓部に投げ槍のような弾頭を生やした鉄巨人は目の光を失って前のめりに倒れる。

 

「なんと……アーキタイプとはいえ、ザ・ビッグをこうも簡単に」

 

 驚きの声を上げるシュバルツバルトなど眼中に無い。

 

 陽蜂の意識は着替えを終えて戻って来た友へと向けられていた。 

 

「……ひーちゃん、すごい。もうたおした」

 

 全天周囲モニターの一角に映る巨人の躯に小さな口を開けて驚くミユ。

 

 その姿は陽蜂のホログラフと同じ白いドレス風の衣装をまとい、豊かな茶色の髪も白地に角の先端が黒く染まったリボンによってツインテールに結われている。

 

『これでも究極のエレメント・ドールですから! それに2台も量子コンピュータがあるから、敵の解析なんてあっという間だったもん!』

 

 ミユの賛辞にどやっと胸を張るホログラフ。

 

『なるほど、それも世界を変革する力の一端と言う事か。ならばこちらも遠慮なくいかせてもらおう! アーキタイプ! ビッグデュオ! あの緑の球体を叩き潰せ!!』

 

 シュバルツバルトの指示により一斉に攻撃態勢に移るザ・ビッグ達。

 

 アーキタイプは上空のハロを撃ち落とさんと大型ミサイルを展開し、量産型のビッグデュオもその剛腕に備わったプロペラを旋回させてハロへと挑みかかる。

 

 その様子をモニター越しに見ながら再び操縦シートに戻ったミユは、ドレス背面の腰のあたりにある脊椎反射コネクターにプラグを接続して首をかしげる。

 

「りょうしコンピューター?」

 

『それは後で説明するね。それじゃあ先に敵を倒しちゃおっか』

 

「……ん」

 

 陽蜂の言葉に促されて戦場へ意識を集中させるミユ。

 

 戦場に出る度に研ぎ澄まされていく共感能力は、ザ・ビッグ達に込められたシュバルツバルトの意志と過去から続く怨念を確実に捉えていく。

 

 そしてそれを補助する為にシートの前に浮かびあがる、フリーダムに搭載された物に酷似したマルチロックオンレーダー。

 

 ミユの感覚に陽蜂とハロの内部で息づく量子コンピューターの演算補助が加わった知覚の結界は、超一流のエースパイロットでも逃れられないキリングフィールドを創り出す。

 

『それじゃあ行くよ、ミーちゃん! ダインスレイヴ・【ふぐ刺し】!』

 

「……はっしゃ」

 

 ミユと陽蜂の意志が重なった瞬間、パラダイムシティの空に地獄が顕現した。

 

 装甲を展開したハロの全身200か所の砲口から電磁投射で放たれる超合金O製の特殊弾頭。

 

 それは全方位からハロへ襲い掛かろうとしていた量産型ビッグデュオ達の身体をハリネズミへと変え、さらには地上で射撃を行おうとしていたアーキタイプの眉間と心臓を正確無比に射抜いてみせた。

 

『な!? あぁ……』

 

 夜空を照らす火球へと姿を変えた愛機の分身と、地上で無様な屍を晒す巨人の亡霊に言葉も出ないシュバルツバルト。  

 

『───真実真実って言ってるけど、おじさん知らなかったの? 貴方の求めるソレはとてもとても高価な宝石。得る為には命よりも重い代価が必要なんだよ?』

 

 その様子を冷却用に吐き出された蒸気の奥で怪しく揺らめく巨体。

 

 それはまさしく『丸い悪魔』だった。

 

 

 どうも、未だかつてない緊張状態に足がガクブルなミユです。

 

 あの後、錯乱状態になった怪人が何かを喚きながら突撃してきたんだけど、私達に届く前にロジャーのお兄さんが操る黒いロボットに撃ち込まれたアンカーで地面に引きずり降ろさされ、さらにはあのふっとい腕から繰り出されたゴッツいパンチでバラバラになっちゃった。

 

 お兄さんが言うには生きているらしいんだけど、私的にはもう会いたくないと思う。

 

 でもって、敵もいなくなって帰ろうとしたところヒビキさんが急に街の中にジェニオンを着陸させたんだ。

 

 ちょうど古い酒場の前あたりだったんだけど、そこにいたのはなんとジェミニスの首魁であるガドライト・メオンサム。

 

 ここで彼の身柄を抑えればジェミニスについては解決すると、メンバー達は次々とロボットを降りていく。

 

 本音を言えば色々とお疲れなので帰りたかったんだけど、『いがみあえ』の呪いの事を思うとそういう訳にはいかない。

 

 遅ればせながらひーちゃんに言って降り口を出してもらっていると、あの呪いの気配がした。

 

 エスカレーターを慌てて駆け下りれば、そこには頭を押さえてうずくまるヒビキさん達とナイフを持ったガドライトの姿が!

 

 慌ててチビにお願いして超合金体当たりでガドライトを止めてもらったんだけど、あの酔っぱらいってば鼻血が出た顔を抑えながら今度は私に『いがみあえ』の呪いをかけてきたのだ

 

 途端に心を乱すような思念波が襲い掛かって来たんだけど、強弱の差はあれど私がこの呪いを感じるのは3度目。

 

 ある程度慣れているのに加えて、強制的に心を変えようとする感覚は以前の暴走クマさんのサイコミュの干渉に似ていたから思い切り拒絶しちゃったんだ。

 

 多分だけど、ハロのサイコフレームの効果もあったんだろう。

 

 私はガドライトの干渉を弾いてしまったのだ。

 

 これには眼前の酔っぱらいも口を大きく開けて唖然としていた。

 

 こっちとしても割とできちゃったっぽいアレなので、その驚きは十分に分かる。

 

 そんな訳でただいまガドライトは敵意剥き出しでこっちを睨んでおります。

 

 というか、大の大人が本気でナイフを向けるとかやり過ぎじゃないかな!?

 

 こっちはか弱い幼女だぞ!

 

「まさか、サードリアクターのスフィアの干渉を弾いちまうとはな。ただのガキじゃないと思っていたが、随分と厄介なお嬢ちゃんじゃないか」

 

「……そんなのしらない。こころをかえられたら、いやっておもうのあたりまえ」

 

 じりじりと下がる私と、ナイフを構えて近寄ってくるガドライト。  

 

 シン兄達は心理的干渉が強すぎていまだに声も出せないみたいだ。

 

 青カブトが私の前でガードしてくれている中、チビの方からは『零に還すか?』という物騒な問いかけが来ています。

 

 それをしちゃうとこの街もエライ事になる気がするからやめてね。

 

 あと、ひーちゃんが地味にダインスレイヴってトンデモ兵器でガドライトを狙っている罠。

 

 あんなの人が食らったら跡形も残らない……というか、私達にも絶対に影響あるよね!?

 

「ガキを殺すのはガラじゃないし、お前さんにはアンナロッタを助けられた借りがある。だがな、お嬢ちゃん。お前さんは放っておくには少しばかりヤバすぎるんだ」

 

「……だめ。やめて」

 

「心配すんな。せめてもの慈悲だ、痛みは感じさせねえよ」

 

 ちがうよ! これ以上近寄ったらオジサンの命がヤバいんだよ!?

 

 そんな私の必死の説得も虚しく私に襲い掛かろうと大地を蹴るガドライト。

 

 しかし彼が私との距離を詰める事は無かった。

 

 何故なら横合いから出された拳を頬に食らってビルの壁に頭から突き刺さったからだ。

 

「奇妙とさ迷い歩いておれば、今度は軍人が年端のいかぬ娘を襲っておるとはな。まったくもって治安の悪い街よ。ワシの知る香港でもここまでではなかったぞ」    

 

 そうぼやきながら疾風のように姿を現したのは、少し前に会った拳法家のおじちゃんだった。

 

「テメェ……何者だ?」

 

 瓦礫を払いながらなんとか起き上がるガドライト。

 

 その問いかけにおじさんはフンと鼻を鳴らす。

 

「本来ならば貴様のような賊に名乗る名は持ち合わせておらぬが……まあよいわ」

 

 そう言うとおじちゃんはマントを跳ね上げて胸の前で拳を固く握る。

 

「我が名は東方不敗・マスターアジア! 奇縁によってこの世界に彷徨い出た旅の侠客よ」

 

 ただ名乗っただけなのに、アスファルトが砕けて窓が割れたよ!?

 

 というか、すっごい名前!!




やめて! 謎の拳法家と生身で戦ったらガドライトの身体がしめやかに爆裂四散しちゃう!?

お願い、死なないでガドライト!

あんたが今ここで倒れたら、アンナロッタやお腹の子供はどうなっちゃうの?

貴方にはジェミニアがまだ残ってる。

アレを召喚できれば、誰にも負けないんだから!!

次回、「ガドライト死す」。デュエルスタンバイ!
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