幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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ガドライト・メオンサムが挑む高難易度クエスト(Hell)はっじまるよー!


幼女とデンジャラスおじちゃん

 どうも、いつの間にか実況役みたいな立ち位置になってるミユです。

 

 だって他のみんなは呪いから抜け出てないし、普通に見れるの私しかいないんだから仕方ないよね。

 

 さて、颯爽と現れたマスター? 東方? んーと……東方のおじちゃんでいいや。 

  

 東方のおじちゃんを抜身のナイフを手に睨みつけるガドライト。

 

 対するおじちゃんは自然体で余裕たっぷりだ。 

 

 このまま襲い掛かるかと思っていたら、ガドライトの顔から怒気が消える。

 

 その代わりに張り付いたのはヘラリとした気の抜けるような笑顔だ。

 

「じいさん、随分と腕が立つみたいだな。どうだい、ここは退いちゃくれないか?」

 

「なんだと?」

 

 突然の申し出に訝しげに左目の眉を上げる東方のおじちゃん。

 

「アンタ、あの嬢ちゃんの身内じゃないんだろ?」

 

「うむ。少し前に命を救っただけで縁もゆかりもないな」

 

 そう答えるおじちゃんにガドライトの口の端が少しだけつり上がる。

 

「だったらアンタが身体を張る必要はないだろ。分かると思うが俺だってそれなりに腕に覚えがある。マジでやりあったらお互い無事じゃすまない」

 

 大仰に肩をすくめてみせるガドライトに東方のおじちゃんは黙ったまま答えようとしない。

 

「ここで退いてくれりゃあアンタは余計な怪我をしないでラッキー、俺だって厄介な仕事が片付いて晩酌の時間に戻れる。どうだい、悪くない話だろう?」

 

 そう提案するガドライトだけど、返って来たのはおじちゃんの深い深い溜息だった。

 

「何を言うかと思えば下らん。まず幼子が襲われていれば救うは当然、そこに縁も理由もいらん。そして貴様のような悪漢の性根を叩き直すのは武道家の務めというモノよ」

 

 当たり前のようにそう言い放つおじちゃん。

 

 するとそれを聞いたガドライトの顔から笑みが消える。

 

「そうかい。じゃあ仕方ねえな」

 

 そう聞こえたのに間を置かず、おじちゃんのすぐ近くに現れるガドライト。

 

 凄い! あんなに離れてたのに!? 

 

「───その薄っぺらい正義感を後悔しながら死んでくれや」

 

 冷たい殺意と共に突き出されるナイフ。

 

 街頭に鈍く光るそれは───

 

「なん…だと……」

 

「なんだこの突きは? 遅すぎてあくびが出るぞ」

 

 東方のおじちゃんのお腹に突き立つ前に、その二本の指で挟み止められていた。

 

「てめぇ……」 

 

 なんとかナイフを離させようと自分の方へ引くガドライトだけど……

 

「ふん!」

 

 おじちゃんの気合と共に挟まれた位置から亀裂が走った刃は呆気なく砕けてしまった。

 

 え~と、ナイフって指で挟んだくらいで割れたりしないよね。

 

 その光景に拙いと思ったのか、柄だけになったナイフを捨てて後ろに跳ぶガドライト。

 

 東方のおじちゃんはそんなガドライトにつまらない物を見るような目を向けるだけだ。

 

「若造、その程度の腕では抵抗するだけ怪我が増えるだけだぞ。悪い事は言わん、大人しく2、3発殴られておけ」

 

「随分と舐めてくれるじゃないか。ナイフコンバットなんざオマケでしかないのによぉっ!」

 

 苛立ちが混じった怒声と共にガドライトの身体が目に見えて変化する。

 

 お酒で赤みを帯びていた褐色の肌がまるで金属のような光沢を持った鉛色になったのだ。

 

「俺達ジェミナイの男は自分の意志で肉体を硬質化できる。この状態で振るう我が伝統武術は下手な兵器より凶悪だぜ?」

 

 そう言って手刀でコンクリートの壁を砂糖菓子のように削るガドライト。

 

 驚いた、あんな身体を持ってるんならナイフなんていらないや。

 

「なるほど。人間が死なぬように手加減したとはいえ、ワシの拳を受けて立ち上がって来たのはそういう絡繰りか」

 

 それを見てもなお、東方のおじちゃんの余裕は消えない。

 

 彼は棒立ちから半身になって軽く両足を広げると、ガドライトに向けて手招きをした。

 

「そこまで言うなら少し遊んでやろう。かかってくるがいい」

 

「ッ!? なめるなぁ!」

 

 おじちゃんの言葉に怒り心頭で襲い掛かるガドライト。

 

 彼は間合いを詰めると同時に右拳を大きく振り上げるけど、あれはフェイントだ。

 

 本命はおじちゃんの足に向けたキック!

 

 咄嗟に思念でガドライトの狙いを伝えようとしたけれど、相手の動きの方が速くて今からじゃ間に合わない!

 

 そう思っていたんだけど、振り上げたガドライトのキックが届くより早く、おじちゃんの軽く出した足の裏がガドライトの軸足を払っていた。

 

 どんな力が込められていたのか分からないけど、倒れるんじゃなくてポンと横向きに宙を浮くガドライトの身体。

 

「ふん」

 

 その唖然とした顔におじちゃんの拳が突き刺さる。

 

 瞬間、金属を叩き割るような音が鳴り響いてガドライトが凄い勢いで後ろへ吹っ飛んだ。

 

「ぐ…お……あぁ……」

 

 土煙を上げて道路を滑った彼が顔を上げると、頬の皮膚が無残に砕けて赤い血と肉が見えていた。

 

「……うにゅ。きもちわるい」

 

 思わずそんな言葉を漏らしてしまうと、青カブトが私の頭に飛び掛かって目を塞いでくれた。

 

 どんくさい飼い主でごめんね。

 

「見た目の割に随分と脆い皮膚よ。貴様、硬功夫の修行が足りぬのではないか?」

 

「ふざけんな……ジジィッ!!」 

 

 挑発染みたおじちゃんの言葉に、ガドライトはダメージを感じさせない動きで襲い掛かる。

 

 左右のストレートからボディブローにアッパー。

 

 手での攻撃だけじゃなくて、合間合間にお腹や足へ蹴りも混じってる。

 

「どうした? ワシはここだ、ここにおる!」

 

 でも、その全てをおじちゃんは紙一重で躱し続けてる。

 

 多分、傍目からだとガドライトの手足がおじちゃんをすり抜けてるように見えるんじゃないかな。

 

 え、青に目隠しされてるのに見えるのかって?

 

 もちろん見えないよ。

 

 さっきから気配とか思念を感じているんだもん。

 

 というか、幼女にあんなトンデモな動きが目で追える訳ないじゃん。

 

「少しばかりすばしっこい程度で……いい気になるなぁ!!」

 

 向こうの様子に戻るけど、連続攻撃が当たらない事に業を煮やしたガドライトはローキックをフェイントにして、おじちゃんの顔に掛けて固くなった抜き手を突き出す。

 

 けれどそれもおじちゃんを捉える事はできずに紙一重で躱されてしまう。

 

 そうしてスルリとガドライトの背面に回った時、おじちゃんは反撃を繰り出した。

 

「ふはぁっっ!!」

 

 無防備になった相手の脇腹に道路を踏み割りながら、背中を使った体当たりを食らわせたんだ。

 

 そして夜の街道に響き渡る自動車事故みたいなすっごい音。

 

「ぐあぁっ!?」

 

 ガドライトはまるでトラックに撥ねられたみたいに、ブティックのショーウインドウを突き破って店の中へ吹っ飛んじゃった。

 

「たしかに良く練られた武術よ。だが軍隊格闘術の悲しさよな、合理を求め過ぎるが故に実に偏り虚の動きが疎かだ。それでは100手先まで読めるわ」

 

 店の中から立ち上る粉塵に向かって腕を組みながら声をかけるおじちゃん。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 そんなおじちゃんの言葉に応えるかのように、ガドライトは粉塵を目くらましに壊れたショーウインドウから蹴りの体勢で飛び出してくる。

 

「甘いわっ!」

 

「がはぁっ!?」

 

 けれどおじちゃんはラジオ体操の片足伸ばしみたいに身を低くしてそれを躱すと、そのまま地面に手を突いて天を衝くように足を跳ね上げてガドライトを上へと蹴り飛ばした。

 

「はぁっ!」

 

「げふっ!?」

 

 そして自分も地面を蹴ると夜空へ吹き飛ぶガドライトに追いつき、その身体を地面に向けて蹴り落としちゃった。

 

 空気を裂く音に続いて砲弾が落ちたみたいな衝撃ともうもうと立ち上る土煙。

 

 おじちゃんが音もなく降り立つと、少し遅れて土塗れのガドライトがヨロヨロと現れる。

 

「少々頑丈なのは認めてやるが、その程度ではワシの敵ではない。これ以上はやるだけ無駄だ、大人しくしておれ」

 

「ふ…ふざけんなっ! 俺は惑星ジェミナイの……ジェミナイド最強の男だ! テメエごとき老いぼれに負ける訳がねえんだよ!!」

 

「なに?」 

 

 ガドライトの思わぬ言葉にピクリと片眉を上げる東方のおじちゃん。

 

 けれどその一瞬の間をガドライトは見逃していなかった。

 

「いまだ!『いがみあえ!!』」

 

 そして放たれる例の呪い。

 

 それは狙い違わずおじちゃんを捉えた。

 

「ほう、これは……」

 

「どうだ、自分の心が相反する気持ちは!? いくらテメェでもその状態じゃまともに動けねえだろ!」

 

 まるで感心するかのように呟くおじちゃんに硬くした右手の指を伸ばして近寄るガドライト。

 

 拙い! あの人、あれでおじちゃんの胸を抉るつもりだ。

 

 なんとか助けようと思念をチビに飛ばそうとした瞬間───

 

「こんな小細工がこの東方不敗に通用すると思ったか、たわけがぁっ!!」

 

 気合一閃、放たれた拳が正面から油断していたガドライトの顔面を撃ち抜いた。

 

「ぶがぁっ!?」

 

 血と金属片をまき散らして今度は縦回転で吹き飛ぶガドライト。

 

 それを見ながらおじちゃんは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。

 

「感情の相克だと? こんなもの、無心となるか明鏡止水の境地を会得しておれば何の意味もないわ!」

 

 そう吐き捨てるおじちゃんだけど、ぶっちゃけ理屈が難しくて幼女には理解できませぬ。

 

 じゃあ分からなければどうするのか?

 

 決まっている、聞けばいいのだ。

 

「……どういうこと?」

 

 たまたま私の傍に戻って来たおじちゃんに声を掛けると、彼は不快げに顔をしかめながら言葉を紡ぎ始める。

 

「あれはな、相手の心に干渉して相反する感情を沸き立たせ、それを互いにぶつかり合わせるものだ。相手が憎ければ同じだけ親愛を感じる、そんな形で心をかき乱されては並の者が闘志を保てる道理はない」

 

 なるほど。

 

 そんな事になったら普通の人は心の中がグチャグチャになっちゃう。

 

 それで戦えって言われても到底無理な話だろう。

 

「そうして相手が戸惑っている隙を突く。己が力に自信を持てぬネズミが使う姑息な騙し討ちよ」 

 

「……おじちゃん、きかなかった。どうして?」

 

「ワシは明鏡止水の境地を極めておる。心を波一つ無い湖面が如く御しておれば、如何なる干渉も怖るるに足りん」 

 

 つまり感情を制御して相手に何にも感じないようにしたから、相反する感情も生まれなくて呪いに掛からなかった、と。

 

 凄いよ、東方のおじちゃん!!

 

「……おじちゃん、たつじん」

 

「ふっ……ワシとてまだまだ未熟者よ。生まれた星を愛するがあまりに天然自然の理を見誤り、あまつさえ弟子にそれを教えられたのだからな」

 

 尊敬の目を向けていると、おじちゃんは小さく笑いながら私の頭をポンと撫でてくれた。

 

 ゴツゴツだけどおっきくて温かい手だ。

 

 この人は本当に優しい人なんだろう。

 

 そんな風にほのぼのとしていると、ガドライトがフラフラとした足取りで戻って来た。

 

「なんでだ……なんで効かねぇ!? そのガキもテメエも! 霊子力は! その結晶たるスフィアは! ジェミナイの誇りなんだぞ!!」

 

 今までのような酔っぱらいの仮面を脱ぎ捨てて憎しみを露にするガドライト。

 

 そこから感じるのは私達と地球、そして宇宙の彼方にいる誰か、何より自分へ向いた焼き尽す程の怒り。

 

 それと同じくらいに諦めの感情も……ううん、違う。

 

 怒りの感情が諦めよりも大きくなってる。

 

「ふん、それが貴様の本性か。酒に逃げ道化を演じておるのは、憎悪と諦観という相反する感情を天秤に乗せるように同じにせねば、あの手品の基が扱えんからだな」

 

 おじちゃんの指摘に怒りで赤くなっていたガドライトの顔から一気に血の気が引いた。

 

「テメエ…どうして……」

 

「武道家とは拳を交える事で相手の事を理解するもの。貴様のような青二才の薄っぺらい底なぞ、あの程度の手数でも十分暴けるわ」

 

 フンと鼻を鳴らすおじちゃんにガドライトはギリギリと歯を軋ませた。

 

「テメエは危険だ……! 俺達の計画の為にも、ガキやそこにいる奴等も含めてここで始末する!!」

 

「ではどうする? 吼えるだけなら犬でもできるぞ」  

 

「───来い、ジェミニア」

 

 おじちゃんの挑発に能面みたいな表情になったガドライト、その声に応えるように彼の背後の空間が大きく歪む。

 

 そしてそこから現れるのは存在するだけで肌が痺れるような威圧感を出す紫紺の機体、ジェミニアだ。

 

「娘、仲間を連れて下がっておれ。上に浮かぶ玉はお主のものであろう」

 

「……おじちゃんもにげる」

 

 私がそう促すと、東方のおじちゃんはニヤリと口元を釣り上げた。

 

「心配するな。あんなものに負ける程、この東方不敗は耄碌しておらぬわ」

 

 どう考えても滅茶苦茶な事を言ってるハズなのに、おじちゃんから溢れる自信と頼もしさは私の口を塞いでしまった。

 

「……がんばって」 

 

 そう言い残すと私はひーちゃんに頼んでハロに乗せてもらう。

 

 そしてトラクタービームで未だ動けないシン兄達を救出した。

 

『本当はミーちゃん以外乗せたくないんだけどなぁ』

 

「……ごめんね」

 

『今日一緒に寝てくれたら許してあげる!』

 

 そんな会話をしながらもクォーターの方へ離れる私達。

 

 他の皆は救助用のゲストルームにいるんだってさ。

 

『ジジイ。まさかとは思うが、このジェミニアと生身で戦うつもりか?』 

 

「無論、武道家が頼るは鍛えた五体と技のみよ。それより貴様こそ分かっておろうな?」

  

 ジェミニアの緑の眼光を怖がる事なく真正面から受け止める東方のおじちゃん。

 

「そんな物を持ち出した以上、ここから先は手加減など無いぞ!」

 

 周りの窓ガラスや道路のアスファルトを砕く一喝、それと同時におじちゃんの姿が消える。

 

「……え!?」

 

 そして次の瞬間、轟音と共に吹き飛ばされるジェミニア。

 

 生身であの強敵が吹き飛ばされたのもそうだけど、それ以上に私を驚かせるものがあった。

 

『どうしたの、ミーちゃん?』 

 

「……おじちゃんのこうげき、かんがえよりはやい」

 

 先ほどの動きは今までとは違って、攻撃が当たった後におじちゃんの気配や闘志が伝わって来たのだ。

 

 信じられない、こんな事できるの?

 

「どうした? 大層なモノを持ち出しておいてその程度か!」 

 

『グッ……このバケモンがぁッ!!』 

  

 姿を消したり現れたりしながら向かって来るおじちゃんに巨剣を呼び出して振るおうとするジェミニア。

 

 しかしそれより早くおじちゃんが振るった帯が腕に絡みつく。

 

「でやあぁぁぁっ!!」

 

 裂帛の気合と共に引き絞られる帯。

 

 次の瞬間、私は我が目を疑うことになった。

 

「……うそ」

 

 なんと甲高い破砕音と共にジェミニアの腕が肘から引き千切れたのだ。

 

『ばかなっ!?』

 

「ほぉれ、隙だらけだぞ! 酔舞! 再現江湖! デッドリーウェイブ!!」 

 

 ガドライトの驚愕の声と共に動きが止まったジェミニア。

 

 まるで瞬間移動のようにおじちゃんの姿がその背後に現れると、胴体に次々と拳の型が刻まれていく。

 

「───爆発っ!!」

 

 そして空中でおじちゃんが構えを取ると同時に、思い出したかのように吹き飛ぶジェミニア。

 

 もう私は目の前の光景に驚き過ぎて声も出ない。

 

「ワシの拳を耐えるとは良い機体ではないか。もっとも乗っているのが貴様では宝の持ち腐れだがな」

 

 仰向けに倒れたジェミニアの胴体、コクピットハッチと思われる部分に立って装甲越しにガドライトを見下ろす東方のおじちゃん。

 

『ふ……ふざけんな! 俺はジェミニアのリアクターだ! ジェミナイ最強の戦士なんだぞ!?』 

 

 主の怒声と共に立ちあがるジェミニア。

 

 いち早く後ろに跳んだ東方のおじちゃんは、ビルの屋上で腕を組んでガドライトの言葉を鼻で笑う。

 

「さっきもそのような事を言っておったが……貴様、その体たらくでまだ戦士のつもりなのか?」

 

『なに?』

 

 何を言っているのかわからないという風な声を出すガドライト。

 

「まだ分からんのか、このたわけがぁっ!」

 

 次の瞬間、おじちゃんが放った帯の一撃に左目を砕かれてジェミニアは大きくのけ反った。

 

「酒精でふやけた頭! 鈍った身体! 錆びついた腕!! それを正そうともせず何が戦士か! 何が最強か!?」

 

 そして懐に飛び込んで放たれる拳の連打。

 

 次々と凹んでいく胴体の装甲はもはや見る影もない。

 

「今の貴様はただのゴロツキよ! そんな輩が最強を名乗るはジェミナイとやらを貶めるに他ならん!! そんな事にも気づかぬとは───」

 

 叱責の声と共に大きく腕を振りかぶるおじちゃん。 

 

 その拳には黄金の光が宿っている。

 

「だからお前はアホなのだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 怒りの拳はついに胸の装甲を砕き、破片と共にジェミニアは吹き飛んでいく。

 

 あまりの光景にポカンとなってしまった私だが、次の瞬間には周りの状況がおかしくなっている事に気が付いた。

 

「……これ」

 

『ミーちゃん、周囲の次元が歪んでいるよ!』

 

 それってもしかして次元震とかいうやつじゃ!?

 

「……おじちゃん!」

 

 なんとかおじちゃんを助けようと声を掛けるが時すでに遅く、視界が真っ白になったと思ったら私達はアドベントが指定した赤い海に島が浮かぶ場所へと帰ってきていた。

 

 

 

 

 人類の可能性を知ってニュータイプも大したことないと実感したミユです。

 

 謎の街から地球に戻って来た私達。

 

 残念ながら東方のおじちゃんは一緒にはいませんでした。

 

 とりあえずクォーターに帰った私達を待っていたのは、やっぱりと言うか事情を聴くために集まった大人たちでした。

 

 けどね……まともに答えられなかったんだ。

 

 ハロを降りてシン兄を見た瞬間さ、迷子の寂しさとか怪人の怖さとかが蘇ってきてギャン泣きしちゃったんだよ。

 

 当然、こうなっては話など出来ようはずもない。

 

 シン兄に抱き着いてお腹から顔を離さなくなった私は早々に対象から外され、その代わりを担ったのはハロ・ビーの中にいるひーちゃんだった。

 

 彼女はハロ自体はクマさんが残していった私の代替え機であること。

 

 それを用意したクマさんの思惑は不明だけど、恐らくは私を戦場に出す事で共感能力を磨くのが目的ではないかということ。

 

 ひーちゃん自身に関しては半壊状態でこの世界に流れ着いたサポートAIで、私に助けられた事に恩義を感じてハロの管制人格をする事にしたって説明してたよ。

 

 うん、だいたい合ってる。

 

 なのでクマさんのように暴走する事はないし、命の恩人である私は何があっても守ってくれるんだって。

 

 あの町の時といい、本当に持つべきものは友達だね。

 

 ありがたい、ありがたい。

 

 そんな訳でハロに関する疑問が晴れた私はシン兄に抱っこされて愛しのベッドに戻る事が出来たのだ。

 

 お布団のふかふかさに加えてシン兄の体温でドンドン瞼が重くなる……

 

「ロジャー達に事後処理を任せちゃって悪いことしたな」

 

 添い寝してくれてるシン兄の言葉に私は閉じかけていたまぶたを開く。

 

「……ミユ、ごあいさつ…して…ない」

 

 ダメだ、眠くて頭がボンヤリする。

 

「いいよ。起きてからまたやろうな」

 

 そう言うとシン兄は私の身体をポンポン叩きながら、寝物語代わりにロジャーさんの事を教えてくれた。 

 

 なんでもロジャーさんは黒くて腕が長いロボット・ビッグオーのパイロットで本業は交渉人、ネゴシエーターなんだって。

 

 ネゴシエーターといえば本人に代わって組織なんかとお話を詰めてくれる凄い人だ。

 

 そんな人が仲間になったなら前に考えていた事もできるかもしれない。

 

 一度、ひーちゃんと話を…つめて…もうダメ……おやすみなさい。

 

 翌日目を覚ますと洗濯されたくまスーツの他に、何故か私サイズの甲児お兄さんと同じデザインのパイロットスーツが置いてあった。

 

 ヘルメットもセットになってるうえに下はちゃんとスカートになってる。

 

 芸が細かいよ、かみさま。

 

 

 

 

 北緯23度32分、東経161度22分。

 

 赤い海の中に浮かぶ島々の中、飛び去って行くZ-BLUEの船を見送る影があった。

 

「あの娘は上手く親元に帰れたようだな」 

 

 それは素手でジェミニアを圧倒した超人、東方不敗だった。

 

 彼は夕陽の中に消えていく艦影を見送った後、よせては返す赤茶けた波に眉根を寄せる。

 

「血の如き海か……まるで地獄のような光景だな」

 

 そう呟いた東方不敗は助けた少女が自分に呟いた言葉を思い出す。

 

「母なる大地よ、願わくば人の行いを許したまえ。人類すべてが悪に非ず。我が弟子やあの娘のように天然自然の理に気付く者、貴方の声に耳を傾ける者も現れよう」

 

 その逞しい手を砂浜に付け、目を閉じて一心に願っていた東方不敗は背後に現れた気配に瞼を開く。

 

「よもや、また貴様の顔を見る事になるとはな。シュバルツ・ブルーダー、いやキョウジ・カッシュよ」

 

「私もあなたと再び出会うとは思わなかったぞ、マスターアジア」

 

 振り返る事も無く自身を言い当てた東方不敗の手腕に、シュバルツは大人しく姿を現す。

 

「あの状態から命を拾ったわけではあるまい。その身はDG細胞か?」

 

「いや、アルティメット細胞だ。あなたはどんな道筋を辿ってここに来た?」

 

「さてな。今のワシは己が見識を広めんと旅を続ける修行者にすぎん」

 

 そう言うと傍らに落ちていたマントを再び纏い、東方不敗は砂浜を歩み出す。

 

「マスターアジア、この星は狙われている! 地球と人類を護る為に手を貸してくれないか?」

 

 シュバルツの問いかけに答えることなく、東方不敗はその姿を消した。

 

 自分以外に誰もいなくなった砂浜を見ながらシュバルツは思う。

 

 あの祈りを聞く限り、東方不敗が人類抹殺に動く事はないだろう。

 

 ならば何も心配はいらない。

 

 この星を自然を誰よりも愛するあの男なら、母なる星の窮地には自ずとその拳を振るうであろうと。   




幼女

新たな人類の可能性を知って、自分なんて大した事ないと確信する

おじちゃん

平常運転

ゴロツキ

今回の敗北で心の均衡がヤバい。

おさげ髪のオッサンがトラウマになる

悲しみのなんとかさん

頭がおかしい拳法家にドン引きしてパラダイムシティから追い出した

ビックリし過ぎてちょっとの間涙が止まった

クソコテさま

乗るしかないだろう、この波に!
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