幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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その頃のクソコテ様

 日本に襲来したグーラ・キング率いる宇宙魔王軍団の相手をしていたZ-BULE極東方面軍。

 友人であるグーラとの戦いに心を痛めながらも覚悟を決めた正太郎を部隊を上げて支援していたその時だ。

 マジンガーZの中で彼のモノは異変を感じ取った。

【これは……我が巫女が悲しんでいるだと!?】

 傍にチビパイルダーがいない為に詳しい事は分からないが、盟約の糸(無許可)から感じる悲しみは最早一刻の猶予も無い程だ。

 そして彼のモノは決断する。

【もはや遊びに付き合っている場合ではない! 一刻も早く巫女の元へ行かねば!!】

『大変です! マジンガーがまた暴走しました!!』

「ちょ…おま……!?」

 パイルダーから聞こえる兜甲児の苦情など何のその。

 三度黒鉄の城の制御を奪い取った彼のモノは、事態の早期解決を図った。

 終焉にして原初の魔神はこの難局をどうやって乗り切るのか?

 無論暴力で解決する。

【光子力ビーム(MAP兵器)! ルスト・ハリケーン(MAP兵器)!! ブレストインフェルノぉぉぉ(MAP兵器)!!!】

 悪魔のような形相になったマジンガーから放たれる問答無用の大殲滅攻撃。

『うわあああああっ!?』 

『グーラぁぁぁぁ!?』

 少年たちの友情などそっちのけでグーラ・キングを筆頭とする宇宙魔王の軍勢を吹き飛ばした彼のモノは、敗残者の屍には目もくれず紅の翼に火を入れる。

【我が巫女よ、今行くぞ! スクランブルダーッシュ!!(錯乱)】

 そして兜甲児が持つ全ての因縁をガン無視して宇宙へ飛び立つのだった。

(グレートマジンガー介入フラグが立ちました) 


逃亡幼女とでっかいおふね

 5thルナ戦のあと、重苦しい雰囲気の中Z-BLUE宇宙隊は脱走したミユを追っていた。

 

 彼等の両肩に圧し掛かる自責の念。

 

 それはアムロによって語られたミユの出生、そして復活したギレン・ザビとの戦闘中に起こった一連の出来事が原因だった。

 

 自分は信じていた愛機のパーツでしかなかった事。

 

 敵の手に囚われているであろう妹の存在。

 

 そして姉妹とも言うべき試作体達の扱いとその末路。

 

 数々の衝撃的な事実はどれ程の痛みを彼女の心へ強いただろうか?

 

 マクロスクォーターに備わった職員用の休憩ラウンジにはスカル小隊をはじめとするS.M.Sの面々、そしてアクエリオンを駆るエレメント達が集まっていた。

 

「カイエンの様子はどうだ?」

 

「鎮静剤を打ったお陰で今は眠っています」

 

 オズマの問いかけに暗い表情のミコノが答える。

 

 戦闘が終了した際、カイエンはコクピットの中で半ば錯乱状態で陰蜂を討つのだと喚き散らしていたのだ。

 

 エコーズの面々に拘束されて医務室へ運ばれた結果、下された診断は過度なストレスによる精神衰弱が原因ということだ。 

 

 これによってカイエンは当面のあいだ出撃を控えて療養することとなり、最悪の場合はアクエリア市へ送還する事も話し合われている。

 

「あれってさ、絶望予知に例の蜂も出てたってことだよね」

 

 ゼシカの言葉にその場にいた全員が苦虫を噛み潰した表情になる。

 

 カイエンが自身のエレメント能力が原因で、ミユへ隔意を持っていたのはここにいる誰もが知ることだ。

 

 少し前まで大げさと笑っていた彼等もアクエリア市のクマの暴走に加えて陰蜂の戦闘能力を見ては評価を変えざるを得ない。

 

「やっぱカイエンが正しかったって事なのか?」

 

「なによ! じゃあミユちゃんが敵だって言いたいの!?」

 

「そうじゃねーよ! そうじゃねえけど……あの子連邦軍攻撃したじゃん」

 

 ボソリと呟いた自身の言葉をMixに噛みつかれて焦るアンディ。

 

 彼が言い訳と共に上げた事実に言葉を詰まらせるMixだが、そこにアマタが反論を入れる。

 

「あれはサイガス准将がミユちゃんの機体を奪おうとしたからだよ」

 

「だからって攻撃するか? 一応は味方だぜ」

 

「あれは自衛の為だろう」

 

 うろたえながらも吐き出したアンディの言葉に、ミシェルの隣に座っていたクランが口を開いた。

 

「自衛ってどういう事ですか、お姉さま」

 

「あの化け物染みた機体は恐らくミユとハロ、そして陽蜂という管制AIがあって初めて使用できる代物だ。ならアレが連邦の管理になるという事は必然的にミユの身柄を連邦へ引き渡すということになる。地球至上主義のサイガスの手にあの子が落ちればどうなると思う?」

 

「……コロニーを攻撃する兵器として利用される、か」

 

 ピクシー小隊の部下であるネネの問いかけに放ったクランの答え、それにアルトは脳裏に過った嫌な未来を口にする。

 

「そうだ。カミーユの知人にフォウ・ムラサメという女性がいるらしいが、彼女は連邦軍の研究所で人工ニュータイプと言える強化人間の調整に加えて洗脳まで施されて戦場へ出されていたそうだ」

 

「大人がそんな事になってるなら、ミユちゃんみたいな小さい子ならもっと悲惨な目に遭うって事ですか?」

 

「おそらくはな」

 

 サザンカの問いかけに頷くクラン。

 

「たしかに友軍を攻撃した事は罪だ。だがそういったリスクを加味すればミユの行動を頭から否定はできん。そもそもあの子が実力行使に出たのは、保護者である俺達がサイガスからあの子を護ろうとしなかったからだからな」

 

 この事に対して忸怩たる思いを抱いてるのはオズマも一緒だ。

 

 だがスカル小隊を率いる立場である彼はジェフリー達上官が動かない状態で無責任な真似はできなかった。

 

「それに旧ジオン軍が乱入したあの状況で、我々にフィフスの落下を止められる可能性は少なかった。方法はどうあれ隕石落下を阻止してくれたミユに我々が文句を言う資格はない」

 

 クランの言葉にアマタを除くエレメントの男性陣は気まずそうに俯く。

 

 仲間であるカイエンが精神的に追い込まれていた事で、彼等にはミユに対して思うところはある。

  

 しかしこうして改めて意見を述べられると、彼女を責めるのは筋違いだと嫌でも思い知ったのだ。

 

「……もしかしたら、俺達はあの子から見限られたのかもしれんな」

 

 重苦しい空気の中、オズマの言葉だけが響き渡った。 

 

 

 

 

 一方、ラー・カイラムの格納庫ではアムロが簡易メンテナンスを済ませたνガンダムの出撃準備を済ませていた。

 

「アストナージ、ゲタのプロペラントを増量しておいてくれ。かなり遠くまで捜索範囲を広げるからな」 

 

「了解です。家出娘のことは頼みますよ、大尉」

 

 パイロットスーツのヘルメットを被りながらアストナージと打ち合わせを行うアムロ。

 

 その顔には焦りが滲んでいる。

 

 アムロは自分の見積もりの甘さを痛感していた。

 

 ミユは年齢よりも聡い子だ。

 

 アクエリア市での暴走の件もあって、彼女は憎しみで力を振るう危険性を分かっていると思っていた。

 

 だからこそ、サイガス艦隊を攻撃しようとした際には止めようとした。

 

 戦場で憎しみから引き金を引くことがどんな悲劇を引き起こすのか、アムロは嫌というほど知っている。

 

 その苦しみを幼い少女に味わわせたくなかったのだ。

 

 しかしあの時は陰蜂の絶大な力を見せつけられたショックもあり、ギレンから受けた仕打ちによって彼女の精神にどれ程の傷を受けていたかを失念してしまっていた。

 

 アムロが与り知らぬ事だが、これはミユの精神を護る為に陽蜂がサイコフレームの共振感度を下げていた事も影響している。

 

 それが無ければ、ミユが上げた心の悲鳴を感じ取ることができたかもしれない。

 

 しかし戦場に飛び交う負の思念をシャットアウトする為に施した仕掛けが、ミユの思念までも堰き止めてしまっていたのだ。

 

 冷静なあの娘が自分達から逃げ出す程に精神的に追い詰められている。

 

 仮に自暴自棄になっていたとするなら、周囲も彼女自身も危険だ。

 

 そんな状況を見過ごせるほどアムロは冷徹な人間ではない。

 

「こっちは準備OKです、アムロさん」 

 

「すまないな、カミーユ。疲れているだろうに」

 

「いえ。ミユもそうですけどシンの事も心配ですから」

 

 ミユが逃亡した際、部隊の中ですぐに飛び出した者が二人いた。

 

 それは兄であるシン、そして桂木桂だ。

 

 普段からミユを大事にしているシンは『クソッ! 俺はなにをやってるんだ!? ミユぅぅぅぅっ!!』と周りが止める間もなく光の翼でカッ飛んでいき、桂の方も『もうすぐ父親になる身としては泣いている子供を放っておくわけにはいかないよな。そんじゃあ後ヨロシク!』とオーガスを飛行形態にしてシンを追って行った。

 

 あの二人の気性からして、ミユを連れ戻すまで帰ってくるつもりはないだろう。

 

「あの子はトラブルに好かれる質のようだからな。妙な事に巻き込まれる前に見つけてやろう」

 

「ええ。皆でミユに謝らないといけませんからね」

 

 そう言葉を交わしながら互いの愛機に向かうカミーユ達だったが、その二人を止める声があった。

 

「あの……俺も一緒に行かせてください!」

 

 その声に振り返るとそこにはパイロットスーツに身を包んだバナージの姿があった。

 

「お前には船団の護衛を頼むつもりだったんだが、ブライトやオットー艦長の許可は取ったのか?」

 

「はい。エコーズの皆やリディ少尉が穴を埋めてくれると言ってくれました」

 

「わかった。なら俺のゲタに相乗りだ、準備を急げよ」

 

「はい!」

 

 アムロの指示に声を張り上げたバナージは、愛機であるユニコーンのコクピットへ乗り込む。

 

 慣れた手つきで起動シーケンスを熟していくバナージの脳裏に、ここへ来る前にオードリーと話した会話が過る。

 

 自分にジオンの姫であるミネバ・ザビだと明かしたオードリーは、伯父であるギレンがミユやその姉妹に行った悪行に酷く心を痛めていた。

 

「叔父がミユちゃん達へ行った事は何を言っても許される事ではありません。ですが私は彼女に謝罪したい。償える事があるなら全力で応えたいのです」

 

 憂いに満ちたオードリー、いやミネバの顔を見た彼はミユの捜索に参加する事を決めた。

 

 彼女の正体にはもちろん驚いたが、バナージにとっては惚れた女が悲しんでいる事の方が重要だった。

 

 もちろんミユの事は心配している。

 

 仲間、それも傷心の小さな女の子が部隊を飛び出したのだ。

 

 心優しい彼が気を揉まないワケが無い。

 

 しかしバナージとて年頃の男である。

 

 そこに些細な邪念が入るのも致し方ないだろう。  

 

「オードリー、必ずミユちゃんを連れて帰るからな」

 

 自分に言い聞かせるように呟くと、バナージはアムロが船外に出したゲタへとユニコーンを発進させた。

 

 

 

 

 ミユ捜索の為に宇宙隊の面々が動く中、ネェルアーガマの客室ではアルベルト・ビストが叔母であるマーサ・ビスト・カーバインに通信を送っていた。

 

『その情報は本当なの?』

 

「はい、私も直に見ました。フィフス・ルナが巨大兵器へ変貌する様を」

 

 彼等の話題はミユとハロの異常性であった。

 

『兵器に自己進化を促す金属素材、それがあればアナハイムは市場で更なる優位へ立つことができるわ。それだけじゃなく、上手くいけば彼等の中でも上位へ食い込めるかもしれない。アルベルト、何としてでもそのサンプルを入手するのよ』

 

「ですが肝心の娘が出奔しておりまして……」 

 

『なら、こちらの権限でエコーズでも捜索に派遣しなさい。……そういえばその娘は高いニュータイプ能力を持っているそうね?』 

 

「え…ええ」

 

 口紅で赤く染まった叔母の唇がつり上がるのを見たアルベルトはイヤな予感に身を震わせる。

 

『その子も確保しなさい。金属素材は娘の機体に備わっていたのでしょう? ならサイコフレームのように特定の人間しか機能させられないかもしれないわ』 

 

 傲慢に言い切るマーサの笑みにアルベルトは喉まで出かかった文句を噛み潰す。

 

 あの娘がどれだけ危険な爆弾かは、今までの道程で嫌というほど理解している。

 

 下手に手を出して彼女を怒らせれば、アナハイムなどあっという間に潰されるのではないか?

 

 サイガス准将の艦隊を蹴散らした手腕を見ていたアルベルトはそんな気がしてならなかった。

 

 しかし彼に叔母へ逆らう気概はない。

 

 例の事があって以来、体のいい使い走りとして扱われてきたのだ。

 

 今更どうやって反抗すればいいというのか?

 

「わかり…ました……」 

 

 だからこそアルベルトはマーサの企みに乗るしかなかった。

 

 チクリと良心が上げる痛みを見て見ぬフリをして。

 

 そんな地球圏でも有数の資産家である二人の密談をドア越しに聞いていたモノが一人。

 

 必要な事を記録し終えた彼はアルベルトに気付かれる事なく、その場を離れた。

 

 かすかにホバー音を響かせて。

 

 

 

 

「シンと桂はまだ戻っていないんだな?」

 

「はい。ミユちゃんを追ったきり……」

 

「ミユの行き先は分かるか?」

 

「レーダーにあの機動兵器の反応はありません。おそらくは索敵範囲外へ抜けたものかと」

 

 自らの質問に返って来た答えにジェフリーは深々とため息をついた。

 

 全長10キロを超える機動兵器なので簡単に見つかるかと思ったが、事はそう上手くいかないらしい。

 

 ミユはギレン・ザビ達の手によって造られたそうだが、それに関してジェフリーに隔意は無い。

 

 これはブライトやオットーといった宇宙隊首脳陣も同じ考えだ。

 

 ギレンの発言や今までの彼女の行動からするに、スパイや裏切りというよりは利用されていたと見るべきという考えで一致したからだ。

 

 だからこそジェフリーはアムロの話を聞いた後、地上部隊のドラゴンズハイヴのルゥ・リルリへと連絡を取った。

 

 メンタルケアの専門家である彼女に、今回の事でミユが負った精神的影響を確認する為に。

 

 肉体年齢に比べて精神的に成熟しているとはいえミユはまだ子供。

 

 その心に与えた影響は相当なものに間違いないと懸念したのだ。

 

 そして事情を聴いたルゥから返って来たのは『本格的なカウンセリングが急務なので、すぐに連れてこい』という答えだった。

 

 彼女いわくミユの負った精神的ダメージは、通常の5歳児なら自我崩壊を起こしてもおかしくないレベルだという。

 

 それを聞いた時の3名の艦長達が受けた衝撃は筆舌に尽くしがたいモノだった。

 

 さすがに逃亡したとは言えず、近いうちに地球へ降ろすと返して通信を切った。

 

 しかし、アレからジェフリーの頭の中には悔いと焦りがグルグルと回っているのだ。

 

「ミユちゃん、大丈夫かな?」

 

「サイガス准将の船を攻撃した時は驚いたけど、あんな事があったのなら仕方ないよね」

 

「あの子、いつも一緒にいるくらいお供の事を大事にしていたもの」

 

 オペレーター3人娘の会話を耳にしながら、ジェフリーの思案という名の後悔は続く。

 

 たしかにサイガスの艦隊に攻撃を行ったのは許せることではない。

 

 幸い…いや彼女や陽蜂の能力を考えれば意図的だったのだろう。

 

 艦隊クルーはもちろん護衛のМSのパイロットにも死者はいなかった。

 

 それでも味方に牙を剥くのは論外だ。

 

 しかしミユの立場からすれば、あの行動は止む無しだったのだろう。

 

 知らぬ者が自分の友を奪おうとすれば誰だって抵抗する。

 

 事例の規模は大きいモノの、サイガスへの攻撃は彼女からしてみればそういう事なのだ。

 

 保護者としてこれを咎めるなら、その前にジェフリー達が毅然とした態度でサイガスの要求を跳ねのけねばならなかった。

 

 しかし連邦軍でのZ-BLUEの立場や軍に長く籍を置いていた癖から、彼等は上官である奴に強く出るのを戸惑ってしまった。

 

 ミユは勘が良く聡い子だ。

 

 その様子を見て我々が自分を守ってくれない事を悟ったのだろう。

 

 だからこそ、友人である陽蜂と共に生み出した力で自衛したのだ。

 

 それは自分たちは保護者として見限られたも言えるのではないだろうか。

 

「……我ながら情けない話だな」

 

「そう思うんだったらウダウダ悩んでんじゃねえよ」  

 

 我知らず口を衝いた弱音に返って来た返事、驚いてジェフリーが振り向けば声の出所には熱気バサラが立っていた。

 

「バサラ」

 

「あのチビに悪いと思ってんなら、連れ戻してアンタ等が頭を下げりゃあいい。簡単な事じゃねえか」

 

 大人であれば見栄やプライドなど様々なしがらみで困難になる事をさも当然のように言い放つバサラ。

 

 自分を偽らず歌声一つで生きているバサラならではの感性だ。

 

「……そうだな。今回は我々が説教を受ける番か」

 

 いつもいつもあの子には雷を落としていたのだ、こちらが間違えた時にそれを拒否するのは道理が合わない。

 

 そう腹が決まれば頭に溜まった憂いや迷いも消える。

 

「オズマ少佐へ連絡を取れ。スカル小隊も捜索に加える!」 

 

 先ほどまでの陰気さを吹き飛ばしたジェフリーは何時ものように声を張り上げた。

 

 

 

 どうも、現在家出中の不良幼女なミユです。

 

 ラー・カイラム達がレーダーの外へ出るくらい離れてしまった私は、目立つ陰蜂を亜空間収納して黒ハロことサイコ・ハロで移動しています。

 

 陰蜂はおっきいから仕方ないね。

 

 あと陰蜂を収めた後にちょっと珍しい人と会う事が出来ました。

 

 それは金ピカが特徴のフェネクスっていう機体の持ち主であるリタお姉さん。

 

 このフェネクス、バナージさんが乗るユニコーンにデザインが似てるなぁと思ってたら兄弟機なんだってさ。

 

 ちなみにユニコーンが1号機でフェネクスが3号機だそうだ。

 

 特徴的な機体でガンダムだから、スーパーロボットみたいに一台きりかと思ってたけど違うのね。

 

 このリタお姉さん、私の所に来たのは色々テンパってた思念を感じ取ったからだそうな。

 

 それに関しては本当にありがたいんだけど、事情を話したらお説教を食らいました。

 

 宇宙は広くて寂しいから人間は一人では生きていけない。

 

 だからこそ他の人達と力を合わせないとダメ。

 

 私達の力はその為にあるんだって。

 

 リタお姉さんの言った事はブリュッセルであの人やシュバルツさんが私に告げた『ムスヒの巫女』の在り方にとても良く似ていた。

 

 うん、そんな力を憎しみのままに振るうのはやっぱりダメだよね。

 

 その辺はガッツリ自覚があるので反省しかない。

 

 そうして話している内に私が落ち着いたのを確認すると、リタお姉さんは宇宙へと飛んで行ってしまった。

 

 自分は鳥に生まれ変わったから、友達が迎えに来るまで思うまま飛び続けたいんだって。

 

 そう言われて気が付いたんだけど、リタお姉さんってフェネクスと一体化してたんだよ。

 

 Z-BLUEの誰かが人機一体がパイロットの理想だって言ってたような気がするけど、あれがそうなのかな?

 

 幼女には少し難しすぎると思います。

 

 そうして頭から血が下がってみると、今度は気まずさと後悔が押し寄せてくる。

 

 というか考えてみたら私がソロになるのは死ぬほど危ないじゃないか!

 

 ギレンの仲間はもちろん、ネオジオンにあしゅら男爵、インベーダーにあとはジェミニスにも狙われてるのを忘れてた。

 

 今襲われたら……あわわ!?

 

 でも、あんな事をやらかした手前みんなの所には帰り辛い。

 

 謝れば済む話なのは重々承知だけど、それが出来たら苦労はないのだ。

 

 シン兄に心配を掛けちゃってるだろうし、チビや青も置いてきちゃったもん。

 

 はてさてどうしたらいいのやら……

 

『大丈夫、ミーちゃん? いつもより体温高いけど……』

 

「……だいじょうぶ」

 

 それに加えて頑張り過ぎたのか、ちょっと身体の調子も悪くなってきている。

 

 何とかしないと本当に拙いよ……

 

 懐へ抱いたハロ・ビーに火照った額を付けながらそんな事を考えていると、警告アラームが甲高い音を立てた。

 

「……なに?」

 

『ここから少し行ったところで時空振動が起きてるみたい』

 

「……ここ、だいじょうぶ?」

 

『うん。私達がいる場所は影響の範囲外だから心配ないよ』

 

 なら安心だ。

 

 万が一この状況で別の場所に飛ばされたら、本気でみんなの所に帰れなくなる。

 

 時空振動が収まるまで安全圏で待っていると、さっきまで何もなかった場所にレーダーの反応が現れた。

 

『特機クラスの起動兵器が4、МSと同程度なのが1、あとは戦艦かな? こっちは凄いね、全長が7キロもある』

 

「……じげんひょーりゅーしゃ?」

 

『そうだと思う』

 

 ふむ、だったら接触を試みるべきだろう。

 

 次元漂流者を助けるのは私のポリシーだ。

 

「……ひーちゃん。おたすけ、する」

 

『OK!』

 

 時空振動が起こった宙域へ行ってみると、青い三角形の形をした巨大な戦艦が蒼い宇宙を漂っていた。

 

 ロボットの方はどこか鳥みたいなデザインの銀色の機体がひとつ。

 

「……さいふぃす?」

 

『どうしたの、ミーちゃん?』

 

「……たすけてっていわれた」

 

 そして昔の番長みたいな恰好をしたロボットが一つ

 

「……ばんちょー」

 

『……これ脚部に付いた下駄にしかブースターないんだけど、どうやって宇宙を移動するんだろ?』

 

 さらにはすっごい剣を背負った顔が星型のゴツいロボットが一つ。

 

『う~ん、乗っているのは随分と高齢な人みたいだね』

 

「……だいじょうぶ?」

 

『気を失ってるみたいだけど、生命反応は問題ないよ』

 

 なら安心だ。

 

 お爺ちゃんかお婆ちゃんか分からないけど、お年寄りに何かあったら私には対処できないし。

 

 そして最後は青色をしたちょっとゴツめな男性風ロボットにピンクと白の頭の両側にお団子ヘアーみたいなデザインが付いてる女性風ロボット。

 

『あ、ミーちゃん。この機体宇宙仕様になってないみたい』 

 

「……おたすけする!」

 

 気密がちゃんとしてなかったら中の人死んじゃうから!

 

 慌てた私は夫婦ロボ(仮称)をひーちゃんに解析とUGセルで応急処置を施してもらった。

 

 無断でロボットを調べちゃったのは拙いんだろうけど、緊急事態という事で許してもらおう。

 

 とにかく彼等を安全な場所へ連れて行かないといけない。

 

 このまま宇宙に漂わせて何かあったら大ごとだ。

 

 そんなワケで休憩できる場所を借りるべく巨大戦艦へ通信を繋げてみた。

 

 何度呼び掛けても返事が無くて泣きそうになったんだけど、それでも諦めずに続けていると帽子をかぶった白いお髭のお爺さんが出てくれた。

 

『君は……』

 

「……ミユ、はじめまして」

 

『う…うむ。私はタシロ・タツミ。このヱクセリヲンの艦長をしている』

 

「……おふねのまわり、ひょーりゅーしゃ、いる。やすめるばしょ、かして」

 

 そうお願いしてみたのだが、いきなりの事で事態が上手く呑み込めていないのだろう。

 

 タシロ艦長は渋い表情を浮かべる。

 

『漂流者と言われてもな……。我々も何がどうなっているのか分からん状態では……』

 

『艦長、たしかに本艦の周辺には機動兵器と思わしき反応が幾つか存在します。そしてその中は一つはサイバスターです!』

 

『なんだと!? わかった、格納庫のハッチを開けるからそこへ運び込んでくれたまえ!』

 

「……ん」

 

 どうやら銀色の鳥さんロボは彼等の知り合いらしい。

 

 好都合なんて言うと不謹慎だけど、人の命が懸かっている状況なのでありがたい。

 

 私はガイドビーコンっていう光の道しるべに従って、周りに浮いていたロボット達をヱクセリヲンへと運び込む。

 

 この船はクォーターよりずっとおっきいので格納庫にハロが入るから作業も楽だ。

 

 そうして全ての機体を収納した私はこの後どうしようかと考えた。

 

 この人達が今の次元に生きる人物ならいいけど、多分違うと思う。

 

 となれば後ろ盾が無いと生きる事もままならないし、そこを付けこまれてクロノやネオジオンに利用されたら大変だ。

 

 助けたからにはそれなりの責任というモノがある。

 

 ここは恥を忍んでZ-BLUEに帰るべきだろう。

 

 そんな事を考えていると、タシロ艦長から通信があった。

 

『聞きたい事があるのだが、そちらの方は大丈夫かね?』

 

「……ん」

 

『まず、ここは何処なのだろうか?』

 

 …………ヤバい。

 

 がむしゃらに逃げてきたから、ここが何処か分からないぞ。

 

「……ひーちゃん、わかる?」 

 

『サイド圏内から少し外れた場所だね。位置的にはこの辺だよ』

 

 私が振るとひーちゃんは地図付きで向こうに説明してくれた。

 

 ジャブ的な質問すら答えられない私っていったい……。

 

 こちらが自己嫌悪に入っている間にもタシロ艦長が放つ質問に次々と答えていくひーちゃん。

 

 幼女の口数の少なさを考えると説明なんて無理なので本当に助かります。

 

 そうしてタシロ艦長の話を聞いていると、彼が別の次元から来た事が分かった。

 

 なんでも彼等の生きていたのは新西暦という世界で、地球はバルマー帝国やキャンベル星人にゼントラーディなどの宇宙からの侵略者や宇宙怪獣の脅威に晒されていたらしい。

 

 ゼントラーディってどっかで聞いたような……なんだったっけ?

 

 あとで調べておこう。

 

 話を戻して、タシロ艦長はそんな強敵を相手にSDF・ロンドベル隊というZ-BLUEに似た組織を率いて戦っていたそうだ。

 

 そして宇宙怪獣との決戦で雷王星にある奴等の巣を破壊するために、ヱクセリヲンを自沈させて死んだはずだという。

 

 どうして艦長たちが生きているのかだけど、ひーちゃんの予測だと爆発のエネルギーによって次元を超えたのではないかとのこと。

 

 自沈当時ボロボロだったヱクセリヲンが直っている事に関しては不明。

 

 でもって鳥さんロボことサイバスターはそのSDF・ロンドベル隊にいた仲間なんだってさ。

 

 ただ多元世界な事を考えると、このサイバスターとパイロットがタシロ艦長の知る人と同じな保証はないんだよね。

 

 いわゆる別次元の同一人物って可能性もあるわけだし。

 

 まあその辺の事に関してはひーちゃんが釘を刺してくれていたけど。

 

 ちなみに説明の間、私はずっとはちみつレモンを飲んでました。

 

 こういう場面では本当に役に立たないなぁ……

 

 まあ、幼女ボディは口下手だし謎変換するから仕方ないんだけどさ。

 

 このごろはわりと思った通りに言葉が出るけど、長文の説明はまだまだ無理でございます。

 

『それで、君が保護されている部隊に渡りを付けてくれるのかね?』

 

「……ん」

 

 話の流れでこういう事になりました。

 

 もちろん幼女としても彼等をウチの部隊で保護してもらうのに否はない。

 

 ノリコお姉さんを筆頭にけっこう次元漂流者を拾ってるしね。

 

 そんなワケで肚を括った私は格納庫からハロを発進させた。

 

 Z-BLUEの居場所はひーちゃんにお願いするとして、とりあえずは事前にブライト艦長かジェフリー艦長へ話を通しておくべきだろう。

 

 こちらの作戦は開口一番『ごめんなさい!』だ。

 

 土下座する幼女に心無い言葉を掛けられるほど、艦長達も非情ではあるまい。

 

 そんなワケでシートの上で正座をしながら、ラー・カイラムへ通信を繋げようとしたその時だ。

 

 無機質かつ強烈な憎悪が私の背筋を貫いた。

 

「……ひっ!?」

 

『どうしたの、ミーちゃん!?』

 

 この感覚……間違いない。

 

「ひーちゃん。うちゅうかいじゅう、くる」

 

 私の言葉にタイミングを合わせるように歪み始める目の前の宇宙。

 

 それが治まると姿を現したのは宇宙怪獣の群れだった

 

 ミドリムシやトンガリなど前に見たモノの他にも、奥の方には紫色のイッカクのような角が付いたひときわ大きなヤツもいる。

 

 ガドライトと戦っていた時と同じ……ううん、もっと多い。

 

「ひーちゃん、いんばちつかえる?」

 

『……ごめんね、亜空間で初期の不具合を潰す為にメンテナンスしてるんだ。丸一日は使えないかな』

 

「……ん。きにしないで」

 

 点検ならしかたない。

 

 戦っている最中に故障なんかしたら大ごとだもん。

 

 とはいえ敵の数は相当なモノ、黒に進化してもハロだけだと少しばかり手に余るかも……。

 

 どうしたものかと考えていると、不意にタシロ艦長から通信が入った。

 

『聞こえるか、ミユ君! 今から格納庫の扉を開く! 中の機体たちを連れて逃げるんだ!!』

 

 何事かと繋げてみると艦長は開口一番にこう言った。

 

「……じぃじたちもにげる」

 

『本艦はクルー不足で航行する事は出来ん。オートパイロットもあるが起動まで奴等は待ってはくれんだろう』

 

 つまり迎撃もままならないってことじゃないか。

 

 このままだとヱクセリヲンは一方的に壊されるだけだ。

 

『心配する事はない。君達が逃げ切るまで何としても時間を稼いでみせるさ』

 

 モニター越しに艦長が不敵な笑みを浮かべた瞬間、私の脳裏に過るビジョンがあった。

 

 それは艦橋で安らかな表情で目を閉じるタシロ艦長と眼鏡を掛けた副長さん、その直後にヱクセリヲンが爆発するというモノだった。

 

 私達の逃げる時間を稼ぐために、この人達はもう一度船を自爆させるつもりなんだ!

 

 状況が状況とはいえ、それはナイんじゃないかな!!

 

 驚きで鈍りそうになる頭を振った私はヱクセリヲンの前へ黒ハロを移動させる。

 

『何をしている!? 早くここから離脱したまえ!』

 

「……いや」

 

 焦って声を掛けてくるタシロ艦長の言葉を私はバッサリと切り捨てる。

 

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。

 

 唖然としてる艦長に向けて、私はここぞとばかりに畳みかける。

 

「じぃじ、ミユたちがにげたらじばくするつもり。そんなのいや」

 

『君は……』

 

 私の指摘にタシロ艦長の顔に浮かぶのは図星を突かれた事への驚愕だった。

 

 一度捨てた命だからなんて思っているんだろうけど、そんなの助けられた方からしたら堪ったもんじゃない!

 

 こんなビジョンを見せられて『はい、そうですか』って逃げられるほど私は人でなしじゃないんだ。

 

「どのくらいでうごける?」

 

『なに?』 

 

『五分です。オート航行機能が起動するにはあと五分必要です』

 

 タシロ艦長に代わって私の問いに答えてくれたのは眼鏡を掛けた副長さんだった。

 

 5分か。

 

 黒ハロがどのくらい強くなったか分からないけど、そのくらいなら稼いで見せる!

 

「……それまでミユがおふねまもる。いきるのあきらめたらダメ」

 

 そう言うとモニター越しに私の顔を見ていたタシロ艦長は、根負けしたように頷いた。

 

『───わかった。だが、無理だとわかったらすぐに離脱しなさい。我々は君を犠牲にしてまで生きようとは思わん』

 

「……ん」

 

 その言葉に頷いた私は傍らで心配そうにこちらを見上げるひーちゃんへ声を掛ける。

 

「……ごめんね、ひーちゃん」 

 

『ううん。でもミーちゃんは大丈夫なの?』

 

「……だいじょうぶ」

 

 頭は少し重いけど、私だってZ-BLUEの端くれだ。

 

 シン兄の妹として無様な姿は見せられない。

 

「───クロ、ひーちゃん。いく」 

 

 私の意思を汲んで黒ハロはビット達を展開する。

 

 5分くらいなら私でもなんとかなるはずだ!

 

 タシロ艦長も格納庫の人達も絶対に守ってみせるぞ!




相場師「はっ!? アナハイムの株が落ちる気がする!」


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