幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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 書いている内にドンドン話が切れなくなっていた。

 そして気が付くと一月以上が経ち、文字数も2万字近く……

 スパロボ30前に出来てよかった


幼女とひーちゃんの奥の手

 突如として戦場に乱入した旧ジオン残党軍。

 

 それはZ-BLUE、ネオジオン双方に多大な混乱を引き起こした。

 

「チッ!? なんなんだ、コイツ等は!」 

 

 足の代わりに下半身が大型の推進装置を備えたドム、RFドム・バインニヒツと熾烈なドッグファイトを展開しつつ、オズマは舌打ちを漏らす。

 

 既存のМSよりも一回り小柄ながら大出力と優れた機動性を誇るジオン残党軍の機体たち。

 

 それらの襲撃にZ-BLUEは明らかに後手に回っていた。

 

『逃がさんぞ、戦闘機もどき!』 

 

 メサイヤに食らいつく加速を見せながら右手に構えたマシンガンを放つドム。

 

 弾丸の雨をバレルロールで回避したオズマはファイター形態のまま脚部を前方へ展開、足の裏に付いたブースターを吹かせる事で通常の戦闘機には不可能な逆制動を行った。

 

 それに意表を突かれたドムは相手を追い抜く形で背後を譲ってしまうが、パイロットも歴戦の強者。

 

『舐めるなよ! 可変機など飽きる程相手にしてきたわ!!』 

 

 下半身に備わったスラスターを器用に吹かすと、バレリーナのように回転しながらバトロイドへ変形したオズマの放ったガンポッドの弾丸を躱してみせる。

 

 先ほどまでのドッグファイトとは違い、中距離で向き合う事になった両者。

 

 肌がひり付くような睨み合いを挟み、最初に動いたのはドムだった。

 

 背中から大型の鉈を取りだした異形のМSは、それを横一文字に構えながら突撃してくる。 

 

 オズマに狙いを定めさせないようジグザグと動きながらも大型推進装置を全開にしたその加速は、まさに歴戦の技巧。

 

 ガンポッドでは仕留められないと判断したオズマは銃身を手放すとアサルトナイフを引き抜く。

 

 背部のスラスターを全開にして飛び込んでくるメサイヤへ大ナタを振るうドム。

 

 赤熱化して胸部を両断せんとする凶刃は、装甲へと食らいつく寸前であえなく宙を切った。

 

『な……!?』 

 

 何故なら懐へ飛び込むと同時にメサイヤはガウォーク形態へ変形していたからだ。

 

 MSからМA形態への変形は知っていても、その中間に化ける機体など旧ジオン兵は知らない。

 

 その無知に対するツケはコクピットを抉る超硬合金製の刃だった。

 

 操作中枢を破壊されてモノアイから光を失うドム。

 

 力なく宙を漂うそれを見下ろしながら、オズマは安堵の息を吐いた。

 

『スカルリーダーより各機へ! 乱入者はエース級の手練ればかりだ! 油断するなよ!!』

 

 オズマが警告を発する中、他のメンバーも旧ジオン軍残党と矛を交えていた。

 

 RFギャン改の振るう身の丈程の大型ビームソードを掻い潜って、シュペールラケルタの光刃で四肢を斬り落とすストライクフリーダム。

 

 他の仲間を援護するためにドラグーンを展開するも、それらの半数は上方から襲い来る数基の大型ファンネルの攻撃で撃ち落とされてしまう。

 

「これは……ニュータイプ専用機か!」

 

 フリーダム自身へも降り注ぐレーザーをバレルロールで回避しながら、内心で舌打ちを漏らすキラ。

 

 どのレベルであれ、ニュータイプ能力を持つパイロットは脅威となる。

 

 そう判断した彼は、仲間への支援を中断してストライクフリーダムを一気に加速させる。

 

 接近するガンダムの姿にファンネルに加えて、本体と有線で繋がった艦砲に迫る程の大きさをしたビーム砲も迎撃の光弾を吐き出す。

 

 自身へ迫る光の奔流を回避したキラは、その先にいるモスグリーンのモビルアーマーへとシュペールラケルタで斬りかかる。

 

「クッ! 速い!?」

 

「こんな事はもうやめろ! 憎しみで引き金を引いても何も変わりはしないんだ!!」

 

 フリーダムの攻撃を間一髪で回避したロニ・ガーベイは、グロムリン改のコクピットの中で背中に冷たいモノを感じていた。 

 

 今まで戦ってきた連邦軍とは技量も反応速度も桁が違う。

 

 シャンブロと勝手が違うとはいえ、有線ビーム砲の攻撃をああまで容易く切り抜けられたことは長いシミュレーション訓練でも初めての事だ。

 

 連邦最強と名高いZ-BLUEの実力に内心舌を巻いていた彼女だが、呑気に思案している暇はなかった。

 

 キラがさらに斬りかかってくるのを察知したからだ。

 

「うわあああああっ!!」

 

 彼我の大きさを利用し、装甲が焼かれる事を覚悟のうえで体当たりするロニ。

 

 それに意表を突かれる形で弾かれたキラはすぐさま体勢を立て直すものの、再び襲い掛かる事は出来なかった。

 

 何故なら宙を裂きながら正確無比な射撃が彼を襲ったからだ。

 

「狙撃か! どこから!?」

 

 ビームシールドを構えながら後退するフリーダムの姿に荒い息を吐くロニ。

 

 そんな彼女を野太い男の声で通信が入る。

 

「大丈夫か、ロニ?」

 

「……ありがとう、カークス。助かったわ」

 

「奴はエースだ。絶対に気を抜くんじゃないぞ」

 

 師であり第二の父である男の言葉にロニは気を入れ直すのだった。

 

 場面は移り、ここはラー・カイラムの直衛を務めるエマ率いるМS隊とアクエリオン。

 

 そこでは隻腕となったジェガンのビームライフルを掻い潜ったRFザクが手にしたビームトマホークを振るっていた。

 

「うわああああっ!?」

 

 なんとか回避行動を取ろうとしたものの、右足の膝から下を斬り落とされて吹き飛ぶハサウェイの駆るジェガン。

 

 間髪を容れずに放たれたビームマシンガンの弾幕を前に、死に体のジェガンを庇ったのはカツの乗るZⅡ2号機だった。

 

「させるかぁ!」

 

 弟分を襲う光弾の雨をミサイルに仕込んだビーム攪乱幕で無効化すると、撃ち終わりの隙を逃す事無くカツはメガビームランチャーでザクの胴体を撃ち抜く。

 

「ハサ、ラー・カイラムへ戻れ! その機体じゃ無理だ!!」

 

「クッ……」

 

 今まで聞いたことも無いカツの有無も言わさぬ口調に、ハサウェイは悔しさで唇を噛み絞める。

 

 旧ジオン軍が現れる前のギラ・ドーガの時もそうだった。

 

 エマや他のみんなが無傷で迎え撃つ中、自分だけ『極楽往生ッッ!!』という掛け声とともに仕込み杖型サーベルの一撃で左手を失ったのだ。

 

 しかも完全に見逃された上に『その執着を捨て修羅場から足を洗うがいい! でなければお主は親を地獄へ落とす事になるぞ!!』などと好き勝手な捨て台詞を吐かれる始末だ。

 

 この時点でカツ達から下がるように言われていたが、戦場に踏みとどまったのは彼の意地だった。

 

 愛しい少女を取り戻すどころか、出会う事もできずに撤退など絶対に認められなかったのだ。

 

 だが、その結果はこれだ。

 

「コイツ等……強い! ファ、ハサウェイを連れて艦へ戻りなさい」

 

「この空気の読めない送り狼は俺達が抑える。目の前で息子を殺したら、ブライト艦長に申し訳が立たないからな」

 

「そういう事だ。弾幕で奴等の足を止めるぞ! くらえ、『倍々増殖誘導弾』!!」

 

「了解! ハサウェイ、行くわよ!!」

 

 エマのMKⅡが放つロングライフルを牽制に、桂の駆るオーガスがその機動力を活かして旧ジオン軍の残党へと切り込んでいく。

 

 そしてカイエンの駆るアクエリオン・ゲパルトが18基にまで増殖させたミサイルポッドから200発を超えるミサイルを放つ。

 

 桂の突撃や弾幕によって旧ジオン軍が足踏みをする中、メタスにけん引されるハサウェイは無力さに打ちのめされていた。

 

 そして半壊したジェガンから降りたハサウェイは、あるモビルスーツへと目を奪われた。

 

 輸送用シャトルのコンテナへと飲み込まれていく白い機体。

 

 それはアムロの愛機であるνガンダムだった。

 

「これはゼータ! ようやくこっちに回してくれたんですね!!」

 

「ええ。大統領命令があったお陰でνガンダムと一緒にようやくね」

 

 呆然とνガンダム見ていたハサウェイはファの弾んだ声に我に返った。

 

 視線を向ければ恋人の愛機の前に立つファへノーマルスーツを着た女性が話しかけている。

 

「あなたは?」

 

「私はチェーン・アギ。νガンダムのメカニックを担当しているわ」

 

「ファ・ユイリイです。そういえばどうしてνガンダムをシャトルに?」

 

「大尉に届ける為よ。シャアと戦うにしろ、ジオンの残党を相手取るにしても絶対に必要になるもの」

 

 この混迷を深める戦場の中、最前線にいるアムロの元まで輸送用シャトルで突っ切る。

 

 命知らずと言うべき女性士官の言葉に、先ほどまで殺されかけた事もありハサウェイは言葉も出なかった。

 

「わかりました。私も連れて行ってください。カミーユにもゼータが必要になる筈です」

 

「分かったわ。じゃあゼータもシャトルに……」

 

「いいえ、私が操縦します。前にそうやって渡した事がありますから」

 

 そう言うと無人のゼータへ向けて格納庫の床を蹴るファ。

 

 そんな彼女を見送ったチェーンは格納がνガンダムの積み込みが完了した事を確認すると操縦席へと向かう。

 

 そんな愛する者の為に動く二人の女性を見て、ハサウェイの心の中には一つの思いが浮かぶ。

 

「僕にも…僕にもガンダムがあれば……」

 

 その呟きは格納庫の喧騒の中に溶けて消えた。

 

 

 宇宙の闇を幾条もの黄色い閃光が奔る。

 

 その中で真紅の機体を駆るシャアはコクピットの中で苦虫を噛み締める。

 

「機体をパーツごとに分離させてオールレンジ攻撃を仕掛けてくるとは……。これ程の技術を奴は何処で手に入れた?」 

 

 彼が言う通り宿縁の怨敵であるギレン・ザビが操縦するグレートジオングは、その身を頭部・胴体・両腕・腰部・両足に分かれて、彼を取り囲みながら各々のパーツが攻撃を仕掛けてくるのだ。

 

 分離したが故の小回りの良さとパーツとは思えないほどの火力、そして正確にこちらの死角を突いて動き回る判断力は、手練れの部隊を相手にするのと同等の脅威と言えた。

 

 正面の腰部、後方を陣取った両脚部、そして左右の頭上を奪った両腕部から放たれるメガ粒子砲を紙一重で躱すサザビー。

 

「……チィッ!?」

 

 そして撃ち終わりの隙を突いて包囲網が薄い部分を突破しようとしたシャアであったが、その進路上の足元で腹の中央に備わった砲口に光を湛えた胴体部分の姿に舌打ちを漏らす。 

 

 並のパイロットなら為す術無く拡散メガ粒子の雨に消えるだろうが、赤い彗星と呼ばれた男はその限りではなかった。

 

 蓄積されたエネルギーが吐き出される一瞬で、彼は左腕のシールドを胴体と愛機の射線へ差し入れたのだ。

 

 そして間髪を容れずにその盾を踏み台にして前方へ大きく加速する事で、逆天から襲い来るメガ粒子の雨を回避。

 

 さらには融解したシールドの内側に仕込まれたミサイルの誘爆を隠れ蓑とし、ビームショットライフルで胴体部分を狙撃するという神業までやってのけたのだ。

 

 だがしかし、乾坤一擲の反撃はグレートジオングの厚い装甲に届くことは無く、その手前で見えない障壁によって黄金色の一射は粒子となって散ってしまう。

 

「防御性能は特殊処理を施されたモビルアーマー並みか! それにこの動きの正確性……」

 

 不利な戦いを強いられながらも冷静に敵を分析していくシャア。

 

 自身が持ちうる最短の動きで銃口を向けようとすれば、宙を走るジオングの腕はその動きを読み取って射線を避けるように動く。

 

 一見すればニュータイプ特有の先読みに見えるだろう。

 

 しかし───

 

「そこだ!」

 

 無駄のない動きでサザビーの銃口から逃れた右腕は、フィフスの守備隊だったジェガンの残骸に紛れたファンネルによって真上、下、左上部の三方からレーザーに射抜かれた。

 

 爆炎と共に装甲を撒き散らす右腕だが、被害を受けたのは装甲のみで腕自体は原型をとどめたまま飛び去って行く。

 

 そして再び合体したグレートジオングへ果敢にビームトマホークを振るうサザビー。 

 

 ジオングの方もそろえた指先からビーム刃を形成してそれを受ける。

 

「メッキが剥がれたな、ギレン! 貴様の先読みに似た動きもオールレンジ攻撃もニュータイプの力ではない!」

 

 初見の際に感じた驚愕を怒りに変えて戦斧の光刃を押し込むシャア。

 

 対するギレンは動じる気配など毛ほども見せずに問いを返す。

 

「では何だというのだ? 答えてみせろ、キャスバル坊や」

 

「貴様はその機体を操縦してなどいない! 挙動は全てモビルドールシステムによるものだ!!」

 

 断定の言葉と共に蹴りを繰り出すサザビー。

 

 その動きを察したグレートジオングが防御の為に足を上げるが、その動きはフェイント。

 

 寸前で止めた一撃目の蹴り足を引き戻す反動をAМBACにして、逆の足をジオングの胴へ叩き込む。

 

「ふ……さすがは総帥でありながら戦場に顔を出すだけはある。キシリアがほざいた『地に堕ちた』という言葉は訂正せねばならんな」 

 

 機体のサイズ差を物ともせずに後方へ吹き飛ばされるグレートジオング。

 

 それでもなお余裕を崩さないギレンにシャアは不快げに眉根を寄せる。

 

「手品のタネが割れたにしては随分な余裕だな。そのすまし顔が何処まで続くか試してやる!」

 

 久しく忘れていたザビ家への復讐者としての荒ぶる自分を感じながら機体を駆るシャア。

 

 そしてそんな彼等の戦場に新たな乱入者が現れる。

 

 カミーユのZⅡと切り結んでいたギュネイのヤクト・ドーガ。

 

 そしてフルフロンタルを追ってリガズィを駆るアムロだ。

 

「あれはシャア! それにあの機体はジオングか?」

 

「あの機体、嫌な感じがする。いったいなんだ?」

 

 正体不明の機体と戦うシャアの姿に攻める手を止めるアムロとカミーユ。

 

 その間に2機のネオジオン所属機はそれぞれ動きを見せる。

 

 ギュネイは追撃の手を止めたシャアの元へ。

 

「大佐! いったい何をやってるんです!? 旧ジオンを名乗る奴等が乗り込んできて、戦場は混乱してるんですよ!」

 

「その混乱の元凶があの男、ギレン・ザビだ」

 

「ギレンって……一年戦争で死んだザビ家の総帥!?」

 

「どういう絡繰りかは知らんが奴は蘇ったのだ。ギュネイ、Z-BLUEと共に奴を討つぞ!」

 

「奴等と手を組むっていうんですか!?」

 

「そうだ。現在の混乱した地球圏にザビ家を復活させる訳にはいかん!!」

 

 ライバル関係にある部隊との共闘に驚きの声を上げるギュネイだが、シャアの何時にない熱のこもった声に不満を飲み込んだ。

 

 一年戦争当時は彼はまだ幼い子供だったが、その際にザビ家が何をしたのかはよく知っている。

 

 ネオジオンだって、総帥となる前から実質的にシャアがリーダーだったから所属したのだ。

 

 これがミネバを筆頭にハマーンが実権を握っていたのなら、参加などしなかっただろう。

 

「アムロ! カミーユ! 今だけでいい、手を貸せ!!」

 

「本当に奴はギレン・ザビだというのか?」

 

「今まで戦って確信した。この異様な雰囲気は間違いない。それに最初に奴を見抜いたのは巨大ハロに乗っていた少女だ」

 

「アムロさん、クワトロ大尉に手を貸しましょう。あの機体からはアクエリア市に現れた黒いクマと同じ気配がする」

 

 シャアの断言とカミーユの言葉にアムロは心の中の不信を飲み込んだ。

 

「わかった。今回だけは背中を預けるぞ、シャア」

 

「よし。ネオジオン総帥シャア・アズナブルより各員に告ぐ! 戦場に紛れ込んだ旧ジオンを詐称するテロリスト共を排除せよ! 奴等はギレン・ザビを名乗る不審者に率いられた犯罪者集団だ!! 同時にテロリスト排除までZ-BLUEへの攻撃を禁ずる! 彼等と共に敵を討て!!」

 

 シャアが残存するネオジオンの部隊へ指示を飛ばす中、アムロもまたラー・カイラムにいるブライトへと連絡を取る。

 

「聞いての通りだ、ブライト」 

 

「信用できるのか?」

 

「シャアは俺達を討つのにこんな回りくどい手は使わないさ」

 

「わかった。だが奴が我々の敵であることに変わりはない。最低限の警戒は忘れるなよ」

 

 アムロがブライトへ連絡を取る中、ギュネイもまた覚悟を決めていた。

 

 連携すればZ-BLUEに対して優位に立てるであろう旧ジオンの残党をバッサリと切り捨てたシャアの覚悟を本物だと感じたからだ。

 

 しかし彼が向けたビームアサルトライフルの銃口の前に立ちはだかる者がいた。

 

 そう、フルフロンタルの駆るシナンジュだ。

 

「フロンタル、貴様……」

 

「総帥。我々が銃を取ったのはスペースノイド独立の為。ならば、ギレン・ザビ率いる旧ジオンと協力する事こそ最適な道ではないですか?」

 

「貴様が背に庇う男はそのスペースノイドをも手に掛けた虐殺者だ。手を組む事などありえん」

 

 吐き捨てるシャアにフロンタルはコクピットの中で口角を吊り上げる。

 

「まだ私怨を捨てきれないようですな、総帥。……いやシャア・アズナブル。やはり貴様にはスペースノイドの器たる資格はない」 

 

「私は私だ、個人を捨てる気はない。邪魔をするなら貴様も排除させてもらう」

 

「私を殺せますかな?」

 

「殺さずとも無力化する術ならいくらでもある!」

 

 共に黄色の光刃を抜き放って切り結ぶ二つの赤い機体。

 

 その光景をギレンは興味深げに目を細める。

 

「あの傀儡め、本当にシャアである事を振り切ったか? いや、アレには何らかの思惑があると見るべきだな」

 

 そう断じた彼はもう一つのモニターに映った、自分へと向かってくるガンダム達の姿に口角を吊り上げる。

 

「アムロ・レイにカミーユ・ビダン。なにやら小物もいるようだが、この程度なら誤差といったところか。アレを使うにはちょうどいい」

 

 言葉と共にコクピットにそぐわない玉座のようなシートの脇にあるボタンを押すと、ジオングは再び各部位に分離してアムロたちを襲う。

 

 先ほどシャアに使った『ズィーベン・アングリフ』と名が付いた分離攻撃。

 

 しかしその動きは先ほどまでの機械的な物とは一線を画していた。

 

 それぞれのパーツが強烈なプレッシャーを放ち、貪欲かつ狂暴に獲物へと襲い掛かったのだ。

 

「各機、散開しろっ!」 

 

 アムロの指示によって包囲されまいと動くZⅡとヤクト・ドーガ。

 

 しかし、その動きを読んでいたかのように三機の頭上を取った両腕の十指からメガ粒子が迸る。

 

「この虚ろな気配……サイコガンダムに乗っていたフォウに似ている!」

 

 3人の中で最も早く己を狙う敵意に気づいたカミーユは虚空でバックステップを踏むかのようにして、ビーム砲を回避する。

   

 しかしガンダムフェイスの鼻先を掠めるような光の雨を隠れ蓑にして突撃してきた脚部に反応が遅れた。

 

「チィッ!?」

 

 咄嗟にZⅡの上体を捻ってみせるが、つま先から突き出たヒートクローによって左腕を肩からもぎ取られてしまう。

 

 攻撃を食らった反動で大きく体勢を崩すZⅡだが彼も歴戦のエースパイロット。

 

 ただやられたままではない。

 

「やるっ! でもまだ!!」

 

 食い千切った左腕を吐き捨て、旋回と共に再び向かってくる脚部に向けてビームライフルを放った。

 

 だがカミーユの放った薄桃色の光弾をジオングは物ともしなかった。

 

「!? Iフィールド!」

 

 暗色の装甲によって弾かれた自身の攻撃を見たカミーユは、咄嗟に機体をウェイブライダー形態へ変形させてヒートクローの一撃を避ける。

 

「コイツ…強い!」

 

 間髪を容れずに上から降り注ぐ右腕の放った5条の粒子砲をバレルロールで躱しながら、カミーユは敵の技量に戦慄を憶えていた。

 

 同じ頃、左のショルダーアーマーを犠牲にしてメガ粒子の雨を躱したギュネイもまた、自身の周辺を舞い踊るグレートジオングに翻弄されていた。

  

 左のビームアサルトライフルと盾に仕込んだメガ粒子砲で反撃をするものの、まるでこちらの思考を読むかのような相手の動きに放つ光弾は全て虚空へと消えていく。

 

「クソッ! なら……ファンネル!!」 

 

 残された右肩のラックからファンネルを放つギュネイ。

 

 それも加速を得る前に、彼の頭上を取った胴体部から吐き出された拡散メガ粒子砲によって撃墜されてしまう。

 

「なんだと!?」

 

 驚愕の叫びを上げて至近距離での爆発から身を護るヤクト・ドーガ。

 

 その隙にも胴体部の肩のアーマーから対艦ミサイルが放たれる。

 

「舐めるなぁっ!」 

 

 だが、ギュネイも並のパイロットではない。

 

 爆炎に機体を焙られながらも、迫り来る脅威を迎撃しようとビームショットライフルを構える。

 

 彼は迎撃したミサイルの爆炎を目くらましに、邪魔な胴体部を盾のメガ粒子砲で撃ち落とすつもりでいた。

 

 しかし彼の思惑より一瞬早く、宙を駆ける左腕の放ったメガ粒子砲がミサイルを貫いた。

 

「なっ!?」

 

 驚愕の声を同時にモニターを閃光が染め、爆発の衝撃に機体が大きく揺さぶられる。

 

 視界が潰された中でギュネイの背筋を氷を詰められたような悪寒が奔る。

 

「うおおおおっ!?」

 

 翻弄されながらもヤクト・ドーガが思い切り横に広げた右腕、それがギュネイの命を救う事となった。

 

 次の瞬間にはバーニアとAМBACで錐揉みを描くように無茶な動きを取るヤクト・ドーガの右足を、ヒートクローを展開したグレートジオングの脚部が膝から食い千切ったのだから。

 

 あの一瞬で体勢を変えなければ、赤熱化した爪が抉っていたのは胴体だったろう。

 

「クソッたれ! なんてオールレンジ攻撃の腕だ!! ギレンはニュータイプとして蘇ったとでも言うのかよ!?」

 

 胸の内に宿った恐怖を噛み潰すように、ギュネイはアームレストのコントロールボールを軋みを上げる程に握り絞めた。

 

 そしてアムロもまた苦戦を強いられていた。

  

「この敵意、さっきまで感じていたギレンとは違う! それにこの動きは……」

 

 そう、アムロにはグレートジオングのパーツが取る動きや攻め手に覚えがあった。

 

 自分とよく模擬戦を行い、不完全ながらもこちらの戦術を真似ようとする少女、ミユの戦い方に似ているのだ。

 

 一瞬、彼女が撃退されてギレンに捕らえられたかという不安が頭を過ったが、機体のレーダーでは当の幼女が乗る巨大ハロの反応は健在だ。

 

 ならばこれは一体……?

 

 思案しながらもビームショットライフルを連射しながら小刻みに動き、ダミーバルーンを放出して敵の狙いを散らすアムロ。 

 

 腰部と頭部が放つ粒子砲でダミーたちが蒸発する中、間合いを詰めた彼が選んだ攻撃は盾による打撃だった。

 

 重い反動と共にモノアイの部分に打撃を受けて大きくのけ反るグレートジオングの腰部。

 

 グレートジオングは既存のモビルスーツの倍近い大きさを誇るが、それは全体像としての話。

 

 腰部のみならば、リガズィの3分の2程度しかない。

 

「たとえIフィールドを積んでいてもこれなら!!」

 

 そして相手が怯んだ隙にアムロはグレートジオングに張り付けるかのようにシールドをパージ。

 

 その内側に格納されたハンドグレネードに向けて頭部のバルカン砲を叩き込んだ。

 

 誘爆したハンドグレネードの上げる炎の中に消える腰部のシルエット、そこへダメ押しとばかりに腕に仕込まれたグレネードランチャーを叩き込むアムロ。

 

 しかしその攻撃も有効打にはなり得なかった。

 

 吹き上がる紅蓮の中を突っ切る形で現れる影。

 

 その姿にアムロは反射的に左手をガードに回すも、煤と煙を上げる腰部が放った蹴りは容易くその腕を跳ね上げる。

 

「フレームだけなのに、なんてパワーだ!?」 

 

 驚きながらもアムロは大きく崩れた体勢を整えようとする。

 

 しかし、それよりも先にジオングの頭部から放たれたメガ粒子砲がリガズィの顔半分と左腕を根元から削ぎ落してしまう。

 

「チィッ!」 

 

 メインカメラが途切れ衝撃がコクピットを揺らす中、舌打ちを漏らしながらリカバーに勤しむアムロ。

 

 その光景をギレンはシートの上で足を組み、頬杖を突きながら眺めている。

 

「ここまでだな、連邦の白い悪魔」 

 

 動きの鈍いリガズィをモニターの照準が捉える中、怨敵の最後に感慨を抱くことなく冷たく呟くギレンだったが、とどめの一撃が放たれる事はなかった。

 

 突如として宙を裂いた赤いビームが腰部と頭部に襲い掛かったからだ。

 

「ほう、ミラージュコロイドか。あんな物を残していたとは思った以上に頭が回るらしいな」  

 

 全天周囲モニターが拡大した先に映るのは、ガラスのような粒子を脱ぎ捨てながら姿を現すМSサイズのハロだった。

 

 

 

 

「……ひーちゃん、ひだりうえ!」

 

『ああもう、しつこい!!』

 

『ぐわああああっ!?』

 

 左から来る大型の光弾を躱しながらハロがレールガンを放つと、ビームを放ったドムとかいうロボットは顔面と両足を砕かれて後方へと吹っ飛んでいく。

 

 あれからどのくらい敵を叩いただろうか?

 

 私達の周りには頭や両手足をもがれたジオン系のモビルスーツの残骸が無数に漂っている。

 

『ミーちゃん、大丈夫?』

 

「……あのひとたち、いや」

 

 陰鬱に沈む私の気持ちを汲み取ってか、幼女ボディの口から弱音が漏れる。

 

 けれど、これは仕方が無いと思う。

 

 さっきまで戦っていた旧ジオンの人の心は本当に酷かったのだ。

 

 彼等はひたすらに連邦を恨んでいた。

 

 一年戦争という戦争で敗残兵になって、ジオン狩りで動物のように追い回されて戦友を失った。

 

 戦後のゴタゴタで家族が殺された。

 

 負けた事が認められない。

 

 戦友の、恋人の、死んだ家族の無念を晴らさずにいられない。

 

 連邦政府が憎い。

 

 連邦軍が憎い。

 

 連邦市民が憎い。

 

 アースノイドが憎い。

 

 地球が憎い。

 

 誰も彼もが心が捻じ曲がるくらいの負の感情を抱いていた。

 

 20年近くも持ち続けた憎悪の感情に自分でも歯止めを掛ける事が出来なくなっていた。

 

 中には自分は何故連邦を憎んでいるのかすら分からなくなっている人もいた。  

 

 そんなドロドロとした感情を向けられるのは、正直言ってキツかった。

 

 マリーメイアの兵隊さん達が持っていたような誇りや信念じゃない。

 

 彼等は様々な理由が上乗せされた『自分が納得できない』という感情で戦っている。

 

 だから地球がどうなろうと関係ない。

 

 宇宙にあるジオンのコロニーだってどうでもいい。

 

 連邦に一泡吹かせられればいい。

 

 あわよくば戦争に勝てればいうことなし、なんて後の事など何も考えずに思っているのだ。

 

 そんなエゴの塊のような心に飲み込まれないようにするのは酷く疲れる。

  

 隕石落としを止める為に焦っている今なら猶更だ。

 

『ミーちゃん、あんな奴等の事なんて気にしちゃダメだよ。アイツ等は勝手な人間だから』 

 

「……ん」

 

 私はひーちゃんの言葉に頷くと無理やりに頭を切り替える。

 

 彼等がそんな単純な物じゃないのは知っている。

 

 連邦政府や軍を恨むに足る理由がある事だって理解した。

 

 でも、それは普通に生きる人達を虐殺していい理由にはならない。

 

 この隕石を落としてしまったら、きっと……きっと彼等もいつか後悔するはずだ。

 

 そうならない為にも止めないといけない。

 

 そうして私達はようやく隕石の先頭へ辿り着いた。

 

「……どうするの?」

 

『今から隕石に取り付いて押し返すんだよ』

 

 これを押し返すってマジで?

 

「……できるの?」

 

『正確に言うと速度を緩めている間に細工をするってところかな』

 

 ……なるほど。

 

 私がそう納得するとハロはまんまるな体から両腕を伸ばす。

 

 そして球体のような掌を展開すると大きなスパイクを生やしてそれを隕石へと突き立てた。

 

『今からフィフスのエンジン制御にアクセスするね。悪いけど、ミーちゃんは敵の迎撃をお願い』

 

「……まかせて」

 

 そう言っている間にも私達を見つけたジオン軍の兵士達が集まってくる。

 

 機体種類はザクとグフとドムか。

 

 ようやく名前を憶えられたよ、まったく。

 

 申し訳ないけど、ひーちゃんのフォローがほとんどない今は手加減なんてできない。

 

 私はハロビットを展開すると、向かってくる敵集団を取り囲むように配置する。

 

『ビットだと!? 奴はNT専用機か!』

 

『舐めるなよ、連邦! サイコミュ技術はこっちに一日の長があるんだ!!』

 

 それを見て武器を構える彼等だけど……甘い。

 

 私はジオン軍のMSを取り囲む中の十機に口からメガ粒子砲を放つと、その後方に控えた一団を奴等へ突撃させる。

 

『な……ビットをこちらへ向かわせるとはどういうつもりだ!?』

 

 メガ粒子砲をよどみない動きで躱しながら、突撃するハロビット達に銃口を向ける。

 

 けれど戸惑っているせいか、その動きは遅すぎる。

 

「……ハロたち、ぱんち」

 

 球体ボディから腕を生やしたビットは銃口を跳ね上げながら懐に飛び込むと、もう一方の拳を敵のボディに深々と突き刺した。

 

『ぐわああああああっ!?』

 

 強烈な破砕音と共に装甲の破片を残して吹っ飛ぶジオン軍のMS達。

 

 そこに後方へ残っていた残りのビット達がメガ粒子砲を浴びせかける。

 

 幾条もの赤い光が宇宙を駆けたその後には、手足を失ってダルマになったジオン軍MSの成れの果てが残っていた。

 

 前にも言ったけど掛けられる手心はこれが限界。

 

 あとはどうにか自分で生き残ってほしい。

 

 これで一息つけるかと思っていたのだけど、そうは問屋が卸さなかった。

 

 隕石を押し返す形で張り付いている私達はさぞかし目立つのだろう、ジオンの軍人たちはワラワラとやってくるのだ。

 

 正直お腹いっぱいだけど、そんな我儘を言っている状況じゃない。

 

 ひーちゃんやZ-BLUEの皆も頑張っているんだから、私も気合を入れないと!

 

「……だからダインスレイブはっしゃ」 

 

『なっ! はや……うわあああああああっ!?』

 

 気合たっぷり(当社比)で放った鉄杭は当たった場合はもちろんのこと、余波でも敵MSを破壊して宇宙の虚空へと消えていく。

 

 前々から思ってたんだけど、このダインスレイブって本当はどんな使い方をするんだろうね?

 

 モビルスーツ相手に撃つのはオーバーキルっぽいんだけど……

 

 とはいえ、これがハロのメイン武装みたいなので、使わないという選択肢はない。

 

 極力コクピットは狙わないようにして、自称ベテランパイロットの皆さんの腕を信じるしかないのだ。

 

 そんな感じでバンバン撃ちまくっていると、ハロビットを通して広げた意識の網の中に妙な物を二つ感じた。

 

 一つはラーカイラムから出ていく二つの気配。

 

 片方はファさんだって分かるんだけど、何故か薄っすらカミーユさんの気配もする。

 

 そしてもう片方は知らない人で、こっちは薄いアムロ大尉の気配と一緒なのだ。

 

 いったい何なのかと思ったが、こういう物は考えて分かるものじゃない。

 

 気になった私はハロビットの一つをファさん達に付ける事にした。

 

 そしてもう一つの気配は、例のギレンとシャアが戦っている場所からだ。

 

 今あそこにいるのはアムロ大尉とカミーユさん、ネオジオンのMS隊長の一人とシャア、そしてフロンタルとギレンの六人。

 

 ……六人のハズなんだ。

 

 けれど、あそこから確かに感じる。

 

 私の妹、ミウに似た気配を。

 

 ギレンは私を作った人間だと言っていた。

 

 なら、ミウと一緒にいてもおかしくはない。

 

 私達の製造目的を思えば戦場に出している可能性だってある。

 

 考えれば考える程に嫌な予感が止まらない私は通信を開いた。

 

 この状況で私が頼れるのは一人しかいない。

 

『ミユ、どうした?』

 

「……にぃに、アムロたいいのところ、いって」

 

 モニターに現れたシン兄は私の言葉に戸惑いの表情を浮かべる。

 

 いきなりこんな事を言ったら、そりゃあワケが分からないだろう。

 

 でも時間がない。

 

 ミウがギレンに操られてアムロ大尉達と戦っているかもしれないのだ。

 

『ミユはフィフスを抑えようとしてるんだろ? だから俺もそっちに行こうと思っていたんだけど』

 

「……むこうにミユをつくったひと、いる」

 

 私を説得しようとしてたシン兄の言葉は、この言葉でピタリと止まった。

 

『本当なのか?』 

 

「……ん。ギレン・ザビっていってた」

 

『ギレン……たしかカミーユ達の世界にいたジオンの総帥。けど奴は死んだはずじゃ……』

 

「……そこはわからない。でも、ミユのいもーとがいるかも」

 

『妹って……まさか!?』

 

 私の言葉を聞いたシン兄の顔が怒りに染まる。

 

 私の出生はシン兄にとっては鬼門だ。

 

 こういう言い方はしたくないけど、マユ姉の存在を貶めているも同然だからだ。

 

「……いんせきはミユとひーちゃんでなんとかする。だから、いもーとをたすけて」

 

『───ああ、任せろ!』

 

 力強く頷いてシン兄との通信が切れる。

 

 次に私はシャア達のいる場所の隕石に残した特別製のビットに意識を繋げる。

 

 ひーちゃんが言うにはこれは『クリア・ビット』といって、ミラージュコロイドという技術を使った目にもレーダーにも映らない優れ物だそうだ。

 

 隕石を壊す時に助けになればと置いておいたんだけど、こんなところで役に立つとは思わなかったよ。

 

 そうして隕石から宇宙へビットを飛ばした私は、ハロのカメラを通じて頭の中に浮かんでくる光景に思わず息を呑んだ。

 

 そこには左腕と顔の半分を吹き飛ばされたリガズィが、バラバラになったギレンの乗るロボットにやられかけていたからだ。

 

「だめっ!」

 

 クリア・ビットは攻撃をしようとすると透明化が切れちゃうらしいんだけど、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

 ハロの口から放たれたビームはギレンが乗るロボのパーツには当たらなかったけど、その間にアムロさんは体勢を立て直してくれたようだ。

 

『ミラージュコロイドを流用した不可視のビット、我らのシステムには存在しない発想だ。フフフ……よくやった。褒めてやるぞ、マザーハーロット01』

 

「……ミユはミユ・アスカ。そんななまえじゃない」

 

『自我の確立も順調か。奴は失敗作と断じていたが、その評価は少々改めねばならんな』

 

 ハロビット越しに入ってくる通信に、私は宙に浮いたギレンロボの頭部を睨みつける。

 

 ビット一つで奴の相手をするのは難しいけどミウを助ける為だ。

 

 『出来るかできないか』じゃなくてやらないと!

 

 そう気合を入れたものの、ビットを操作しようとする私に待ったをかける人がいた。

 

 それは損傷した機体で銃を構えるアムロ大尉だった。

 

『ギレン! 貴様はミユの事を知っているのか!?』

 

『当然だ。なにせ、その娘を生み出したのは我々だからな』

 

『生み出した…だと?』

 

 ギレンの言葉に息を呑む大尉。

 

 でも私は口を挟まない。

 

 これはどのみち知られる事だ。

 

 ここで誤魔化したって、奴等が動く限りいつかはバレてしまう。

 

 だったら、変に隠し立てしても無駄だろう

 

『その通り。我々が総力を結集して作り出した究極の破壊兵器ザ・ビースト。その進化と制御を司る為の生体ユニット、それがその娘の正体だ』

 

 ギレンの言葉に続いたのは耳が痛くなるほどの静寂だった。 

 

 アイツの言葉はここにいるカミーユさんやこっちに向かっているファさん、そしてシン兄にも聞こえただろう。

 

 皆にどう思われているかを考えると胸が締め付けられるみたいに苦しい。

 

 でも、インベーダーの時みたいに顔を伏せちゃいけない。

 

 あの時、私は決めたんだ。

 

 たとえどんな生まれでも、自分の事は自分が決めるんだって!

 

「……ちがう」 

 

『ほう?』

 

「……ミユはZ-BLUEのなかま、みんなとへいわのためにたたかう」

 

『安いヒロイズムだ。それとて連邦の傀儡と何が違う?』

 

「これはミユがミユのためにきめたこと。うまれもだれのいしも、かんけいない」

 

『その意にそぐわぬ行動を強いるなら連邦であろうと叩き潰すか。───人形がよく吠える』

 

 ありったけの決意を込めて放った言葉だけど、ギレンは鼻で笑うだけで終わってしまった。

 

 それよりも彼が私を作ったのなら、絶対に聞いておきたい事がある。

 

「……ミウはどこ?」

 

『なんだそれは?』

 

「……わたしのいもーと。あなたたちはつくったはず」

 

『02の存在も感じ取ったか。まあ、あの育成方法なら知るのは当然だな。ちょうどいい、ならば貴様には自分の役目に専念してもらおう』 

 

 ギレンはそう言うと、通信モニターに複数のウインドウが展開される。

 

「……あ」

 

 そしてその中の光景を目にした私は衝撃に言葉を忘れた。

 

 なぜならそこには緑の薬液で満たされたシリンダーに入れられて無数のコードを繋がれた、私そっくりの顔をした人の頭が浮かんでいたからだ。

 

「こ…れ……」

 

『マザーハーロット計画の過程で作られたプロトタイプ、いわば貴様の姉妹だ。試作体や失敗作とはいえ、この状態でもニュータイプ能力は遜色なく使えるのでな。こうして無駄なく利用しているのだ』

 

 さっきまで感じていたミウに似た気配はこれだったのか。

 

 事実を理解した瞬間、私の胸に黒い炎が沸き上がった。

 

 アクエリア市でシェリルさんとランカさんが亡くなったと思った時と同じ……ううん、それ以上の怒りと憎悪。

 

 私は暴れ出しそうなその思いを、ギリギリのところでかみ殺そうとする。

 

「……だめ」 

 

 そうだ。

 

 ハロはクマさんが残した代替え機、間違いなく同じ機能が備わっている。

 

 私が我を忘れて怒りを解き放てば、暴走してしまうに違いない。

 

 この状況でそれは絶対に許されない。

 

 あんな風にみんなへ迷惑を掛けるなんて二度と嫌だ!

 

 カイエンさんとも約束したじゃないか、もう暴走はさせないって!

 

『精神感応の強度が低い……自分の感情を抑えているのか。ビーストの覚醒の際に余計な事を憶えたようだな』

 

『ギレン! 貴様、ミユを暴走させるつもりか!?』

 

 傷ついたリガズィの残った腕で銃を向けながら怒声を上げるアムロ大尉。

 

 けれどギレンはその言葉を鼻で笑い飛ばす。

 

『あれは暴走ではない。あれこそがマザーハーロット01とUGセル、いやアルティメットガンダム細胞の本来の役目なのだ』

 

『なんだと?』

 

 ギレンの言葉に私を思わずわが耳を疑った。

 

 あんな酷い状態を生み出す事が私の本当の役目だというの?

 

『アルティメットガンダム細胞は自己進化・自己増殖・自己再生の三つの能力を有する金属細胞だ。そして人間の精神感応によってメカニックの機能を大きく向上させる金属変化を起こす機能を持つ』

 

 貴様等もその光景を見たはずだ、そう返されるとアムロ大尉から戸惑いの感情が漏れる。

 

 それってクマさんのパワーアップやリガズィ達の進化の事なのだろうか?

 

『そしてマザーハーロット01の役目はその感応能力を駆使して、ビーストを兵器として進化させることにある。その心を憎悪に染める事によってな』

 

『どういう事だ!?』

 

『人間の抱く悪感情は強力なものだ。そして、それは容易く殺意へ変わる。あの娘が殺意を抱けば、それは感応能力によってアルティメットガンダム細胞を大きく刺激し、細胞がコアに存在するデータベースにアクセスする事でより強く凶悪な兵器へとビーストを進化させる。そして何時か全てを食らう神殺しの魔獣を生み出すのだ』

 

 私はギレンから告げられた事実に声も無かった。

 

 アムロ大尉は神殺しのくだりは分からなかったみたいだけど、御使いの事を知っている私にはその意味が理解できた。

 

 本当に……本当に私はクマさんのパーツでしかなかった訳だ。

 

『我々の目的からすれば、常に最前線で戦う貴様等が01を拾ったのは都合がよかった。もっとも奴の精神構造が戦闘に向かないという誤算もあったがな』

 

 この上ない身勝手な物言いが私の怒りをさらに煽る。

 

 でも奴のいう事が真実なら私はこれに身をゆだねる訳にはいかない。

 

 ここにいるのはひーちゃんだ。

 

 彼女を破壊兵器にするなんて絶対にいやだ!

 

 そうやって必死に黒い感情を必死に抑えていると、私の代わりに怒りをギレンへぶつけてくれる人がいた。

 

『貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 光の翼を背負ってジオングへ斬りかかったのはオーバー・デスティニーだ。

 

『その機体……貴様もマザーハーロット01の恩恵を受けたようだな、シン・アスカ』

 

『そんな名前で呼ぶな! あの子はミユ、俺の妹だ!!』

 

『下らんジョークだ。ならば、その妹の出来損ないに命を奪われるのも本望だろう』

 

 ギレンの言葉を受けて一斉に標的をデスティニーへ変えるジオングのパーツたち。

 

 だけど怒りで機体の性能を引き出しているシン兄は、襲い来るビーム達の悉くを回避すると装甲が壊れていた右腕をフツノミタマで両断する。

 

(……ありが…とう)

 

「あ……」

 

 爆発の瞬間、そんな言葉が私の心の中を過った。

 

 自分が死ぬっていうのにすごく安らいだ穏やかな想い……

 

 心からの感謝が籠ったその一言に両目から堪えきれずに涙がこぼれる。

 

 そしてジオングの弾幕をデスティニーが引き付けている間に、アムロ大尉達に新たな力が届けられた。

 

『アムロ大尉、早くこちらへ! シャトルの中にνガンダムがあります!!』

 

『チェーン! こんなところにまで来てくれたのか』

 

『カミーユ! ゼータを持ってきたわ』

 

『すまない、ファ!』

 

 カミーユさんが左手を無くしたZⅡからゼータと呼ばれたガンダムに乗り換え、アムロ大尉もシャトルの中から白と黒を基調にしたガンダムを発進させる。

 

『サイコフレームの調整はいいようだ。お陰で奴の邪気が感じ取れる』 

 

『行きましょう、アムロさん。ゼータが教えてくれる、奴はこの宇宙に存在してはいけないって!』

 

 シン兄とジオングの戦いに参加するアムロ大尉達。

 

 そしてそれはフロンタルの赤い機体をダルマにしたシャアも同じだった。

 

『ギュネイ。すまんがフロンタルの監視を頼む』

 

『わかりました。総帥も行くんですね?』 

 

『ああ。キャスバルの因縁を置いておくとしても、一人のニュータイプとして奴の存在は認められん』

 

 そう言って飛び立ったシャアは、他のパーツには目もくれずにジオングの頭部へと展開した光の斧で斬りかかる。

 

『ギレン! ニュータイプは戦争の道具ではない!!』

 

『笑えんセンチメンタルだ。戦争に特化した才能をそこへ投入せんなど、愚の骨頂ではないか』

 

 降りかかる斬撃を飛んできた脚のパーツに生えた刃物で防ぐと、ギレンは口からビームを吐いてシャアを追い払う。

 

 間合いを開けたシャアを追撃せんと腰が動こうとしたけど、それは赤く染まった物凄く巨大なビームサーベルに両断される。

 

『ギレン・ザビ! 貴様はシロッコと同じだ!! 高い位置から人の事を見下ろして、命を弄ぶことしかしない!』

 

 その斬撃は赤いオーラを纏うカミーユさんのガンダムによるものだった。

 

 彼の迎撃に動こうとした胸部も宇宙を縫うように奔るフィンファンネル、その中を駆け巡りながらνガンダムが放つビームライフルの光弾を受けて爆散する。

 

『ニュータイプは人殺しの道具じゃない! 人類の可能性を悪用する者がいるのなら、それを倒すのが俺達の役目だ!!』

 

 アムロさんの言葉と共にガンダムの目が力強くエメラルドの輝きを放つ。

 

 私はこれ以上彼等の事を見る事が出来なかった。

 

 だって、ジオングのパーツが壊される度に私の姉妹だった子の最後の言葉が頭を過るのだ。

 

 そしてその度にギレンやジオン軍への黒い感情が燃え盛っていく。

 

 私の胸の内で猛るこの思いは正当な物だ。

 

 クローンとはいえ、自分と同じ存在をあんな風に扱われて怒らない人なんているはずがない。

 

 それでも何とか抑え込まないといけない。

 

 だって、隕石はまだ地球へ向かっている

 

 これを止めないとどれだけの人が犠牲になるか分からないのだから。

 

 そうして息と共に胸に詰まった感情を吐き出そうとしたら、機体が大きく揺れた。

 

 モニターを見れば、蹴散らしたはずの旧ジオン軍がまた私達のところに群がってきている。

 

『フィフス落としの邪魔はさせん!』 

 

『連邦の蒙昧共に我らの怒りを示すのだ!!』

 

 向けられる自分勝手な怒りが鬱陶しい。

 

 これが落ちれば戦争とは無関係な普通の人が死ぬなんて事も分からないのか……!

 

『ミーちゃん、我慢しなくていいよ』

 

 ギリギリと歯を食いしばっていると、沈黙を貫いていたひーちゃんが声を掛けてきた。

 

「……ひーちゃん」

 

『私がミーちゃんの怒りを全部受け止める。暴走なんてさせない。だから、ミーちゃんは思うままに怒っていいんだよ』

 

 ひーちゃんの言葉に止まっていた涙がまた零れる。

 

 本当は感情を抑え込むのは辛いのだ。

 

 ギレン達への怒りの他にも、皆へ出生を知られた不安やミウが酷い扱いを受けいないかって心配もある。

 

 そんなグチャグチャな想いをギュツと胸に詰め込んでおくのは、息が詰まるような感じがする。

 

「……いいの?」  

 

『大丈夫。誰が何といおうと私はミーちゃんの友達だよ』

 

 ひーちゃん、ありがとう。

 

「うわあああああああああっ!!」

 

 ひーちゃんの優しさに私は心に嵌めていた枷を外した。

 

 同時にコクピットの中がサイコフレームの赤い光に染まり、ハロが大きく鳴動するのが伝わってくる。

 

 でもクマさんが暴走した時みたいに変な光景も脳裏に浮かばないし、全然苦しくも無い。

 

 ひーちゃんはちゃんと暴走しないようにしてくれているんだ。

 

 私がそう安堵の息をつく中、ビットのカメラが映すウインドウではハロの変化が見て取れた。

 

 隕石を支える丸い身体は黒く染まっていき、つぶらな瞳も赤く鋭い三白眼へと変化する。

 

 その見た目は完全に悪堕ちしたハロである。

 

『UGセル活性化率500%、サイコハロへの進化を完了。サイコフィールド出力強化、拡散光子力ビーム発射』

 

『な…なんだこれは!?』

 

『ビームシールドが効かな……ぐわあああああっ!?』

 

 ガイダンスが流れると同時に背面の装甲にスリットが入り、そこから放たれた黄金の光によってジオンのモビルスーツ達が爆散していく。

 

 そんなハロの変化が終わっても、UGセルの働きは終わらない。

 

『ミーちゃん、凄いよ! これならアレが完成させられる!!』

 

「……あれ?」

 

 テンションの高いひーちゃんの言葉に首をかしげていると、支えている隕石に大きな異常が現れた。

 

 その表面に細胞のような紫の光が奔ったのだ。

 

 そして隕石は見る間に形を変えていく。

 

 荒い岩肌は光も吸い込むような漆黒の鋼に、いびつな楕円形は頭・胸・腹部と三つの節を持った体に。

 

 胸部からはハロも容易くちょん切ってしまうほどに巨大な鋏を持った6本の足が生え、背中には暗色のプリズム光を放つ羽が生える。

 

 頭部に備わるのは巨大な複眼と獰猛な牙、そして大きく膨れた腹部の先端には全てを貫くであろう毒針が凶悪な光を放っている。

 

 胸となった部分からハロが手を放した時、私達の目の前にあったのは途轍もない大きさを誇る暗色の蜂だった。

 

 あんまりの事にポカンと口を開けていると、ハロは蜂の頭へ向けて上昇していく。

 

 そして複眼の眉間にハロが飲み込まれると、カッチンを通して蜂の情報が頭の中に流れてきた。

 

「……さいしゅうきちくへいき?」

 

『そうだよ! これからの敵は宇宙怪獣みたいに大きいし数も馬鹿みたいにいるから、ハロだとどうしても力不足になっちゃうんだ!』

 

 だから隕石を材料に新しい機体を作ったのか。

 

 でも、それっていいのかな……

 

『それじゃあミーちゃんは休んでいて。隕石も無くなったし、あとは私が蹴散らしておくから!』

 

 私も色々あって疲れているし、その申し出はありがたい。

 

 任せて大丈夫かなという懸念はあるけれど、ひーちゃんは私の友達だ。

 

 信用しないのは失礼だろう。

 

「……おねがい」

 

 ポンとシートの横に飛び出した蜂蜜レモンのストローに口を付けながら、私はひーちゃんに蜂さんの事を任せた。

 

 

 

 

 突如として巨大な蜂型の機動兵器へと姿を変えたフィフス・ルナ。

 

 敵味方共に呆然とする中、一人だけ楽しそうに笑みを浮かべる者がいた。

 

『これは興味深い。その力、試してやろう』

 

 グレートジオングの頭部でそう呟くと、ギレンは配下とした旧ジオン軍へと通信を開く。

 

『ギレン総帥! あれはなんですか!?』

 

『フィフスは奴等の手に落ちた。ギガンティックとサイサリスを出せ。核弾頭であの機動兵器を破壊するのだ』

 

 ギレンの指示でミラージュコロイドのステルスで隠れていたジオン艦隊が姿を現し、旗艦であるグワダンから二機のMSが発進する。

 

 一基は白と紫を基調にした大きく伸びた後頭部と足の代わりに生えた複数の大型スラスターが特徴の機体。

 

 もう一機はガンダムを悪し様に歪めたような凶悪な顔をした重装甲のMSだ。

 

 身の丈程もあるバズーカ砲を抱えて宇宙を駆ける両者。

 

『ターゲット・ロック!』

 

『奴が動く前に撃て! 我等の意思通りに地球へ落ちぬ石ころなど不要だ、破壊せよ!!』

 

 攻撃範囲内に巨蜂を捉えた彼等は、上官の命令によって破滅のトリガーを引いた。

 

 途端に二機が抱える砲口から、膨大なエネルギーを伴った閃光が奔る。

 

 そしてそれは巨大な閃光の球となって巨蜂を飲み込んだ。

 

『あれは……核兵器!?』

 

『ギレン……貴様ぁ!』

 

『貴様も隕石落としに使うつもりだったのだろう? 私を責められる立場ではなかろう』

 

 宇宙を灼く閃光にカミーユは呆然と呟き、その使用を命じたギレンへシャアは非難の声を向ける。

 

『そんな……ミユぅぅぅぅっ!?』

 

 そして人類の業の代名詞である破壊兵器の最中に妹がいる事に悲痛な声を上げるシン。

 

 この瞬間、戦場にいるすべての人間が生れ落ちたばかりの巨蜂が終焉を迎えた事を確信していた。

 

『バーリア〜!平気だも〜ん!』

 

 しかしその思いは場違いな程に明るい声によって覆されてしまった。

 

 閃光が収まり濛々と立ち込める爆煙を切って現れたのは無傷の巨蜂だった。

 

『馬鹿な……』

 

 艦隊すらも壊滅させる戦術核、それを二つも直撃したにも関わらず平気な顔の化け物にグワダンを任された艦長は絶句する。

 

『全裸の変態も含めてジオンってさ。ミーちゃんを怒らせたり悲しませたり、本当に余計な事しかしないよね』

 

 この宙域すべてに響く明るい少女の声。

 

 だというのに、その声音の奥には聞く者全ての背筋を震わせる悪意が宿っている。

 

『よってたかって小さな女の子をいじめるような組織、必要ないと思うんだ』 

 

 自身の主の片割れであるエレメント・ドールの言葉と共に巨蜂は複眼に妖しい光を灯す。

 

『だからさ、───死ぬがよい』

 

 最終鬼畜兵器『五月・陰蜂』起動。

 

 

 




 さようなら、バンダイナムコ。

 こんにちわ、CAVE開発。

 君は生き残る事が出来るか?(乗機はザク)
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