幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
それは再果てまで続くような闇の中を無限に揺蕩う夢。
今までのような滅びのビジョンを見る事は無いが、その代わりに得体のしれない不吉さが付き纏う不快なものだ。
永劫に続くかと思っていた黒の世界だが、そこに一つの変化が訪れた。
何の前触れもなく、スルリと一人の女が現れたのだ。
白い髪に眼帯の意味を成していない網目のような代物を閉じた左目に纏わせた、煽情的な衣服を身に纏うミコノくらいの歳の女。
それはぐったりと倒れたままのカイエンを見下ろすとこう言った。
「中途半端に何かと繋がっていると思って来てみたら、君がそうか」
いったい何の事だと疑問を吐こうとするが、女は人を食ったような笑みでカイエンの口に人差し指を当てる。
「何も言わなくていい。君のことは君自身以上に分かっている」
デタラメだと思った。
ふざけるなと叫びたかった。
けれど、女から発せられる得体のしれない圧がカイエンの全てを縛り付けた。
「いつ起こるかもしれない凶事ばかり目にするのはさぞ辛かっただろう。だから、お詫びとして君の力を強化してあげよう」
そういうと女はカイエンの目に触れるか触れないかの距離へ手を翳した。
「並行時平までも見通し、絶望の原因や過程、その結果までも詳細に知れるように。もっとも矮小な人間一人では防ぐ事の出来ない代物ばかりだけどね」
言葉と共に女は姿を変えていく。
人間の女から絶えず形や大きさを変える玉虫色の輝く球体の集合体へ。
あまりに冒涜的でおぞましい姿に目を見開くカイエン。
そして彼の顔の前に翳す手であった球体が割れると、中から醜悪で黒々とした肉塊が漏れ出してくる。
生臭くどこか冷たい濡れた肉の感触を味わった瞬間、カイエンがもつ認識の全てが反転する!
「いあ いあ んぐああ んんがい・がい! いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん! いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ んがあ んんがい わふる ふたぐん よぐ・そとおす! よぐ・そとおす! いあ! いあ! よぐ・そとおす! おさだごわあ!」
「カイエン、しっかりして! 誰か! お医者様を!!」
カイエン・スズシロ、正気値のこり1!!
今日のネオジオン
数日前の晴れやかな雰囲気とは打って変わって、総帥の執務室にはどんよりとした暗雲のような雰囲気が立ち込めていた。
「……どうしてこうなった?」
「やはり、例の選曲が致命的だったかと」
血を吐くように呟くシャアにナナイは痛ましい物を見るかのような目を向ける。
フロンタルの命を奪うことなく軍への影響を削ぎ取り、さらには社会的に抹殺する妙手のハズだった策は、まさかの展開を呼び込むことになってしまった。
現在のネオジオンは醜聞やスキャンダルの処理で連邦との戦いもままならないのだ。
他にもインベーダーや宇宙魔王の軍勢などに警戒せねばならないのに、さらに敵が増えるなど悪夢としか言いようがない。
「それ以前にどうしてあの曲を選んだのだ? 我々は芸能事務所にそんな注文はしていないだろう」
「問い合わせてみたところ、担当したプロデューサーの判断によるものだと答えが返ってきました」
「プロデューサーだと?」
「はい。かなりの売れっ子で名前をプロデューサー・ナイと」
「プロデューサー・ナイ……すまないがその人物について調べてくれ。もしかしたら何処かの諜報員の可能性がある」
「わかりました」
一礼してナナイが部屋から退出した後、シャアは苦悩と共に机の上で組んだ手の上へ己の額を押し付けた。
「……本当にどうしてこうなったぁぁぁ」
絞り出すような苦鳴と共に黄金の髪がパラパラと木目の上に落ちる。
もしかするとネオジオンはストレスで滅ぶかもしれない。
◆
どうも、色々無事に終わってホッとしている幼女です。
激戦+神様道場も無事に終わり、私は甲児お兄さんの運転でマジンガーZに戻った神様とクォーターの格納庫に戻ってきました。
精神的に大変疲れて目蓋が少しばかり重いけど、この後に待っている再会を思うと幼女ボディも頑張れるというものだ。
「姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そんな私に飛び込んできたのは、感極まったミウだった。
脳の働きが鈍っているところに予想外の襲撃だけど、慌てたり避けたりしたらお姉さんの座が廃る!
ここはガッチリ受け止めて姉としての威厳を!
「うにゅうっ!」
威厳をぉぉぉぉぉ!!
「へぷっ!?」
……ダメでした。
このちんまい身体では大きくなった妹のダイブには耐えられなかった。
むこうはお墓で見たマユ姉とおんなじくらいに育ってるから仕方ないね。
「姉さま…姉さま……」
でもさ、こんな風に涙ながらに慕ってくれる妹は可愛いモノなのですよ。
だから私は懐を埋めるミウの頭を優しく撫でながら声を掛けた。
「…だいじょうぶ。ねえね、ここにいる。ミウはいいこ、いいこ」
前に会った時は私でも抱っこできるくらい小さかったのに、本当に大きくなったなぁ。
理由は褒められた物じゃないんだろうけど、お姉ちゃんは感無量です。
「ぼ…ぼへぇぇぇぇぇぇ」
おや? 何だか妙な声が……
「……ミウ?」
「な、何でもないですわ! それより、もっとギュッってしてください!!」
「……ん。ミウ、あまえんぼうさん」
けど、こういうところもまた愛い奴だ!
リクエスト通りに栗毛に覆われた頭をギュっとしていると、今度は赤ハロ形態のひーちゃんが飛んできた。
『ミーちゃん、大丈夫!? 妙な洗脳とかされてない?』
「……だいじょうぶ。しんぱい、ありがと」
うん、神様は洗脳なんて物騒な事はしないからね。
とはいえ、ここまで心を砕いてくれるのはありがたい。
やはり持つべき物は友達だなぁ。
感謝を込めて撫でてあげると、ひーちゃんは嬉しそうな声と共にハロの目をピコピコと光らせる。
相手が喜んでくれたら、もっとやってあげたいと思うのが人の性。
なので二人が満足するまでよしよししてあげた。
他の皆やメカニックさん達から生温かく見られていたけど、気にしないったら気にしない!
こうしてナデナデしてあげること数分、満足した二人が立ち去ったので私も腰を上げようとすると、目の前に影ができた。
その影とは神様道場の時に欲望を爆発させたレイお姉さんだ。
「私も頑張ったわ。だから、ご褒美」
そう言いながらどこから取り出したのか、私の髪と同色の猫耳ヘアバンドを差し出すレイお姉さん。
くっ!? ご褒美と言われては断れない!
こうなったら幼女は度胸だ!
年上のお姉さんもクレバーに抱いてやろうじゃないか!!
「もふもふ……」
「にゃぁぁぁぁぁ」
そのあとネコ耳を付けた途端に抱き上げられた私は、レイお姉さんの思う存分モフモフされたのだった。
◆
さて、幼女的にはお部屋で一息つきたいところだけど、戦後処理はまだ終わっていない。
今早急に為すべき事は、ズバリごめんなさいである。
「……みんな、ごめんね」
そんなワケで事情の説明の為に会議室へ集まった皆の前で、私は深々と頭を下げた。
神様道場はこれからの為にも必要なんだけど、危ない事をさせたのは事実だからね。
私も巫女の端くれ、名代として謝罪すべきだと思うの。
「いや、ミユが謝る事は無いだろ」
「それよりもあのマジンガーZEROというのは何なんだ? それが分からんのでは、この先マジンガーZと共闘はできんぞ」
そうして返って来たのは戸惑い気味のアルトさん、そして原因を思案している相良軍曹の言葉だった。
「それについては俺から説明するよ」
そんな問いかけに手を上げたのは、マジンガーの所有者である甲児お兄さんだった。
そこから神様の事についての説明があったんだけど……幼女にはイマイチ理解できなかった。
えっと……甲児お兄さんのお爺ちゃんが機械で自分の記憶に刻んだ研究データを何度も何度も過去に送って、永久に近い時間を掛けて研究開発された究極のマジンガー。
そしてそのマジンガーが意志を持ち、ちょーすごい力を使って他の世界にあるマジンガーに干渉してその経験と力を集めて進化したのが神様……らしいのです。
間違っているところはいっぱいあるだろうけど、私のちんまい頭脳ではこれが限界でした。
そんな神様の目的は自分が最強のスーパーロボットだと証明すること。
なるほど、神様が例の光子力ロケットパンチみたいに力を求めていたのはそういう事なのか。
巫女として勉強不足に恥じ入るばかりである。
「マジンガーについては分かったけど、どうしてミユちゃんが巫女に選ばれたの?」
「というか、療養中の子供を攫うなんて思慮が足りてないんじゃない?」
「それについては分からない。ただ、ミユちゃんがZEROを感じたからこそ、アイツはゼウスを排してこの世界のZに干渉できたと言っていた」
カナメお姉さんの疑問の後に憤慨するヨマコ先生。
その二人に甲児お兄さんは申し訳なさそうにそう答える。
「ミユ。ZEROを感じたのっていつ頃のことだ?」
隣に座るにぃにの問いかけに私は少し思考を巡らせる。
「……マジンガーをはじめてみたとき」
そう、あの時一瞬だけ黄金の神様が見えて、すぐに今の神様に入れ替わったのだ。
多分、あの金ぴかさんがゼウスなんだろう。
居場所を奪ってしまってすみませぬ。
「マジンガーZEROについての話はここまでにしよう。次はそこのお嬢さんについて事情を聞こうか?」
そう納得していると、隼人さんは私の膝に頭を乗せているミウへ視線を向ける。
「……ミウ」
「姉妹団らんの時を邪魔しようなんて、随分と無粋な人ですわね」
「此方の質問に答えたら幾らでも甘えさせてやるさ。さっさと知っている事を吐くんだな」
怖い笑みを浮かべる隼人さんの返しにため息を吐くと、ミユは会議室の壇上に立った。
「では少し遅れましたけど、改めてご挨拶を。Z‐BLUEの皆様、始めまして。私の名はミウ。ジェネレーション・システムの自己存続計画『マザーハーロット・プロジェクト』によって生み出された2体目の完成体です」
「ジェネレーション・システム……。それが君とミユを生み出した者の名か」
「そのとおりですわ、アムロ・レイ大尉。ジェネレーション・システムはガンダムが存在する時空に存在し、その世界の全てを統括する超密度複合型システムのことです」
「つまり、我々の世界にも存在するという事か」
「ええ。宇宙世紀、アフターコロニー、アフターウォー、コズミック・イラ、そして2300年以上続いた西暦世界。他にもポスト・ディザスターや未来世紀など、ガンダムが存在した世界は多く存在します。そしてジェネレーション・システムはその全てに存在して世界の歴史を観測・記録しているのです」
ゼクスさんの問いに頷くミウ。
平然と言ってるみたいだけどトンデモない存在ではないかな、これって。
「聞く限り随分とご大層なシステムだが、ソイツが自分を存続する為に動いた理由はなんだい?」
「それは貴方が引き起こした事が原因ですわ、桂木桂さん」
「時空振動弾によるブレイク・ザ・ワールドか」
ブライト艦長の言葉に頷くと、ミウは流暢に言葉を紡いでいく。
うぅ…我が幼女ボディもあれくらいしゃべってくれないかなぁ。
「ご名答。ブレイク・ザ・ワールドと新世時空震動、2度の巨大な時空震によって交わる筈がない各世界のジェネレーション・システムが出会う事になりました。その結果、システムは統合同化を繰り返す事で肥大し、奴等に目を付けられる事になりました」
「奴等?」
「その事について語る前に少し保険を掛けておきましょう。そこのプチッガイ、結界をお張りなさい」
ミウが私の隣にいたアオへそう言うと、部屋全体は不思議な気配に包まれる。
これが妹の言っていた結界なのだろうか?
「さて、少々事情がありまして、奴等の名を告げることは出来ません。なので便宜上テンシと呼ばせていただきます」
ミウがそう告げた瞬間、椅子を倒して立ち上がった人がいた。
驚愕と畏怖、そして憎悪の気配を撒き散らしているヒビキさんだ。
「テンシだと!? お前、奴等について何か知っているのか!」
「ヒビキ君、落ち着いて!」
スズネ先生の制止に耳を貸す事無く、ヒビキさんはズンズンとミウの元へ向かっていく。
むむ、これは妹を護る為に盾となるべきか?
え、ダメ?
行ってもネコみたいに首を摘まれて、脇にどかされるだけだって?
ひーちゃんもチビも酷いや。
「ええ。ですが、多くを口にすることは出来ませんわ。下手をすれば地球が消し飛ばされるかもしれませんもの」
そんな私の葛藤を他所にミウへ掴みかかろうとしていたヒビキさんは、その言葉に動きを止めた。
話の内容は物騒だけど姉としては一安心である。
「地球を消し飛ばすって……奴等はそんな事が可能なのか?」
「彼等は事実上この宇宙を支配する存在。そして自らを徹底的に秘匿しています。なので自分達について知る者がいると気付けば星くらい平気で消滅させますわ」
皆が息を呑む中、私はミウの言葉に内心同意した。
ミカゲさんとの繋がりの中で見せてもらったテンシは、気に入らないという理由だけで星どころか銀河ごと消し去っていた。
奴等ならそのくらいはやりかねない。
「話を戻しますわね。テンシは人類のシンカを望んでいません。ですのでニュータイプやイノベイター、Xラウンダーにコーディネーターなど、新人類と言われる者達のデータを多数保有する自らが消去される可能性は高いとシステムは判断したのです」
「だからお前達とクマを生み出したという訳か」
「ええ。奴等を抹殺するための兵器として」
刹那さんの言葉に頷くミウ。
そんな様子を見て、ミウと一緒に来てくれた黒いМSのパイロットさんが口を開く。
あ、まだあのお兄さんに自己紹介していないや。
「私は赤い獣に跨っている一人の女を見た。この獣は全身至るところ神を冒涜する数々の名で覆われており、七つの頭と十本の角があった。女は紫と赤の衣の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものや、自分の淫らな行為の汚れで満ちた金の杯を持っていた。その額には、秘められた意味の名が記されていたが、それは「大バビロン、淫らな女達や地上の忌まわしい者達の母」という名である」
彼が告げたのは何かの物語の一節、けれど酷く悪意に満ちた文章だった。
「計画名のマザーハーロットは目的を考えるにバビロン・ザ・グレート、もしくはザ・マザー・オブ・ハーロット・アンド・アバマネイション・オブ・ジ・アース。聖書に登場したローマや腐敗の象徴たる大淫婦バビロンの事だろう」
あのお兄さんはどうやら博識なようだ。
ところでインプというのはどういう意味なのだろうか?
「……にぃに。ミユ、いんぷ?」
「ちっ、違うぞ! ミユもミウもそんなのになっちゃダメだ!!」
分からないのでにぃにへ聞いてみると、何故か顔を真っ赤にしてなってはいけないと言われた。
むむ…もしかして悪い人なのだろうか?
「大淫婦バビロンってのは何なんだ?」
「もしかしてエッちべっ!?」
「ボスぅ、ミユちゃんがいること忘れちゃだめよ」
首を傾げる甲児お兄さんの横では、ボスさんがさやかお姉さんに張り倒されていた。
うん、淑女としてはグーパンは流石にダメだと思います。
「大淫婦バビロンは『ヨハネの黙示録』17章1節から19章2節にかけて現れる魔人だ。赤と紫の衣を纏い、黄金や真珠、宝石で出来た華美な装飾品をつけて「憎むべきもの」と自身の姦淫で汚れた黄金の杯を手に持つ。その額には「大いなるバビロン、淫婦どもと地の憎むべきものらとの母」という自身の名が記され、キリスト教徒の血に酔いしれているという」
私達を生み出した計画、その名前の元ネタはゾッとするような代物だった。
「そして彼女が騎乗する獣は666の獣、マスターテリオン、メガセリオンなど複数の呼び名を持つ。黙示録においてそれは地獄より現れ、地上を支配する獣の一つとされている。この獣は反キリスト、偽りの救世主の化身とも言われているので、そこをテンシ殺しと掛けているのだろう。とはいえ、神殺しを望むのならば随分と皮肉が利いた計画名だと思うがね」
「どういう意味ですの?」
「黙示録では大淫婦バビロンは神の裁きを受け、乗っていた獣によって食い殺されるとある。この末路を思えば付ける名前を間違えていると思わないか?」
そう皮肉げに笑うお兄さんにミウは深々と溜息をつく。
「そういう事は本人に言うべきでないのではなくって?」
「君達は淫婦などとは程遠いだろう。仮に何かの暗喩だとしてもそんな目に遭わせるつもりはないから、安心するがいい」
そう言ってニヒルに笑う紫髪のお兄さん。
うん、そういう態度がすっごく絵になる人だ。
「君を作り出した者の正体や目的は分かった。それで君がここへ来た理由はなんだ?」
「もちろん、姉さまと生きる為ですわ!!」
オットー艦長の問いに胸を張って答えるミウ。
そう言ってもらえるのは姉として嬉しい。
「その為だけに組織を脱走したというのか?」
「家族といる以上に大切な事などありません!!」
更なる質問を投げかけたオットー艦長だけど、ミウの堂々とした言い切りに毒気を抜かれたように黙ってしまった。
その後、何やら専門なお話をしていたようなんだけど、幼女には2割も理解できなかった。
「……ミユ、おばかさん」
『そんなことないない! あとで分かりやすく説明するから元気出して!』
うぅ……ひーちゃんの友情が目に染みるなぁ。
◆
あの話し合いから3日が経ち、皆がそれなりに落ち着くと次の方針が部隊に伝えられた。
ブライト艦長の話だと再び部隊を二つに分けるというのだ。
なんでも機械獣にミケーネ、さらには神様と過酷な連戦を行ったことから機体の修理と本格的な点検が必要になったらしい。
だけどZ‐BLUEも今や大所帯、一つの拠点で面倒を見るのは難しい。
なのでスーパーロボットは極東支部、МSやATにアームスレイブなんかはメリダ島で直すんだって。
幼女的には部隊が分かれるのは好きじゃない。
皆が一緒じゃないと不安で仕方が無いからだ。
いきなり仲間が亡くなったなんて話を聞いたら、もう泣くだけじゃすまないと思う。
けれどジェミニスやネオジオン、あとミケーネの神々が倒されているどさくさに逃げ出した宇宙魔王など地球を狙う敵は多い。
Z‐BLUEは防衛の要なのだから、万全にしないといけないのも分かってしまう。
別れるのは名残惜しいけど、私だってZ‐BLUEだ。
ここはグッと我慢するべきだろう。
ちなみに私はにぃにと一緒にメリダ島行き決定です。
扶養家族に選択権は無いのだ。
でもって、そんな私はラーカイラムへ積み込まれた例の黒いМSの前に立っている。
なんでもゲシュペンストっていうらしいよ、この機体。
「本当に可能なのか?」
「心配ありませんわ。こと感応能力に関しては私は姉さまの足元にも及びませんもの」
そして隣にいるのはミウとゲシュペンストのパイロットであるギリアムさんだ。
ギリアムさんも色々と事情がある人みたいで、最初に会った時はアポロン総統やヘリオスなんて、タケルさんみたいに別の名前が頭をよぎったんだよね。
まあ、その辺は触れなかったけどさ。
昨今のニュータイプはプライべートに気を遣わねばならないのだ。
でもってどうしてここにいるのかと言えば、ずばりミウがやり掛けたお仕事を終わらせる為だ。
なんでもゲシュペンストはUGセルによる強化の途中らしい。
でも最終段階に変わる前に本気を出した神様を見たミウが脱走したから作業を凍結したんだってさ。
そんなワケで、妹を助けてくれたお礼と我儘に突き合せたお詫びを兼ねて、私が仕上げを担当する事になったのだ。
ちなみにこの作業に協力してくれるのは、アムロ大尉にアストナージさん。
チェーンお姉さんに後学の為にってついてきたタクヤさん。
あと昨日部隊に合流した真ドラゴンっていう下半身が竜の超巨大ゲッターのパイロットの一人、大道剴お兄さんだ。
『UGセルの活性化作業完了。ミーちゃん、準備オッケーだよ』
「……ありがと。ギリアムおにいさん、ミユのて、にぎって」
「ああ」
私の言葉に従って、ギリアムさんはゆっくりと手を握ってくれる。
パイロットらしくゴツゴツしてるけど温かい手だ。
「……このこがどうかわってほしいか、かんがえて」
「了解した」
そうして頭の中に流れてくるギリアムさんが望む機体の性能データ。
もちろん私には大半が分からない代物だけど、そこはひーちゃんがしっかりフォローしてくれます。
『データの整理および抽出完了。完成予想図はこんな感じだね』
そうしてハロが投影したのは、背部に大きな翼を持ったゲシュペンストによく似た機体だ。
「なるほど、完成した際のカタログスペックを可視化できるのはありがたいな」
「ミノフスキーフライト内蔵のフライトユニットに大口径のビームランチャー……ゼータに近い機体になるのかしら」
「全身のスラスター数は少ないけど一つ一つの出力が凄いな。コイツは相当ピーキーな機体になるぞ」
「つーか、これって改造するんじゃなくて放っておくだけでバージョンアップするんスか。便利なもんだ」
チェーンお姉さん、アストナージさん、剴さんと投影データを見ながら意見をぶつけ合わせている。
「ギリアム少佐……でよかったか。これで大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。あとは実際に乗ってみて、メカニックと共に調整していくさ」
あれ? 今アムロ大尉を見たギリアムさんから懐かしいって思いが伝わって来たぞ。
もしかして、この人がいた世界で知り合いだったのかな?
『ミーちゃん。それじゃあUGセルにイメージを送ってくれる?』
「……ん」
ひーちゃんに促されて現実に戻ってきた私は深呼吸を一つ置いて意識を集中させる。
込めるのは祈り。
敵を倒さなくていい。
無理はしなくていい。
ただ乗っている人を守って欲しい。
機体もちゃんと戻ってきて欲しい。
そんな私の偽らざる願いをデータと共にUGセルへ届けるんだ。
時間にして数分程度だと思う。
ゲシュペンストに宿ったUGセルはしっかりと私の想いを受け取ってくれた。
きっとこの子はいい機体になってくれるだろう。
「……ん。おわった」
『改装が完了するのは約3時間後だから、それまでは絶対に触れないようにね』
ゲシュペンストが完成する頃には私達はメリダ島へ行くために日本を発っている筈だ。
テストもむこうで行う事になるだろう。
そう考えながらラーカイラム艦内の娯楽室へ帰ってくると、随分と騒がしくなっていた。
「何があったのでしょうか?」
「……わかんない」
詳しい事は不明だけど何かヤバい事が起こってるのは確実だ。
こういう時はにぃにと合流するに限る。
「本当なのか!? プラントが戦争なんて……!」
「司令部から報告があったんだ! たった今宣戦布告されたってな!!」
そうして見つけたにぃにはギュネイさんに怒鳴っていた。
というか、今聞き捨てならない事を言っていたぞ。
「プラントが戦争って……いったい何があったんですの?」
『今検索できたよ。でも、なんて下らない理由』
余りの事にミウが唖然と呟くと、ひーちゃんはすぐに情報を掴んだようだ。
「……どういうこと?」
『トップニュースでメディアに流れてるから画像に出すね』
そう言うとハロの目から光が出て、壁にニュースの映像が投影される。
『本日12時にプラント評議会はネオジオンへ宣戦を布告しました。理由としてはネオジオンが行った情報戦略がプラントにとって国辱の極みであり、断じて看過できないモノだという事です』
キャスターが原稿を読み上げると映像が切り替わった。
そこに映っていたのは音楽のプロモーションムービーだ。
軽快な音楽と共にヒラヒラの衣装を着た女性アイドルグループが現れた瞬間、ギュネイさんが絶叫をあげた。
「アンジェロぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
「ウソでしょ!? あれって変態の親衛隊じゃん!!」
「アイツ等、正気か?」
普通の女性に比べると少しゴツい美形な女性達は全裸の親衛隊らしい。
たしかに紫髪の人は全裸と……ダメだ! 思い出しちゃいけにゃい!!
みんなが唖然とする中、アップテンポな曲が流れだす。
かなりアレンジされているけど、これって元はゆっくりとした静かな曲なんじゃないかな?
「そんな、声まで変わって……」
「元男だってわかると無駄に歌が上手いのも腹立つな」
唖然とした声を漏らすギュネイさんと不機嫌に呟くマリーダさん。
そんな中、満を持したかのように一人の人物が舞台の中央へ現れる。
「ひゃああああああああっ!?」
「なにやってんだ、全裸ぁぁぁぁっ!?」
その姿を見た私は思わず悲鳴を、そして何故かミウは怒号をあげた。
そう、現れたのは変態ことフル・フロンタルだったのだ。
すね毛が目立つ生足をチラ見せしながら、連邦に反省を促すようなダンスをノリノリで舞うフロンタル。₍₍ง(^O^)ว⁾⁾₍₍ᕦ(^O^)ᕤ⁾⁾ ₍₍ʅ(^O^)ว⁾⁾
やめろ! そのアゴい笑顔をインド的な動きで見せるのはやめろぉぉぉぉぉっ!!₍₍ ʅ(^O^) ʃ ⁾⁾
『この映像で使用された曲が、かつてラクス・クライン議長が歌った「静かな夜に」のアレンジだった事がプラント市民の怒りを買ったようです。なお動画サイトに配信されたこのPVですが、再生回数の方は好調のようで、コメント欄には【あの仮面の男の笑顔とダンスには中毒性がある】【好きな曲を穢されてムカつくのに…ムカつくのに……! 悔しい、でも再生しちゃう!!】【すまない、プラントの友よ。俺の中の『静かな夜に』はアゴい笑顔で上書きされてしまった】などの書き込みが成されていました』
『これについてジオン専門暴露系動画発信者のゾルたん様は、何かコメントを発信しているのですか?』
『スタッフの発表によりますとPVで腹筋が崩壊するほど大爆笑した直後に、自身の動画の再生回数が抜かれた事を激怒した為に体調不良を起こし、緊急入院したとのことです』
『入院したのはハマーン外相と同じ病院ですか。なにか因果めいたモノを感じますね』
『ええ。なお本件に関してプラントのクライン議長はこうコメントを残しております』
キャスター達の無機質な会話の後、目からハイライトが消えたラクス議長が現れる。
『人の曲を無断で使用したばかりか、あそこまで悪し様に改変し、あまつさえ元性犯罪者に歌わせるなんて……これはキツい灸を据える必要がありますね。うふふふ…ソワカソワカ…』
あれ、ラクス議長の背後に妙な陰が……気のせいかな?
『なお、ネオジオンは【今回のアイドル活動は例の幼女虐待訴訟の懲罰人事であり、フロンタルを始めとするメンバー全員に性転換手術を施したのもその一環である。選曲に関しては外部プロデューサーに一任しており、当方は一切関与していない。それでも不快にさせた事はプラント市民およびクライン議長へお詫び申し上げる】とのコメントを出していますが、プラント側は国民感情を重んじ宣戦布告を撤回する気はないようです』
そうキャスターが締めくくった事を最後に、ひーちゃんは投影を終えてしまった。
しかしエラい事になってしまった。
「ミユちゃん、ミーティアって用意できるかな?」
床にへたり込んで呆然としていると、キラさんが声を掛けてきた。
というか、どうして目のハイライトが無いの?
「……みーてぃあ?」
「ちょっと! そんなモノ用意させて何するつもりですか!?」
「大したことじゃないよ。アクシズに行って、ネオジオンを叩いてこようかと」
「十分大したことだよ! というか、今ウチはネオジオンと休戦中だろうが!! 何考えてんだ、アンタはぁ!!」
キラさんを後ろから羽交い絞めしながら怒鳴るにぃに。
部隊は大混乱だけど、まずは粗相の後始末から始める事にしよう。
ひーちゃん、ミウに気付かれないように替えのパンツとモップをお願いします。