幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話 作:アキ山
今年はもう一回投稿できたらいいなぁ。
とあるオフィスビルの一角にあるテナント。
その社長室では白い背広に身を包んだ金髪の優男が机の上に置かれた端末に目を通していた。
「RFシリーズの売り上げは好調。デナンゾンやデナン・ゲーもアナハイム一択の市場に食いついてきましたか。いやはや、業績は右肩上がりですね」
男の会社は現在地球圏に渦巻く戦乱を上手く利用し、戦争特需で多くの利益を叩き出していた。
その勢いは新参ながらも経済界の怪物と言われたアナハイム・エレクトロニクスの足に食らいつく勢いだ。
当然、アナハイムも突然現れたライバルを調べようと様々な手を打った。
「よう、大将。こっちの処理は終わったぜ」
野太い男の声に社長が顔を上げると、一人の男が部屋に入ってくる。
傭兵か裏稼業か、粗野という言葉を形にしたような男に社長はニコリと笑みを返す。
「ご苦労様です。相手は月から送られた犬でしたか?」
「ああ。奴さんは自分達の庭が荒らされるのが我慢ならんらしい。破壊工作用の発破までもってやがった」
「ロゴスのシェアを散々食いつぶしておいてよく言いますよ。やはりあちら側の人間は傲慢に過ぎる」
そう不満を漏らす社長に男は皮肉げな笑みを浮かべてこう言った。
「かくして市場は正当なる者の手にってか? まるで昔話の王権だな」
「僕は王様なんて面倒なモノになる気は無いですよ。経済だけでいっぱいいっぱいです」
「けどよ、そっち方面用の人員は逝っちまったんだろ。アンタ等の計画に支障が出るんじゃないか?」
「あの手の事なら代わりなんて幾らでもいますよ。俗な方が多いですから」
男の言葉に肩をすくめる社長。
そんな中、机の上に置かれた端末に通信が入る。
『ミスター、例のモノは確かに受け取った。我々の行動への理解と協力に感謝する』
「気にする事はありませんよ。仕事柄地球に居ますが、私もスペースノイドの端くれです。連邦の傲慢は目に余っていたのです」
『そう言ってもらえると助かる。やはり我々は地球に巣食うナチュラルなどと手を結ぶべきではないのだ。パトリック・ザラの方針は正しかった。ユニウス7の犠牲者の怨嗟の声に応える為にも再び戦火を起こさねば!』
「あなた方には期待していますよ。おっと会談の予定がありますので失礼いたします」
聞くだけで気が滅入るような言葉を漏らす通信を切る社長に、男はこらえきれないと言わんばかりに笑いを漏らす。
「オタク、何時から宇宙生まれに宗旨替えしたんだい?」
「相手を乗せる為には方便も必要、これビジネス界の常識ですよ」
「しかしユニウス7ねぇ。そこに核を撃ち込んだ連中の親玉の手を借りているなんて、奴等は考えもつかんだろうな」
「それがあの居直り強盗の限界ですよ。遺伝子を弄り過ぎた所為で、あっちの方はもちろん思考まで退化している」
「遺伝子改造種ってのは想定外の事に弱いもんだからな」
「ええ。だから私は貴方を買っているのですよ。戦場という野生の中で生き抜いた生粋の自然種のね」
「俺はどこぞの猛獣かよ……。ところで、あの坊ちゃんが例のモノに手を付けたみたいだぜ」
「おや、僕の忠告も無駄でしたか」
「頭でっかちのガキらしく、煽り耐性が低かったようでな。結果、こっちの仲間入りって訳だ」
「やれやれ……こっちとしては、ウイスパードの知識を活用したかったんですがね。さて、何日人間でいられることやら」
粗野な男の嘲笑に失望したと言わんばかりにため息を吐く社長。
二人に共通していたのは、言葉の端々に悪意がにじみ出ている事だった。
◆
今日のネオジオン
その日、魂を削るような政務を終えたシャアはパイロットスーツを身に纏って格納庫に来ていた。
日々胃の腑がヤスリで削られるような組織運営に追われる彼にとって、唯一のストレス解消法は愛機サザビーを推進剤が切れるまでぶっ飛ばすだけだった。
「とはいえ、プラントが何時攻めてくるかもわからん。これからはドライブも控えねばならんか」
自身のささやかな安息すら奪う時流にため息を吐くシャア。
その姿は実年齢より10才は老け込んで見えた。
サザビーのハンガーへと向かう最中、シャアは見慣れないモビルスーツに足を止める。
「あれは誰の新型だ? こんな物を造るなど報告は上がっていないが……」
訝しみながら調整作業と思われる様子を見るシャア。
メカニックはアクシズからの合流組のようだが、彼等の手が入っている機体はジオンのモノとは趣が違っていた。
そのスマートなフォルムはどちらかと言えば連邦系列の系譜に見える。
同時に機体の端々にはハマーンの愛機であるキュベレイによく似た意匠が取り付けられていた。
武器は片手で振るえる大きさのメイスのようだが、ブーケとも取れるデザインは女性が搭乗する事を前提としているのだろう。
「しっかし凄いデザインですよね、これ」
「噂だけどな、この機体は結納品らしいぞ」
メカニック達の会話を聞いた瞬間、シャアに電流が奔った。
そういう目で見れば、その機体が何をコンセプトにしているかが見えたのだ。
ベースとなったのが、かつて自分が乗っていたあるMSだということも。
「か…かか……かぁぁぁぁぁ」
途端に純白の機体からあふれ出た婚活女子のプレッシャーに呼吸が出来なくなるシャア。
そう、それは死神だった。
彼を人生の墓場へと引きずり込む為の。
まさか、私がターゲットだというのか!?
吐き気を催すような重圧と誰かの声で『シャア! シャア! シャア!』と連呼される幻聴の中、逃げ場を求めるシャアの歪んだ視界の中にジュピトリスの上に立つシロッコが現れる。
───まってくれ! 私も…私もその船に乗せてくれ!!
───悪いな、シャア。この船はニュータイプのなり損ないは乗れないんだ。
まるで某青いネコ型ロボットが主役の漫画に出る、ガキ大将の金満腰ぎんちゃくのようなセリフと共に遠ざかるジュピトリス。
それから1時間後、シャアは白目をむいた状態でハンガーを漂っているところを保護されたという。
◆
どうも、膝の上に乗る事に定評のある幼女です。
私達は連邦議会があるダカールの街を旧ジオン残党から守るべく、ミスリルの潜水艦ダナンに乗って進んでおります。
戦艦で空を飛んで行っては迎撃部隊に襲われるという事で海中を選んだのだけど、ダカールの近くにはジオン軍が網を張っていた。
独特なデザインの水中モビルスーツや機雷がお出迎えする中、私は以前のようにテッサお姉さんの膝の上で人間レーダーをしているのだけど……
「えへへへへへ、姉さまぁ……」
高さ的に丁度良かったのだろう、ミウが私の太腿の上に顔を乗せて甘えてきている。
ダナンの速度を活かして敵を突っ切る作戦なので、この戦闘では機動兵器は出ていない。
その関係上、パイロット達は暇なのだ。
「……ミウ、よしよし」
だからと言ってこの格好はどうかと思うんだけど、甘えられれば答えてしまうのが姉の性。
場違いとは分かっていても仕方ないよね。
「ぼ…ぼへぇぇぇぇぇぇ」
「おい、あの顔アカンやろ」
「見てやるな。武士の情けだ」
ミウの顔を見てクルーのお兄さん達が目を背けているんだけど、いったい何なんだろうか?
でもって旧ジオン残党なんだけど、みんな殺意マシマシ憎悪マシマシなので思考を読むのがやりやすい。
なので彼等の策を逆手に取りまくって、あっさりと包囲網をズタズタにしてしまいました。
「やれやれ、本当に時流を読まない人達ですね」
ジオン水軍を引き離したところでため息を吐くテッサお姉さん。
さすがに艦長職というのは若い女の子には辛いものに違いない。
「……テッサおねえさん、いいこ、いいこ」
「ふふ、ありがとうございます」
振り返った私が一生懸命伸ばした手で頭を撫でると、テッサお姉さんは嬉しそうに笑ってくれた。
今回は私+ミウの頭分も加重が掛かっていたのだ。
この位の労いをしたってバチは当たらないはずだよ。
そうして戦闘警戒が解除されると私はテッサお姉さんの膝から降りる。
ダカールまではもう少し時間がかかるとの事なので、ガチたんの完熟訓練をする為だ。
『ミーちゃん、本番があるから軽めにね』
「……ん。ドヒャドヒャする」
前回ハサウェイさんには勝利する事が出来たけど、私はまだガチたんの性能を十全に発揮しているとは言い難い。
これからの戦いを生き抜く為にも鍛錬は必須なのだ。
そう考えてダナンの格納庫を歩いていると、見慣れないロボットが目に入った。
「……あれなに?」
凸型の頭に完全に長方形の箱な胴体、そして手足が昔にあったブリキの玩具みたいに細い。
『ありゃ。サクにするつもりがジェガンベースだからサムになっちゃったんだね』
ひーちゃんが言うにはサムは例の手抜きロボであるサクに対抗してとある世界の連邦軍が作り出した超量産型МSだそうです。
ベースはジムっていう初代ガンダムの量産機らしいんだけど、顔以外に面影が殆どなかったりする。
映像で見る限りだと可愛げがあるんだけど、実際に見るとある意味すごい。
あ、前でハサウェイさんが崩れ落ちてる。
そうして短いながらもガチたんの操縦を練習した私が格納庫に戻ってみると、他のパイロットが出撃準備をしていた。
そんな中、私はにぃにの元に駆け寄ると目の前で両手を広げる。
「……ん」
「なんだ、また抱っこか?」
「……いまはいもーとのじかん」
嬉しそうに私を抱き上げるにぃにへ私はそう答える。
アスカ家次女としては、姉である事も大切だけど妹としての自分も忘れてはいけないのである。
私自身の癒しの為にも。
こうして疲れをリカバリーした私は、再びガチたんのコクピットへ戻った。
今回身に着けているのは、ひーちゃんが用意してくれたカラス的な着ぐるみのパイロットスーツだ。
『ミーちゃん、復帰第一戦だから慎重に行こうね』
「……ん」
『各員に通達。ダカール市ではすでに戦闘が発生している模様。機動部隊は出撃次第、市内の敵を駆逐してください。なお敵の中にはフィフス・ルナで使用された新型や大型MAが確認されています。くれぐれも油断しないように』
テッサお姉さんの訓示が終わるとダナンのハッチが開く。
『メインシステム、戦闘モードを起動します』
「……ガチたん、いく」
ミウのクマさんに続いてダカールへ降り立つと、ジオン製のMSが街の各所にいた。
そして連邦の守備隊は中央に敷かれた大通りの奥にあるビルを護っているようだ。
『待ちかねたぞ、Z‐BLUE!』
『ようやく来てくれたか、助かったぜ!!』
到着と同時に通信を送って来てくれたのは、マリーメイア軍の決起の時に一緒に戦ったライトニングさんと幸せマネキンさんだった。
『少数の手勢で今まで議事堂を維持するとは、さすがの手腕だな』
『共にいてくれた者が優秀だっただけさ』
ゼクスさんの賞賛に小さく笑うライトニングさん。
そう言えばゼクスさんの方もウインドってコードネームを持っていたっけ。
そんな二人と裏腹にライトニングさんの姿に驚いていたのは刹那さんだ。
『お前は……』
『グラハム・エーカー少佐だ。今はプリベンター・ライトニングの名を貰っている』
『レディ・アンも頼りになる人物を送ってくれたわね』
『そういうこった、ソレスタルビーイング! ま…ちょっと苦戦しているがな』
スメラギさんの言葉に苦笑いで軽口を返すマネキンさん。
『来てくれたのね、カミーユ』
『フォウ! 君はテストパイロットをやってたんじゃなかったのか?』
そして例のバイアラン、そのパイロットもカミーユさんと知り合いらしい。
なにやらニュータイプとは違った感覚がするんだけど……
『カミーユ達の力を借りたくて、レディ・アン司令の誘いを受けたの』
『私とフォウ少尉は君達のバックアップとして活動していたのだ』
フォウさんの言葉を補足するライトニングさん改めグラハム少佐。
そんな事になっていたなんて知らなんだ。
『今日から部隊に合流するからよろしくね』
『ああ!』
『歓迎するわ、フォウ。ちょっぴりおてんばな女の子もいるから、そのお世話も手伝ってね』
それは私の事かな、ファお姉さん。
なんだか皆知り合いが多いみたいだけど、その辺はおいおい教えてもらうとしよう。
ぶっちゃけ、一度に詰め込まれても幼女のミニマム脳みそではパンクするだけだし。
さて、改めて守備隊の戦力を確認すると、ブレイブっていうグラハム少佐の飛行機に変形する青い機体。
幸せマネキンさんの乗る坊主頭のジンクスⅣ二機に、フォウさんが乗るバイアランっていう手が長い独特の機体。
『隠し機体ガッツリ出してるとか、これも姉さま効果かよ』
『……ミウ?』
『な、なんでもありませんわ』
むぅ……はぐらかされてしまった。
隠し機体って言ってたけど、もしかしてジェネレーションシステムだとバイアランってレアだったりするのかな?
それはともかくとして議事堂前には何処かジオン製のMSに似た機体が5機いる。
『ザク・ファントム5機にグフ・イグナイテッドは隊長機か。しかしザフトの機体がどうして議事堂を護っているんだ?』
どうやら彼等はにぃにと同じザフトの部隊らしい。
『こちら、カーペンタリア基地所属のボルコフ隊だ。その機体、フェイスのシン・アスカだな?』
『そうだ。どうしてザフトがダカールにいる?』
『我々はここの部隊との合同演習の為に出向いていたのだ。しかし運悪く奴等の襲撃に巻き込まれてしまってな』
『だから成り行きで守備隊に手を貸していると?』
『その通りです、ヤマト隊長。場所が場所ですから、関係ないと撤退しては連邦との遺恨となるでしょう』
にぃにに続きキラさんの問いかけに平然と答えるボルコフというオジサン。
言っている事はおかしくないんだけど、その言葉の端々からはザラリとした物を感じる。
「……うさんくさい」
『いい勘だ、マスター。その感覚は間違っていないぞ』
ぽつりと呟くと渋い男の人の声がテレパシーで届いた。
『……ガチたん?』
『この戦場はどうにもキナ臭い。経験から言って、これは謀略の匂いだ』
「……ぼーりゃく」
ガチたんは歴戦の傭兵だ。
その経験則は私の勘やひーちゃんのセンサーで分からない物を捉えてもおかしくない。
『マスター、ここにいる部隊には気を許すなよ。誰かが仕掛けて来るぞ』
『……ん』
なら、私も警戒度を一つ上げておくべきだろう。
というか、議事堂の方からイヤな気配もするし。
『姉さま、奴がいますわ』
『……ん。あんまり目立つのダメ』
どうやらミウも気づいているようだ。
この気配、アドヴェントに間違いない。
となれば、クマさんは本当の力を出すわけにはいかないかな。
『……ミウ、ふつうのクマさんでだいじょうぶ?』
『問題ありません。これでも私、戦闘用スーパーコーディネーターですのよ。あの程度の敵なら通常のビーストでお釣りが来ますわ』
そう言うとミウはこちらへ突っ込んでくるドムへ、クマさんの背負ったランドセルからミサイルを放つ。
ミサイルから飛び出した散弾に進行方向が塞がれて急停止をするドム。
その反動で動きが止まった隙に懐へ飛び込んだクマさんは、くまぱんちでドムをバラバラにした。
『再会は喜ばしいが、長々と話はしていられんか。ウインド、君はファイアと共に一度こちらと合流してくれ。議事堂の守備を再編して攻勢に出る』
『了解した。ノイン、行くぞ』
『ええ』
『よし、機動部隊各員をオフェンスとディフェンスに振り分ける! 指示された通りに分かれ、その後は部隊長の指示で行動せよ!!』
ブライト艦長の言葉によって、班分けのデータが送られてくる。
どうやら私は議事堂を護る班になるようだ。
『ミユ、お前はまだ本調子じゃないんだから無理するなよ。何かあったらすぐにクォーターへ下がるんだぞ』
『姉さま、危ない事はしないでくださいね』
そして攻撃班のにぃにとミウとはしばしのお別れとなる。
守備隊として議事堂前に陣取るのはフォウさんとジンクスに乗ったアンドレイ少尉、カミーユさんとファさん。
そしてザフトの部隊だ。
攻撃部隊がジオン残党へ牙を剥くと、ダカールの街に響く爆音と金属が咬み合う音がさらに大きくなる。
そして多勢に無勢なのだろう、攻撃隊の撃ち漏らしも議事堂から見える位置に現れ始める。
彼等が駆るのはフィフスで見た機体。
RFザクとドム、そしてグフだ。
『敵機接近!』
『全機、迎撃───』
アンドレイ少尉の警告にカミーユさんが指示を出そうとしたが、それよりも速くガチたんの両手が火を噴いた。
超音速で飛ぶ短針となったダインスレイブは、衝撃波でビルのガラスを打ち砕きながらザクとグフの装甲を食い破る。
被弾個所は頭部とコクピット。
杭が刺さった場所の背面がはじけ飛ぶ程の威力だ、当然パイロットは死んでいる。
『ミユ、無理はするな! お前は奴等の足を止めればいい!!』
「……だめ。あのひとたち、さいごまでとまらない」
カミーユさんの声に私はコクピットの中で首を横に振る。
いつもは人死にを嫌う私だけど彼等は別だ。
ジオン残党の憎悪が命を断つまで続く事はフィフスでイヤと言うほど思い知った。
ここで情けを掛けて、生身で議事堂に入られたりしたら目も当てられない。
だからここは心を鬼にしてでもちゃんと倒さないと!
『ミーちゃん。奴等の周波数を割り出したから、サブの通信機で繋ぐね』
「……おねがい」
以前に通信傍受を行ったからだろう。
ひーちゃんは簡単にジオン残党達の通信を盗み取る事に成功した。
これで奴等が何を考えているか、ある程度は分かるぞ。
『このタンクモドキがぁ!!』
『その程度で我等の信念が砕けると思うな!!』
そしてサブ通信機は仲間の死に怒る声を拾い上げる。
憎悪を増して銃を構えるのは二機のドム。
そこから吐き出される弾丸は狙い違わずにガチたんを襲う。
「……むだ」
けれどそんな豆鉄砲ではガチたんの装甲はおろか、ラムダドライバの斥力フィールドだって破れない。
彼等の殺意が蒼い障壁によって火花を残して打ち砕かれる中、ガチたんの右肩に備わったミサイルランチャーが硝煙と炎を吐き出す。
『チィッ! バリア持ちか!』
『ミサイルを迎撃しろ! クラッカーを!!』
上空から降り注ぐミサイルに向けて、手にした手りゅう弾らしきものを投げるドム。
それは束の先から炎を上げて上空へ舞い上がると、鳳仙花のタネのように弾けて散弾を撒き散らす。
ガチたんが使う対地ミサイル迎撃機構によく似た装備だけど、彼等を襲うのは私の思念で自在に動くファンネルミサイル。
一度距離を取って散弾が広がり切ったところで、細かい動きでそれらの間を縫った白い槍は彼等の胴体へと食らいつく。
『馬鹿な───!?』
驚愕の言葉を残して火球となるドム達。
正直いい気はしないけど、こればっかりは仕方がない。
私だって覚悟も無くここに立っている訳じゃないんだ。
そうして撃ち漏らしが途絶えると、サブ通信機から混乱するジオン残党のやり取りが流れてくる。
『おのれZ‐BLUEめ! このままでは突破されるぞ!!』
『何をしている! シャンブロを早く議事堂へ!!』
『ロニやカークスがフィフスから帰って来てくれていれば……!』
『プルなんとかって強化人間の調整はどうなっているんだ!? 高い金を払って氷漬けにしていた虎の子なんだろう!!』
そんな怒声が響く中、議事堂に続く大通りの脇道と近接するビルが黄色いビームによって薙ぎ払われる。
爆風と黒煙をかき分けて現れたのは、ビルを軽く超える程の巨体を持つ赤いザリガニのようなロボットだ。
そしてザリガニロボを見た瞬間、私の頭に小さな子供の悲鳴が木霊した。
『助けて……助けて! マスター! お姉ちゃん!! 心が黒く染まって……気持ち悪い!!』
「……っ!?」
『ミーちゃん、大丈夫?』
頭がグワンと揺れる程に強力な思念に前かがみになる私を見て、ひーちゃんが慌てて声を掛けてくる。
『……今のはまさか!』
『カミーユ、あの子は強化人間よ』
どうやらカミーユさんやフォウさんもあの子の声を感じたようだ。
皆がこのロボを本気で潰せなかったのは、きっとこの悲鳴を聞いたからだろう。
しかもあの機体から出ている気配、あれはサイコミュに感情を強制されている時のモノだ。
クマさんが暴走した時に嫌と言うほど感じたものだから、さすがに忘れる筈がない。
『ミーちゃん、あのMAのサイコミュは意図的に歪められているみたい。連邦への憎悪を強制するように』
ひーちゃんの説明を聞いて、さらにむかっ腹が立つ。
無謀な戦いに特攻して死ぬのは彼等の勝手だけど、あんな小さい子供まで巻き込むんじゃない!
『どうするの?』
「……たすける」
心を勝手に操作される苦しみは嫌と言うほどわかっている。
目の前で被害に遭っている人を見捨てる程、私は人でなしに落ちたつもりはないのだ。
そうと決まればモタモタしている暇はない。
私は深く息を吐くと意識を集中させる。
そうするとカッチンを通して私の思念をサイコフレームが増幅し、ラムダドライバの力場を通じて女の子への意識の架け橋を形成する。
ブリュッセル以来のムスヒの巫女パワー。
さすがにサイコミュの干渉を完全に抑え込むのは無理だけど、ある程度和らげてあの子に語り掛けることは出来る。
ふわりとした意識だけが漂う不思議空間の中、私の前にいたのは10才程の女の子だ。
栗色のどこかマリーダさんに似た子。
彼女は私を見ると目に涙を溜めたまま語り掛けてくる。
「あなた、誰?」
「……ミユ。おねえさん、たすけにきた」
「助けてくれるの?」
「……ん。なまえ、おしえて」
人間関係の基礎は自己紹介からである。
「プル……プル・フィフティーン」
フィフティーンか。
変わった名前だけど、そう言うのを指摘するのは失礼だよね。
「……プルおねえさん、もうすこしがまん。ぜったいたすける」
「うん!」
本当はもう少し緊張とかをほぐしてあげたいところだけど、今はザリガニロボから助けるのは先決だ。
「……ひーちゃん」
『うん! 左腕ディスチャージャー仕様変更、対NT特殊弾頭発射!』
私の呼びかけにひーちゃんはガチたんの左肩にある筒状の発射装置から筒状のモノを撃ち出す。
それはザリガニロボの真上に行くと六つの棒に分かれて、その周囲を包み込むように特殊な力場を形成する。
『う……あれ?』
よし、機械の嫌な気配が減ったぞ。
『ミユ、なにをしたんだ?』
「……サイコ・ジャマー」
あれはかつて黒クマさんに私がやられたサイコミュを阻害する装置だ。
ミウがクマさんに乗って来た時から、もしもの為にひーちゃんと二人で用意したのである。
「……カミーユさん。プルおねえさん、たすける。てつだって」
『わかった!』
カミーユさん達が手伝ってくれるなら百人力だ!
あの子を助ける為に頑張ろう!
あ、ガチたんの忠告も忘れずにだよ。
レナード「デービール!!」