幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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新年、あけましておめでとうございます。

今年も無理のないように投稿していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします


幼女とダカール2

 Z-BLUEメリダ島隊がダカール市でテロリストと激戦を繰り広げていた頃、日本に駐留していた別動隊は大変な事態に直面していた。

 

 北米第3支部で建造していたEVA参号機が支部壊滅を理由に日本のネルフ本部へ輸送されてきたのだが、その起動実験の際に寄生した使徒によって乗っ取られたのだ。

 

 実験に立ち会っていたネルフスタッフに多くの死傷者を出し、テストパイロットを務めた式波アスカ・ラングレーをも取り込んだ使徒はネルフ本部へと侵攻をはじめたのだ。

 

 そして迎撃の先陣を切ったのはエヴァ初号機だった。

 

「駄目です! 停止信号、およびプラグ排出コード、認識しません!」

 

「エントリープラグ周辺にコアらしき浸食部位を確認!」

 

 絶叫にも似た発令所オペレーター達の声を聞きながら、シンジはLCLの中で深く長く息を吐く。

 

 それはリシュウから教わった息吹という呼吸法だ。

 

 恐怖を振り払う時、覚悟を決める際の精神統一に用いればいいと剣の師は言っていた。

 

 そして肺の中に溜まった空気を全て吐きつくすと、シンジの中にあった動揺や戸惑いは霞のように消えていた。

 

 14歳の少年とはいえ、彼とて地球最強の部隊の一角を担って様々な戦場を駆け抜けてきた兵だ。

 

 仲間が敵に捕まるような事態も友軍機の暴走もすでに経験している。

 

「マヤさん、参号機と式波の全神経のカットをお願いします」

 

「し…シンジ君?」

 

「奴を倒して式波を助け出します。だから影響の無いように神経接続を切ってください」

 

 モニターに映る少年の顔を見た瞬間、息吹マヤは思わず悲鳴を上げそうになった。

 

 そこに映っていたのは実験などで見る優しげな容貌の子供ではない。

 

 能面のように変わらない顔、双眸に宿る殺意という名の光。

 

 それは正しく必殺の決意を肚に呑んだ剣士の相であった。

 

「は…はい!」

 

 呆然としたのも一瞬、静かでありながら強烈な圧を感じる再度の要請を受けて弾かれたように操作を行うマヤ。

 

 そしてシンジの操る初号機は腰に下げた一刀を抜くと大上段に構える。

 

「あれは示現流の蜻蛉……」

 

 歴史小説を嗜む冬月はモニター越しに初号機が取った構えに息を呑む。

 

日本の古流剣術で最強の威力を誇るといわれる薩摩示現流。

 

 幕末においては幕臣側に『示現流の初太刀は絶対にはずせ』と言わしめるほど、その一撃は必殺の威力を秘めている。

 

「初号機パイロット、監視対象物は第9使徒と認識した。内部に取り込まれたパイロットも使徒による汚染を受けた可能性が高い。速やかに殲滅せよ」

 

 パイロットが先手の一太刀で雌雄を決そうとする中、それに水を差すような指示が発令所から飛んだ。

 

 それを放った男は自らの席で表情を見せぬよう組んだ両手で顔を隠し、視界だけをモニターに映る紫紺の鬼神へ向ける。

 

 そしてシンジもまた、突然の指示に父たるゲンドウを見た。

 

「つまり助けるなってこと?」

 

「そうだ」

 

 問いかけにゲンドウがうなずくと、息子はサブモニター越しには深々とため息を吐いた。

 

「現状だと汚染は確定じゃないんだろ? だったら式波を切るのは早計だ。これからの戦いを考えれば、彼女を失うことは大きな損失になる。弐号機を死蔵することになるし、Z-BLUEのメンバーへの影響だって大きい。式波が疑しいなら助け出した後、検査にかけた方がいいと思うけど?」

 

 冷静にアスカを失うことのデメリットを並べるシンジ。

 

 彼とて父の言葉に怒りを爆発させそうになった。

 

 しかし怒鳴り散らしそうになる口を抑えたのは師の教えだった。

 

『怒りは発散するのではなく、己を支える礎にせよ。激情に囚われれば視野が狭くなる。そうなれば見えるものも取りこぼすことになろう。だからこそ有事ならばこそ怒気を鎮め、冷静に状況を俯瞰せねばならんのじゃ』

 

 言いつけ通りに激情を御すれば、優れた両親から生を受けたシンジの頭脳は場を動かすために必要なモノを捉えることができる。

 

 己の父は冷徹なリアリストだ。

 

 なら、感情のままに喚き散らすよりも理路整然と利を示して説得する方がいい。

 

「しかし助けるとなればリスクが伴う」

 

「どんな作戦だってリスクはつきものだよ。司令の言う通りただ相手を倒すのだってね」

 

 言葉ともに返って来た息子の眼光にゲンドウは思わず固唾を呑む。

 

 それに射貫かれた瞬間、自分の首を断たれる光景を幻視したためだ。

 

『剣は抜かずに済めば無事太平、抜いたからには一刀両断』

 

 これもリシュウが剣を教える時に心構えとしてシンジへ教えた言葉だ。

 

 彼はこれを戦闘と日常のスイッチと捉えた。

 

 今の彼は抜身の刀。

 

 己を邪魔するものは何であろうと叩き切る、それ故に父親に殺気を浴びせる事も厭わない。

 

「しかし……」

 

「使徒が初号機を捕捉しました! 目標の移動速度が───」

 

 オペレーターの青葉が使徒の動きを報告しようとしたが、彼は最後まで言葉を吐き出すことができなかった。

 

「キエエエェェェェェッッ!!」

 

 初号機と繋げた通信機が耳をつんざくような絶叫を吐き出したからだ。

 

 それは発令所全ての人間が思わず耳を抑えるほどに大きかった。

 

 同時に初号機は蜻蛉の型を維持したまま、使徒となった参号機へと走り出す。

 

「今のは猿叫か……凄まじいものだな」

 

「冬月先生、その猿叫とは?」

 

「剣術の打ち込み・斬り掛かりの際に発せられる掛け声だ。彼は部隊で古流剣術を学んだようだな」

 

 組織のトップ達がそう話す中、参号機が迎撃に放った伸縮自在の両腕を紙一重で躱した初号機は刃圏へと目標を捉える。

 

 エントリープラグが狙えない以上、シンジが断つべきはエヴァのもう一つの急所である鳩尾に備わったコアだ。

 

 もちろん、彼はまったく心動かぬままでいるわけではない。

 

 突撃を掛けた時から失敗への不安や、仲間を殺すかもという恐怖は脳裏を駆け巡っている。

 

「チェストォォォォォォッ!!」

 

 しかしシンジは更なる咆哮を以て、身に絡みつかんとする不純物を全て振り払った。

 

 チェストとは一説によれば「知恵を捨てよ」という示現流の心構えの一つが訛ったものだと言われている。

 

 示現流は一の太刀に全てを掛ける事を特徴とする流派。

 

 故に一撃を当てる為に無心、即ち無念無想の域へ達せよという事なのだろう。

 

 そして太刀を振り下ろすシンジは見事にその域へ指を掛けていた。

 

 大地を割るほどの踏み込みから放たれる殺気という名のATフィールドを纏った深紅の刃。

 

 それは咄嗟にガードしようとした参号機の両腕を細枝のように断ち切ると、その左の肩口から右わき腹を通り抜ける。

 

 轟音と共に袈裟斬りに断たれた参号機の上半身がグルグルと宙を舞い、勢い余った初号機の刃は大地を割る。

 

 地面を二転三転してようやく止まった参号機の上半身。

 

 斬撃によって爆ぜ割れた装甲から覗くコアは見事に砕け散っていた。

 

「よかった……!」

 

 自分が失敗しなかったことに安堵の息を吐きかけるシンジ。

 

 しかし残心の教えを思い出した彼はすぐに気を引き締める。

 

 相手は未知の怪物だ、寄生先のコアが割れた程度で死ぬとは限らないのだ。

 

 その後、Z-BLUEの部隊がエントリープラグからアスカを救い出すまで、シンジは気を緩めることなく警戒を続けた。

 

 リシュウ・トウゴウの薫陶を受けた少年は着実に剣士の道を歩み始めていた。  

 

 

 

 

 プル・フィフティーンはジオン軍のフラナガン研究所の流れをくむ、アクシズのニュータイプ研究所が生み出したクローン培養の強化人間だ。

 

 15を示す名前で分かるように彼女には本来多くの姉がいた。

 

 人為的に成人近くまで成長させたプロトシリーズが12、そしてフィフティーンと同じく自然に成長した個体が15。

 

 彼女は物心が付いてからは姉妹と共にアクシズのニュータイプ研究所で過ごしていた。

 

 プルシリーズの役目はアクシズへ逃れたジオン残党が地球圏へ捲土重来を果たす際、ニュータイプ部隊の中核を担うことだ。

 

 計画ではミネバを擁するハマーン、もしくはマスター登録されているグレミー・トトという男の力となる筈だった。

 

 しかし彼女達にその機会は訪れなかった。

 

 何故なら宇宙世紀とは異なる世界で炸裂した次元振動弾、それによって多元世界に生きることを余儀なくされた彼女達は地球外生命体による襲撃を受けたからだ。

 

 彼らを襲ったのはエルダー軍だった。

 

 地球の科学を遥かに上回る彼等の力は凄まじく、ニュータイプ研究所の防衛隊も為す術も無く駆逐された。

 

 研究所の所長は自衛の為に虎の子であるプルシリーズを出撃させるが、如何に強化人間部隊とはいえ相手が悪すぎた。

 

 相手は250年後の未来からやってきた異星人。

 

 スーパーロボット・ゴッドシグマの動力源であるトリニティ・エネルギーを手にした事で侵略国家と化した地球人に対抗する為に、時間移動をも可能にした超文明の持ち主だ。

 

 宇宙世紀の常識にして馬鹿げた力を持つ特機と真正面から殴り合えるコスモザウルスに、初陣の彼女達が敵うわけがない。

 

 決死の戦いによって何とか部隊を撤退させる事ができたものの研究所は崩壊、プルシリーズもプロトの12番目とフィフティーンしか生き残らなかった。

 

 試作体と正式体、共に最終ロットのみが生き残ったのは果たして偶然か。

 

 さらに言えば、この二人は総勢30近いプルシリーズの中でも特に仲の良い個体だった。

 

 プロトタイプでは自分に下がいないが故に正式ナンバーの世話を焼きたがったトゥエルブと最後のプルとして甘え上手のフィフティーン。

 

 互いの需要が合致したお陰で研究所でもベッタリな状態だったらしい。

 

 その後、到着したアクシズ本隊に救助された彼女達は違った道を歩むことになる。

 

『トゥエルブ……こわいよ』

 

『大丈夫だ、きっと迎えに行く。だから、少しだけ待っていてくれ』

 

 別れ際に二人はこんな約束をしたが、彼女達を待っていた運命は過酷なモノだった。

 

 プロトプル・トゥエルブはエルダー軍との戦いでの活躍が認められて本隊へ引き取られる予定だったが、多元世界の状況に絶望した士官が逃亡の際に調整の為に睡眠中だった彼女を拉致。

 

 さらには地球での資金確保を望んだ士官によって、娼館へと売られてしまう。

 

 のちにスベロア・ジンネマン率いるガランシェール隊に救出されるまで、彼女は塗炭の苦しみを味わうこととなった。

 

 一方のフィフティーンはエルダー軍戦でほぼ逃げ回っていたから性能が疑問視され、地球で雌伏の時を過ごしていたジオン残党軍に自分たちへ協力する代価として払い下げられた。

 

 フィフティーンを受け取った残党軍はコールドスリープ状態の彼女を起こそうとしなかった。

 

 彼らにとって強化人間とは未知の存在だ。

 

 それ故の怖れと決起が何時になるか分からない現状で、地上の生活によって能力が低下することを危惧したのだ。

 

 こうして眠り続けていたフィフティーンは今回の侵攻の為に眠りから引き上げられ、フィフス・ルナ戦から帰ってこないロニ・ガーベイに代わってシャンブロを与えられることになった。

 

 しかし残党軍にとっての誤算は、フィフティーンが対エルダー軍戦で戦闘にトラウマを抱えているという事だった。

 

 これを知った時は残党軍は不良品を掴まされたと怒り狂った。

 

 通常なら彼らの感情のはけ口として殺処分されるところだったが、生憎と虎の子であるシャンブロはニュータイプ専用の機体だ。

 

 そこで彼等は嫌がるフィフティーンをコクピットに放り込むとサイコミュを半ば暴走させる形で起動させ、さらには逃げ出せないように操縦席のハッチを外から溶接してしまったのだ。

 

 かくして彼女は望まぬ戦いへと駆り出され、暴走したサイコミュの導くままに破壊を行ってきた。

 

「トゥエルブ……だれか…たすけて……」

 

 その苦痛が少しでも早く終わることを祈りながら。

 

 

 

 

 どうも、大言を吐いたわりに解決方法がないことに気が付いた幼女です。

 

 プルちゃんを助けると言ったものの、私のミニマム脳みそでは解決策なんて欠片も出ない。

 

 第一にあの子をザリガニロボから降ろさないといけなんだけど、コックピットってどこにあるんだろうか?

 

「……プルおねえさん、ロボットおりられる?」

 

『ダメ! 外からハッチが開かないようにされてるみたい!』

 

 逃亡防止か、それともプルちゃんが今回限りの使い捨てってことか。

 

 なんにしてもジオンの奴等がロクでもないことには変わりない。

 

「……カミーユさん。あのこ、おりられないって」

 

『ああ、聞いていた。こうなったら機体からコックピットを抜き取る!』

 

 私が通信をつなぐと、カミーユさんはザリガニロボへ向けてゼータを加速させる。

 

 もうコックピットの場所がわかったのか、さすがは歴戦の勇者だ!

 

 なんて目を輝かせていたんだけど、そう上手くはいかなかった。

 

『ガンダム…ガンダム!? いやあぁぁぁぁぁっ! こないでぇぇぇっ!!』

 

 何故かゼータを見たプルちゃんは、錯乱しながらザリガニロボの両肩に備わったビームを乱射してきたのだ。

 

『くっ!?』

 

 横並びに付いた砲門から吐き出される光の乱舞を飛行形態になって躱すゼータ。

 

 不意を突いた攻撃に無傷で対応するあたり、カミーユさんはさすがと言うべきか。

 

 突然の行動に私も驚いたけど、その理由はすぐにわかった。

 

『ガンダムは敵。ガンダムは敵。……怖い、怖いよ』

 

 サイコジャマーの効果が切れていないのに怯えの感情が伝わってくるとは、どうやら奴らに相当タチの悪い暗示を掛けられているらしい。

 

『カミーユ、今の……』

 

『ああ、こちらも感じた。これでは俺が行くのは逆効果か』

 

 ファさんの声にザリガニロボから距離を取るゼータ。

 

 しかし、これは困った。

 

 今のプルちゃんを見るにカミーユさんのみならず、うちのMS隊エースパイロットの大半は近づけない事になる。

 

 なにせ殆どがガンダムに乗ってるからねぇ。

 

「……カミーユさん、ザリガニロボ、コックピットどこ?」

 

『ザリガニって……コックピットの場所は俺にも分からない。とりあえず近づいてからどうにかしようと思っていたから』

 

 むむ、だったら仕方ない。

 

 こういう困った時は大親友の力を借りよう!

 

「……ひーちゃん、どうしよう?」

 

『アイツの設計図とかはあるんだけど、パイロットの話が本当だったら変に弄られてる可能性が高いんだよね。まずは調査した方がいいと思う』 

 

 ひーちゃんのアドバイスで私はガチたんの左肩にあるミサイル発射機構から高感度ドローンを放つ。

 

 これはガチたんが欲しいと言っていた装備で、曰く『傭兵はいつ何時騙されるか分からない。情報は命綱になる』とのことだ。

 

 ドローンは基本的にクリアビットと同じなのでミラージュコロイドによる迷彩が施されているし、こちらの思念通りに動く。

 

 私はドローンをザリガニロボの周囲で旋回させて、そのデータを取っていく。 

 

『本当だ。ハッチがある場所に溶接の跡がある』

 

「……キズじゃない?」

 

『うん。ビーム兵器でできた傷ならもっと深く歪に装甲が溶け崩れてるもん。となるとメンテナンスハッチかな』

 

 ひーちゃんがそう呟くと、ハロビーは空間投影でザリガニロボの設計図面を出してくる。

 

『あの機体にはダメージでコクピットが開かなくなった場合に備えて、整備用の入り口が備わっているの』

 

 ひーちゃんの説明に応じてザリガニロボの脇辺りがピカピカと明滅する。

 

 これがメンテナンスハッチの場所なのだろう。 

 

「……そこからプルおねえさん、たすける?」

 

『ドローンの解析画面だとハッチは設計図と同じ場所にあるみたい。ただ、助ける為には誰かが中に入らないといけないんだよねぇ』

 

 この状況で敵の大型機に入るのは並大抵の事じゃない。

 

 できるとなれば───

 

「……ダグザのおじちゃん」

 

 私はラー・カイラムであと詰めをしているエコーズ隊のみんなへ通信をつなぐ。

 

『どうした、ミユ?』 

 

 するとロトに乗っているのだろう、コクピットに座るダグザ中佐がすぐに出てくれた。

 

「……ザリガニロボ、なかにこどものってる。ミユのときといっしょ。サイコミュでむりやり、たたかわされてる。たすけたい、てつだって」

 

『なるほどな。相手の機体データをこちらへ回せるか?』

 

 私の言葉に少し考えるそぶりを見せたダグザ中佐はこう言ってくれた。

 

『これが相手のMAの設計図、もう一つが現状の機体解析データだよ。コックピットは外側から溶接されてるから緊急解除は使えない。助けるにはメンテナンスハッチから内部に入る必要があるの』

 

「……エコーズのみんなにしかできない。ザリガニロボはミユがおさえるから、おねがい」

 

『ブライト大佐、ミユの案に乗るのはどうでしょう? 上手くいけばこの戦いを止めると共に、ジオン残党軍の少年兵への戦闘強要の証拠も掴むことができます』  

 

『ネオ・ジオンが世間への信用を失っている現在、今回の襲撃を未然に防ぐことと織り交ぜれば今後の奴等の動きを阻害できるか。……わかった。エコーズ隊は速やかに敵MAのパイロットを救出せよ』

 

『了解! 各員、出るぞ! 強行突入用装備を忘れるな!!』

 

 ダグザ中佐が隊のみんなにそう激を飛ばすと、サブカメラにはラー・カイラムから飛び出すロトと黒いジェガン達が映る。

 

『エコーズ……たしか連邦軍のジオン残党の掃討部隊か。そんな物がZ-BLUEに同行していたとは』

 

『噂が先行して悪いイメージを持たれてますけど、彼等はいい人ばかりですよ、アンドレイ少尉。それに特殊部隊だからこそ、あの子を助けるのには打って付けです』

 

 感心するアンドレイ少尉に笑顔で説明するカミーユさん。

 

 うん、エコーズのみんなは頼りになるのだ。 

 

「……プルおねえさん、いまからたすける。もうすこしがんばる」

 

『うん』 

 

 サイコジャマーのエネルギー残量が半分を切った頃、エコーズのみんなによる救出作業が始まった。

 

『よし、メンテナンス用のハッチが開いた! 中の嬢ちゃんはデカブツを動かさないようにしてくれよ! ミユちゃんもしっかり押さえていてくれ!!』 

 

『うん!』

 

「……ん」

 

 愛機から降りて脇にある小さなハッチに身を滑らせるコンロイのおじさん。

 

 無駄のない動きで数人がザリガニロボへと入っていく中、私は背後から刺すような感覚を感じた。

 

 それは慣れたくはないけど戦場では常にある悪意、殺気だ。

 

『今ここでデカブツを使い物にならなくされてはたまらんのでな。消えてもらうぞ、タンクもどき!!』

 

 殺気の出所は議事堂の前。

 

 こちらを嘲る思念を頭の隅に捉えながら私はガチたんを操作する。

 

 両肩に備わったブースターを前後に全開にすると同時に、タンク部分の無限軌道を左右逆の方向にフル回転!

 

 外見からは想像もできない速度で背後を向いたガチたんは、こちらへ砲を向けようとしていたザフト軍のザクに両手のダインスレイブを放つ。

 

『な……ぐわあああああっ!?』

 

 音速を超えて襲い掛かる超合金の短杭が獲物の四肢と頭部を食いちぎると、私を狙っていた不届き者は胴体だけで地面に転がる事になった。

 

『おい! いったい何のつもりだ!?』

 

 もちろん、隊を率いるオジサンは顔を真っ赤にして怒っている。

 

 けれど、こちらも文句を言われる筋合いは無いんだな。

 

『なんのつもりって、先にロックオンしてきておいて言うセリフじゃないよね。レーザー照射を受けたログ、ちゃんと残ってるよ』

 

「……だましてわるいがダメ、ぜったい」

 

 私がそう言うと同時に、Z-BLUE全機へ照射ログとドローンで撮影したガチたんを背後から狙うザクの映像が配布される。

 

 どうして私がこうも冷静に対処できたかというと、答えはガチたんの助言にある。

 

 ダカールに来た当初から戦場の空気から守備隊を疑っていた彼は、ひーちゃんから渡されたこの世界の歴史を見て裏切る可能性があるのがザフトの隊だと当たりを付けたのだ。

 

『人間の憎悪というものは簡単には消えん。大事な人間を失った奴は上がなんと言おうと引き金に掛けた指を離さないものだ。カーペンタリアだったか、そこの連中がジオンと裏で繋がっていれば、演習と襲撃が合致するのもおかしな話じゃない』

 

(……どうして、あのひとたちきたの?)

 

『我々が来ても議事堂を占拠していないところを見るに、味方のふりをして最高のタイミングで連邦軍の横っ面を殴りつけるつもりなんだろうさ。そして間抜けさをあざ笑いながら議事堂を破壊すれば、奴らが望む連邦との戦端は開かれるという訳だ』

 

 これを聞かされた時はそこまでするかと、人の悪意の強さに驚いたものだ。

 

 そしてガチたんの予測は見事的中し、ジオン軍の虎の子であるザリガニロボがダメになると分かった途端に彼等は尻尾を見せたわけだ。

 

『クソがっ! 遊びは終わりだ! 薄汚いナチュラルの頭共が集う巣を破壊しろ!!』

 

 隊長が怒声を上げると他のザク達は今まで守っていた議事堂へ銃口を向ける。

 

 だけど、そこからビームが吐き出される事は無かった。

 

 一機はビルの上から放たれた精密狙撃によって砲身を破壊され、続く第二射で頭を撃ちぬかれて地面に倒れる。

 

 一方でもう一機のザクは目にも止まらぬ刃物捌きによって四肢を断たれて地面に転がり、もう二機も背後から放たれたマシンガンとショットガンの弾幕をくらってうつ伏せに倒れた。

 

そしてザク達の屍の前に現れたのは電磁迷彩システムを解いた相良軍曹とマオお姉さん、そしてクルーゾーさんのASだ。

 

『まさか伏兵を用意していたとは……! おのれ、ナチュラル共が!!』 

 

 それを見た隊長機のグフが手首に砲台が付いた右手を議事堂へ向ける。

 

 けれど、それを見逃さない人がいた。

 

『あれだけの戦争をして、お前たちはまだ目が覚めないのか!!』

 

 それはカミーユさんのゼータガンダムだ。

 

 議事堂上空から急降下の勢いを載せて振るわれるビームサーベルは、攻撃が発射される前にグフの右腕を肘のあたりから切断する。

 

『黙れ! コロニーに核を撃ち込む野蛮なナチュラルなど滅んで当然!! 我等の進むべき道はパトリック・ザラが示した旧人類の殲滅なのだ!!』

 

 カミーユさんの怒りに怒鳴り返しながら残った腕から鞭を放つグフ。

 

 しかしそれもゼータは容易く躱し、ライフルから放たれたビームによってコックピットを撃ちぬかれた。 

 

 主を失い仰向けに倒れるグフ、それを見た私は小さくため息を吐く。

 

 正直、にぃにの同僚を倒すのは気が引ける。

 

 けど後ろから撃たれるのは勘弁だし、プルちゃんや救出作業中のエコーズの皆が危ないのも見逃せなかった。

 

 それに最後の瞬間に隊長機から感じたニュースを見て泣きくずれる男性の映像。

 

 あれがパイロットの過去だとしたら本当に根が深い問題だと思う。 

 

『まさか本当にあの子供の勘が当たるとはな』

 

『ウチの裏切り者を事前に見つけたのもあの子ですからね。な、ミユちゃん』

 

 クルーゾーさんが漏らした言葉に、ビルの上で狙撃を担当していたクルツさんがこちらへ話を振ってくる。

 

 生憎と今回は私が見つけたわけじゃないんだよね。

 

「……みつけたのミユじゃない。ガチたん」

 

『ガチたんってそのタンクが?』

 

「……ん。ガチたん、すごいようへい」

 

『ほう。その機体はスクラップをレストアしたと聞いていたが、傭兵が使っていたものだったのか』 

 

『重装甲で砲撃戦仕様に多少の損傷を物ともせずに動く戦車形態、メンテナンスが安定しない傭兵が使うには理にかなっていますね』

 

 相良軍曹とアル君が感心する中、頭の中にガチたんの声が聞こえてくる。

 

『お嬢ちゃん、よく見ておけ。あれが物事の順序を間違えた阿呆共の末路だ』

 

 そんな彼がモニターを操作して見せたのは、志半ばで地面に転がる事となったザフト部隊の残骸たちだった。

 

「……じゅんじょ?」

 

『この戦場で奴等が行うべきは議事堂の破壊だ。それを達成して犯行声明を出せばプラントとやらは地球との戦争を避けられんからな。そして守備隊がジオンに釘付けになっていた初期の状況ならチャンスはいくらでもあった』

 

「……ん。なんでやらなかった?」

 

『恐らくだが奴等は自分たちにとっての最高のタイミングを狙っていたんだろうさ。地球圏最強の部隊の裏を掻いて敵首脳陣を一網打尽にする事で、傲慢なナチュラル共を横合いから思い切り殴りつける。それは奴等にとってはこの上ない意趣返しであり、仲間内でも英雄となれる最良の一手だ。───実に下らん』

 

 ガチたんは自分の推測を述べた後にそう吐き捨てる。

 

『戦場には様々な奇縁や正邪善悪が渦巻く。それゆえ感情で動くなとは言わん。だが為すべき事よりも優先しては三流以下の素人だ。任務や依頼は相手が自分を信用しているからこそ預けられる。それを蔑ろにする者にプロフェッショナルを名乗る資格は無い』

 

 むぅ……なにやら耳が痛い言葉であります。

 

 けれどガチたんの言う事はもっともだ。

 

 これからは彼に失望されないように気を引き締めよう。

 

『ミユちゃん、コンロイだ。デカブツからパイロットの救出は完了したぞ』 

 

 内心でそう決意していると、コンロイおじさんから通信が入った。

 

 モニターをアップしてみると、脳内に浮かんだイメージそのままのプルちゃんを肩に担いだコンロイさん達がザリガニロボからワイヤーで降りてくるところだった。

 

『こちら、プリベンターライトニングだ。ジオン残党軍の掃討はほぼ完了した。現在ソレスタルビーイングを中心に、残党がいないかを確認している。各員はもう少しだけ頑張ってくれ』

 

 そして間を置かずにグラハムさんからも戦闘がほぼ終了したとの知らせが。

 

 相手はテロリストなので油断は禁物だけど、これで少しはホッとできるかな。

 

 そんな風に考えて強張っていた身体から力を抜こうとしたその時だ。

 

「ひぅっ!?」 

 

 突然、背筋が凍るような強烈な悪意を私は感じた。

 

『ダグザ中佐! 敵MAが活動を再開!』

 

『なんだと!? まさか遠隔操作か! 総員、直ちに撤退せよ!!』

 

 さらにはザリガニロボが撤収準備をしていたエコーズの皆にかぎ爪が付いた腕を振り上げているじゃないか!

 

「……ダメ!」  

 

 咄嗟に両手のダインスレイブを腕に叩き込む事で、なんとかかぎ爪がエコーズに当たるのを回避した。

 

 幸いと言うべきか、短杭が当たったのは関節部だったようで奴の左腕はあらぬ方向に折れてときおり青いスパークを見せている。

 

「……ダグザのおじちゃん、さがって! ザリガニロボ、あいてする!」

 

『……すまん! 総員、全速力で退避だ!!』

 

 ロトを殿にエコーズのジェガン達はザリガニロボから離れていく。

 

 けれど、私はその様子を見ていることは出来なかった。

 

 何故ならザリガニロボに集まる悪意を見てしまったから。

 

『おのれ、連邦め……』

 

『背中の傷が疼く。この痛みがある限り、俺はお前たちを絶対に許さん!』

 

『アルフレッドを…俺の親友を殺しやがって! 奴の痛みを絶対に味わわせてやる!!』

 

『俺達は負けてない! まだ戦えるんだ!!』

 

『連邦を滅ぼすまで、地球に住む奴等を叩き潰すまで! 止めてたまるか!!』

 

 私には分かる、わかってしまう。

 

 アレを動かしているのは死んでいったジオン残党軍の連邦やこの世界に対する憎悪だ。

 

 それを暴走したサイコミュが集めて、ロボットの操縦系を支配しているんだ。

 

「……きもちわるい」

 

『ミユ、奴を真正面から見てはいけない! あれは悪いものだ!!』 

 

 思わず口元を押さえた私にカミーユさんが注意をくれる。   

 

 けれど、ザリガニロボの変化はまだ終わらなかった。

 

 破損した腕の接合部から赤黒い肉が盛り上がるのと、それは瞬く間に全身へ伝播する。

 

『■■■■■■■■ッ!!』

 

 血と膿をまき散らし、皮がない肉が装甲を内側から持ち上げるそれはもうモビルアーマーじゃない。

 

 まさに怪物と呼しかない醜悪な何かだった。

 

 

 

 

 天へと産声を吼え立てる怪物。

 

 ダカール市に乱立するビルの一つ、その屋上に立つ黒髪に黒衣の美女は楽しげに眺めている。

 

「ちょうどいい憎悪と悪意があったから『妖蛆の秘密』の術式で利用してみたんだけど、随分と面白いものができたなぁ」

 

 血を吸ったように赤い唇を歪めながら女は手にした古い書物をその豊かな胸の谷間に押し込む。

 

 するとどんな手品か、媚肉の間に飲み込まれた書物は跡形もなく消えてしまったではないか。

 

「鬼械神には程遠いけど、科学と魔道の融合という意味では忌まわしい魔を断つ剣と同じになるのかな」

 

 腐肉と毒々しい色の体液をまき散らしながら前進する化け物。

 

 彼の周辺にあるモノは次々と腐り落ち、猛毒の臭気を放つ腐海へと変わっていく。

 

 彼が目指すのは取り憑いた悪意の矛先が向く議事堂だ。

 

「さて、お手並み拝見と行こうか。このくらいは軽くあしらってくれよ、お母さん」 

 

 そう呟く美女が浮かべる笑みは邪神のように禍々しいものだった。                  




今回のNGシーン。

頭から真っ二つにされた参号機。

犠牲者の臓物と体液が生み出した血の海に立つ返り血と夕日で深紅に染まった鬼の中、シンジは静かに呟いた。

「誤チェストにごわす」
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