幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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幼女と変わり果てたお兄さん

 ダカール市から帰還したアドヴェントはクロノ改革派行動部隊の小隊長が推薦する新たなメンバーの面通しをしていた。

 

「彼女がそうか」

 

「ええ。優秀さに関しては私が保証します。必ずや隊長や部隊の力になる事でしょう」

 

 饒舌に語る小隊長の言葉にアドヴェントは少し眉を上げる。

 

 自他ともに厳しい男である彼が、ここまで手放しに他者を褒めているのは初めてだからだ。

 

「お前がそう言うのなら期待が持てそうだ。君、名は何という?」

 

 アドヴェントの言葉に声を掛けられた女はフードを取る。

 

 そこから現れたのは長い黒髪に赤い唇が特徴な絶世の美女だった。

 

「ナイア。私はナイアと申します」

 

「ナイアか、良い名だ。これからは地球圏の平和の為に力を貸してもらうぞ」

 

「はい」

 

 アドヴェントの言葉にニコリと極上の笑みを浮かべるナイア。

 

「神の使い気取りの哀れな道化とその傀儡達。これからは僕の音頭で踊ってもらうよ。アレから宇宙を守る為の踏み台としてね」

 

 しかし仮初の主が背を向けた途端にその笑みは嘲りと愉悦に塗れた貌に変わる。

 

 それはこの世のモノとは思えない程に禍々しかった。

 

 

 

 

 北米の大都市に居を構えるスラオシャカンパニー本社。

 

 その社長室では白いスーツを着こなす金髪碧眼のビジネスマンが今日も業務に励んでいる。

 

 そして彼の傍らにいるのは、ボサボサに伸びた髪に無精髭を生やした粗野という言葉がよく似合う男だ。

 

「どうだい、仕込みの成果は?」

 

「上々ですよ。現状に不満を持つコーディ共が各地でテロを起こし始めています。エタニティ・フラット完成まで一月だというのに、まったくもって知性がない」

 

 そう言ってビジネスマンが手を振ると、空中に投影型ディスプレイが現れる。

 

 画面に映し出されているのは、各所から火を噴くキリマンジャロ基地とザフトのセカンドシリーズと戦火を交えるジェガン達だ。

 

「おーおー、元気なこった。いいねえ、硝煙と血の匂いがここまで届いてきそうだぜ」

 

「奴等に渡したのは外装こそザフトのセカンドシリーズですが、中身は現行機よりも一世代進んだオールドモビル。今の連邦にはそうそう止められないでしょうね」 

 

 事実、キリマンジャロ基地を守る連邦軍は劣勢に追い込まれていた。

 

 このまま戦況が進めば基地の陥落は時間の問題だろう。

 

「他にもベルファスト、アラスカ、パナマでも奴等は蜂起しています。連邦政府の司令部はマリーメイアの反乱にネオジオンの宣戦布告でコロニーへの総攻撃を決定している。そこにあの砂時計が混じるのは確実でしょう」

 

「まさにアンタの思惑通りってか」

 

「まだですよ。最後の最後でどんでん返しなんてのはよくある事。そういった事態を見越して全てが片付くまで気を抜かないのが一流の経営者です」

 

 男の賞賛にビジネスマンが首を横に振っていると、画面に映し出された戦場に変化があった。

 

 赤い粒子を伴いながら上空から高速で急襲するエメラルドカラーの機体によって、ザフト過激派の機体が次々と破壊され始めたのだ。

 

 コーディネーター達も応戦を始めるが地上にいる彼等では可変機の速度にはついていけず、強力なビーム兵器によって返り討ちにされている。

 

「ありゃあフラッグ……いや、新型か」

 

「ブレイヴですね。第二の大統領直属部隊ソル・ブレイヴスが動きましたか」

 

 乱入者の素性をビジネスマンが言い当てる中、ザフトの部隊をビームの大奔流が薙ぎ払う。

 

 前線を崩壊させた一撃の主はバスターライフルを構えたウイングガンダム。

 

 その背後にはブースターやトサカを蒼く塗装された純白の騎士、トールギスが控えている。

 

「なるほど、これは彼の仕込みですか」  

 

 その姿にビジネスマンはスッと目を細める。

 

「おいおい、全然忍んでねーじゃねえか。死人は暗躍がお約束だろうに」 

 

「そこは逆転の発想なんでしょう。普通は故人と同型の機体を持ち出してもゲン担ぎ程度としか思われませんからね。当人が乗っているなんて考える人間は余程の酔狂くらいです」 

 

 あの男ならそこまで計算に入れて戦場に出てくるだろう。

 

 そう予測したビジネスマンは呆れる男に肩をすくめる。 

 

「暗躍はお互い様ですが、こちらの思惑に横槍を入れられるのも業腹です。彼等もNo09の排除を決めたようですし、少し痛い目を見てもらいましょうか」

 

 ちらりとビジネスマンが視線を送ると男は獰猛な笑みで応える。

 

「そこで俺の出番ってわけか。相応の玩具は用意してくれんだろうな。今までみてぇな量産機で奴等の相手をしろなんて御免だぜ?」

 

「もちろんです。貴方にぴったりの機体を用意してますよ」

 

 言葉と共にビジネスマンが手を振ると、戦場を映したディスプレイが格納庫の様子へと切り替わる。

 

 そこに映る鋼の檻に収められていたのは、全身を深紅に染めたガンダムタイプのモビルスーツだ。

 

「お、コイツはガンダムじゃねえか!」

 

「ガンダム・アスタロト。僕達とも貴方とも違う世界で、天使の名を持つ機械の化け物を殺す為に作られた機体です」

 

「魔王の名を持つガンダムねぇ。いいじゃねえか、コイツは楽しめそうだ!」

 

「操縦系統は西暦のモノに換装しています。これで裏切り者の邪魔をお願いしますね。そうそう、試運転ならパナマのコーディ共でよろしく」

 

「おいおい、いいのかよ。その辺もアンタの仕込みなんだろ?」

 

「構いません。奴等を調子に乗せ過ぎても面倒ですし、適度なところで横っ面を張り倒すのも必要ですよ」

 

「そういう事なら任しときな。けど、俺が行けばぶん殴る程度じゃ済まねえ。───皆殺しだぜ?」

 

「お好きにどうぞ」

 

 自分の答えに心底楽しそうな笑みを返した男が意気揚々と社長室を出る男を見送ると、ビジネスマンは再びディスプレイに目を向ける。

 

 そこには二人の少女のデータが羅列されている。

 

「ふむ……可愛い子には旅をさせろという言葉は本当のようですね。02のコンディションと能力値に今までにない上昇がみられます」

 

 そしてもう一方の幼女、そちらに目をやると小さくため息を吐く。

 

 そのデータは一月ほど前からまったく更新していなかった。

 

「01の方はデータ取りできませんか。ビーストから長期離れている事もそうですが、やはりハロを乗っ取った例のAIが厄介ですね」

 

 ビジネスマンは01と呼んだ少女を高く買っている。

 

 何とかコネを作り、その力を借りる。

 

 それはニュータイプや戦闘技術同様、有益度の高い才能だ。

 

 軍人気質な他の面々は己の力に重きを置くので見向きもしないが、経済という荒波を乗り越えてきた彼は個人の限界をよく知っていた。

 

 そしてそう言った難局を乗り切るには他人の力が必要不可欠であることも。

 

 だからこそ、変異したマジンガーを始めとして多くのモノに目を付けられている01の方に期待をよせているのだ。

 

「相手は人知を超えた化け物。ならば、こちらも化け物の力を借りた方が合理的でしょうに。餅は餅屋という言葉があるように、特殊な分野には専門職を当てるのはビジネスの常識なんですがねぇ。彼女もそうでしたが、軍人は頭が固くていけない」 

 

 そう独り言ちると、ビジネスマンはやれやれと言わんばかりに肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 薄暗い訓練施設の中、一人の少年が荒い息と共に宙を舞っている。

 

 岩場のように不安定な足場を蹴り、宙へ飛んでは手にした木剣を振り下ろす。

 

 その際、太刀筋はブレてはならない。

 

 体勢を崩して……いや、いかなる体勢であろうとも必殺の威力を乗せられねば、この訓練に意味はないのだ。

 

 いったいどのくらい訓練を続けているのか、訓練場に敷き詰められたクッションを兼ねたゴム製の床には汗が水たまりを作っていた。

 

 それだけではない。

 

 彼が手にする硬質なユスで出来た木刀の柄には血豆が潰れてあふれ出た血がベッタリと張り付き、訓練場に散在する足場にも破れた足の皮から零れる血に濡れている。

 

 それでも少年は鍛錬を止めようとはしない。

 

 地や壁を蹴り、猿のような身のこなしと共に聞くだけで怖気が立つような風切り音を立てて斬撃を放つ。

 

 もちろん、ただ闇雲に振っているわけではない。

 

 少年の眼には地球を狙う為に暗躍するモノ、神を名乗る機械の化け物、数度の戦争の中で勇名を轟かせたエースパイロットなど、今まで出会った様々な敵が映っている。

 

 映像資料やシミュレーターを穴が開くほどに見た彼はその動きを幻視し、彼等を両断すべく剣を振るうのだ。

 

 そうして数百度目の独闘が終わると、地面へ赤く染まった素足を付けた少年はそのまま膝を突いた。

 

 皮がズル剥けた手や足はヒリヒリと痛み、全身の筋肉は悲鳴を上げている。

 

 それでも彼は思うのだ、まだ足りないと。

 

 少年にとって自分がいる場所は宝のようなものだ。

 

 物心が付く前に母を失い、父に捨てられた彼は惰性で生きてきた。

 

 愛情を欲しても金で彼を預かった下宿先では与えられず、学校でも友人と呼べる者はいなかった。

 

 けれど今は違う。

 

 部隊の皆が自分を仲間と思ってくれる。

 

 兄貴分になる人たちもいれば、年下の子供達も自分を頼ってくれる。

 

 それに厳しくも温かく自分の成長を見守る師にも出会えた。

 

 彼等が与えてくれた自分が存在してもいい世界、自分の居場所は少年が心の底から渇望するものだった。

 

 それが得られるのなら、軍隊に所属する程度大した問題じゃなかった。

 

 しかし、ここまで戦い抜いた彼はその居場所が盤石ではない事も知っている。

 

 地球圏最強の部隊と言えど、この宇宙には自分達を上回るモノは数多と存在する。

 

 そんな敵と最前線で戦う以上、彼が得た宝物は薄氷の上に成り立っていると言っても過言ではない。

 

 ならばどうする?

 

 兵士としても未熟であり、師から教わった剣術も使える技はたった一つ。

 

 そんな自分に何ができる?

 

 考えて、考えて、考え続けて、少年は一つの答えを見出した。

 

 それは『出来る事をする』という単純なモノだった。

 

 自分がいる環境、自分の手の内にあるカード、その全てを使って部隊が生き残る一助となる。

 

「リシュウ先生は自分の事を『悪を断つ剣』といった。けど、今の僕じゃあ剣になんてなれない。だったら───」 

 

 薄闇の先を鋭く睨みながら決意を告げた少年は再び床を蹴る。

 

 己自身をより強く、鋭く研鑽する為に。

 

 

 

 

 どうも、日本の土を再び踏んだ幼女です。

 

 日本までの船旅は快適の一言でした。

 

 お風呂に入って皆が御馳走してくれたフルーツ牛乳をクピクピと飲み、湯上りで温まった身体のまま寝床に入る。

 

 もちろん、姉としての役目は忘れない。

 

 ミウの頭を抱いて「……ミウ、ねんね、ねんね」と寝かしつけてあげるのだ。

 

 たまに私の方が先に眠ってしまう事もあるが、その辺はご愛敬。

 

 ミウはいつも至福の表情を浮かべているし、好評なのだと思いたい。

 

 さて、遅ればせながらではあるけれど新メンバーとの顔合わせを語ろうと思う。

 

 まずはカミーユさんの知り合いであるフォウ・ムラサメさん。

 

 ガチたんから降りてきた私を見た彼女は随分と目を丸くしていた。

 

 そういえば、戦いのときはカミーユさん経由で彼女と直接通信をしていなかったっけ。

 

 でもって、カミーユさんやファさんに『こんな小さい子を戦いに出して大丈夫なの!?』と随分心配してくれた。

 

 彼女は強化人間という人工ニュータイプのようなモノらしいので、その辺は見過ごせなかったのだろう。

 

 しかし私もZ-BLUE設立時からの古参扶養者である。

 

 胸を張って大丈夫と言ってやった。

 

 まあ、そのあと頭をなでなでされたんだけどね。

 

 そしてプリベンターやソル・ブレイヴスから出向になったグラハム少佐と幸せマネキンさん、あとアンドレイ少尉。

 

 やっぱり私を見た瞬間、皆唖然としていたっけ。

 

 中でも一番驚いていたのはマネキンさんで、『いくらなんでもコレはアカンやろー!』と吼えていた。

 

 ひーちゃんがZ-BLUEに保護されなかったら、ぶっちゃけ生きていけないと説明してくれなかったらどうなっていた事か。

 

 これからも加入する人も増えるだろうし、この辺の問題は本気で考えないといけないかもしれませぬ。 

 

 こうして日本へ戻ってきた私達は、ただいま第三新東京市にあるネルフ本部に滞在しています。

 

 理由は日本残留組との合流場所がここだったからだ。

 

 こちらがダカールへ行っている間、日本でも色々な事があったらしい。

 

 その中でも大きいのはアスカお姉さんがテストパイロットをしていたエヴァ参号機が使徒に乗っ取られて暴走した事と、アブダクターにMIXお姉さんが連れ去られてしまった事だ。

 

 不幸中の幸いにもアスカお姉さんはシンジお兄さんの活躍で助け出されたけど、MIXお姉さんは連れ去られてしまったままだという。

 

 ニアお姉さんに続いて二人目の誘拐被害者だ。

 

 正直、いろいろお世話になった身なので心配である。

 

「アンタの事を母親って言ったって? ……また変態に目を付けられて、一回お祓い受けた方がいいんじゃないの?」

 

 そんな訳で早速入院しているアスカお姉さんのお見舞いに来たわけだ。

 

 事故の事を聞いた時は心底ゾッとしたけど、元気な姿を見れて本当に良かった。 

 

「……おまもり、もらった」

 

「効果が無いように見えるけど? アンタを狙う奴、増える一方だし」

 

 私が首から取り出した五芒星のペンダントにベッドの上で猜疑的な目を向けるアスカお姉さん。

 

 そんな目を向けてはいけない。

 

 これはアルお姉さんが造り直してくれた逸品なのだ。

 

 なにせサイコフレームとUGセルを素材にして、そこへアルお姉さんがありったけの加護を加えてくれたのだから。

 

 私のニュータイプ的な思念も破邪の力に変えるから、並のお化けは私を見ただけで消滅するんだぞ!

 

 しかしそんなプレゼンを幼女ボディが言えるはずもなく、お守りのペンダントトップはアスカお姉さんの指にピンと弾かれてしまうのだった。

 

「まあいいわ。私もすぐに復帰するから、それまでは妙な無茶するんじゃないわよ。ナナ……シンジ。私がいない間はチビの事、任せるわよ」

 

「うん」

 

 アスカお姉さんの言葉に少しうれしそうな顔で頷くシンジさん。

 

 これで終わったらいい話っぽいんだけど、残念ながらそうはいかないのである。

 

「じゃあ早速、チビをネコ扱いしているエコヒイキを何とかしなさい!」

 

「なに?」

 

 ズビシッ!とアスカお姉さんが指さした先には、後ろから私を抱きしめながら顎の下をコチョコチョしているレイお姉さんの姿があった。

 

「いや、あれってミユちゃんと綾波のスキンシップみたいなものだし……多分」 

 

「アンタねえ、あの扱いにチビが慣れてる事に危機感憶えなさいよ」

 

 まあ、私もヤバいとは思うんだけどさ。

 

 日に日にレイお姉さんの可愛がりスキルは上がってるんだよ。

 

 くすぐったり撫でたりね。

 

 うーん、その内『ネコでいいや』と思う日が来たりして。

 

 そんなこんなでアスカお姉さんのお見舞いも終わり、クォーターへ帰って来た私達。

 

 そこにいたのは意外な人物だった。

 

「……アポロニアス」

 

「その名で呼ばないでもらおうか。今の私は不動ZENだ」

 

 一人目は太陽おじさんことアポ……不動さん。

 

「ミユちゃん、久しぶり!」

 

「あなた大丈夫なの? ロボットが暴走してから全然会えてないし、本当に心配したのよ!」

 

 ランカお姉さんとシェリルお姉さん。

 

「ミユちゃん、お兄ちゃんがごめんね」

 

 そして実家に帰っていたはずのミコノお姉さんだ。

 

 話を聞くに不動さんとシェリルお姉さん達は歌エネルギーで時の牢獄を破れるかの実験をする為だという。

 

 一方のミコノさんはというと……

 

「実はお兄ちゃんが家からいなくなったの。最近は変な呪文を唱えながら魘される事が多くて、精神科のお医者様も入院を勧めていたところだったのに……」

 

 家出してしまったカイエンさんを探す為に復帰したというのだ。

 

 まさかそんな事になっていたとは……カイエンさんが不調になった原因の一端な身としては申し訳なさでいっぱいだ。

 

 しかし呪文とはまたオカルト臭のする話である。

 

 そう考えるとミコノお姉さんからも、例のザリガニゾンビと出会った時に近い気配を感じる。

 

 こういった時に誰を頼るべきなのか、それは勿論決まっている。

 

「……ミコノおねえさん、こっち」

 

「えっと、ミユちゃん?」

 

 それは自称魔導探偵こと大十字さん達だ。

 

「呪文だと? それはどういったものだ」

 

「なにか録音か映像なんかはないかな? もしあったら見せてほしいんだ」

 

 ミコノお姉さんから事情を聞くと、案の定アルお姉さんと大十字さんは食いついてくれた。

 

「あの…これになります。入院するときにお医者様に聞いてもらおうと思っていたモノなんですけど」

 

 そう言ってミコノさんは携帯端末を操作する。

 

 私も見せてもらったけど、画面に映っている光景は異様の一言だった。

 

『いあ いあ んぐああ んんがい・がい! いあ いあ んがい ん・やあ ん・やあ しょごぐ ふたぐん! いあ いあ い・はあ い・にやあい・にやあ んがあ んんがい わふる ふたぐん よぐ・そとおすぅぅぅぅぅぅ!』 

 

「ぴぃっ!?」

 

 ベッドの上で白目を向いて、背中を限界まで逸らしながら泡になったヨダレを飛ばして叫ぶカイエンさん。

 

 その様子は狂気なんて単純な言葉では表せなかった。

 

 そして動画を見終わったアルお姉さんは難しい顔でミコノお姉さんに向き直る。

 

「汝等エレメントとやらが異能を持つ事とは聞いている。この男の能力は未来視の類ではないか?」

 

「う…うん。でもどうしてわかったの?」

 

「奴が吐いた呪文、その中にあるヨグ=ソトースは外なる神の一柱だ」

 

 戸惑うミコノさんにアルお姉さんは厳しい表情で答える。

 

 うん? 外なる神ってたしか……

 

「……ナイなんとかとおなじ」

 

「ナイアルラトホテップな」

 

 そう、私を狙っている自称娘と同じである。

 

「ヨグ=ソトースはいかなる時間・空間にも自らを接続できる存在と言われている。それは即ち過去も未来も見通せるという事だ。恐らくは貴様の兄は未来視が呼び水となって、奴と接触したのだろう」

 

「それで兄は! お兄ちゃんはどうなるんですか!?」

 

「実際に診てはいないから確かな事は言えん。だが、画像の様子からすると最悪の事態も覚悟せねばならん」

 

「最悪の……事態?」

 

「永続的な狂気に侵され、もはや常人の精神が残っていない状態というものだ。そうなれば自ら命を断つか、完全に壊れた心の赴くままに怪物や人としての理など意に介さない外道に堕ちる。仮にそうであったなら我等に出来るのは介錯してやる事くらいだ」

 

 カイエンさんが辿るかもしれない、あまりにも救いのない未来に私は思わず息を呑む。

 

 そのショックは妹のミコノさんの方が大きかった。

 

「……ミコノおねえさん!」

 

「おい、嬢ちゃん!!」

 

 彼女は残酷な現実に耐えられずに気を失ってしまったのだ。

 

 なんとか大十字さんが抱きとめてくれたからミコノお姉さんに怪我は無かったものの、次の瞬間には彼女の介抱をする余裕は無くなってしまう。

 

『館内クルーに通達! ジオフロント内に未確認機の侵入多数!! 識別はアルテア軍! 機動部隊は迎撃に当たれ!!』

 

 ネルフのお膝元にまで敵が現れたからだ。

 

 

 

 

 マクロス・クォーターの索敵担当なモニカさんの警告から数分。

 

 Z-BLUEの機動部隊はジオフロントの森林地帯で展開していた。

 

 今回の私の乗機は久々のハロだ。

 

『レーダーに反応。ミーちゃん、来るよ』

 

 ひーちゃんの言葉と同時にディスプレイの一部分がアップされる。

 

 そこに映っているのは見た事のない白い甲冑を着た騎士のような機体を先頭に、例のワンコ男が乗っている獣ロボや蜘蛛ロボに人型など大軍を引き連れている。

 

 あと、気になるのは円形の頭を持った人型ロボの中にある黄土色の一体だ。

 

 この感じ……もしかしてMIXお姉さんなの?

 

『アマタ、ミコノは大丈夫なのか?』

 

『うん、医務室へ預けたから』

 

『心配しないでよ! ミコノの分まで私が頑張るって!!』

 

『そうだぜ! 奴等をブチのめして、MIXを取り返さねえとな!!』

 

 メサイヤからデュランダルという機体に乗り換えたアルトさんの問いかけにアマタさん、ゼシカさん、アンディさんの順で応えるアクエリオンチーム。

 

『弱虫アマタぁ! テメエ、シルフィをどこへやったぁ!!』

 

 その一方で獣ロボからこちらへ通信……というかクレームが入ってくる。

 

 アイツって、アマタさんの名前知っていたんだね。

 

 というか弱虫ってどういう意味かな?

 

『ミコノさんは───』

 

 アマタさんが律儀に答えを返そうとした瞬間、私達の中から凄い勢いで飛び出した一つの影があった。

 

 『ゾンッ!』と太刀を大上段に構えて飛ぶように走る紫紺の鬼、それはエヴァ初号機だった。

 

『な……速い!』

 

 音速を超えた為に発生する衝撃波で回りの木々を薙ぎ倒して敵陣へ飛び込んた初号機。

 

『キェェェェェェェェェッ!!』

 

 耳をつんざく絶叫と共に振り下ろされた紅い刃は、懐を取られた敵指揮官機の左腕を後ろの羽飾り事一刀の元に根元から叩き切った。

 

『しまった!? アルテアキャノンが!!』

 

『チッ!』

 

 指揮官の驚く声を置き去りに、シンジさんの舌打ちと共に初号機は大きく後ろへ跳ぶ。

 

 けれど、それを黙って見過ごさない奴もいた。 

 

『不意打ちとは舐めたマネしてくれんじゃねえか! シルフィを取り戻す景気づけだ! 弱虫アマタの前にテメエから血祭りにあげてやるよ!!』

 

 それは例の獣ロボだった。

 

 野獣形態に変化した奴はアクエリア市を襲った時のように、宙を掛けながらエヴァ初号機に迫る。

 

『死ねぇ!!』

 

 距離を取るにつれて勢いが衰え始めた初号機、そこに獣ロボが襲い掛かる。

 

 けれど、その爪が紫の装甲を切り裂く寸前、彼の前から初号機の姿が消えた。

 

『なに!?』

 

 獣ロボのパイロットには分からないだろうけど、遠間から見ていた私達には理解できた。

 

 襲われる寸前、初号機が空中を蹴って獣ロボの側面へと回り込んだんだ。

 

 あの一瞬、初号機の脚元に現れたのって……

 

『ATフィールドだね。防壁の他にあんな使い方もあるんだ』

 

「……ん。すごい」

 

 けれど、これで獣ロボの攻撃はかわしたと思うのはアイツを甘く見ている。

 

『舐めんなよ! 俺から逃げられると思ってんのか!!』 

 

 ワンコ男は躱されたと分かった瞬間に、初号機が逃げた方へと向き直ったのだから。

 

『なんだと! い…いねぇ!?』

 

 けれど、鬼の動きはそんな獣の反応速度を凌駕した。

 

 獣ロボが振り向いた時には初号機はもう一度宙を蹴って、さらに上へと舞っていたのだから。

 

『ケェェェェェェェェェェッ!!』

 

 そして通信越しに響き渡る裂帛の気合。

 

『ぐああああああっ!?』

 

 そして天から降り注いだ一刀は獣ロボの胴を両断してしまったのだ。

 

 上半身と下半身が泣き別れて森の中へと落ちる獣ロボ。

 

 それには目もくれずに、初号機は三度宙を蹴って私達の元へ戻ってきた。

 

 突然のことにZ-BLUEの皆も唖然とする中、敵の指揮官から通信が入ってくる。

 

『精強な兵だ。そんな剛の者がいるのなら、度重なる我らの攻撃を跳ね返したのも頷ける』

 

 その言葉に口を開いたのは、大立ち回りを演じたシンジさんだった。

 

『──僕は強くなんてない。ただ自分のできる事をしているだけさ』

 

『出来る事だと?』

 

『真っ先に飛び込んで、何かをする暇を与えずに大将の首を断つ。本来なら僕の剣なんて届かないんだろうけど、その辺は僕と初号機の命を天秤に乗せて帳尻を合わせるようにしてる』  

 

 そう紡ぐシンジさんの言葉は何処か圧を感じさせるものだった。

 

 普段の少し気弱で優しい彼とは別人としか思えないくらいに、

 

『僕は切っ先だ。この部隊の、Z-BLUEの切っ先だ。皆という剣に先んじて相手の肉に食らいつく、それが僕の役目だと僕自身が決めた』

 

 そう宣言すると初号機は再び最初の構えを取る。

 

 リシュウのおじいちゃんと同じ、示現流の型だ。

 

『精々未熟者が吼えていると侮ってよ。その方がアンタの喉笛を食い千切れる』

  

 通信モニターの先で凄みのある笑みを浮かべるシンジさん。

 

 その右眼はL.C.Lの中でも分かる程、煌々と紅く光っていた。

            




初号機新武装追加。

一の太刀・八艘

シンジが試行錯誤の末に編み出した技

ATフィールドを足場にエヴァの筋力を生かして、超音速の三次元機動で相手の死角からチェストする。
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