幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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お待たせしました、ようやくの更新です。

時獄編ももう少し。

どうしてここまで風呂敷が広がってしまったのか

ここから畳むのは大変ですが、頑張って行こうと思います。


幼女と邪神と太陽の翼

 マクロス・クォーター内にあるスパ施設。

 

 女湯の湯船でヨーコの膝に乗せられていたミユは、コクリコクリと船を漕ぐと力なく豊満な胸にその身を預けた。

 

「眠っちゃったわね」 

 

「今回の実験は姉さまにかなり負担を強いりましたから」

 

 そんなミユにヨーコと隣に座ったミウは慈愛の視線を向ける。

 

「そんなにキツいものだったの?」 

 

『エネルギー自体は集束すると勝手に共振・強化するからいいんだけど、それを集めるのがねぇ……。なにせ世界中から引っ張るんだもん、そりゃあ大変だよ』

 

 完全防水加工を施しているハロ・ビーのボディに掛け湯をしながら答える陽蜂。

 

 最強のエレメントドールの演算能力とミユのズバ抜けたNTの力をもってしても、それだけの思念を誘導するのは難行だったのだ。

 

「でもジェミニスの足取りが掴み切れていない今、エタニティ・フラット破りが出来る可能性が一番高いのはこの方法ですわ」

 

『今回の事で問題点も洗い出せたし対応策も見えてきた。次はミーちゃんに負担をかけないようにするよ』 

 

「流石ですわね。ビーストやマジンガーよりも余程安心できます」 

 

 チャポンと湯船に飛び込んだ陽蜂に小さく笑みを浮かべるミウ。

 

 その表情は肉体年齢よりも大人びて見える。

 

 そんなミウを見ていたヨーコは自分にもたれ掛かって寝息を立てる彼女の姉に目を向ける。

 

「けど、本当にこの子は大変ね。こんなに小さいのに色々背負い過ぎよ」

 

『ミーちゃんは元々責任感が強いから。それに妙な奴等にドンドン狙われるから、本当に気が抜けないよ』

 

「できれば危険な事は私や他の方々に任せて、姉さまには安全な場所にいてほしいのですが」

 

 湯船にぷかぷかと浮かぶ陽蜂とミウはヨーコの言葉に同意するようにため息を吐く。

 

「それは貴方もよ」 

 

「私くらいなら問題ないでしょう。竹尾君や金田君もいますし」

 

 ヨーコのツッコみに意外だと言わんばかりに反論するミウ。

 

『身体の成長だけを見ればね。けど実年齢はそうじゃないでしょ』

 

「そういう事。で、何歳なの?」

 

「……半年ですわ」

 

 ぶーたれながら答えるミウにヨーコは深々とため息を吐く。

 

「つまり、私達は一歳と零歳の赤ちゃんを戦場に出してるってわけか。なんとかしないとねー」

 

「赤ちゃんは止めてください!」 

 

 ヨーコの余りの言葉に思わず声を上げるミウ。

 

 それは彼女の姉の眠りを妨げることとなった。

 

「あら、起きちゃった?」

 

「…………んん」

 

 まだ夢心地なのだろう、小さく唸りながら寝がえりを打つミユ。

 

 そして彼女がヨーコの体にしがみ付く体勢になった瞬間、湯船の三人は驚きの声を上げた。

 

「ちょっ!? ミユ!」

 

「姉さま!」

 

『これは最高画質で保存! 保存! 保存!!』

 

 いったい彼女達に何があったのか?

 

 それは女湯にいた者と湯けむりだけが知っている。

 

 

 

 

 どうも、疲れも抜けて元気いっぱいな幼女です。

 

 次元の檻を破る為の実験に付き合ったあと、ヨマコ先生やミウ達と共にお風呂を頂いた私は湯船で見事に寝落ちしてしまった。

 

 自分としても失態なのは重々承知だけど責めないでいただきたい。

 

 先生のお胸を枕に温かいお湯の中に入るのは、とっても気持ちがいいのです。

 

 そんな極楽状態では電池が切れかかっていた幼女では眠気に抗えませぬ。

 

 うん、姉の威厳云々について言及するのはNGで。

 

 あとヨマコ先生は毎度面倒を掛けて本当に申し訳ない。

 

 そんな感じで目を覚ますと、にぃにの部屋のベッドに転がっていた。

 

 晩御飯も食べずに延々と鼻提灯を膨らましていたとは、思った以上に疲れていたようだ。

 

「……おなか、すいた」

 

 抗議の声を上げるお腹の虫に負けて、のそのそとベッドから出る私。

 

 幼女は三大欲求に忠実なのである。

 

 今日は甘いものの気分なので食堂でフレンチトーストセットを頼んで待つ事しばし。

 

「探しましたよ、ミユさん」

 

 オバちゃんが甘い匂いのするトーストを持ってきてくれたところで、私に声を掛けてきた人がいた。

 

 誰かと振り返ればアクエリア市のクレア市長だった。

 

「……ふぁに?」

 

 お子様ナイフとフォークで切り分けたトーストをもっきゅもっきゅしながら、私は用件を問いかける。

 

 お行儀が悪いのは分かっているけど、キュウキュウ鳴くお腹の虫は我慢弱いのである。

 

 幼女のエネルギー補給は誰にも止められないのだ。

 

「トワノミカゲと連絡は取れますか?」

 

 そしてクレアさんが口にした用件はこれだった。

 

「……ごめんね」

 

 もちろん答えはNoである。

 

 それが出来るんなら、ナイアの事だってもっと早く知れたもんね。

 

 しかし、どうしてクレア市長は私にこんな事を聞いてきたのだろうか?

 

 気になって問いかけると、返って来たのはトンデモない答えだった。

 

「実は今世界各地で異常気象が多発しています。異常高温と思えば低温、豪雨に豪雪。さらには巨大台風や竜巻など各地に大きな被害を与えているのです」

 

「……たいへん」

 

 さすがのZ-BLUEでも自然災害はどうにもできないからね。

 

 それでも何かできる事があれば……そういえばひーちゃんのデータベースに病院を背負って運べるザクの装備があったような気がする。

 

 一度確認してみよう。

 

「この原因はアルテア界とこの地球二つのバランスを取る柱となっていた、神話型アクエリオンが解放された為に次元同士のバランスが崩れた事にあると不動は言っていました」

 

 なるほど、それで私にミカゲさんと連絡が付くかを聞いたのか。

 

 神話型アクエリオンは彼が乗って行っちゃったし。

 

 そういう事なら何とか方法を考えないといけない。

 

 フレンチトーストを攻略した私は、ホットミルクを一息に飲んでお子様椅子から飛び降りた。

 

『ミーちゃん、起きたんだね!』

 

「……おはよう、ひーちゃん。チビとあおも」

 

 何時ものお友達とも合流して、私とクレア市長が向かったのはドラゴンズハイヴの司令室だ。

 

 そこではブライト艦長達やF.SさんにWillなんかが、さっき聞いた災害について話し合っていた。

 

 でもって、クレア市長がさっきと同じことを皆に説明。

 

 そして私にお鉢が回ってきた。

 

「ミユ、なんとかミカゲとコンタクトは取れないのか?」

 

 ブライト艦長の問いかけに私はちんまい脳みそをフル回転させる。

 

 連絡先はまったく分からないし神話型アクエリオンの無線の周波数も不明。

 

 普通に考えれば連絡手段はないと言えるだろう。

 

 けど私はニュータイプだ。

 

 めいきょーしすいも身に着けた今なら、サイコフレームで意識を増幅させたら呼びかけられるかもしれない。

 

 そんな訳で私はひーちゃんとあおを抱き上げる。

 

『ミーちゃん?』

 

「……ミカゲによびかける。てつだって」

 

『むー……あの変態堕天翅に呼びかけるのかぁ。イヤだなぁ、またミーちゃんに妙な事してきそうだし』

 

「……ごめんね。あとでいっしょにねる」

 

『それならOKだよ!』

 

 乗り気でないひーちゃんを何とか説得して、私は意識を集中する。

 

 頼む、ミカゲさん出てくれ!

 

 割と本気で地球の危機なんだよ!!

 

『何か用かな、我が君』

 

 やった、上手くいった。

 

「……つながった」

 

「本当か!?」

 

「では、神話型アクエリオンの返還を!!」

 

 オットー艦長が期待を多分に含んだ声を上げて、クレア市長がミカゲさんに伝える用件をこちらへ言ってくる。

 

 でも、ミカゲさんが神話型を持ってきたのって御使い対策なんだよねぇ。

 

 返してと言って応じてくれるかどうか……

 

「……いま、ちきゅうたいへん。しんわがたアクエリオンなくなったからっていわれた。どうしよう?」

 

『なるほど、この神話型アクエリオンはかつて世界樹と共に在りて世界を支える柱となった。それが消えれば多大な影響があるのは当然か。しかしこの機体は奴等との決戦には必要不可欠だ、再び人柱にするわけにはいかん』

 

 そうして少し考え込むような感じが伝わると、ミカゲさんは明るい声がこう言った。

 

『私にいい考えがある! そちらのアクエリオンを新しい柱にするのだ!』

 

「……アマタおにいさんたちの、かわりにするの?」

 

『ああ。もしあるのなら、新型アクエリオンのプロトタイプでもいい。太陽の翼に関してはクズ男の中年臭い私物を適当に翅へブチ込んでやればイケるだろう。なんなら売女との思い出の品をお焚き上げしてやれば奴も泣いて喜ぶさ』

 

 相変わらずアポロニアスに対して塩対応のミカゲさん。

 

 まあ、仕方ないと言えば仕方がない。

 

「……ありがと」

 

『大したことはない。あと、できれば次に会う時にはお義兄さん達を説得してくれるとありがたいな』

 

 うん、そこは自分で頑張ってね。

 

 ミカゲさんの割と無茶な要求を最後に念話は切れた。 

  

「どうだった、ミユちゃん」

 

「ミカゲは神話型アクエリオンを返すと?」

 

 スメラギさんとF.Sさんの問いかけに私は首を横に振る。

 

「……クレアおねえさん。アマタおにいさんたちのアクエリオン、プロトタイプある?」

 

「……アクエリオンEVOLの元となった強攻型アクエリオンなら、一体くらいは残っているはずです。ですが、それがどうかしたのですか?」

 

 私がミカゲさんの言い分を告げると、やっぱり皆渋い顔をする。

 

「なんとかここにミカゲを呼ぶことは出来んのか? 神話型の返却に関する交渉は我々がやるから」

 

「……ミカゲきたら、かみさまとたたかいになる」

 

 オットー艦長が案を出してくれたんだけど、私がこう答えると皆神話型を諦めてくれた。

 

 うん、アレだよね。

 

 二人が本気で戦ったらどれだけ被害が出るか分からないもんね。

 

 あの時は神様も矛を収めてくれたけど、今度顔を出したら開幕ブレストファイヤーとかあり得そうだもん。

 

 それで神話型が壊れたら元も子もないし、私はあくまで巫女でしかないから神様が本気で怒ったら止められないんだ。

 

 だから、今の所は神話型を回収するのは諦めた方がいいと幼女は思うのです。

 

「やむを得んな」

 

「ああ。こうなったらミカゲが提示したプロトアクエリオンに神話型の代用をさせる案しかあるまい」

 

 そう決定しそうになった瞬間、両開きなのに扉を蹴破って部屋に入ってくる人がいた。

 

 というか、そんなファンキーな真似をする人なんて一人しかいないよね。

 

「話は聞かせてもらったのであーる! 世界を支える人柱! それを築くのは一億年に一人の天才たるこのドクタァァァァァァ! ウエスト!!以外に適任がいるだろうか? いやいまい(反語)!!」

 

「博士、扉を壊したらまた減給されるロボ! ちょっとは考えて行動しろロボ!!」

 

「まそっぷっ!?」

 

 無駄に上手いギターの演奏と共に叫ぶ博士にエルザお姉さんの蹴りが炸裂する。

 

 博士の身体がもの凄い勢いで吹っ飛んで、Willさんの映るモニターに突き刺さったんだけど大丈夫?

 

「う…ウエスト博士、大丈夫かね?」

 

「問題ナッシンッ!! 幼女と変態の子作り疑惑で貴様等が騒いでいる間に、あの金ぴかロボのデータは思う存分取っているのである! 次の破壊ロボの参考の為にな!!」

 

 ああうん、あの時は皆して大混乱だったしなぁ。

 

 博士が何かしてたって、誰も気づかなくても不思議じゃないかも。

 

「さあ、早くアクエリオンとやらを持ってくるがいい! 吾輩がどこに出しても恥ずかしくない破壊ロボに改造してやるのであーる!!」

 

 破壊ロボにしたらダメ……いや、あの円柱型は何かを支えるのにいいのかな?

 

『ミーちゃん、それって違うからね』

 

 そうか、ロボット工学というのは難しい。

 

 幼女では理解が追い付きません。

 

 こうしてネオ・ディーヴァから強攻型アクエリオンが取り寄せられ、クォーターの格納庫で人柱となるべく改造が施された。

 

 開発者の不動さんがいればよかったんだけど、彼は異常気象の原因をクレア市長に告げると姿をくらませてしまったんだって。

 

 原因とか分かってるんなら手伝ってくれればいいのに。

 

 アポロニアスとして何か思うところがあるんだろうけど、その辺は伝えてほしかった。

 

 まあ、お陰で彼の部屋にはスタッフが押し入って、私物を根こそぎ持ち出されてしまったんだけどね。

 

「クサッ! 司令、靴下脱ぎっぱなしかよ!」

 

「ブチ込め! ブチ込め!! 神話通りならあの人自分の翼をアクエリオンに植え付けたんだ。匂いが強かったり酸っぱい方が効果あるだろ!!」

 

『シュコー、シュコー。そういう事なら俺がキッツいのを食らわせてやるぜ!』

 

「お前! 使用済みのティッシュは流石にヤバいだろ!!」

 

「このクソ暑い中を完全防備でよくやる!!」

 

「けどこれって太陽の翼とかいうのになるのか?」

 

「そうだよな。どっちかって言うと、濃縮中年オヤジエキス満載って感じだしな」

 

「その辺はアレだろ。熟成された加齢臭が太陽と同じ力を生み出すんだよ」

 

「不動司令の毛根が絶滅してたら、それも説得力あるんだけどなぁ」

 

「いや、照り返しとは別の形で目に染みてキツいんですが」

 

「おい! なんか古い女の下着みたいなの出てきたぞ!」

 

「それこっちだ! お焚き上げ案件!! 燃やしたら変な成分出るかもしれねえから、お前もガスマスク忘れんなよ!!」

 

「一万二千年前の情事の名残とかヤバ過ぎるだろ!」

 

「化石レベル」  

 

 そして服やらなにやらは溶液でドロドロに溶かされてプロトアクエリオンの背中に塗りこめられ、彼の思い出の品っぽいモノは焚火に焼かれて煙になって機体を燻している。

 

 ミカゲさんの言うとおりにやってるんだけど、はたから見ると改造というよりも怪しい儀式にしか見えないよね。

 

「本当にこれでいいのでしょうか?」

 

「これしか方法はないのです、やるしかないでしょう。……同じ男としては生き恥を晒されている不動司令には同情しか湧きませんがな」

 

「構いません。職場放棄をしてどこぞをほっつき歩いている不動が悪いのです」

 

 作業の様子を指令室から見ている艦長達もやっぱり引いている。

 

 スメラギさんやクレア市長はともかく、何故かオットー艦長は目じりをハンカチで拭っていたけど。

 

 さて、そんな作業チームの中でひと際異彩を放っているのがウエスト博士である。

 

「さあ、わきの下にドリルワームを付けてやろう! これを使えば次元だろうが虚数空間だろうがドリドリし放題! 世界を支える為のワイヤーにもなるのであーる!!」

 

 博士がもの凄い勢いで動き回る度にアクエリオンの外観がドンドン変わっていくんだけど、あれってもうゲッター2じゃない?

 

「フハハハハハハハッ! 分かるぞ! 吾輩にも全てが!! 進化とは! ドリルとは! コジマ粒子とは! 加齢臭とは!! そういう事だったのか、早乙女ェェェェ!!」

 

「博士! 緑の怪光線を出すのは止めるロボ!!」

 

「ねえ、ミーちゃん。あれって大丈夫なのかな?」 

 

「……わかんない」

 

 とりあえず、あれだ。

 

 念の為に彼に関しては監督役を付けておこう。

 

 大十字さんなら特別手当が出ると言えば、快く引き受けてくれるだろう。

 

 ナイアの事でお話しした時、正直私はドン引きしたからね。

 

 水にコーヒーフレッシュとガムシロップを入れて、ミルクセーキって出されたもん。

 

 しかも『非常食が……』とか言って泣きながらだよ。 

 

 今までどんな食生活……あ、ヤモリ食べてたんだっけ。

 

 お昼に大十字さん達の食事を大盛にするよう、食堂のオバちゃんに頼んでおこう。

 

 大十字さんの貧困事情は置いておくとして、こういった作業の場で幼女が役に立つ事はない。

 

 格納庫からお暇すると、廊下でキタンさんと一緒に歩くヨマコ先生に出会った。

 

「起きたのね、ミユ」

 

「なんつーか、いろいろ大変だな。まだ小さいんだから無理すんなよ」

 

 そう言って私に笑いかけてくれるお二人さん。

 

 そういえば、先生には昨夜は随分とお世話になった。

 

 これはお礼を言っておくべきだろう。

 

「……ヨマコせんせ、おふろありがと」

 

「いいのよ、そのくらい。ミユの可愛いところも見れたし」

 

 クスクスと笑うヨマコ先生。

 

 その時、脳裏にある光景が浮かんだ。

 

 それは女湯の湯船の中、ヨマコ先生の手の内で殆ど寝ていた私が彼女の胸に吸い付く様だった。

 

 それがどういう事か理解した瞬間、私は顔が一気に熱くなるのが分かった。

 

「あぅ……ミユ、あかちゃん…ちがう」

 

「何のことだ?」

 

「ミユ、気にしなくていいのよ。貴方はまだ小さいんだから。寝ぼけてたし、ああいう事しても恥ずかしくないの」

 

 わ…私なんて事を……!

 

 それにミウの前であんな赤ちゃんみたいな……姉としての威厳がぁっ!?

 

「うわあああああああん!!」

 

「お…おい!」

 

「ミユ!」

 

 ショックのあまり涙目であうあうと言葉が出ない私は、ひーちゃん達を置き去りに二人の元から逃げ去ってしまった。

 

 無礼なのは百も承知だけど、さすがにあれは恥ずかしすぎる!!

 

 そうして自分の部屋へ駆け込むと、そこには思わぬ来客がいた。

 

「やあ、お邪魔しているよ。お母さん」 

 

 それは私の娘を自称する邪神ナイアだった。

 

 

 

 

 ナイアこと邪神ナイアルラトホテップがクォーターに現れたのは気まぐれだった。

 

 母なる幼女は堕天翅から、彼の邪神がこの世界に降り立った方法を聞いたという。

 

 ならば彼女はいったいどんな目を自分へ向けるのか? 

 

 クロノへの潜入が退屈極まりない事もあって、ナイアルラトホテップは少々ストレスが溜まっていた。

 

 だからこそ、無聊の慰めとして母の態度を見定めることにしたのだ。

 

 そんな風に笑っていた彼女だったが、その余裕はすぐに崩れる事になる。

 

 己を見つけた幼女は顔を真っ赤にしてこう叫んだのだ。

 

「めっ!!」

 

 さすがの邪神もこれには首を傾げた。

 

 顔を会わせた途端に叱責を食らうとは思っていなかったのだ。

 

 改めて考えれば怒られる理由はしっかりあるので、彼女の態度は理解できなくはない。

 

 しかし、彼女の言葉に乗せられた想いが分からない。

 

 これが自らへの嫌悪や悪事に対する怒りや憎悪なら、彼女も多少は理解できた。

 

 しかし拙い叱責の中にあるのは、自分を更生させるという意志だけだ。

 

 永きに渡って人間を見てきたナイアルラトホテップでも、これでは相手の意図が全く読み取れななかった。 

 

「めっ! めっ! めぇぇぇっ!!」

 

 しかし幼女は彼女の困惑などお構いなしに指をさして叫びまくる。

 

 傍から見れば可愛い子供の癇癪だが、標的となった当人はその限りではなかった。

 

 現にナイアルラトホテップはダラダラと冷や汗を流している。

 

 何故なら邪神の目は幼女の内に渦巻く力が増大しているのを見て取ったからだ。

 

(拙い! 拙いよ!! こんな中途半端な状態で目覚めるなんてシャレにならない! 万が一にもアレに察知されたら計画はおじゃんだ!!)

 

 頭を過る最悪の未来にナイアは慌てて座っていた椅子から尻をあげる。

 

「わかった! わかったよ、お母さん! いったん落ち着こう! ほら、正座したから!!」

 

 そして怒られる準備はOKと言わんばかりに床に正座した。

 

 邪神がまず見せる事はないであろう殊勝な態度に、ミユはズンズンと前に進むとナイアの両頬にもみじのような小さい手を当てる。

 

「……ナイア、わるいことしてない?」

 

「え……?」

 

 突然の問いかけにポカンとなるナイア。

 

 邪神として悠久の時を生きてきた彼女でも、こんな質問を面と向かってぶつけられたのは初めてだった。

 

「それはどういう意味かな?」

 

 質問の意図が分からずに問いを投げ返すナイア。

 

 それにミユはジッと彼女の赤い目を見て答える。

 

「みんな、ナイアわるいっていった。でもミユ、そうおもいたくない。ナイア、なにするつもり? なにがしたい?」

 

 普通の人間なら命を捨てても惜しくないと思う程に魅了されるか、もしくは目の奥にあるモノのあまりの悍ましさに発狂するか、はたまた死を願っても死ぬことができない無間地獄のような呪詛を受ける事になるか。

 

 あまたの人間を破滅へ突き落とした魔眼を見ても幼女は顔色一つ変える事はない。

 

「……ウソはだめ。しょうじきにはなす」

 

 まっすぐに向けた幼女の視線。

 

 その奥に映る見通す事の出来ない深淵に、ナイアルラトホテップは我知らずに生唾を飲み下す。

 

「う…宇宙を救うことさ」

 

 言葉にできない圧に口内が渇いていくのを感じながらも、彼女は懸命に舌を動かす。

 

 もちろん吐き出したのは真実だ

 

 この邪神は眼前の幼女に嘘偽りを吐けるようになどできていないのだから。

 

「……そう」 

 

 ナイアルラトホテップの答えを聞いた幼女は相手の頬に当てていた手を放す。

 

 そして邪神の頭を小さな体で抱きしめるとその髪を優しく撫でたのだ。

 

「……ナイア、いいこ」

 

 三度想定の斜め上を行かれたナイアルラトホテップはしばしポカンとしていたが、我に返ると素早く立ち上がった。

 

「あ! そうだ、急用があったんだ! すまないけど、これで失礼するよ!!」

 

 突然の態度に首を傾げる幼女へ早口でそう告げると、ナイアは母の部屋から外へと転移する。

 

 停泊しているクォーターの外部へ現れると、彼女は流れる風にため息を混じらせる。

 

「やれやれ……まさかこの僕にあんな態度をとるとはねぇ」

 

 こちらの事を憎悪の籠った眼で見るか怯えて泣き叫ぶかと思っていたのに、予想外にもほどがある。

 

 彼の神は千の貌を持つ者だ。

 

 女に化けていた時に誑し込んだ男から愛の囁きと共に頭をなでられた事は数えきれない。

 

 子供に化けた時には父母が笑顔で褒めながら髪を撫でられた事だって幾らでもあった。

 

 けれど、邪神と認識したうえであんな態度を取った者は初めてだ。

 

(彼女が本来持つ善性か、それとも目覚めが始まった事で認識に変化が出たか) 

 

 可能性を思案しながら、彼女は紅い唇を楽しげに吊り上げる。

 

 少々綱渡りなところはあったが、時計の針を進めるのは計画にとって悪くないはずだと。

 

「けどヨグ=ソトースに怒られるかな?」

 

 そう笑みを少し苦い物へ変えると、クォーターから爆発的なエネルギーの高まりを感じた。

 

「やばっ!? ビックリした時に隠ぺいが解けたのか!」

 

 そして格納庫の隔壁をぶち抜いてナイアルラトホテップへと迫る光子力エネルギー。

 

 全てを滅ぼす黄金の光を前に彼女は高らかに吼える。  

 

「ナイ神父と漆黒のファラオを生贄にして緊急離脱!!」 

 

 カソックを纏った長身の顔が見えない神父風の男と古代エジプトを思わせる装飾を身に着けた全身と仮面を黒に染めた異形のファラオを呼び出すと、空間へ開いた穴へと飛び込むナイアルラトホテップ。

 

「ぶるああああああああっ!?」

 

「ぬぅわあああああああっ!?」

 

 そして自分の分身の断末魔を耳にしながら、彼女は素早く死地から脱出したのだった。 

 

 

 

 

 生き恥を晒したショックから数日掛けてようやく立ち直った幼女です。

 

 恥ずかしすぎて逃げたら、娘(仮)がいた時は本当にビックリした。

 

 あの時、逃げずにいたのは何と言うか威厳的な危機でテンパっていたからだ。

 

 姉としての威厳が木っ端微塵になった事もあって、ここで退いたら母としての威厳まで消えると思った私はヤケクソになったわけだ。

 

 だからこそ、『掛かってこいやぁ!』的な感じで突撃したのである。

 

 まあ、幼女ボディは『めっ!』しか言わなかったけどね。

 

 それでも邪神な娘ことナイアは素直に従ってくれたのだ。

 

 まさかの床に正座までしてくれたのだから、まさに母として勝利したといえるだろう。

 

 そんな訳でチャンスとばかりに目的を聞いたんだけど、返って来たのは宇宙を救うという立派なモノだった。

 

 しかもウソ偽りは全くなしである。

 

 もしかしたら、あの子が邪神と呼ばれているのは噂とかで本当はいい子な可能性が出てきたぞ。

 

 ミチルさんみたいな正義の不良的なアレでさ。

 

 とりあえず、今度会ったらミカゲさんと息子さんに『身体を奪ってごめんなさい』と謝らせてみよう。

 

 さて、自分のやらかしを知ったあの日から4日ほど経った。

 

 ウエスト博士主導で行われていたプロトアクエリオンの改造は上手くいった。

 

 私も完成したのを見たんだけど、脇からドリル型の触手を生やしたゲッター2と破壊ロボの相の子みたいになっていた。

 

 変形合体機能も無くなっていたみたいだし、クレア会長の『何をどうやったらあんな風になるんですか?』という言葉は同感である。

 

 そして新たな柱となったプロトアクエリオンは、ミカゲさんの指示で第三新東京市のジオフロントに埋められた。

 

 何故ジオフロントかといえば、もともと神話型アクエリオンはあそこにあったらしい。

 

 ミカゲさんが言うには時空振動に巻き込まれてアステロイドベルトの向こうまで吹っ飛んだんじゃないかだってさ。

 

 そういえば、ミウもそんな事を言っていたような気がするなぁ。

 

 聞いてみたらGシステムのデータで知ったそうで、ウチの妹はなかなかに物知りさんのようだ。

 

 こうして世界の危機は回避されたんだけど、実は同時期にMIXお姉さんが乗ってきた機体の通信機が直った事が切っ掛けでアルテア軍との交渉も行われていたそうだ。

 

 ミカゲさんから聞いた『アイアンシーを止める』という方法を伝えると、通信機の先にいたイズモという司令官は『知っててずっと黙ってやがったな、腐れカマ野郎!!』とブチキレたらしい。

 

 ちなみにこのアイアンシーというものは、星の生命力を吸い出してエネルギーにするという何処かで聞いたことがあるような施設らしい。

 

 イブの呪いという女の人が男に代わる妙ちくりんな現象も星の生命力が減った事が原因で、命を生み出す力が維持できなくなる=女の人がいなくなるという事だとウエスト博士は推測してた。

 

 そんなトンデモ副作用を持っていたアイアンシーだけど、造ったのはイズモ司令官のお母さんなんだってさ。

 

 そんな訳なのですぐさま止めるというワケにはいかないけど、使用頻度を減らしながら代替エネルギーを探すんだそうだ。

 

 あと話の流れでビックリなカミングアウトもあった。

 

 それは彼がアマタお兄さんの実の父親という事だ。

 

 さらにはアマタお兄さんが幼少期に分かれた母親もアルテア界にいて、イブの呪いの悪影響(男性化だけじゃなくて死亡や昏睡状態にもなるらしい)で余命いくばくもない状態なんだとか。

 

 でもって、お母さんの話を聞いた時にアマタお兄さんがフィアナお姉さんがお守りで助かった話をしたもんだから、イズモ総司令が爆速で奥さんを連れてこっちに来てしまった。

 

 治療にはUGセルのエキスパートとして私も駆り出されることになり、現在はイズモ司令がアマタお兄さんのお母さんに付きっ切りで例のお守りに祈っている。

 

 ぶっちゃけ、フィアナお姉さんが助かったのってPSとして改造された部分にUGセルが作用したからであって、イブの呪いとかいう意味不明なモノに効くかは分からないんだよね。

 

 今はまだ昏睡状態らしいけど、助かってくれたらいいなとは思う。 

 

『グーラ! 僕は諦めないぞ!! 勝って友達としてもう一度君の手を取るんだ!!』

 

『正太郎! なら私は鉄人を葬ってお前との友情を断つ! そして魔獣王子グーラ・キング・Jrとして地球を支配してみせる!!』

 

 さて、そんな風に考えている私の目の前では正太郎君の操る鉄人と彼の友人にして宇宙魔王の息子である魔獣王子グーラの駆るスペースロボが元気いっぱい殴り合っている。

 

 こうなったのは地球のラグランジュポイント近くに発生したブラックホールらしきものを調査に来た私達を宇宙魔王軍が待っていたからだ。

 

 前線に出ていた友人のグーラ君を説得しようとする正太郎君とワッ太君なんだけど、グーラ君は宇宙魔王の息子として冷たくその手を振り払った。

 

 ただ、その時に彼から思いっきり迷いの感情が飛んできたんだよね。

 

 具体的に言うと父親である宇宙魔王と正太郎君達とで板挟みになった苦悩とか、本当は正太郎君達と戦いたくないけど立場上そうもいかないという悲しみとか。

 

 それを私がうっかりZ-BLUEの皆にテレパシーしちゃったところ、バンチョーことミチルさんがトンデモない提案をした。

 

『正太郎。あのガキがダチや言うんならタイマン張れや』

 

 最初にそれを聞いた時、思わず首を傾げた私はきっと悪くない。

 

 ミチルさん曰く『男というモノは拳で語り合って本当の友となる』ものらしい。

 

 ちなみにこの理論、シモンの兄貴とヴィラルさんやゲッターチームにグランナイツの男性陣やブルーフィクサーなどなどスーパー系の人達は凄く共感していた。

 

 にぃにへ『そうなの?』と聞いてみたところ、レイさんって友達とはそんな感じだったと笑っていた。

 

 こうしてウチの方ではタイマン案は可決されたんだけど、宇宙魔王たちは当然乗ってこない。

 

 しかしそこは現役番長、逃げる相手への対策も完ぺきだった。

 

『宇宙魔王とか大層な名前しとるくせに、ガキをタイマン一つも張れんヘタレに育てたんかい。それやったらしゃあない。ウチも弟分のダチにそんな根性無しはいらんわ。とっとと引っ込めて、やぁこみたいにヨシヨシ甘やかしとけや』

 

 あの強面にトンデモない嘲りの表情を浮かべて、超ド級の煽りをブチかましたのだ。

 

 もちろんそこまで言われては宇宙魔王達も黙ってはいなかった、

 

『ほざいたな、地球人が! ならば我が息子の勇猛さ、そのブリキ人形を叩き壊す事で示してくれる!! 行け、グーラよ!!』

 

『魔王様のおっしゃる通りです! グーラ様! 奴等に身の程を思い知らせてください!!』

 

 こんな感じで、当人よりもブチキレてグーラ君を押し出してしまった。

 

 その結果が今の鉄人対スペースロボだったりする。

 

 両軍が見守る中、火花を散らす友人同士。

 

 その闘いは彼等の関係性とは裏腹に酷く苛烈だった。

 

 スペースロボが鉄人のボディを剣で斬りつければ、鉄人は得物を振るう腕を根元から拳で叩き折る。

 

 それに負けじとスペースロボが目からビームを出して鉄人を吹っ飛ばせば、背中のロケットで体勢を整えた鉄人は得意のフライングキックを相手の胴に叩き込む。

 

 ぶつかり合う互いの意地は最初は両軍から放たれていた声援を止めるほどだ。

 

 けれど、その戦いにも決着の時が訪れる。

 

 両者満身創痍で振るった拳、それが互いの頬に突き刺さると鉄人もスペースロボも糸が切れたように力を失った。

 

 グーラ君はスペースロボの中で気を失っているみたい、それで鉄人もダメージが大きくて正太郎君のリモコンに応じる事が出来ないようだ。

 

 そして戦いを見守っていた宇宙魔王は重力を操ってグーラ君を引き寄せると、その身の内に収めた。

 

「退くぞ、ダンカン」

 

「よいのですか、宇宙魔王様? 憎き鉄人は動けぬ様子、討つなら今を置いてないと思いますが」

 

「それはグーラの手柄よ。子供が勝ち得たものを親が取り上げてどうする」

 

「も…申し訳ありません」 

 

 宇宙魔王は腹心を叱りつけると私達の方へ鉄仮面を思わせる顔を向ける。

 

「Z-BLUEよ。此度は息子の意地に免じて見逃してやる」

 

「宇宙魔王! グーラをどうするつもりなんだ?」 

 

「……グーラはもう戦場へは出さん」

 

「……え?」

 

「こ奴に魔獣王子を名乗らせるには聊かばかり早すぎた。こんな性根では野望の為に友を討つなど、荷が勝ちすぎる。強要したところで心を病んで潰れるのが関の山よ」 

 

 まるでグーラ君に失望したかのような物言いだけど、彼が懐に抱いた息子へ向ける視線は魔王という名には不釣り合いなものだ。

 

 私はあの目をよく知っている。

 

 にぃにや皆が私に向ける慈愛のそれだ。

 

「心せよ、時至れば貴様等の前に立つのはこのワシだ。我が超重獄で引き裂かれる苦痛は愚息など比較にならぬぞ」

 

 宇宙魔王は外套を翻して私達に背を向けると、自らが生み出した暗黒の中に消えて行った。

 

『宇宙魔王……』

 

『奴は非道な侵略者ではあるが、息子へ向ける愛情だけは本物のようだな』

 

 戸惑う正太郎君にブライト艦長が言葉を重ねる。

 

 それは私も同感だ。

 

 グーラ君を懐に抱いた時、彼のお腹の辺りで渦巻く冷たい暗黒に暖かい光が現れた気がした。

 

 昔にクマさんが宇宙魔王を負のシンカ存在と言っていたけど、グーラ君を見るに彼も元は人間だったのかもしれない。

 

 だとしたら、シンカとはいったい何なのだろう?               

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