幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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皆さま、大変長らくお待たせしました。

難産でしたが、なんとか完成です。

ガウルンが…ガウルンが難しくて……。

時獄篇は年内に終わらせたいと思っているので、よければもう少しお付き合いください。


幼女と足止め部隊

 地球に進駐しているザフト軍の反逆と、それが齎す混乱を治めて各地を転戦するソルブレイヴス。

 

 連戦に次ぐ連戦だが、彼等の目に疲れの色は見えない。

 

 何故ならこの戦いの前に彼等は動乱の中にある地球圏を救う大きな希望を得たからだ。

 

 部隊指揮官であるレディ・アン、歴戦の女傑である彼女には全幅の信頼を置く一人の男がいた。

 

 舞踏会用のマスクで顔を隠したミスターと呼ばれる怪人物。

 

 遠征に赴く前に彼の正体とその目的が自身の口から部隊全員へ知らされたのだ。

 

 ミスターの口から語られた事は普通に考えれば到底信じられないモノだったが、彼が仮面を外した瞬間に部隊に所属する者達はそれが事実だと確信した。

 

 何故なら仮面の奥から現れたのは、いる筈のない人間の顔。

 

 ADW、いや多元世界において未だに失われた事が人類にとって大きな損失と言わしめる傑物だからだ。

 

 隊員の中には偽物の可能性を考える者もいたが、それはすぐに廃された。

 

 何故ならレディ・アンは彼の腹心であり、身命を捧げる程に固い忠誠を誓った人物だ。

 

 そんな彼女が真贋を間違えるはずもなく、万が一偽物であるのならその前に出た時点でミスターの命は消えているからだ。

 

 さらに彼が本物である事は卓越した指揮と戦略、そのカリスマ性が呼ぶ連戦連勝という戦果が証明した。

 

 これによって隊員たちの士気は大きく上昇した。

 

 ソルブレイヴスは解体されたADW軍部の人員に対する受け皿という側面もある。

 

 大統領直属部隊として戦闘だけではなく政争にも関わる以上、レディ・アンはその人員の多くを旧OZやADWの地球軍というかつての子飼いから採用した。

 

 彼等はかつてミスターを信奉し、彼に地球の命運を託した者達だ。

 

 その正体を知れば奮起するのは当然と言えた。

 

 トライオン3のパイロットであるヒヤマ少尉を始めとする他からの採用人員に関しても、作戦行動内での卓越した戦術手腕や捕虜の扱いや周辺住民への配慮といった戦場の中にあっても光るモラルの高さによって、ADWでの大戦犯というイメージを払拭する事となった。

 

『北東1キロからこちらへ向かってくる機動兵器有り! 所属は不明! 各員警戒してください!!』

 

 そうしてZ-BLUEの手が届かない脅威の火消しを行っていた彼等だが、撤収すべく旗艦へ向かっていると索敵担当のブレイヴから各機へ警告が飛んだ。

 

 そして指摘された方向から飛来する紅い影。

 

『何者かは知らんが、ミスターの勝利に泥を塗る事は許さん!』

 

 それを捉えたレディ・アンは乗機であるアーリー・ウイングガンダムが持つバスターライフルの砲口を向ける。

 

 一拍子おいて放たれるのは超高出力のビーム。

 

 その奔流が直撃すればコロニーとて破壊をまぬかれない代物だ。

 

 そして謎の影は回避する素振りも見せずに、黄色がかった極光へと呑まれて消える。

 

『直撃だ!』

 

『やったか!』

 

 その様子に歓声を上げるソルブレイヴスの隊員たちだが、事態は彼等の考えるようにはいかなかった。

 

『ところがぎっちょん!』

 

 赤い所属不明機は全くの無傷でビームの中を進んできたのだ。

 

『ば…馬鹿な!』

 

『下がりたまえ、レディ。あの機体の相手は私が勤めよう』

 

『ミスター、しかし……!』

 

『あれにビームは効かない。光学兵器主体のブレイヴやウイングガンダムでは手が余るだろう。それに彼は私の客人なのでね』

 

 そう告げるとミスターが駆るトールギスⅡは部隊から離れて行く。

 

 そして背面に備わったスーパーバーニアで所属不明機の前に辿り着くと、相手もまた動きを止める。

 

『誰の差し金、などと無粋なことは問わない。君が来たという事は彼等は私を不要と見做した、そう取って構わないのだな?』

 

『察しがよくて助かるぜ。アンタに派手に動かれるのを上は気に入らないようでな、墓の中に戻ってくれだと───よっ!!』

 気さくに話しかけたかと思わせておいて突然牙を剥く真紅の機体、ガンダム・アスタロト。

 

 しかし虚を突く事を狙ったであろう大上段から振り下ろされたスレッジハンマーは、トールギスⅡの右手に備わった馬上槍によってスルリといなされてしまう。

 

『無粋…とはいうべきではないな。これもまた戦場で磨き上げた君の剣なのだから』

 

 穏やかな口調で語る仮面の紳士。

 

 だが、それを聞いたアリー・アル・サーシェスはアスタロトの中で固唾をのんだ。

 

 何故なら優雅さすら感じる言葉とは裏腹に、それが耳に入った瞬間に彼は喉元へナイフを突きつけられたかのような悪寒を感じたからだ。

 

『チィッ!』

 

 野生の勘で我が身の危険を感じたサーシェスはアスタロトを後退させようとする。

 

 しかし、それは遅きに失していた。

 

『だが、この宇宙に生きる多くの無辜の民が危機に陥っている今、私一人が呑気に墓で眠るわけにはいかない』

 

 電光の速さで放たれた馬上槍の穂先、それはアスタロトの装甲の隙間を縫って左腕の肘を刺し貫いたのだから。

 

『ぐっ!? クソッタレがぁ!!』  

 

 毒づきながらも穂先から機体を逃れさせるサーシェス。

 

 生きている右腕でショットガンから散弾を浴びせるのも忘れない。

 

 襲い来るレア・アロイ製の弾丸をラウンドシールドで凌ぎながら、背面のスーパーバーニアを吹かすトールギスⅡ。

 

 強烈なGの中でも涼しい表情を浮かべるミスターは、アスタロトの頭上を取るとドーバーガンを放つ。

 

 空を切り裂く様に奔る荷電粒子、しかしそれはアスタロトにとって起死回生の好機でもあった。

 

『なめんなよ! 似非紳士ヤロウがぁ!!』

 

 サーシェスは先程と同じく、ビームの中へ飛び込むとナノ・ラミネートアーマーの効果を活かしてトールギスへと突撃する。

 

 ビームの滝を遡りしながらもサーシェスに油断は無い

 

(ビームが効かねえのはさっき見せた。奴が同じ手に二度も引っかかるわけがねえ。──となれば何かしら手を打ってくるはずだ)

 

 そういうのを叩き潰すのがオイシイんだよなぁ! と獰猛な笑みを浮かべるサーシェス。

 

 彼の予測通り、ビームが途切れると同時に青い騎士は天空から猛スピードで降ってくる。

 

 それを見たサーシェスは相手の切った札をランスによる突貫と読み、アスタロトの右腕に掴んだスレッジハンマーを大きく振りかぶる。

 

 互いが速度に乗ったこのタイミングなら、如何にガンダリウム合金といえど一撃で砕ける!

 

 歴戦の傭兵の頭に勝機と確信が過る。

 

 しかし、その鉄塊は獲物の血に塗れる事は無かった。

 

 トールギスは減速するどころか、スーパーバーニアの咆哮を轟かせながらアスタロトの隣を駆け抜けていったのだ。

 

『な……!』

 

 予想外の行動に慌ててスロットルを絞るサーシェス。

 

 しかしトップスピードに乗っていた機体は、そう簡単には止まらない。

 

『うおおっ!?』

 

 思わず舌打ちを漏らしかけた瞬間、コクピットを襲った強烈な振動にサーシェスは思わず悲鳴を上げる。

 

 反射的にサブモニターへ目を走らせると、被害に遭ったのは背面のスラスター。

 

 装甲に包まれていないバーニアの噴射口をピンポイントで狙撃されたらしい。

 

『やってくれるぜ、くそった……』

 

 思わぬ痛手に事態を探っていたサーシェスはモニターに映る敵影に唖然となった。

 

 なんとトールギスは急降下の体勢のまま、腕部にマウントされたドーバーライフルの砲口から硝煙を上げているではないか。

 

 アフターコロニー世界でも屈指の威力を誇るドーバーライフルの実弾射撃。

 

 威力の代わりに強烈な反動がくるソレをあんな無茶苦茶な姿勢で打ち、しかも狙撃並みの精度で命中させるとは……!!

 

『……なんて野郎だ。化け物なんて言葉じゃ足りねえ!』

 

 悪態をつくサーシェスは、次の瞬間には背中に氷柱を差し込まれたような寒気を感じた。

 

 モニターではトールギスが天地を返すと、減速どころかイカレた推力を最大限に発揮してこちらへ急上昇してくるではないか!

 

 並のモビルスーツでもGによる障害が発生するであろう挙動、トールギス程の高機動機ならば死んでもおかしくない。

 

 そんな重圧の中でもコクピットのミスターは微笑んでみせる。

 

『アリー・アル・サーシェス。君を相手取る際に最も警戒せねばならないのは、その獣性だ』  

 そう、ガンダム・アスタロトを駆る男の恐ろしさは獣のような直感と闘争本能、それに一流の傭兵が持つ戦闘技術と経験が融合している事だ。

 

 その獣性故に獲物を狩る好機を見逃さず、直感は狙撃などの必殺の一撃すら察知して致命を避ける。

 

 そうして得た攻勢の際に牙を剥くのは、戦場で研ぎ澄まされた軍人としての合理性と殺人技。

 

 科学と野生の融合は闘争者としてある種の理想だと語る者がいた。

 

 アリー・アル・サーシェスという男はまさにその領域に立っている。

 

 彼が今まで並の兵士はもちろん、手練れを幾人も食い殺す事が出来た大きな理由がこれだった。

 

 だからこそミスターはサーシェスの獣性を抑えた。

 

 ビームが効かないと分かっていて、敢えてドーバーライフルの一射を放ったのはサーシェスを兵士として動かす為だ。

 

 流星の如き速度で間合いを詰めたトールギスは勢いを乗せてランスを繰り出す。

 

『歴戦の強者である君はその嗅覚によって機は逃さない。そして相手を仕留める際には兵士としての合理に徹する。そこに私は勝機を見出した』 

 

 内部機構によって真紅に赤熱化した穂先はアスタロトの右脇へと食らいつき、機体同士がすれ違う勢いのままに右腕を根元から抉り取る。

 

『ぐおおおおおっ!?』 

 

 咄嗟に身を捻った事でコクピットを串刺しにされることは避けたが、内部機構の残骸をまき散らしながら撥ね飛ばされるアスタロト。

 

 殺人的な加速から急停止し、体勢を立て直す事も出来ずに頭から落下する真紅の機体に語り掛けるミスター。

 

『これでも少しは腕に覚えがある身でね。君が人として動くなら制する事も不可能ではないと思ったのだよ』

 

 そう、獣性という不確定要素が無ければ兵士として一流程度のサーシェスがミスターと名乗る男に勝つ事はない。

 

 何故なら彼は人類屈指の文武を極めた超人なのだから。

 

『地球の現状を思えば君を見逃すわけにはいかない。残念だが───む!』

 

 落ち行くアスタロトへ向けてランスを構えたトールギスだが、何かに気が付いたミスターはその穂先の方向を変える。

 

 するとそこに黒に蛍光緑のラインが走る奇妙な機動兵器、アンチスパイラルが操るムガンの群れが現れた。

 

『アレが現れるとは、彼の存在が我々の介入に気づいたか? どちらにせよ、彼の追撃は不可能だな』

 

『ミスター! お退きください!!』 

 

 仮面の下で表情を引き締めるミスターに、通信機からレディ・アンの案じる声が届く。

 

『レディ、新たな来客を出迎える。トライオンを中心に編成を組み直そう』

 

『分かりました。ヒヤマ少尉、聞こえたな! 前衛は任せる!!』

 

『応ッ!!』

 

 レディへと指示を出すと仮面の紳士は部隊へと合流する。

 

 こうしてソル・ブレイブスの予期せぬ戦いの第二ラウンドの火蓋は切られたのだった。

 

 

 

 

 どうも、自分が何気なく使っていたモノの危険性が分かって胸がバクバクな幼女です。

 

 開幕と同時にシンジさんのチェストで開きにされたガウルンとかいうおじさんですが、機体の修復では飽き足らずに自分の周りを紫がかった金属で染めて何かをしています。

 

 何処かで見た事があるような光景だなと思っていたら、ひーちゃん曰く怪現象の原因はUGセルだというのだ。

 

 今まで便利だとポンポン頼っていたモノが、あんなヤバそうな事になるなんて心底ビックリした。

 

「……ひーちゃん。UGセル、あぶない?」

 

『危なくないよ。ミーちゃんの感応能力で指示を出して私が制御したら、あんな暴走なんて100%起きないから』

 

 そうなのか、なら安心だ。

 

『では、どうしてガウルンのUGセルは暴走していますの? DG細胞ならまだしも、地球環境再生が目的のアレが簡単にああなるとは思えませんわ』

 

『今観測してるんだけど、どうやら奴は身体に直接UGセルを植え付けられたみたいだね。それが初号機の一撃で致命傷を受けた事を切っ掛けに、宿主の死にたくないって強い意志を受けてテンパったって感じ。間が悪い事にあの機体にはラムダドライバが積んであったみたいでさ、それが生き汚さを円滑にUGセルへ伝えちゃったんだ』

 

 そういえばギレンが言ってたっけ。

 

 UGセルは搭乗者の精神力で性能を上げる金属だって。

 

 つまり、ああやって周りの物を取り込んでいるのは、パイロットのオジサンをUGセルが生かそうとしている為なのか。

 

『つまり、あの現象を止めるにはガウルンを仕留めればいいという事か?』

 

『理論上はね。けど、UGセルは自己再生・自己増殖・自己進化の三大理論を体現する金属細胞だよ。下手にパイロットを傷つけたら汚染はさらに広がるから注意して。奴が周囲のモノを食いまくってるのは、エヴァの一撃で損傷したパイロットの延命に掛るリソースを確保するためだから』

 

 クルーゾーのオジサンが繋いだ通信にひーちゃんは淀みなく答える。

 

 こういう専門知識が必要な会話では幼女は何の役にも立ちませぬ。

 

 とはいえ、悠長に話している場合でもない。

 

『う…うわぁぁぁぁぁぁっ!?』 

 

『く…喰われる! 俺の機体が!? 助けてくれェェェェ!!』

 

 何故なら浸食を続けるガウルンのUGセルは、周りにいる仲間の傭兵達にまで牙を剥いているからだ。

 

「……ひーちゃん、ビット」

 

『はいはい、救助だね』

 

 私はハロビットを飛ばしてASやATなどの愛機を捨てて脱出しようとしていた傭兵を拾い上げる。

 

「……テッサおねえさん。たすけたひと、そっちおくっていい?」

 

『わかりました。副長』

 

『アイ、マム。待機中の陸戦コマンドに次ぐ。間もなく救助したテロリストを連れてハロが到着する。各員は甲板にて待機し、対象が到着し次第速やかに拘束せよ!』

 

 テッサお姉さんに確認を取ると、彼女は速やかに受け入れというか捕縛指示を出してくれた。

 

 甘いと言われるかもだけど、私達とかかわりが深いUGセルで死人が出るのは勘弁してほしいのである。

 

『よし! 俺達もミユちゃんに続くぞ!』

 

『ああ! テロリストとはいえ、見捨てられないからな!!』

 

 そしてZーBLUEのみんなも手伝ってくれている。

 

 けれど、事の原因はそれを黙って見過ごすわけがなかった。

 

『おいおい、つまんねぇ事すんなよ』

 

 修復ついでに自己進化させたのだろう、元々乗っていた機体の下へケンタウロスみたいに四つん這いになったべへモスの身体を生やしたガウルン。

 

 奴は地面に広がった汚染区域を覆うUGセルを蠢かせる。

 

 するとそこから生えてきたのは、AS用の突撃銃を持った無数の機動兵器の腕だった。

 

 うん、はっきり言って気持ち悪い

 

『戦場じゃあ弱者は強者の糧になるのが当然だろうが!!』

 

 そしてズラリと並ぶ銃口から吐き出される弾丸。

 

『ぐわぁぁぁぁぁっ!?』

 

『ぎゃああああああっ!?』

 

 貪欲に獲物へと襲い掛かる鋼の牙は次々に味方だった者達を撃ち抜いていく。 

 

『ガウルン! 貴様ぁ!!』

 

『なんだぁ? こっちはお前達の手間を省いてやってるんだぜ。文句を言われる筋合いはねえよなぁ、カシム!』

 

 激昂する相良軍曹にヘラヘラと笑って返すガウルン。

 

 銃弾自体は口径が小さいので、私達には躱すなり装甲で防ぐなりで影響は無かった。

 

 けれど、ボロい量産機や継ぎ接ぎのレストアに乗っていた傭兵たちは勝手が違う。

 

『ベック! 君の趣味の悪いキンキラ金は耐久力だけが取り柄なんだ! 我々の盾になってくれよぉ!!』

 

『そうだ! そのデカブツならASの豆鉄砲くらいじゃ落ちないだろ!!』 

 

『テメェ等! きったねぇぞぉぉぉぉっ!! おわぁっ!?』

 

 怪しいオジサン三人組は、モミアゲの乗るASとスケベが乗るATが金色のおっきい機体を盾にして汚染域から逃げ出していた。

 

 モミアゲが操るガウルンのモノとは色違いの赤いAS、スケベなおじさんが乗るずんぐりむっくりな紺色のATは軽快に明後日の方向へ駆けていくけど盾にされた金色は違う。

 

 背中に何発も銃弾を食らった奴は逃げ遅れただけでなく、小さな丘に足を取られて躓きそうになったのだ。

 

『うっそだろぉぉぉぉっ!?』

 

『あ…兄貴ィィィッ!』

 

『いやぁぁぁぁぁっ!?』

 

 傾いていく巨体の中で絶望の悲鳴を上げる3人の声……って、あの金ぴか思った以上に人が乗ってたんだね。

 

 無様に地面へ倒れて巨体を貪られるだけかと思われた金ぴかロボ、彼に手……ではなくアンカーを差し出したのは因縁の相手であるロジャーさんとビッグオーだった。

 

『悪党とはいえ、食い殺されるのを見捨てるのはしのびない。感謝したまえ、ベック』

 

 アンカーに絡めとられてビッグオーの方へ引っ張られる金色。

 

 だけど、何故かロジャーさんは右拳を固く握りしめてるんだよね。

 

『て…テメエ! 俺を助けるつもりなんだよな!』

 

『ああ、そうだ』

 

『なら、どうして腕を振りかぶっていやがるんだ!?』

 

『それとこれとは話が別だ。テロに対するケジメはつけてもらわないと…な!!』

 

『ぐわぁぁぁぁっ!? ちっくしょぉぉぉっ!!』

 

 そして安全圏に辿り着くと同時に吹っ飛ばされる金色。

 

 機体はバラバラになったし、パイロットも脱出装置で逃げたからUGセルに食べられる事は無いだろうけど……ちょっと哀れかも。 

 

『はははははははっ! 楽しいなぁ!! 弱い奴を踏み躙って骨まで食い尽くすのはよぉ! この狂った世の中にはお似合いのクソッたれさだ!!』

 

 そんなやり取りの間にも、ガウルンの機体は汚染と共にドンドン姿を変えていく。

 

 あの人が最初に乗っていた機体はドンドン大きくなって、下半身にしているべへモスの背中や脇には機動兵器用の銃器を持った腕が虫のように生まれていく。

 

 扱う武器の方もAS用のマシンガンからビームライフルやガトリングガンなど多種多様なモノに変わる始末だ。

 

 あれがUGセルの自己進化と自己増殖の為せる業なのだろうか?

 

 陰蜂を作れたことを考えればおかしくはないんだろうけど、はっきり言ってびっくりだ。

 

『クソッ! どうなってんだ! この世界じゃあ妖蛆の秘密が重版でもされてんのか!?』

 

『話を聞いていなかったのか、汝は! あれは完全な別物だ! 馬鹿な事を言っているとハチの巣になるぞ!!』

 

『うーん、純科学であんなものが生み出せるとは……。エルザ、あれのサンプルは回収できないであるか?』

 

『博士が使ったら暴走するのが目に見えてるロボ。博士が量産されたら、割とマジで人類の危機なのでダメロボ』

 

『むぅ…人体を侵し機体をここまで変えるとは、噂に聞いたマシンセルのようじゃな』

 

『となれば、放っておくわけにもいかねえ。オウカの時みたいに、あれは心無い奴に渡ったら碌な事が起きねえからな!』

 

『赤木、不用意に突っ込むなよ! あれに取り込まれたら、どうなるか分からないんだからな!』

 

『分かってる! けど、助けを求めている人がいるのに手が出せないなんて……!』

 

 皆も弾幕とUGセルによる汚染の危険性には手を焼いているみたいだ。

 

 そんな中、敵側の通信傍受を設定していた通信機からは新たな悲鳴が聞こえてきた。

 

『うわぁぁぁぁっ! くそぉ! くそぉ!!』 

 

『まだ新しい姫も見つけてないのに!!』

 

『死ねるか! ファイアバグを復活させるまで…姫の下でもう一度働くまで死んでたまるかぁ!!』

 

 目を向けると、そこにはえっと……アサシオだったっけ?

 

 そんな感じの名前のロボットが三体、UGセルの汚染に飲み込まれかけていた。

 

 3体いる内の一体が右手を失い、もう一体が右足を吹き飛ばされているみたいで動けなくなっている。

 

 その所為か、パニックになった彼等はUGセルへ手にしたライフルを乱射して逃げようとしていない。

 

 そしてUGセルたちは飛んでくる弾丸も取り込んで、じわじわと彼等へ迫っている。

 

『……ハロたち、いって』

 

 姫がどうとか言ってる事はよくわからないけど、あんな悲痛な叫びを聞いては見捨てるわけにはいかない。

 

 けど、飛ばしているハロビットは遠いし弾幕もある。

 

 間に合うか?

 

 そう内心焦っていると、大地を浸食しながら迫るUGセルとアクシオ(ひーちゃん曰くアサシオじゃなかったらしい)の間に閃光が走り、一拍子置いて天を衝くような炎の壁が立ち昇った。

 

『なにをしていますの、そこの機体! 早く後退なさい!!』   

 

 高出力ビームの出所はミウとサイコガンダムMKⅢこと3ちゃんだった。

 

 大地ごと焼き払う事でUGセルの足を止めたミウは、唖然としているのか動きを止めた三体のアクシオへ指示を出す。

 

 けれど、死を目前にしていた彼等は妹の言葉を素直に受け入れられなかったらしい。

 

『う…うるせぇ! ガキが偉そうに指図すんな!』

 

『俺達は特殊部隊ファイア・バグだ! 戦闘のプロなんだぞ!!』

 

 虚勢を張って口々に叫ぶ自称特殊部隊のテロリストたち。

 

 それに妹が返した言葉は、おそらく彼等も予想だにしないものだった。

 

『やかましい! 泣きながらヤケクソで弾バラ撒くのが特殊部隊か、馬鹿野郎!!』

 

 ミウくらいの女の子に真正面から一喝されるとは思わなったのだろう、テロリストたちはポカンと口を開けている。

 

『御大層に肩書名乗るんなら、それに見合う働きくらいしろや! おい、デブ!』

 

『は…はい!』

 

『テメエの機体は砲台代わりにしか使い物にならねえ! 自動操縦で適当に弾ばら撒かせて、ソイツは捨てろ!! そんでガリ!』

 

『う…ウス!』

 

『テメエはデブを拾って全力で逃げろ! そんでトンズラこいてるテロリスト共の前に付け! 万が一回り込まれた時の為に、他の奴等を纏めて退路の確保するんだ!!』

 

『りょ…了解!』

 

『そんで最後のチビはテロリストの最後尾に付いて足の遅い奴等を追い立てろ! ガウルンのクソへの牽制射撃も忘れんなよ!』

 

『へ…へい!』

 

『テメエ等のケツはアタシが持ってやる! 自分で掲げた看板、これ以上穢すような真似すんじゃねえぞ! ───行動開始!!』

 

『『『イエス・マム!!』』』

 

 私が唖然としている間もテキパキと指示を出すミウと、何故か嬉しそうに従うテロリストたち。

 

 そしてミウのいう通りに動き出したテロリスト達は、作業中にもこんな会話をしていたりする。

 

『今の子、いいな』

 

『ああ。的確な指示にこちらのプライドを踏み躙る罵倒、そしてその中に隠されたほんの少しのこちらを気遣う優しさ!』

 

『これは間違いない! あの子こそが次の姫だ!!』

 

 なにやら妹が妙なモノに認定されそうになっている。

 

 どうしよう……悪意が感じられたなら威嚇でハシュマルくんでも嗾けるんだけど、あの人達から感じるのは100%の好意なんだよねぇ。

 

 しかも穢れた目的じゃなくて崇拝とかそんな感じの……

 

 うーん、何でこうなった?

 

 そんなファイアバグの面々だけど、思った以上の活躍をしてくれた。

 

『頭無くして行く宛も無い腑抜け共が何を調子に乗ってんだぁ? テメエ等は大人しく俺に喰われてればいいんだよ!!』

 

 彼等を逃がすまいと弾幕を放とうとするガウルンを前に、殿を務めた一機はひるむことなく迎撃に出てくれた。

 

『生憎だが、俺達はもう野良犬じゃねえんだぜ! 甘く見るなよ!!』 

 

 啖呵と共にアクシオが筒状の物を投げると、空中にそれはすごい勢いで散弾を広範囲に吐き出した。 

 

 発射寸前に鋼の雨を浴びたUGセル汚染域から生える手は、握った武器を次々と暴発させて爆散していく。

 

 ひーちゃんが言うには、今のはケイオス爆雷というナイトメア・フレーム用の武器らしい。

 

 そして続けざまに左手に持ったライフルからグレネードを放てば、それは周囲を白く染めるほどの強烈な光を放つ。

 

『ぐぅっ!?』

 

『ファイアバグは汚れ仕事上等の特殊部隊だ! 化け物になろうと傭兵のやり口はわかってんだよ! 姫ッ!!』

 

『誰が姫だ! 誰が!!』

 

 そして目が眩んだ隙を突いて、間合いを詰めたのは3ちゃんだ。

 

『なに! こっちの捕食を弾いただと!?』

 

『当然ですわ。こちらもUGセルによって生み出された機体、さらにこの世界最強のニュータイプである姉様の意思が込められてますの。貴方のような本能垂れ流しな三流のド低能が触れられる訳ないでしょう!』

 

 そしてアッパースイングで振るわれた左手の甲から生える巨大なビームサーベルが、ガウルン機の胴体を構成する四つん這いのべへモス部分大きく斬り上げる。

 

『ぐっ!? この人形風情がっ!!』

 

『たしかに私が奴等に造られた人形であることは否定しません。ですが、私は愛を知りました! 姉様の愛が私を人にしたのです!!』

 

 そして怯んだところに斬り上げた傷を抉るかのような3ちゃんの膝蹴りが入った。

 

『人となった私に───テメエみてぇなドブ臭ぇ野良犬が、勝てるワケねーだろうがぁァァッ!!』

 

 とどめとばかりに飛びあがる3ちゃんの巨体とパワーの全て込めた右のアッパーがガウルン機を吹っ飛ばす!

 

「……おお~」

 

『あの巨体でクロスレンジの格闘戦をするなんて、ミウもやるなぁ!』

 

 特機に匹敵する巨大MSの拳を食らったガウルン機は大きく吹き飛んで地面へ叩きつけられる。

 

 しかし奴はまだ死んではいなかった。

 

『クソガキと雑魚が粋がりやがって……。だが、この程度じゃあ俺は死なねえぜ。せっかくコイツのお陰で忌まわしい膵臓癌も治ったんだ、存分にイカレた世界を楽しまねえとなぁ!!』

 

 巨象のように寝そべっていた機体を立ち上がられると、刻まれたダメージは見る見るうちに塞がってしまう。

 

『なにっ!?』

 

『癌だと!』

 

 そんなガウルンの独白にショックを受けたのは、因縁が深い軍曹を始めとするミスリルの人達だった。

 

『あの男は悪名高い世界的なテロリスト。そんな人間が重病を抱えていると聞けば、誰だって驚きますわ』

 

 ミウの言葉に私はなるほどとうなずく。

 

 けど、UGセルで病気が治るってあるのかな?

 

 いや、フィアナさんが治った事を思えばおかしくはないのか。

 

『だからよぉ、快気祝いの一つくらいくれたっていいんだぜぇ。差し出す品は、そこのガキ共の身柄とテメェ等の命だけどなぁ!!』

 

 そうして奴はZ-BLUEの皆へ弾幕をバラまくと、同時に糸のようなモノを飛ばしてくる。

 

 その狙いは私とミウだ。

 

『ミーちゃん、あれワイヤーブレードだ!』

 

「……ん。ミウの方もビットでガード」

 

 ラムダドライバが作り出す斥力領域とサイコフィールド、さらにイナーシャルキャンセラーの隙を見せない三段構えの障壁は簡単にワイヤーを防いでくれる。

 

 本体だけでなくハロビットでも展開可能とは、ハロも日々進歩しているということだろう。

 

『チッ! そういや、あの黒丸もラムダドライバを積んでるんだったな。奴に対抗するにはべへモスの動力じゃあ足りねえのか』 

 

 自身の望む結果にならなかった事で舌打ちをするガウルン。

 

 それを聞いた私の頭には一つ疑問が思い浮かぶ。

 

「……あいてのぶき、よわい。なんで?」

 

 そう、UGセルを使っている割に相手は武装もおそらくは機体の出力も明らかに弱いのだ。

 

 武装は多分テロリストが乗っていたASやATの物ばかりで、ラムダドライバを使わなかったら一番威力が高いのはサーペントに付いていたガトリングやビームキャノンだ。

 

 そして機体のパワーの方も、ひーちゃん曰くアイツが乗る機体の大部分を担うべへモスというASと同じ程度らしい。

 

 UGセルは上手く使えば陰蜂だって作れる代物だ。

 

 この程度で終わるわけが無いと思うんだけど……。

 

『それはアイツのUGセルがデータベースに繋がってないからだよ』

 

 そして首を傾げる私に答えてくれたのは、やはりひーちゃんだった。

 

『UGセルが機動兵器を生成するにはその基となるデータが必要になるんだ。ほら、ゲシュペンストを改造する時にやったでしょ?』

 

 そう言えば、あの時ギリアムさんのイメージを私が中継して、ひーちゃんが具体的な機体データにしてくれてたっけ。

 

 そしてそれを私がUGセルに送って、ゲシュペンストはRVになったんだった。

 

 さらに言えば、リガズィやZⅡの時もくまさんタブレットのデータをにくきゅうを通してリゼル達に送った気が……。

 

『クマ公や私のハロにはその為にヴェーダと同型の量子コンピュータを小型化したモノが入っているんだけど、アイツにはそういうのは何もない。ガウルンっておじさんの身体に埋め込まれたUGセルからはそういったデータや情報源へのリンクは削除されてたようだからね」

 

 どうしてそこまで分かるのかと不思議に思っていたのだが、ひーちゃんは私の知らない間にガウルンが広げた汚染区域へハロから細いワイヤーを伸ばしてました。

 

 なるほど。

 

 UGセル同士なら食べられないから、そうやってガウルン側のモノを調べたというワケか。

 

「……だから、なかまのロボットしかちからにできない?』

 

『そういうこと。それにいきなりシンジに殺されかけたからか、アイツのUGセル自己増殖と自己再生に力を大きく振ってるみたい。だから進化の方があんまり進んでないんだよ。あのおじさん、よっぽど自分の命が大事なんだね。これは跡形もなくフッ飛ばさないと何度でも復活するよ』

 

 まあ、難病から解放されたって言ったからね。

 

 自分の命が大事だと思うのは当然といえば当然だと思う。

 

 とりあえず、疑問が晴れたところで次は奴の倒し方である。

 

 ひーちゃんの言う通り、今のガウルンが乗る複合型ASはタフだ。

 

 MS部隊の集中砲火を食らっても自己再生で元に戻るし、かといってスーパーロボットの接近戦はUGセルに食べられる可能性があるのでお勧めできない。

 

『これは陰蜂を出して、スーパージェネシスを叩き込むしかないかなぁ』

 

 さすがに地球にダメージを与えるのは幼女としても気が引ける。

 

 やっぱり問題はUGセルなんだよねぇ。

 

 細胞…細胞……そういえば細胞に効く武器がどこかで……あっ!!

 

「……ひーちゃん」

 

 私は頭に過った天啓をひーちゃんへ伝える。

 

『なるほど! ゴーダンナーが使っている細胞硬化弾を使うのか!』

 

「……できる?」

 

『まかせて! 宇宙で助けた時にダンナーとオクサーの構造はスキャンしておいたし、UGセルのデータは揃ってるから専用のはすぐに作れるよ!』

 

 ダンナー達をスキャン云々は緊急事態だから置いておくとして、これが通用すればガウルンの再生を防げるはず。

 

 そしてひーちゃんはモノの数分で対UGセル用の硬化弾を作ってしまった。

 

 しかも射出する用のライフルもオマケとしてだ。

 

『シン! UGセルを固める弾丸入りのライフルだよ! MSやAT、ASのパイロットも取りに来て!!』

 

『いつの間にそんなの造ったんだよ!』

 

『そういえば、UGセルはミウ達も使っていたな』

 

『どうします、軍曹?』

 

『このままでは埒が開かん! 試せる手はすべて打つぞ!!』

 

 にぃにや相良軍曹を始めとして、ハロが射出したコンテナから硬化弾入りのライフルを回収していく軍用機たち。

 

 そしてすぐさま弾幕と共に硬化弾が次々にガウルンが駆る巨大ASへと突き刺ささる。

 

『ガキ共がいるならコイツの対策も取れるってかぁ? しゃらくせぇ!!』

 

 けれど硬化弾は当たった表面装甲を白く固めるだけで、動きが鈍るなどの効果は見られない。

 

 そして、白く固まった場所もすぐに紫銀に光る新しいUGセルへ塗りつぶされてしまっている。

 

『駄目だね。アイツ、動物の代謝みたいに凝固したUGセルを排除して新しい細胞に入れ替えてる。表面に撃ち込んでも効果は無いよ』

 

「……むんむぅ」

 

 ひーちゃんからの非情の報告に私は思わず呻いてしまう。

 

 いい考えだと思ったのに、所詮は幼女の思いつきだったかぁ。

 

 ならば次の手とちんまい頭を巡らせていると、通信モニターのウインドウが開いた。

 

『ミユちゃん! 今の硬化弾は君達が造ったものか?』

 

 そうして現れたのはゴーダンナーを操るゴォさんの顔だ。

 

「……ん」

 

『そうだよ。あの時ゴーダンナーが宇宙怪獣を固めたのを思い出したミーちゃんが考えたんだ』

「ねえ、だったらダンナー用のも造れないかな?」

 

 そして次にモニターへ現れたのは杏奈お姉さん。

 

 なるほど、二人のやりたいことは分かった。

 

『あの時みたいにアイツへ突っ込むってこと?』

 

『そうだ。擬態獣の時もそうだが、硬化弾は敵の中枢で激発させるのが一番効果を発揮する。そして、それを行うのは俺達が適任だ』

 

「……でも、ダンナーたべられちゃうよ?」

 

『ああ、それなら大丈夫。ダンナーやオクサーには私達のUGセルが備わってるから、簡単には捕食されないよ』

 

『えぇっ!?』

 

『そ…そうなの!?』

 

『二人がこっちの世界に迷い込んできた時、地上戦用だった二機を宇宙適応に改造したのUGセルだもん』

 

 そういえばそうだった。

 

 あの時は大慌てだったから、ひーちゃんに丸投げだったんだよね。

 

『ま…まあ大丈夫なら好都合だ』

 

『そうだね』

 

『それじゃあダンナー用の硬化弾だよ。早く換装してきてね』 

 

『おう! 整備班、こちらは猿渡だ! 今から着艦する、硬化弾の換装を頼む!』

 

 話している間に作ってしまった硬化弾の弾帯、それをハロの手から受け取るとゴォさん達はクォーターへと戻っていく。

 

 そして、私達が弾幕でガウルンを足止めしていると、弾丸を入れ替えたゴォさん達が合体して戻ってきた。

 

 そして皆に硬化弾を使った作戦を説明してくれた。

 

『猿渡さん、奴への止めは俺に任せてくれ』

 

『相良君』

 

『奴との因縁はこの手で断ち切りたいんだ』

 

『───わかった。硬化弾が発動した後の一撃は君に任せる』

 

 その中で軍曹とゴォさんとの間でこんな会話があったらしい。

 

 何故らしいなのかと言えば、この時の私は三重防壁でガウルンがまき散らす弾丸から皆を護っていたからだったりする。

 

 作戦会議中に攻撃してくるとか、世知辛くない?

 

『みんな! これから俺達は奴へ突撃を掛ける!!』

 

『道を拓く為の援護、お願いします!』

 

 そんな訳で作戦開始となり、先陣を切るゴォさんと杏奈お姉さんが皆に向けて声を張り上げる。 

 

 しかし、そんな二人に対する返事は思わぬところからやってきた。

 

『よかろう! その役目、私が引き受けた!!』

 

 威厳を感じさせる声と共にダンナーの隣へ降り立ったのは、黒を基調としたガンダム。

 

『アンタはたしか……』

 

「……シュバルツさん」

 

 そう、それは私を何度も助けてくれた謎の忍者、シュバルツさんの愛機だった。

 

『また少し逞しくなったな、ミユ。それと猿渡氏をはじめ、あの時に轡を並べた皆には突然姿を消した非礼を詫びよう』

 

 そう言いながら頭を下げるガンダム。

 

 何というか、その光景は少しシュールだ。 

 

『その気配……忍者野郎、テメエもこっち側かよ。だったらガキ共掻っ攫えって命令受けてんだろうが、この裏切り者が!』

 

 そう吐き捨てるガウルンに私は小さく息を呑む。

 

 今まで助けてくれた彼もGシステムの手先だったのか?

 

『裏切り者だと? 笑止!』

 

 けれどそんなガウルンの言葉をシュバルツさんは鼻で笑う。

 

 そして振り返るとガンダムで奴に人差し指を突き付けてこう言ったのだ。

 

『私は裏切ったのではない、表返ったのだッッ!!』

 

 ……?

 

 表返るなんて言葉は初めて聞きました。

 

『ミーちゃん、あれってどういう意味なんだろうね』

 

「……んー?」

 

 なんというか、ニュアンス的には何となくわかるんだけど説明は難しいなぁ。

 

 とはいえ、気炎と共に啖呵を切るシュバルツさんの気迫は相当なモノ。

 

 ガウルンの方もツッコミは入れられなかったみたい。

 

 とにかく、シュバルツさんはこっちの味方って事なのだろう。

 

『では、ゆくぞ! 三人とも!』

 

『ああ!』

 

『了解だ!』

 

 色々ツッコミはある筈なんだけど、シュバルツさんの気合と勢いでその辺はあっさり流されてしまった。

 

 そして先頭を走る黒いガンダムは高速回転と共に巨大な竜巻になる。

 

『貴様の敷いた邪悪な結界、全て吹き飛ばしてくれる! シュツルム! ウント! ドランクゥゥゥゥ!!』

 

 裂帛の気合と共に突撃するシュバルツさんは回転によって迎撃の為の弾丸を全て弾き、さらに進路上にあるUGセルに汚染された地表やそこから生える機械腕を次々と竜巻で吹き飛ばしていく。

 

 その勢いはまさに疾風怒濤。

 

『調子に乗るなよ、忍者野郎が!!』

 

 そんなシュバルツさんにガウルンは放ったのは、ラムダドライバのエネルギーが籠ったロケット弾。

 

 蒼い光に包まれた弾頭を食らえば、MSではひとたまりもないはずだ。

 

『甘い!!』

 

 しかし、シュバルツさんは必殺である筈の一撃を腕部のブレードを一閃させる事で斥力フィールドごと斬り飛ばしてしまう。

 

『なんだとぉっ!?』

 

『ラムダドライバはオペレーターの意思に反応して斥力場を発生させる装置! 即ち【考えた事が形になる】兵器だ! 我がガンダム・シュピーゲルの装甲材である精神感応金属ガンマ・ユニフィケイショナル・ディマリウム合金を使ってその意志に干渉すれば、ラムダドライバの効果が発動するかは互いの意思の強さが決める!』

 

 さらに放たれる蒼を纏った弾丸も回転の勢いのままに断ち切り、爆発を置き去りにして駆ける黒い疾風。

 

『その土俵に立てば、貴様のような腐り者の意思を私の覚悟が上回る事など赤子の手を捻るよりも容易い!!』

 

 そしてシュバルツさんの竜巻はガウルンを呑み込むと、その全身を切り刻む。

 

『ぐおおおおおおっ!? クソッタレがぁ!!』

 

 それでもべへモスの巨体を活かして何とか踏みとどまるガウルン機だが、その前には右拳を固く握りしめたゴーダンナーが待っている。

 

『今だ!』

 

『応! ハァァァァト! ブレイカァァァァッ!!』

 

 ゴォさんの気合の入った声と共に、べへモスの装甲を貫いて突き刺さるゴーダンナーの右腕。

 

『撃て、杏奈!』

 

『はぁぁぁぁぁっ!!』

 

 そして二機の周囲に衝撃波が奔ると、ゴーダンナーの右腕を起点にしてガウルン機がドンドン白く染まっていく。

 

『こ…コイツはやべぇ! 早く脱出を……!』

 

 中枢に硬化弾の影響が及んでいるのだろう、焦るガウルンの声が聞こえる。

 

 けれど、それは遅かった。

 

『終わりだ、ガウルぅぅぅンッ!!』

 

 ラムダドライバのエネルギーを右拳に集中させたアーバレストが突撃していたのだから。

 

 ゴーダンナーと入れ替わる様にして拳を放つ相良軍曹。

 

 アーバレストの拳はべへモスの胴体の前で寸止めされると、一拍子置いて爆発的な斥力エネルギーが真っ白に染まったガウルン機へ炸裂する。

 

『ここまでかよ! だが幕引きがお前でよかったぜぇ、カシム! これからも俺の命を背負って血みどろの戦場を生きてくれよ! ははははははっ!!』

 

 そうして脆く固められたUGセルがバラバラに砕け散る中、ガウルンは軍曹へ呪いとも思える言葉を残して消えていった。

 

『……宗介』 

 

『──俺にとっては、奴も敵の一人にすぎん。余計な感傷は無い』

 

 気遣うヒビキさんに相良軍曹は無表情でそう答える。

 

 ガウルンの撃墜で私達の邪魔をしてきた敵は全滅した。

 

これでようやく宇宙へ行けそうだ

 

『敵は全滅させましたが、レイテ島への到着は大幅に遅れる事になりそうです』

 

『それこそがアマルガムとネオジオンの狙いだったのでしょう。もはや一刻の猶予もなりません。直ちに───』

 

『報告します! レイテ島から通信があり、打ち上げ施設が正体不明の部隊に破壊されたと……』

 

『なっ!?』

 

『まさか敵がここまで用意周到だったとは……』

 

 さて、これからシャトルの打ち上げ場所へ行く手筈になっていたんだけど、ダナン君の中でのテッサお姉さんと副長の会話を聞くに何やら拙い事になっているようだ。

 

「……どうしよう」

 

『いざとなったら陰蜂で皆を運ぶことになるかな』

 

 ひーちゃんとそんな話をしていると、島の周りから憶えのある嫌な気配がした。

 

『艦長、こちらを包囲する形で接近する部隊があります。種別はジオン製MS、その数多数!』

 

 この粘りつくような世界を呪う感じ……やっぱりジオンの残党だったか。

 

 視線を向けると海から顔を顔を出すひーちゃん曰く『ジオン水泳部』の機体がチラホラと見えていた。

 

 このままだったら私達はともかく海にいるダナン君が大変なことになる。

 

 それにネオジオンを止める事を思えば足踏みもできない。

 

『巫女よ、奴等を零に還すか?』

 

『ミーちゃん、陰蜂で一気に片付ける?』

 

 神様とひーちゃんが提案するのは敵部隊の殲滅だ。

 

 両方、いやどちらか一方でもすぐに倒せるんだけど、虐殺は皆の視線が厳しそうだなぁ。

 

『各機はトゥアハー・デ・ダナンに帰還せよ』

 

 そんな風に迷っていると、ミスリルの参謀というカリーニンってオジサンから通信があった。

 

 戻れというなら戻るけど、一体どうするつもりなのか?

 

 しかしテッサお姉さんたちは、私の心配に斜め上の答えを出してくれた。

 

「……ほぇ~」

 

 私達を出迎えたのは、なんと空を飛ぶダナン君だったのだ。 

  

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