幼女が魔改造されたクマに乗って時獄と天獄を生き抜く話   作:アキ山

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お待たせしました。

今回はマブラブ編でござりまする。

秋の夜長の暇つぶしになれば幸いです


幼女とあいとゆうきのおとぎばなし -04

 月から襲来した落着ユニットの迎撃も完了したことで安全も確保され、慰霊祭に参加した遺族達は予定通り地球へと帰っていく。

 

 それを見送るのは同じ奇跡の時を体験した豊芦原瑞穂国の避難民達。

 

 なかでも遺族達を集めたのは、彼等に叶わぬはずだった戦没者と言葉を交わす機会を設けた幼い巫女だった。

 

「ありがとう…娘と最後に会わせてくれて、本当にありがとう」

 

「……ん。おばあちゃんもがんばって」

 

 皆が皆、こうして彼女にお礼を言っては宇宙港へ向かっていく。

 

 中には『メシアの再来』だの『天の遣い』などと拝む者もいたが、巫女は『……ミユはふつうのひと』とそれを否定した。

 

 そうして地球からの来客も最後の二組となった。

 

 現アメリカ大統領と次期征夷大将軍の一行だ。

 

「プリンセス。我が国の民を救ってくれたこと、そして多くの戦友や兵士達と最後の別れを交わさせてくれた事を心から感謝する。この恩はアメリカ大統領として、そして私個人としても決して忘れない」 

 

 小さいもみじのような手を壊れぬようにゆっくりと握る大統領。

 

 すると巫女に寄り添っていた紅いペットロボが収納スペースからあるものを取り出した。

 

「これは?」

 

『Rイーグルの設計図とマニュアル。あれを量産するなら必要になるでしょ。ヘビーフォーク級陸上戦艦の仕様書は現物が納品される時に一緒に渡すから』

 

「すまない。ありがたく受け取ろう」

 

 今回の慰霊祭を開くにあたって、日米両国にはコロニー産の技術試験機であるRイーグルと烈震、烈震の斯衛軍仕様である翔鶴が提供されることになっている。

 

 実機の方も参加者を送還する宇宙船に搬入済みだ。

 

 その事を思い出し、ロボットハンドで差し出されたアタッシュケースを受け取る大統領。

 

 すると今度は巫女が懐からあるものを取り出した。

 

「……ん」

 

「これも私にかね?」

 

 手渡されたそれは小さな宝飾品用の化粧箱。

 

 開くと中には銀鎖の中央にエメラルドに似た鉱石がはめ込まれたペンダントと同色のイヤーカフスが収められている。

 

「これは?」

 

『それは簡易バリア発生装置だよ。1発ならバズーカ砲の直撃にも無傷で耐えられる優れものなんだ』

 

「……おじさん、うらみのねんいっぱい。だから、ほけん」

 

 ペットロボの説明に加えて、巫女は澄んだ目で大統領を見上げる。

 

 大統領には巫女の告げた恨みに身に覚えがありすぎた。

 

 なるほど、自分がどういった形であれ彼女達と接触を図った以上、反対勢力が黙っているわけがない。

 

 今受け取った新機軸の戦術機データだけでも、兵器産業へと卸せば政財界のバランスを大きく変える可能性を持つ。

 

 自分を大統領の座から引きずり降ろそうとする魑魅魍魎が、危機感を抱いて強硬手段に出る理由としては十分。

 

 なにより、あれだけの奇跡を引き起こした少女がこう言うのだ。

 

 どうして子供の戯言と片付けられようか。

 

「ありがとう。どうやって使うのかな?」

 

『イヤーカフスにはセンサーが仕込まれていて、危険物を感知したら自動的にバリアを張るようになってるの。だから身に着けているだけでいいよ』

 

「わかった」

 

 与えられた説明に頷くと、大統領はすぐさまネックレスとイヤーカフスを装着する。

 

 為すべき事は迷わない、これこそ彼が数多の戦場を生き抜いてきた秘訣だ。

 

 そして巫女は次に日本側の最後の渡航者となる少女と傍らに立つ眼鏡をかけた女性、そして彼女らの保護者である巌のような体躯の男へと目を向ける。

 

『こっちは烈震と翔鶴に関するマニュアルね。無くさないようにしなよ』

 

「あの…私はただ親戚の冥福を祈りに来た一般人です」 

 

「……おねえさん、つぎのしょうぐんさま」

 

 ロボットアームでアタッシュケースを突き付けられた少女は首を横に振ろうとしたが、それは巫女の言葉によってピタリと止まってしまう。

 

 同時に保護者に扮していた護衛の二人は一気に警戒度を引き上げる。

 

「───それは神通力によるモノでしょうか?」

 

「……ん。そんなかんじ」

 

「では、見破られても仕方ありませんね。次期征夷大将軍を任じられている煌武院悠陽と申します」 

 

「……ミユ、はじめまして」

 

「まさか次のジェネラルがこんなうら若い乙女とはな。知っていると思うが私はアメリカ大統領を務めているマイケル・ウィルソン・Jrだ」

 

「若輩者ですがよろしくお願いします」

 

 悠陽の名乗りにペコリと頭を下げる巫女。

 

 そしてマイケル大統領は日本の全権を背負うであろう少女と握手を交わす。

 

 戦術機の資料が入ったアタッシュケースは護衛の月詠が受け取り、悠陽にも巫女は大統領と同じく護身用バリア発生装置を手渡す。

 

 彼女がそれを身に着けているのを見ていた巫女はふと何かに気が付いたのか、視線を虚空へ向けた。

 

「……ありがと。ゆうひおねえさん、マイケルのおじさん。て、だして」

 

 そして何者かに礼を告げると、二人へそう声をかける。

 

 言われるがままに手を差し出す二人。

 

 しかし幼女が小さな手で指を掴んだ瞬間、彼等の脳裏を駆け巡ったのは恐ろしい光景だった。

 

 突如としてBETAの襲撃を受ける日本の佐渡島。

 

 要所ではないために大した防備も敷いておらず、数の暴力で蹂躙されて屍を晒す戦術機と兵士たち。

 

 さらに凶悪な宇宙生物の毒牙は避難所へ身を寄せていた非戦闘民へと向けられる。

 

 小型種に蹂躙されて血の海となるシェルター内、そこには断末魔と悲嘆の声に満たされていた。

 

 そして彼らが最後に見たのは、人が死に絶えた佐渡島に忌まわしいハイヴが建設される光景だった。

 

「い…今のは……」

 

『ちょっとした未来予知だね。信じる信じないはそっちの自由だけど』

 

「どうされたのですか、悠陽様?」

 

「───BETAが佐渡島に侵攻してきます」

 

「なんと!? それは誠か!」

 

『襲撃予定は9月25日。奴らは私達が封鎖した朝鮮半島のルートに見切りをつけて、大陸から直接海を渡ってきたみたい』

 

「なんということだ! あとひと月もないではないか!」

 

 突然告げられた情報に戦慄する二国の首脳。

 

 ここにいる者達に巫女を疑うという考えはない。

 

 慰霊祭の奇跡に加えて、今またテレパシーじみたマネまでやってのけたのだ。

 

 この娘なら未来を知ることができても不思議ではない。 

 

 そんな重苦しい空気の中、宇宙港の搭乗口へ先に行っていた大統領秘書が戻ってきた。

 

「ミスター・プレジデント、船の発進準備が整ったとのことです」

 

「そうか……ミス・コウブイン、この件については地球へ戻ってから貴国と話を詰めたい。襲撃時期が分かっているなら、対抗手段も練れるだろう」

 

「承知しました、ウィルソン大統領。此度の事は必ず現将軍である斎御司殿下へ伝えます」

 

「……ミユたちもいく。だからがんばって」

 

 巫女からその言葉を聞いた二国の重鎮達は、強張っていた表情を緩ませる。

 

 なんの保証もない口約束だが、彼女なら無下にはしまいという思いがあったのだ。

 

 その後、二言三言言葉を交わすと彼らは宇宙コロニーを後にする。

 

 帰路の中、自室で物思いに耽っているマイケル大統領に秘書のジョディが問いかけた。

 

「ミスター・プレジデント、どう思いますか?」

 

「それはコロニーについてか? それともプリンセスかね?」

 

「両方の所見を聞かせていただければ」

 

 そう返された大統領は少しの思案を挟んで口を開く。

 

「プリンセスについては危ういと感じた」

 

「危うい…ですか?」

 

「あれだけの超科学を保持している事に加えて、彼女は大衆の前で奇跡を引き起こした。さらにコロニーの防備も現在彼女達頼みだ。下手をすれば、彼女は避難民によって現代の救世主などと祀り上げられかねん」

 

「奇跡…ですか。あれは彼女たちの科学力を駆使したトリックなのでは?」

 

「かもしれん。だとしてもジョディ、君はその原理を説明できるかね?」

 

「……いいえ。皆目見当もつきません」

 

「裏にどんなタネがあっても、それが解明されねば奇跡は奇跡として成り立つ。少なくとも今の我々にとっては彼女が成した事は紛れもないそれだ」

 

「そして奇跡を為したあの子供は難民達の聖女となる、ですか」

 

「本人は否定していたがね。こと新興宗教というのは過激な思想に走りやすい。彼等はBETA襲撃というこの世の地獄を体験し、そこからプリンセスによって命を拾った。世界を見れば他にも同じ不幸に見舞われている人間がいるのに、自分達に救いの手が差し伸べられた。その経験があれば自意識過剰な人間は自らを『救世主に選ばれた民』などと嘯いてもおかしくはない」

 

「混乱の坩堝である地球を見下ろして自分達は平和に過ごす、たしかに彼等は今の世界だと特権階級と言えなくもないですね」

 

「彼等が妙な勘違いからプリンセスを担ぎ出して地上へ干渉を始めると厄介だ。そうならないようにウォーケン少佐……いや中佐達には当面はコロニーに留まってもらって内情の監視を頼んでいる。状況が拙い方向へ向かった場合は、外交手段を通じて何とか抑えねばなるまい」

 

「なかなかに頭が痛い話ですね。それでコロニーの方は?」

 

「コロニーについては素晴らしいの一言だ。多くの国々がBETAに敗北して消滅している現状において、あの新たなフロンティアは人類の希望となるだろう」

 

「たしかに国土を奪われた難民からすれば、アシハラミズホのような場所は喉から手が出るほどに欲しいでしょうね」

 

「問題は、そのフロンティアを現行人類の技術力では製造不可能という事だな」

 

「つまり、あの子供に頼るほかないと」

 

「礼を尽くして製造を依頼するのならばいい。しかし今の人類の余裕のなさを想えば、強奪や相手を嵌めて騙し取るなど悪意ある手段を取りかねん。それで彼女たちの不興を買えば、BETAをモノともしない超科学が我々に牙をむくことになる」

 

「それは……」

 

 大統領が放った予測にジョディは絶句する。

 

 BETAだけでも劣勢に立たされている状態で彼女たちまで敵に回れば、もはや人類が生き残る目は消えてなくなるだろう。

 

「だからこそ、我々が他国の暴走を抑えて友好的に彼女達と付き合わねばならんのだ」

 

「その為にはまず国内の反対勢力をどうにかしませんとね」

 

「そうだな」

 

 そう答える大統領の脳裏に過ったのは、かつての戦友であり今は自分を目の敵にしている副大統領の顔だ。

 

 ジョディには伝えていないが、宇宙コロニーは第五計画推進派にとって垂涎の代物だ。

 

 なにせイチかバチかの賭けであるバーナード星系への旅をする必要なく、安全な地を手に入れることができるのだから。

 

 だからこそ国内統制を急ぎ、奴等の動きも締め付けねばならない。

 

 地球を見捨ててG弾の集中投下など冗談ではない。

 

 まだアメリカは、人類はBETAに負けてなどいないのだ。

 

「リチャード、そして第五推進派のイノシシども……貴様の好きにはさせんぞ」

 

 マイケル大統領は窓から見える漆黒の宇宙を睨みながらそう呟くのだった。

 

 一方、こちらは日本を目指す船。

 

 その中では煌武院悠陽が宛がわれた自室で物思いにふけっていた。

 

「煌武院殿、如何なされた?」

 

 紅蓮醍三郎の声掛けに悠陽の意識は現実へと立ち戻る。

 

「……少し、考え事をしていました」

 

「佐渡の事でしょうか、悠陽様?」

 

 月詠の問いかけに悠陽は小さくかぶりを振る。

 

「それもあります。しかし、私が思っていたのは豊芦原とその姫君についてです」

 

「やはり気になりますか。まあ、あれほどのモノを見せられれば当然と言えますな」

 

「紅蓮大将は…彼女の事をどう思われました?」

 

「───まず彼の娘からは得体の知れぬ力のようなものを感じ申した。霊力や神通力と言われればストンと肚に落ちるような、の。次にあの者は相当な修羅場を潜っておりますな」

 

「修羅場…ですか?」

 

 紅蓮の言葉に月詠は驚きで目を見開く。

 

 年齢一桁前半にも見える幼き娘にはあまりにも似つかわしくない言葉だ。

 

「何を驚く。あの娘が戦場に赴き、落着ユニットを破壊する様はお主も見たであろう。あの戦いっぷりからしても相当に戦慣れしておるわ」

 

 紅蓮の指摘に悠陽は内心で『なるほど』とうなずく。

 

 彼女が乗っていたであろう黒丸の機動兵器は地球に現存する如何なるモノとも隔絶した性能を持っているのだろう。

 

 自分達なら核に頼らねば排除できない落着ユニットを容易く捻り潰した事を考えれば、その戦闘力は推して知るべしだ。

 

 しかし幾ら性能が高くても乗り手に腕が無ければ途端に木偶人形と化すのが機動兵器というもの。

 

 つまり、あの機体を完全に乗りこなす程度には豊芦原の姫は戦場を知っているという事になる。

 

「あとは……感性や所作などは年相応に見えましたの。聞けば、政は難民の政治経験者に任せて一切手を付けていないとのこと。なんでも政治は分からないと言っておったそうです」

 

「まぁ、年を考えれば普通なのでしょうね」

 

 自身の顎を撫でながら話す紅蓮の言葉に月詠は同意する。

 

 しかしそれがまた、悠陽の懸念を増幅させる。

 

「君臨すれど統治せず、という訳ですか。……少し問題ですね」

 

「どういう事でしょうか、悠陽様?」

 

「今の彼女の立ち位置は帝国における皇帝陛下に近い。そして豊芦原瑞穂国は現状の帝国に比べれば、格段に安全が確約されています」

 

 そう口火を切ると悠陽は己の考えを語りだす。

 

「ですが現状では彼の浮島には国民がいません。あそこに住まうのは軍も民も未だ帝国とアメリカの人間ですから」

 

「その難民達には帝国へ帰る気は無いように見えましたがの。このまま豊芦原に定住するのではないですかな?」

 

「おそらくは。しかし帝国もただでは彼等の国籍変更を認めないでしょう。代価として国交を開き、別口で帝国からの移民受け入れも了承させる可能性が高い」

 

「それは双方にとって悪くない話なのでは? あの浮島が一国として起つには現状では国民が少なすぎると思うのですが」

 

「移民や国交樹立自体はよいのです。問題は移民受け入れに乗じて親米派の議員や我が身の事しか考えない政治屋共が宇宙へ上がり、かの浮島で権力の座を狙う事なのです」

 

 月詠の言葉に悠陽はため息とともに己が懸念を吐き出す。

 

 現在の帝国議会には獅子身中の虫が数多く蠢いている。

 

 前大戦の敗北からアメリカへしっぽを振り、その為なら国家機密すら吐き出す売国奴。

 

 金や権力欲しさで国や民の事など欠片も考慮せず、己が利益の為に国内をかき回す薄汚い政治屋。

 

 これらの跳梁によって、帝国は国の舵取りも満足にできない有様だ。

 

 そしてこの手の輩は自らの保身の為なら、より強い者へすり寄る性質がある。

 

 帝国…いや地球上で最も安全な場所があり、更にはその政治権力に空席があるとなれば奴等が飛び付かない筈がない。

 

「彼等は平気で祖国を蔑ろに出来る厚顔無恥な連中です。そんな輩があの浮島で発言権を持てば、帝国への配慮は大きく目減りし、下手をすれば切り捨てられる可能性もあるでしょう」

 

 豊芦原の科学力と軍事力を目の当たりにし、寄贈された烈震や翔鶴に触れて悠陽は訪れる前の直感をより確かなものにしていた。 

 

 これからも続くBETAとの戦いを日本が生き抜くためには、彼女達との連携は必要不可欠だと。

 

 だからこそ、そんな事態は避けねばならない。

 

「帝国へ帰ったら信の置ける者たちと協議を。佐渡島の件もありますから、休む暇はありませんよ」

 

 提示された可能性に顔を強張らせる紅蓮達へ告げる悠陽。

 

 穏やかな表情とは裏腹に、その身は将軍を名乗るに相応しい覇気に満ちていた。

 

 

 

 

 同時刻、豊芦原瑞穂国の一角に設けられた軍事演習場。

 

 そこには人工の大地に跪いている烈震を苦々しく見ている一人の男がいた。

 

 顔は女性と言われても通用しそうなほどに端正であり、彼自身もその美貌を自覚しているのだろう、薄っすらと化粧が施されている。

 

 ウェーブの掛かった豊かで長い茜色の髪に金細工をあしらったヘアバンド。

 

 そんな見目麗しい頭部の下には190に届くほどの上背と鍛え上げられた体躯が続く。

 

「中佐、いかがですか新型は?」

 

 そんな偉丈夫に部下である帝国軍人の一人が問いかける。

 

「悪くないわ。不知火のように脆くなければ、撃震みたいに鈍重でもない。関節の稼働も言う事無しだし太刀も74式みたいに歪じゃないもの」

 

 中佐と呼ばれた男は不機嫌さとは裏腹に眼前の巨人を絶賛する。

 

 しかし、だ。

 

「それでも麿の全力には付いてこれなかった。期待を持てた分だけ、いつも以上に腹立たしいわ」

 

 そう、彼の眼前にある烈震はもはや自力で動くことは叶わない。

 

 外観は問題ないように見えても内部機構は男の人外じみた操縦によって回路は焼き切れ、フレームなども完全に崩壊しているのだ。

 

 この機体を陽蜂がサーチすればこう言うだろう。

 

 『一から作り直した方が早い』と。

 

 偉丈夫が戦術機を乗り潰すのはこれが初めてではない。

 

 彼は斯衛軍に配備された機体以外はほぼ全ての戦術機に搭乗し、その悉くを一戦で鉄屑へと変えてきた。

 

 そうして上官や整備士達から付けられた忌み名は『壊し屋』。

 

 過去に時の上皇を神輿とし、五摂家を差し置いて将軍として幕府を開いた足利家の末裔であることも相まって、偉丈夫は撃震一つと共に九州の防備へと配置された。

 

 彼の戦闘力は日本帝国…いや世界的にみても類を見ない程に高い。

 

 しかし戦術機の中でも頑丈な撃震をして全力戦闘では10分で音を上げる程の操縦技術の高さが、補給も儘ならない九州戦役では仇となった。

 

戦闘中に内部機構の故障によって操縦不能となった彼の乗機は、無様に人型の棺桶と成り下がった。

 

 本来であればBETAの腹に収まるはずの運命だったが、それを覆したのは豊芦原の介入だった。

 

 そうして命拾った彼は今こうしてここにいるのだ。

 

「豊芦原の技術で造られた戦術機でもダメとは……中佐が全力を振るえる機体はやはり存在しないのでしょうか?」

 

 残念そうに肩を落とす部下に偉丈夫は呆れた視線を向ける。

 

「何を言っているの、おまえ。ここの技術はこの程度なわけないでしょう」

 

「え?」

 

「これらは例の鎮魂祭を認めさせるための見せ札。おひいさま達の機体を見れば、彼等の持つ手札はまだまだ底が在る事くらい分かるでしょうに」

 

 そう、スペースコロニーや巨大戦艦を生み出す技術がある者たちが、この程度で限界な筈がないのだ。

 

「ともかく、これからの戦いを生き抜くには麿が全力を振るえる機体が必要だわ。九州の時みたいにマシントラブルで墜ちるなんて二度とごめんだもの」

 

「では、どうされるのですか?」 

 

「決まってるでしょ。直談判するのよ」

 

 絶句する部下に艶やかに見える笑みを浮かべて、男は更衣室へ向かう。

 

 貴人との謁見に相応しい装いを纏うために。

 

 相手は子供とはいえ、この楽土の所有者。

 

 武骨な戦術機用強化装備で前に出るなど、彼───今川雷蝶の美意識は許さないのだ。

 

 

◆ 

 

 

 どうも、危うく生き神様扱いされそうになった幼女です。

 

 まあ、お葬式でやらかした事を考えると仕方ない部分もあるんだけどね。

 

 神様呼びはセンシティブな話になっちゃうので、できればご勘弁願いたい。

 

 さて、前の落着ユニット襲撃の時に割ととんでもないものを拾ってしまった私達。

 

 異界のものだとしても、当然ゲッターロボなんて代物を放置するわけにはいかない。

 

 はるかぜの中に回収すると、やっぱり中には3人のパイロットがいた。

 

 イーグル号っぽいのに乗っていたのは、どこか竜馬さんに似た感じのお兄さん。

 

 ジャガー号っぽいのには鱗みたいな肌をした少し不思議なお兄さん。

 

 そしてベアー号っぽいのには坊主頭のおっきいお兄さんが乗っていた。

 

 気を失っている三人はかなり衰弱しているみたいで、すぐに救護室行になってしまった。

 

 ゲッターの方も損傷が激しいみたいで、ひーちゃんが言うにはオーバーホールが必須なんだとか。

 

 ちなみに聖戦の時にゲッターロボのメンテナンスノウハウは蓄積されているので、はるかぜの施設で修理は可能なんだってさ。

 

 あと、ゲッター関連という事で多元世界の早乙女研究所に報告しておきました。

 

 知らないゲッターが現れたことに一番興味を示したのは竜馬さん。

 

 所長を務める隼人さんやゲッターパイロットの訓練生を教えている弁慶おじさんがすぐに動けないのをいい事に、ブラックゲッターでこっちに来るって言いだした。

 

 私としても専門家が来てくれるのはありがたいので、連絡があれば迎えに行こうと思う。

 

 謎のゲッターロボに関しては現状こんな感じなんだけど、それとは別に問題が起きてるんだよね。

 

 まずは日本の佐渡島にBETAが襲ってくる件。

 

 これを教えてくれたのはむーちゃんこと、寄車むげんのお姉さん。

 

 私のやる事がおもしろそうだと観察している時に気が付いたんだってさ。

 

 むーちゃんが見たという事は予言ではなく予知、つまり100%起こるという事だ。

 

 九州の人達を救った身としては、手を貸さない道理はない。

 

 例の『タケルちゃん』の事もあるしね。

 

 そんな訳で私達は島津司令官やウォーケン少佐の手を借りて、佐渡島防衛の準備を行う事になったのです。

 

 さて、島での防衛戦となれば如何にして敵を上陸させないかが肝になる。

 

 つまり水中戦の結果が被害の大きさを左右するわけだ。

 

 なので、私たちは打った手はファクトリーの生産力とGシステムに眠るジオン水泳部を始めとした多種多様な水中戦MSのデータを使って、新しい海兵戦力を作り出す事だった。 

 

 まずは潜水艦隊として一年戦争でジオン軍が使っていたマッドアングラーとU-コン型潜水艦を4隻。

 

 他にも戦術機運用に改造したオーブ海軍が使っているタケミカヅチ級大型空母を4隻、その護衛艦として同軍所有のイージス艦6隻。

 

 ちなみに田上少尉が言うには、タケミカヅチの名前は他で使われてるらしくて名前が被らないように鳳翔とか蒼龍に変えることになりました。

 

 うん、この辺の事情って結構難しいよね。

 

 話を戻して次に搭載する水中戦用の機体なんだけど、そこはバッテリー動力という事もあってザフトの使っていたモノを拝借した。

 

 グーンとゾノを20機づつにアッシュって機体を30機、ひーちゃんが作ってくれたよ。

 

 それと部隊の目玉として大型MAも一機作ることにした。

 

 その名はグラブロ。

 

 ジオン軍が使っていたもので、単独で地球一周を泳げる元気な機体である。

 

 更には大型のかぎ爪とミサイル、メガ粒子砲まで備えた優れものだ。

 

 機体は全て製造を終えており、今はミウを教導官として実機演習にいそしんでいる。 

 

 私もすっかり忘れていたんだけど、くまさんって元々は水中戦用のMSなんだよね。

 

「……これでいい?」

 

「うん、よくできてるよ。これなら妹ちゃんも喜んでくれるだろうさ!」

 

「……ん」

 

 そして私はと言えば、近所のおばちゃんと一緒に軍人さんやミウのお弁当にとおにぎりを作っております。

 

 私も何か教えられればいいんだけど、基本操縦方法は背中のカッチンで思考制御だしハロじゃ戦い方も参考にならないもんね。

 

 そんな訳でおにぎりを満載したカートに乗った私は、軍港へとやってきたわけです。

 

 ちなみにミカゲさんは現在食料増産コロニーである『大宜都比売神』で生命の樹の苗を育成している。

 

 これはコロニー内に生物を生成する際、ミカゲさんのリクエストに応えて植えたものだ。

 

 生命の樹は堕天翅にとって重要なものらしいので、ミカゲさんも育成にはかなり熱を入れているみたい。

 

「おひいさま、今日はどんな御用で?」

 

 軍港のゲートに着くと、出入管理をしている憲兵のおじさんが声を掛けてきた。

 

「……おべんと、とどけにきた」

 

「演習してる皆にか! そいつは喜ぶよ、ありがとうな!!」

 

 カートの荷台に積んでいる重箱を指さすと、おじさんは笑顔で私の頭をワシワシと撫でてくれた。

 

 うん、お葬式のすぐあとは住民の人達が畏れ多い的な感じになったけど、私はこんな感じのフレンドリーな方がいいなぁ。

 

 そうしておじさんに見送られた私は水上艦艇用のドックへ向かう。

 

『もうすぐ演習が一段落するって』

 

「……ん」

 

 ドックは演習がまだ終わってない為に空になっていて、整備担当の人達がちらほらと行き来している感じだ。

 

『演習の様子、見てみようか?』

 

「……できるの?」

 

『もちろん!』

 

 私は退屈まぎれにベンチに座って足をプラプラしていると、ひーちゃんは施設監視用のカメラにアクセスしたのか、演習の様子を投影してくれた。

 

 薄暗い海の中ではくまさんを先頭に、水中専用のモビルスーツたちが隊列を組んで進んでいく。

 

『敵影発見! 数は大隊規模!!』

 

『総員、魚雷戦用意!!』

 

 帝国軍の海兵さん達の通信が響くと、水底で土煙を漂わせながら突撃級を先頭にBETAの群れが現れる。

 

 もちろんこれは本物じゃない。

 

 ガワだけを似せた訓練用のドローンだ。

 

「……そっくり」

 

『落着ユニットをハッキングした時にコイツ等のデータは根こそぎいただいたからね。やろうと思ったら動きや攻撃パターンまで完コピできるよ』

 

 さすがはひーちゃん、私の相棒は超優秀である。

 

『訓練通りにいきますわよ。魚雷発射と同時に一撃離脱、その際には垂直に上がるのではなく曲線を描くように浮上する事! 水圧で不具合が出たら機体も鉄の棺桶に早変わりという事をお忘れなく』 

『『『『了解!』』』』

 

 威勢のいい返事と共に偽BETAの群れへ突撃するMS達。

 

 直進する彼らの上を取ると同時にくまさんは背負ったランドセルから、そして後続の機体達は頭や両腕から大量の魚雷を放つ。

 

 水中に細かな泡で造られたラインを残して奔る魚雷たちは、獲物に食らいつくと次々と火花を咲かせて犠牲者の破片を周囲へまき散らした。 

 

 ひーちゃんが言うにはBETAはカナヅチさんらしい。

 

 水中だと光線級も水が邪魔でレーザーを撃つ事もできないので、ああして上を取ると殴りたい放題なんだとか。

 

 なるほど、ひーちゃんが水中戦力の拡充を言い出したのはこれが原因だったのか。

 

『味方機動部隊、射線からの離脱を確認!』 

 

『よし! 各艦、そしてグラブロ!! 魚雷水平発射だ!!』

 

 そして水中用MSが一撃を加えれば、次に待っているのは後ろに控えた母艦とMAからの砲撃による洗礼だ。

 

 さっきよりもさらに巨大な白い軌跡を描いて突撃した対艦魚雷は、中型種どころか要塞級までも吹き飛ばし、水中を進行していたBETAを駆逐してみせた。

 

『これで午前の演習は終了ですわ。各員、帰艦してくださいな』 

 

『了解!』

 

 潜水艦へ帰っていくくまさんたちの後ろ姿を最後に、画像の投影は終わる。

 

『これなら佐渡島の戦いも少しは楽になるかもね』

 

「……ん。みんな、がんばってる」

 

 これは私もしゅぎょーの一つでもしなくてはならないか?

 

 そんな事を考えていると、こちらへ近づいてくる気配を感じた。

 

 この感じ……悪い事は考えてないみたい。

 

 でも、なにか私にお願いがある感じかな?

 

「はじめまして、かしらね。おひいさま」

 

 私の前に立つ気配の主は4人の部下を引き連れた、大柄なオネェ系の人でした。

 

『誰かな? 知らない人がミーちゃんに近づくのは勘弁してほしいんだけど』

 

「そう警戒しないで頂戴。おひいさまは麿の命の恩人よ、危害なんて加える気は無いわ」

 

 口を開いてガトリング砲を出して威嚇するひーちゃん。

 

「……ひーちゃん、いい」

 

『ミーちゃん?』

 

「……このひと、それきかない」

 

 なんというか、シュバルツさんや東方のおじちゃんに近い雰囲気がするんだよね、この人。

 

 連続で発射されたらどうか分からないけど、初弾なら躱して接近戦に持ち込める的な。

 

「さすがはおひいさま。人を見る目があるようね」

 

 相手に敵意がないのは確かなので、ここは穏便に接するべきだと幼女は思います。

 

「……ミユ。はじめまして」

 

「私は今川雷蝶中佐よ。以後、お見知りおきを」

 

 ベンチから立ち上がってペコリと頭を下げると、今川さんも返礼を返してくれた。

 

 着ている服からするに彼は日本帝国の人のようだ。

 

 でも、私に何のお願いがあるのだろう?

 

「……らいちょーおにい? おねぇ? んっと、おねにーさん」 

 

「ふふ……雷蝶夫人で構わなくってよ」

 

 おお、こういったのは繊細な問題だから呼び方に困っていたのだ。

 

 助け船が出してくれたなら、乗らない手はないよね!

 

「……らいちょーふじん。ミユにおねがい、ある?」

 

 私がこう切り出すと雷蝶夫人は驚いた顔をしたけど、すぐに口元を扇子で隠した。

 

「察しが良くて助かるわ。実はね、麿に専用の戦術機を造ってほしいのよ」

 

 それを聞いたときに私が感じたのは驚きじゃなくて納得だった。

 

「……ロボ、ほんきでうごかしたら、こわれちゃう?」

 

「あら、よくわかるわね」

 

「……しりあいに、にたようなひといる」

 

 ぶっちゃけ、Z-BLUEのエース達は量産機に乗ったら壊しちゃいそうな人多いよね。

 

 アストナージさんも1年戦争の時に、アムロ大尉の操縦テクがガンダムの限界を超えたって言ってたし。

 

 雷蝶婦人は超人系な感じだし、戦術機だと付いていけないって言われても『ですよね』って感じだ。

 

『烈震はどうなの? あれって既存の戦術機と比べてかなり頑丈で操縦にも遊びを持たせたつもりだけど』 

 

「駄目だったわ。麿が少し本気を出したら内部はボロボロ、30分はもったから今までのモノよりは格段にいいんだけどね」

 

『……ロットナンバー735が急に壊れたからおかしいと思ってたんだけど、アンタが原因だったんかいっ!!』

 

 雷蝶夫人の言葉にツッコンだひーちゃんだったけど、すぐに驚きと呆れが入り混じった感じで言葉を吐き出した。

 

『うわ……動体視力・反射神経・反応速度がSEED発動時のキラやアスランを超えてるんだけど。こんなのが自然に生まれるなんて、完全に人類のバグじゃん。そりゃあ烈震じゃ耐えられないわけだわ』

 

「誰がバグよ、失礼しちゃうわね」 

 

 ドン引きしているひーちゃんをジト目で睨む雷蝶夫人。

 

 とにかく、彼の頼みは分かった。

 

 BETAとの戦いには雷蝶夫人も出るんだろうし、彼のような凄腕のパイロットが実力を出せないのは損失だと思う。

 

 けど、この人だけ特別扱いしちゃうのはなぁ……。

 

『そっちの事情は分かったけどさ、はいそうですかって作るわけにはいかないよ? アンタに専用機を与える理由とメリットがないもん』 

 

「たしかに尤もだわ。じゃあ、こうしましょう」

 

 私の懸念を代弁してくれたひーちゃんに、雷蝶夫人の返答は思わぬものだった。

 

「麿は日本帝国からこの豊芦原瑞穂国へ帰化するわ。今、この地で世話になっている難民達とは違う、本当の意味でのコロニーの民よ。もちろん、籍を置く以上は税も払うし兵役にも参加する。自国の民なら相応の機体を与えても問題ないでしょう?」

 

 正直に言えば、この提案は想定外だ。

 

 というのも、そもそも私たちはこのコロニーを活動拠点として造ったわけで、国として運用する気は全くなかった。

 

 なので、国民ができるというのは全く考えていないのだ。

 

『……こまった。どうしよう?』

 

『ここは受けておいた方がいいかもね。コイツってば、多分この世界最強クラスのパイロットだろうし、専用機一つでこっちに引き込めるなら安いものだと思う。それに豊芦原瑞穂国だって、何時までも難民キャンプのままじゃいられないだろうしさ。これからもBETAに国を追われた人達を助けるなら、ちゃんとした体裁を整えた方がいいんじゃないかな』

 

 困り果てた私がひーちゃんに助言を求めると、こんな感じの念話が返ってきた。

 

『そう?』

 

『うん。どうも地球にある国家群は腹黒連中が多いみたいでさ、足元を固めないといい様に利用されちゃうんじゃないかな』 

 

 どうやら私がぽけっと過ごしている間にも我が相棒は情報を集めてくれていたらしい。

 

 彼女がこう言うのなら間違いないのだろう。

 

「……ん、わかった」

 

「そう。話が分かる子で良かったわ」

 

 私がそう返すと雷蝶夫人はとても嬉しそうにうなずく。

 

「……どんなきたいがいい?」

 

「そうね……誰よりも強く誰よりも美しい、そんな感じでお願いできるかしら」

 

『……抽象的すぎるでしょ』

 

 なかなかに難しい注文が来たけれど、その辺はGシステムのデータを頼りになんとかしよう。

 

 さて、思わぬ来客との話も纏まりかけていた時、突然私の端末が音を立てた。

 

『ミーちゃん、誰から?』

 

「……とうごうのおじいちゃん」

 

「東郷……ああ、臨時政府で代表を務める元鹿児島県知事ね。おひいさま、よければ麿達にも聞かせてもらえない?」

 

「……ん」

 

 私は端末をスピーカー通話にして電話に出る。

 

『おひいさま。今、お時間は大丈夫ですかな?』

 

「……だいじょうぶ。どうしたの?」

 

『実はアメリカ政府を通して国連から通達がありまして、豊芦原瑞穂国に国連への加入を求める。また加入の際にはBETA戦線で勝利するためにコロニー建築技術をはじめ、各種軍事技術を公開すべしと言ってきたのです。政だけなら我々でも判断できるのですが、技術となるとおひいさまにお伺いを立てねばと思いましてな』

 

「……えぇ」

 

 なんか、めっちゃ吹っ掛けてきたんだけど。

 

 どうしようか、これ。           

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