悪夢過ぎる悪夢、かぼちゃ祭りはようやく終わった。
ハリーにしてみれば、ダーズリー家の虐待より間違いなく過酷だったと思える一日だったが、こんなものがホグワーツに居る間はあと六回もあるし、卒業後もこの時期の魔法界はパンプキン一色になるとかこの世の終わりにも程があるとハリーは思った。
この時期だけは、卒業後はノースティリスに引きこもろうと決意する。
それはさておき、クィレルがけしかけたであろうトロールだが、開心術でダンブルドアが頭を覗こうとした瞬間に頭蓋が爆散して即死した。
敵も馬鹿ではないらしく、四階の方に関しても網を張っていたが、立ち入った形跡はなかったとの事だ。
ハリーも例の四階に関してはピーブズに見張りを命じているので、誰かが通ればすぐにわかる。万が一サボりやがったら、開心術を使って脳みそを探るのでバレると言っているので絶対にサボることは無いだろう。サボったらサンドバッグ三日の刑なのだから。
“ちっくしょう……そう易々と引っかからないか”
もういっそとっちめてから、拷問だ! とにかく拷問にかけろ! を実行した方が早い気がしてきたが、ハリーとしても裏を探ると同時に、クィレルが扉の中に入って貰って、分霊箱か何かを取って来てから横合いからぶっ殺して奪いたかったので、渋々我慢した。
なのでその分はクィディッチの試合で果たす。ハリーはマクゴナガルから特別に贈って貰ったニンバス二〇〇〇に跨り──勿論お返しに気絶しそうなほど素晴らしいおみやげを、「保護者からです」という建前で渡した──あっという間にそれを掴んだらゲームセットする『金のスニッチ』を掴んでグリフィンドールに勝利を贈った。
というかこのゲーム、スニッチを取った時点で試合終了なのに加え、一五〇点も捕まえた方に入るのだから、シーカーが優秀ならどんだけ他がヘボでも問題ないんじゃなかろうか? とハリーは他のポジションの存在意義に疑問を抱いた。
一応擁護しておくと、スニッチは凄まじく素早く動く上、選手を妨害するブラッジャーなるボールが縦横無尽にエリアを飛び交っているし、相手選手も圧倒的な点差がつかない限りは悉く妨害してくるので、早々にスニッチを掴めることは稀だ。
ノースティリスのインチキ身体能力を有するハリーだからスニッチが登場次第、即ゲームセット! 終了! 解散! みたいな流れになるのであって普通こうは行かない。
それはさておき、ハリーは正式に選手になってからというもの、そりゃもうヒーロー扱いだ。上級生からは万雷の拍手と称賛を浴びる程受け取り、他寮の選手たちも「もうアイツは出禁にしてくれよ!」と泣きを入れたぐらいである。
そして、当たり前のようにプロのスカウトが来た。流石にまだ学生の、しかも新入生だからと初めのうちはお便りだけに留まっていたスカウト相手に、丁重に返信する程度で済んだ。
ただし、それもスカウトが直接試合を確認し、連戦連勝『来た・見た・勝った』を繰り返していりゃあ飛びつかないのは無理ってもんである。
特に、クィディッチワールドカップでは一度も優勝杯を手にしたことのないイングランドの各チームは──過去に優勝したアイルランドは個別に出場しているのでイングランドとは別枠であるし、そもそもにして両者は犬猿である──金の卵を絶対に離すまいと、ホグワーツに団体様で乗り込んだぐらいだ。
ハリー愛読の
ハリーにしてみればクィディッチが重要なのではなく、魔道具と乗馬のスキル上げの為にクィディッチを熱心にやっているに過ぎない。
そして、ノースティリス的な意味での熱心とは、そりゃあ死にかけるのがデフォルトだ。空腹とか飢餓を通り越して餓死手前になろうとも! 一気に満腹になるハーブ一枚食べて続行すればいい!
極限の疲労状態に追い込まれようとも! スタミナ回復武器を用いて回復した後に再トライすればいい!
突然モンスターに襲われようとも! ぶっ殺してから即座に再開すればいい!
外が雷雨であろうとも!
血反吐をぶちまけようとも!
決して、決して、決してスキル上げを止めたりはしない!
休んで良いのは潜在能力が下がってスキルボーナスを割り振るか、プラチナ硬貨片手に訓練を行うか、飼い主からご指名が入って気持ちいいことに励むときだけだ!
すまん、最後は余計だった。
兎にも角にも、そんなドン引き不可避な練習光景を目の当たりにしたら、誰だって情熱をもって励んでいるのだろうとか、本当はプロになりたいけど色々と事情があるんだろうと勝手に勘繰る。
しかし、ハリーはプロ入りとか別にしたい訳ではない。称賛を一身に浴びるのと勝利の二文字を得ることは、冒険者的に大変喜ばしいことは認める。そこは否定しない。
だが、ハリーにしてみたら魔法界……というか、地球そのものが故郷とは言い難い世界なのだ。何せ、物心ついてからノースティリスに旅立つまでの記憶はダーズリー家からの虐待で埋め尽くされていたし、そこから先はペットとして育まれてきた。
そんなハリーであるから、地球とイルヴァのどちらに思い入れがあるかと言われれば、そりゃあイルヴァ一択だ。地球というものをどうしても故郷だとは思えないし、飼い主だってこの世界を旅行感覚で楽しみこそすれ、終の棲家にする気は全くないだろう。良いとこ遊び場が精々だ。
なので、プロ入りした結果生活が縛られて、魂の故郷であるノースティリスに戻れなくなっては困るのだ。富と名声が同時に手に入れば魔法界を思うがままに楽しめるだろうが、かなーり面倒臭い諸々と天秤にかければ、プロの道を選ぶ気はなかった。
で、あるからして、ハリーは逃げの一択だ。
「まだ一一歳の新入生だから」「クィディッチは楽しいけれど、医学を修めて医師の資格を取りたいから」などとそれっぽい言い訳を口にしたが、後者に関しては結構本気だ。
イルヴァの生態とこの世界の人間の生態の差異には大変興味があったし、そちらの分野に精通している事にすれば日常的に回復魔法が使えるので、幾らでも言い訳が出来るからだ。
そういう訳なので、お引き取り下さいお帰りはあちらですよー、と副音声を大音量で響かせていたのだが、大人と言うものはとにかく汚い。
『ホグワーツに新星現る!』と大々的にメディアに取り上げさせ、周囲の生徒たち(主に他寮)にも、ハリー君がプロで活躍する姿が見たいよね! よね!? としきりにアッピル。
とっとと寮のクィディッチから追放したい他寮の生徒たちは挙ってこれを応援し、ハリーを徹底的に追い詰めるべく「もうプロ入り確定したから、ホグワーツのクィディッチ選手としては殿堂入りで引退ってことで良いよね!? つかとっとと叩き出せワンマンアーミーすぎんだよ!!」と学校側にグリフィンドールを除く三寮の生徒全員が漏れなく直訴。
ホグワーツとしても「ハリー君、歴代最年少のプロ入りを祝して『ホグワーツ特別功労賞』上げるし、正直生徒からの圧がスッゲーことになってるから、プロになってお願い! 授業受けたいなら、極力練習に関してはこっちで融通するから!! 嘆願書の山で校長室埋まっちゃう!!」と泣きが入った。
ちなみに『ホグワーツ特別功労賞』はホグワーツ生徒の中でも最高の栄誉であり、これを得られれば将来を確約されたも同然の、人生のゴールドチケットである。
因みにトム君はハグリッドに殺人の濡れ衣を着せてこれを手にした。やはり奴はこの世から完全に滅すべき邪悪である。
だが、ハリーは折れない。ハリーの本業はプロ選手でなくペットなのだ。たとえ誰が何と言おうとも、絶対に……
「え? スポーツでプロにならないかってお誘いが来たって? 良いんじゃない受けても? 実際の試合観たことないけど話を聞く限り面白そうだし、観客として応援しに行くのも楽しそうだしね」
飼い主鶴の一声でハリーは手のひらを高速回転! 満面スマイルでプロ入りを選んだ。なぁに。長くても二〇年かそこいらで引退すればいい。
飼い主がゴーサインを出したのならペットとして全く問題ないし、ワールドツアーにかこつけて飼い主と仲良く世界中を無料で旅するのも楽しそうだ。
うん、そう考えれば悪くないなと気持ちを一新。
契約相手のチームは成績が振るわないが、学業に配慮して練習量を最大限調整してくれたホリヘッド・ハーピーズに決定。
そっから先はプロ試験で余裕の合格。元居た一軍シーカーを押しのけてスタメン入りし、スニッチ登場と同時に相手シーカーなどものともせずスニッチを掴みまくったが、このままだと物語のジャンルが学園ものからスポーツものに代わりそうなので、そっちの描写は全カットする。
大体ハーピーズが敵と点差を開かせず、スニッチが出た瞬間にハリーが掴んで試合終了する流れなので、全カットも全く問題ない。
◇
そうしてプロと学生の二枚わらじで慌ただしくも充実した日々を過ごすハリーだったが、なんと思わぬ問題が発生した。
ハグリッドのアホがドラゴンの卵を持ってきやがったし、しかもその入手法が超胡散臭い。何が胡散臭いって「賭けに勝った」「相手は動物の事が好きで、三つ頭の犬のなだめ方とかを聞いてきた」とかほざきやがったのである。
当然ハグリッドは上機嫌で答えたらしい。答えちまったんだよなこのアホは。
ホグワーツの警備は今日もガッバガバである。知ってた……などと軽く、かるーく考えていられるのは部外者だけだ。
ハグリッドのドラゴンに関しては、「ドラゴンは懐かないし狂暴なんだよ! 飼える訳ないだろ!?」というロンのド正論によって、最終的にはドラゴンの研究をしている、ロンの兄弟の伝手で人知れずルーマニアに送られた。
ハグリッドは泣いていたが自業自得だ。ハリーだって畜生極まるティリス民だが、親しい相手に手を貸すぐらいの良心は残っている。
ハグリッドがちゃんと面倒見れるなら支配の杖を渡してあげても良かったが、ホグワーツの業務や他の家畜の世話にまで支障が出るようでは話にならない。
一ペットとして、飼い主になりたいのなら全員に等しく愛情をもって接し、最大限の幸福を怠ってはならないのだと言わせて貰う。ペットの幸福は一〇〇パーセント飼い主で決まるのだから※実体験。
◇
さて。いよいよハリーも悠長にしていられなくなった。しかも、こんな時に限ってダンブルドアは出張していやがった。
あのジジイつっかえねえな糞が!! と、毒づきつつハリーはスネイプに相談した。スネイプも激怒してダンブルドアに毒を吐きまくってくれないかなとハリーは期待したが、そうはならなかった。
「校長め……やけにクィレルの対処が遅いと思ったが、そういうことか」
過程をすっ飛ばして意味深な言葉を吐くのは止めて欲しい。ハリーは一応英国人だがホームズではないので説明を求めたところ、次のような回答が返った。曰く。
・ダンブルドアは自分の老いをスネイプに話していた。
・トム君を打ち破ったハリーには目をかけている。
・フラッフィーが守っている扉の奥には試練があるが、そのどれもが一定の知性や行動力のある生徒レベルの難易度で調整されている。
・ちなみに試練に関してはスネイプも作成した。
つまりあれである。ハリーは仲良しなロンとハーマイオニー辺りを連れて、友情・努力・勝利がお約束な週間連載漫画よろしく危機を乗り切り、最後には物語のお約束な感じでクィレルをぶっ飛ばすのじゃ!
奴は見た感じレベル低いから、第一章のボスとしては妥当な所じゃろレッツチャレンジ!
ハリー君、レベルアップしていつかトム君の野望を打ち破ってね! 多分今後も展開次第でクエスト発生するよ! という訳だ。
“クッソ他力本願じゃねえか後進育成にしたって無茶苦茶すぎんぞジジイ!?”
なんかもう、選ばれし勇者を導くとかいう名目で投げっぱなしジャーマン決め込む女神ぐらい性質の悪い無茶ぶりであった。なので。
「さあ行くよ、ロン! ハーマイオニー! ホグワーツの未来は、僕らの肩にかかっている!(らしい)」
「唐突ぅ!? ていうかハリー!? 君そんなタイプだった!? そりゃ勉強もスポーツも出来るけど、君、荒事はとことんダメなタイプだったよね!?」
すまないロン、それは擬態だ。本当のハリーはドラゴンだって余裕でミンチにするデンジャラスペットなのだ。素手で。但し、そんなことは口が裂けても言わない。
「大丈夫! ちゃんと引率のスネイプ先生がいるから! 単に複数人じゃないと効率が悪いから、僕らは数合わせみたいなものだから!」
「スネイプ先生、他の先生と協力してことに当たっては駄目なんですか……?」
「ミス・グレンジャー、我が輩もそうしたいのだが、校長はハリーこそ『例のあの人』を打ち破る存在だと妄信しているふしがある。
今回の出張とて、ハリーを焚き付ける為のものだろう。我が輩としても生徒を危険な目に遭わせる気は毛頭ないが、下手に騒いで『例のあの人』のシンパが協力しに来るか、或いはクィレルに逃げられても困る。
よって、二人には仕掛けを解いた後には後方で待機して貰う。後は我が輩がハリー・ポッターに魔の手が伸びるより早く、クィレルをこの手で始末しよう」
やだ、スネイプ先生。最後の発言がガチですわ。マジでクィレルを滅殺する気満々ですわ頼もしいけど獲物はやらねえとハリーは内心断固拒否の構えを取った。奴はこの手で直々に殺す。
◇
そんなこんなで、グースカといびきをかいて眠る職務怠慢な駄犬を押しのけて扉へ。ここを先にクィレルが潜ったのは、ピーブズの情報で知っていたから問題ない。入り口も一つなので、全ての仕掛けを解いて戻ってきても絶対に何処かで出くわすのだ。そういう意味ではクィレルは既に詰んでいる。
ただ、ひっじょうに面倒臭いことに、先に行った奴が試練を突破しても、後続の連中は同じ試練をクリアしないと通れないのは非常に鬱陶しい。
ちなみにこの仕掛けはダンブルドアの提案だ。ハリーと愉快な仲間を即席レベリングしようという魂胆が見え見えである。しかーし、今のハリーは攻略本ことスネイプ先生が居るので問題ない。
第一の試練は魔法で火を唱えて難なく突破。第二の試練は箒に乗ったハリーが羽を生やした鍵を掴んで難なく突破。
そして唯一数が必要な、第三の試練こと人間チェスのお時間である。クィレルは単独だった筈だが、おそらくはトロールの時の様にモンスターを連れたのだろう。ミンチにされたゴブリンが床に転がっていた。
ルールは至極単純で、通常のチェスと変わらずキングを取れば勝利である。
しかし、魔法界のチェスは駒が言う事を聞いてくれない時がある。ハリーも過去にロンとやったことがあるが、駒が「はぁ!? なんで俺が死ななきゃ行けねーんだよ! そこいらのポーンでも死なせとけよナイト様だぞ俺は!」と盛大に反旗を翻しやがった。
我が身可愛さで他人(他の駒)の死を強制するとは、実に見上げた(見下げたではない)糞野郎っぷりである。ハリーはこのナイトに好感を抱いた。そういう自己中心主義は実にノースティリス冒険者っぽいぞ気に入った。
しかし死ね。拒否権はない。
「ザッケンな! マジざっけんなお前!! いいか! 俺はここで俺が取られたら負けるっつってんだよド素人が! 良いから言うこと聞けよ無駄死にとかしたくねーんだよ分かれよボンクラ!!」
関係ない。行け。
ハリーは暴れまくる駒を強引に掴んで死地に送った。そして当然の如くナイトは死に、ゲームはロンの勝ちで終わった。
その後、ハリーは何度もロンに悔し泣きのウソ泣きで勝負を挑み、毎回ナイトを殺した。どうせゲームセットで収納された後、次のゲームで復活するのだから問題ない。
こういうところも死んで這い上がるイルヴァっぽくて実にハリー好みだったので、飼い主に新品を買って届けたところ、今では我が家(小城)でチェスブームが到来しているが、余談が過ぎたので場面を戻す。
さあ行けロン! 捨て身アタックだ!!
◇
ロンは勇敢だった。彼の死を無駄にしてはならない! 深い悲しみにある我々は涙をこらえ、先に先にと進むのだ! 振り向くな、前だけを見よ!!
「いえ、ハリー。ロンは死んでないし大した怪我じゃないわ。ちょっと失神しているだけだから置いて行くけど」
戦力外になった途端に見捨てるハーマイオニーのドライっぷりは中々にティリス民的畜生さに溢れているが、やはりこれはロンが陰でハーマイオニーをボッチ扱いした為だろう。
なんてひどい奴なんだロン!
見下げ果てたぞロン!
貴様には陰で泣いている可憐な少女の涙が見えないのか! 良くやったちょっと友好度お手軽に稼いでくるぞサンキューロン!
……みたいな過去があったので、それをねちっこく恨んでいるのだろう。勿論ロンはちゃんと後で謝罪したが、なんだかんだ女は恨みと言うものを忘れない生き物なのである。
ちょっと自業自得なロンは、今しばらく床の冷たさを味わっておくがいいさ。
「いや、我が輩の言う通りにしておればパーフェクトゲームだったのを、ロンは天才だから行ける行けると持ち上げたハリーに問題が……いやまぁ、乗せられたミスター・ウィーズリーも自業自得だとは思うがな?」
勿論ハリーは反省している。この通り後悔で涙すら浮かべているとも。
断じてロンの散り様を愉悦全開で見届けていた訳ではないので信じて欲しい。
ハリー君は(取り敢えず今は)嘘つかない。単に間違えてしまっただけなのだ。故意に。