がっぽがっぽにクィレルが貯め込んだ悪銭を四次元ポケットに手当たり次第ぶち込んだハリーと飼い主はほくほく顔だ。
ノースティリスでは主に投資と納税ぐらいしか使い道のない──無くなったともいう──現金であっても、異世界(地球)となればそれこそ使い道は幾らでもあるだろう。
初めての異世界旅行は、飼い主もご満悦でお上りさん気分全開だった。
「マグルの世界はアクリ・テオラより劣るけど、全体的にマニ信者の拠点をグレードダウンした感じだね。利便性で言えばノースティリスより上かな?」
そこはハリーも同意見である。我が家(小城)は快適さ重視で見た目と裏腹に徹底的な近代化というか、この世界で言えば未来化技術が施されているしコンピュータもあるが、一歩外に出ればファンタジー世界なので、衛生面に気を遣う必要のない地球は途上国にでも行かない限り住み心地としては申し分ないのだ。
いやまぁ、街中を歩いていたら突然核が爆発して更地になったり、いきなり背後からモンスターが攻撃してくる世界を基準にすれば、世紀末でヒャッハーな国にでも行かない限りは何処でもパラダイスではあるのだが。
◇
さて。飼い主には存分に地球を楽しんで貰う間、ハリーは一先ず学校に戻ろうと考えていたのだが、飼い主は違った。
こちらの世界ではペットの飼い主ではなく保護者として通しているし、この世界に来たのだから、ちゃんとホグワーツには挨拶に行くと言い出したのである。
正直、この申し出はハリーにとっても驚きである。
ノースティリス冒険者の中でも、ゲロゲロ以下の糞野郎と呼び声高い飼い主にしては、あまりに常識的過ぎたからだ。クィレル&トム君合成で魔法界とマグルの常識もインストール済とはいえ、人格まで変わることは無いから一層強い衝撃を受けた。
友好度がカンストしてLoveMAXな関係だからといって、信用とかその辺が無条件で上がる訳ではない。単に飼い主は何してもOKぐらいの感覚になるだけだ。どっちも部外者からしたら大差ないしいい迷惑だが。
「私は大切なペットより、自分の娯楽を優先するような飼い主と思われていたのかな?」
勿論そんなつもりはないし、そんなペット冥利に尽きる台詞を言われては張り切らない訳には行かない。
ハリーとしてはマグルの街並みを心行くまで楽しんで貰えれば良い程度の気持ちだったが、そうと決まれば善は急げだ。
かくして、ハリーの保護者にして命の恩人こと飼い主がホグワーツにやってくると知れ渡り、ホグワーツだけでなく魔法界も揺れた。
ハリーの口だけでなく、スネイプからも人格的に問題はないだろうと証言を受けているものの、魔法界の宝である『生き残った男の子』を誰の目にも届かぬ場所に、言い方は悪いが保護という名の拉致をしていた訳であるし(しかもメス堕ち調教済みだ)、住所不定で実力未知数(ただし話に聞く限りでもヤバそう)な存在がやってくるというのだから、誰だって警戒する。
断っておくと魔法界も別に飼い主と敵対したい訳ではないし、いざという時には対ヴォルデモート用の戦力として加えたいという思惑もある。少なくともダンブルドアはそのつもりだ。
実力の如何に拘わらず、飼い主を不死鳥の騎士団の一員として正式にスカウトしたい。そうすればハリーに心理的な首輪をつけることも可能だからだ。
大いなる善の為に小さな悪を為すとか、汚名を被る覚悟とか言い繕うと何か格好よく聞こえるもんだが、控えめに言ってもダンブルドアの思惑はノーマルティリス民レベルのゲスさである。
しかし、どれだけ皮算用を重ねるにしてもまず飼い主の人格を見ねば始まらない。ホグワーツには組み分け帽子という便利アイテムはあるが、あれはダンブルドアが三分の二ほど焼いて修復中なので使えないし、使ったところでトム君みたいにアズカバンを切り抜けられる可能性もあるから却下だ。
あれは適性を見ることが出来るだけであって、人格判断は期待できないクソ帽子なのだ。何より、スネイプの情報から察するにハリーの保護者が閉心術を使えない可能性は低い。
開心術で頭を覗こうにも相手の実力が未知数だし、仮に覗けるとしても頭の中なぞ誰だとて見られらたくはないだろう。犯罪者ならともかく、保護者にそれをする法的権限もなければ信頼関係を築く上でも避けたい手段だ。
よって、ハリーの保護者の人となりを見るという仕事を一任という名で魔法省から丸投げされたダンブルドアは大いに悩みつつも、最終的には仕事を果たすのだった。
◇
保護者面談……といえば聞こえはいいが、裁判所に立たされる被告人のような空気だとスネイプは感じた。空き教室の中央に置かれている★みぞの鏡。
その左右に居並ぶ、スネイプを含む実力確かな教師にダンブルドア。如何に相手を見定めるためとはいえ、これはないだろうというのが正直な感想だ。
マグルの一家からの虐待から守ってくれた恩人に対しては、余りな仕打ちとさえ思う。
……というのは、事情を知らない善人なスネイプだから感じるのであって、飼い主と一緒にやってきたハリーにとってはナチュラルに残当でもなく当然の措置だと感じた。
ゲロゲロ以下の飼い主相手ならこれぐらいは当然である。
ペットの贔屓目で見れば自分の飼い主にこんな仕打ちをするなんて! と、憤るべきではと思うかもしれないが、直接害されている訳でもなければ飼い主の人格のマジキチっぷりも承知しているので別に何とも思わない。
髪の毛一本でも傷つけるような敵意でも持っているのなら即座に問答無用でミンチにするが、この程度で怒り狂うほどハリーも狭量ではないのだ。
それよりも問題なのは★みぞの鏡である。ハリーとしても、本音を言えば飼い主の本心を覗けるというのは興味がある……あるのだが、あれが包み隠さず願望を映してしまうのが不味い。何しろ今回は、直接映した人間だけでなく周囲にも見えるという特別仕様だ。
飼い主が鏡の前に立った瞬間、酒池肉林でロリショタ大ハーレム! そこには変態衣装で鏡に映るハリー君ちゃんのあられのない姿も!!
……なんてことになった日にはアズカバン不可避である。頼むから地球のあちこちをペットの皆と楽しく過ごしている程度の結果になって欲しいと切に願う。
が……。
「…………」
一秒、二秒、飼い主は無言になり、やがて小さく息を吐いた。
「聞いてはいたけど、なんとも悪趣味なものだね、これは」
周囲の教師もダンブルドアも、鏡に映る者たちを知らない。ハリーに問うても、ハリー自身鏡に映っている人たちで面識があるのは一部だけだし、その一部にしても飼い主の知り合い程度にしか知りようがないので答えに窮する。だが。
「この王様、パルミアの?」
一人、面識こそないが知っている人物がいた。王宮内の一角にあった肖像画の人物。聡明な王だと国民の皆が口を揃えた、ジャビ王がスターシャ王妃と共に微笑んでいる。
そして、飼い主は答えた。この鏡には、もう出会えない人達が、埋まってしまった人々が残された人達と笑顔で映っているのだと。
暗殺されてしまった聡明な王が。恋人と添い遂げられずネフィアに魂を縛られた男が。そして、燃え盛る森の中、己の命を顧みず元凶たる男を助けた、美しい青髪のエレアが。
彼ら彼女らが、生きている。誰もがノースティリスで笑い、日常を謳歌し、飼い主は皆と交友を育んでいる。
「……私が拾えなかったもの。どれだけの力を、知識を得ても取り戻せないもの。そうした全てがここに映っている。自分の無力さを、今でも痛感するよ」
もしも今の自分が、あの頃に居たのなら。自分を助けてくれた、エレアの二人組に付いて行っていれば。もっと早く、王都についていたのなら。
いいや、それを言うのならば……もっともっと昔。軍人になったときに……。
「告白するよ、ハリー。これが私だ。人でなしの廃人、ノースティリス最強などと余人が謳おうと、これが私という人間なんだ」
犠牲となった者。奪われた者を、本当の意味で誰かが終わってしまう事を悔い続けてしまう。何処までも細く、弱く、折れやすく、だからこそこれほどまでに強くなり、同時に壊れてしまった存在。
それこそが、飼い主という冒険者の真実なのだ。
「だから、僕を助けたんだね」
もう二度と、失わないように。
「そして、だからこそヴォルデモートを許さなかったのだよ」
理不尽に終わらせる者を、のさばらせはしない為に。
「じゃあさ。昔話してた、イエル王国のことも?」
「ああ、嘘八百だ」
飼い主は冒険者だった訳ではない。最初から貴族で、軍人だった。
リドリーと手を組んだのではない。初めから彼女を玉座に据える為に暗躍していた。ただし。表向きは元老院の駒として。
「元老院は、新たな女王を危険視していた。影武者を立て、殿下であった頃のリドリーを殺めようとした」
だから、それを逆手に取った。影武者と姫を入れ替えて見せ、頃合いを見て元老院を粛清して見せた。そこまでは、飼い主の人生は順風満帆だった。
「問題は……私はあの子を、影武者を終わらせなかったことだ」
ただ殺すのではなく、終わらせる。ジャビ王を暗殺者が埋めたように、方法こそ限られるが、完全に『終わらせる手段』は確かに存在する。★遺伝子複合機などは、その代表例と言えるだろう。
「外道は終わらせてみせた。元老院もそうだった。だが、あの子だけは駄目だった」
何故ならその子は外道でも悪でもなく、一人の被害者だったから。
そして、飼い主は獄に繋がれた。スキルも、主能力も、全てを人並み以下にされた上で、完全に埋めるという最も重い刑を、影武者を逃がしたという罪で受ける事となった。
「本来なら、そこで終わる筈だったのだがね」
「ああ、成程」
噓に混じった本当。飼い主を助けたペットの少女こそが影武者であり、飼い主はそうしてノースティリスにやってきた。
これが真実だと言うのなら、ペドフィリアの道化を演じる飼い主を、クミロミがあのような顔で見ていたのも頷ける。
「これが全てで、これが終わり。そして、冒険者としての始まりだ」
イエル王国の軍人から、ノースティリスの冒険者になった本当の経緯。
それを終えてから、飼い主は静かに息を零した。
「それで、感想は?」
「うーん。正直、こんな突発的にシリアスな展開にされても困ると言うか、もう少し砕けて貰った方が好みなんですけど?」
「包み隠さず白状した感想がそれかい?」
口にするには重い過去だったのだがなぁと飼い主は軽く肩を竦め、次いでハリーを見やる。
「まぁ、特に思うところが無ければいいさ。どれだけ強くなろうが、過去には戻れない。やり直しなぞ望むべくもない以上、私は手の届く範囲で守りたいものを守るだけだからね」
それが、飼い主が埋まらない理由。終わりを求めない本当の理由なのだと。そこまで語ってから、傍目に二人のやり取りを見守っていた教師を代表してダンブルドアが前に進む。
「許されぬ不作法とは承知しておるよ。罵りも罰も、貴方が望む限り甘んじて受ける」
おい良いのかジジイ? シリアスモードだったからマトモに見えただけで、この飼い主はマジでサンドバッグに吊るす奴だぞ?
と、ハリーは思ったが口にはしない。飼い主の意向は最大限尊重するし、別に身を挺して守ってやるほどダンブルドアとの友好度も高くないのだ。元が合成素材程度にしか見ていなかった存在なので残当でもなく当然である。
「その上で、伏してお願いしたい。闇の魔法使いに対抗すべく、貴方の力をお借りできるじゃろうか?」
“割と本気で図々しくね、それ?”
これにはハリーも苦笑いを通り越して渋面である。なんか怪しいから集団で囲んで精神鑑定した後で、大丈夫そうだから手のひら電動ドリルした挙句に「戦力になってね♪」とかパルミア王宮に土足で上がり込んだ挙句、金も払わずふてぶてしく王様のベッドに大の字で熟睡しちゃう冒険者並みの図太さだ。
あれ? そう考えると別に普通じゃね? と思ってしまうのは冒険者の倫理観なので当てにならない。普通に考えたら「味噌汁で顔洗って出直せや糞ボケェ!」ってレベルの案件だ。それに対する飼い主はというと。
「闇祓い局の採用試験なら受ける予定だったから、そのついでで良いなら構わないよ?」
あっさり了承であった。というか、ハリーもこの提案には驚きだ。飼い主が冒険者以外の職に就くとか本気かと。しかしだ。
「いや、流石に定職にも就かずに保護者は名乗れんでしょ?」
割と真剣に真っ当な返答であった。確かにノースティリスでは伝説級の冒険者であっても、この世界に冒険者という職業もないのだから他の職業で社会的地位を確立するしかない。
ならず者を日常的に相手にする闇祓い局なら、確かに飼い主には一番合っているだろう。
そんな訳で。
◇
「Hey! 闇祓い局の出張デリバリー☆サービスでっす! おらっ! 非合法なブツとお前らの命を今すぐ差し出すんだよあくしろよ!!」
まあ、こうなるな。
どんだけ厳重な魔法でアジトを隠そうが、どんだけ用心棒揃えてようがノースティリスの廃人には無意味である。
検挙率九〇パーセント(物理)+検挙中の不幸な事故一〇パーセント(合成素材用の為、故意)の計一〇〇パーセントで犯罪者の撲滅キャンペーンを執行する期待の新人にて狂人。飼い主は毎日が絶好調である。
ついでに何かヤバそうで珍しいマジックアイテムもちゃっかり四次元ポケットに着服しているので毎日がとっても楽しそうである。
この汚物の消毒っぷりにはハリーだけでなく、友好的握手と殺人未遂の区別も付かなくなった元一流の闇祓い、マッド‐アイ・ムーディもご満悦だ。
アズカバンがパンクして刑務員が別の意味でプリズン入りしたが、そんなものは治安回復の実績の前には無意味である。
要するにだ。
「このあと滅茶苦茶原作RTAした」
「ごめん、ハリー。貴方の言ってる意味が分からないわ」
なんか電波を受信したハリーに、ハーマイオニーは冷静に突っ込んだ。
一先ずこれにて完結です。ご愛読、ありがとうございました!