そんな訳で3話です。
※赤頭巾さま、誤字報告ありがとうございました!
ダーズリー家を居候という名の根城にしつつ、養父母をパシリに世界中の高級酒を飼い主へのお土産に買い漁らせること約一年。ようやく一一歳の誕生日、七月三一日まで残すところ一月を切ったハリーは、未成年にも拘らずウィスキーに舌鼓なんぞ打ちつつ、外が雷雨である事を良いことにじっくりと『詠唱』の学習書を読んでいた。
“この酒はまずまずっと”
ノースティリスはメシェーラとエーテルのダブルパンチによってあらゆる物質が汚染されており──ただしエーテルは本来、人体にとって有害な物質ではない──新鮮・清潔な水も貴重なので飲料のレベルもお察しなのだが、地球では非常に美味しいお酒が手に入るし、綺麗な水もミネラルウォーターがスーパーで買い放題だ。
いやまぁ、祝福された水なんぞ飼い主は腐るほど持っているのだが、それが嗜好品の製造にまで回るかと言われれば話は別なのだ。
イルヴァにおいて財も世界最高の飼い主ですら、祝福水で作った自家製アルコールは年に一度、ノイエルの聖夜祭にペットや親しい者たちにグラス一杯分振舞う程度だと言えば、如何に貴重かが分かろうと言うものである。(但し、振舞う人数は凄まじい模様)
というか、あの水質で物凄く美味しいカクテルを作ってくれた我が家(小城)のバーテンダーさん(勿論ロリ)の腕は本当に凄まじかったんだなとハリーは改めて尊敬の念を抱きつつ、恩人にして夫でもある飼い主の為に高級酒から更に選別を重ね、養母を顎で使って買い溜め用のリストにチェックなんぞ入れさせている。
勿論バーテンダーさんの為のカクテル用のお酒もセットでだ。
自分でやれ? ははっ、ナイスジョーク。ダーズリー一家とかいう乞食にも劣る奴隷にやらせときゃあ良いんだよジャパンには『立ってる者は親でも使え』という愉快で素敵なことわざがあるそうじゃないか階級社会万歳!
但しハリーと飼い主が支配者で居る場合に限る。そこは外せない。
「それはそれとして、効率悪いなこれ」
ダーズリー家をパシリにすることが、ではない。奴らは死んでからたっぷり休暇を得られるのだから生きている間は馬車馬の如く働けばいいのだ。
効率が悪いのはハリーのスキルの上昇値である。まこと不本意ながら、一時的にとはいえ愛しい飼い主のペットでなく冒険者として独立してしまっているハリーには、飼い主と同じやり方でしかスキルを上げられない。
そして、筋力や耐久といった主能力はハーブを食べる事で潜在能力が上がるが、スキルや特殊能力に関してはこの潜在レベルが悲惨なことになっていた。
具体的には、潜在レベルの殆どが一%になってしまったのである。潜在レベルが悲惨だと、スキル上げの効率が悪くなる。それはもう凄まじいレベルで。
スキルレベルを一上げるのに一〇回訓練すれば良いのと、一〇〇〇回近く訓練する必要があるのとでは、効率が雲泥の差なのは誰だって分かるだろう。
ノースティリスでは各街にいるトレイナーに頼めば効率的な訓練を教えて貰って潜在レベルを上げられるが、地球ではそんな便利な御仁は居ないし、対価のプラチナ硬貨自体ハリーは持っていない。
よって、今日のように学習書をじっくり使って能力を高められる日はラッキーデイなのだ。
★ルルウィ像なる天候を操作する神像の固定アーティファクトもあるが、あれは飼い主がハーブ園で定期的に使用するので持ってこれなかった。
一応、固定アーティファクトを二重に取得する手段として、ノースティリスでも旧文明の科学を駆使して地球以上の科学力で生活している
まあ、いざとなればノースティリスに
取り敢えず雷雨が終わったら、シェルターの壁という壁を己の四肢で掘り進めよう最凶死刑囚宜しく。
◇
そして火曜、ハリー・ポッター一一歳の誕生日。小鳥囀る清々しい朝っぱら、ダーズリー家のドアは吹き飛んだ。
使いもしない邪魔なドアを体当たりで破壊するのは、ノースティリスでも見慣れた光景であるのでハリーは動じない。ダーズリー一家は泡を吹いていたが。
「お茶でも淹れてくれんかね? いやはや、ドアノッカーもないのは困るぞ」
インターホンも知らない野蛮人の大男は、土足で他人の家に侵入した挙句に図々しくもお茶なんぞ要求してきやがった。そういう
取り敢えず筆頭ペットにして我らがリーダー、少女ちゃんのエーテル大鎌が唸ること請け合いだ。一秒以下で大男の首が首狩り発動の憂き目に遭うだろう。
ハリーの脳裏に我が家(小城)の襲撃者になった場合の大男の末路がトレースされたが、すぐに意識を戻して養母に茶の準備をさせるべく指を鳴ら……そうとして止めた。そして飼い主以外にはしたくもないが……本当に不本意だし嫌だが、手ずから最高級の茶葉で淹れてやる。
我が家(小城)における勤続年数三桁中盤、お掃除から夜のご奉仕まで何でもござれなパーフェクトメイド、ガーンナちゃん(当然ロリで飼い主とも結婚済み)──というか我が家に居て飼い主と結婚していないのは、エイリアンと弱酸性スライムだけだ──に比べれば格段に味は劣るが、それでもこの紅茶には自信が……野郎!? 砂糖とミルクをドッバドバ入れやがったぶっ殺すぞ!!
飼い主以外に丹精込めて淹れた紅茶に対し、最大級の冒涜行為に及んだ大男、その名をハグリッド。
闇の帝王(笑)なトム君がホグワーツに在学中、ホグワーツ創設者の一人、スリザリンが自分の将来の後継者の為に残した『秘密の部屋』を開けた際、中に居たバジリスクを見てしまった──正確には分霊箱を作る為の生贄欲しさに、トム君がバジリスクをけしかけた──女学生マートルちゃんがお亡くなりになってしまい、マートルちゃんが死んだ濡れ衣を闇の帝王(笑)に着せられてホグワーツを退学させられた、トム君被害者の会の一人であることをハリーはトム君の記憶から知っていた。
本当にトム君は帝王自称してた癖にやる事がせこい奴である。そもそも分霊箱を作ったのも、ダンブルドアに目ぇ付けられて危機感を覚えたのが理由な辺りマジでチキンだ。
帝王を自称して世界の半分を支配しようと言うのなら、引かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! の精神で行くべきだ。どんなに強大な相手だろうと、たとえ力及ばぬ相手だろうと、己を錬磨しのし上がればいい。
それを裏でこそこそと策を練って、陰でちまちまやるとか低俗で陰湿にも程がある。
帝王とは、頂点とは、ただ一人にのみ許された絶対強者の称号!
たとえ敗れ滅びたとしても、最後は高笑いで舞台から去るべきだろうに、ラスボス気取っておきながら未練がましく生にしがみつくとか、クソデカ溜め息ものだ……あのさぁ。
さて、ちょっと熱くなって脱線したが、ハリーが手ずからお茶を淹れたのも、そんな溜め息しか出ないヴォルデモートとかいう小物のせいで人生を台無しにされた被害者仲間という部分にシンパシーを感じてだったと言うのに、これはあんまりな所業である。
次から奴への茶は雑巾玉露にしてくれると腹の中に怒りを仕舞いつつ、ボウボウモジャモジャで毛むくじゃらの乞食めいた身なりの大男に、ハリーはこれ以上なくフレンドリーに接した。演技で。
「ホグワーツの関係者さんですか!? お会いできて光栄です!」
「ハリー! 赤ん坊の時に会って以来だが、父さんに似たなあ! 瞳は母さん似で綺麗なもんだ!」
ありがとう。瞳は飼い主にも絶賛されたチャームポイントだ。しかしお前が言うな気持ち悪い。あと、もう少し丁寧に服洗え。臭いぞ。
「それで、僕は本当に御伽噺のような世界の学校に通えるんですか!?」
この年頃の子供らしい、キラキラとした瞳をアッピルしつつ渾身迫真の無邪気さに、身振り手振りなんぞ加えて可愛らしくしてみる。飼い主以外に愛想を、しかも好みからとことん外れた小汚い大男にするなんぞゲロゲロ吐きそうになるが、これも世渡りの為である。
社会性は大事だ。力こそジャスティスにして絶対。弱者に人権なんぞねえと唾吐かれることデフォルトな魔境ノースティリスでも、それぐらいの常識はある。時と場合によっては、すぐにドブに捨てるか棚上げされる程度のペラッペラな常識だが。
「まぁ、そう慌てなさんな。それと、まずは誕生日おめでとう」
そう言って差し出されるのは、緑の砂糖で『誕生日おめでとう』とデコレーションされたチョコレートケーキである。
尻に箱ごと突っ込んであったのはマイナスだが、地球では初めての誕生日プレゼントなだけに嬉しかった。雑巾玉露は勘弁してやるし、紅茶も水に流そうじゃあないか。
まあソファにでも座ってくれたまえ。紅茶のおかわりは如何かな? 何? アルコールをご所望? 宜しいですとも! 飼い主へのお土産からは外れましたが、高級酒には変わりませんので浴びるほど飲んでください!
おい! 何ぼけっとしていやがる下僕共! この見るからに紳士で素敵なお客様に最高のお持て成しをするんだよ!
ハグリッドさんが乞食みたいに薄汚くて臭いだと!? なんてこと言いやがるサンドバッグに吊るすぞ失礼な奴らめ! 恥を知れ恥を! 人として最低だぞ貴様ら!
ハリー・ポッター、本日満を持して一一歳。子供らしい純粋さはノースティリスのドブに捨てた模様。
◇
プレゼント補正は偉大である。飼い主がバーベキューセットで──ノースティリスでは珍しくない調理器具だ──作ってくれたクレープフルーツケーキとは月と生ごみほどの開きがあるが、それでも決して不味くはない。というか美味しい。
流石に一人でワンホール食べる訳には行かないし──ダイエットと美容は飼い主の為に欠かせない──こういうのは親しい人と一緒に食べるものなので、ハグリッドと二人で仲良く食べた。ダーズリー一家? 裏路地で生ごみでも漁ってろよ畜生豚が。
さて、とケーキと紅茶で人心地つけた後に、ハグリッドが本題に入った。
ケーキを食べながらの会話で、ハグリッドはホグワーツの鍵と領地を守る番人であり──要するに(トム君のせいで)まともな職に就けなくて、お情けで用務員になった落伍者だとハリーは理解した──魔法学校に入学する上でのハリーの案内人だと言うことらしい。
「しかし、お前さんが行方不明になったと知ったときの魔法界は揺れに揺れたもんだ。どうやって戻って来れたんだ? 魔法界の連中も調べたらしいんだが、全く分からんかったそうでな。俺がここに来たのも、直接事情を聞いて欲しいとダンブルドア先生から頼まれての事なんだよ」
一応の筋書きでは、ハリーは記憶喪失で意識も朦朧としており、病院で救急搬送された後に記憶喪失と診断されて今に至ると言うのがこの世界でのストーリーなのだが、ハグリッドは信用していない。
いや、闇の魔法使いに記憶を消された可能性はあるかもしれないが、無事に戻って来れた理由が分からないという。
「その……、誰にも言わないって約束してくれますか?」
そして、ヴォルデモートの記憶と知識からハグリッドを信用して、ハリーは部分的に打ち明けた。ダーズリー家の虐待。額の傷の反応。そして庇護者にして保護者になってくれた、飼い主こと良い魔法使い(仮称)のお世話になった事などである。
(正義の魔法使いとは言わなかった。口に出そうものならハリーでも爆笑必至だからだ)
流石に飼い主のペットになって(『されて』とも言う)結婚した事や、スライムやエイリアンにぐっちょんぐっちょんでメス堕ちアヘ顔ダブルピースで淫語全開なエロエロ展開は語らなかったが。
「なんだとっ!?」
そして、虐待の事実を知ったハグリッドは当然の如く怒り狂い、ダーズリー家を震え上がらせ──とはいえ、最早ダーズリー一家には恐怖さえハリーの許可なく出来ないのだが──同時にハリーに深く謝罪した。
ハリーをターズリー家に預けたのは、そうしなければ母親の加護が消えてしまうからで、ダンブルドアからも説得されて、仕方なくこの一家に養子として預けたこと。
そして、ダンブルドアが養父母に宛てた手紙の……待て。
「手紙って?」
ハリー・ポッター一一歳、その日、少年はダーズリー一家許すまじ慈悲はないと決意を新たにするのであった。
◇
ダンブルドアが残した手紙の内容は、ハリーは魔法使いの子供で将来はホグワーツに入れさせること。それまでに必要最低限の魔法界の常識と知識をハリーに持たせて、出来る限り魔法界に馴染めるようにすること。両親を殺めたヴォルデモートのことなどである。
“うん、知ってても知らなくても大して意味なかった”
大体トム君の知識の範疇を超えなかった。というか両親のプライベート以外ほぼ蛇足であった。ただ、魔法界でヴォルデモートは死亡説と生存説の両方があるというのは良い情報だ。
ハリーを仕留め損ねたヴォルデモートは消えた。『生き残った男の子』と魔法界で持て囃されたハリーは『名前を言ってはいけないあの人』『例のあの人』と名を口にするのも恐ろしいと恐怖されたヴォルデモートを倒した存在として英雄視されたそうだ。
そして、そのままヴォルデモートが死んでいて欲しいと願う者は多いらしい。ハグリッド自身は、ヴォルデモートはハリーにやられて弱っていて、再起を図っているのだろうと考えている。
正解だよハグリッド! とハリーは拍手喝采したくなった。
それはそれとして、ヴォルデモートことトム君は殺す。絶対に殺す。奴の分霊箱は既に知っているから、見つけ次第ぶっ壊す。奴の手下となった連中も血祭りにあげるのだと、トム君の記憶を元に『粛清リスト』ことリアル・デスノートに名前を書き記しているから、今から赤線で一人一人名前を消していくのが楽しみで仕方がない。
そして闇の帝王(笑)が、如何に残念なチキンだったかをハリーは本に纏めて執筆するという愉快な将来設計があるのだ。
タイトルは『トム・チキン・リドル(ヴォルデモート卿)の惨めな半生』である。奴は将来、一歳のベイビーに負けた糞雑魚カタツムリとして、『名前を出すのも恥ずかしいあの人』として永久に歴史に名前を刻んでやるのだ。
まあ、そんなそう遠くはならないだろうとハリーが確信している愉快な未来はさておき。今は我が身の事だと意識を切り替えた。
「ハリー、お前さんを保護してくれたのは、性悪のダーズリーと違って良い人だったんだろうな。できりゃあ、俺が会ってお礼を言いたいんだが……」
「……僕が言っている事が、全部は信用できないのは、分かります。そんな人なら、どうして姿を見せてくれないんだって、ハグリッドは思ってるんでしょ?」
少しばかり責めるように言う。恩人を疑われた少年らしい口調に、ハグリッドはばつが悪そうにした。チョロイぜ。
「でも、それには深い訳があるんです……その人、凄い魔法使いだけど、まだ誰にも治せない難病にかかってて……人前には、病気が治るまで出て来れないんです」
これは嘘ではない。気の遠くなるような遥か古代、メシェーラという病原体がイルヴァに充溢し、イルヴァは自浄作用としてそれに抗う物質『エーテル』を産んだが、メシェーラに適合して
飼い主がこの世界に来るには、ハリーがそうしたようにこの世界の人間を★遺伝子複合機に入れて、飼い主の身体に抗体を作る必要がある。
まあ、あの飼い主なら病原体で地獄の苦しみを味わったところでこっちの世界でも一月は余裕で耐えるだろうし、回復魔法と組み合わせれば数年は余裕だと思うのだが、兎にも角にも素体は必要だ。
そして、その素体の目星も決めてある。言っておくが、ダーズリー一家や分霊箱に入って肉体を失っているヴォルデモートではない。
曲がりなりにも飼い主の血肉となるなら、それに相応しい奴でなくてはならない。つまり。
“おめーだよダンブルドア! もう老い先短そうだし、十分生きただろ我が飼い主の血肉となるんだよぉ!”
ハリー・ポッターは、魔法界最高の魔法使いをモルモット兼生贄にすべく、ホグワーツ入学を誓っているのだった。
ちなみにプランとしては、ダンブルドアが寿命で死んだ後に復活の書で蘇らせ、世間の目を欺きつつイルヴァに拉致。そのまま有無を言わさず飼い主の素体にするという畜生の中の畜生プランであった。
ただし、ハリーも鬼ではない(鬼以上におぞましいナニカではあるが)。善良な老人を苦しませるのは本意ではないから、拉致するときはきっちり眠らせて(気絶させるとも言う)苦しみなく血肉となって貰おう。
ノースティリスではこれ以上ないレベルで慈悲深い処遇だ! 地球では外道街道をロケットブースターで全力疾走するレベルの畜生行為だが。
勿論、目の前のハグリッドはそんなヴォルデモートですら「まじかよ」と漏らすような邪悪極まる計画など知る由もない。彼は今、ハリーを性的に食ってメスにした最低糞野郎の、不治の病という境遇に涙など浮かべていた。これにはハリーも思わず苦笑い。
「そうだったんか……ハリーは、そんな病人の近くに居ても大丈夫だったのか?」
「はい、僕も最初は移っちゃったんですけど、すぐに治ったんです。僕が何年も
嘘の涙をハンケチで拭う。子役俳優なら数多の賞を受賞できそうな役者っぷりである。ハグリッドがチョロイのもあるが。
「そうか。じゃあ、めい一杯学校を楽しまんとな。恩人の為にもなる」
“いいこと言うじゃないか感動的だよ。ナポレオンをもう一瓶やろう”
ハリーは上機嫌でドボドボ酒を注ぎ、今後の事を話し合った。取り敢えず今から、入学に必要な物を買うために両親の遺産の幾らかを銀行から降ろすらしい。
ヴォルデモートの記憶と知識を漁りながら、ハリーは必要な道具を頭の中で反芻していった。