僕の飼い主はティリス民!   作:c.m.

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※2024/12/16誤字修正。
※sk005499さま、赤頭巾さま、誤字報告ありがとうございました!


04 ころしてでもうばいとる!(ここはノースティリスではない)

(一日限定の)保護者ハグリッド引率の下、ロンドンを訪れたハリーは入学にあたって必要な物を買い揃えることとした。

 ハグリッドにとって見ればハリーは魔法界のことなど保護してくれた『良い魔法使い』からの知識しかない筈なので心配していたが、ハリーが魔法界の知識にも明るい事を知ると、「本当に良い保護者さんだったんだな」と飼い主を褒めたので、ハリーは上機嫌になった。

 実際の所、飼い主は良い人どころか最低かつ屑な糞野郎だし、知識はトム君の物を使っているだけなのだが。

 

 ただ、ハリーを見るなり魔法界の誰も彼もがハリーを英雄視し「敬意を表する」だの「光栄だ」だのと賛辞を述べるのは正直辟易した。真実を知るハリーからすれば自分は守られたに過ぎず、真に勇敢だったのは両親なのだが、彼らはそれを知らないのである。

 いっそ声高に主張出来れば良かったが、それをするには全てが終わって──トム君とトム君の愉快な下僕共を、この地球から滅するまでとも言う──からだ。

 それまでは苦笑い愛想笑いで誤魔化して謙遜し、謙虚で慎ましく心優しい好少年で生きていくのが最も有益だと自分を納得させ、人々にもみくちゃにされながら魔法界唯一の銀行『グリンゴッツ』に到着。

 

 まずはハリーの両親の遺産から幾ばくかの金銭を降ろす事になったが、トロッコの先にあった金・銀・銅貨の山に目が眩む……訳がない。

 はっきり言ってしょぼい。飼い主が『収穫の魔法』を使った際などは、天から凄まじい勢いの金貨が振り注ぎ、初めてその光景を目の当たりにしたハリーは面白がった飼い主のゴーサインの下、金貨の海をコメディアニメみたいに泳いだものである。

 まあ、延々と収穫の魔法を唱え続けては直接契約している我が家の魔法店やブラックマーケットに投資しまくるのは飼い主のルーチンワークなので、すぐに飽きてしまったが。

 

 そういえば、この世界で収穫の魔法を使った場合どうなるのだろう? と、ハリーは思った。紙幣が振る訳もあるまいし、イギリスの金貨など降ってきても換金に困るからと唱えなかったが、一応実験用に何冊か収穫の魔法書は貰っているし、魔法のストック自体もある。

 思い立ったら吉日とばかりに、帰ったら唱えるのも良いだろう。尤も、ハリーは収穫の魔法レベルを全く鍛えていないので、金貨が降ってきても高が知れているだろうが。

 

「次は俺の野暮用だ。七一三番金庫に案内してくれ」

 

 ハグリッドがそう言うと、トロッコは目的地に着いた。金庫の中は小さな袋に入ったまま安置されている小石大の代物。当然ハリーは躊躇なく懐に忍ばせていた*鑑定*の巻物を使用する。

 

『それは★賢者の石だと完全に判明した』

 

 ワーオ! まさかの固定アーティファクトである。ハリーは内心ガッツポーズを上げ、同時に惜しいとも思った。

 ここがノースティリスであれば、ハグリッドを躊躇なくぶっ殺して懐に入れていただろう。親しかろうが魂の友だろうが関係ない。同業の冒険者が欲しい固定アーティファクトを持っていて、交換出来なければ殺して奪うのがノースティリスの常識(やりかた)だ。

 正面からぶっ殺せるなら問題なし。それでも駄目なら呪い酒で拒食症に追い込んでゲロゲロ塗れにして殺す。ハリーが直接戦闘で勝てない相手を見越して、四次元ポケットには五〇〇本近い呪われたウィスキーがある。

 まあ、ハグリッド相手なら呪い酒の出る幕はないが、第一にしてここは無法地帯(ノースティリス)ではない。よって、大変惜しいがハリーは★賢者の石を見送った。

 

 飼い主と仲良く地球を旅する計画を、たかが固定アーティファクト一つの為に()()にするのも馬鹿らしい。時間なら無限に有るのだから、機会が来たときに強奪すればいいのだ。

 

 

     ◇

 

 

 ローブ良し、三角帽子良し、ドラゴンの革手袋良しと、とにかく必要最低限の品を買い揃え、最後に『紀元前三八二年創業 高級杖メーカー』と大仰に書かれたみすぼらしく小さい店に入った。

 ハリーを見るや老人は笑顔になり、ハリーの母がこの店で杖を買った時のことを話してくれたので、ハリーは上機嫌になりつつ老人の事も心の中でランクアップした。

 だが、ハリーは老人が杖を選ぶ前から自分の杖を決めていた。この店の杖には一つとして同じものなどないとヴォルデモートの記憶と知識から知っている。

 しかし、同じ素材で作られたものは存在し、それが最も自分に合うだろうともハリーはヴォルデモートの知識から読み取り、推察していた。

 

「お爺様。三四センチのイチイの木、不死鳥の尾羽根で作られた杖の、兄弟杖はありませんか?」

 

 ハリーの問いかけに老人は目を見開いた。これまでの商売でも杖腕(利き腕)の長さを図らせもせず要求してきた馬鹿は何人かはいたが、よりによってその杖をハリーが選んだことそのものの意味を察してしまったから。

 

「それを選ぶということは、兄弟杖を買った人の事もご存知なのでしょう……ですが、杖は使い手を選びます」

 

 馴染むかどうかの保証はない。いや、いっそ馴染まないほうが良いという老人の目論見は、ハリーが杖をその手に握った途端、露と消えた。

 体内のマナが循環し、よどみなく全身を駆け巡り、それが大気に溶けて放出される。長年連れ添った『生きている武器』を手にした時のような感覚が、今のハリーにはあった。

 

“まあこんなものか”

 

 ハリーとしても、老人と同じく推察が外れて欲しかった。両親の仇であり、大仰な異名を自称した小悪党の兄弟杖が自分に合うなどと考えたくもなかったが……残念ながら、推察の上ではこれが一番なのだと知ってしまっただけに、結果を受け入れるしかない。

 

「ヒイラギ、二八センチ、不死鳥の尾羽根……例のあの人の兄弟杖」

 

 ハグリッドは目を剥き、その杖をすぐに離して他を買えと訴えたが、ハリーは拒否した。これが一番合ってしまうのが不本意なのはハリーとて承知の上である。

 承知の上で、これを買うと決めたのだ。

 

「ハグリッド、僕は誓う──例のあの人が生きているなら」

 

 ──僕が、今度こそ奴を討とう、と。

 

 

     ◇

 

 

 かくして準備は整った。ホグワーツへは九と四分の三番線に乗って行くそうだが、その間の一月、ハリーはダーズリー家で再び過ごし、そこに建設したシェルターで収穫の魔法の実験もした。

 どうやら貨幣に関しては本人が必要とするものが降ってくるようで、イギリスの貨幣を願えばソブリン金貨が。

 魔法界の貨幣を願えばガリオン金貨やシックル銀貨が降ってきた。しかし、レベルが低いので金額は微々たる物であったし、飼い主が詠唱した時のようにプラチナ硬貨や★小さなメダルが降って来ることもなかった。実に残念である。

 この世界ではどちらも使い道などないが。

 

 実験そのものは成否さえ分かれば良かったし、ハリーもその点は満足している。仮に飼い主がこの世界で収穫の魔法を本気装備で使った際は貨幣制度が崩壊しそうだが、そんな事を気にするようではならず者を体現する冒険者はやって行けない。

 欲しければ奪う。邪魔者はぶっ殺す。

 冒険者共通のモットーは、『自分さえ良ければそれで良し』なのだ。

 うん、実に最低である。

 

 ハリーは運転手を勤めた養父の車から降り、キングズ・クロス駅の九と四分の三番線を目指す。暫く……というか、今後ダーズリー家に関してはノースティリスとの行き来にぐらいしか使わないだろう。

 よって彼らとは縁を切り、ここで開放してやる……訳がない。ハリーが不在中だろうと、ダーズリー一家にはハリーと飼い主の為に休まず馬車馬の如く働いて金を貯めて貰わねばならないのだから。

 

“さて、トム君の記憶だとこの辺り……うわ、分かりやす”

 

 ハリーが左手薬指にはめている結婚指輪には──ハリーに見せびらかす趣味はないので普段はこの上に薄手の手袋をしているし、魔法使いに見つかると不味いので、ホグワーツでは外す予定だ──『透明な存在を見ることを可能にする』エンチャントが付与されているが、どうやらこれが本来の用途とは異なった働きをしているようだ。

 指輪のエンチャントが、プラットホームの『一〇』と『九』の境目にある九と四分の三番線の入り口を目視させてしまっていた。

 

 便利な道具も考えものだと思いつつ、ハリーは感動も驚きもないままそこを潜り、列車に乗り込んだ。幸いにして後ろの車両は席が空いており、ハリーはゆっくりと腰を据えることが出来たが、すぐに自分と同じ新入生らしき少年がコンパートメントの戸を開けた。

 

「ここ空いてる? 何処も一杯でさ」

「勿論」

 

 ハリーは優し気な笑顔で返した。友好的なコミュニケーションを取るのは得はあっても損はないという打算からだ。相手もまた如何にも善良そうであるし、そういう手合いと明るく振舞うのは周囲へ好印象を与えてくれるのに一役買うだろう。

 ハリー・ポッターは今日も前向きで打算的である。それと同時に、この少年への観察も忘れない。

 

“赤毛、そばかす、背が高い……トータル二五点。うん、却下”

 

 小柄で見目麗しければ飼い主のペット候補に選抜するところだが、どう見ても飼い主の食指が動かない。ついでにハリーの守備範囲外でもある。守備範囲に入ってたら即気持ちいいことして快楽堕ちの刑だったのだが、実に残念である。

 二五点はいくら何でも低すぎだと思うかもしれないが、百点満点が人ならざる神の美貌を持つ収穫の神(クミロミ)様であり、八〇点以上が神の化身の中でも、特に見目麗しい者たちを牧場で厳選した飼い主のペット達なのだから辛口評価なのは当然だ。二〇点を超えたことを、この少年は誇っていい。

 ついでに言うとハリーの自己評価は六五点で、これは自画自賛ではなく正当かつ妥当な点数だと胸を張って言える。むしろ七〇点を超えない事が悔しいとさえ思う。

 メイドのガーンナさんも七〇点オーバーだし、ペットの中では──プレイ専門のエイリアンと弱酸性スライムを除けば──ハリーは最下位なのだ。ちなみに少女ちゃんは七九点、店番専門の妹ちゃんは七七点だ。実に惜しい。

 

 しかし、そんな淫蕩で爛れきった計算などおくびにも出さず、ハリーは赤毛の少年に自己紹介した。赤毛の少年……ロン・ウィーズリーは声をかけた人物がハリー・ポッターだと知って驚いたが、そんな反応はもう買い出しの時点で飽きている。

 どうでもいいことだが、彼らの反応の中でハリーが一番むかついたのは「お帰りなさい」と言われたことだ。ハリーにとっての故郷は既にノースティリスであって地球ではないのである。

 

 ハリーは如何にも善良な小市民ですと言わんばかりに、ロンに対して社交的な挨拶を済ませると、ロンは興味深げにハリーの前髪に隠れている額の傷をちらちら探すので、たくし上げて見せてやると、彼は一層驚いた。

 

 顔に傷などハリーにとってはマイナスポイントだが、これが有ったからこそ飼い主に出会えたのだと思えば悪くない。但しトム君は殺す。生き残ったトム君の部下もしばき倒す。奴らには一切の慈悲など与えない。絶対にだ。

 

 

     ◇

 

 

 その後、ハリーはロンと他愛のないお喋りを行い、昼食の時間になれば車内販売のお菓子を買ってロンを餌付けした。これくらいの子供は単純で扱いやすいと含み笑いつつ、カエルチョコレートのおまけについてきた魔法使いのカードを見る。

 アルバス・ダンブルドア……将来のターゲットの写真が手に入るとはハリーにとって幸先良く、ダンブルドアにとってはこれ以上ないぐらい不幸で黒猫全力横切りまっしぐらで湯飲み茶碗が爆発四散して雷雨が降り注ぎそうなぐらいお先真っ暗な展開であった。

 

 ハリーはほくほく顔でカードを手に取り、裏面を確認すると、そこにはカードに掲載されたダンブルドアの略歴があり、ノースティリスのカードを思い出した。

 ノースティリスではモンスターや人間を殺すと、殺した相手の情報が記載されたカードや、本人をコピーしたようなはく製が手に入る。

 ハリーの飼い主はこのはく製とカードを収集し、ティリス最大の博物館を運営している。そして勿論、ハリーのはく製とカードも、願いの杖を使って飼い主は入手している。カードに関しては、博物館用とコレクション用の二つまで願っており、ハリーにもどんなものか見てみるか? と自分のカードを貰ったものである。

 ただ、ハリー自身は自分より飼い主のカードが欲しかったので、聖夜祭の月にねだった。そして、カードに書かれた略歴だけで顕微鏡を使わないと確認できないレベルの飼い主の情報量に眩暈がしたのはいい思い出だ。

 

 それに比べると五角形のダンブルドアのカードの略歴は実に小ざっぱりとしたものである。一九四五年に闇の魔法使いを倒したり、パートナーであるニコラス・フラメルとの錬金術の共同研究の事などが簡単に記載されるに留まっていた。

 

 ハリーは今後、飼い主のようにこの手のカードをコレクションするのも面白いかもしれないと思いつつ懐に忍ばせると、何となくでお菓子の中から百味ビーンズを手に取った。

 ロンは「文字通り何でも有りで鼻糞味すらあるから気をつけろ」と言ったが、ノースティリス歴が長いハリーにはどうということはな……これはハリーの飼い主が大好きな人肉味だ!

 

“まじかよ”

 

 人肉嗜好は残念ながらハリーは持っていないので、正直がっかりである。まぁ、人肉程度今更と言えば今更だ。主能力が上がらないので物は試しと一度食べただけだが、激マズのモージアを延々と食べ続ける事に比べればどうという事はない。

 そしてハリーは人肉嗜好も含め、変異系の特徴/突然変異(フィート)を全く取得していない。『祝福された進化のポーション』は持ち込んでいるが、あれは服用すると腕に霜が付いたり頭脳が機械化されたり血が緑色になったりするので、バレてしまうと大変面倒なのだ。

 冒険者として独立した際、自動的に取得できる先天フィートボーナスも、幸運とスタミナ上昇に振ってあるので見た目には全く影響はない。ハリーはまだ普通だ。

 口から火を噴いたり吸血鬼から血の吸い方を学んだり、遺伝子を組み替えてMPを上げたりしていないのだからまだセーフだ。

 ただ、セクシーなポーズは飼い主のために覚えてみたいとは思ったが。

 

 取り敢えず人肉味の百味ビーンズはロンにも食わせる。おかわりもいいぞ!

 

「うげぇ……なに、この味ぃ……何かの肉?」

 

 本当に食べてしまったのか? ハリーはニヤリと畜生暗黒スマイルで口角を釣り上げた。何の肉かは教えず、ロンが泣きそうな顔をしていたが気にしない。

 言えば気が狂いそうだからだ。それぐらいの優しさはハリーにも有る。あと、これを販売した菓子メーカーは潰れた方が絶対にいい。気が狂わないのは良いが、フィートが付かないとか不味いだけで無意味ではないか。

 

 

     ◇

 

 

 そうしてロンとダラダラ楽しく過ごしていると、次に戸を開けてハリーの前に現れたのはふさふさの栗毛をした、ちょっと出っ歯な女の子だ。

 ハリーは微笑の裏に歓喜の畜生スマイルを浮かべて、「どうしたの?」とロンの時以上に友好的に話しかけた。

 出っ歯の前歯こそネックだが、小柄で童顔で肌も白く、顔立ちそのものは非常に整っている。ホグワーツのローブが新調であることから同い年。あと一年待って、どういった風に成長するか確認するまでは結論は出せないが、十分飼い主の眼鏡に適うロリである。

 

 もう一度言う、飼い主の眼鏡に適うロリである。

 

 正直羨ましい。ハリーも呪われた乳を飲んで身長を意図的に低くし、出来る限り飼い主好みの小柄で可愛いショタっ子になるべく努めているが、地球に戻る前にお試しで呪われた鈍足ポーションを使い、一二歳になってみたところ、どうしても顔が大人びてしまい、飼い主の嗜好から若干外れてしまうことが分かってしまったのである。

 したがって一二になればノースティリスではロリ一本で生活しなくてはならなくなり、ショタとしてのプレイは永久封印されてしまうだけに、ナチュラルな性別で隠れたポテンシャルを持った少女は正直ハリーにとって妬ましかった。

 もしもハリーが母親に近い、女の子らしい顔立ちのまま成長していれば、七五点は固かった筈なだけに、尚更ジェラシーが沸いてしまう。

 

 それはそれとして、この少女の食事には祝福された媚薬を混ぜて提供してやろうと心に誓ったが。

 あと、ホグワーツでは真っ先に図書室で整形関連の魔法を学ばなくてはならないとも誓う。自分もだが、この少女の前歯を矯正し、より飼い主好みの顔になって貰うのだ。そして一緒に気持ちいいことを楽しむのだ。レッツ(夜の)パーリィ!

 ……などと、脳内ピンクな欲望ガンギマリになったハリーを現実に引き戻すように、突如として現れた少女は、少々高飛車な口調で問いを投げる。

 

「ヒキガエルを見なかった? ネビルっていう男の子のペットが居なくなっちゃったの」

 

 ペットという単語にハリーは反応しかけたが自制する。ハリーもホグワーツに入学するに当たって、ペットの購入を勧められたが全力で拒否した。ダーズリー一家は下僕にして奴隷であって、ペットとは認めていない。

 しかし、そうでなくとも、現状のペット枠に空きがあってもハリーはペットを求めていない。

 何故ならハリーこそがペットだからである。今現在は冒険者として独立していようがホグワーツの新入生だろうが、ペットなんぞ絶対に飼いたくない。

 ハリーは飼うのでなく、飼い主に飼われたいのだ。夜な夜な厳しい躾をされて、発情期の猫みたいに鳴き声を上げたり犬の散歩風に紐で繋がって外であれこれなワンちゃんプレイに勤しみたいのだ……まずっ、卵が産まれそうだトイレ行かなきゃと立ち上がる。

 

「探してあげるよ」

「ほんと? 貴方って優しいのね」

 

 意図せず少女の好感度が上がった。それはさておき今はトイレだ。何とか誤魔化さなくては……! 漏れるな嬌声! 昂ぶるな下腹部!

 

 勃つんじゃないポークビッツ!?

 

 取り敢えず他の車両に移った瞬間、速度開放してダッシュだ! 速度カンストは伊達ではない。ノースティリスにおける『速度』とは、超スピードなどというチャチなものではないのである。

 ノースティリスの速度とは体感速度の速度であり、すなわちハリーが全力を出した瞬間、この世界の全ての生物が疑似的に静止する。

 まるで時間が止まったよう。車両を無造作に飛び回る羽虫から、跳ねた飲料水の水滴までが静止する、無音にして絶対たる時の永久凍土。

 

 この世界で一人何も変わらず歩を進めるハリーを認識できるのは、ハリーと同等の速度を有する超越者……すなわち、飼い主やハリーと同じ飼い主のペット。

 或いは魔境ノースティリスにあって最高難易度を誇る、無限に続く──一説には最奥は一億階だとも言われている──迷宮(ネフィア)、『すくつ』の奥底で蠢くステータスがカンストしたモンスター達だけであり、この圧倒的速度差という壁がある以上、ヴォルデモートが飼い主に手も足も出ないのは当然だ。

 ましてや素のスペックでこれなのだから、本気装備で加速の魔法など使った日には、この世界で飼い主に敵う者など皆無だろう。

 少なくとも、人外魔境たるノースティリスでも今の飼い主と互角の戦いを演じる事が出来る者など『すくつ』の一定階層に存在するボス以外でハリーは知らないし──そのボスだって時間が多少かかるだけで、飼い主ならソロで勝てる──仮に居れば飼い主はウキウキワクワクしながら、戦闘用に完成された少女ちゃん達を引き連れて全力で戦いに行く筈だ。

 退屈を紛らわせるのに、強敵との戦いや巨大な壁は最高のシチュエーションと言えるのだから。

 

 

     ◇

 

 

 ……この世界で初めての全力が、こんなクッソしょうもないことなのは頭が痛いが、無事に産まれた卵は四次元ポケットに押し込んだ。

 飼い主だったらこの卵を美味しく料理して頂いてくれるのだが、ペットたるハリーは料理スキルは死にスキルなので習得していなかった。これは本当に悔やまれる。あと、ヒキガエルはきっちり確保した。

 

「ありがとう。私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。ほらネビル、貴方もお礼」

「いや、これぐらいで大げさだよ」

 

 自分との激しい戦いと絶頂を終え、ハリーは努めて涼しげな顔で応えた。

 冒険者なら依頼料を要求するものなのだが、ハリーは心はペットなのでそんな要求は口にしない。お代は美味しく成長した場合の処女で良いぞハーマイオニー。

 

 その後は再びロンの待つ座席に戻って四人で仲良く談笑。途中で制服に着替えてから、再度お喋り。会話の中心はもっぱらハーマイオニーだが、これはハリーが会話を誘導したのが半分。もう半分は、この勉強好きでお喋りなハーマイオニーがガンガン喋るからである。

 ハーマイオニーは教科書を全て暗記し、多数の参考書にも手を出したと自慢げに語ったが、それが本当なら中々の暗記スキルである。

 ハリーも教科書を購入してから一月の間に、手持ちの本は全て脳細胞に叩き込んでいたので幾つか引っ掛けたが、ハーマイオニーは全て正確に答えて見せていた。おそらくハリーが引っ掛ける為に意図的に間違えたのも気付いているだろう。

 

 聡明だ。これは性処理用途以外に使える、飼い主の通常のペット枠を本気で検討した方が良いかもしれない。

(飼い主は性処理用途オンリーのペットを自宅警備員にしている。これはペット枠が増えないので、飼い主は重宝していた。因みに現在の自宅警備員は街の子供〈♀〉、貴族の子供〈♀〉、妹猫、そして人体錬成で作った猫の女王『フリージア』である。弱酸性スライムとエイリアンは夜のお供として多用するので、プレイ専門でも自宅警備員にはしていない)

 

 ノースティリスは解読用の古書物の中でも、最も簡単なものが《ヴォイニッチ写本》とかいう狂ったレベルを要求する一般人には全く優しくない世界だが、ハーマイオニーなら何とか着いて来れるだろう……おう、ノースティリス(こっち)来いよ……ノースティリス(こっち)来いよぉ……!

 

「それにしても、貴方がハリー・ポッターだなんて、本当に驚いたわ!」

「皆そう言うけど、赤ん坊の頃だから僕は何も覚えてないし、普通の男の子だよ?」

「でも君、誘拐されたって新聞に出てたけど……」

 

 ああ、それかとロンの発言に返す。ダーズリー家の虐待やそこからの保護、そして飼い主へのあらましを一通り聞かせるには信頼関係を築けてはいないし話に尾ひれが付くのは嫌なので詳細は語らなかったが、兎に角今はこうして無事だし、洗脳や記憶操作などもされていない。

 決して危惧するようなことはないから、話せるような時になればきちんと説明するとも付け加えた。

 

 そして、そんな事よりも楽しい話題に戻そうと切り替えようとしたところで、またしても来客である。どうやらここにハリー・ポッターが居ると知って、挨拶に来たらしい。本日は千客万来だ。

 

「やあ、ポッター君。僕はドラコ・マルフォイ。君に会えて光栄だ」

 

 これはご丁寧にと礼節に則って返し、差し出された手も握ってやった。

 あらかじめ言っておくと、ドラコなる少年は顔の造詣そのものは悪くないが、これまた飼い主の好みから外れている。どれくらい外れているかと言うと、ロン以上に外れている。一一でこれなのだから、一二になった際はもっと外れるだろう。

 将来のペット候補になり得ない以上、こうして話すことに対してメリットはない。性的な意味では。

 

 ならば何故相手をしてやったかと言えば、第一に、育ちの良い坊やというのは利用すれば得だからという理由。

 相手はハリー・ポッターというネームブランドに興味がある。それぐらいは一目見れば分かる。ノースティリスで付け上がった馬鹿貴族が、昔飼い主にしたような接し方だったと言うのを思い出したからだ。

 勿論、そういう手合いを飼い主は思いっきり利用した。

 馬鹿なだけで悪徳でないならある程度付き合いつつカモにするだけだったが、相手が腐れ外道なら骨の髄までしゃぶって裏で財を毟り取り、最後は火炎瓶で放火どころかセレブ邸に核をぶち込んでぺんぺん草一本とて財産を残させず、埋まるよう仕向けたと言うのは飼い主の語った痛快劇でも、ハリーお気に入りの内容である。

 

 で。話を戻すとこのドラコとか言う小僧、服の仕立ては上質だし、物腰も上流階級のそれであり、嫌みったらしい仕草は敵なんぞ自分には居ないと調子ぶっこいてるノースティリス貴族の子供こと糞餓鬼連中と同じなのである。

 

 ……ただーし。ハリーが真に重きを置いているのはそこではない。

 

「マルフォイ家……というと、あの名家の? 魔法省にも毎年多額の寄付を行っている、()()()()()()()として有名な?」

 

 そして、さりげなーくハリーも貴方のお家というブランドを知っていますよと、特によいしょ出来る部分を一語一句強調しつつアッピルする。

 まあ、その実態は闇の帝王(笑)なトム君に尻尾振った腐れ外道一味の家であり、ハリーが友好的に接してお近づきになりたいですアピールした最大の理由がそこだ。

 ハリーはトム君の記憶でしか──年齢から逆算するにドラコの父親であろう──ルシウス・マルフォイこと、トム君の愉快な仲間達の一人のことを知らない。

 

 闇の魔法使いとしてトム君についたのだから、トム君が消えれば当然失脚どころか御家断絶は免れない筈であろうに、こうしてボンボンらしい振る舞いをしているドラコ自体が気になって仕方ない。

 こいつら一家はとっくの昔に乞食以下になってるだろうから、ハリーはその落伍者の末路を指さしながらプギャーする予定だったのに、これは大番狂わせである。

 ハリー謹製『粛清リスト』、リアル・デスノートに書いたルシウス・マルフォイの名も、一応書いたと言うだけで消せはしないだろうなーと思っていただけに、まさかまさかであった。

 

 ここで会ったが百年目。復讐するは我にありだ。やはりミンチは自分の手で行うに限る。不当な暴力は善良なハリーとしても本意ではないが、大義名分という錦の御旗を振りかざせる以上、躊躇も慈悲も全く必要ないのである。

 まあ、大義名分がなくても必要に応じてミンチの刑は敢行するが。

 

 ……などと内心画策しつつ言葉を選んだハリーの問いに、これ以上なく自尊心を満たしたドラコは、後ろに控えていた取り巻き連中と大いに頷きつつ自尊心を満たしていた。分かりやすい小物ってのは本当に使い勝手が良いぜ。お前の父親はミンチにするがな。

 

「当家を存じてくれていたとは嬉しいよ。君とは仲良くなりたいな」

「僕も友達が増えるのは歓迎だよ! 今日はとっても素敵な日だなぁ! ()()も友達が出来るなんて!」

 

 ハリーの発言に、ドラコはぴくっと眉を動かした。顔は明らかに不快そうであるし、当然ハリーにも隠しはしなかった。

 

「ポッター君、友達は選んだ方が良い。君にはもっと相応しい世界がある」

 

 僕がそれを教えてやろう、とでも言いたいのだろう。そういうのはトム君の千倍はカリスマを身に着けてから……あ、ゼロに何かけてもゼロだったわ、失敬失敬。それはさておき。

 

「どうして、そんなこというの?」

 

 潤んだ目で、心底悲しそうな表情を作ってみせた。幼女顔負けの魅力的な童顔になるよう日々努め、純朴そうなショタを演じるのは慣れた物である。

 優しいけれど、傷つきやすい純朴可憐な少年……それがハリーなのだとドラコにも、そしてこの場に居た全員にも錯覚させるには十分だった。

 くっそチョロすぎて人生がヌルゲーだと勘違いしそうだぜ。

 

「……いや。今のは忘れてくれ」

 

 そして、自分に対して反抗的でさえなければ、ドラコも作戦を練り直そうと改めるぐらいの思考は出来る。要するにハリー・ポッターは善人の甘ちゃんだから、利用するなら親しみやすい接し方がベストだと気付いたのだ。

 マルフォイ家に関心があるのも、彼ら一家が社会貢献に努める高潔な一家だから興味を抱いたのだと先のハリーの発言から読み取れる。

 ハリー・ポッターは清く優しく可愛い良い子なのだ、そこを弁えたまえドラコ! そしてそれを武器に利用しようと画策するが良い! 最後に笑うのはこのハリー・ポッターと最低糞野郎……もとい、偉大なる我が飼い主だがな!

 

 これでハリーは今日交友を持った全ての人間からヘイトを稼がず、八方美人かましても文句を言われない立ち居地を作ることに成功した! コミュニケーション術万歳! ノースティリス戻ったらもっと交渉スキル上げなきゃ!

 

「うん、僕も、忘れるよ……ねえ、マルフォイ君。もし寮が違っても、僕達、友達で居られる?」

「勿論だよ、ポッター君。君が僕の友達で居たいならね」

 

 仲直りの握手を成立させて、ドラコを去らせる。この場で浮いているのはドラコ一人だという事ぐらい、ドラコ自身自覚して空気を読んだだろうし、ハリーもそれとなく視線を誘導させたから当然だ。

 

“全く、善人プレイも楽じゃない”

 

 そう内心でため息を吐きながら、ハリーは席に戻って談笑を続けるのだった。

 プレイは飼い主との気持ちいいことだけで良いのだ。

 

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