「上野くん、私は君には感謝してるわよ?こんな日に部屋に入れない私を、こんな風にもてなしてもらって」
「は、はぁ…」
「でもね、流石にこれは何も言わない訳にはいかないわ」
「う''…」
護はバツの悪い顔で、何も言い返せないでいた。
「はぁ、上野くん。今日はこの後用事はあったりするの?」
「え、あ。いえ、無いですけど」
「今から買い物に行くわよ」
「え、買い物って何を買いに行くんですか?」
「ご!は!ん!行くわよ!」
「は!はい!」
陽菜乃の声に体をビクッとさせた護は急いで財布を取りに部屋に行く。
部屋から戻り、リビングでたって待つ陽菜乃を見てある事を思い出す。
「あ、でも傘1つしかないですよ」
「ん?あの大きさなら2人でも大丈夫だと思うわよ?」
「え、そ、そうですか?」
つまりは相合傘、護は異性との接触は少ない。
本来ならばこの様に家に上げる事など無い。
そんな護が陽菜乃の様な女性と相合傘は、言ってしまえばハードルが高いのだ。
「ほら、早く行きましょ?」
「は、はい」
陽菜乃はそんな護をおいて、強引に護を買い物に連れ出した。
スーパーに行く15分の間、2人は何気ない会話をしていた。
すぐ横には自分の服を着ている陽菜乃。これでドキドキない男は少数派だろう。
「上野くんはいつもどこで買い物してるの?」
「家からだと、サトーヨーカドーですね。学校からの帰りだとトライハルに寄って帰ります」
「トライハル?上野くん、もしかして山森高校の生徒だったりする?」
「はい、そうですよ。特に行きたい高校も無かったので、とりあえず地元の高校にしておきました」
「そうだったの。実は私、山高の卒業生なのよ?」
「そうなんですか?それは驚きました。という事は高校の時からあのマンションに?」
「そうよ。ウチの親も海外に行く事が多くてね。流石に私をそれに付き合わせて、友達と離れ離れにさせるのが嫌だったそうなの。だから高校の時からあのマンションで一人暮らししてるわ」
そんな事を話していると、前から自転車が走ってきた。
乗っている人も傘を差しながら走っていた為前が見えてない。
目の前には大きな水溜まりがあり、このままだと陽菜乃がまた濡れてしまう。
「天野さん、こっち」
「あ……」
護は陽菜乃を引き寄せた。
いきなりの事で、陽菜乃は為す術なく護の体に身を任せる形となった。
そのすぐ後、『パシャッ』と音を立てながら自転車は2人の横を通り過ぎる。
あのままだと確実に陽菜乃はぬれていただろう。
「大丈夫ですか?天野さん」
「え、えぇ…ありがとう。」
「それは良かったです。それじゃ行きましょうか」
そう言う護を、陽菜乃は目を細くして見る。
それに気付いた護は、何かやらかしたのかと思い、恐る恐る聞いてみる。
「あ、あの。俺何かやらかしましたか?」
「上野くんって意外と油断ならないわね…」
「えっと、何の話ですか?」
「何でもないわ。さ、行きましょうか」
陽菜乃は先に歩き始める。
陽菜乃が濡れないように急いで護も歩くが、陽菜乃の顔が赤くなっている事に護は気付いてはいなかった。
「あの、天野さん。こんなに買って、一体何を作るんですか?」
「ん?唐揚げにポテトサラダ、コンソメスープ、後は卵焼きとか色々よ」
「そん、そんなに作るんですか」
「上野くん。君今までどんな食生活してきたのか分かってる?」
「それなりには…」
「ならちゃんと食べる事。今日で全部食べなくて良いから、ちゃんと食べなさい」
強く言われてしまったので断る事はできない。
て言うか、今気づいたけど
「もしかして、天野さんが作ってくれるんですか?」
「そうよ?上野くん作れないんでしょ?」
「なんかズバズバきますね」
「気のせい気のせい」
二人はカートを押してレジに並ぶ。
そこで財布を出そうとするが、陽菜乃に止められた。
「これは私が払うわ」
「そんな訳にはいきませんよ。僕も食べさせてもらうのに」
「それじゃダメよ。家に上げてもらったお礼だって
「それを言われてたらこっちは何も言えないですよ」
「そう、それは良かった」
陽菜乃はそう言うと、満足した様な顔でお金を払う。
男が女性にお金を出させるのは気が引けるが、本人があぁ言うのだ。今回は仕方ない。
「ねえ上野くん、上野くんの好きな食べ物って何?」
買い物の帰り、陽菜乃はふと気になった事を聞く。
「好きな食べ物ですか。なんでしょうね」
「何?その言い方」
「う〜ん。特にないですよ。好きな食べ物っていうのは。でも」
「ん?」
「誰かが、俺の為に作っている物が好き、ですかね。前は母さんの作ってくれた物です」
護は久しく食べていない母の料理を思い出す。
「随分とロマンチックな事を言うのね」
「本当のことですよ」
「もしかししたら、好きな食べ物は増えるかもしれないわよ?」
隣で笑う陽菜乃に、護は一瞬でも陽菜乃に魅せられていた。