二人は護宅に着いた後は、昨日と同じ様に何事も無く夕食を済ませる。
夕食を食べた後はソファーに座り、テレビを見ていた。
その時に陽菜乃は。ふと思いついた様に言葉を発した。
「ねえ上野君、お昼ご飯は何食べたの?」
「今日はサラダカップと、魚とか入っている弁当ですよ」
「本当に?」
「本当ですよ。レシート見ます?」
「そこまで言うなら大丈夫の様ね。でもお弁当買うより作って行った方が安いわ。明日は作ってあげるから、それを持って行ってね?」
「あぁ、昨日より買った食材が多かったのはそのせいですか」
先程の買い物の量は、昨日よりかなり多い量だった。
一人では持ちきれない量なので、二つに分けて二人で持って帰ってきた。
こんな量何に使うのだろうと思っていたのだが、今さっきその謎が解けた。
「なんか、すいませんね。いらない心配をさせてしまって」
「あら、そう思っている割には断らないのね」
「断ったら止めてくれるんですか?」
「無理ね。無理やりにでも持たせるわ」
「だろうと思いましたよ」
「あら、随分と私のこと分かってくれてるのね」
「ただ強情ってだけじゃないですか」
「それもそうね」
陽菜乃は護の言う事を聞いて、くすりと笑う。
その顔を見た護は、改めて陽菜乃が美人である事を確認する。
勿論、確認するわけでもないのだが、美人の微笑みを見ると意識してしまうのが男というものだ。
そして、その顔をつい見つめてしまうのも男の性だ。
「ん?どうしたの?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「そう?あ、それよりも良かったら連絡先交換しない?もし何かあった時の為に」
「そうですね。それは僕も思ってました」
二人は無料連絡アプリのIDを交換しお互いに登録する。
陽菜乃は登録したのと同時に、「よろしく」という可愛い子熊のスタンプを送った。
それを見た護は陽菜乃の方を見る。すると陽菜乃は、先程とは違いどこか嬉しそうな微笑みを浮かべていた。
「これからもよろしくね?上野君」
この時何故か、自分はこの人には勝てないと悟った護であった。
その後は何も無く、二人は寝る準備を終えていた。
後は寝るだけだ。そのはずだと、護は思っていた。
しかし、それは大きな間違いだった。自分が言った、「陽菜乃は強情」だと。
それならば、こうなる事は予想はできたはずだった。
「それじゃ、おやすみなさい。天野さん」
「上野君どこで寝るの?」
「どこって、昨日と同じソファーで」
「だめよ?ちゃんとベッドで寝ないと」
「いや、ベッドは天野さんが使って…」
「上野君も一緒に寝るの」
護はかなり驚いている。昨日はすんなり引いてくれたのに…と。
しかし今の陽菜乃には引く気配が全くない。
「い、いや。でも昨日は別々に寝たじゃないですか。それに男女が一緒に寝るのはいかがなものかと」
「昨日は仕方なくよ。今朝だって除湿かけたまま寝てたから、少しこの部屋も寒かったわよ?それに体も所々痛めてた様だし、体に悪いわ」
「それは気のせいですよ。寒くないですし、体も痛めてません」
「それでも一緒に寝るの」
「えぇ…」
もはや強情を通り越して意味が分からなくなってきた。
護は陽菜乃の意図を読む事が出来ず、頭を悩ませていた。
「ね?一緒に寝ましょ?」
「は、はい…」
こんな事を言われて断れる男がいるのか?
少なくとも事の場にはいない。異性との接触が苦手な護ではあるが、嫌いなわけではない。
それが陽菜乃の様な女性なら尚更だ。
護と陽菜乃が一緒にベッドで寝ていた。
護が、ぜめて自分の理性が保つ様にと陽菜乃に背を向けている。
しかし陽菜乃は先程から護の方を向いていた。
そんな状況に心臓をバクバクさせていた護に、陽菜乃は声を掛ける。
「まだ起きてる?」
「えぇ、どうしたんですか?」
「いえ、特になんでもないわ」
「そうですか」
短い会話。その後にも会話が続く事もなく、暗い部屋に再び沈黙が訪れる。
護はその空気に気まずさを感じていた。そんな時、陽菜乃が後ろから抱きついてきた。
「ちょ、天野さん?何してるんですか?」
「何って抱きついてるのよ?」
「いや、それは分かってますが…。何故そんな事を」
「こっちの方が暖かいから」
「除湿止めてきましょうか?」
「う〜ん、どっちでもいいわ」
「それじゃ止めてきますね」
護は除湿を止める為に、起き上がろうとする。が
「あの、離れてくれませんかね」
「いや」
「それじゃ止めにいけませんよ」
「私は止めて欲しいとは言ってないわ」
無茶苦茶な…。そう思ったが、まず優先させる事は陽菜乃を引き剥がす事だ。
このままでいは色々と危ない。高校二年生の男子が、異性と一緒にベッドにいるなど耐えられるはずがない。
「あの、本当に離れてくれませんか?」
「それはいや」
「なんでもしますから」
「……それじゃこっち向いてくれる?」
陽菜乃が要求してきたのは、自分と向かい合えという事だった。
しかし状況を考えれば、今よりは数倍マシだ。
「分かりました。そっちを向くので早く離してください」
そう言うと陽菜乃はあっさりと離してくれた。そして護は約束通り、陽菜乃と向かい合う。
それは予想以上に気恥ずかしいものだった。
護のベッドはシングルだ。二人で寝るにはあまりにも狭い。
そんなベッドで向かい合わせになると、陽菜乃との顔の距離も近く、護は目を逸らす。
「どうしたの?こっち見てくれないのかしら」
「見なくてもいいじゃないですか」
「照れてるの?」
陽菜乃はおちょくる様に尋ねる。
「だったらなんですか」
「別に?ただ可愛いなって」
「それ男に言うセリフじゃありませんよ」
「ふふ、ごめんなさいね」
そう言うと陽菜乃は護の頬を、親指で優しく撫でる。
「やめてくださいよ」
「どうして?」
「恥ずかしいからですよ。ていうか分かっててやってるでしょ」
「さぁ?どうでしょうね」
「はぁ…もういいです。俺はもう寝ます」
護はもう何を言っても無駄だと悟ったのか、逸らしていた目を閉じる。
「あら残念。おやすみなさい」
「………」
護はもう、からかわれない様に無言を通す。
それでも陽菜乃は護の頬から手を離さずにいた。
しかし、それはどこか心地よく、護は知らず知らずのうちに夢の世界へと意識を落として行った。