さらに言うと、ずっとARKやってた。
梅雨も明けて少しずつ暑くなり、6月も終わりに近づいた放課後。
「オラァ!!!」
ガンっと鈍い音が特別棟に鳴り響く。
一人の赤髪の生徒が生徒を殴ったのだ。
「ぐっ……」
殴られた生徒ーー小宮ーーは痛みに呻き声をあげる。
「…っ!クッソォォォ!!」
そしてもう一人の生徒である近藤が赤髪の生徒ーー須藤ーーに殴りかかるが、喧嘩慣れした須藤はいとも容易く躱して顔面に拳を喰らわせる。
彼ら三人とも、この高校のバスケ部だ。
小宮と近藤はCクラス、須藤はDクラスだが、そのバスケの実力には大きな開きがある。
体格も勿論だが、その技術やフットワークも超高校級の須藤には、1年生にして早くもレギュラーの話が出ているほどだ。
そんな須藤を呼び出して「Dクラスのお前がレギュラーに選ばれるのは我慢ならない。痛い目を見たく無ければバスケ部を辞めろ」と小宮と近藤が脅したのだ。
当然須藤はそれを断る。すると小宮と近藤は須藤に殴りかかり、あえなく返り討ちにあったというわけだ。
「
喧嘩と呼ぶには余りにも一方的過ぎる展開だったそれを終え、須藤は吐き捨てる。
「へへ、こんなことして……タダで済むと思ってんのかよ、須藤っ」
近藤が満身創痍ながらも上半身を起こしながらそう言うと、須藤は近藤に近寄り胸倉を掴み上げる。
「…二度と俺に関わんじゃねえよ。次はこんなもんじゃ済まさねえぜ」
「……っ」
半ば戦意喪失気味だった近藤は、須藤に凄まれて思わず視線を逸らす。
「はん…ビビりやがって」
鼻で笑った須藤は、床に落としたボストンバッグを拾い上げる。
戦意を無くした二人に興味は無いのか、背中を向けて歩き出す。
「時間を無駄にしたぜ。練習後で疲れてんだから勘弁してくれよ」
「……後で後悔すんのはお前だぜ、須藤」
負け惜しみとも取れるその言葉に、須藤は足を止める。
「負け犬の遠吠え程みっともねえもんはねえな。何度やっても俺には勝てねーよ」
須藤は自信を持ってそう言い切った。
事実、多少喧嘩慣れしている小宮と近藤を相手取り、無傷で余裕の勝利を収めたのだから。
須藤が立ち去った後、小宮は携帯を取り出し電話を掛け始める。
「もしもし。龍園さん、小宮です」
「はい。上手く行きました」
「はい。分かりました。失礼します」
そう言って小宮は電話を切った。
「おはようございます。花山くん、石崎くん」
「おう」
「よう、椎名」
7月に入り、随分と暑さも増してきた。
椎名は教室に入って来た花山と石崎に挨拶をし、今朝から気になっていたことを質問する。
「お二人は、ポイントが振り込まれていましたか?」
「あぁ、今朝その話をしてたとこなんだよ」
「と、いうことは?」
「俺らもポイントは振り込まれてねえ」
毎月1日にポイントが振り込まれるはずが、ポイントが振り込まれて居なかったのだ。
事実これまではその日の0時には振り込まれていた。
しかしそれが振り込まれていなかった。
つまり振り込まれたポイントが0だった。
それが意味することはーーー
「クラスポイントが0になってしまった……ということでしょうか……」
考えたくは無いが、そういうことだろう。
「やっぱりそうなのか……なぁ、俺たちポイントが0になる程ヤバイことやってたか?中間テストだってみんな乗り切ったし、私語とか遅刻とかそんなのも全然無かっただろ?」
「そうなんですよね。減点されるような事は何も無かったはずです」
「花山さんは何か知ってたりしますか?」
そう花山に会話を振る石崎。
だが当の花山はかなり焦っていた。
というのも、花山には減点される心当たりがいくつもあった。
まず飲酒。この二人には見られているが、当然学校側はそんな事を知っている筈もない。だがもし何かしらの手段があって飲酒がバレているとすれば、それは減点の対象になり得るだろう。
次に喫煙。比較的飲酒よりも犯罪色が強いこともあってこの二人にすら見せていないが、割と高い頻度で吸っていたりする。それでも二人にバレていないのは、匂いには特別気を使っているからだ。香水や消臭剤をばら撒き、煙草の匂いを極限まで消しているのだ。当然、これもバレれば減点対象だろう。
さらに深夜徘徊。パトロールの必要性も面白味もない事もあってここ最近はめっきりやらなくなったが、門限というのは守らなければならないものだ。特に学生のうちは。
そして極め付けは先日の腹話術事件。あの時あの場では上手く誤魔化せた(?)が、査定の方でどうなっているのかは分からない。それが減点対象になっている可能性は十分に考えられる。
「………………」
「あ、あの……花山さん?」
黙ったままの花山を訝しく思った石崎が声を掛ける。
実は……………
と言い掛けて、思いとどまる。
まだ確定している訳ではない。なのに態々告白する必要があるのだろうか。
しかし、心当たりがあるにも関わらずそれを隠すというのも花山的には女々しく、好ましく無い。
だが告白することはつまり、新たに弱みを見せる事にもなる。
他人からの期待に応えるか。自らのプライドを守るか。
「……………いや、なんでもねぇ」
今回は他人からの期待を選んだ。そも、この教室で話すような事では無かったから、妥当な判断だろう。
だが不味い事になった。
花山自身は興味が無いが、殆どの生徒がAクラスに上がりたがっていることは知っている。そのためにクラスポイントを上げていかねばならないことも。
だがもし花山のせいでポイントがゼロになったら、クラスの連中に申し訳が立たない。
どうしてこうも毎月毎月ナーバスな気分になるのだろうか。
殆どが自業自得とも言えなくも無いが、それでも少し厳し過ぎる気がしないでもない。
だが、そんな心配も杞憂だと分かったのは、そのすぐ後のホームルームだった。
「今回、少しトラブルがあってな。1年生のポイント支給が遅れている」
そう坂上先生はポイントが振り込まれていない理由を説明した。
どうやら自分のせいでポイントが振り込まれていなかった訳ではないらしい。むしろ100ポイント近く増えており、減点すら無かったようだ。ホッと安心した花山であった。
その日の放課後。
「小宮、近藤。少し話がある。ついて来てくれ」
そう言って、坂上先生は小宮と近藤を呼び出して行った。
小宮と近藤と言えば龍園の舎弟というイメージがあるが、二人とも殴られたような怪我を作って学校に来ていた。
その二人が放課後呼び出されたとなれば、自然とその話題が出てくる。
「どう思いますか?」
椎名もその例外ではなく、帰り支度をしながら話しかける。
「どう…って?」
「小宮くんと近藤くんのことです。怪我をしてましたし、先生がおっしゃっていた『トラブル』と無関係とは思えないんですよ」
「大方二人が殴り合ったとかそんなとこじゃねえの?」
「うーん、それで1年全員のポイント支給が止まることは無いと思うんですけど……」
どちらもCクラスである小宮と近藤の喧嘩ならば、態々1年生全員のポイント支給が止められる程のことではない。Cクラスだけの問題で済むはずだ。
「あー、じゃあ喧嘩とか?」
「やっぱりそう思いますよね……」
喧嘩。それも他クラスとの喧嘩だろう。
それなら説明はつく。
そんな三人に近づく男が二人。
「花山」
「…ん、龍園か」
龍園翔、そしてその後ろに控えるアルベルトの二人だ。
「どうしたんだ?」
以前の噛みつくような態度は鳴りを潜め、石崎は問いかけた。
龍園が声を掛けて来た際には真っ先に噛みついていた石崎だが、今回は噛みつかなかった。
その変化の理由は、前回の過去問にある。
過去問を渡した事により花山への大きな手助けになった事、さらに学校側の思惑を誰よりも早く見抜いて事によって、リスペクトが生まれたからだ。
噛みついてこなかった石崎を意外に思った龍園は「飼い犬はしっかり躾けてくれたみたいだな」とでも言おうかと思ったが、そうすると話がこじれるので言わないでおく。
「少し時間を貰えるか?話がある」
十数分後。あるカラオケの一室に、五人の男女が集まっていた。
龍園、アルベルト、花山、石崎、椎名である。
「好きなの頼め」
そう言ってドリンクメニューをテーブルの上を滑らせ渡してくる龍園。
一瞬断ろうか迷った花山だが、これは以前石崎と椎名を家に入れた時の状況と同じだ。あくまでこちらは客、ならばここは有り難く奢られる方が良いだろうと考え、メニューを見やる。
一瞬“メロンソーダ”という文字に目を奪われ掛けたが、強靭な精神力で耐え切る。
酒が飲めないのは残念だが、無難にミネラルウォーターを頼んでおく。
ワキワキという効果音が付きそうな程ソワソワしている椎名に、花山が声を掛ける。
「どうした、ひより」
「私、こうやってみんなでカラオケ来たのって初めてなんです。歌っても良いですか?」
マイクを片手に龍園に問いかける椎名。
「……後でな」
龍園はやりにくそうに言葉を返す。
どうにも椎名のペースが掴み切れていないように見える。
思えば、龍園と椎名が関わるのはこれが初めてだ。
椎名のマイペースには、慣れるまでは振り回される事になるだろう。
4月当初から翻弄されてきた石崎は、龍園に対して軽く同情心を抱くのだった。
しばらくして全員のドリンクが揃ったところで、龍園が口を開く。
「さて……話ってのは他でもねえ。俺達Cクラスのこれからについての話だ」
キリが良いからこんな感じで。
別に石崎おらんくても大枠ではそれほど影響無いよねって事で石崎抜きの事件になってる。
インタビュー形式最近書くことないなぁ……。
まぁガッツリとした花山の活躍は夏休みやからね。そこら辺になったら無双してくれるよきっと。