実力=握力=花山最強   作:たーなひ

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前回、後書きで次回予告をしたな?
アレは嘘だ。いったいいつから、次回予告が本当の次回予告だと錯覚していた?

ってのは冗談で、マジで思いの他書いてて楽しくなっちゃって、そこまで押し込め無かったんですよね〜。無計画でスマソ。許してくれ。


十九の拳

青い空、青い海、白い雲、潮の香り、細波の音。

 

海の上を、花山達一年生が乗る豪華客船が進む。

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

バン!と石崎は四人部屋の扉を開け放ち歓声をあげる。

 

 

「うおぉぉぉぉぉおぉぉお!」

 

今度は船内にあるレストランにて歓声を。

 

 

「おぉぉおぉぉおぉぉお!!」

 

次は舞台やスクリーンが備え付けられたシアタールーム。

 

 

「うぉうぉうぉうぉうぉうぉ!!」

 

次はプールなどのレジャー施設。

 

 

「スゲェェェェェェ!!!!」

 

最後に眼前に広がる青々とした海と穏やかな青空を見て、デッキにて一際大きな歓声を上げる。

 

「はしゃぎすぎですよ、石崎くん」

 

「いや、だってよ!すげぇじゃんかよ!なぁ!」

 

「確かに凄いですけど……」

 

子供のようにはしゃぐ石崎を、椎名は苦笑しながら見つめる。

だが、椎名もついはしゃいでしまうその気持ちは分からないでもない。

豪華客船に乗るとは聞いていたが、実際に乗るとそのスケールの大きさには感服せざるを得ない。それほどまでに豪華な作りで、船内にはあらゆる施設が設置されており、自費で来ようと思えば軽く数十万は飛ぶだろう。

一介の高校生には縁の無い豪華客船に興奮してしまうのは仕方の無いことだと言えた。

 

 

「花山くんはあまりはしゃいで無いみたいですね」

 

「……いや、そんなことはねぇが」

 

「そうですか?」

 

「あぁ」

 

周りにいるCクラスや他クラスの生徒も、皆一様に興奮を露わにしている。

 

そんな中、相変わらずに仏頂面を浮かべる花山は、椎名の言う通りどこか上の空であった。

勿論、驚いていないわけではない。それよりも気にかかる事があり、それに気を取られているだけだ。

 

 

それはーーー酒。

 

 

これまで、部屋に隠した酒をちょびちょびと飲んで凌いでいたのだが、なんとこのバカンスに持ってくるのを忘れて来てしまったのだ。

バカンスは2週間。実に2週間もの禁酒は花山にとっては苦痛でしかない。忘れてしまった事を悔やむ他ない……そう思っていた。

 

だが、その憂鬱さは、この船を一通り見物したことで振り払われることとなった。

 

それはバーの存在。

当然、学生が利用するためではなく、教職員達大人が使う為にあるものだ。

だが、花山はそれを見つけてしまった。

 

そして花山は如何にして酒を飲むかという思考へとシフトする。そうなれば、船の豪華さなど二の次になるのは当然のことだった。

 

 

「やっぱり、どこか体調でも悪いんですか?」

 

いつになくボーッとしたようすの花山を心配し、椎名が声をかける。

実際には考え込んでいるだけなのだが、花山が思考に没頭するという事が珍しいため、椎名は体調が悪いのかと心配したのだ。まぁ、花山に限って体調を崩すなんてことは無いのだが。

 

「いや、大丈夫だ」

 

とは言え、自分だけ上の空では空気を悪くしてしまう。その上、どうせ昼間は人が多過ぎて酒を飲むなどまず出来ないし、何より最初の一週間は島の中で過ごすため、どうせ酒にはありつけない。

 

今考えても仕方が無いと割り切った花山は、未だ子供のようにはしゃぐ石崎を追うべく歩いて行った。

 

 

 

 

「見て下さいよ花山さん!ボーリング場ですよ!すげぇすげぇ!やりましょう!」

 

「あぁ、構わねぇ」

 

多くの生徒がプールやカフェ、レストランや映画など、思い思いに時間を過ごす中、石崎が見つけたのはボーリング場だ。

見れば多くの生徒がボーリングを楽しんでおり、周りにいるのがほぼ身内という事も相まって非常に楽しそうだ。

 

「うわぁ……私、ボーリングに来るのも始めてです」

 

「……俺もだ」

 

「え?そうなんですか?じゃあ俺が色々教えてあげますよ!ほら、こっちです、こっち!」

 

親を引っ張る子供のように、無邪気な石崎はさっさと手続きを済ませる。

 

「靴を履き替えたら、次は球を選ぶんです」

 

「へぇ〜……沢山種類がありますけど、どこがどう違うんですか?」

 

「一番は重さじゃねぇか?女子ならあっちの軽い球の方が良いと思うぜ」

 

「そうなんですか」

 

タッタッタッと小走りで球を取りに行った椎名を見送る。

 

「花山さんはどうしますか?やっぱり一番重い球ですか?」

 

「あぁ、それで構わねえ」

 

「わかりました!じゃあ俺も一番重い球にします!」

 

それぞれが球を用意してきた所で、ゲームスタートだ。

 

 

まず、第一投は石崎。三人では唯一の経験者の為、二人に手本を見せようと張り切っている。

 

「おっしゃ!いくぜ!見ててくださいよ花山さーん!」

 

後ろを振り向き手を振ってくる石崎に、花山は手を軽く挙げることで返す。

 

「……はしゃいでますね」

 

「あぁ」

 

本当に子供のようだと、微笑ましい物を見るように石崎を見る。

 

さぁ、そんな石崎の第一投。

 

穴に指を通し、一番スタンダードなフォームでボールを構える。

 

呼吸を整えた石崎はゆっくりと助走を始め、ボールを後ろに振り被る。

 

そして球が放たれる。

 

決して美しいとは言えない、荒々しい投球ではあったが、真っ直ぐに中心を目掛けて進んでいく……かに思われたが、徐々に左にズレていってしまう。

 

先頭に立つピンには当たらず、二列目の左のピンへとヒット。そのままピンを薙ぎ倒していき、結果として倒したのピンは5本。

 

「おぉ〜」

 

パチパチと素直に賞賛の拍手を送る外野の二人。

 

 

続けて第二投。

 

先程のズレを修正し、先程と同じようなフォームで投球。

 

真っ直ぐに先頭のピンの中心を捉えたボールは残りのピンを全て巻き込み、スペアを取ることに成功した。

 

「っしゃ!」

 

ガッツポーズをしながら戻って来た石崎を、椎名と花山の拍手が出迎える。

 

「凄いです!石崎くん!」

 

「い、いや〜…」

 

照れる石崎を尻目に、椎名も自身の球を持ちレーンへと向かう。

 

 

んしょ、と声を漏らしながら重そうにボールを持ち上げる椎名。

華奢な見た目と、趣味が読書というインドアな性格の通り、彼女は運動がダメダメだ。

球の重さのせいか、若干おぼつかない足取りで歩く椎名に、大丈夫かと視線が集まる。

 

そして椎名の第一投。

 

トコトコと小股で助走をつけ、細い腕で重い球を懸命に振り被り、投球。

 

投げられたボールは転がるような軌道ではなくふわりと放物線を描く。

 

次に響くドガン!と言う音。

 

だがフロアに落下したボールは、勢いを失わずにゆっくりと転がっていく。

何の勢いも無く転がるボールは、ゆっくりと端の方へと進路を取る。

コロコロ…と転がるボールは遂にガーターへと吸い込まれ、ただの1ピンも倒す事なく椎名の第一投は終了した。

 

「む……難しいですね……」

 

こう…?こう…?と投げる素振りをする椎名。

いや、その投げる素振りの時点でボールを上に放ってるんだが……。

 

「ちょ、し、椎名。放るんじゃなくて、こう、転がす感じでよ……」

 

「転がす……ハッ…!」

 

石崎のアドバイスを聞いて、何か思い付いたかのような声をあげる椎名。

 

「ありがとうございます。石崎くん」

 

「お、おう……大丈夫かな……」

 

不安をを隠せない石崎であった。

 

 

椎名の第二投。

 

だが、ボールを持った椎名は一向に助走の距離を取ろうとしない。

ただ前だけを見つめ、集中力を高めているようだ。

 

流石に女子の筋力で、助走も無しに片腕のみで投げられる筈もない。

 

流石に石崎も見てられないと思い声を掛けようとしたその時、椎名が構えた。

 

全く持って美しい構えではない。

両手でボールを持ち、下投げの姿勢……桜木のフリースローを思い浮かべてもらえれば分かりやすいだろう。

まさか…!と石崎は思う。

誰もが、一度はやってみる構えだろう。そして試し、意外と難しい事を学び諦め、成長していくのだ。

その構えを、椎名は取った。

一見不格好に思えるポーズだが、当の本人は至って真剣だ。これまでののほほんとした雰囲気は何処へやら、まさに狩人の如き目をしていた。

 

機は熟した。

投球。

 

先程に比べれば幾分が小さな放物線は、先程よりも幾分か小さな音を立てて地面に落ちる。殆どが先程の焼き直し。

またか…と誰もが思った事だろう。

 

だが、予想に反し、ボールはゆっくりと、ゆっくりとだが、確かに真っ直ぐ進んでいる。

 

椎名は片膝をつき、ボールの行方を静かに見守る。

同じように、周りの生徒も皆そのボールの行方を見守っていた。

 

何分にも思える程の濃密な時間。

だがそれも終わりを迎える。

 

お、と誰かが声を上げた。

ピンまでの距離、およそ1メートル。

だが未だにボールは真っ直ぐ、先頭のピンの中心を捉えている。

お、お、お?と、伝播していき、次第にどよめきになる。

 

『おおおおおおお????』

 

 

そして遂に、その時は訪れた。

 

コツンと、先頭のピンが倒れる。

 

すると、二列目のピンが倒れる。

 

そしてその二列目のピンは三列目のピンを、三列目のピンは四列目を巻き込み倒していく。

 

 

そしてゆっくりとボールはレーンの奥へと姿を消した。

 

瞬間、歓声が上がる。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!』

 

事の行く末を見守っていた多くの生徒が響めきと歓声を上げ、目の前で生まれたドラマに拍手と指笛の惜しまない称賛を浴びせる。

 

歓声をその背に浴びた椎名は、片膝をついた状態から徐に立ち上がる。

 

そして、背を向けたまま、椎名は拳を高々と掲げたッ!!

 

『うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

 

一際大きな歓声が起こり、船中に響き渡る。

 

 

 

「…………なんだコレ」

 

石崎は一人、ポツリと声を漏らした。

 

 

 

一頻り騒ぎ終えた後、椎名は戻って来た。

その顔はどこか晴れやかで、“自分、一皮剥けてきましたよ”とでも言いたげだ。

 

ソファに腰かけると、当てられた雰囲気も冷めて来たのか、石崎に自慢げに声をかける。

 

「どうですか?石崎くん。ストライクを取りましたよ、ストライク」

 

ふふん、とでも言いたげな椎名に、石崎は容赦無い事実を浴びせる。

 

「あれ、スペアだぞ」

 

「…………………」

 

聞こえていないのかと思った石崎は、もう一度同じ事を言う。

 

「あれ、スペアだぞ」

 

「えっ…………?」

 

「だから、スペア」

 

「だ、だって、全部一度に倒せばストライクじゃ……」

 

「“一度に”じゃなくて、“一投目で”だからな」

 

「じゃあ……私………〜〜〜っっ!!!」

 

ボッと顔を赤くする椎名。先程までの事を思い出したのだろう。ストライクであれば格好がついたものの、事実はスペア。ストライクだと思い込んでいただけに余計にタチが悪い。

雰囲気に当てられた結果とは言え、気の毒に思わざるを得なかった。

 

 

 

その後なんとか椎名の調子を取り戻した所で、ようやく花山の出番だ。

レーンに向かう為に立ち上がると、花山は石崎に問い掛ける。

 

「大地」

 

「はい?」

 

「あのピンを全部倒せばいいんだな?」

 

「え?は、はい。そうですけど」

 

「わかった」

 

「あ、はい…」

 

何故あんな事を聞いたのか、それは後になって分かることだった。

 

 

もう一度言うが、花山はボーリングは初体験である。

ギャンブルなどの大人の遊びは経験していても、カラオケやボーリングに代表されるような、学生らしい遊びとは無縁だったからだ。

とは言え、ルールぐらいは把握している。線を踏み越えてはいけないとか、ピンを倒せば良いこととか、全部倒せばストライクであることとか。

 

そんな自身の認識が間違っていない事の確認が取れた花山は、一番重たい“らしい”ボールを片手で鷲掴む。

 

 

 

花山がレーンに立つと、またもや静寂がボーリング場を支配した。

 

原因は言うまでもなく、花山薫だ。

 

花山薫が有名人であることは今更説明するまでもない。

だが花山薫という生徒の実態は、噂以外で知ることは出来なかった。その噂も信じられないようなものばかりで、信憑性には欠ける。

そんな花山の“実力”。学力や運動神経とは直接関係しないが、花山薫という人間の実力を測るために、どのクラスもどんな材料だろうが欲しがっていた。

 

結果、花山の一挙手一投足に注目が集まっていた。

先程の騒ぎに吸い寄せられた生徒も増えており、先程よりもギャラリーは多い。

 

だが当然、花山にとってはどうでも良いこと。気にする必要も無い。

自らの数十メートル先に立つあの10本のピンを倒すため、花山は“構え”た。

 

 

 

そこにいた者達は口を揃えてこう言った。

 

『その“構え”は、まるで砲丸投げのようだった』

 

と。




あ、そうそう、よう実二年3巻読んだよ。
おもろいけど続きが気になり過ぎる。
早くあの辺まで書いて花山活躍させてぇ……

後、皆さんの解釈というかイメージを聞いときたいんですけど、花山って運ゲーに強いとおもいますか?弱いと思いますか?
花山が運ゲーに強いのは想像つくんですよね。でも弱いのもまた可愛げがあって想像つきやすいというか……。って事でアンケートよろです。

花山 運ゲーの強さ

  • 強い
  • 普通
  • 弱い
  • げきよわわ

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