もしかすると、万が一、他のクラスルートとかも書く可能性が微レ存。
評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
まだプロローグだけなのに赤バーついてるのバグかな?
Cクラス。
入学初日のクラスの雰囲気というのは、これからのクラスの雰囲気を大きく左右する。そこである程度の人のイメージは固定化され、クラスカーストが作られることとなる。
国が建てたこの学校も例外ではなく、クラスカースト制度から逃れることは出来ない。
入学初日のCクラスの教室は喧騒に包まれていた。
誰もが知らない顔であるために全員が仲良くなろうと声をかけていき、会話の輪は大きく広がっていく。
が、他クラスに比べればその喧騒も些か静かなものだ。
その理由は、数名が醸し出す雰囲気のようなものにある。
謂わゆる“話しかけるなオーラ”とでも言うべきだろうか。本などに視線を落として周りと関わらないようにしようというのではなく、目線が、雰囲気が、面構えが彼らに話しかけることを躊躇わせる。
彼らをあえて一括りにするとすれば『不良』と纏められるだろう。
とは言え、他の生徒達の会話を邪魔するような気もないようなので、他クラスに比べて静かとは言え会話は行われていた。
その会話が、突如として途切れた。
静寂に包まれるCクラス。
その原因は今教室に入って来た巨漢にあった。
顔に刻まれた2本の疵。袖から覗く手には無数の傷痕。190近い身長。力士を思わせるほど広い肩幅。
(どこからどう見ても学生じゃないッ!)
誰もがそう思っただろうが、それを口に出す者は誰一人として居ない。
いや、そもそも誰もがみじろぎ一つしていない。文字通り体が固まっているのだ。
当時の様子をCクラス、小田拓海は語ってくれた。
「そりゃあもう驚きましたよ」
「ホンットに漏れなく全員がシン……って鎮まりましたね」
「いや、そりゃそうなりますよ。ただガタイがデカいだけならアルベルトくんだっていましたから、さほど驚かなかったでしょうね」
「見ました?あの疵」
「初めて見ましたよ、あんな疵。アレは絶対なんかの刃物で斬ったやつですよ。だってあんなに深かったですもん」
「みーんな見てましたよ。チラッと視線を動かしたんですけど、誰とも話そうとしていなかった不良達も彼を見てましたね」
「……なんて言うんでしょう。最初この教室に入った時はね?不良達を見て“怖い”と思ったんですよ」
「だってホラ…見た目が荒っぽいし、筋肉もついてるから…ね?」
「でも、彼を見たら全く怖いと思わなくなりましたね……いや、流石に『全く』は嘘ですけど。ただ、彼に比べればマシというか、可愛いものだと思えてしまったんですよ」
「その後ですか?」
「いや、僕らは誰も喋らなかったですよ」
「でも、彼は小さい声で『ウス…』って言いながら入って来ました。めちゃめちゃ小さい声だったんですけど、妙に通りました。静まり返っていたからですかね?」
「彼はそのままゆっくりと教室に入って来て、ゆっくりと歩いて『花山薫』と書かれた机に座りました。その間も誰一人喋らなかったです」
「場違いかも知れないんですけど、そこで『あぁ、花山薫って言うんだ……良い名前だな…』なんて思ってたんですよね」
「花山くんはそのまま黙って腕を組んだので、もうそれ以上動かないことはわかりました」
「そのまま、全員が全員視線を交わしてましたね」
「『誰か喋れよ』『早く誰か喋ってくれ』『誰が喋る?』『誰か声掛けてみろよ』…とか、そんな感じで思ってたんじゃないですか?」
「全員が誰かが動き出すのを待ってたんですけど……一人、動き出した人がいたんですよ」
「誰とも話していなかった生徒の内の一人で、後から知ったんですけど『龍園翔』って名前らしいです。紫がかった長めの髪を揺らしながら立ち上がって、花山くんに近づいて行ったんです…………」
『よう』
「龍園くんが声を掛けると、花山くんが顔を上げました。その時、正直気が気じゃ無かったですね」
「なんでって……いかにも不良っぽい人が会話し合う訳ですし、喧嘩でも始まるんじゃないかと思ったんですよ」
『……………』
「花山くんですか?別に何か喋ったわけでは無かったですよ。顔を上げて目線を合わせただけでしたね」
「…その後ですか?」
『龍園翔だ』
『……花山薫』
「お互い名乗ったんです。龍園くんの方は後ろの方で座ってたので、花山の名前が見えてなかったんじゃないですかね?」
「龍園くんですか?終始笑みを崩してなかったと思いますよ」
「それで、龍園くんが手を出したんですね」
「あぁいや、そういう意味じゃなくて、握手を求めてってことです」
「後になって考えれば、龍園くんが握手を求めたのなんて花山くん以外には見たことも聞いたこともないので、龍園くんもある程度の力関係は見ただけで理解してたんじゃないですか?いえ、龍園くんにどういう意図があったかは知りませんけど」
『ん………』
「花山くんが手を出して、握り返したんですよ」
「え?握り潰したのかって?いやいや、いくらなんでも人の手を握り潰すなんて出来ないでしょ。…で、ええと……そう、花山くんも握り返して握手と相成ったんですね」
『……………』
『………ッ……』
「側から見てる分にはただの握手に見えたんですけど、何故か龍園くんが一瞬顔を顰めるような表情を見せたんですよ」
「その表情はほんの一瞬だったんですけど、その後は手を離して自分の席に戻って行きました」
「…これは勝手な想像なんですけど、龍園くんが花山くんの手を思いっきり握ったんじゃないですかね?」
「それで、花山くんも強く握り返してそれが思いの外痛かったから龍園くんは顔を顰めた……って風に見えなくもなかったんですよ」
「…その後ですか?龍園くんも花山くんも、龍園くんが席を立つ前の状態まで戻っただけですよ」
「その後は特に何も無かったですね」
「………まぁ、クラスの雰囲気はお通夜さながらでしたけど」
あれから誰一人として口を開くことなく始業を告げるチャイムが鳴ると、それと同時に一人の男性が教室に入って来た。
眼鏡をかけており、見たところ歳は30歳前後、その風貌は、あえて言えば悪徳弁護士を彷彿とさせる。
「新入生諸君。私はCクラスを担当することになった坂上だ。授業では数学を担当することになっている。この学校はクラス替えが存在しないため、三年間私が担任を務めることになる。よろしく」
クラスによっては「よろしくお願いしまーす」と軽い挨拶が返ってきていただろうが、残念ながらこのクラスはそうはならなかった。
その雰囲気を作り出した原因は言うまでもないだろう。
「…さて、今から一時間後に入学式が行われるが、その前にこの学校の特殊なルールに書かれた資料を配布させてもらう。入学案内と一緒に配布した物と同じ物だからキチンと把握している者は見る必要は無いがな」
そう言って資料を配った後、さらにもう一枚カードのような物を配布し始めた。
「今配っているのは学生証カード。敷地内の施設の利用や商品の購入などがこれ一枚で出来るようになっている。図書カードの万能版のようなものだと思ってくれれば構わない。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だ」
これがこの学校の特徴の一つでもある、Sシステムだ。
紙幣などで起こるトラブルを未然に防ぐ事が出来るという利点がある。
「施設では機械にこの学生証を通すか、提示する事で使用可能だ。ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっているが、今君たち全員に平等に10万ポイントが支給されている。1ポイントにつき1円の価値がある……つまり………」
10万円が配られたということになる。
これにはお通夜状態だったCクラスの面々も声を上げてしまった。
一度声が上がってから雰囲気が幾らか和らいだのか、生徒間で会話が交わされるようになっていった。
「この学校では実力で生徒を測る。この学校に入学出来た君たちにはそれだけの価値と可能性がある、と評価されたわけだ。遠慮することなく使ってくれて構わない。
ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりは出来ないので貯める事に得は無いぞ。
振り込まれたポイントは好きなように使って構わないし、ポイントを不必要だと感じたなら誰かに譲渡するのも構わない。
だがカツアゲなんかは当然許されない。いじめなどの問題にも学校は敏感だから気をつけるように。
…何か質問のある者はいるか?」
坂上は生徒達を見回すが、誰も手を挙げない。どうやら質問は無いようだ。
「……質問は無いようだな。では良い学生ライフを満喫してくれたまえ」
説明を終えたCクラスは、花山が入ってくる前の……いや、それ以上の喧騒に包まれていた。
10万という大金を得た彼らは、それぞれ出来た友達とどんな風に使うかを和気藹々と話し合っている。
つい先日までは中学生だったのがいきなり10万円分のポイントを得れば、当然水を得た魚のように金を使い込んでいくだろう。
かく言う花山も、どんなふうに10万ポイントを使うか想像を膨らませていた。
しかし、一向に思い浮かばないでいた。
まず、花山は基本的に娯楽……趣味を持たない。敢えて言えば戦いがあるが、それは金で買うものでは無い。
ならば金を使う先が無いのか…と聞かれれば答えは否だ。
例えば酒。未成年ではあるが、花山のガタイと境遇を考えればバーカウンターで酒を飲んでいたとしても誰も不思議がる者はいないだろう。
例えばタバコ。酒と同様の理由である。
しかし、しかしである。
ここは学生の街。生徒である自分が果たして酒を買えるのだろうか、タバコを買えるのだろうか。
答えは否である。
花山とて未成年の飲酒と喫煙が法律違反であることは承知の上だ。だが、法律を犯したところで誰が彼を裁けるというのだろうか。例え警察の目の前でタバコを吸い、酒を飲んでいても咎める者はいないだろう。
だがここは学生の暮らす街。立場は当然学校側…教師が上だ。彼らが飲酒と喫煙の罰として退学を言い渡すのならば、それに従う他はない。
だが木崎達には『三年間キチンと学校生活を送ってくる』と約束して出てきたのだ。例え約束していなくても勝手に約束してそれを守ろうとする花山であるが、口に出して約束している以上絶対に破る訳にはいかない。
つまり、バレてはいけないのだ。
飲酒も喫煙も。
だから、学校側が監視している可能性があるポイントを使用しての酒やタバコの購入をすることは出来ない。
ならば何に使うのか………。
とそこまで考えた所で、一人の少女が声を掛けて来た。
「あの…………」
「……ん」
花山が声の主に目を向けると、そこに立っていたのはライトブルーのロングヘアーの少女だった。
「椎名ひよりと言います。お名前を聞いても良いですか?」
「花山薫…」
「花山くんですね。よろしくお願いします」
「ん」
この時、Cクラスの意識はまた一点に集中することとなった。
もし彼らの心情がこの場に現れていたなら、このクラスは拍手と喝采が鳴り止まなかっただろう……「よく声を掛けた!」「すげー!」「可愛いー!」と。
「凄く身体大きいですね……それに筋肉も……触っても良いですか?」
この時、観客()達の内心の興奮は最高潮に達していた。
花山相手に声を掛けただけでなく、お触りすらも要求したのだ。声を掛けただけで拍手喝采なのだから、そのお願いの瞬間はもはや感涙に咽び泣いていたことだろう。
だが、花山はそれほど口数が多くないことはこれまでの会話の中でも察しがつく。例外はあるが、口数が少ないということは基本的に気難しい人であることが多い。
そんな花山へのお触りのお願い。
誰もが『そんなお願いを聞いてくれるわけがない』と落胆の表情を浮かべずにはいられなかった。
「ん……」
が、予想に反して花山は腕を差し出したのだ。
全員が『聞くんかい!!』と心の中でツッコミを入れたに違いない。
「うわぁ……」と感嘆の声を漏らしながら、椎名は自身の顔ぐらい太い腕をニギニギと触っていく。
「凄いですね……鍛えてるんですか?」
そりゃそうだろ……そう誰もが思った。
「いや……鍛えたことはねぇ……」
嘘つけ!……そう誰もが思った。
「へぇ〜、そうなんですか」
嘘に決まってんだろ!……そう誰もが思った。
本当に花山は今まで一度も鍛えたことなど無いのだが、それを証明出来る人物も方法も、何一つとして持ち合わせてはいないのだった。
うーん、花山とか坂上先生とかの口調ってこんな感じでいいんかな……。変なところあったらまた書き換えていくかも。
もっとインタビュー形式増やしても良い?結構書いてて楽しいんよね。読んでる側からしたらどうなんかな?
あ、念のために言っときますけど、別に(椎名がヒロインというわけじゃ)ないです(ヒロインじゃないとは言ってない)。