実力=握力=花山最強   作:たーなひ

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読み返したら40点は流石にちょっと高い気がしてきたんで32点に変えます(50歩100歩)


六の拳

5月最初の始業のタイムが鳴ると同時に、坂上先生が教室に入って来た。

 

「これより朝のホームルームを始めるが……何か質問はあるか?」

 

坂上先生が教室をぐるりと見回しながら生徒達に問いかけると、一人の生徒が手を上げた。

 

「あの、ポイントが50000ぐらいしか振り込まれてなかったんですけど……」

 

毎月1日に10万ポイントが振り込まれると聞いていたが、実際に振り込まれたのは5万ポイントほどしか無かった。

 

他の数人の生徒も気になっていたのか、彼の質問に肯きながら坂上先生の答えを待っている。

 

「前に説明した通り、毎月1日にポイントは振り込まれていて、今月もそれは確認済みだ……ここまで言えば分かるだろう?」

 

まだ数人は疑問そうな顔をしている。

 

「え?つまりどういうことだ?」

 

その筆頭である石崎が椎名に問いかける。

 

「私達に振り込まれたのは5万ポイントで、それは学校側のミスでもなんでもない……ということです」

 

「はぁ?毎月10万ポイント貰えるって言ってたじゃねぇか」

 

「いえ、『毎月ポイントが貰える』ことと『今回は10万ポイントが振り込まれている』ということしか言っていませんでした。『毎月10万ポイントが貰える』とは一度も言ってなかったんですよ」

 

 

「……そうだっけ?」

 

「椎名の言う通りだ。来月も振り込まれるのが10万ポイントと君たちが錯覚していただけだ。ポイントはクラスの評価と連動している。減点方式で評価が付けられ、残ったポイントが5万ポイント分だけだったと言う話だな。既に気付いていた生徒も居たようだがな…」

 

そう言って龍園の方へ視線を向ける坂上先生。

 

視線を向けられた龍園が坂上先生に問いかけた。

 

「そんなのどうだっていいんだよ、先生。知りたいのは内訳だ」

 

「残念だが、詳しい内訳は教えられない決まりになっている。だがそうだな……その理由は君たちにも心当たりがあるはずだ」

 

そう言って石崎、アルベルト、花山、龍園を見回す坂上先生。

 

「……なるほどな」

 

この前の事なんかは教室に取り付けられた監視カメラによって筒抜けだったということだろう。

 

「さて。じゃあ本題だ」

 

そう言って黒板に大きな紙を貼り付ける。

 

そこに書かれていたのはクラスの成績表。

 

Aクラス…940

Bクラス…650

Cクラス…490

Dクラス…0

 

「1クラスポイントにつき100ポイント分の価値があるわけだが、これを見れば分かる者もいるだろう。この学校は優秀な者からAクラスに、不良品は下位クラスに集められている。つまり、君達は下から2番目だという評価を受けたというわけだ」

 

その言葉で、数人の顔に衝撃が走る。

 

「加えて言えば、このクラスポイントはクラスの評価をそのまま表している。つまり、1000ポイントを残したまま今月を迎えていればAクラスに上がっていたということだ。そして君らに残念なお知らせだ。この学校の進学・就職率100%という恩恵を受けられるのはAクラスのみ。その恩恵を受けたいならAクラスを目指したまえよ」

 

「「「はぁぁ〜!??」」」

 

数人の男女から悲鳴にも聞こえる声が上がった。

 

この学校の『進学・就職率100%』という恩恵を目当てにこの学校に来た者は非常に多い。

その恩恵が得られるのが限られた一部のみだと言われれば当然不満は生まれる。

 

「そんなのめちゃくちゃじゃないですか!」

 

「Aクラスに上がりさえすれば問題無いだろう?」

 

「…っ!」

 

「……さ、もう一つ君らにとって残念なお知らせだ。まずはこれを見てもらおう」

 

そう言って、クラスの成績表とは別の紙を広げて貼り付ける。

 

「これは先日行った小テストの結果だ。クラス毎の平均点は学年で3位だが……どういう順位になっているかは言わなくとも分かるだろう」

 

点数を見れば一位は金田悟、椎名…と続いていく。

 

当然、一位の他に最下位も気になってしまうわけで……。

 

「え……」と誰かが言った。

石崎だったかも知れないし、ここにいる全員が言ったのかも知れない。

 

 

花山薫 32点

 

 

誰もが目を疑っただろう。

真面目に授業を受け、授業の合間には予習復習を欠かさない。

模範的な優等生とも言える花山が、まさかのクラス最下位であることに。

 

「……まぁ、小テストについて多くは語るまい。残念なお知らせというのは、定期テスト赤点を取った生徒は退学になる…ということだ。つまり……」

 

花山を含む数人の名前の上に赤線が引かれる。

 

「今回の小テストで言えばこの赤線以下の生徒達は退学……ということだ」

 

ぺキャ

 

乾いた音がやけに教室に響いた。

 

音のした方を見れば、花山がペンをバッキバキに握り潰していた。

 

ゾクリ…と教室に緊張が走る。

アルベルトと龍園を一撃で沈め、ペンを容易く握り潰すような男が暴れ出せば、一体誰が止められると言うのだろうか。

 

「は、花山さん……あの……」

 

「……先生」

 

石崎が落ち着くように言葉を掛けようとするが、それを遮るように花山が重苦しい声を出す。

 

「な、なんだ?」

 

「……退学ってホントなんですかい?」

 

「……あぁ、正真正銘の真実だ」

 

「そう……ですか……」

 

はぁぁ〜……と大きく溜息を吐き出す花山。

 

クラスの面々は癇癪を起こして暴れ出さないか心配していたが、今のところそれは杞憂に終わったと言えるだろう。

 

だが依然としてこの学校を吹き飛ばしかねない程の爆弾であることに変わりは無い。

一刻も早くこの状況を変える必要がある。

 

 

そして、そこで石崎は声を上げた。

 

「だ、大丈夫ですよ!」

 

「……大地」

 

「俺でも50点取れたんですから、花山さんが取れない訳無いですって!花山さんなら出来ます!」

 

「…………」

 

『俺でも50点取れるテストで32点しか取れなかった程度のバカ』と言っているようにも聞こえるが、そういう意図で喋った訳じゃ無いことはわかり切っているので突っ込みはしない。

 

石崎に続いて、この流れに乗ろうと他の生徒達も声を掛けた。

 

「そ、そうだよ花山くん!」

 

「花山くんなら出来るよ!」

 

「一緒に頑張ろう!」

 

「今日から勉強会だな!」

 

「お、それ良いな!みんなで退学者なんか出さないように頑張ろうぜ!」

 

「私、勉強教えてあげるから!」

 

「分からないが事あったら何でも聞いてくれて良いんだよ?」

 

「みんな………すまねぇ………」

 

やいのやいのと花山にエールを送り続けるCクラスの生徒達。

 

実際のところ彼らは、花山が癇癪を起こす事を危惧して花山の退学を阻止する動きをしているのだが、側から見れば熱い友情シーンに違いない。

 

そんな学園ドラマさながらの友情シーンを見せられ、坂上先生は知らず知らずのうちに目頭が熱くなっていた。

 

兼ねてから、花山は要注意生徒の一人だった。

龍園も問題児ではあるが頭が切れるので、さほど世話は掛からないだろうと踏んでいた。

花山に関しては事情が事情だ。中学での生活態度や面接では特に問題は無かったが、荒っぽいイメージが拭えることは無かった。

有り体に言えば心配だったのだ。クラスに馴染めるのか、友達は出来るのか、最初の定期テストで退学してしまわないか……と。

だが、それもこの状況を見れば杞憂だったと分かる。

早々に石崎や椎名と友達になり、共に行動を取っている。そしてクラスメイトの信頼を集めていた為に、今こんなふうに周りが花山を助けようと一丸となっているのだ。

 

(花山……みんなから恐れられているのかと思っていたが、こうしてみんなからの信頼も勝ち取っていたんだな……良かった……)

 

一番の心配事であった花山について一安心することが出来た坂上先生は、少し鼻をすすりながら話を続ける。

 

「グスッ……あー、じゃあ、これで連絡事項は終わりだ。君たちが赤点を回避する方法は必ずあると確信している。テストに向けてしっかりと頑張ってくれたまえ」

 

そう言って足早に教室を出る坂上先生。

 

 

「よーし!じゃあみんなで花山さんを退学させないように頑張るぞー!!」

 

「「「おーーーーー!!!!」」」

 

石崎が音頭を取り、クラスメイト達が応える声を聞いて、坂上先生はまた少し眼鏡を濡らしたのだった。

 

 

 

その日の昼休みから早速、花山定期テスト対策講座(後にこう呼ばれる事となる)がスタートしていた。

 

「ーーだから、ここはこうなって、こうなるわけなんですよ」

 

「ん、なるほど」

 

「花山氏は理解力が高くて助かります」

 

「……教え方が良いんだ」

 

「やめてくださいよ……」

 

講師は金田。図書室で行っていることもあり、花山一行と金田を交えた4人だけの少人数の講義となっていた。

 

「しかし、不思議ですね。そこまで理解力があるのに、どうしてあの程度のテストであんな点数を?」

 

金田としては単純に疑問だったのだろう。

数十分花山に教えてみたが、バカでは無いと感じていた。考える力だったり、理解力は低くは無い……むしろ高いとすら言える。少なくともあのテストで32点なんて点数を取る筈が無いと思えるほどには。

 

しかし金田からすれば何気ない質問でも、花山からすれば立派な地雷だ。

花山は自分がバカであることは知っている。だがそれを見せないように、バレないように取り繕ってきた。それは自らのプライドの為ではなく、他人からの期待に応える為。

 

そんな恥の象徴とも言える32点を掘り返される事は地雷に他ならなかった。

 

それを分かっていた石崎は「バカ!」と小声で金田を咎める。

 

「……………」

 

当の花山本人は、ズレてもいない眼鏡の位置を直そうとしながら居心地悪そうにしていた。

 

 

先程まで明るかった雰囲気が金田の何気ない一言によって一気に淀む。

 

この空気では講義など……と誰もが諦めていたその時、一筋の風が吹いた。

 

「知識が定着していない……のではないでしょうか?」

 

風の名は“椎名ひより”。現状対花山最終兵器である。

 

その風に乗らない手はないと、金田が椎名に問いかける。

 

「定着……ですか?」

 

「はい。見たところ考える力に関しては問題無いようでしたので、問題があるならそれを扱う為の知識の方ではないか…と」

 

「ソイツはおかしいぜ?花山さんは毎日予習してるし、授業だってちゃんと聞いてる。()()()()()()()()()()()()()()()、それでも知識が定着してないなんて事があるのか?」

 

対花山最終兵器“椎名”は、石崎が『家でも復習だってしてるだろうし』と言った瞬間の花山の僅かなみじろぎを見逃さなかった。

 

「花山くん、家でもキチンと復習をやっていますか?」

 

「………………」

 

答えない花山。

 

「家でもキチンと勉強をやっていますか?」

 

「………………」

 

答えない花山。

 

「……そうでしたか」

 

「そういうことでしたか……」

 

椎名と金田が理解出来たと声を上げた。

 

まだ理解出来ていない石崎が椎名に問いかける。

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「花山くんは復習不足で知識が定着していなかったんです」

 

「人間は覚えた事を何度も復習しておかないと直ぐに忘れてしまうんですよ」

 

椎名の言葉に続けて金田が応える。

所謂忘却曲線というやつだ。

 

「これで謎が解けましたね」

 

椎名が締めくくった所で、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。

 

後の事はまた放課後決めようということで、花山定期テスト対策講座の第一回目は終了したのだった。

 




花山が入ったせいで増えた喧嘩分のマイナスポイントは、石崎が真面目に授業受けた事によるプラスと、花山の圧力によって私語が無かったプラスによって相殺されてるとします。
そりゃいっちばん悪そうで怖い奴が真面目に授業受けてたら私語とかの邪魔になるような事したくなくなるよねって話。
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