腐れ縁という名の引力   作:ぶらじる丸

1 / 1
ジリリリリリリッ!!!!

盛大な音量で目覚ましが鳴り響く。

「んぅぅ…」

目覚ましを止めようと手を伸ばす。しかし…

…バンッ。

明らかに誰かが自分より先に目覚ましを止めた。

「ほら!リュウ!起きなさい!」

そして誰かが必死に体を揺すりながら呼びかけてくる。

「もう!遅刻するわよ!はやく起きて!」

「んぅぅ……うるせぇな起きるっての」

そして俺はようやく体を起こした。

「…おはよ」

「あぁ…おはよ」

起きるとそこに居たのは幼馴染だった。



幼馴染

「…ったく人の部屋に勝手に入り込みやがって」

 

「ふんっ。あたしが居なきゃ起きられなかったくせに」

 

幼馴染とグチグチ言い合いながら通学路を歩む。

 

「お前が居なくても起きれるっての。目覚まし時計止めようとしてたろ」

 

「どうせあたしが居なかったら目覚まし時計止めて二度寝しちゃってたんでしょ!?」

 

「しないっての」

 

幼馴染が毎朝起こしに来る現象は高校生になって暫く経ったある日から続いている。

 

「まぁでも、ありがとな」

 

「なにがよ」

 

「毎朝心配してくれて」

 

「は!?…だ、誰があんたの心配なんか!」

 

そして幼馴染は赤面した。

 

「相変わらず素直じゃないなお前は」

 

「う、うっさい!次変なこと言ったらもう起こしてあげないんだからね!」

 

「はいはい分かった分かった」

 

高校生活2年目の初日ということなんかお構い無しに登校した。

 

学校に着くと昇降口には新クラスの紙が貼り出されていた。

 

「神野…カミノ…」

 

我が名である「神野(かみの) 龍路(りゅうじ)」の字を探していく。

 

「んっ」

 

しかし自分より先に幼馴染が見つけて指さした。

 

「お前人の名前を探す前に自分の名前を探せよ」

 

「もう見つけたけど」

 

「え?」

 

「ほら」

 

幼馴染が再び指さした先を見るとこいつの名前である「城崎(きのさき)李都奈(りとな)」の字が確かにあった。

しかもよりによって俺の名前のひとつ下に。

 

「また同じクラスかよ」

 

「またってなによ!」

 

「お前こそ俺とまた同じクラスになるのは嫌だとか思ってんだろ?」

 

「そ…それは…」

 

てっきり速攻で肯定されると思ってたが李都奈は意外にも言葉を詰まらせた。

 

「違うのか?」

 

「いや…だから…」

 

李都奈はどこか恥ずかしそうにもじもじしている。

 

「まぁ俺も また って言ったけど、別に嫌って訳じゃない。なんだかんだでお前と居ると落ち着けるしな」

 

「え、ほ…本当?」

 

「あぁ本当だ」

 

「…!」

 

李都奈の顔が赤くなった。

 

「なーに照れてるんだよ。ほら、行くぞ」

 

「べ、別に照れてないし!それにあんたとクラスが一緒になれたからって全然嬉しくなんかないんだから!」

 

「はいはい分かりました」

 

どこまでも素直じゃない幼馴染と共に新しいクラスの教室へ向かった。

 

教室は早速ガヤガヤした雰囲気に包まれていた。

 

「オーッス」

 

「あ、リュウ!お前とまたクラス一緒になったぞ!」

 

「また車の話が出来るな」

 

大希(だいき)という車のことでよく気が合うクラスメイトが真っ先に話しかけてきた。

 

「あー大希、お前何番?」

 

「えーと、15番」

 

「ってことは…」

 

「この席でしょ?」

 

李都奈が俺より早く席を見つけた。

 

「うん。それだな」

 

席も分かったので早速椅子に腰掛けた。

今年のクラスは30人で座席は1列につき5席の並び。

 

俺の出席番号が9番で李都奈が10番のため、よりによって俺の真後ろに李都奈が来る並びとなってしまった。

 

「お前の真ん前になるとはなぁ」

 

「な…なによ。あ、あたしが居ないと落ち着いて居られないくせに…」

 

「お前が居ないと落ち着けないとは言ってないけど?」

 

「…こっち見ないでよ。バカ」

 

さっき程ではないがまた李都奈の顔が赤くなった。

 

「なぁ、リュウと李都奈てどんな関係なんだよ?」

 

先程の大希が声をかけてきた。

 

「えっ!?」

 

「ただの幼馴染だよ」

 

大希の問に言葉を詰まらせた李都奈にお構いなく俺は答えた。

 

「へぇー。1年の頃からずっと一緒に居るからてっきり付き合ってると思ってたんだけどな」

 

「…あ、あたしがこんな奴とつ、つ、付き合うわけないじゃない!」

 

大希の返答に明らかに動揺してる李都奈。

 

「こんな奴で悪かったな。まぁそういうことだ大希」

 

「俺は2人ともお似合いだと思うけど?」

 

「人のこと こんな奴 呼ばわりする女がお似合いなわけないだろ」

 

「なんか勿体ないなぁ」

 

そんな話をしていると

 

「よーし全員席に着けー」

 

と言いながら先生が入ってきて皆慌てて着席していく。

 

「全員居るな?…よし、取り敢えずこれから始業式をやるから全員体育館に素早く移動するように。あと、トイレ行きたい人はさっさと行くように。以上」

 

手短に終わった。

 

「俺トイレ済ませて行くから」

 

「へい」

 

さっさとトイレを済ましに行く。

 

で、トイレから出ると…。

 

「…遅い」

 

何故か李都奈が待ち伏せしていた。

 

「お前なにしてんだよ。早く体育館に行けよ」

 

「あ…あたしもトイレ行ってたの!」

 

(うわー絶対嘘だ…。)

 

「行ってたにしても、先に済ましたならさっさと行け」

 

「う、うっさい!あんたはあたしが居ないと落ち着いて居られないんでしょ!だからこうやって待ってあげてるのよ!」

 

「あーもう分かったから早く行くぞ」

 

実に面倒くさい幼馴染である。

 

体育館に入るとすぐにクラス別で3列に整列させられた。当然出席番号順なので…

 

「またお前の前かよ」

 

「仕方ないでしょ!あたしだって好きであんたなんかの後ろに居る訳じゃないんだから!」

 

という幼馴染とのいざこざが発生するのである。

 

「そりゃ分かるけどさ…」

 

「分かってるならこっち見ないでよ。バカ」

 

「はいはい」

 

校歌を斉唱して校長が舞台に登壇した所でようやく床に腰を下ろさせてもらえた。

そして定番の校長先生による長い話が始まった。

 

…スーッ…スーッ…スッ…

 

背中を何かが走っている。

 

「んぅぅ…」

 

なんとなく柔らかいこの感触は……指だ。

 

「…」

 

「…!」

 

振り向くと李都奈はピタッと指を止めた。

 

「…この構ってちゃんが」

 

「…うっさい」

 

小声でまたいざこざ。その後も李都奈は指を俺の背中に何度も走らせた。

 

…バカ…アホ…マヌケ…

 

と書いたことは分かった。

そして校長の話は終わり、着任式が始まった。

 

「2年1組を担当していただくのは…神之池(こうのいけ)

雅紀(まさのり)先生です。」

 

「ワオ…」

 

我らが2年1組の担任となったのはまさかの去年と同じ先生。まぁ、普通に良い先生なので嫌ではないが。

 

着任式を終え、最後は生徒指導部の先生の話をもって始業式が終了した。

 

「あー終わったなぁ。あとはホームルームだけかぁ」

 

「昼前には帰れそうね」

 

「そんな感じだな」

 

教室に戻り先生が来るのを待つ。

 

「今年もあの先生かぁ」

 

「なんかクラス変わったって感じがしないわ」

 

「大体このクラス、前のクラスと面子があんまり変わってないんだって」

 

「あんたも居るしね」

 

「お前も居るしな」

 

そして例の先生がやって来た。

 

「はーい全員座れー」

 

そしてホームルームが始まった。

 

「それではまず順番に名前呼んでくから返事して」

 

早速先生はクラス名簿を出席番号順に読み上げ始めた。

9番なのであっという間に順番が回ってきた。

 

「神野 龍路」

 

「はい」

 

続けて

 

「城崎 李都奈」

 

「はい」

 

その後も淡々と先生は生徒の名前を読み上げていく。

そして最後は先生自身の自己紹介である。

 

「神之池 雅紀 です。担当科目は現代文。えーと…このクラスの大体半分は去年も自分が担任をした生徒です。なのでまぁ、去年も自分が担任だった人は引き続き、初めての人はこれからどうぞよろしくお願いします。」

 

その後は配布物を貰い、明日の予定を確認して今日の所は終了。

 

「よーし帰るか」

 

「バーイ、リュウ。」

 

「バーイ」

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

俺が教室から出ようとすると李都奈が慌ててついてきた。

 

「帰りぐらい別々に帰らないか?」

 

「あんたが落ち着いて居れるようにしてあげてるのよ。感謝しなさい?」

 

「はいはいありがたやありがたや」

 

またグチグチ言い合いながら学校を出る。

 

「どっか寄ってく?昼飯も食べたいし」

 

「お金あんまもってない」

 

「じゃあ奢ってやる」

 

「え…いいの?」

 

「あぁ」

 

すると李都奈は何故か黙ってしまった。

 

「どうした?具合でも悪いのか?」

 

「いやその…」

 

「ん…?」

 

また李都奈は恥ずかしそうにもじもじしだした。

 

「…ありがと」

 

「どういたしまして。で、どこ行く?イ〇ンにでも行くか?」

 

「そうする」

 

「よし」

 

学校からだと約30分はかかる距離だがどうせ暇だし歩いて行くことにした。

 

「そういえばあんたの妹って今年高校生になるんじゃないの?」

 

「うん。なるよ」

 

「どこの高校行くの?」

 

「聞いて驚くな?うちの高校だぞ」

 

「え!?」

 

驚くなと言ったのに思いっきり驚いている李都奈である。

 

「あいつ、俺が居るって理由だけで受験しやがったからな」

 

「あんただって家が近いからって理由であの高校に行ったんでしょ」

 

「面接で言う志望動機なんてその高校のこと調べたら大体考えられるからな。てかお前はなんであの高校にしたんだ?」

 

そういえばお互い志望動機なんて全然知らないままだった。

 

「もともと滑り止めだったのよ。そしたら見事に他の高校の受験落ちちゃって…。でも奇跡的にあの高校には受かってたからそのまま入学したのよ」

 

「一緒に前期で受かったもんな」

 

「合格発表も一緒に見に行ったわね」

 

「あぁ。考えてみればガキの頃から俺とお前はずっと一緒だな」

 

「ずっと…一緒…」

 

また李都奈の顔が赤くなった。

 

「どうした?やっぱどっか具合悪いのか?」

 

「え…あ…な、なんでもないわ!」

 

「無理するなよ」

 

「無理なんかしてないわよバカ!」

 

「はいはい俺はバカですよー」

 

そんな話をしながら歩いていると約30分という時間もあっという間である。

 

「はぁ着いた着いた」

 

店内に入ると他校の生徒がちらほらと見える。

 

「で、何食べるの?」

 

「これが食べたいってのがないんだよな。取り敢えずなんか食べたいんだよ」

「は?なにそれ」

「お前なんか食べたいものとかないの?」

 

「あるけど…それじゃまるであたしがあんたに奢らせたみたいじゃない」

 

「いいから言ってみろよ」

 

「…ミ〇ド」

 

某ドーナツ屋だ。

 

「よし決定」

 

「本当にいいの…?」

 

「いいんだよ。ほら行くぞ」

 

という訳でその某ドーナツ屋へ。

 

「さぁどれにする?」

 

「えーと…あ、これ!」

 

「ハイ」

 

「あとこれも!」

 

「ヘイ」

 

李都奈の分を取りつつ自分のもホイホイ取ってゆく。

 

「あとは?」

 

「これでいいわ」

 

「OK。なんか飲む?」

 

「あのほら…なんとかパイナップル!」

 

「ゴールデンパイナップルか?」

 

「そう、それ!」

 

「分かった」

 

そしてお会計。

 

「ゴールデンパイナップル1つと烏龍茶1つ。あ、両方Mで」

 

「ドーナツ8点とドリンクMサイズが2点で合計1560円になります。」

 

「これで。レシートはいいです。」

 

「1560円丁度お預かりします。ありがとうございます。」

 

適当な席に座りいざランチタイム。

 

「いただきます!」

 

「いただきます」

 

口に入れた瞬間から広がる砂糖の甘い風味とモチモチな生地の食感に癒される。

 

「んー!やっぱりポンデ美味しい!」

 

「この味と食感は前から変わらないな」

 

俺がのんびり食べてるのに対して李都奈は次々とドーナツを口に入れていく。

 

「喉に詰まらすなよ?」

 

「分かってるわよ」

 

「そんなにドーナツ食べたかったのか」

 

「昨日夜の番組で出てたの。それ見たら食べたくなってきてね」

 

「ふーん。あ、口元に付いてんぞ」

 

「え!?」

 

「じっとしてろ」

 

テーブルに備え付けてあるティッシュを手に取り

 

「動くなよ」

 

李都奈の口元を拭く。

 

「んん…」

 

またまた李都奈の顔がどんどん赤くなっていく。

 

「よし取れた」

 

「か、勝手なことしないでよ!」

 

「なんだよー。せっかく拭いてやったのに」

 

「ふんっ。余計なお世話よ」

 

「毎朝起こしに来る方がもっと余計なお世話だと思うけどな」

 

「そ、それは…」

 

李都奈は言葉を詰まらせた。

 

「ごめん、冗談」

 

「…もう明日から起こしてあげない」

 

李都奈はむすーっとした。

 

「悪かったって。むしろああやって毎朝心配してくれて感謝してる。朝も言ったろ?」

 

「だ、誰があんたの心配なんか…」

 

「じゃあ毎朝起こしに来るのは嫌がらせか?」

 

「もう!なんだっていいでしょ?ほら、さっさと食べないとドーナツの砂糖が溶けるわよ?」

 

そう言いながら李都奈はまたドーナツを口に運び出した。

 

「はいはい」

 

俺も残りのドーナツを食していく。

 

最後は2人ともほぼ同じタイミングでドーナツを平らげた。

 

「ごちそうさま」

 

「ごちそうさん」

 

「これからどうするの?」

 

「ゲーセン行くか?」

 

「そうね。どうせ暇だし」

 

「よし、行こう」

 

という訳で2階にあるゲームセンターに向かった。

 

ゲームセンターには多数の他校の生徒が来ていた。

 

「流石に今日はみんな暇なんだな」

 

「で、なにするの?」

 

「湾岸でもするか」

 

「あーあのレースするやつ?」

 

「そうそう。お前もするか?」

 

「しないわよ。車とか興味ないし」

 

「だろうな」

 

早速某レースゲームの台へ。

 

「よーし空いてる」

 

シートに座り100円玉を投入しゲームが始まる。

 

「よし!キタキタァ!」

 

そして専用のカードをスキャンする。これにより自分だけのカスタマイズされた車を使えるようになる。

 

「スープラちゃ~ん」

 

使用する車はト〇タの80スープラ。20年以上前の古い車だが今でも世界で愛されているスポーツカーである。

車を決めてコースを決めようとしたその時

 

「えっ…」

 

横の台に誰かが座ってきた。

 

「おま…」

 

さっきまで後ろでずっとつまらなさそうに見ていた李都奈だった。

 

「べ、別にあんたと一緒にやりたいとか思ってなんかないんだから…!」

 

「お前さっきしないって言ったよな…」

 

「み、見てるのが退屈になっただけよ!」

 

「へぇ…」

 

李都奈は急いで100円玉を入れた。

 

「マジかよ…」

 

コースと時間帯を決めていよいよレースが始まると思いきや〇産GTRの対戦者が現れた。

このゲームの台はここには2台しかない。なので必然的に李都奈が対戦者ということになる。

 

「お前絶対最初からその気だったろ…」

 

「…き、気が変わったのよ!」

 

「ふーん…」

 

ようやくレースが始まった。

 

「しっかり着いてこい」

 

「ぶち抜いてやるわよ!」

 

まずはストレート勝負。

 

「まぁ直線はいい勝負だな」

 

「あたしの方が速いわ!」

 

李都奈が徐々に抜いていく。

 

「はいはい速い速い」

 

続いてコーナーリング勝負。

 

「どこを走っている」

李都奈は大きく外側に膨らんだ。

 

「え、うそ!?」

 

「下手くそが」

 

ガラ空きの内側を抜けて李都奈を追い抜く。

 

「誰があんたなんかに!」

 

再びストレートだが、今度は邪魔な位置にトラックやら乗用車が走っている。

 

「あーもう!邪魔!」

 

李都奈との距離がどんどん空いていく。

 

「どうした李都奈!ぶち抜くんじゃなかったのか」

 

「うっさい!今に見てなさい!」

 

李都奈もなんとか邪魔な車を躱しながら追いついてきた。

 

「そう来なくっちゃな」

 

そしてまたコーナー。

 

「今度こそ…!」

 

「さっきよりいいな」

 

さっきよりは内側で曲がれている李都奈。

 

「…まぁ勝たせないけど」

 

李都奈のさらに内側を取りコーナーを抜ける。

 

「あぁ!もう!」

 

そこから結局李都奈は1度も俺を抜かせないままで終わった。

 

「あー楽しかったー」

 

「ふんっ」

 

「そうかっかすんなよ」

 

「うっさい。話しかけないでよバカ」

 

李都奈は一気に機嫌を損ねてしまった。

 

「所詮ゲームだろ?そんなムキになんなよ」

 

「ゲームでも悔しいものは悔しいの!」

 

なんとかこいつの機嫌を直したい。

 

「…あ」

 

その時ある物が視界に入った。

 

「李都奈」

 

「なによ?」

 

「お前ああいうの好きだろ?」

 

「え?……わぁー!」

 

李都奈はすぐにある物の方へ駆け寄った。

そこにあったのはUFOキャッチャー。中には可愛らしい兎のぬいぐるみが置かれていた。

 

「可愛い~!」

 

「欲しいのか?」

 

「欲しいけど…さっきので100円玉無くなっちゃたし…」

 

「そうか。じゃあ取ってやる」

 

「え、いいの?ドーナツも奢って貰ったのに…」

 

「これで機嫌直してくれるか?」

 

「…うん」

 

「よし」

 

早速機械に100円玉を投入。

 

「こりゃ1回では無理そうだな」

 

普通に掴みに行ってては財布が空っぽになってしまうであろう。

 

「押すか」

 

アームが開くのを利用して穴に落とすことにした。

 

「ここかな」

 

アームを狙った位置に持ってきて下ろす。

 

「落ちろっ!」

 

アームが開くと確かにぬいぐるみは押されて穴の方にズレた。だが流石に落ちはしない。

 

「まぁ無理だわな」

 

再び100円玉を投入。

 

「これもしかしたら落ちるかもな」

 

「え、本当!?」

 

「半分穴の上に出てきてるから、そこをアームで押し当てる感じにしてやれば行けるかもしれん」

 

有言実行。今度はアームの片方だけをぬいぐるみの穴の上に出ている部分に押し当てられる位置に持っていく。

 

「ここかな」

 

アームが下がる。

 

「落ちろ」

 

ぬいぐるみがアームに押し潰される。

 

「…あ」

 

「お…?」

 

そして見事にシュッとぬいぐるみは落ちた。

 

「やったぁ!」

 

「落ちたな」

 

早速回収して李都奈に渡す。

 

「ほらよ」

 

「…ありがと」

 

少し恥ずかしそうに李都奈は言った。

 

「で、次はどうする?」

 

「…ねぇ」

 

「何だ?」

 

「…あれ」

 

さらに恥ずかしそうに李都奈はある場所を指さした。

 

「ん?…えっ」

 

そこにあったのはプリクラだった。

 

「お前…正気か?」

 

「…な、なによ!どうせあんたはあたしくらいしか一緒にプリクラ撮る人居ないんでしょ!」

 

「だったとしてもなんでお前なんかと撮らなきゃいけないんだよ!?」

 

「なんかってなによ!あたしとプリクラ撮るまで絶対帰らせないからね!」

 

「なんだよそれ!?絶対俺は撮らんからな!?」

 

俺がなんと言おうと李都奈は腕をグッと掴んで離さない。

 

「 …そんなにあたしとプリクラ撮るの嫌?」

 

急に大人しくなった李都奈。

 

「てか撮る撮らん以前にお前もう金持ってないんだろ?」

 

「…後で返す」

 

「…あーもう分かったよ!撮るよ!撮ればいいんだろ?」

 

「よろしい」

 

李都奈は勝ち誇るかのようにニヤッとした。それにイラッとしつつプリクラの方へと足を進めた。

 

「人生で初めてプリクラ撮るぞ…」

 

「ほら、お金入れて」

 

「えーっと…は?1回400円も取るのか?」

 

「そんなものよ」

 

「へぇ…」

 

こんなことで100円玉4枚を消費することになるとは…。

 

「ポーズどうする?」

 

「お前に任せる。マジでこういうの分かんないから」

 

「それじゃあ、うーん…これにする!」

 

「もう入っていいのか?」

 

「うん!始まるわよ!」

 

さぁ、プリクラの中へ。

 

「どんなポーズするんだ?」

 

「それは今からのお楽しみよ」

 

そして撮影が始まった訳だが、早速俺は困惑させられた。何故ならプリクラから

 

「背中合わせになってね!」

 

という指示が飛んできたからである。

 

「は?背中合わせ!?」

 

「ほら、はやくしなさいよ」

 

「あぁ…ごめん」

 

「腕も組むの!」

 

「あ、ハイ…」

 

なにが悲しくて幼馴染とこんなことをしなきゃいけないのか…。恥ずかしくて仕方がない。

 

「ほら、次よ」

 

「おう…」

 

次はもうちょいシンプルなポーズを…と思っていたが

 

「横向きに並んで肩に手を置いてね!」

 

という指示でその願いもあっけなく散った。

 

「ほら、肩よこしなさいよ」

 

「はいよ」

 

李都奈の手が俺の肩に乗った。

 

「お前なんでこんなポーズ選んだんだよ…」

 

「これがいいって思ったの。ほら、もっと笑って」

 

「ハイハイ…」

 

そして次のポーズは…

 

「友達のほっぺをツンツンしてね!」

 

という指示の通り相手の肌に直接触れるポーズである。

 

「ほら、じっとして」

 

「あ、ハイ…」

 

李都奈の指がほっぺにむにゅっとした感触で当たる。

 

「もう、どうしてそんな硬い表情しか出来ないのよ。ほらもっと笑って!」

 

「あぁ…」

 

もういい加減終わって欲しい。しかしそんな願いはまたも

 

「頭をナデナデしてね!」

 

というプリクラの指示の前に一瞬で散った。

 

「ナデナデって…」

 

「…ん」

 

李都奈が俺の肩にもたれて頭を差し出してきた。

 

「…ほら、撫でなさいよ」

 

自分からプリクラ撮りたいって言ったくせにめちゃくちゃ恥ずかしそうにしている。

 

「お前なぁ…」

 

でも何故かそんな姿のどこかに可愛げを感じてしまう自分が居た。

 

「仕方ない奴め」

 

李都奈の頭にポンっと手を置いた。

 

「…んぅぅ」

 

どんどん李都奈の顔が赤くなっていく。

 

「恥ずかしがってないでもっと笑えよ」

 

「う、うっさい!あんたより綺麗に笑えるわよ!」

 

すぐに李都奈はニコッと笑顔を作り出した。

 

全ての撮影が終わり最後は撮った写真をデコレーションする。

 

「なんて書こうかなー」

 

「もうお前に任せるよ」

 

「えーちょっとはあんたもなんか書いてよ」

 

「なんかって言われてもなぁ…」

 

どうデコレーションするか悩む俺を他所に李都奈はスラスラとタッチペンを走らせる。

 

「じゃあ…」

 

俺も渋々と筆を走らせ始める。

 

「こんな感じか?」

 

取り敢えず「幼馴染」と書いておいた。

 

「もうちょっとマシなの思いつかなかったの?」

 

「まさか大好きって書いて欲しいのか?」

 

「は!?だだ、大好きだなんてあんたに書かれてもちっともう、嬉しくなんかないんだから!」

 

急に動揺し出す李都奈。

 

「じゃあ大嫌いは?」

 

「そ、そんなこと書いたら即消すわよ?」

 

「ま、そんなことは書かないけどな。別にお前のこと嫌いじゃないし」

 

「ふぇっ…?」

 

でまた李都奈の顔が赤くなる。

 

「嫌いだったら一緒に学校行ったりこうやって遊んだりしないっての」

 

「帰りは別々で帰ろうとしてたくせに…」

 

「そんなに俺と帰りたかったのか?」

 

「そそ、そんなことちっとも思ってないわよ!」

 

李都奈はまた動揺する。

 

「教室出る時追いかけて来たくせにどの口が言うか」

 

「あんたこそ嫌だったらさっさと行けばいいじゃない」

 

「別に嫌って訳じゃない。お前がついて来たくてついて来るならそれでいい」

 

「か、勘違いしないでよね!あたしは別にあんたと一緒に帰りたいとかこれぽっちも思ってないんだから!ただあんたが1人だと何やらかすか心配というか…その…」

 

「分かった分かった。とにかく明日からもずっと一緒に帰ればいいんだな」

 

「そ、そうよ。あんたはあたしの傍から離れちゃダメなんだからね!?」

 

「分かった分かった」

 

しょうもないことでグチグチ言い合いながら写真のデコレーションを完成させていった。

 

「出来た!」

 

「うん。いいな」

 

あとは完成した写真をプリントアウトするだけだ。

 

「あたしケータイにこの写真落とすけど、欲しい?」

 

「一応貰っとくよ」

 

「後で送っといてあげるわ」

 

「よろしく」

 

プリントアウトされた写真を受け取りことは終了した。

 

「そろそろ帰るか?」

 

「そうね」

という訳で店を後にした。

 

「そういえば、明日からあんたの妹が入ってくるのよね?」

 

「あぁ」

 

「ならあんたの妹、学校に居る間はあたしが面倒見てあげるわ!」

 

「是非お願いしたい。きっとあいつも喜ぶ」

 

「ま、あの子はあんたよりあたしに懐いてるみたいだし?」

 

そしてドヤ顔する李都奈。

 

「無理ないかもな。女同士でしか分かり合えないことだってあるだろうし」

 

「実の兄なら悔しがりなさいよ!」

 

「ハイハイ悔しい悔しい」

 

「その言い方むかつく!」

 

またまたグチグチ言い合いながら家まで帰るのであった。

 

「じゃあまた明日な」

 

「うん。また明日ね」

 

ここで李都奈とはお別れ。

 

「ただいまー」

 

「あ、おかえりお兄ちゃん!」

 

真っ先に出てきたのは妹だ。

 

「ハル。明日入学式だけどお前どうやって学校行くんだ?」

 

「明日はお母さんと一緒に行くよ」

 

「新入生は俺達より学校来るの遅いのか」

 

「お兄ちゃん達はいつも通りなの?」

 

「そう。明後日からはお前も俺達と一緒に登校だな」

 

「なら李都奈お姉ちゃんも一緒だよね!」

 

どうやら妹は明日よりも明後日の方が楽しみのようだ。

 

「あぁ。あいつはいつまで経っても俺にくっついて来るからな」

 

「李都奈お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きだからくっついて来るんだよ?」

 

「それはないな。あいつ言ってたぞ?こんな奴と付き合う訳ないってな」

 

「李都奈お姉ちゃん、本当にそんなこと思ってるのかな…」

 

「さぁな。さぁて一眠りするかぁ」

 

自分の部屋に戻り部屋着に着替えて速攻ベットイン。

 

(あいつが俺のことを…)

 

さっき妹が言ってたことが引っかかる。もし妹が言ってたことが…李都奈は俺のことが好きっていうのが本当だったら…ということを何故か考えてしまう。

 

「…まぁないよな」

 

そんなしょうもないことを考えていると知らぬ間に俺は眠りに落ちていた。

 

 




「主人公」
神野(かみの) 龍路(りゅうじ) 16歳。
勢州高校2年。
見た目がTHEエロゲの主人公。
スポーツカーを中心に販売する車屋を経営する父と母の間に生まれた。そんな両親の影響からか大の車好き。
平日の毎朝叩き起しに来たりいつまで経っても一緒に登下校したがる李都奈を少々鬱陶しがりながらも、幼少期からの幼馴染なだけあり友人以上の存在だと思っている。
目標は80スープラに乗ること。

「ヒロイン」
城崎(きのさき) 李都奈(りとな) 16歳。
勢州高校2年。龍路の幼馴染であり同級生。
長く伸びた白い髪をハーフアップにし、白い肌に赤い瞳を持つ。
素直になれない性格で、特に龍路の前ではその性格が強く表れる。その一方で平日の毎朝に龍路を起こしに来たり、龍路の妹である陽花の面倒を見たり世話焼きな部分もある。雷やホラー、暗い所が怖かったり可愛い物が好きだったり等、女の子らしい部分もきちんとある。
母は病で他界しており、今は父と暮らしているがその父も自身の経営する板金屋が忙しい時は帰って来ないため龍路の家に泊まりに来ることがよくある。

「ヒロイン2」
神野(かみの) 陽花(はるか) 15歳。
勢州高校1年。龍路の妹。
龍路や李都奈、同級生からはよく「ハル」と呼ばれている。李都奈のことをお姉ちゃんと慕っており、彼女からも可愛がられている。
雷は苦手だがホラー系は結構行けるようで、ホラー映像を見る度にビビりまくっている李都奈を見ては面白がっている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。