TS少女は堕としたい   作:鏑木ハルカ

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第16話 面倒ごとの予感

 迷宮の入り口から。木立の陰に隠れて様子を窺う。

 迷宮では怪我を治した瞬間、恩を忘れて襲い掛かってくる連中もいると、受付のお姉さんから聞いたことがあったからだ。

 見知らぬ人間が命を懸けて戦う迷宮では、ありとあらゆる危険に備える必要がある。

 こちらが少数だったり、非力だったりすると、例え命の恩人でも金を稼ぐための獲物と化してしまう。

 だから、まずは姿を隠し、相手が信頼できそうな人間かどうか、様子を見ることにしたのだ。

 

 視線の先では、男二人がもう一人の男に肩を貸して、迷宮から出てくるところだった。

 肩にぶら下がるように身を預けている男は意識がすでに無いようで、足元にパタパタと血の雫を滴らせていた。

 こちらから傷口が見えないところを見ると、背中に傷を負っている様子だった。

 男たちは厳つい顔をした三人組で、正直遠目からは山賊のようにしか見えない。

 というか、非常に危ない人に見える。顔に残された大きな傷、剃り上げて無くなった眉毛、肩に刻まれたドクロの入れ墨。

 これで真っ当な人間に見えたら、目の病気を疑った方がいい。

 

「うーん……」

「おじさんたち、危なそうだよ?」

「それ、どっちの意味で?」

 

 おじさんたち『が』危なそうなのか、おじさんたちの『命が』危なそうなのか。どっちの意味でも間違いではない。

 正直見た目が怖すぎて、できるなら近付きたくない連中である。

 そう考えた僕は、遠くからこっそり魔法を発動させ、離れた場所から治癒することにした。

 魔法の発動に必要なのは、発声と視認。声が対象に届く必要はないので、隠れて相手に魔法を掛けることは可能だ。

 結構深そうな傷だったので、使用したのは中級回復魔法の【中治癒】。

 

「なんだ、この光は!?」

「お、おい、傷が――」

 

 発動による淡い光のエフェクトにより、彼らは自分に何らかの魔法がかけられたことを悟る。

 そしてそれは、瞬く間に消えていく傷によって、どのような魔法かを知らせることができていた。

 

「回復魔法?」

「しかし、これほどの治癒効果は……まさか上級の【快癒】か!」

 

 いえいえ、中級の【中治癒】ですから!

 というか、回復魔法にもなんらかの補正がかかっているのか。ひょっとしたら初級魔法の【小治癒】でよかったかもしれない。

 

「周辺に誰かいるのか?」

「おい、シムスの奴が目を覚ますぞ」

 

 あ、やべ……回復魔法をかけられたと分かれば、誰がかけたか探そうとするのは当然だった。

 

「ミィス、逃げるよ?」

「え、なんで?」

「厄介ごとには関わりたくないんだ」

 

 あの冒険者たちは、開拓村で見かけたことが無い。

 小さな村だけに、常駐する冒険者の顔は数日もあれば覚えることができる。

 僕が見たことが無いってことは、別の村からこの迷宮に来ているということだ。

 その為人(ひととなり)までは、僕も分からない。回復魔法が使えてポーションまで作れる美少女と知られれば、囲い込んでしまおうと思う輩も多いだろう。

 

「あ、ちょっと――」

「ほら、早く!」

 

 ミィスの手を強めに引いて、僕たちはその場を離れる。

 しかしそれほど大きな動きを隠し通せるはずもなかった。

 

「あ、いたぞ! 金髪と黒髪の二人組!」

「ちょっと待ってくれ、せめて礼を――」

 

 男たちがそんな声をかけてきたが、上級と勘違いされるほどの回復魔法を使用したとあちこちに知られるのは面倒くさい。

 黒髪や金髪はこの周辺では珍しくもない髪色なので、僕たちと特定できる情報ではないはずだった。

 回復したと言っても、意識のない仲間を背負ったままでは、僕達に追いつけようはずはない。

 それに追いつかれそうになったら、相応のアイテムを使って力尽くで逃げる覚悟もしていた。

 視界を奪う煙玉とかも、インベントリーには存在する。

 

「ハァ、ハァ……追いかけてこない?」

「来てないみたい。仲間を置いて来るわけにもいかないだろうし」

「そっか、よかった。それにしても、ミィスは意外と息を切らせてないね?」

「森の中は慣れてるから。それにいつも逃げ回ってるから」

「スタミナがあるのはいいことだよ」

 

 年下の、美少女と見紛う少年が、この時は少し逞しく見えた。

 少しドキドキしながらも、荷物を確認する。

 収納袋の中には、途中で中断されたとはいえ、かなりの量が収まっていた。

 

「これだけあれば、ある程度の数は作れそうかな?」

「よかったね。途中でやめちゃったから足りないかと思った」

「まぁ、元よりミィスが心配するほどの問題でもないんだけどね。代用品はあるし」

 

 十級の数が足りないなら九級を納品すればいいだけだ。

 今回は現地の薬草の効果確認の意味も兼ねての採取である。あと魔法の試射。

 

「それじゃ、これでポーション作成を試してみよう」

「じゃあ、小屋に戻らないと」

「ん? あー、別にここでもできるよ」

 

 基本的な錬成道具なら、インベントリーの中に入っている。

 素材もあるし、あとは落ち着いて集中できる環境さえあれば、ポーションを作ることはできる。

 

「じゃ、試してみようか。ミィスは周辺の監視よろしく」

 

 こんな野外で、魔獣の襲撃の可能性もあるが、ミィスの高い感知能力とロバーズボウの威力があれば、安全は確保できるだろう。

 インベントリーから錬成台と薬研、それに薬草と水を取り出す。

 

「さて……まずは【浄化】、次に【乾燥】」

 

 錬成魔法の【浄化】で薬草や自ら汚れや不純物を取り除く。続いて【乾燥】で薬草を乾燥させ、薬効成分を濃縮した。

 続いてそれを薬研で細かく砕き、粉末状にした。

 これを【浄化】した水に混ぜる。

 

「んで、【抽出】」

 

 これで濃縮した薬効成分を、純水の中に抽出する。

 

「最後に【濃縮】。炭を入れて、仕上げに【清澄】っと」

 

 薬効を抽出した薬液を濃縮させ、効果を上げる。

 炭は不純物を吸着させる効果があるので、抽出後の粉末を吸着させる役に立つ。

 最後に吸着させた薬草の滓を【清澄】によって取り除き、ポーションの完成である。

 

「え、もう!?」

 

 完成まで十数分。通常の薬師や錬金術師では、この速度は出せない。

 これも測定不能なレベルの恩恵だろう。

 

「うん。いつも見てるでしょ?」

「そうだけど、薬草から作るところは初めて見たし」

「途中の過程に薬草の処理が入っただけだからね。これが七級以上だと、こうはいかない」

 

 七級からは固定値回復ではなく割合回復薬となる。

 最大生命力の何パーセントを回復とか、そう言う薬である。

 最大生命力の数値が大きくなれば、固定値回復を超える回復量を発揮するので、その分錬成が難しくなる。

 

「さてさて……【鑑定】っと」

 

 錬金術系魔法で出来上がったポーションの効果を確認する。

 効果は十級で間違いなく、ギルドに納品したポーションと同じだけの回復量があった。

 つまり、素材の効果はこれまで納めていたものと変わらないということだろう。

 

「今までと一緒か。じゃあ、過剰な効果は僕の方が問題という訳かな」

「つまりシキメさんが凄いってことだね」

「いや、そのキラキラした目で見つめるのはやめて。押し倒したくなるから」

「ひぇっ!?」

 

 胸元を押さえて僕から飛び退くミィス。

 その姿は男に襲われた女の子そのものだ。

 こんな仕草をするから、僕も自重できなくなるんだよね。

 

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