翌日、三種の粘着弾を作り直し、再び森に向かうことにした。
三種類用意したのは、殻の硬さを調整し、使いやすい硬さを見付けるためだ。
ゲームではレシピ通りに作れば便利に使える物が作れたのだが、やはり実際に使うとなると調整が必要になる。
「シキメさん、今度は大丈夫なんでしょうね?」
「もちろん。まずはこの一番柔らかい奴から――ひゃう!」
そう言いつつ、一番柔らかい殻の粘着弾を取り出し――そのまま握り潰した。
パンという破裂音と共にぶちまけられる粘液状のトリモチ。
瞬く間に動きを封じられ、その場に磔になってしまった。
「ミ、ミィス、助けて……」
見るとミィスは、今度は警戒していたのか、僕から距離を取っていた。
「なんとなく、こうなる気はしたんだ……」
「ヒドイ、ミィスがいじめる!」
「自業自得じゃないかなぁ?」
どうやら一番柔らかい殻は、柔らかすぎてちょっとした刺激で破裂するみたいだ。
これでは狩りや冒険では使えないだろう。
「拡張鞄の中に中和剤があるから、それをぶっかけて」
「シキメさん、その表現、好きなの?」
「いや、ミィスにかけて欲しいだけ――いたっ、痛い痛い!」
「………………」
ミィスは無言で炎嵐弓を使って僕をペシペシ叩き始めた。
素手じゃないのは、今の僕がネトネトだからだ。
ミィスの手により救助された僕は、今度は頭から水をかぶって粘液を洗い流した。
これは前日のミスを反省して、水と布を大量に持ち込んできたからである。
「うう、酷い目にあった」
「ところで、硬いのはダメだし、柔らかいのはダメとなると、結局中間くらいのしか残ってない?」
「ちょっとは僕のことも心配して」
「シキメさんがからかわなかったら、心配してあげたのに」
「ごめんね、つい」
それもこれも、ミィスの反応が可愛いのがいけない。
だがそればかりでは嫌われてしまうので、まじめに検証を続けよう。
結果として、三種の両端が不可だったので、残り一つの改良を進めるしかないのだが、その使い勝手も確認しておきたい。
僕はずぶ濡れのまま中間の物を試験した結果、そのままでも充分使用に耐えられることを確認できた。
「これなら、狩りで使えるかな」
「うん。動きを止めたら、ボクでもラッシュボアを狩れるね」
実際、野性のラッシュボアを見付けて粘着弾を投げつけたところ、見事に動きを止めることに成功していた。
そして動きが止まったところを、ミィスがいつも使っている弓で目を射抜き、仕留めることに成功していた。
図体のデカいラッシュボアは身体相応に目玉もデカい。炎嵐弓を使うまでもなかった。
動きさえ止めてしまえば、ミィスの矢の餌食にするのは
「ん~、ついでにもう一つも検証しておこうか」
「もう一つ?」
「うん。僕の収納魔法、ちょっと普通と違うみたいでね」
簡単に言うと、自動で素材を回収してしまう点だ。
ミィスが仕留めた魔獣の素材は、こちらに入ってきていないので、僕が倒した敵のみに発動するっぽいけど、まだ確証はない。
以前、迷宮でホーンドウルフを焼き尽くしたことはあるが、あの時は素材が一つも入ってこなかった。
やはり焼き尽くしてしまった影響で、素材が入手できなかったのかもしれない。
「と言っても、僕の攻撃魔法は威力が高すぎるからなぁ。どうやって倒すべきか」
魔法では完全に敵を焼き尽くしてしまう。
近接戦闘では全裸にならないと、身体能力が上がらない。
粘着弾で動きを止めても、ミィスのような決定打を持たなかった。
「毒はどう?」
「毒?」
「うん。肉を採らないのなら、毒を使っても問題ないでしょ」
「ああ、そうか」
毒で倒しても肉を捨てていけば、問題はない。皮や牙、魔晶石だけでも充分に金になる。
そう理解すると僕の行動は早かった。
インベントリーの中から毒の入った小瓶を取り出し、標的を探す。
しばらく捜し歩いていると、再びホーンドウルフの群れを発見した。
僕たちは木の陰からそれを観察する。
群れの数は少なくとも五匹。影に入っているかもしれないので、もう一、二匹はいるかもしれない。
それだけの数がまるで毛玉のように固まっているため、正確な数は把握できない。
逆にそれだけ固まってくれるなら、毒瓶一つで全てのホーンドウルフを巻き込めるはずだ。
投擲した小瓶はホーンドウルフの群れの手前に着弾し、周辺に強力な毒液を撒き散らす。
中には直接浴びてしまった個体もいて、一瞬にしてひっくり返り、手足をびくびくと痙攣させて絶命していった。
そして死亡したホーンドウルフが消えていく。
インベントリーを確認すると、ホーンドウルフの死体という項目が一つ増えているのも確認できた。
その後も順々に死体の数は増えていき、六つ増えたところで増加は止まる。
そして、毒瓶の着地点にホーンドウルフの死体は残っていなかった。
「なるほどね、これが自動ルート機能ってやつか」
この世界に転移する時に聞いた声。その中にあった機能の一つ。
おそらくは『僕が』倒した敵から価値のあるモノをインベントリー内に移動させる能力だろう。
ゴブリンの死体が残っていたのは、魔晶石以外に価値が無かったからと思われる。
「確認はできたよ、ミィス」
「そうなの? なら今日は帰る?」
「そうだね。結構時間も経っちゃったし、この辺で帰ろうか」
回復ポーションの素材はまだ残っているので、あと数日はのんびり暮らせるだろう。
新しいラッシュボアの死体も解体して収納鞄に収めているため、まだ数回は『お裾分け』できるはずだ。
折を見て配って、ご近所さんに媚を売っておくことにしよう。
村に戻ると、チャージラットの素材である皮だけでも売っておこうという話になった。
これは一つ五ゴルドにしかならないのだが、靴や手袋と言った消耗品によく使われる素材で、価格のわりに需要が高い。
ギルドからも、これの持ち込みは歓迎されているので、率先して売っておこうということになったのだ。
いつもの気軽さでギルドの門をくぐると、なぜか珍しい人だかりができているのが目に入った。
「あれ、珍しいね」
「ホントだ」
人だかり自体は、ギルドではよく見かけられる。
依頼票の前とか、買い取りカウンターの前とか、騒動を起こした連中とか、だ。
しかし今回はそんな騒動の気配はなく、場所もロビーの真ん中と、人だかりができるような場所ではない。
その人だかりの真ん中から、大きな声が上がった。
「おお、いたぞ。アンタだ! その輝くような黒髪は忘れない!」
「ハ?」
そして人だかりを掻き分けて出てきたのは、
「だ、誰か……山賊です!?」
「誰が山賊かぁ! 俺だよ俺、ヴェンスだよ!」
「お巡りさん、知らない人です!」
「そりゃあんたが自己紹介する前に逃げちまったからだろうがぁ!」
怒鳴り付ける顔は本気で怖い。その顔で迫られたら、正直漏らしそうだ。
だが逃げるという言葉で彼のことは思い出せた。
この間、迷宮から怪我をした仲間を背負って逃げ出してきた男の一人だ。
「ああ、あの時の。元気そうで何よりです。お仲間の人も元気ですか?」
「思い出してくれたか。シムスの奴も元気だよ。まだ安静にさせているけどな」
彼も治癒魔法をかけられたことは理解していても、それがどのレベルの魔法かは知らされていない。
シムスにかけたのは完全回復させる高位魔法だから、すぐにでも活動できるのだが、それを知らなくても無理はなかった。
「怒鳴って悪かったな。どうしても一言礼を言っておきたかったんだ。聖女様」
「ハ? 誰が聖女?」
「あんたのことだよ。仲間の命を救ってくれた恩人だ」
いやいや、せっかくショーンから聖女扱いをやめてくれという要望を呑ませたというのに、またそう呼ぶ奴が出てきちゃったよ……