TS少女は堕としたい   作:鏑木ハルカ

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第57話 シキメ流処世術

 当初は緊張していたミィスだったが、やはり昼間の疲労が抜けていなかったのか、すぐに眠りに落ちてしまった。

 僕の胸に顔を埋めて眠る彼は、邪心の欠片も無いため、まるで子猫を抱変えているような気分になる。

 さすがにそんな彼に悪戯をする気分にもならなかったため、当初の目的を達成することにした。

 決して下心だけで、彼にこんな仕打ちをしたわけではないのだ。

 

「どれどれ?」

 

 ミィスの身体をギュッと抱き締め、その背中に手を回す。

 身体が動かないように足でも固定したため、いわゆる『だいしゅきホールド』という姿勢になった。

 最近のスキンケアの効果と栄養が行き渡っているため、すべすべのぷにぷにの感触が伝わってくる。

 

「あ、やっぱり」

 

 しかしその皮膚と脂肪の下にある筋肉の感触が、マーテルの町にいた時とはまったく違っていた。

 筋肉の量はあまり変わっていない。しかしその硬さとか弾性が遥かに増している。

 

「ミィスは筋肉の量が増えずに、密度とか強度が増していくタイプなのかな?」

 

 ガチムチマッチョになりそうにないのは、一安心かもしれない。

 僕と一緒に生活していることで、ミィスは目を瞠る速度で成長している。

 もし筋肉量にその成長が反映されてしまったら……

 

「うぅ、ちょっとヤなもの想像してしまった」

 

 今のミィスの顔をしたボディビルダーのような姿を想像し、ブルリと身体を震わせる。

 そうなったからと言って、決してミィスを嫌いになったりはしないが、さすがに僕の嗜好からは少し外れていた。

 

「ともあれ、ミィスもデュラハンを倒してまたレベル上がるだろうし、ますます頼れる存在になっていくなぁ」

 

 僕は全裸にならないと近接戦闘ができない。攻撃魔法だって、威力が高すぎて味方がいる場所では危険だ。

 その点、ミィスが頼りになるなら、彼を頼ることができる。

 少しばかり実利に寄り過ぎた思考なので、自分が嫌になってしまいそうだが、この危険な世界ではそういったことも考えればならない。

 

「今回は指輪に物理防御の強化を付与してたから良かったけど、もっとミィスを強化しておかないといけないな」

 

 少なくとも、今回の『万が一』の想定は無駄にならなかった。

 ミィスは少し、思い込んだら一直線な傾向があるみたいだから、護りを固めておいて損は無いだろう。

 

「そうだなぁ……次は何に付与しよう?」

 

 ミィスに似合いそうなもの……服はちょっと目立つし、洗濯などで着替えないといけなくなる。

 やはり常に身に着けるアクセサリーなどが定番だろうか?

 

「例えばネックレスとか……ひゃぅ!?」

 

 ミィスを抱きしめたまま、アクセサリーの設計に思考を飛ばしていると、首筋にミィスの寝息がかかってきた。

 くすぐったいような、温かいような、そんな感覚に思わずびくりと身体が硬直する。

 

「こ、これはアブナイ。ヘンな気持ちになっちゃう」

 

 さすがに疲れて眠っているミィスの下で、いろいろ致してしまうわけにはいかない。

 そんなわけで必死に思考を設計に引き戻し……

 

「あ、首輪とかいいかもしれない」

 

 ……危ない方向にズレた。

 いや、ミィスは明らかに子犬系な属性持ちだから、似合うとは思うんだ。

 でもそれはちょっと……背徳過ぎて……

 

「いいじゃん?」

 

 今日見た毛布一枚羽織っただけのミィスの姿。そこに犬用の首輪を追加してみると、予想以上にそそられた。

 これを実現しない手はない。

 

 そんなことを考えながら、僕もいつの間にか眠りに落ちていたのだった。

 

 

 

 翌朝、僕はミィスの下で目を覚ました。

 一瞬何事かと驚愕したが、昨夜、自分が要求した罰だと思い出し、安堵した。

 

「それにしても、律義に朝までお布団の刑に準じるとは、なんと素直な――!?」

 

 そこまで言って、僕は下腹部の違和感に気が付いた。

 そこには、朝の生理現象によって一足先に元気を取り戻したミィスの雄姿があった。

 僕の体格はあまり大きな方ではないが、それを差し引いても僕のへその辺りまで届くそれは恐怖すら覚える。

 

「う、ちょっとこの状態は初めて見たかもしれないけど、凶悪過ぎませんかね?」

 

 お腹破れちゃうかもしれない。なんてことを考えてはいたが、さすがにそんな無茶なことはあるまい。

 そもそも僕は全裸になれば、防御力が跳ね上がるのだから、きっと大丈夫だ。

 なんて馬鹿なことを考えつつ、ミィスの下から這い出して着替えを済ます。

 今日はギルドの呼び出しがあるので、残念ながらミィスとイチャつき続けるわけにはいかない。

 

「それにしても、ナッシュたちがアンデッド化かぁ」

 

 僕の中にインストールされた知識では、そんなに早くアンデッドになったりはしない。

 特にナッシュの場合、前日に処刑され、翌日に僕たちの到着したこの町に襲い掛かってきた。

 時間経過で言うと、半日程度しか経っていない。

 

「何らかの手が入った可能性が高い、かな?」

 

 だとすれば誰が? なんのために?

 そもそもナッシュが持っていた強欲の結晶って石は一体なんで、どこから入手したのか?

 今回の事件、まだまだ分からないことが多過ぎる。

 

「その辺もギルドに報告しておかないといけないよなぁ」

「んうぅ?」

 

 僕の言葉を遮るように、ミィスが呻き声を出した。

 目をこすりながら半身を起こす彼の姿を見て、僕は再び決意する。

 

「よし、やっぱり首輪で決定だな」

「うぇ、なんの話ぃ?」

「んふふ、なんでもない」

 

 素材になる首輪を入手してこないといけない。

 いろいろとブッ込んである僕のインベントリーだが、さすがに首輪なんて物は入ってない。

 ないなら作るか、購入してこなければならない。

 

「ミィス、ギルドに行く前に買い物に行くから、早く着替えよう?」

「うん。あ、そうだ」

「ん、なに?」

「おはよう、シキメさん」

「おはよう、ミィス。僕の寝心地はどうだった?」

 

 僕の言葉に昨日の状況を思い出したのか、顔を真っ赤にするミィス。

 それを悟って顔を隠しながら僕に枕を投げつけてきた。

 

「わぷっ!」

「もう、シキメさんってば、すぐにエッチなこと言うんだから!」

 

 ミィスのいつもの態度に少しばかり安心する。どうやら、体調には問題ない様子だった。

 それはそれとして、隠すなら顔より下の方じゃないのかね、ミィス。

 さっきからブルンブルンしてて、こっちの方が目のやり場に困るんだが。

 

 

 ここは国境に位置する町で、北にある山を越えれば他国に入ってしまう。

 それ故に北側の門は頑丈で兵士もたくさんいる。

 その国境を超えるべく、旅人も多数流入していて、旅人が増えれば落とす金も増える。つまり町が栄える。

 風が吹けば桶屋が儲かるみたいな理論だが、事実として賑わっているのだから、しかたない。

 

「すごい人出だね」

「ミィスも迷子にならないでね。さすがにこの人ごみじゃ、見付けられないかも」

「う、うん」

「そうだ、手を繋いでいこう」

「ええ!?」

「今さら恥ずかしがる仲じゃないでしょ」

 

 僕は強引にミィスの手を取り、市場の中を練り歩く。

 

「今日は何を買いに来たの?」

「マーテルの町で臨時収入があったからね。食料と水の補給、それに錬成用の資材も追加したいし」

「あ、ポーションとかたくさん作ってたもんね」

「うん、まぁね」

 

 ポーション便に限って言えば、まだまだ余裕はある。薬草類も、ギルドに言えば売ってもらえるだろう。

 僕が目指すのは革と金具。それに物理防御を強化するための練成素材だ。

 それらの品を捜すべく、左右に視線を飛ばす僕に、背後から声がかけられた。

 

「すみません、シキメさん、ですね?」

「いいえ、人違いです!」

 

 振り返った先にいたのは、フードを目深にかぶった怪しい男。

 そもそも僕の名前を知っているということは、昨日ギルドにいた人間ということになる。

 なら考えられる最大の可能性は……勧誘だ。

 ここで甘い顔をすると、ナッシュのように面倒になることは学習した。

 だから僕は一刀両断に会話を斬り捨て、足早にその場を立ち去ったのだった。

 

「あ、ちょ――!?」

 

 背後で男が何か言っていたようだが、無視するに限る。

 これは僕が、この世界に来て学んだ処世術の一つなのだ。

 

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