Fate/kaleid reaper プリズマ☆カレン 作:天ヶ原カコ
「やれやれ、これからどうしましょうか……」
紫色をした変な杖が、独り言を言いながら空を飛んでいます。深いため息をついたり、愚痴をこぼしたりと少々機嫌が悪いようですね。
「はぁぁぁぁぁ……むむっ!? これは魔法少女反応!? 魔法少女の素質を持つ女の子がすぐそばに……!」
と思えばピンッ! と背筋(柄の部分です)を伸ばし、あちこちと何かを探し始めました。
「あの子ですね……よし、背に腹は変えられません! 期限内にミッションを完遂するために必要不可欠なのです! ではでは、行ってみよー!」
テンション高く、ある家に向かって飛んでいきます。不機嫌そうだった時と比べてかなり機嫌が良さそうです。新たな
私はカレン、ひきこもりです。
可憐な子になりますようにと付けられた名前とは裏腹に、身長は伸びず髪の毛は癖っ毛で他人を信じることが出来ない性格の11歳です。
両親は共働きで、1人のメイドさんがいつも私の世話をしてくれます。毎日迷惑と心配をかけていますが、私のこの生き方は自分では改善できません。ごめんなさい。
いつものように自堕落にゲームをしていたら、突然窓から声が聞こえてきました。カーテンを開けるとそこにいたのは、変な喋る杖でした。窓を開けてあげた私に、その杖はこう言いました。
「初めまして! 私はアメジスト! 貴方、魔法少女に興味はありませんか?」
「ありませんのでお帰りください」
窓を閉めました。
「酷いですよぅーマスター! 私、めちゃくちゃ困ってるんですぅー! なってくださいよぉー魔法少女ぉー!」
「うわっ入ってきた気持ち悪っしかもなんか既にマスター呼びしてきやがる」
窓の隙間からペラペラになって入ってきた杖は、困ったような声を出して私に魔法少女になることをせがんできます。
「だってだってー! このままじゃこの街がピンチなんですよぉー! 下手すれば世界が終わっちゃうくらいのピンチなんですよー!」
「そのピンチを私に解決しろと? 無茶をいうんじゃないよこんなクソひきこもりにできるわけないじゃないか筋金入りのひきこもりだぞ3年は学校に行ってないんだから運動不足どころじゃないよ無理無理他をあたってください」
「そんなー!」
「大体私が魔法少女になることのメリットがないじゃないか報酬もないのに働かせようなんて甘ったれたことを言うんじゃないよ。世界を救える? 私にとっちゃ別に苦労してまで残したい世界じゃないんだよ丁重にお断りいたします」
丁寧に頭を下げます。土下座です。まぁ半分というか全部に早く帰れの意味を込めてではありますが。アメジストと名乗るアホっぽい魔法のステッキはうぅーと唸り、そうだっ! と声をあげました。電球がつくエフェクトまで発生させたアメジストは私にとっても魅力的な提案をしてくるのです。
「手伝っていただければ、何だって願いを叶えてあげますよ? ほらほら、年頃の女の子なんですから叶えたい願いが一つや二つあるのではないですか?」
「なくはないけど胡散臭すぎて断るしかないなぁ! 逆になぁんでそれで私がよしわかった! っていうと思ったんだこのアホステッキは!」
「ダメですかー!?」
「根拠と参照がはっきりしないからねぇ! 願いを叶えられるっていう証拠でもあればねぇ……やってやらなくもないけど……」
こうは言いますが、私の心は若干協力してやることに傾いてはきているのです。ただ、やはり眉唾ものなのも事実。少しでもいいので信憑性を高める材料があれば……といったところですね。
「そーですね……ではでは、このカードをご覧ください。こちらはですね、クラスカードと申しまして。貴方には魔法少女になってもらって、
この町に発生したクラスカードを集めてもらいたいのです」
「ふーん? それだけ? それなら魔法少女になる必要なんてないじゃん」
「いえいえ、実はこのクラスカード、なんかすごい人の力が封印されてるみたいな感じでして。誰かの所有物になるまではそのなんかすごい人が門番みたいに守ってるんですよ」
「なんかすごい人? 例えば?」
「ヘラクレスやアーサー王、クー・フーリンなんかが該当するかと」
ほうほう、なんとなく話がわかってきました。
「つまり、伝説みたいな人と戦って勝て、と?」
「イエースザッツライト! 理解が早くて何よりです!」
「馬鹿野郎クソ危険じゃねぇか痛いとかそういうレベルじゃねぇぞ神話と戦うとか一介の女子小学生がやれるもんじゃねぇ死んでこいってかバカタレ!」
「そんなー!」
この珍妙な杖は私に死ねと言っているのです。やりたいことがあるわけではありませんが、人や世界のために戦って死ぬなど真っ平ごめんです。
「いえ! 違うんですよ! 魔法少女になればそのヤバ強い相手たちとも互角以上に戦えるようになるんですよ! 一回なってみてくださいって!」
「ほんとかー?」
「はい! 一度でいいのでお試しに!」
「……はぁ、わかったわかった。一回だけだよ?」
渋々といった風に了承します。まぁ、興味がないわけでもないですし、こいつは変身するまでテコでも動かないという確信もあります。安眠を妨害されるのは迷惑ですので、とりあえずやってみることにします。
「ではー? 私を持ってー?」
「変身!」
ピカー! とかキラリーン! とかポンッ! とかそういう可愛らしい擬音と女児アニメの変身シーンでよく見る演出と共に衣服が変わっていきます。そういえば一瞬全裸になったような気がしますが気のせいでしょう。
バシィ! と体が勝手に決めポーズをとります。アメジストというクソステッキの名前の通り、紫を主としたフリフリの衣装です。姿見がないので全身の姿は分かりませんが、まぁおそらく可愛いのだろうという確信があります。少なくとも衣装は。
「……」
「おや? 念願の魔法少女だというのにどうしてそんなに無感情な表情をしているのですか?」
「……生憎元々こういう顔なもんでして」
「なるほど! では、ちょっと外に出て試し撃ちしてみましょうか!」
「試し撃ちィ? 大丈夫なの? 極太のレーザーが街を襲ったりしない?」
「そんなまさかー。ささ、庭に出てやってみましょう!」
「ウチの庭だからなー?」
というわけで庭に出てきました。2週間ぶりくらいに外に出たような気がしますが、まぁ夜中なのであんまり実感はありません。小学1年生とその親がキャッチボールでもしてそうなちょっとした規模の庭でアメジストを構えます
「さぁさぁ! それではいい感じのセリフと共になんかビームが出るのをイメージしてください!」
「えぇ……そんなざっくりした感じで大丈夫なのか本当に……?」
しょうがないな……と光線がステッキから放出されるイメージを固めます。こういう時に普段アニメやらゲームやらフィクションの世界に浸ってて良かったと一瞬思いましたが、普通ならこういう時がまず訪れません。無性にげんなりしながら、掛け声と共にステッキを眼前にかざしました。
「ていやー!」
「だいぶ間抜けな掛け声ですね?」
ツッコミは放たれた光と衝撃によってかき消され、反動で尻餅をついてしまう。
「いてててて……どうなった? 何かよくわからないものが出たような……」
顔を上げると、10mほど先にあったコンクリートの壁が消失していました。障害を失った外灯の光が落としたアメジストと自分を照らします。
「「……なんで?」」
声を揃えて疑問符を浮かべます。イメージしたのは光線が岩を貫き穿つような、または砕き壊すようなものでしたが、全く違う結果になって戸惑います。
「……いやなんでアメジストも驚いてるのさ!?」
「いやー……これは……マスター、アナタ凄く変わってますねぇ?」
「どういうことさ!?」
「いえ、今のは魔力を飛ばしてダメージを与える、みたいなものなんですが普通の魔術師や魔法少女ならそれっぽい光が出てバビューンって飛んでいって当たって砕く! みたいな感じなんですよ」
「……? じゃあさっきのはなんなのさ……?」
「魔法少女が使う魔術はイメージにかなり引っ張られます。なので、思いの力で色々できるんですよ。マスター、今のビーム撃つときどんな妄想してました?」
「妄想て……まぁ普通にビューンボカーンって感じ」
「となると……おそらく無意識にいつも考えてることが出力されてこんな感じになっちゃったんじゃないかなーと思うんです」
「むい、しき……?」
「ええ、根強いトラウマやら苦しい記憶やら……ですが、ここまで色濃く出てしまうのは普通はあり得ないんですよ。正気を保ってられませんから。マスターは私と普通に会話もできるようですし……おや? マスター、どうしました?」
「……いや、ごめん、あんまり、聞いてなかった」
「ひどいですよー」
「なんで……こんな……」
「……ど、どうしたんですかホントに? なんか顔色悪いですよー? ほらほら、魔法少女なんだから可愛く可愛く!」
「……」
酸素を失った頭が働かなくなってきました。視界が何故かグラグラしています。体の力が抜け、目の前がだんだんと白くなっていきます。やかましいステッキの声がだんだんと遠くなっていき———
いつのまにか気を失ってしまったようです。
(素質があるからといって無理やりさせるもんじゃないですねぇ……はぁーあ、どうしましょうこの子。健康に異常があるわけではなさそうですが……)
心配そうに飛び回る珍妙な喋るステッキ、アメジストは悔やんでいました。まぁどちらかというと面倒なことになったなーという感情の方が大きいようですが。さーてどうしたもんかなーとふよふよ浮遊していると、少し顔色の戻った魔法少女が目を覚ましました。
「おぉ! 大丈夫ですかー!? いやー心配しましたよいきなり倒れるんですもん」
「叶えたい願いが見つかった」
「え?」
不満そうながらもどこか楽しそうだったさっきまでの少女は何処へやら。無感情な目は魔法のステッキを捉えて離しません。
「手伝ってあげる。だから、全部終わったら———」
「私を消して」
それだけ言うと、パタリ、と倒れ気を失ってしまいました。